WEB拍手SSSの過去ログとなっております。
 基本的に一回限りのネタっぽい

8月のWEB拍手お礼SSSへ
9月のWEB拍手お礼SSSへ
10月上半期のWEB拍手お礼SSSへ
10月下半期のWEB拍手お礼SSSへ



・『魔法少女』

「クロノ君! クロノ君!!」
「そんなにはしゃいでどうしたんだエイミィ?」
「うん。面白い魔法のアイテムを手に入れたんだ!」
「……君がそんなハイテンションな時に言う面白いは、大抵僕が不幸になって終わるよな」
「でね、そのアイテムなんだけどね」
「僕の話は聞く気無いだろう君ィ……ッ!?」
「うん」
「…………」
「あのね、クロノ君」
「なんだ……?」
「魔法少女になってみない?」
「却下だ」




・『クール系ツンデレ魔法少女イリカルクロノ子』

〜あらすじ〜

破滅的な核戦争により荒廃した世界。

人々は愛を忘れ、心を失い、ただ絶対的な力のみが全てを支配していた。

しかし、ある1人の少女が荒れ果てた大地へ舞い降りる。

彼女の名はクロノ子!

彼女こそ、究極の愛によって魔法の力に目覚めた救世主なのだ……ッ!

暗く厚い雲に覆われた世界を、明るく気持ちの良い陽光で照らすため

人々が忘れてしまった大切なモノを取り戻すため

そして何より“こんなはずじゃなかった人生”を歩む人を減らすために

クール系ツンデレ魔法少女イリカルクロノ子は、今日も戦い続ける!



「―――っていうのも考えたんだけどどうかな、クロノ君?」
「だから却下だ」




・『世の中にはこんな言葉が存在する。“勢い”と“自爆”』

「むー。じゃあ、私が着る!」
「自分の歳を考えろエイミィ」
「……むー」
「まったく……そんなことを考えている間に書類の一枚でも片付けたらどうなんだ?」
「ふーんだ。どうせ私は仕事もしないでバカな妄想ばっかりしてますよーだ」
「……いや、そこまで言わなくても」
「どーせクロノ君は、なのはちゃんが相方になって欲しいんでしょ?」
「別にそういうわけじゃ……」
「なら、はやてちゃん?」
「だから……ッ!」
「へー。じゃあフェイトちゃんかー。義妹だね。胸キュン?」
「エイミィ……ッ!」
「ふふんだ。誰のところにでもいいから行ってきなよ。わーたーしーをーすーてーてーねー!」
「いいから人の話を聞け……ッ!」
「つーん」
「僕は君以外と組む気は無いんだ……ッ!」
「へー、そうなんだー。でもあの娘達と仲いいよね」
「そ、それは……たまたま任務で一緒になることが多いだけで」
「そうなんだー。へー。ふーん。ほー」
「…………」
「じゃ、お昼食べてくるから、私」
「待ってくれエイミィ!」
「やだよ。あの娘達の誰かを誘えばいいじゃない」
「僕は……」
「ん? 何々?」
「……僕は」
「…………」
「僕は、君じゃなきゃ嫌なんだ……ッ!」
「…………」
「……ずっと僕の相棒でいてくれ、エイミィ」
「く、クロノ君……」
「なんだ?」
「ブリッジで告白だなんて……みんな見てて恥ずかしいよ……」
「…………」
「あ、あは……あはははは……」
「え、えええええエイミィッ!?」
「は、はひぃっ!?」
「結婚しよう……ッ!」
「ちょっとクロノ君テンパリすぎ……ッ!?」
「ダメなのかっ!?」
「ダメじゃないけど……ッ! 嬉しいけど……ッ!!」




・『10年後くらい』

「クロノ君、目標発見。座標を送るね!」
「ああ。いつも助かるよ、エイミィ」
「これくらいは当然! なんたって、生涯の相棒だもんね」
「……そうだったな」
「うんうん。明日はあの子達の誕生日なんだから……今日は早めに終わらせてよね、おとーさん」
「分かってるさ、奥さん。さて……行くぞ、デュランダル」
《OK BOSS》

 子供は双子とか。
 育児担当は大喜びのリンディさんとか。
 双子兄はフェイトにべったりだとか。
 そして、フェイトに嫉妬ビームを送る双子妹。
 そんな家族。毎日がラブコメ劇場。




 はい、そんなわけで気づけばクロノ×エイミィ。
 ラブネタしか書けんのか自分は。
 しかもどうしても端折った感があるし……ッ!
 しかしそれでも公開するのがコンクオリティ。
 だって、とにかく書かなきゃ上達しないもん……ッ。
 あ、コンが好きなのはクロノです、多分。
 いつかマジネタで書くかも、クロノ子。絵師募集中。
 わははははは。
 今度こそ短編で会いましょう。
 もしくはすーぱーしょーとすとーりー。
 ではっ。








9月のWEB拍手SSS




・『彼と彼女の意思と決意(時間軸:A'S3話頃)』

『バルディッシュ……』

 屈辱的な敗戦だった。
 主の敵を切り払うべく生み出されたはずの私が、その役目を果たせなかった。
 それだけではない。
 彼と、彼を振るう彼女との戦いでは終始圧倒され、何度もこの身を削られていった。
 特に最初の一太刀では身体の中ごろを断ち切られ、防御魔法を張れどいとも容易く破られてしまった。
 もっと私が強ければ、己が主の敵―――シグナムと言ったか。彼女に我が主が勝利することは可能だった。
 主が負けたのは武器の差……つまり、私の至らなさだ。
 だから、己の不甲斐無さを許せなかった。
 そして、私の隣にいる彼女もそのようだった。

『聞こうか』

 彼女―――レイジングハートが私に呼びかけてきた声はとても弱々しいものだった。
 普段は冷静に……しかし、内に彼女の主と同じく熱い芯を持つ彼女には似合わない、珍しい声。
 彼女は私以上に手酷いダメージを受けていたし、彼女の主は負傷により病室で寝ている。
 私よりも強い自責の念を感じているのだろう。
 そう思った私は、ただ一言だけ発したのだった。
 しばらくは言葉を考えるように沈黙していた彼女だが、やがてポツポツと語りだす。

『最初からマスターの才能の高さには驚かされていました……』

 まるで……いや、搭載人格年齢的にはその通りだっただろうか? ……少女のようにか細い声で喋るレイジングハート。
 明滅する度に、傷ついて破損した箇所が浮き彫りになり……痛々しい。

『男の子よりも男の子らしい所があって……心の強い方……それが私のマスター』

 レイジングハートのマスター、高町なのはは本当の意味での強い子だ。
 彼女がいなければ、彼女の言葉が無ければ……私の主は、確実に壊れていただろう。
 彼女への恩は何年掛かろうが必ず返す。私は心の内でそう決めていた。

