迷子を見つけたその後は




いつの間にか、ママがいなくなってた。
蝶々を追っていたら、本当にいつの間にかいなくなってた。

「フェイトママ?」

姿が見えない母親の名前をヴィヴィオは呼ぶ。
けれど一向に彼女は現れる気配がない。

「ママ!?」

ヴィヴィオは慌てる。
急に一人になってしまったことに。

「ママ!!」

だから探し始めた。
探してすぐに安心したかった。
けれど、どんなに探しても見つからなくて全然安心なんて出来なかった。
むしろ不安が増す一方で、じわりと目じりに涙が出てきた。
すると探すために歩いていてた足も止まる。

けれど、その時だった。

ヴィヴィオの前に人影が一つ映った。

「…………?」

ヴィヴィオが前を見る。

──きっと、これはヴィヴィオにとって偶然の出会い。

必死に探していた人に出会えなくて、泣きそうだったヴィヴィオがそんな時に出会ったのは──


「こんにちは」


自分と同じ色の髪の毛と瞳の色を持った、一人の青年。


















「どうしたのかな?」

青年は微笑みながらしゃがみ込んで、ヴィヴィオと目線を合わせる。
その動作がヴィヴィオのお母さん達と似ていて、ヴィヴィオは……唐突に現れた青年に何故か警戒心を解いた。

「……ママがいないの」

「ママがいない?」

「……うん。さっきまで一緒にいたのに」

ついさっきまで一緒にいたのに、いつの間にかいなかった。
その事実を思い出し、ヴィヴィオはまた少しだけ泣きそうになる。
けれど、

「大丈夫だよ」

青年はそう言った。

「僕が一緒にママを探してあげるから」

「……本当?」

「本当だよ。君のママとはお友達なんだ」

朗らかな物言いで、ヴィヴィオを安心させる。
そして青年はひょい、とヴィヴィオを担いで肩車をした。

「わあ!」

ヴィヴィオが歓声をあげる。

「楽しい?」

「うん!」

さっきとは打って変わったヴィヴィオのはしゃぐ声に、青年が顔を綻ばせる。

「それじゃ、お母さんを探そうね」

言って、青年とヴィヴィオはお母さんを探すために歩き出した。
と、そこで、

「ああ、そうだ……」

青年は真上にいる少女に向けて言う。

「僕の名前はユーノって言うんだ。よろしくね」




















はやてに資料を渡し、帰り道を歩いている途中だった。
目の前に少女が一人、立っているのがユーノに見えた。

──あの子は……。

確かなのは達が保護してるヴィヴィオという女の子だ。
前に三人が映ってる写真を見せてもらったことがある。

──どうしたんだろう?

一人でいるなんて。
しかもよく見れば泣きそうではないか。
はぐれたのかどうしたのかは分からないが、とりあえずヴィヴィオの元に行ったほうがいいだろう。
ユーノはそう判断すると、早歩きでヴィヴィオの元へと向かった。
そして会話をして、どうやらなのはかフェイトとはぐれたらしいことが分かると、ユーノはヴィヴィオを肩車して母親探しを始めた。

「ヴィヴィオはさっきまでどこにいたの?」

「ん……と、原っぱ」

「原っぱで何してたのかな?」

「蝶々を追いかけてたの」

「その時、お母さんは一緒にいた?」

「……わかんない」

「そっか」

おそらく蝶々に夢中になっている間に、はぐれてしまったのだろう。
そして気付いたらお母さんはいなかった、というのが正しい推測か。
だったらまずは、

「まずは原っぱに行ってみようね」

「うん!」

ヴィヴィオの元気の良い返事を皮切りに、ユーノは原っぱに向けて歩き出す。











五分ほど歩き、ヴィヴィオが示した原っぱへと着いた瞬間だった。

「ヴィヴィオ!」

遠くからヴィヴィオの名前を叫んでいる女性がいた。
その女性は金髪の長髪を少し乱しながら、ヴィヴィオの名前を一心不乱に呼んでいる。
ユーノは女性を見ると、彼女に聞こえる範囲の大声で「フェイト!」と叫んだ。
するとヴィヴィオの名前を呼んでいた女性──フェイトはユーノへと振り向いた。

