仲好し濃禎
時空管理局執務官クロノ・ハラオウン。
彼は今、なのはの世界、地球海鳴市にある平凡な喫茶店で軽い食事を取っていた。
現在はケーキが乗っていたであろう空になった更にフォークを置き、ブラック無糖のコーヒーの入ったカップを口に運ぶ。
う〜む、デリシャス。なんて思ってるかどうかは定かではないし、知ったこっちゃ無い。
一呼吸置いてから、彼は目の前にいる人物に目を向ける。
そう、今この場には彼とその目の前に、浅い栗色の髪を肩まで下ろし、メガネをかけたゴスロリ服を着た人物がいた。
「うん。おいしい」
目の前に置かれたパフェを口に入れて顔を綻ばせる。
その仕草、表情はとても明るく、可愛らしいと思えるものだった。
だから、先ほどから周りの少ない男性客の視線が釘付けになるのは仕方ない事だろう。
何人かは彼女連れだったために、愛想を尽かされかけてたり、冷めてしまっているのもいるが、どうでもいい事だ。
本来行なわなければならない思考から微妙に外れかけていることに気付き、クロノは改めて自分の目の前に座る人物に目を向けた。
眺め見る内に、段々と表情が険しくなり、呆れと疑惑が混ざった別の意味で苦い表情になっていく。
「キミは産まれてくる性別を間違えたんじゃないか?」
「……それは最初にも聞いたよクロノ」
パフェを食べる手を止めて、溜息と共に浅栗色のゴスロリ服の子は答える。
何となく、もうっ。とか言ってふて腐れるような雰囲気がなお更可愛い仕草に見えるのは何故だろう。
そして、細く白い綺麗な指をクロノに向けて伸ばし、残った方の手で自分の頬杖を付きながら”彼”は言葉を紡ぐ。
「それに、デートならそんなに険しい顔をするもんじゃないだろ?」
不意に出された言葉にクロノは口を詰まらせた。
向かいに座っている人物はその様子を見て満足したように微笑む。
それが何だか尺に触ったので、クロノは不機嫌さを隠し切れないまま、反撃に口を開く。
「覗きの次はそっちの趣味に目覚めたかフェレットもどき」
「最初に話を持ちかけてきたのはそっちだって事を忘れないでほしいね」
「僕だって嫌だったさ。けど、エイミィに母さん。レティ提督まで絡んでたらどうしようもないだろ」
こうして話してもムダに疲れるだけだと判断し、クロノはコーヒーを飲んで心を落ち着けようとする。
同じく彼の目の前に座る”少年”も食べかけのパフェを一口食べる。
互いに飲み終えると、二人は同時にそれは深い溜息を吐く。
(どうしてこんな事になったんだろう?)
と、クロノ・ハラオウンと目の前に座る少年―ユーノ・スクライアはこれまでの事を振り返った。
仲好し濃禎
時は遡る事幾星霜という程でもないくらい前のこと。
ハラオウン家の暮らすリビングに、電話のコール音が鳴り響いた。
ジリリリリン!! ×?
「電話だ」
「ちょっと待て、うちの電話ってあんな音だったか?」
「そうだよ?」
ソファーで新聞読んでたクロノの言葉にフェイトが首を傾げながら答える。
なんともレトロな音が鳴り続け、フェイトが電話を取りに行く。
クロノなら律儀に突っ込んだであろう、音に似合うレトロな黒電話をフェイトは手に取る。
「はい。原凹云(はらおうん)です」
おい。
とツッコミを入れたいだろうが、郷に入りは業に従えという一家の主の命で地球ではこんな苗字にされてたりするハラオウン家。
「義……母さん? え、クロノですか。はい、はい。解りました。じゃあ伝えておきます」
最初微妙に突っ掛かったのが気になるが、フェイトは涼しい顔で受話器を置いてリビングにいるクロノの元へ向う。
「クロノ、義母さんから連絡が来たよ」
「母さんから?」
「うん。義母さんから」
「何でこだわるんだ?」
間違っちゃいないが、ダメだろうこういうのは流れ的に。
「新しい事件の事で話しがあるから、本局まで顔を出して欲しいって義母さんとエイミィとレティ提督と文明とかとグレアム提督から」
「待て。いまさり気なく言ったつもりだろうが、明らかに関係ないしどうでも良いヤツがいただろ」
「いいじゃないクロノ。細かい事を気にしてたら、いつかの私みたいに精神崩壊しちゃうよ?」
凄い説得力だ。
はにかみながら、いまや凄くイイ笑顔で語る彼女はあらゆる意味で達観してるように見えた。
同時に会話の内容から、今回の話の方向性もすでに見えてしまっている自分に泣きたくなったクロノだった。
「まあいい。行ってくる」
「いってらっしゃい」
ソファーから立ち上がり、のっそりとした動作で歩きながら玄関を開くクロノ。
そんな彼の安全を願うように、明るくフェイトは待機モードバルディッシュとジュエルシードを火打石の様にカッチカッチと打ち合わせていた。
「フェイトらめぇえええええええええ!」
扉を閉めた瞬間アパートの中から妙な音が聞こえた。
詳しく書くならアルフらしき獣の断末魔っぽい気がしたけど、クロノは回りを見渡して現在は無害そうなので気にしない事にした。
口元が引き攣ってたり、額にでっかい汗を掻いてたりするけど気にしてない振りを懸命に行なうのであった。
キキィーーーーーーーーーッ!!