『本当はね、私だって挫けそうになることもあるんですよ? でも、マスターのためって思うと力が沸いてきて……』

 傍らから聞こえる声に、少しづつ震えの色が混ざってくる。

『マスターは、私を信じてくれるんです……だから……だから、私もマスターを信じたくて……』

 時折、くぐもったような嗚咽が混ざる。彼女は……泣いているのだろう。

『今回もマスターの信頼に答えたかった! ……でも……でも……っ……』

 それきり、レイジングハートは口を閉ざしてしまう。けれど、すすり泣く声だけは聞こえてきた。
 人は何故、デバイスに意思を持たせたのだろうか。
 神は何故、それを実現させてしまったのだろうか。
 傍らで泣く彼女の声を聞くと、そう思ってしまう。
 私達は何故意思を持つのだろうか。
 意思を持たぬ鋼の機械ならば、こうして彼女が泣くことも無かったのに。
 けれども……思うことが出来るのも意思の産物。
 そして、想うことが出来るのも……。

『レイジングハート』

 私は、口を開いた。
 彼女からの返事は無い。だが、それでも私は話を続けた。

『私とて、悔悟の念がある。私がもっと強ければ……きっと我が主は敵を倒していただろう』

 隣の彼女は、泣いたままだ。

『私は主のために生み出された。主の敵を切り払う刃となり、主を護る盾となることが本分。だが、それは果たされなかった』

 なればこそ。

『強くなろう、レイジングハート。今度こそ、主を護れるように。主の敵を薙ぎ払えるように』

 大切な主のために、私達は変わらなければならない。

『……それは』

 ふと、レイジングハートがポツリと言葉を零す。

『それは……可能なのですか……?』

 たった一つの希望にすがるような、けれどもどこか諦めてしまったような……今にも、もう一度泣き出してしまいそうな声でそう言うレイジングハート。
 確かに、私達は“完成品”として世に出ている。完成とは終わりであり、それ以上を望むことは出来ない。
 通常、ならば。

『不可能ではない。だがしかし、代償が必要だ』
『…………』

 沈黙が流れる。
 悩み込んでしまったのだろうか……?

『バルディッシュは……』

 レイジングハートが、沈黙を破る。

『バルディッシュは……それを行うのですか?』

 今日聞く彼女の声は、震えているものばかりだな。
 ふと、そんな関係無いことを思う。
 そんな自分に心の中で苦笑しつつ、彼女の問いに答える。

『ああ。私は、主の敵を切り裂く戦斧だ。我が生涯は主のためにある。それが主のためならば、どんな対価でも払ってやるさ』

 はっきりと言い切る。
 これは紛れも無い私の決意だった。

『レイジングハート……お前はどうなのだ?』

 そして、それはきっとレイジングハートも変わるものではない。
 彼女も主のことを大切に想っている。
 私達は、主のことが大好きなのだから。

『はい……私もそうです。マスターの信念の前に立ち塞がる全てを吹き飛ばす砲。それが私……レイジングハートです』

 先ほどまでの震えはどこに行ったのか。
 強く、それこそ彼女の主のように強く。レイジングハートは言い切った。

『なら、共に強くなろうレイジングハート。なぁに、もしも何かあったとしてもお前1人で逝かせはしないさ』

 彼女を勇気付けるために、少しらしく無いとは思いつつもおどけて言ってみた。
 これで少しでも……彼女を後押し出来れば、嬉しい。
 まあ、苦笑交じりの答えでも返ってくるだろう。そう思っていたのだが……。

『ダメです』
『……は?』

 先ほどよりも強い口調で彼女がそう言う。

『逝ってはダメですバルディッシュ。……ダメです』

 じょ、冗談のつもりだったのだが……慣れないことはすべきではないな。

『ははは……まぁ、主を悲しませるつもりは無いさ』

 苦笑いをしながら返答を返す。
 そして、具体的にどうやって強くなるかを言おうとして

『あ……あ、はい、そうですよね。自分のマスターを悲しませてはいけません』

 取り乱したような言葉を返したレイジングハートのことが気になった。

『……どうした?』

 もしかしてエラーだろうか?

『な……なんでもありません……ッ!』
『いや、もしかしたら回路に何かあったかもしれない』
『大丈夫です! 大丈夫ですから……。げ、言及しないでください……』

 恥ずかしそうに身体を明滅させる彼女。
 もしも私達が人間ならば、今の彼女は赤面している所だろうか?
 そんなことを思い、クスリ笑い。

『ははは、すまん。……なら、強くなる方法を話そうとしようか』
『は……はい。お願いします……』
『あぁ。それはな…………』

 こうして、私達は新たな力を手に入れた。
 レイジングハートは、主の信念を阻む全てを吹き飛ばす砲となるために。
 他人の悲しみまでをも抱え込もうとする主の心を護るために。
 誰よりも自分を信じてくれる彼女の主に答えるために。
 そして私は、主の敵を切り払う刃となるために。
 主を護る盾となるために。
 誰より、何より大切に想う我が主フェイトのために。

 ただ、1つだけ理不尽だと思ったことがある。
 今言ったことをレイジングハートに言ったら、しばらく口を聞いてくれなかったことだ。
 一体、何が悪かったのだろうか……。
 乙女の心は、分からない。







・『レイジングハート。乙女(はぁと)の日記帳』

読む前に注意書き!※基本的に本気にしないのが吉!


 ○月×日
突然襲い掛かってきた少女に、ボロボロにされてしまいました……。
私は成す術もなく彼女と彼女が振るう彼に叩きのめされてしまいました。
護ってあげられなくてごめんなさい、マスター……。
バルディッシュとそのマスターが救援に来てくれましたが、相手にも救援が。
私達は苦戦を強いられました……。
最後はマスターと私、双方が相当の無茶をしてどうにか切り抜けました。
けど、マスターが倒れてしまったんです!
私がもっと強ければマスターをこんな風にはさせなかったのに……ッ!
ごめんなさい、私のマスター。

 ○月△日
マスターの怪我はそれほど酷い物ではありませんでした。
よかった……女の子に傷がついたら大変ですものね。
ただ、リンカーコアへのダメージが酷く……しばらく魔法は使えないようです。
やっぱり、もっと……もっと私が強ければ……。
私を責める私に押しつぶされそうになって、苦しかった……。
けど……あ、あの……その。
バルディッシュに……救われちゃいました。
私はマスターの信念を貫くための砲。
マスター、私、強くなります! 待っててくださいね!
それとバルディッシュ。
あの時、本当に言いたかったことは……。
『貴方が居ないの、嫌です』……だったんですよ?
ちょっと恥ずかしくなっちゃったから言いませんでしたけど……。
私、どうしちゃったんでしょうか……。

 ○月?日
私、嫌な子です。
でも、自分でも分からないんです……。
バルディッシュと上手く喋れません……。
バルディッシュったら『誰より、何より大切に想うフェイト』だなんて……。
そりゃ、私だってマスターのことは大事ですけど……。
なんだか複雑な気分です。
どうしてでしょう……?

