桜の舞い散る桜台に、抱き合う男女が……少年と少女が居た。

「………」

少女…はやては、顔を真っ赤にしていた。

(……ど…どないしよ……)

今更ながらに、この状態が恥ずかしくなってきた。
しかも先程自分が彼に言った言葉は、明らかに…

(……告白やんな……嫌や無いけど……)

そう、告白と捉えても何ら不思議は無い。
寧ろそう捉えてほしい。

(……勢いで言ってもたけど……いや、勢いやから言えたんやな……)

間違いではない、自分はこの少年の事が…

(……好きやな……)

不思議と、自分はこの少年に惹かれていた。

「……はやて……」
「!?」

いきなり、彼に名前を呼ばれた。

「……どうした?」
「…べ…別に…」

そうして二人は、抱き合ったまま、ゆっくりと顔を見合わせる。

「…っ…!」

彼は、今まで見た事の無いような顔をしていた。

「……はやて…っ!」
「…え…か…かむ…!?」

彼の名を紡ごうとしたはやての口を、手で抑えて遮った。

「……はやて……俺は!」
「!?」

そう言い真剣な顔で、はやてを見つめて、両肩を掴んだ。

「…え…か…かむ…」
「……俺は……実は……っ!」
(…そ…そんな……いきなり……!?)


『災厄を斬り裂く者――』


後日喫茶翠屋に、其れなりに大所帯で客が来ていた。

「…それで…改めて話したい事とは…?」

そう言いクロノは、対面に座っている相手を見る。
その相手は…

「…ああ…」

彼だった、隣にはやてが座っている。
因みにこの場に居るのは、クロノとフェイト、エイミィにアルフ、ヴォルケンリッターの面々、恭也と美由紀に忍、何故かアリサとすずかも居た。
勿論牙神も居るし、桃子と士郎も遠巻きに見ていた。

「…何を改めるんだ…神威?」

クロノは訝しげな顔をした。
それを見て、神威は笑みを浮かべた。

「…一つは俺の立場…」
『!?』
「……何?」


彼が笑った事に皆が驚く。
しかしクロノは、それより話が気になるらしい。

「今の俺は、あんた達の監視下に有るらしいが……それを『協力者』に、してもらいたい…」
「…何…じゃあ!?」
「ああ、俺も協力する」

クロノの顔は僅かに綻んだ。
これで事件に光明が見えて来た。

「それじゃあ神威、早速…」
「…そして…」
『!?』

まだ言葉が続いたのに、クロノを含めて、ほぼ全員が驚いた。
否、はやては苦笑していた。

「…神威と呼ぶのは…止めて欲しいと…」
『?

