ただの少年が1人いた。
 とりたてて挙げることがあるとすれば、早くに両親を亡くしていることだけ。
 それでも、周囲の人間に助けられながら、少年は真っ直ぐに育った。
 少年には、少しだけ才能があったらしい。
 学校に行って、必死に努力して、優秀な成績で魔法を修めて卒業した。
 けれど彼は驕ること無く、歪むことなく、ただ“彼”であり続けた。

  優しく、和やかな少年として。

 少年の転機は、1つの事件。
 少年の失敗で異世界に散らばってしまった危険な古代遺産があった。彼は責任感と悔悟から、周囲の制止を聞かず1人で回収に向かった。
 だが、世界は常に求めた結果を与えてくれるほど甘くはなく。力が及ばなかった彼は、見知らぬ世界で倒れ伏した。

  最後に残った力で、“顔も知らぬ誰か”に希望を託して。

 はたして、希望を受け取った者は居た。
 それは1人の少女で、彼など足元にも立てない才能を持っていた。
 そしてまた、彼以上の真っ直ぐさを持っていた。

  彼女は、ヒーローだったのかもしれない。

 彼のせいで起きた事件も、その後に起きたもう1つの大事件も。
 彼女は暗闇に行く先を見失わず、標となる光になって夜を払ってきた。
 誰よりも“負けない心”と“諦めない心”を持った、太陽のような少女。

  彼が彼女に惹かれたのは、必然だったか偶然だったか。

 想いを寄せてから6年。
 生憎“鈍感”と呼ばれる彼女に、本人としては想いを気づいてもらえなかった。それでも彼女と、そして彼女を通して得た多くの友達と楽しく暮らしてきた。
 悲しい事件や大変な事件もあったけど、それも全部彼女達と乗り越えて。“大切な今”を少しずつ積み重ねていった。
 “大切な今”がずっとずっと続けばいいと思った。

  けれどそのせいで、“流れる今”に気づけなかった。

 行き違いと思い違いによって彼の前に大きな壁が立ちはだかった。
 自棄になった時もあった、けれど踏ん張った。
 周りの人間に助けられ、壁を壊して前へと進んだ。

  その奥にある幸せを手に入れるために。

 無事に少女と結ばれた少年。
 それでも、運命はまだまだ彼らを試すように引き裂きにかかる。

  だが、それもまた乗り越えて。

 強い、強い絆で結ばれた彼と彼女。
 会えない日々が続いても、お互いが愛し合っていることをしっかりと分かっているから。

  大丈夫。もう、何も見失うことは無い。

「教導隊の方から頼まれた資料はこれで全部……っと」

 少年だった彼。

「これが少しでもなのはの手助けになるといいな」

 今は青年となり、昔より少し逞しくなった彼は、

「ユーノ・スクライア。愛しの君のために、頑張ります」

 恥ずかしいセリフを吐いた。

「はいはい、お暑いこってねぇ」

 しかも、同僚に聞かれた。

「ちょ!? いつからそこにいたのアルフ!?」

 背後から急に投げかけられた冷やかしに慌てふためくと、抱えていた資料がばさばさと音を立てながら落ちてしまう。それを、これまた慌てて拾っていると疑問への返答がやってきた。

「ユーノ・スクライア。愛しの君のた」
「わーわーわー! 言わなくていい! 言わなくていいからっ!」

 恥ずかしいセリフを改めて人に言われると恥ずかしさが倍増するもので、大声を上げて止めさせようとしてしまう。
 けれど、世の中は往々にして不条理なもので。

「そんなに騒いでどうしたの、ユー君?」
「スクライア司書、何かありましたか?」
「不具合でも起きたか、ユーノ?」

 そーすると、周囲に人が集まるもので。

「あぁ、ユーノったらさ。ユーノ・スクライア、愛し」
「ちょっとこっち来て話し合おうかアルフー!」

 小脇に抱えやすいサイズのアルフをむんずと掴んで書庫の奥へ逃げた。
 戦略的撤退を行わなければ際限無く自爆するだろうと判断してのことだった。

「本心から出た気持ちなんだろ? なら知られたっていいじゃないか」

 いや、まずいから! 後々に冷やかされる的な意味でまずいからっ!!
 そう突っ込みたい心を必死で抑えるユーノ。
 けれど、彼が女の子に勝てる道理が無かった。

「クリスマス、アタシたちに散々心配をかけさせた罰とでも思いな」

 的確に弱い部分を突かれてすごく痛かった。
 ごまかすように乾いた笑い声を上げて頬を掻くが、ごまかせるわけもない。

「ま、ここら辺で引き上げておくけどさ」

 ユーノの腕の中から抜け出したアルフが、小さな身体で彼を見上げた。
 彼女は見た目に不釣合いなシニカルな笑みを浮かべている。

「なのはが我慢できなくなる前に、会いに行ってやんなよ?」

 それだけ言って、ぱたぱたと足音を鳴らしながら仕事へ戻ってしまった。お節介な彼女の後姿を見ながらユーノはポツリと『できるもんなら……とっくにしてるよ』なんて呟く。
 誰かに言われなくたって、許されるなら今すぐにでも恋人の下へ駆け出したかった。