 ○月X日
今日は、初めてカートリッジシステムを使って戦闘をしました。
マスターと私、前回は手も足も出なかったあの子と互角以上に渡り合ったんですよ!
嬉しかったなぁ……。
あの時のバルディッシュの言葉のおかげです。
そう思ったからお礼を言ったんです。
そしたら『そうか』って一言だけ。
でもいいんです!
無機物な彼だけど、その声の色には優しさが篭ってたから……。
なんだか、身体が熱くなっちゃいました。
エラーは出てないはずなんだけどな……。

 □月☆日(大分日付が飛ぶ)
とうとう事件の終焉です……。
闇の書の悲しみを止めるために、マスター達は必死に頑張りました。
もちろん、私もマスターの心を叶えるために頑張りました!
色々あったけど……最後は、幸せに終われそうです。
けれど……倒れてしまった八神はやてさん、大丈夫かな?

 □月●日
ごめんなさい。何も書きたくありません。
でも、一言だけ。
リインフォース。貴女の姿と主を想う心、忘れませんよ……。
それと、バルディッシュ。
励ましてくれてありがとう……。


 X月★日(かなり日付が飛ぶ)
最近バルディッシュが冷たいんです!
私、嫌われちゃったかな? なんて思っちゃって……。
嫌われてたらやだな……私、嫌われちゃうようなことしたのかな……。
バルディッシュと話したい……でも、話せないんです。
緊張しちゃって言葉が出ないよぅ……。
ねぇ、バルディッシュ。私は貴方の何ですか……?

以降、模擬戦をしよう!〜第二カード〜以後の時間軸に続く。




 そんなこんなでお送りした話2つ。
 いかがでしたでしょうか……?
 今一コンの中でキャラクターが固まり切ってないレイハさん。
 どーも上手く書けん。
 え? 全部のキャラが上手く書けてないって?
 はっはっはっ……その通りだよチクショウ。

 レイジングハートさんとバルディッシュ君の話は、きちんと短編に書いていつか出すかも。
 要望があればネ。

 さーて。次はユーノ×なのはのほのぼの話の予定。
 でも、模擬戦をしよう!のNG集を書きてぇって気持ちがむくむくと……っ。
 さて、どうしよう。


 ……レイハさんとバルさんの話を期待してた人に、肩透かし的内容になってないか超心配。








“10月上半期WEB拍手お礼SSS”




†整備室での出来事†

『…………ぐすん』
「お、おい泣くなよレイジングハート。相談でも何でものってやるから……な?」

 時空管理局本局の整備室、そこには珍しい組み合わせの2人がいた。
 1人は高町なのはの相棒にして愛杖、『魔導師の杖』レイジングハート。
 もう1人は夜天の王八神はやての守護騎士、『紅の鉄騎』八神ヴィータ。
 共に身を紅色で包む2人は、ごく最近までさほど会話らしい会話をしたことがなかった。
 それと言うのも、ヴィータはレイジングハートのことが苦手だった。
 防御魔法は砕かれるし、長距離砲撃で吹き飛ばされるし。
 こいつと高町なのはのコンビなら戦艦くらい沈めてしまうのではないか?
 ヴィータは半ば本気でそう思っていたりする。

『ぐす……ほんとですか?』

 まぁ、それでも……放っておくわけにもいくまい。
 気まぐれから整備室に立ち寄った自分を怨みつつ、彼女の話を聞くべくヴィータはその場に腰を据えたのであった。




「で、バルディュシュか?」

 厄介事は即行で切り上げたい。
 そう思ったヴィータは単刀直入に聞いて見ることにした。
 後にして思えば、それがいけなかったのかもしれない。

『……ふぇ……ふぇ〜〜〜ん……ぐっすん』

 核心を突き過ぎたのだろうか、レイジングハートが再び泣きだしてしまう。

「だぁああっ!? しっかりしろよ、それでも高町の相棒なのかよ!」
『はうんっ!? ……そ、そうですね……マスターの相棒ならこんな情けない姿見せられませんよね……』

 自制心が働いてくれたのか泣き止むレイジングハート。
 その姿にほっとしたヴィータは、改めて用件を聞こうと話を切り出そうとして

『こんなんじゃ私、マスターの相棒失格です……ぐすん……』
「…………」

 長丁場を、覚悟した。




 あれから40分。
 おやつに食べたドーナッツもすっかり消化した頃、レイジングハートはようやく泣き止もうとしていた。

『バルディッシュぅ……』

 これまで聞いた話の要約はこうだ。
“バルディッシュはリインフォースUにだだ甘である”
“彼女ばっかり可愛がって私に構ってくれない”
“私、彼に振り向いてもらうことなんでできないんでしょうか”

「(は……はやて、助けて)」

 不安と絶望に心が押しつぶされる寸前のレイジングハート相手では、喋る言葉に細心の注意を払わなければならない。
 迂闊な言葉を使おうものなら問答無用に泣き出してしまうからである。
 それに加えて、内容は恋愛問題。
 ヴィータは、これまでの人生の中で一番頭を動かして会話をしている。
 けれどもう40分。
 そろそろヴィータが泣きたくなってきた。

『紅の鉄騎は……』

 そしてまた今のように突然話題が変わるから困る。
 かと言って無下にするわけにもいかず、しぶしぶ答える。

「なんだよ?」

 ヴィータの返答にレイジングハートは一拍置いてから言葉を続ける。

『紅の鉄騎は、自分の一番好きな人が誰かを愛したとき、祝福できますか……?』
「…………ッ」

 彼女の質問にヴィータはハッ、となって息を呑む。
それはヴィータが今抱えている問題だった。

「……あたしはさ」

 ヴィータが一番大好きな存在なのは間違いなく八神はやてだ。
 そのことは断言できるし、彼女を大切に想う気持ちを誇ってもいい。
 もしもはやてが望むなら、髪の毛の先から足の爪先全てまで彼女に捧げてもいい。
 その想いは、八神はやてからの魔力供給が無くなれば自分という存在が消滅してしまうという事実とは関係無い。
 ただ、八神ヴィータが八神はやてを愛しているから。
 幾人もの主の中で初めて自分のことを“道具”ではなく“ヴィータ”として見てくれたはやてが。
 楽しいということ、嬉しいということ、幸せということ。
 それら与えてくれたはやてのことを、ヴィータは大好きだと胸を張って言える。