それに首を傾げた。

「…俺は俺だ…『十代目 夜月神威』じゃない…」
「…つまり…」
「名前を明かしてくれるのか?」
「…ああ…」

そして店内は、水を打ったように静かになった。

「……『剣咲斬』…それが俺の名前だ…」
『………』
「…斬…」
「…ああ…」

クロノは一度顔を伏せて、神威を……斬を見た。

「じゃあ斬、君に…」
「なあ斬君?」
「ん?」
「………」

クロノの言葉を遮って、はやてが質問した。

「斬君は、自分は一度死んだって言っとったやろ?」
「な!どう言う意味だ!?」

その言葉に、クロノが詰め寄る。
それ以外の者達も、身を乗り出している。

「…言った通り、俺は一度死んだ…百年以上前にな?」
『え!?』
「士郎さん?」
「ん?」

カウンターで、聞き耳を立てていた士郎に、声を掛ける。

「御神の剣士って、それくらいに謎の剣士と戦ったでしょ?」
「あ、ああ…」
「それは俺だ!」
『え!?』

全員が声を上げた。

「ど、どう…」
「どう言う意味なん!?」
「まあ待て、順番に話すから…」




――百余年前――


――京都――


――夕刻――


「……最近は、物騒な世の中になったのう?」
「そうですな…」

二人の男が、夜の京都を歩いていた。
その羽織は、幕府の側の人間らしい。

「…どうも…」
『?』

男達が振り向くと、そこに一人の青年がいた。

「…幕府だな…?」
「……貴様…!」
「長州派の人斬りか!」
「さあ?」
「おの……!?」
「……が……!」

急に二人は、動かなくなった。
しかし青年は、二人の間を擦れ違っただけだ。
後の違いは、手を添えていた刀の柄が、上向きから下向きになっているだけだ。

「………」

――神魔双天流――

――抜刀術『飛燕』――

二人の男は、一瞬で肉塊に変わった。

「……後始末を頼む……」

そう言うと、物陰から何人か出て来た。

「は、はい!」
「おい、見えたか?」
「あんなもん見える筈無いだろ!?」
「あんな太刀でよく出来るよな…」
「人間業じゃねえな…」

そんな声を背にして、青年は立ち去る。

『十代目 夜月神威』
『神名魔断双裂天空流』
通称『神魔双天流』継承者

剣技を皆伝した後、修練をしながら各地を回っていたら、高杉晋作と出会い、その腕を見込まれて桂小五郎の下で、人斬りとなって過ごしていた。

『夜月神威』に課せられた使命

強く有る事
死を恐れぬ事
俗世を棄てる事
神魔の剣を継承者に受け継ぎ続ける事


そして、元より継承者は、長く生きる事が出来ない。
古流剣術として、常に最高の力を発揮する為に、想像を絶する過酷な訓練が行われる。
『次の継承者までに命が持てば十分』と言う歪んだ考えの下で、人道を完全に無視した訓練をする。
その結果、確かに強い継承者が出来るが、だが身体腐る程の訓練の影響で、長生き出来ず。
精々二、三十年でも長いくらいだ。
当然そんな身体で、子を成す事等不可能で、死ぬまでに新たな継承者を探す事となる。

そして彼は、力を欲してその境地に身を投じた。

そして『天誅』の下に、数多の人を斬り続けた。
来る日も来る日も斬り続けた。
戦う度に、剣を振るう度に、寿命が無くなっていくのも構わずに、斬り続けた。
今の世の中を終わらせる為、その身と刀を血で濡らした。

そして、慶応四年初期、京の深山

「……来たな?」
「!?」
「…待っていたぞ、斬!」
「……お前は……!」

血の運命に導かれし出会いを経て、戦った。

「…っ…!」
「…か…っ!」

互いに胸を穿ち、引き分けで互いに生き絶えた。




「…まあ…一先ずこんな所かな?」
『………』
「……どうした?」

全員が絶句していた。
当たり前だ、いきなりこんなぶっ飛んだ話をされたら、何も言えない。
と言うか『一先ず』って!?

「そ、それ…」
「せやったら、何で斬君此処に居るん!?」
「それはこれから話す」
「………」

言おうした言葉を、クロノはまたはやてに遮られた。

「…俺はその時に死んだ…だが…」
『………』

一同が見守る中で、斬は話し出した。




――五年前――

「………」

青年は意識を覚醒させた。
そして見たのは、何かの施設を何処かの中から見ている視界だった。

「…っ…!」

そして視線を巡らせると、隣に自分が使っていた刀も、同じように何かに容れられていた。
そして青年は…

(……何…!?)

…少年になっていた。
自分の身体が、五、六歳程度に縮んでいた。

更に視線を巡らせると、反対隣にも何かが在った。
それは、自分達と同じような物に容れたらた。
白銀に光っている何か、それは後にリンカーコアだったと知る。

「…どうだ…?」
「…この素体は順調です…」
「…此方ももう安定しています…」

そう言い、白衣を着た研究者らしき者達は、リンカーコアを見る。
少年は、何故か不快感を感じた。
すると、自分が使っていた刀『飛鳥』が明滅した。
それに研究者達は、驚いたように刀を見た。

……その時だ……

「な、何だ!?」
「暴走しているのか!?」

飛鳥を包んでいた隔たりは砕け散り、そうして少年に飛んでいって、少年を包んでいた隔たりも砕いた。

「…な…っ!?」

少年は無言で、自分の側に有る刀を手に取り、研究者達に突き付けた。

「…お…落ち着け!」
「…そ…そうだよ!実験が成功していれば、こいつは言いなりだ!」
「そうだ!そのロストロギアを離して!大人しくしろ!」
「………」

しかし少年は、無言で刀を走らせ、研究者達を血に沈めた。

「…此処は…」

そうして周りを見たが、何も解らない。
取り敢えず、その辺に転がっている奴から、白衣を剥ぎ取った。
無いよりはましだ。

「………」

そうして、この場から立ち去ろうとした。

「?」

その時、何かを感じた。
振り向くと、先程の白銀の何かだ。
それは、淡く光が明滅している。
まるで『置いていかないで』と、言っているようだ。

「…来るか…?」

その言葉に反応したように、また明滅した。
それは肯定しているようだ。

「………」

少年は、光を包んでいる隔たりを壊した。
すると光は、少年に近寄って来た。
少年が歩み出すと、それに着いて飛んでいく。

数日程したら、地面に三角形の文字を出して、人の姿になった。
それを見て驚いたが、さらに刀にする事が出来た。
それと時期を同じく、飛鳥は炎になって、少年の身体に取り込まれた。
そして、人の姿になった光は、少年よりも色々な事を知っていたので、基本的にそれを頼りにする事にした。
服をイメージしろと言われたので、適当に剣道着にした。
そして少年は、武士にとっての刀は『牙』のような物、ならば『牙の神』で『牙神』と名付けた。


