優しい時間 T





 優しい時間 T


 「わあ〜!」
 「噂には聞いてたけど……」
 「……大きいね」

 栗色の艶やかな髪を緑のリボンでサイドポニーにしている女性、高町なのはと、
 長いハニーブロンドの髪を、緑色の彼女と同じリボンで結び、眼鏡をかけた……男性、ユーノ・スクライア。
 そんな二人に手を引かれ、はじめての遊園地に緑と赤の零れ落ちそうなくらい大きな眼を輝かせ、
 二人の髪の色を足して2で割った感じの色合いの髪を青いリボンで結んでいる女の子、ヴィヴィオ。

 どこからどう見ても親子にしか見えない三人が、ミッドチルダ首都クラナガンで最も巨大なテーマパークの入口であろう門の前に立っていた。

 しかし、門のあまりの巨大さに19歳となったなのはとユーノはあっけにとられている。
 パンフレットを見ると、一日中歩き回っても全て周り切れないのではと思えるくらい、敷地がとんでもなく広い。
 ただ、ヴィヴィオにとってそんな事はどうでも良いので、とにかくはしゃぎ続けている。

 「まま! ぱぱ! みて! おっきなふうせん!」
 「ほんとだ、大きいね〜」
 「そうだね」

 ヴィヴィオが小さな体で目一杯背伸びをしながら、巨大なバルーンを指差す。
 そんなヴィヴィオを微笑ましく見守りつつ、なのはとユーノも『ようこそ!』と大きな文字が書かれてあるバルーンを見上げる。

 「さて……それじゃ行こっか」
 「うん。 でも、遊園地なんてほんとに久し振り」
 「僕も。 前に行ったのが確か……4年前?」
 「あの時は暑かったし人も多かったしで大変だったよね」
 「あ〜……。 僕にとっては良くも悪くも印象深い思い出だよ……」
 「にゃはは……」

 4年前、珍しく同じ日に休暇のとれたなのはとユーノは、予期していたかのように現われたはやてとエイミィから遊園地の券を受け取ってそこで一日を過ごした。
 場所はミッドの遊園地で、今三人がいるテーマパーク程大きくはなかったが、それでも二人は貴重な休日を想い人と過ごせる事に満足していた。
 しかし、運悪くその日は猛暑で、にも拘らず世間一般にいう休日だったのでとにかく人が多かった。
 まぁそれくらいなら我慢すれば良いだけで、特に問題はなかったのだが。

 「二人とも可愛いね〜。 俺達と遊ぼうよ」

 確かになのはは美少女だ。 そんな事は出逢った時からずっとそう思ってるし、誰もその事に文句は言わないだろう。
 だからナンパされるのも仕方がないし、なのはも慣れているらしい。
 しかし、しかしだ。 男である筈のユーノまでもがナンパされた、となると話は別である。
 ナンパ集団その一はユーノが男だ、と若干震えた声で伝えると去って行った。
 その二はなのはがなんとかフォローして切り抜けた。
 その三はユーノがドスの利いた声と殺気さえ含んだ眼で追い返した。
 その四は……キレた、それもマジギレ。 誰がって勿論ユーノが。

 その後はもう大騒ぎで、なぜか炎天下なのに厚手のコート・サングラス・帽子という、
 見るからに、そしてあからさまに怪しい八神一家とハラオウン一家が飛び出して怒り狂うユーノを抑えた。
 その時のユーノの戦闘力はそれはもう凄まじく、"管理局の白い悪魔"ならぬ"無限書庫の翠の悪魔"と異名がついた程。
 この日以降、無限書庫に対する資料請求の数は激減したらしい。

 「……僕って一体……」

 過去の出来事を鮮明に思い出したのか、ユーノが天を仰いで黄昏ていく。

 「だ、大丈夫だよユーノ君! だってユーノ君かっこいいし、優しいし、可愛いし! あっ……」
 「いや、良いんだなのは……もう慣れた……」

 思いっ切り地雷を踏んでしまったなのはが慌てて口を塞ぐも時既に遅し。
 なんだかもう清々しさすら感じるユーノはやけに老けて見えた。
 ちなみに言うと、ユーノはミッド中央ターミナルでなのはとヴィヴィオを待っている間に5回ナンパされている。

 「ぱぱ、どうしたの?」
 「……ヴィヴィオは僕の事、どう思う?」
 「え? え〜っとね……う〜んと……」

 あぁ、癒される……、なんて可愛いんだこの子は。
 哀愁すら漂わせだしたユーノを見て、流石になのはも表情を引き攣らせた。

 「ぱぱはね」
 「うんうん」
 「すっごくえらい人で」
 「うんうん」
 「かっこよくて」
 「うんうん!」
 「ふぇれっとさんなの!」
 「うんうん! フェレットさんかぁ…………ってなのはぁあああぁあ!?」
 「ご、ごめんなさーい!?」


 「……なのは、ユーノ……何やってるの……」
 「いや〜、ナイスノリ突っ込みや! あの親子漫才は本場関西でも十分通用するで!」
 「あの〜……八神部隊長?」
 「ん? 何かあったんか? ティアナ」
 「私達はどうして隠れながらなのはさんとヴィヴィオとスクライア司書長を監視しているんでしょうか?」

 しかもサングラスまでかけて……。 任務だと無理矢理連れて来られたと思ったら何なんだこれは。
 相方のスバルがやけにやる気満々なので一発殴ってやりたい。

 「これは監視とちゃう! 立派な護衛任務や!」
 「なんかエージェントみたいでカッコイイですね!」
 「お、スバルにもこのサングラスの魅力がわかるんやな! 流石は私が見込んだだけの事はあるで!」
 「えへへ〜」
 「……帰りたい」

