進み続けて―――




すぐ近くにいて、同じ先(未来)を見て進んでいく。
笑い、時に共に悔やみながら歩んでいく中で感じる一時の休息。
その時間が夢ではないかと問う事も忘れて、ボクは一本道を進むように、ただ同じ様に日々繰り返す。





 ”進み続けて―――”






「スクライア司書長。そんなに見詰められてしまうと、僕はあなたにときめいてしまいそうだよ」
「は?」

 無限書庫の仕事が一段落して休憩に食事に来たら、非常に珍しくクロノとアコース査察官に出合った。
 仕事中に見るのはとてもとても嫌な顔だが、休憩中なので世間話がてら一緒に食事を取っていたらアコース査察官が突然妙な事を言う。
 確かに次の日が揃って(物凄く超絶的に珍しい+久しぶりの)休暇を取れたので、結構な量のお酒を飲んでるから酔ってるのか?
 何なんだろう……と疑問を感じてるとアコース査察官は不敵な笑みを浮かべてボクに対して指を突きつけてきた。
 肘を付きながら人に指をさすのは作法としては失礼なんだけど、彼がやるとあまり違和感が無いように感じる。

「ずばり、悩み事だね?」
「え? あー……うん?」

 ズズイっと迫る彼。
 突然の言葉にどう返して良いかが解らない。
 隣で同じ様に酔ってる気がするクロノが必死に笑いを噛み殺してそっぽを向いてるのが妙にムカつく。
 クロノに講義の視線を送っていると、査察官が呆れた様に苦笑した。

「やれやれ、僕はそんなあなたが心配で昨日の初回捜査も放り出してしまったよ」
「おい!?」
「冗談だよクロノ」
「まったく。そっちだけならまだしも、こちらにしわ寄せが来るような事は慎んでくれよ」

 珍しいものを見た気分だ。
 クロノが砕けた会話をする所なんて、知り合ってからもそうだけど艦長として経ってからは全くと見てない。
 酒の力なのか、この二人の間柄と言うものなのかは解らない。けれど、確かな絆というか結び付きにはそこにはあって……。
 他愛ない事だけど、どこか楽しそうにする二人の様子に、ボクは先程の質問の答えを返してみたくなった。

「なやみ……うん、悩みかな」

 そう切り出すと、二人は会話を止めてボクの方に振り向いた。

「みんなと出会って、色々会って随分時間が経って……最高の時間を過ごしている筈なのに」

 それでも、ボクはまだ引き摺っているのかもしれない……。
 過去の事や、これから先の漠然とした未来への不安に。
 幸せはいつだって過ぎ去って、失いそうになって初めて解るもの。
 親しい人達と離れた場所で、自分に出来うる限りの事をしてるつもりでも実際の危機には何もする事が出来なかった。
 いや、その場にいる事すらもできなくて……。


「フム、スクライア司書長」

 掛けられた声にいつしか下がっていた視線を上げると、アコース査察官が一言ごとに近づいてくる。

「あなたに欠けているのは……愛だね」
「は?」
「好意に値するよ」
「違うだろ」

 間髪いれずにクロノのツッコミが入る。

「それはさておき、キミに必要なのは優しさに満ちた強い抱擁と、熱く貪り喰らい尽くす様な強い接吻が必要だ」
(何ですかそれは!?)
「と、言う訳で高町戦議教導官。さぁどうぞ」

 そう促されて、ガタッと小さくイスが動く音がした。
 振り向くと、制服を着たなのはが俯きながら立ち上がり、口元を吊り上げて笑っていた。
 ほんのりと顔が赤いところを見ると、酔ってるのかもしれない
 それ以前にいつの間にいたんだろう?

「いやぁ、キミが最近元気が無さそうだと話したらすぐに飛んできてくれたよ」
「はぁ」

 そうですか。
 でも、それよりも気になるのはなのはの視線。
 アレは獲物を狙う豹っていうか、鬼が見えるよ。

「だって、最近コンさんのラジオ投票でもはやてちゃんやフェイトちゃん……意外なところでヴィータちゃんまで投票率が凄いんだもん」

 後ろで二つ席が揺れた音が聞こえて覗いてみると、はやてとフェイトも同席していたらしい。
 それは良いけど、時期ネタはやめようよなのは。
 そんな僕の想いも彼女には届かないようで。

「だから、ね?」
「えっえっ?」
「あれはマジだな。逃げるなら今のうちだぞユーノ」
「ええ!?」

 あーあ、と明らかに傍観者を決め込む提督を睨み付けながら、取り合えず何かしらの意味で危険を感じたので一応走る。



ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!