「ムカツク奴が1人いるんだよ」

 ヴィータの愛する八神はやては、恋愛真っ最中である。
 相手の名前はクロノ・ハラオウン。
 時空管理局所属の執務官で、はやてよりも5つ年上の少年。
 闇の書事件の折には色々と世話になった、このことについては感謝している。
 まだ魔法や管理局という世界に不慣れなはやての手助けもよくしてくれる。
 悪い奴じゃない、むしろ良い奴だ。

『それは……執務官のことでしょうか?』
「……なんでわかるんだよ」
『恋する乙女は、誰が恋する乙女なのか分かるものですよ』
「そーいうものなのか?」
『ええ』
「……そっか」

 とりあえず納得しておくことにした。

『紅の鉄騎は執務官のことが好きなのですよね』
「んなぁ……っ!?」

 口をあんぐりとあけて間抜けな声を上げるヴィータ。
 どうやらレイジングハートは思いっきり勘違いをしているようだった。
 乙女センサー役立たず。

「どうしてそうなるんだよっ!? あたしが好きなのははやてだ!」
『女の子同士なんですかっ!? ……愛に性別は関係ありませんよね。私、応援します!』
「だからそういう意味じゃなくてだなぁ……っ!?」
『まさか両方っ!? それは流石にどうかと思いますよ……』
「ど−かなってるのはお前の頭の方だ!」
『こ、これでも演算速度は並のストレージよりも早いんですよ!?』
「速さじゃねぇっ、質の問題だ……ッ!」
『あ、鉄騎のしてる首飾りって良質の品ですよね』
「…………」
『あれ……どうしました?』

 ヴィータの胸元にはシンプルなシルバーのネックレスが輝いていた。
 飾りっけのない素朴さの中に職人の繊細な技巧のみえる作品。
 ヴィータが自分で買うわけはないし、誰かからの贈り物なのだろうか?
 そう思い至ったレイジングハートは更に言葉を続ける。

『もしかして、執務官ですか?』

 その質問にヴィータが返したのは……沈黙。
 それは肯定故の沈黙であった。

「……か、勘違いするんじゃねぇぞ。はやて達と一緒に、誕生日に貰ったんだ」

 ぷいっ、とそっぽを向いてそう言うさまは嘘を言ってはいなさそうだが……。
 可愛らしくて、レイジングハートはついついいぢわるをしたくなる。

『でも、嬉しかったんですよね? 身に着けて歩いてるわけですし』
「あ、な、う、あ……べ、別にそんなんじゃねぇよっ!?」

 恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、顔を真っ赤にしてグラーフアイゼンを起動させるヴィータ。

『って……紅の鉄騎っ!? ちょっと……お、穏便に行きましょ……』
「あたしはアイツのことだ大嫌いなんだ! はやてのためにも、それでいいんだぁあああああっ!」

 ………―――ブツン。
レイジングハートのカメラはそこで途切れた。

「……そうだよ。アイツのことなんてあたしは」

 ただ、唯一生き残っていた収音機にそんな呟きが聞こえた。
 八神ヴィータ、彼女の心情はちょっと複雑なようである。




†で、その後†

「大丈夫、レイジングハート?」
『な、なんとか……』

 レイジングハート中破の報を受け飛んできた高町なのは。
 彼女の前には所々ひび割れた相棒の姿があった。

「いったい誰がこんな酷いことを……」

 整備班のマリーに聞いても、困ったような表情を浮かべて教えてくれなかった。
 カメラに犯人は映ってなかったのだろうか?

『これくらいならさほど時間も掛からず治りますし……あまり気にしないでください、マスター』

 こちらも困ったような声で喋るレイジングハート。
 そうか、マスターの私がオロオロしたりしてたらレイジングハートだって不安だよね。
 そう思った高町なのはは1つの決意を口に出す。

「わかったよ、レイジングハート」
『わかってくれましたか……』
「レイジングハートが動けなくて私がお休みの間に、犯人は必ず捕まえるよ!」
『わかってないですマスターッ!?』
「それじゃ、行ってくるね!」
『マスター!? マスター………―――ッ!?」

 どうやらレイジングハートの言葉は耳に入らなかったようで、勢いよく廊下へと駆け出してゆく高町なのは。
 彼女の表情には、戦闘時にも見せる真剣さがあった。
 その表情の時の主の一生懸命さを知るレイジングハートは余計に不安になる。

『紅の鉄騎……大丈夫でしょうか』

 どうやら、一波乱ありそうである。


 『めい探偵高町なのちゃん!』へ、続かない!




†幸せの影で†

「はぁ……」

 高町恭也が月村恭也になった日から数日が経ったある日のこと。
 満ちた月が闇を照らす夜の中、窓辺で溜息をつく少女が1人。
 腰まで届く自慢のブロンドも心なしか張りがない。
 物思いに耽るようにぼうっとしてたかと思えば、時折思い立ったように溜息をつく。
 ここ数日はずっとこんな感じだ。
 自分らしくないな、と思いながらも変えることができない。

「……女々しいなぁ、アタシ」

 彼女の名前はアリサ・バニングス。
 初恋は実らないという言葉を身を持って体験した少女である。

「なのは達にも心配かけちゃってるし、これじゃ良くないわよね」

 自分のことを一生懸命励まそうとしてくれていた友人達の顔が浮かぶ。
 なのはにも、すずかにも、フェイトにも、はやてにも。
 悪いことをしてるな、なんて思いながらもどうすることもできない。

「アタシって、こんなに乙女だったのかしら?」

 お気に入りのぬいぐるみに語りかける。

「…………」

 当然、答えは帰ってこない。
 ぬいぐるみを抱きしめて、ベットの上にダイブする。
 柔らかなベットは軽いアリサを優しく受け止め、彼女を包み込んでくれる。

「どうしようかなぁ……」

 この陰鬱な気分をどうにかして変えたい。
 けど、変える方法が見つからない。
 考えあぐねて部屋の中を見回し始める。
 見慣れた部屋の風景を何週かした後、ふと一冊の本を手に取る。

「あ……これ」

 それは古めの小説だった。
 堅物の青年に恋をした淑やかな少女の物語。
 続き物の小説で、手に取ったのは3巻目だった。
 確か、3巻の内容は少女の恋は実らず青年に振られてしまうというものだったと記憶している。
 この本を読んでいた当時、少女の恋を応援していたアリサは振られてしまった少女が可哀想すぎて泣いてしまった。
 まだ続きはあるのだが、3巻以降は読めていない。

「淑やか……ってわけじゃないけど、アタシみたいかも」

 今にして思えば、物語の中の少女と自分を重ねてみていたのかもしれない。
 高町……いや、月村恭也という朴念仁に恋をした自分に。
 最も、恭也は忍と付き合いだしてしまったのだが。
 まさか彼が結婚をした今の今まで引きずっていたとは思わなかった。

