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世の中には“ヒーロー”と呼ばれる存在がいる。 彼らはどんな困難を前にしても決して砕けず、決して挫けずに意思を貫く。 闇より深い暗闇にあっても、鋼の鉄板より厚い絶望を前にしても、彼らは人々を照らす光となり、苦難を貫く希望となる。 何者にも負けない不屈の心を持った超常の存在、それが“ヒーロー” けれど。 子供の頃にヒーローだった少女がいた。 人を助け、人を救い、誰かのために走り続けた少女。 子供に見合わぬ心の強さを持っていた彼女は、どんな大人よりもヒーローだった。 純粋で、真っ直ぐで、そして強かった。 しかし時が経ち、少女に変化が訪れる。 最初は、自分ではその変化に気づいていなかった。 けれど少しづつそれは膨れ上がっていっていて、とうとう弾けた。 人に当り散らして、わがままを言って、誰かの言葉を聞き入れなくて。 少女は、“ヒーロー”からは堕落してしまったのかもしれない。 少女を変えたのは“恋”と呼ばれるココロ。 誰か1人をこの世で誰よりも大切に想い、またその1人のために全てを投げ捨ててもよくなるキモチ。 誰にだって訪れる感情が、少女をヒーローから“少女”に変えた。 そこからは、泥臭い。 嫉妬して、ぶつかり合って、分かり合って、結ばれて。 また嫉妬して、迷惑かけて、でも誤解と知って、愛し合って。 少女は“少女”になれたから、青春を精一杯謳歌した。 思い詰めたこともあった。 周りに酷い迷惑を掛けて、愛した人も傷つけて。 それでも、大事なモノを失う前に取り戻せて。 生き方は不器用だけれども、けれど愛しく幸せな日々過ごす少女。 そんな彼女は、今、 「スターライトブレイカーァアアアアアッ!」 般若だった。 「…………」 犯罪者集団が乗り込んだ超巨大魔導兵器ごと吹き飛ばす爆裂威力の砲撃を前にして、作戦指揮官も空いた口が塞がらない。 「まだまだ行くよ! 新必殺技を…………ッ」 ガシャン、と。非情と無情の絶妙な協奏を繰り広げるカートリッジロードの音が、鳴り響いた。 「もういい! 前をよく見ろ!? 奴らは全員昏倒しているぅううううううっ!?」 指揮官の悲痛な叫び声は何かしらの原因によって理性を失っているのか、それとも何かの八つ当たりなのか理性と呼ばれるストッパーのゴムが擦り切れたような表情をしている高町なのはにはどうにも届いてくれないようで。 「サンライトクラッシャァアアアアッ!」 それでも残った最後の良心か彼女の愛杖の配慮なのか、非殺傷設定で放たれた周囲を十回焦土に変えても十二分におつりが返ってきそうな砲撃が、既に泣き出している大の男たちをふっ飛ばした。 そこで世界は暗転する。 「…………以上が、昨日の君だ」 ぷっつんと切られたスクリーンの前に立つ男は、映像の中に出てきていた作戦指揮官だ。彼の顔には色濃い疲労が浮かんでおり、その原因は何と言うか事件の後処理だ。 「先月から通算して、君の暴走は十回目。二桁達成だ、めでたいだろう?」 彼の口調には“めでたい”と祝う気持ちなんて微塵もない。その中にあるのは、やっぱり疲労がいっぱいいっぱい。 「昨年末は急に成績が落ちて心配したが……それが明ければ暴走とは。君はほど良い位置に留めておくということができないのかね?」 ちくちくと言われる嫌味に一々頭を下げて申し訳無さそうに佇む少女。巨大兵器に乗り込んだ犯罪者集団をぶっ飛ばした上にさらにふっ飛ばした高町なのはその人である。 「君が一般の武装局員ならまだ許した。だが、君は教導隊の一員だ。この意味が分かるかね?」 “存じております……”とでも言いたげに顔を見上げたなのはだが、作戦指揮官が嵐のようにまくしたてた。 「君は平時は武装局員の指導教官ともなる立場にいる。上に立つものが問題行動を起こせばどうなる? 下の者の乱れを誘発するだろう」 “分かってます、分かってます、ごめんなさい”そんな高町なのはの心の声は残念ながら言葉が堰を切って溢れ出してしまった指揮官には届いてくれない。 「教導隊は管理局武装局員の最高峰として、その技術及び精神を最上に保つことが常に義務付けられる。それが分かっていて君は教導隊を志願したのではなかったのかね?」 “そうです、そうです、でもちょっと……。今は、今はちょっと……理由があるんです”もちろん、心の声なので届くわけがない。 「確かに、君には実力があり才能があり、そして良く努力している。一般の魔導師の中にあっては君は飛び抜けた存在だろう。だが、良く覚えておけ高町なのは」 “…………それを聞くのは先月から通算して十回目です。忘れようがありません”もちろん届いてくれなく以下省略。 「一般の中では特異点であっても、教導隊の中では君は凡人であることを忘れるな。君は特別などではない。君のために捻じ曲げられる規則は無いし、君だけのために消してしまえる規則も、新しく作る規則もない」 それは、ともすれば天狗になって“止まって”しまう教導隊員たちに何度も聞かさせる訓示だった。管理局の今と未来を支える大切な役目を負う彼らに送る、上官からの親心を込めた贈り物……なのだが。 「……まぁ、恋人と離れ離れで寂しいのも分からないではない」 うっかり余計な一言がずるりと出てしまった。若い教導隊員たちをまるで我が子のように思っている老年の彼としては、特に若くして教導隊入りした高町なのは孫のように思っていた。当然、目を掛けていたし可愛がってもいた。 