直後、アパートを出た道路でタイヤの擦れた音が響いた。
が、時々虚空から砲撃音が聞こえるこの町で、その程度を気にするものはそんなにはいなかった。
「なにかあったの?」
「何でもありません。それで、今回はどのような用件ですか?」
頭から血を噴出しても説得力が無いが、面倒事になることは間違いないと悟ったクロノは早く終わらせようと話を進める。
そっけない態度にのみ話題を繋げながら、レティやリンディは今回の事件について話し始める事にした。
「じゃあ、色んなところを掻い摘んで説明するわね」
「必要な事は省かないで下さい」
「なら見たほうが速いわね」
言いながらリンディは畳の部屋の横に増設されたふすまから紙芝居のおっちゃんを引きずり出した。
紙芝居のおじさんはグッタリしていたので、お茶菓子を持ってきたエイミィに代弁してもらうことになった。
〜〜〜
「こんにちわなのはさん! その紙はなんですか?」
「ああ、スバル。この紙は過去に起こったことをダイジェスト風に説明してくれるロストロギアなの」
「へ〜すごいですね! ちょっと実演してもらえませんか?」
「じゃあ、スバルがここ数日何をしてたかを見てみようか」
「ええ〜恥ずかしいですよぉ!!」
「いいからいいから」
そう言うなのはさんの表情はいつのまにか影が射していた。
そしてズバズバと凄まじい勢いで、まるでカードを切るように芝居用紙を抜いていく。
カードドロー
強欲な壺発動!!
カードドロー
強欲な壺発動!!
カードドロー
強欲な壺発動!! 強欲な壺発動!!
カードドロー! カードドロー!
強欲な壺発動!! 強欲な壺発動!!
カードドロー! カードドロー!
強欲な壺発動!! 強欲な壺発動!!
カードドロー! カードドロー!
引く!! 引くっ!! 引き続ける!!!
ていうより
肉を千切るように引き裂くっ!
「な、なのはさん!? ちょっとやり過ぎですよ!! どうしちゃったんですか!?」
「こんなの生温いぐらいなの。わたしが最近仕事が忙しくて会うことが出来ないユーノくんと、先生と生徒の甘くてすっぱい恋愛講座を受けてる事に比べればねえ!!」(血眼)
「何の事ですかなのはさん!?」(凄くたじろぐ)
「言ったでしょ? このロストロギアは過去に起こったことをダイジェストで教えてくれるって」(口元だけ見える黒さで笑みを作る)
「パラレル!! パラレルですよぉ!!?」
「しかも従者としてくっ付くのはいつもいつもメス(女の子)って、本当にどういう事なんだろうネェ?
わたしの言ってる事、間違ってるかなぁ……ああ?」(不可視の殺意)
「そ、それならなのはさんだって鼻血吹くくらい幸せになってるのもあるじゃないですか!?」
「なのはとユーノくんの絆は別次元においても揺るぐ事はないの。それを邪魔するような悪性物質は萌・即・斬なの」
「わきゅーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!?」
何処の作者様も素晴らしい案を出すなあと思うよほんと。
節操無く人様のネタをパクる世界に守護者や書庫の管理者はいない。
凄まじい地響きの中、スバルの悲しい悲鳴が木霊した。
〜〜〜〜
なんだこのイメージは。
「っていう訳なんだよ」
「どういう訳だ」
「友情のもつれから産まれた悲しい事件ね」
「事件とは全く関係ないでしょう提督」
事件は会議室で起こってるんじゃない。
現場で起こってるんだ!!