「…そうして俺は、牙神と一緒に五年間、旅をしてきた…」

そうして話を終えた。
……誰も何も言えなかった。

「…せやったら…」
「?」
「…斬君の身体…」
「……これは一度死んで創られた新しい身体だ、寿命なら心配無い…」
「……良かった…」

それを聞いて、はやては嬉しそうに頷いた。
クロノは一回咳払いをして、斬に向き合った。

「……さて、早速だが君の使っていた刀、あれは?」
「あれが『飛鳥』だ」
「さっきの話の限りだと、ロストロギアのようだが……何処で手に入れた?」
「ロストロ何とかは解らないが、昔から神威の名と共に、代々継承者に受け継がれて来た刀だ……何でも、蓬莱から来た神器とか…」
「ほうらい?」
「蓬莱島、仙人達が住むと言われている伝説の島の事だ……そこに行けば、不老不死になれると言われた…」

それに、クロノを含め、フェイトとエイミィも関心した。

「……まるでアルハザードだな……」
「?」

首を傾げる斬に、今度はアルハザードの事を話した。

「……似てるな……」
「……まあ、元々この世界の物でも、他の世界から流れた物でも、ロストロギアで有る事に変わりは無いな」
「らしいな?」

クロノと斬は頷き合い、話を続ける。

「……君は、何故生き返った?」
「……生き返った訳では無いらしい……転生したとかも違う、間違い無く俺の身体だ……」
「…そう言えば…」

牙神が、何かに気付いたようだ。

「…神威…斬を再生した技術だが、確か『F』だどうのとか…?」
『…『F』…?』

微妙に聞き覚えの有る単語に、クロノ達は首を傾げる。

「ああ『記憶転写型クローン技術』とか…」

それを聞いて、一同は騒然とした。

『『プロジェクトF』!?』
「そう、そんな名前だったが?」

何て奴だと、クロノは頭を抱えながら、気付いた。

「…牙神…」
「何だ?」
「君はやけに事情に詳しいが、何故だ?」

確かに、牙神は斬が再生される前後の事まで知っている。

「理由は解らないが、斬が破壊した施設の保有していたデータが、私の身体にある程度記憶されているらしい…」
『え!?』
「だから、簡単な次元関係の事も解ったし、世界間移動も出来るって事だ…」

事も無げに言う、何とも滅茶苦茶な奴らだった。

「……じゃあ牙神」
「?」
「斬がそれで再生されたとしても……遺体は?
百年以上も経っているのなら、まともな遺伝子情報を読み取れないだろう?」
「…それなんだが…」