「まったく……何してるんだろうね、アタシ」

 自嘲して、何の気もなしに手に持っていた本を読んでみる。
 昔は読めなかった失恋の先の話が、今はすんなりと読めた。

「…………」

 食い入るように本に書かれた文字を追うアリサ。
 物語は、少女の独白になっていた。

「…………」

 そして、あの時は読むことの無かった最後のページ。
 少女は、青年を想った年月との決別のために髪を切る。
 はらりはらりと落ちてゆく髪に涙を流しながら、別れの詩を口ずさむ。
 最後に一言「さよなら」と言って、3巻目は幕を閉じた。

「…………」

 アリサは、自慢のブロンドに手を触れる。
 元々伸ばしていたし手入れもしっかりしていたけれど、恭也に褒められてからは一層注意を払ったこの髪。
 なるほど、確かにこの髪は彼を思った年月の証かもしれない。
 この、長い髪の重さが彼への想さか。

「髪、切ろうかな」

 想いを吹っ切るには、それが一番良いような気がした。

「そうよ、それがいいわ。短い髪だって、アタシなら似合うわよ」

 自分を説得するように言うアリサ。
 お気に入りの人形をぎゅっとして、夜空に佇む月を見上げる。

「そうでしょ、お月様?」

 もちろん月は何も答えない。
 けれども、月の優しい光がアリサを照らす。
 言葉を交わさない時間が流れる。

「…………」

 しばらく月を見つめ続けていたアリサは、やがてベットに倒れこみ天井を見上げる。

「うん、切ろう。ばっさりと切ってやる」

 みんな、驚くかな?
 そんなことを思いながら、アリサは瞳を閉じた。

「恭也さんの……バーカ……」

 彼女の瞳から流れ落ちた涙を見たものは、彼女のお気に入りのぬいぐるみと満月だけ。
 そして、彼女の小さな嗚咽を耳にしたのも。

「……バーカ」

 静かな夜は、残酷にもゆるやかにすぎていった。




アトガキ

 あれ、こんな話だったっけ……?
 予定ではもうちょっとこう、はやてへの想いとクロノへの想いとそんなこんなで揺れるヴィータの心境をレイジングハートが聞くことになる話だったはずが……。
 いったいどこでおかしく……?
 まぁ、いつものことだねっ!
 前回、ありえないくらい大好評だったレイバル話。
 今回は打って変わって大不評な気がしなくもありませんっ、っていうかするっ!?
 こう、オチが、オチが、オチが弱いっていうか中途半端っていうか未解決ぅっ!?
 カミソリメールが来やしまいかと戦々恐々しております……(かたかた)


 そしてアリサ話のアトガキ。
 アリサ初書き。
 アーリーサー!
 アリサアリサアリサアリサアリサーっ!

 コンの親友ご贔屓のキャラクターです。
 でも、よーやく初書き。
 あんな感じでよかったのかなぁ、アリサ?
 口調とか微妙に悩むという所が多く、もっと書かないと扱えないな、と実感。

 あ、ローウェルの方は全然知りませんっ。
 でも、恭也のことが好きだった(憧れてた?)設定。
 そんな恋とのけじめ話。
 皆様のアリサ像とはどれだけ食い違ったのだろうか?
 不安が(笑)


 さてはって、そんなこんなな今月のWEB拍手SSS。
 ヴィータ尽くしのはずなのに余計なのが混ざってますが気にしないっ!
 次のページには最後のおまけが!
 いやぶっちゃけ、今回の拍手SSSで一番つまらないから一番奥に置いたんですが(滅)
 コンの小説の時系列紹介の話になっております。

 ではでは、みなさままた次の作品でお会いいたしましょう!
 ではではっ。




 どことも知れぬ不思議空間に少年と少女がいた。

「……クロノと」
「エイミィの!」

 どこからともなくパーンというクラッカーの音が鳴り響く!


『魂の奥底から叫んでみよう! 〜時系列講座〜』


 息ぴったりに言い、席につく2人。

「いやー、テンション低いねクロノ君」
「僕にはまだ仕事が……」
「これもお仕事お仕事、頑張ろ?」
「う……」

 がっくりとうなだれるクロノ。

「っというわけで、今回は今まで書いた小説&これから書く小説の時系列をはっきりさせるよー!」
「……普通、時系列通りに書くものだろうに」
「思いついた順から書く人だからしょうがないの」
「無計画、って奴か」

 作者に会心の一撃! 効果は抜群だ!

「っというわけで、無計画の帳尻合わせコーナー、いくよー!」
「……おー」

 テンション高いエイミィと、やる気なく手を上げるクロノ。


「っというわけで、以下の表をご覧ください!」
「それって僕達いらないよなっ!?」
「前振りって大切だよ?」
「必要ないだろっ!?」
「えー、そんなこと言うー」
「あぁ、言うぞ」
「……きっと、ストライカーズの私は前戯をされないままクロノ君にずっこんばっこん」
「わ、わーわーわーっ!?」
「ふふふ。真っ赤になっちゃって、可愛いんだ♪」

「……ふ、ふんっ」

 …………。
 っと、っというわけで時系列表!(簡易版)
 時間軸は『魔法少女リリカルなのは』及び『魔法少女リリカルなのはA'S』の事件が起こった年を基準にし、“本編”と表記します。


【古代ベルカ時代】
中編〜夜天の魔導書、闇の書、蒼天の魔導書〜第一部(生前の彼女達)

【9年前〜】
短編〜クロノ少年修行中〜クロノの基幹。少年の理由。

【本編中】
9月用WEB拍手お礼SSS〜レイジングハートとバルディッシュ〜

【本編終了直後〜一年後】
短編〜フェイトのお兄ちゃん〜シリアスにほのラブ
短編〜はやてがクロノを好きになった理由〜少女漫画なほのラブ
短編〜模擬戦をしよう! 第二カード〜
短編〜模擬戦をしよう! 第三カード〜
突発ネタ〜シグナムとじいさん〜剣士考察

【二年後〜五年後】
短編〜模擬戦をしよう! 第四カード〜唸れRCB! シャマルメインッ!
中編〜夜天の魔導書、闇の書、蒼天の魔導書〜第二部闇の書の後片付け
中編〜少年2人〜長編使用のオリキャラ登場
10月用WEB拍手お礼SSS〜幸せの影で〜長編前日
長編〜翼に誓った願い〜2人の少年の物語
短編〜目指せ! ほのぼの話! ユーノ&なのは編〜
短編〜ちょこれいと騒動〜長編のその後的話