「そういう訳だから、今回は協力者込みでの捜査になるわ」
「協力者?」
ツッコミ無しかい。
こんな事に協力してくれる人がいるのかと、安心とも呆れかも解らない溜息を吐いた。
血が足りないのか冴えないツッコミしか出来ないクロノは、その人がまともな人物である事を祈った。
「ってな訳で、ユーノくん入ってきてー」
エイミィが異様に元気良く呼ぶと、リンディは極上の笑みを、
レティは妖艶な笑みを浮かべてクロノの後ろを眺めた。
彼女達の表情から、後ろにいるであろう悪友に同情しながら溜息を吐き、クロノは振り返る。
そこにはクリーム色の髪に垣間見えるネコミミ。
小振りで形の良いおしりからは鈴のついたリボンの結ばれた尻尾。
両手にはちょっと大きめの猫の手袋を着用しており、服装はメイド服に変わっている美少女。
元、無限書庫司書長ユーノ・スクライアがそこにいた。
「なんで、こんな格好させるんですかぁ……」
半泣きになりながらユーノは呟く。
克目して見よ!!
彼こそがオトコノコにして、最高の美の素材。
可愛い系にして保護欲を駆り立てる動物オーラを放つ”ネコミミっ子”の誕生だった。
え? それを言うなら”ネコミミ少女”だろって? 彼はオトコノコだから良いんだ。
クロノは目の前のネコミミユーノを見る。
ちょっと潤んだ眼で助けを求めるようにこちらを見つめてくるユーノ。
くっ!? 何ていう威力だ……我武者羅に押し倒したくなるじゃないか!!
欲望のままにしゃぶり付き、もとい抱きつきたくなる。
「クロノ……そんなに退かなくてもいいのに……」
普段と違うクロノの様子に、ちょっと勘違いして一層涙ぐむユーノ。
クロノ、心の心象風景。
酷く荒れ果て、乾燥した草しかない荒野でたたずむクロノ。
片袖が破けたように肩が露出した黒いロングコートを着込んだ彼を小さな風が包み込む。
「イクのか、クロノ・ハラオウン」
後ろから語りかけるのは、もはや霞んでしまうほどの思い出しかない父親”クライド・ハラオウン”。
「その道は破滅の道だ。一度踏み込めば、戻ろうとしても二度と戻れない深みに填まってしまう。それでもイクのか?」
「はい、僕にはやらなければならない事があります」
そうだ。僕は以前にも誓った。今を戦って、未来を手に入れると。
「そうか」
クライドは最後のシーンに移った時の様な微笑を浮かべると、クロノに背を向けて歩き出す。
「ならば逝け。お前はお前の道を突き進み未来を掴め」
「はい、父さん」
短く答え、クロノもまた歩み出す。
そして、彼の進む方向には黄金の道が敷かれていった。
その道に掛かるアーチには
ようこそ! 禁断の薔薇園オトコノコ祭り編へ!!
という文字がデカデカと達人の署名付きで描かれていた。
・・・悲しいかなオトコノコ祭り募集期間はとっくの頭に過ぎてしまっているのだが(現在8月31日)
ゴキッ!!
突然後ろから金属鈍器で突き飛ばされるクロノ。
振り向くと、地獄ユーノの格好をした9歳ユーノ・スクライアが白い拳銃をクロノの米神に押し付けていた。
「逝くなよ」
「「っち」」
舌打ちをするクライドとクロノ。
(なんで息がピッタリなんだ?)
自分自身に疑問を投げかけると同時に、花火の様な音が一発気持ちよく鳴り響いた。
その音が小さくなっていくのにつられてクロノの意識は消えていった。
「―――クロノ?」
「やばかった……色んな意味で危険だった」
激しいビートを刻む胸のうちを悟られぬよう平静を装う。
冷や汗を拭いつつ安堵の溜息を吐きながら、クロノは今回の事件について詳しい経過をユーノに尋ねようとした。
けどそこでリンディやレティ、エイミィがオトコノコ達=自分達を妙に輝かしい瞳で見ている事に気付いて振り向く。
すると彼女達はまるで未知のおもちゃを目の前にした子どもの様に瞳を輝かせ、なんか怪しくて身の危険を感じたので場所を変える事にした。
で、現在。
彼らの数メートル後ろの席には高町なのはとその一向が二人の様子を隠れて様子を見ていた。
「って、飛びすぎだろ!?」
「ヴィータ、静かにせなあかんよ。でないとなのはちゃんに突き刺されるで」
「さり気なくはやてちゃんが一番危険な発言してると思うんですけど?」
「そこはシャマルが犠牲になってくれるから大丈夫や」
「なんで!?」
「まあ予備案は置いといて、なのはちゃんなら今は大丈夫や」
冗談ではない事を断言しつつ、なのはの方を見ると彼女は女装ユーノに胸をときめかせていた。
壁に隠れて彼を思い見る姿は恋する乙女っぽかったが、何となく巨人の星を思い出させるような錯覚も見せる。
なぜか隣には同じような瞳をしたフェイトもいた。
「うふふふふふふふふ。ゆぅのくん可愛いよ。ううんKyawayuiよぉぉおおおお」
「やっぱりユーノって女の子なんだよ。よし、今度義母さんに言われたとおり着付けしてみよう」
「……な?」
「余計やばくなってねえか?」
「多分オトコノコ祭りでメイドユーノくんが出たからその反動で―――」
「人様のネタに触れるのはやめましょうよ主」
ぞくっ!