牙神は、困ったように頭を掻く。

「…斬の遺体は…そこまで劣化が進んで無かったらしい…」
「…どう言う事だ…まさか保存されていたのか?」

その問いに、牙神は首を振った。

「それは無い、斬の遺体は辺境の荒野に野晒しにされていたらしいぞ?」

研究日誌に書いていたと、付け加える。
それにクロノは、疑問を感じた。
そんな遺体が、ある程度の形で百年は愚か、二年もそのままなんて、有り得ない。

「…それについてだが…」
「?」

牙神が、更に言葉を続ける。

「日誌には、一緒に発見されたロストロギアの影響だと、書かれていたが…」

それを聞いて、斬に訪ねる。

「どうなんだ?」
「俺に言われても…」

それを聞いて質問を変えた。

「じゃあ飛鳥の能力は?」
「元は普通の太刀として使っていた、一応火を出すのと、治癒能力が有る」
「治癒とはどんな?」

それに首を捻った。

「簡単なら痛みを和らげたり、血を止めたり、強くやれば、それなりの回復効果が出るが…」
「……それってまるで…」

不意に声が聞こえたのでそちらを見ると、すずかが何か考えていた。

「…すずか…」
「……え?…いえ、その…」
「それより、まるで何なんだ?」
「は、はい…」

クロノに促され、すずかは喋り出す。

「まるで『不死鳥』見たいだなって…」
「不死鳥?」
「火の鳥か?」
「はい」

すずかは頷く。
しかし、これで合点がいった。

不死鳥、火の鳥とは、命の炎を持っており、他者の傷を癒したり、命を分け与えたりする。
それに習って創られたロストロギアなら、そんな治癒能力が有ってもおかしくない。

「…つまり、斬の遺体は飛鳥の能力で保護れていたのか…」
「そうらしいな…」

取り敢えず、この事はこれで置いておく事にし、次の質問をする事にした。

「何故君達は、彼らに追われているか、詳しく教えてくれないか?」

それに、斬と牙神は盛大に悩んだ。

「…何て言うか…『設計図』が欲しいらしい…」
「…設計図…何の?」
「多分『フォースデバイス』の」
『!?』

フォースデバイスの設計図を求めている。
つまり、奴らの目的はフォースデバイスを造る事、もしくは…

「……奴らのフォースデバイスは……未完成なのか……?」
「…あ…っ!」

はやても気付いた。
確かにあの少年は、自分で『レプリカ』と言っていた。
それを聞き、クロノは確信した。

「…間違い無い…奴らのデバイスは未完成なんだ……これで解ったぞ!」
「何が?」
「奴らがはやてを無視して、リインフォースだけを狙ったり、斬と牙神を同時に狙ったりした訳だ」
『?』

解っていないのか、全員首を傾げる。

「おそらくリインフォースを狙ったのは、フォースデバイス製作の為の実験台にするつもりだったんだ!だからマスターで有るはやては邪魔だから、どうでも良かったんだ!」
『…あっ!』
「斬と牙神が一緒に狙われたのは、現状のフォースデバイスの完成体を使った研究と、斬の設計図を手にいれる為!」

全ては繋がった―――

「…でも…」

――かに見えた。
そこでアリサが…

「よく解らないくど、二人が一緒だと厄介なんでしょ?だったら牙神だけ捕まえて、斬は捕まえないで、設計図だけ奪えば良いんじゃ……?」

……そりゃそうだ。
てか、それが最良だろう。
それについて、また皆が悩む。

「…その理由は簡単だ…」

今度は斬が言った。

「その設計図は特殊なんだ。
俺を生け捕りにしないと設計図が破損する可能性が有る…」

それなら解る。

「…その設計図は何処に?」
「そんな簡単に言えたら、とっくに棄てるか燃やすかしてるよ…」

確かに、彼ならそうしそうだ。

「……と言うか、何時から君が持っていたんだ?」
「知らない、何時の間にか親父が仕込んでいたらしい」

親父と言う言葉に引っ掛かった。

「君の父親が?」
「ああ、俺自身話でしか知らないがな…」
「?」
「俺が産まれた時には、もう…」
『………』

それを聞いて、場が静まり返る。

「……気にするな、どうせ生きててももう居ない…」
「…それで…君の父親は?」

「顔もよく知らないし、名前も曖昧だ、日本人では無かったらしいし…」
「…日本人じゃない…」
「……あんた達と同じ世界の人間だったんだろう…」

おそらく、研究者か魔導師だったのだろう。
つまり、斬の魔力は父親譲りか…

「……じゃあ、設計図は生前から?」
「…多分な…」

それじゃあ、一体どんな方法を使って設計図を……?

クロノの疑問は深まった。
そして、改めて斬に聞こうとした。
だが不意に、翠屋に来客を告げるベルが鳴った。

「いらっしゃいま……あら、ユーノ君?」

それに、全員が入口に目を向けると、そこにユーノ・スクライアが立っていた。

「ユーノ?」

一体、何故こんな所に?と、クロノが思っていると…

「…ぅ…っ」

いきなりユーノが倒れた。
よく見たら傷だらけだった。
それに一同騒然となる。

……しかし……

「ユ、ユーノ?」
「ユーノ君!?」
「ふぇ!?しっかりして下さい〜!」
『……は……?』

ユーノの背後から、いきなり女の子が現れた。
そして、ユーノの身体を揺さぶり始める。

『………?』

全員の頭に『誰?』と、疑問が浮かぶ。
しかし、この少女が不意に、とんでもない事を言い出す――――ッ!




あとがき


どうも、読んで下さる人達に感謝の第十一話です。

神威改めて斬、これを書きたかったんですよ!
ああ、そうそう………!

……まあ良いかな……?

……以前某週刊誌に連載していた漫画と同じとか思わないように……
……自分あれ大っ嫌いだからな!!?
……もし言ったら深く傷付きますね……
……もう小説書けないくらい傷付くかもな……
……そうしたらこの連載は中断するしか……


次回!!

ユーノ君鬼畜疑惑!?
フォースデバイスの秘密も解るかな?


――――――以上!!





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