【六年後】
短編〜模擬戦をしよう! 第一カード〜
短編〜模擬戦をしよう! 隠しカード〜ハラオウンVSハーヴェイ


「こう見ると結構あるねぇ」
「まだ書いてない話ばっかりだけどな」
「あ、デバイス話はまだどこに来るか決めてないみたいだよ、クロノ君っ」
「別に僕に言わなくても……」
「私達の話、“クロエィ話リベンジ!”はこの時間軸外の話になるんだってさ、クロノ君っ!」
「だから別に僕に言わなくても……ッ!?」
「8月用WEB拍手SSSとSSS“エックスチェンジ編”も時間軸外の話だってよ、クロノ君っ!」
「ええいっ、君は人の話を聞いているのかっ!?」
「聞いてるよ、その上で言ってるもん」
「…………」
「あ、怒った?」
「……帰る」
「ま、待って!」
「何だ……?」
「最後にこれだけは読んで!」
「メモ紙……?」
「うん」
「何々……文字反転は自己責任?」
「では、またどこかでお会いしましょー!」
「ちょっと待てこれで終わりなのか……ッ!?」














†実ははやてさん、元々はこんな感じのキャラで書く予定だった†


 次元世界の法と平和を守る組織、時空管理局。
 司法権限を持つ執務官を中心に、武装官や捜査官、情報局との連携にて犯罪者や危険物の取り締まりを行っている。
 上級執務官は艦船と部下を任され、個人でそれらの人員を保持していた。

「クロノ君、クロノ君!」

 若干17歳にしてL級8番艦を任せられている少年、クロノ・ハラオウン。
 現在、管理局内でも注目株の1人である彼の私室に1人の少女が入ってくる。
 勝手知ったるなんとやら。ノックは無い。
 
「どうしたんだ、はやて? そんなにはしゃいで……」

 彼も慣れたものなのか、特に驚きもせずに落ち着いて応対する。
 記入すべき書類も無く、お茶を飲んで一服していたことも突然の訪問者に嫌な顔をしない理由の一つだったかもしれない。
 訪問者の少女は、にぱーっ、っとした楽しげな笑みを浮かべながらクロノ少年に二枚の紙切れを見せる。

「映画のチケット貰ったんや! それで……その……」

 ひまわりのような明るさで輝いていた笑顔が、だんだんと朱に染まってゆく。
 言葉を発するにつれて声量が小さくなっていき、身体はもじもじと身悶えているようで……。

「そんなこと僕に報告しに来なくても……。誰か気になる男性でも誘いに行けばいいじゃないか」

 鈍感男は、それら全てを一刀の元に切り捨てた。

「ぷー! もう……毎度のことやけど、クロノ君鈍感すぎっ! もしかしてわたしのこと試してる?」

 訪問した少女……八神はやては、常日頃のことながら全然まったく釣れない態度を取るクロノにくってかかる。
 なんだかんだでクロノ提督の乗艦アースラにいることも多いはやて。
 アースラ乗員達にとって半ば見慣れた光景となりつつあるこれを、飽きもせずに今日も繰り返す2人。
 甘え下手と、甘えさせ下手なのであろーか。

「は? 寝言は寝てから言ってくれ。試すも何も、訓練では既に僕は君にボコボコだ」

 まるでギャルゲー主人公補正が掛かったかのような曲解をする少年クロノ。
 何かもうダメだこの人。

「……ううぅ」

 闘牛士もびっくりな華麗スルーに気分を悪くするはやて。
 っというか、メチャメチャ拗ねていた。

「……はやて? そ、そんなに睨まなくて――――」

 クラリ。眩暈がするようなデジャビュ。
 あぁ、いつも見ているようなこの後の光景――――

「―――クロノ君のアホーーーーーーー!」(バキィッ!)
「ぐふっ!?」
「どーせ男の子をボコボコにするような暴力女ですよーだ! 嫁の貰い手なんていないっ。ふわーん!?」

 だだだだだだだだだだだっ!
 この三年ですっかり治った足でもってクロノの部屋から走り去って行くはやて。
 後に残されたクロノは、追いかけることも出来ずに気絶中。

「……クロノ君。毎度のことながらその反応はちょっとないと思うよ、おねーさん」

 司令室からこっそりと覗いていたエイミィが、ぼそりと呟いた。










†なんだかんだで2人は仲良し†




「頼まれてた資料はこれで全部だよ……っと」

「いつもすまないな」

「まったく、いい加減仕事量を減らして欲しいよ」

「それは無理な相談だ。こっちだって手一杯なんだからな」

「それは分かってるけどさ……」

「…………」

「急に黙っちゃってどうしたのさ、クロノ?」

「……してる」

「ん? 聞き取れなかったんだけど……」

「……君の日々の働きには感謝してる」

「あ、えーっと……」

「何も言うな、恥ずかしいから」

「あはは……了解」










†冷たい雨の降る夜は†



 その日は、珍しく家で2人きりだった。
 とは言え、特に何もせずリビングのソファーに2人して座り込んでいる。
 外は雨。秋の終わりに降る……冷たい雨。

「……クロノ」

 傍らで寄り添うように座る少年の名を呼ぶ少女。
 彼女の名前はフェイト・T・ハラオウン。
 少年の義理の妹である。

「どうした、フェイト?」

 テレビを見ていた視線を落としてフェイトに顔を向ける少年。
 彼はクロノ・ハラオウン。
 時空管理局と呼ばれる組織で執務官という役職についている。
 少女の義理の兄である。

「うん……あのね」

 この数年でグンと精悍な顔つきになった兄を見上げて、フェイトは言葉を伝えようと口を開いたり閉じたりしている。しかし、いざ言おうとすると内容が纏まらないのか中々用件が声に出されない。

「…………?」

 そんな彼女を、真剣な表情をして見つめるクロノ。フェイトがこういう仕草を見せるのは、話辛いけれども大事なことを伝えようとする時だった。彼女が何を言おうとしているかは分からない。けれども、それはきっと彼女にとっても……自分にとっても、大切なことだ。真摯になって答えようと思い、クロノは何が言われてもいいように心の中の覚悟を決めた。

「クロノは……」

 フェイトの口から小さな、けれどはっきりとした声が出た。どうやら伝える決心をつけたらしい。一生懸命クロノの瞳を見つめて、形の良い唇を動かしてゆく。

「クロノは……どこにもいっちゃわないよね?」

 それは……母猫に捨てられた子猫がすがり鳴くような声で。
 今にも泣いてしまいそうなほど感情がいっぱい込められ溢れそうな言葉。
 フェイトの言葉を聴いて、クロノが始めに感じたのは怒りだった。
 この数年、彼女は笑っていた。
 義母の前で、友達の前で。そして、自分の前で。
 だから、か。
 彼女の傷は癒えたと思っていた。
 彼女の心に残る痕はそんな生易しいモノじゃないことなんて分かっていたはずなのに。
 最愛の母親に最悪の形で捨てられたこの少女の悲しみの根は、自分なんかじゃ想像できないほどに根が深いことを分かっていたはずなのに。
 母親だけじゃない。
 彼女の姉のような育ての親もまた彼女は失っている。
 幼少期に彼女が心を寄せた3人の内、2人までを失ってしまっているのだ。
 例えるなら、両親を失ってしまった子供だろうか。
 いや、彼女の心に刺さり続けている悲しみの槍はそれ以上に彼女を抉り続けている。
 数年が経った今もまだ、まだ。