『ユーノ、仕事だ』

 けれど、許しなんて得られるはずがない。通信が飛び込み、眼前に展開したモニターが展開する。
 ホログラムモニターに映っているのは六年来の親友で、クロノ・ハラオウン。
 彼は燕尾色の制服に身を包んでいた。将官用の制服だ。
 用件は仕事の依頼だろう。

『今、忙しかったりするか?』
「忙しい」
『そうか。ならいっそう励んで、新たな仕事もがんばってくれ』

 彼のいじわるな部分は常々好ましくないと思っている。
 しかもそれは自分に対してのみ発揮されるので、よけいに好ましくない。
 何か怨みでもあるのか! と思ったことも、一度や二度ではなかった。
 いつか、何故か親友の彼との付き合いも考え直した方がいいのだろうか?

『君や無限書庫にいるスクライア一族は、第九百管理世界へと向かって欲しい』

 こっちの気を知っているのか知らないのかは分からないが、モニターの向こうに居る彼は淡々と指令を告げた。この六年でもう何度あったか分からない光景は軽い既視感を引き起こす。
 いけない。
 ぼんやりと仕掛けた頭を切り替え、ユーノは自分の中で内容を噛み砕いていった。

『その世界で新たに発見された遺跡内部にロストロギアの反応があったわけだが……』

 クロノの説明。そこに気になる点を見つけた。
 普段ならそういったものを見つけても彼が説明を終えるまで口を挟まないのだが、今回は疑問が口を突いて出てしまった。

「第九百管理世界の遺跡って、解析終了しなかった?」

 四年ほど前に上がってきた資料にそういう記述があったと、記憶の片隅に残っていた。
 ユーノの言葉を聞き、クロノは感嘆の声を上げた。

『よく覚えていたな。あぁ、その通りだ』

 ……どういうことだろうか? 何故、わざわざ解析の終了した遺跡を再調査する必要があるのだろうか。
 まさか、前回探索し忘れた箇所でもあったのだろうか?
 いや、ありえないだろう。

『疑問があるとでも言いたげな顔をしているな』

 正にそうだ。どうして、わざわざ調査済みに遺跡に無限書庫の人員を動かす必要があるのか。考え始めれば、疑問は尽きない。
 しかも、わざわざ遺跡のエキスパートスクライア一族まで動かそうと言うのだから。疑念を尽かすのは不可能に近いだろう。
 本当に遺跡探索が任務なら、の話だが。

『しかたない。事情を話すから、誰にもばらすなよ?』

 しぶしぶと、クロノは任務の真相を語り始めた。

『今回は若い教導隊員を対象とした演習任務だ。ただ、本番のような緊張感を持たせるため通常任務と通知してある。“高度な侵入者迎撃トラップが仕掛けられた遺跡最深部にあるロストロギアを回収せよ”と言ったところか』

 それは随分と無茶な想定に思えた。
 まるでゲームのダンジョンアタックだ。

『実際、教導隊では太刀打ちが難しいレベルのトラップを配置してある。そのために、遺跡のスペシャリストである君達を呼ぶというわけだ。ただし、遺跡内部にはトラップと共に防衛機兵も配置してある。つまりだな』

 たらりと、脂汗がこめかみを滑った。
 意地が、意地が非常に悪い演習に巻き込まれようとしている。

『教導隊は“スクライア一族を護りつつ遺跡最深部を目指す”わけだ』

 時空管理局が用意した演習は、大量の足手まといを抱えたまま戦闘を行うというものだ。
 当然ながら足手まといを切ることはできず、彼らがいなければ先には進めない。
 しかも周囲に常に気を配っていなければならないので、任務を行う教導隊員たちは多大なストレスにさらされることになるだろう。
 誰だ、そんないじわるな演習を考えた奴は。そう思って、ユーノは1人だけそういうことを考えそうで、かつ実行に移せそうな人物が思い当たった。

「その作戦内容、考えたのは副局長だね?」

 クロノは難しい顔をして、否定も肯定もしなかった。
 即ち、肯定である。

『と、とにかくだな。それで君達に第九百管理世界に向かって欲しいわけだ』

 話題を逸らすように要望を告げるクロノ。
 まあ、ユーノとしても彼女――癖っ毛副局長――には世話になっているので、頼まれれば断るわけにはいかない。

「こっちからは何人割けばいいの?」

 任務の話に入った。
 スクライア一族全員を連れていくのは不可能だ。無限書庫の機能が止まってしまう。
 限度は十五人ほどだろうか? そういう計算を頭の中でしていると、クロノの答えが返ってくる。

