男の戦い




ミッドチルダ中央、首都クラナガンにある時空管理局地上本部は、文字通り時空世界における地上の守り手の要として存在していた。そう、かつては…
現在はといえば、先日襲った多数のガジェット・ドローンと呼称される機械兵器、および戦闘機人と見られる者達からの攻撃により多くの被害を出し、半ば機能を停止していたものの、局員たちは残された施設を使い被害の把握と事態の収拾を図っていた。

ただでさえ忙しい雰囲気のその中で、一際慌ただしく多くの人間が動いている一室があった。地上本部の最高責任者、レジアス・ゲイズ中将の執務室である。

地上本部の守りは鉄壁であると豪語し、対AMF戦など想定することさえ無駄なことであると切って捨てた彼の方針は、この度の襲撃により、もろくも突き崩され、その責任を追及すべく査問会の準備が進められている。しかし、この部屋ではその査問会に対する対策、言ってしまえば多くの証拠の隠蔽や捏造の支持が半ば公然と行われていた。

「今回、本部の防御を抜かれ、多くの被害を出してしまったことは事実です。それは変えようがありません。どんな手を使っても査問会への召喚はさけられないでしょう」

ゲイズ中将の右腕であるオーリス三佐が淡々という。

「ですが、我々にチャンスが無いわけではありません。先日の襲撃はあくまで地上での出来事の一つですから捜査権はこちらにあります。閣下の査問会も地上で行われますし、委員も地上の者を中心に選ぶよう圧力をかけております。無論、厳しい戦いになると思いますが、我々には地上を守ってきた実績があるのです。恐れることはありません。むしろ…」
「むしろなんだ!」

言葉を濁す副官にゲイズが声を荒げる。

「むしろ怖いのは本局のほうかと。先の襲撃を操っていたのが“あの男”であるのはもう知られてしまいました。問題は、我々が彼とつながりがあったという事を知られた場合。また、彼の犯罪行為に加担したことを知られた場合。片方だけならば偶然と突っぱねる事もできますが、両方を掴まれた場合は難しくなります。更に…」

身を屈めて声を潜め、耳元で続けるオーリスに対して、執務机の上で手を組み、そこに顔を乗せていた彼は、むう、と一つ唸ると、先を続けようとした副官を遮り言った。

「それが、本局の管轄内で行われていた場合、捜査権はあちらに移る。査問会の主催もな。一応形式の上ではあちらが“本局”だからな…」

はい、と応じるとオーリスは身を起こし続けた。

「現状では、査問会の開催を急いだほうが得策かもしれません。本局管轄内での事件に関しては、すぐに露見しないよう工作は完了しておりますが、時間をかけて本局の介入を許し、閣下の身柄を押さえられては手が出せなくなります。」
「なるほど、では…」

コンコンと、指示を出そうとしたゲイズの機先を制するように、入り口のドアを叩く音が響いた。
それは、荒っぽく叩くドンドンというような大きな音ではなかったが、何故か中にいる者の動きを止めさせた。

「時空管理局本局査察部所属ヴェロッサ・アコース査察官です。入室してもよろしいですか。」

幾拍かの間の後、許可の声を待たず数人の男が入室してきた。提督服の男が一人とスーツの男が二人である。
提督服の男にはゲイズは覚えがあった。クロノ・ハラオウン提督、管理局でもっとも有名な男の一人である。最年少の執務官となった男であり、現在はXV級艦船“クラウディア”の艦長を勤めている。また、機動六課の後見人の一人でもある彼の事は良く知っていた。
視線を横に移す。白いスーツの男と緑のスーツの男どちらかがアコースとか言う査察官なわけだが…

「初めまして、ゲイズ中将。ヴェロッサ・アコースと申します。こちらは、次元機動部隊のクロノ・ハラオウン提督、そしてこちらは…」

と、続けようとしたところで、机を殴りつける音と胴間声が響いた。

「自己紹介などどうでもいい!本局査察部だの、海の人間だのがここにいったい何の用だ!」

ふう、と一つため息をつきヴェロッサは「閣下の身柄を拘束させていただきに参りました」とだけ言った。

あまりにも直截的な言い方に声を失うゲイズと取り巻きだったが、いち早く立ち直ったオーリスが口を開いた。

「確かに、本部施設の損害は大きなものでしたが、それに関しては査問会が…」
「誰が、損害に対する中将の責任追及に来たと言いました?」

早口で言うオーリスを遮り、クロノが告げる。更に、「今回の容疑はその事ではありません。」とも。

「では、何だ?確かにあの男には技術開発のために資金援助をしていた、それだけだ!後は何も知らん!ましてや、本局の者に!血も流さず我々が守ってきた平和に浸っていただけの者に何も言われる筋合いはない!」

ゲイズは立ち上がり、大声で叫ぶと再びどっかりといすに腰を下ろした。

「閣下、今回のあなたの容疑は八年前の本局武装隊に対する襲撃、及び隊員に対する殺人未遂の教唆です。」
「何!?」

ただ一人今まで口を開いていなかった男が口を開き、ゲイズは驚きの声を上げた。緑色のスーツをまとい、蜂蜜色の長髪をリボンで縛った男は続ける。

「八年前、ある少女が所属していたその部隊は演習を終え、帰還途中に立ち寄ったある世界で未確認体の襲撃を受けました。本来であれば、問題なく退けられたハズだった彼女は、その戦いの中で、多くの偶然から二度と歩くことさえできないと言われるほどの重傷を負った。」

少し俯きがちなたため、表情は見えない。だが、その声ははっきりと響いていた。

「その時回収された残骸とその後の一連の事件で回収された残骸、また、過去の戦闘機人等のデータからジェイル・スカリエッティーとの関連性が疑われていました。そしてあの時、その世界に立ち寄るよう要請していたのは…」