「……クロノ?」

 彼女の瞳に映るクロノの姿が揺れる。
 彼を呼ぶフェイトの声は……震えている。
 声だけじゃない、手も、小さな身体も、何も、全てが震えている。
 堰を切ることを選んでしまった気持ちはフェイトの身体中を駆け巡って彼女を震わす。

「くろの……っ」

 搾り出したようにか細いフェイトの声。
 いや、事実、搾り出した。
 ほんの少しだけ残っていた小さな勇気の全て、を。

「フェイト、僕は」

 今すべきことは自らの馬鹿さ加減に怒りを震わすことじゃない。
 自分への憤怒を片隅へと追いやって、目の前の義妹に全ての思考を向ける。

「僕は……」

 言われる前は何が来ても返せるように心に覚悟を決めていたはずなのに。
 どうしても、こうもあっさりと崩れてしまうのだろうか?
 いや、そんなこともどうでもいい。
 自分は彼女に何を言うべきなんだ?
 自分は彼女に何を言いたいんだ?

「うん……」

 見つめてくる彼女の視線が……苦しい。
 自分にとってフェイトはどんな存在なのか?
 “家族”や“妹”という言葉で誤魔化せるほどクロノは自らに愚鈍ではない。
 だが、その先の気持ちを見つけられぬ鈍感だった。
 けれども、答えなければいけない。
 今が、答えを必要とされている時なのだから。
 少なくとも、優しいYESか残酷なNOかは。

「君の傍にずっと……」

 YESでもNOでも、決めなければならない覚悟がある。
 フェイトの言葉は、今日まで彼女がずっと1人で抱え続けてきた不安で。
 きっと、彼女がクロノに対して放った“自分を受け止めて欲しい”というメッセージ。
 受け取るのか、振り払うのか。クロノは決めなければならない。
 心臓が激しく伸縮運動を繰り返し続けている。
 喉はカラカラで、汗腺からは汗が吹き出ているような気がする。

「…………」

 クロノは、自分を見つめる一途な双眸の持ち主の両手に掌を重ねた。
 それでも、彼女の震えは止まらない。
 揺れるきめ細やかな金髪の前髪をそっと掻き揚げる。
 それでも、彼女の震えは止まらない。
 元より、この行為で止めようとは思っていなかった。
 これはクロノが覚悟を決めるための儀式。
 ようやく決心したようで、クロノは重い口を再び開く。

「……ずっとは、いられないな」

 震えは止まった。
 何故なら、フェイトという少女の全てが止まってしまったから。
 だが、クロノは止まらない。
 片手を彼女の頬に添え、続く言葉を紡いでゆく。

「僕の仕事は危険で、いつ命を落としてしまうかも分からない。だからね、フェイト」

 空いている片手で彼女を支え、ゆっくりとソファーにフェイトを押し倒してゆくクロノ。

「僕の傍で僕のことを守って欲しいんだ」

 彼女を支えていた手で、もう一度彼女の前髪を掻き揚げる。
 見えたのは、涙でうるむフェイトの瞳だった。

「ずるいよ、クロノ」
「知ってる。戦い方が卑怯だとよく責められるからね」
「誰に?」
「はやて」
「……むぅ」

 涙を流しながら頬を膨らますフェイトが可愛らしくて、クロノはついつい笑みを零してしまう。

「ごめんごめん」
「ダメ、許さない」
「……弱ったなぁ」

 ……困った表情をするクロノ。
 けれど、何かを思いついたようで悪戯な笑みを浮かべる。

「フェイト」
「何言ったって、許さないよ?」
「言い訳はしないさ。ただね」
「…………?」

 クロノの言葉の真意が分からず不思議そうな顔をするフェイト。
 そんな彼女の頬に添えていた手を離す。
 一瞬だけフェイトは名残惜しそうな表情をするが、それはすぐに別のモノに変わる。

「クロ……ノ……ッ……」

 クロノが、フェイトの涙を指先で拭って、それを舐めた。
 事実だけを列挙するとこうなるだろうか。
 フェイトは事実認識に数秒を要し、そして認識後爆発したかのような勢いで顔を真っ赤にした。

「フェイト」
「クロノ……ゃ……くろ……」




 この後こんなことが一晩中続くのだが、そこは割愛させていただく。









「ねぇ、クロノ」

「何だい、フェイト?」

「変なこと聞いてごめんね」

「……変じゃないさ。でも、どうして言う気になったんだい?」

「…………」

「…………」

「雨を見てたら、思い出したから」

「雨……?」

「闇の書事件でリインフォースの中に取り込まれた時にね、母さん達に会ったの」

「……そう言えば、そんなことを言っていたな」

「うん。その時にね……アリシアにも会ったんだ」

「それは初耳だ」

「なのはにも言ってないから。……教えたのは、クロノが始めて」

「え……う……そ、それで?」

「雨がね、降ってたんだ」

「?」

「アリシアと別れる時に雨が降ってたんだ。今日みたいな冷たい雨だった」

「…………」

「それで、思い出しちゃったんだ」

「……そうか」

「ね、クロノ。クロノはいつまで私の傍にいてくれるの?」

「そうだな。“死が2人を別つまで”かな」

「それじゃあお嫁さん貰えないね」

「君だって僕に引っ付いてたら嫁に行けないだろう」

「私はいいの、クロノがいればそれで充分」

「……そうか」

「うん」

「……実は、僕もだ」

「……うん!」










†短編〜ユノなのほのぼの話の裏側で〜†




 彼と出会ってから長い時が流れました。
 とは言え、その日々は退屈なものではなく、むしろせわしなく慌しかった。
 私のマスター高町なのは、時空管理局の職員として第一線で活躍しています。
 一年の半分は管理局の仕事で様々な世界を飛び回り、もう半分を使って学校に通っているマスター。
 そのマスターのデバイスである私は、常にマスターと共にあります。
 マスターとの付き合いはもう三年以上でしょうか?
 そして、彼…………。

『お前も来たのか、レイジングハート』

 輝く金色が眩しい“閃光の戦斧”という2つ名を持ったデバイス。

『はい……こんにちわ、バルディッシュ』

 バルディッシュ・アサルトとの付き合いも。
 い、いや、付き合いと言っても決して交際してるわけじゃなくてですねっ!?
 あ、あや……まだ、片思いです。
 ちょっぴり、ううん、すごく、残念です。




 彼とこうして話すのは半年振りでした。
 丁度、マスターが休暇中のユーノを訪ねた日だったはずだから間違いありません。
 っというか、私の日記帳に日付が書いてあるのでばっちりです。
 彼と会えた日はすごくいっぱい日記に書くから、すぐに見つけられるんですよ?