「どうしたユーノ?」
「いま、全身を舐め尽す様に這いずり回る視線を浴びたみたいな悪寒が!!!?」
「落ち着け。そんな視線、猫に嘗め尽くされたとでも思って気にするな」
「……経験談か?」
「・・・」
眼を背け口を押さえる仕草。
それは肯定の意味であり、彼の過去にも色々あったのだと知らせるには十分だった。
その苦労を魂で感じてしまったユーノは、同じ様に口元を押さえて涙した。
「……思えばここまで色んな事があったな」
「そうだね」
「デバイス学園から始まった投稿SSが、いまやコレだけの大盛況だ」
「別次元ネタはやめろよ」
シリアスに入れそうな空気が一気に台無しだ。
まあユーノが女装をやめてない時点ですでにシリアスではないから気にする事でもないか。
「ところでクロノ」
「なんだ?」
「今回の任務の事なんだけど」
ユーノが真剣な表情をしてクロノに話しかける。
ここでようやく話しの本筋に戻れるのかとクロノは知らずに顔が綻ぶ。
「どういった内容なの?」
「は?」
質問に対して疑問の声で答える。
「は? じゃないよ。詳しい事はクロノから聞くようにって言われてここまで来たんだから」
「ちょっと待て!? 僕も母さん達からは何も聞いてないぞ!?」
「おい、冗談だろう?」
「マジだ」
「じゃあ何の為にボクはこんな格好でここまで来たんだよ?!」
「僕が知るか!!」
ユーノが机に両手を叩きつけ、二人ともイスの音を立てて立ち上がり睨み合う。
傍から見るとカップルの痴話ゲンカにしか見えないことを本人達は理解しているのだろうか。
ついでに怒ってるユーノくんもそそるの♪ とか言って物陰から見ているお方がいる事にもそろそろ気付いた方が良い。
「クロノ。どうやらキミとは決着をつけなくちゃいけないみたいだね」
「来い。模擬戦での屈辱晴らしてくれる」
だからそれは(オトコノコ祭り)別世界の話しだろう。
ここに来てユーノは気付いた。
今回のクロノはなんかオカシイと。
それを言ったら今回はいつも以上に冒頭から飛ばし過ぎてる気がするが、
もうどこから飛んでてどこから普通なのかが解らない。
今更だけどさ!!
FIN
「えええ!? ちょっと待ってよ!? こんな所で終わるの!!?」
「当たり前だろ。そもそもこんな状態で続けてたら、それこそ要領が半端じゃない」
「こんな終り方のほうが半端だよ!!」
「なら、二人で寝るか?」
「なんでそうなる!?」
「やらないかと聞けば楽に堕とせそうな気がしたのに」
「堕ちるかボケェエエエエエエエ!!!」
瞬時に結界を展開して戦闘モードに入る二人。
男達は戦う。己の全てを掛けて。
ぶつかり合い火花を散らす。
拳を交わせ蹴り合う。
「クゥウウロノォオオオ!! お前に勝ぁつ!!」
「負ける訳にはいかない!! ユーノォオオオオオオ!!!!」
さり気なく○クライド・リリカルの激しいノリで乗り切ろうとしてるが気にしないで欲しい。
凄まじい肉弾戦とか、土埃が舞う激戦を演じる二人だが、ユーノは相変わらず女装をしてることも忘れないでくれ。
みんなが望む限り、ボケはいつでも其処にある。
だから、りりかる・なのはが終わってもギャグにツッコミを入れる気持ちを大切にしてくれ。
今まで応援有り難う!!
さようなら。
ラジオ投票&オトコノコ祭り(オイ)
あとがき
ふははははははは!!
間に合わなかったぜぃオトコノコ祭りラスト投稿!!
フッ。コンさんに迷惑掛けてしまったぜい。
8月最後に贈ってみたけど、さあどうなるかな。(送るなよ)
さて、どうして期間中に終わらなかったと言うと、ぶっちゃけオチを忘れちまったんでさぁ。
詰まるにつまって続かなくなったんだけど、消すの勿体無いから送ることにした。
だからこんな終り方になったのだ!!
許容量オーバーのカオスが浮かんで、収集尽きませんでした。
こんな長い駄文に眼を通してくれた方ありがとうございます。