「ユーノ?」

フェイトは叫ぶのをやめて、どうしてユーノがここにいるのかをいぶかしんだが、彼が肩車をしている少女を見るや、一目散にユーノとヴィヴィオのところまで走ってきた。

「どうしてヴィヴィオと一緒にいるの!?」

「はやてに資料を届けた帰りだったんだけどね。偶然ヴィヴィオが一人でいるところを見つけたんだ。それでどうしたのか訊いたら、お母さんを探してるって言ってたから一緒に探してたんだよ」

ね、と肩車をしているヴィヴィオに同意を促す。
ヴィヴィオも一つ首肯をした。

「でも、案外すぐ見つかったから安心した」

もしかしたら結構探さないといけないかな、などと思っていたから。
ユーノはひょい、とヴィヴィオを持ち上げるとそのまま地面へと下ろす。
そしてフェイトに向かって軽くヴィヴィオを押した。
ユーノとしてはそのままフェイトがヴィヴィオを抱きしめるんじゃないかな、と思ったが実際は、

「もう、心配したんだよ!」

少し大きな声でヴィヴィオを嗜める。

──あれ?

少し予想と違った。
フェイトは甘いと聞いていたからてっきり抱きしめるものだとユーノは思っていた。

「まあまあ、そんなに切羽詰った表情で叱ろうとしなくても……」

ヴィヴィオを軽く叱ろうとするフェイトをユーノは宥める。

「だって!」

「いいじゃないか。実際、ヴィヴィオは僕が見つけたんだし」

「それでも勝手にいなくなっちゃったからすごい心配したんだよ!」

フェイトは本当に心配していたからこそ、ヴィヴィオに言っておきたかった。
でも、ユーノはフェイトの気持ちが多分に分かっていても……反論した。

「それはヴィヴィオだって同じだよ。ヴィヴィオだって泣きそうになって不安だったんだ」

なぜなら一方的にヴィヴィオが悪いわけではなかったから。
フェイトはユーノの言うことに、はっ、とした表情を浮かべる。

「そもそも、君が目を離したのが原因の一端でもあるわけだろ」

「…………うん」

理由が何かあったとしても、フェイトがヴィヴィオから目を離したのは事実。

「少なくともヴィヴィオにだけ責任があるわけじゃないよ」

ポンポン、とヴィヴィオの頭を撫でる。

「だから、こういう場合は両成敗」

まず、ユーノはヴィヴィオに言う。

「ヴィヴィオは勝手に蝶々とかを追いかけないこと。フェイトが心配するからね」

次にフェイトに向かって、

「フェイトはしっかりとヴィヴィオを見ていること。ヴィヴィオが不安になるから」

と、注意をする。

「分かった?」

そしてユーノは二人に返事を求める。
すると二人は、

「うん!」

「分かったよ」

ヴィヴィオは元気よく、フェイトは納得しながらユーノの言葉に頷いた。











「さて、ヴィヴィオの保護者も見つかったことだし、僕は帰ろうかな」

「もう帰っちゃうの?」

「うん。もともと帰る途中でヴィヴィオを見つけたんだからね」

言って、ユーノは帰ろうとする。
が、

「……ん?」

不意に引っ張られる感覚がして、後ろを振り向いた。
するとそこにいたのは、ユーノの服を掴んでいるヴィヴィオ。
首をふるふると横に振っている。

「帰っちゃやだ!」

ぎゅう、とさらにユーノの服を握り締める。

「ヴィヴィオ。我侭言ったらユーノの迷惑になるよ」

フェイトがユーノからヴィヴィオを引き離そうとする。
けれどヴィヴィオは離れようとはしない。
むしろ抱きついて余計離れないようにした。
ヴィヴィオの様子に、フェイトが困った様相になってユーノを見た。
けれどユーノは多少困ったような顔をしながらも……笑っていた。