 ティアナもユーノに負けず劣らず苦労人だった。


 『エリオ、キャロ、聞こえる?』
 『あ、はい! フェイトさん!』
 『聞こえてます!』
 『あんまり遠くに行っちゃダメだよ? 変な人について行っちゃだめだからね? ていうかいたら知らせるんだよ!?』
 『りょ、了解……!』
 『わ、わかりました!』
 『フリード、二人に何かしようとする輩がいたら燃やしていいからね!』
 『キュ、キュクー……』

 いくらなんでも過保護過ぎますフェイトさん、5分に一回念話繋げてるとか。
 ちなみに六課公認カップル(本人達はまだそこまで自覚していない)となったエリオとキャロは只今デート中。

 「バルディッシュ、いつでもザンバーいけるようにしてて」
 《Yes sir……》

 バルディッシュが壊れないか心配です、いやマジで。


 「ぱぱ〜まま〜、はやくいこうよー!」
 「そ、そうだよねヴィヴィオ! ユーノ君、遊園地に入ろう? ね!?」
 「……はぁ」

 耐え切れなくなったヴィヴィオがなのはとユーノを急かし、なのはも助かったとばかりにユーノを急かす。
 そんな二人を見て頭が冷えたユーノは、深い溜息をついてヴィヴィオの手を取った。

 「ままもはやくー!」
 「……なのは、この埋め合わせは夜にたっぷりして貰うからね」
 「え?」

 ホッと一息ついているなのはの耳元でそう囁いて、ユーノはヴィヴィオに引っ張られて行く。
 少しの間ユーノの言葉の意味を探っていたなのはだが、その意味を理解した途端に耳まで真っ赤にして、ボンっと煙を噴き出した。

 「ユ……ユーノ君の……ユーノ君の……バカーーーッ!!」

 完熟トマトのように真っ赤になったなのはが大絶叫しつつも、先を歩いていたユーノの背中に飛び込んでいった。
 なんというかまぁ……全力全開万年バカップルである。


 そんなこんなでようやく遊園地に入ったなのはとユーノとヴィヴィオ。
 ヴィヴィオは大好きな父と母に手を繋いで貰い、しかも好奇心をくすぐる物だらけでご機嫌も最高潮だ。

 「まま! ぱぱ! つぎはあれがいい!」

 ヴィヴィオが指差した先を見ると、そこにはコーヒーカップがあった。
 なのはとユーノが顔を見合せて笑い、3人でそれに乗る。

 「ヴィヴィオ、これを回すとカップも回るんだよ」
 「ほんと!? やってみる!」

 ヴィヴィオが目を輝かせて、カップの中心にある円盤をその小さな手でぎゅっと握る。
 どこか緊張しているらしく、恐る恐る円盤を回していく。
 すると、その動きに連動してカップが回転を始め、ヴィヴィオが歓喜の声をあげた。

 「わー! すごいすごい!」
 「私もやろっかな〜」
 「いいんじゃないかな」

 この後、ユーノは心底後悔した。 なぜこの時もっと深く考えなかったのだろう、と。


 「うわぁああぁぁあっ?!」
 「わー! まますごーい! はやーい!」
 「それー!」
 「ちょ! まっ! なのは! はやす……おわぁあああ!?」

 エースオブエースは伊達じゃない。 訓練で鍛えられた腕力は並の男のそれを上回る。
 その腕力を全力全開に駆使してコーヒーカップをこれでもかと回す回す。
 他のカップに座っている客はその異常な速さに圧倒されてただ茫然と超高速で回り続けるカップを眺めているだけだった。


 「強度も硬度も特注品且つ特殊合金製の軸をどうやったら壊せるんですかあなた達は」
 「す、すみません……」

 で、ユーノが関係者に平謝りし続けている訳で。
 理由はなのはがカップを回し過ぎて緊急停止装置が作動。 関係者が点検したところ、なのは達の乗っていたカップは取り換え決定らしい。


 「な〜の〜は〜?」
 「ご、ごめんなさーい!」
 「でも、ヴィヴィオはおもしろかったよ!」
 「うぅ……ありがとうヴィヴィオ……」
 「ヴィヴィオが許してもダメ!」
 「あぅ……」


 「なのは……」
 「いや〜、なのはちゃんも相変わらずやなぁ」
 「流石なのはさん! 凄過ぎです!」
 「いや、明らかに人間業じゃないでしょ!? なんでそこに突っ込まないんですか?!」
 「気にしたら負けなんだよ」

 いつも間にやら横にいたヴィータがアイスを舐めながらティアナに言い、それを聞いたティアナは唖然とするしかなかった。


 『エリオ、キャロ、お金は大丈夫?』
 『あ、はい、大丈夫です』
 『足りなくなったらすぐに言うんだよ? お小遣いあげるからね』
 『フェイトさん、私達もお給料もらってますから……』
 『あ、そ、そうだよね……。 でも万一の事があったら大変だから、遠慮しないで言うんだよ?』
 『はい!』
 『ありがとうございます!』

 ……いくらなんでもこの教育方針はだめなんじゃないだろうか。
 エリオとキャロがこのまま歪まず純真なままである事を切に願う。


 続きます(ぇ
 次回は第二次募集分記載時にて!(ぉ




 あとがきらしきもの

 はい、ということで今回はここまでです!(ぇ
 いや、せっかく第三次まで募集があるんだから連載物にしてみようかと、てな訳で全三話。
 てかこれ連載物なのか? というよりオトコノコ主人公になってるのか!?
 ……えーっと……えっと……華麗にスルーしてくださ(ry
 コンさんごめんなさあああい! こんなんでいいなら祭りに参加させてやって下さい!
 ていうかこれ書きたいの書いただけやん(死

優斗さん
深淵の種 SEED IN ABYSS
深淵の種 SEED IN ABYSS



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