噂なり何なりもそれなりに知ってはいる。彼としても、長い時間を掛けてようやく結ばれたばかりの彼女と彼女の恋人を任務で長く引き離すのは心が痛んでいた。 「それが分かっているなら…………」 そーゆーのが裏目に出たりするから世の中ってのは悲しい。 「それが分かっているならどうして私をユーノ君の所に返してくれないんですかぁああああっ!?」 泣き出しながら般若となった高町なのはに詰め寄られ、額に脂汗を浮かべる指揮官。地雷は踏めば後悔する間も無くふっ飛んでしまうものだと、いまさらながらに思い出したが、もう遅い。 「最近、ちょっと不安になっちゃうこともあるんですよ? 信じてる、ユーノ君を信じてるけど……けど……っ」 そして地雷とゆーものは、押すと中身の火薬は全て炸裂するものである。 「最近、ユーノ君×フェイトちゃん派の勢いが強いんですよっ!? 私どうすればいいんですかっ!? 愛情と友情のどっちを取ればいいんですかっ!?」 それは高町なのは、魂の叫びだった。 「私、こんなにユーノ君のことが好きなのに……届かないんですか? この想いは届いてくれないんですか? 私の好きって気持ちは、もう二度とユーノ君に届いてはくれないんですかっ!?」 少女の悲痛な叫びは狭い部屋の中に響き渡り、その迫力は鬼気迫る。 でもなのはさん、この世界の貴女はユーノとかなり強い絆で結ばれているのですが…………? 「か、彼に直接会ってみては如何でしょうか……?」 思わず部下に敬語を使ってしまった指揮官の心情も察してあげたいところではあるが、それは自爆だと思うよ指揮官。 「だったら、今すぐ私に休暇を下さい! ユーノ君の腕の中に飛び込ませてください……っ!」 詰め寄られ続けとうとう部屋の隅まで追いやられた指揮官は、決死の覚悟で口を開いた! 「君が参加する次の任務は既に決まっている」 それは厳かに、死刑判決を言い渡す裁判官のように粛々と。しかしはっきりと、一字一句まで鮮明に言い渡された。 「そんな…………」 床の上に崩れ落ちるなのは。瞳から溢れ出た涙の粒が落ち、彼女の制服を濡らしてゆく。もう、ユノなのの時代は終わってしまったんだ……。 さようならユーノ君。幸せになってね、フェイトちゃんとユーノ君。 悲しみに浸りながら親友と一番大好きな人の幻影を虚ろな瞳に浮かべ、お別れと祝福の言葉を告げる。 「た、高町…………?」 ディバインバスターを予想して防御魔法を用意していた指揮官は、崩れ落ちた少女の姿を見て焦りを浮かべる。“この子ってこんなキャラだったか?”と思いつつ、そういえばこういう状況でディバインバスターを放つのも彼女のキャラじゃない思い、それらの思案が現実逃避であることに気づいて、うつつに戻ってくる。 「わ、私の話を最後まで聞け……?」 彼の言葉に力無く首を横に振るなのは。ユーノとお揃いのリボンで纏めているサイドポニーが、彼女の首の動きに合わせてこれまた力無く揺れた。 「もういいんです……。任務には行きます、仕事もします。だから、今は泣かせてください……」 望ミ絶タレル。即ち、絶望に身を浸した高町なのはは涙を流すばかりだった。もう私は疲れました。最後に一つ言うならば、二度と私みたいな人が生まれないように、仕事のスケジュールをもう少し軽くしてください。それが私の最後のお願いです。と、口には出さずとも全身から発するオーラが物語っている。 「……高町なのは。貴官は明後日の二月十四日明朝、第一種遺失物指定ロストロギアの存在が確認された遺跡がある第九百管理世界へと向かうべし」 しかし、非情にも任務を告げる指揮官。これ以上聞きたく無いと耳を塞ぐなのはを無視して彼は続けた。 「尚、今回の任務は高度なトラップが仕掛けられた遺跡を突破する必要性があるため、無限書庫所属のスクライア一族達と合同で任務を行う」 指揮官にディバインバスターが放たれた。 「ぐふぉぅううううっ!?」 不意打ちに防御魔法を展開できず部屋の隅の隅までぶっ飛ぶ指揮官。彼になのはの悲鳴のような叫びが投げかけられる。 「聞きたくないのにどうして話すんですかっ! 私はもうユーノ君が隣にいてくれない世界なんて嫌なんですっ。でも、私も教導隊の一員です。立ち直ってみせます! だからほっといてください!」 泣きながら喚くなのはに、ぼろぼろになった指揮官は最後の言葉を発する。 「いや、だから要約すると今回の任務はユーノ・スクライアと一緒に行うというこ」 「聞きたくない! ディバインバスターァアアアッ! ……え? どういうことですか?」 可愛い可愛い孫のような少女のため、なんとか破壊砲に耐えた指揮官は最後の気力を振り絞って、今度こそ本当に最後の言葉を発した! 「二月十四日明朝、第九百管理世界にてユーノ・スクライアと共にロストロギアの眠る遺跡を攻略せよ…………」 彼の言葉を最後まで聞いた者は居なかった。 何故なら、途中で高町なのはが『失礼します!』の言葉と共に部屋を退室していたから。 「…………がくっ」 指揮官、南無。 あとがき 初っ端から予告を裏切る! それがコンクオリティ! はい、高町なのはのオープニングシーンでした。 クリスマスの話からだいたい直結しているこの話ですが、作中で語られている通りクリスマス以降なのはとユーノは面を合わす機会を得ていません。 ユーノに会えないなのはさんは相当にフラストレーションを溜めていて、オープニングシーンで大爆発中です。 さて、このままなのはさんが爆発したまま暴走するかどうかは次回以降をお楽しみにっ。 |