「ヴィヴィオ、安心して。まだ帰らないから」

ユーノはしがみついているヴィヴィオに告げる。

「ほんと?」

「本当だよ」

ユーノが安心させるように言ったことで、ヴィヴィオはようやく離れた。
でも、代わりにユーノの手を握る。
そして逆の手を精一杯伸ばしてフェイトの手も握る。

「えへへ〜」

満足そうにヴィヴィオは笑った。

「ごめんね。帰るはずだったのに」

「いや、帰ってもやることがあったわけじゃなかったしね」

だったらヴィヴィオのお願いなど容易い御用。
なので、

「ヴィヴィオ、お散歩に行きたい!」

「うん。いいよ」

ユーノがヴィヴィオの提案を否定するわけがない。

「フェイトもそれでいい?」

ユーノの問いにフェイトは首を一度縦に振る。

「それなら、皆で一緒に散歩しようか」










色々と見てまわり、六課の宿舎の前まで三人が来たとき、知っている人物が宿舎から出てきたのにユーノは気付いた。

「はやて?」

そう、三人の前に現れたのははやて。

「あれ? ユーノ君まだ帰ってなかったんや」

「まあね」

ユーノは目線を手を繋いでる女の子に向ける。

──そういうことか。

はやてはユーノの目線の意図を知って苦笑した。
ユーノとフェイトの間にいる少女は、本当に満足そうに笑っている。
なんとも微笑ましい三人の寄り添う姿をはやては見て…………ふと思った。

「なんか……三人並んでると、親子みたいに見えるな」

「……え?」

「ちょっ、はやて何言ってるの!?」

はやての呟きにユーノは驚き、フェイトは焦る。

「いや、だって……」

ユーノ、フェイト、ヴィヴィオ。
三人が並んでいると、色々な特徴が似ていると思う。

「瞳の色だってユーノ君とフェイトちゃんの瞳の色やし」

翠の瞳と深い朱色の瞳。

「髪の毛の色だって三人同じ色やろ」

ヴィヴィオの髪の色は確かに二人の特徴をよく受け継いでいる……金髪。

「声だってユーノ君にちょっとだけ似てると思うんよ」

なんとなくではあるが、似ていると感じる。

「………………」

一瞬黙って、はやては考え込む様相を呈した。

「とりあえず冗談で言ってたんやけど、本当に親子というわけやないよね?」

「「違うよ!!」」

ユーノとフェイトが全力で否定する。
が、二人の否定を真に受けてショックを受けたのが一人いた。

「…………ふぇ……」

ヴィヴィオが泣きそうになる。
ママに親子じゃないと言われたのが悲しくて。
けれど完全に泣き出す前にフェイトがフォローに入った。

「う、嘘! 嘘だよヴィヴィオ!」

「………………嘘……?」

「そ、そうだよ。フェイトママとユーノパパは、ヴィヴィオのママとパパだよ」

フェイトは慌てて言い募ったが、そこに一つだけ気になることが。

「ユーノ……パパ?」

ヴィヴィオが聞き返す。
瞬間、フェイトも自分が言ったことに気付いたのか少々顔を赤くしたが、言ってしまったものは仕方がない。

「そうだよ、ユーノパパだよ」

「…………ユーノ…………パパ……」

確かめるようにヴィヴィオは呟く。
そして自分でしっくりときたのか、

「ユーノパパ!」

とてて、とヴィヴィオがユーノのところへと駆けていく。
ユーノは観念したように笑うと、辿り着いたヴィヴィオを抱き上げた。
ヴィヴィオの笑顔がさらに深まる。
フェイトも二人の隣に寄っていった。

「パパ! ママ!」

嬉しそうに何度もパパ、ママとヴィヴィオは連呼する。
そんなヴィヴィオの様子を見れば反論など……誰にしたって在るわけが無かった。





そして、その微笑ましい光景をはやては一人、離れたところで見ていたが、

「ホント、親子みたいやね」

ぼそりと呟いて笑うと、三人に気付かれないようにそっとその場を後にした。




あとがき

 ユーノとフェイト、そしてヴィヴィオってよく似てるな、と思っていたので書いた作品です。ほんと、三人とも特徴が似通ってると思ったんですよ。それで親子みたいだな、と感じて。ですので、ちょっと短くて違和感があるとは思いますが、少しでも共感していただけたら幸いです。
結城ヒロさん
蒼穹の青空へ

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