一度言葉を切り、まっすぐにゲイズを見据える。

「時空管理局ミッドチルダ地上本部!」

ゲイズはそのあまりにも具体的な内容に唖然とする。本局内での事件はすべてもみ消したとオーリスは言っていたではないか。慌てて横に立つ秘書官を見上げると彼女も同じような表情をしていた。

「スカリエッティーと地上本部、この二つは繋がらないものだと思っていた。だから、今まで未解決になっていた…」
「デタラメだ!そんな証拠がどこにある、出せるものなら出してみろ!」

口角から泡を飛ばし、立ち上がって指を突きつける。そして再び机を殴りつけた。

「閣下、彼の事をご存じないのですか?」
「彼は、ユーノ・スクライア。管理局の誇るデータベース無限書庫の司書長ですよ。」

二人の発言にゲイズの顔色が変わる。

「その時出された命令書や要請書といった証拠は、公式には残っていません。ですが、内容については司書長が残しています。更に言えば、そこの秘書官殿の部下が隠滅したという証拠もね。」
「何故だ!なぜ、無限書庫司書長ともあろうものが、八年も前のそんな小さな事件の事など…」

ヴェロッサの言葉に、いよいよ青ざめたゲイズはうめくように言った
それに答えるようにクロノは

「その時怪我をした少女は、彼が魔法と出会わせ、そして教えたのです。類まれな才能を示し周囲の期待を集める彼女の師として、パートナーとして、なのはは、ユーノにとって最も大切な女性だった。そんな女性を理不尽に傷つけられ黙っていられる人間がいると思いますか?二度と歩けないかもしれない言われ、それでも立ち上がろうと努力する姿を見て何も感じないと思いますか?その原因が、巻き込んだ責任が自分にあるとするなら…」

一度言葉を切り続ける。

「自分のすべてをかけて、犯人を捜し出してやろうと思いませんか?」

その言葉に込められた迫力、そしてそれ以上に、彼の隣で自分を見つめる緑色の瞳が発する威圧感に慄きながらも

「それでも、必要だったのだ!魔導師などという不安定な力に頼っていてはこの世界は守りきれんのだ!お前たちこやつらを捕らえろ、反逆罪の現行犯だ!」

叫ぶように言い手を挙げた。すると、部屋の中にいた幾人かがデバイスを起動させ三人に向けて構える。

「馬鹿なことを、反逆罪など成立するはずもないし、そもそも君たちに…」

『僕たちを捕らえれるはずがない』と続けようとした時、三人以外の人間の足元に緑色の魔法陣が光り、一瞬のうちに多くの者が床に縫いとめられていた。

「君は本当に、なのはが絡むと人間が変わるな…」
「…抵抗しようとしたんだ。正当防衛ってやつだよ」

少し、呆れた様にユーノを見ながらつぶやくクロノに、明後日の方を見ながらユーノは応じた。

「二人とも」

警戒を含んだ声に慌てて正面を向き、クロノは窓際に立つ女性に声をかけた。

「オーリス三佐、君は何者だ。この男のバインドは特別製でね、僕でも解除には苦労するんだが?」
「さて、何者かしらね?とりあえず、坊や達の考えで間違いはないと思うけど?」

笑みを含んだ声で応じると、両耳についた飾りを外すと言った。

「よくここまでたどり着いたわ。お利口な坊やたちにプレゼントをあげる。これは、この男がやってきた、いわゆる悪事の記録ってやつ。」

飾りの一つを放ってよこす。受け取ったヴェロッサが確かめると小型のチップらしい。実際に中身が何であるかは分からないが、ほぼ言った通りのものが入っているだろう。

「何故こんなものをよこす!どういうつもりだ!」
「言ったでしょ、ご褒美だって。でもまあ、計画通りともいえるのかしら。ここでこの男が失脚すれば、さらに地上は混乱する。それは、私たちにとっても都合がいいから。」

ユーノの問いに、にこやかに、それまでは見せたことがないような笑顔で彼女は応じる。
次の瞬間、足元にミッド式でもベルカ式でもない魔法陣が浮かび上がると、窓を吹き飛ばした。

「逃がすか!」

バインドを発動させようとするユーノに対し、いまだに笑みを浮かべたまま、

「ああ、もう一つのご褒美があったわね」

オーリスは、無造作にもう一つの耳飾りを放り投げると、次の瞬間、轟音と閃光が室内を満たす。それが治まったときには窓際に立っていた女性の姿はなかった。

「逃がしたか」
「そうだな」
「でも、今回の目的であった中将の身柄は押さえられましたし、予想外の情報も得ることができました。今日のところは、これで良しとしましょう」

チップの入った耳飾りを明かりにかざしながらヴェロッサは言い、

「そうだな、スカリエッティーへの足掛かりがまた一つ増えた。これからは、本局も正式に捜査ができる。大きな一歩になるだろう」

と、クロノは応じた。

ユーノはオーリスが吹き飛ばした窓際に立ち、

「なのは、君は僕がこんな事をするのは喜ばないかもしれないけど…」

絶対にあの時の償いをあいつにさせてやる。そう、心に誓っていた。





END




あとがき

はじめてSSを書きました。書き始めたのが5日の16時、完成が23時とかなりの突貫作業なため、
辻褄が合わないところが多々ありそうで、とても不安なのですが(汗)温かい目で読んでいただけるとありがたいです。
内容については…書きたかったことをここで書くのは卑怯ですよね。一応主役はユーノのつもりです。
最後に一言、重い話投稿してスイマセーン
私書箱28号

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