 先ほどから疑問に思いつつ、管理局の通路を走り抜ける。
 すれ違う人達から怪訝な目を向けられるけど、そんなの構っていられない。
 それにしても走り続けて肺と脇腹が痛い。まさに息も絶え絶えになりながら走り続ける。
 というか、なんで必死に逃げてるんだろう?
 言い訳じゃないけど、なのはの眼が光るっていうより獣になってたからか?

「ユーノ・スクライア司書長、必死に逃げております。しかし無限書庫勤務と言う普段の運動不足の所為か既に息が上がっている模様!!」

 何時の間にか隣で後ろをついてきている人が実況中継していた。
 たしか、六課のヴァイスって人だったと思うけど、なんでこんな所にいるんだろう。
 良く見ると他の面子も揃って見える位置で傍観してるし。

「おおっと、流石管理局の天災砲撃魔導師! 地獄の追走者高町なのは隊長、可視域までスクライア司書長を追い詰めたーー!!」
「ええっ!?」

 マジかよ!?
 うわっなんか目が殺気、いやさっきより餓えてる感じがするのはキノセイデスカ?

「っていうか実況するぐらいなら助けて下さいよ!?」

 ムダだろうと解っているけど、取り合えず傍観を決め込んでる仲間達に助けを求める。

「無理だって」

 ほらね。

「そんなのはお前が一番知ってる事だろ?」

 そりゃね。
 一緒にいて、ずっと彼女の背中を見てきたんだから。

 ずっと空を翔る彼女の背中を見送ってきた。
 疑う事も、傷つけられる事も構わず、立ち止まっても必ず飛び立てる強さを持っていて。
 いつだってキミは真っ直ぐに……。


「あっ……」

 そうだ。
 彼女も不安が無かった訳じゃない。
 悩みながら、怯えてても悲しくても、それを他人には見せないように強くあろうとしていた。
 それでも、彼女はみんなの笑顔の為に、そして自分の為に一度折れた翼で再び空へと飛び立った。
 走り続けて疲れても、休んでも、立ち止まってしまう時があっても、いつかまた歩き出す強さを持っている。
 それが、未来を担う新しい子供達の道標になるのだろう。
 例え立ち止まってしまう時があっても、道に迷わぬように導けるように真っ直ぐに。


「ユーーーーーーノくん!」
「うわっ!?」

 ただ、真っ直ぐに―――。


 ガバッ!!

「うわぁぁあああああああああーーーーー、あっあっいやぁああああ!!!???」



 間。
 略。
 続。
 行。



「ユーノくん。なにか嫌な事でもあったの?」

 行為を終えてから、彼女は心配そうにボクを覗き込む。
 せめて最初に聞いて欲しかったけど、今となってはもう遅いしどうでも良いし事だと諦めて溜息を吐き、そして苦笑する。
 首を傾げる彼女の頬に手を当てて、少し身体を移動させてから身体を起こす。
 これ以上押し倒されてると色々とマズイから。もう遅い感じだけど一応ね。

「いや、大丈夫。なのはのお蔭で吹っ切れたよ」
「本当に?」

 本当に心配そうにこちらを窺う彼女に、ちょっとした悪戯心が湧き上がる。
 こんな短い会話も明日には出来なくなるかもしれない。いや、最近はほとんど無いとさえ言える。
 この休みが終われば、きっとまた昨日と同じ様に資料を集めて送って其処彼処を奔走する毎日だろう。
 同じ事の繰り返し。まるで自分が機械にでもなったような錯覚さえ覚えてしまう事も稀にある。

「さあ、どうだろうね?」
「む、ユーノくん」
「あはは……」

 でも、不思議だな。
 部族から離れて、親しい人達とも会える機会がほとんど無くなってしまっているのに―――。
 広大な情報を扱う空間の中で、同じ事を繰り返すだけの日々に孤独を感じていた時もあったけれど―――。
 キミがくれた想いのお蔭で、今でもボクはこうして笑うことを忘れていないんだ。

 だから、これからも進んでいける。
 キミがくれた想いを胸に、代わり映えの無い日々でも……
 いつまでも、ずっと―――前だけを見据えて。




あとがき

 たまには真面目を目指そうかと思ってたんですけど、やはりわたしは根本的にシリアスダメなようです。
あ〜あ、何故にこうも書けないのかなぁ。悩むユーノの心情を書いてみたかったけどダメでした。
でも、本当なら追いかける相手はなのはじゃなくて、クロノだったんだぜ?
断念したのはほら、そんな事したら自分の作品の場合覇王絡むと彼の命無いから。
あー。次回どうしようかな、普通にユーノ女装でクロノと潜入捜査みたいなネタはちぐはぐながら頭にあるんだけど執筆できない。
シリアスに走りそうだからなのか。あー、こんなのを見てくれる人がいたら貴方は凄く良い人です。
その優しさをこれからも失わないで下さい。長い後書きで申し訳有りませんでした。m(_ _)m
文明さん

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