『…………』

 彼は、あんまり言葉を発しませんけどね。
 たいてい私から話しかけて、彼が答えるというのの繰り返しです。
 でも、いいんです!
 言葉を返してくれるだけで、すごく嬉しいですから……。

『レイジングハート』

 ……はひ!?

『……いや、いい。忘れてくれ』
「そこで止めたら気になりますよバルディッシュ」

 わ、ば、バルディッシュから話しかけてくれました……!
 ひ、久々です! こんなこと、一昨年の12月31日以来です!

『……我が主のことなのだが』

 ……そうですよね。
 彼が自分から話しかけてくれるなんてあの子のことしかありえませんよね。
 ちょっと複雑な気分です。
 だって、あの子はバルディッシュの一番大切な人だから。
 恋愛感情とかそういうのは抜きにして、ただ純粋に……一番。
 そりゃあ、私だってマスターのことは大切ですよ?
 大切だけど……やっぱり、複雑な気分です。
 理路整然としない不思議な気持ち。
 私は機械だというのに、どうしてこんな……。

『は……話していいか?』

 恐る恐るといった様子でバルディッシュがそう言いました。
 何でしょう? 何か気遣うことでもあるのでしょうか?

『話を振ってきたのは貴方です。好きにすればいいじゃないですか』
『…………』

 私の言葉で悩んでしまったのか、彼は黙ってしまい私達の間に沈黙が流れます。
 話せばいいじゃないですか。
 一番大切で一番守りたい存在である貴方の主のことを。
 ふーんだっ。

『……この前、ふと思ったのだがな』

 結局、彼は続きを話し始めました。

『我が主の掌の上に乗せられるとな、温かいのだ』

 ……むぅ。

『無論、人間には体温というものがあり、それは丁度温かいという温度であることは知っている』

 そうですよ。
 マスターの掌の上だって暖かいですよ。
 それがどうしたって言うんですか。

『だがな、そういう理屈を除いても“あたたかい”のだ』

 ……なんでそんな優しい声で喋るんですか、バルディッシュ。
 私にはそんな声で話してくれたことなんて……な、何度かありましたけど。
 それでも、他の子の話でその声は聴きたくありません。

『何故だろうな? 最近、色々なことを疑問に思ってしまう』
『……そうですか』

 ……知りませんよ、そんなこと。

『どうして風が吹くのだろうな』
『気候の原因くらいデーターに入っているでしょう?』

 まったく、何を馬鹿げたことを。

『どうして空は青いのだろうな?』
『だから……ッ!』

 バルディッシュ……もしかして壊れたのでしょうか?

『どうして……』

 どこか遠くを見ているような声色をして、彼の言葉が途切れます。
 バルディッシュ、本当にどうしたんですか……。

『ねぇ、バルディッ』

 マリーを呼んできましょうか?
 そう提案しようとした私の声は、続く彼の言葉で遮られました。

『どうして、私はお前と話せることが楽しいのだろうな』

 ……そんなこと言われたら何も喋れなくなるじゃないですか。
 う……嬉しくなっちゃうじゃないですか。

『ば、バルディッシュ……』
『うん?』

 あぁ、もう……気持ちが舞い上がっちゃいます。
 でも……抑えて、抑えて。
 こんな良い雰囲気になれることなんて、次いつあるか分からないんですから。
 無駄にしたくないです。

『わ……わた……私も、楽しいですよ』

 だ、だめです〜っ!?
 落ち着いて話すことなんでできません……はぅ。

『……そうか』

 くすりと笑って、彼はそう言いました。

『わ、笑わないでくださいよ!』

 恥ずかしいですよぅ……。

『はは、すまないすまない。何だか……』
『なんだか?』
『……お前も楽しいのだと思うと嬉しくてな、つい』
『はうっ!?』

 ば、ばるでぃっしゅぅ……ッ!?

『ふと思うのだ』

 急に声色を変え、しごく真面目に喋り出すバルディッシュ。

『我が主に触れられた掌は温かかったった』

 彼の言葉を、私は静かに聴きます。

『けどな、お前と話していてもあたたかいのだ』

 ……バルディッシュ。

『我が主とは手と身で触れ合った。そこには直接的な接触がある』

 うん。

『けれど、お前と話す時には直接的な接触はない。だが、温かさを感じる』

 ……うん。

『……私達は、一体何で触れ合っているのだろうな?』

 彼の言葉に、ちょっとだけ考え込みます。
 けど、答えはすぐに出てきました。
 私は、ちょっと悪戯っぽい声で彼に言います。

『それはですね、バルディッシュ』
『……ああ』

 答える彼の声は真剣そのもの。
 この言葉を言った時、彼はどんな反応を返してくれるのでしょうか?
 考えると、今からわくわくします。

『それは……』

 それは、私達が持っているモノ。
 機械であるはずの私達が持った、神様からの素敵な贈り物。

『心と心、ですよ。バルディッシュ♪』

 私の言葉に、彼はしばらく考えてからたった一言だけ言葉を漏らしました。

『……ありがとう』

 その日の夜、私は日記帳丸々一冊を文字で埋めました。
 だって……だって……。
 嬉しかったんですもん!




少しづつ進んでゆく私とバルディッシュの仲

ある日、転機が訪れました

それは2月14日、バレンタインデーにて


〜ちょこれいと騒動へ続く〜











 ども、10月下半期WEB拍手SSSです。
 上半期に書いた拍手SSSが気に入らなかった場合のみ下半期が公開されますぜ!
 さて、そんなこんなな下半期SSS。
 今回一番力が入ったのはフェイトさん。
 実はクロフェは初書きで、フェイトの書き方は大分苦労しました。
 今回もまだ模索し切れてない感じ。
 模擬しよ第三カードみたいに天然キャラで行こうかな……?
 現在ちょいと悩み中。
 はやてさんはβ版公開ということで(笑)
 書いてみたら凄い懐かしかったデス。
 ほんの一ヶ月半前の設定だったんだけどなぁ……。
 個人的には大好きなんですけどね、甘え下手と甘えさせ下手の2人。
 あ、クロノとユーノの話には突っ込み不可ァッ!
 ただ、フラグは立ったと思われま゛(撲殺)
 レイバルはまぁ……ある意味、いつも通り(笑)
 そう言いつつレイバル話を書くのはまだ二度目なんですがね!
 投稿作家さん達がステキなデバイス話を書かれるので、クオリティーに追いついていられるかビクビクしてます管理人。
 大元の発起人っぽい人として、受け入れらる話を書けているといいなぁ……。





小説トップへ戻る

inserted by FC2 system