『九人いればいい。現地で三チームに分ける』

 それくらいなら、無限書庫を数日空ける程度はさほど大きな支障を出さないだろう。

「あ、任務従事期間はどれくらい?」

 ただ、一週間や二週間もそれほどの人数が無限書庫を空けるわけにもいかない。

『当日の朝に初めて、昼過ぎには終わるさ。任務には若い教導隊員のほとんどが参加するから、』

 あぁ、それなら全く問題無い。
 さて、人員の手配を始めようかとユーノが声を掛けようとした時。
 クロノの、それはそれは意地の悪い声が響いた。

『なのはも来るぞ』

 盛大に吹き出した。

「わわわ、わざわざ言わなくていいからそういうことはっ!?」

 教導隊というセリフが出た時点で分かってもいいはずなのに気づけなかった自分が、少し恨めしい。おかげで不意打ちをクリティカルに喰らってしまった。
 モニター越しに笑うクロノがちと憎い。

『任務実地日は二月十四日だ。終わったら近くの世界でデートでもするといい』
「朴念仁のくせに余計な気は回さなくていいんだよー!」
『じゃあな』

 振り上げた拳が届く前に、中空に浮かんでいたモニターは消失した。目標を見失って拳を大きく空ぶったユーノはつんのめり、思いっきりすっ転んだ。
 思いっきり打ち付けた鼻がひりひり痛む。

「まったく。絶対に“粋な計らいをした”とか思ってるな……」

 鼻の頭を抑えながら立ち上がる。
 まだ鼻はひりひりと痛むが……頬は、どうしても緩んでしまう。

「……………」

 だって、

「二ヶ月ぶり、っか」

 色々あったクリスマスからこっち、二ヶ月近く彼女と会えていない。もちろん、電話での連絡は毎日欠かしていない。それでも、二ヶ月近く会えてない事実は変わらない。
 早く、彼女を抱きしめたい。

「でも、仕事で忙しいってことは……なのはが、きちんと夢に向かって走れてるってことなんだ」

 “ユーノ君が私に教えてくれた魔法の力。これで私は、たくさんの人を助けたいんだ”そう言っていたなのは。任務があるということは、誰かを救う機会があるということ。
 だから、任務で忙しいということは……彼女がしっかりと、夢を叶えているということ。

「だから、喜ばなくちゃいけない……んだけど」

 “なのはが我慢できなくなる前に、会いに行ってやんなよ?”
 先ほどアルフに言われたばかりの言葉が、胸に痛い。
 あまり離れてしまうと彼女は爆発する。それは、クリスマスによく分かったことだったわけだし。

「……ボクは、どうすれば一番なのはのためになることを選べるのかな」

 今までは、選択を間違えたせいで彼女を傷つけ、悲しませ……周りにいるたくさんの人にも、迷惑をかけてしまった。
 もう間違えたくない。
 迷惑を掛けたことへの悔悟とか、申し訳ない気持ちとか、そういうものがないまぜになる。

「絶対に、もう間違えない」

 けれど、それ以上に。

「……絶対に」

 もう二度と、高町なのはを悲しませないと決めたから。
 愛し合ってるボクたちは、一緒に幸せになるために恋人になったんだから。

「準備、しよう」

 まずは司書長に話を通そう。それから、遺跡用の装備を引っ張り出して、それから……。
 ユーノは思考し、そして行動を始める。

「選出する九人は誰にしようかな。えーっと……」

 全ては。

「よし、彼らでいこう」

 誰よりも愛しい少女のために。






あとがき

 はい、オープニング2はユーノのターンでした。
 表面上は納得しているように見えて、内実はやっぱり納得しきれていないユーノ。
 何がって? なのはと離れ離れなことがですよ奥さん!

  つまり、彼らはラブラブです。

 ちなみに、冒頭の魔法学院の話はノベル版魔法少女リリカルなのはの設定です。
 とは言え、『ユーノが魔法学院を出ている』ってだけで優秀かどうかは明示されてはいませんでしたが。ここら辺りはこっそりとお話の伏線に絡んでくるのですよごにょごにょ。
 また、『副局長』や『司書長』といった単語も伏線絡みだったりなんだったり。こっちはこっちで伏線だったりするんだけど、ラストバレンタイン中ではなく長編本編翼に誓った願いで回収されるとの噂です。いつ始まるんだろうなぁ、長編本編(遠い目)

  さてさて、オープニング2でした。

 次はオープニング3。そして、オープニング4を終えてミドルフェイズへと突入します。ミドルフェイズがまぁ、本編のよーなものです(笑)
 ではでは、次のお話でお会いしましょー!





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