闇に包まれた空間、その中の長テーブルに腰掛ける、複数の人影が存在した。

「…全員揃ったな…?」

一番端に座っている。
頭目と思われる者が言った。
それに続き、各々が返事をする。

「…しかし、いきなり我々全員を集めたのは何故だ?」
「簡単な伝令なら、通信で済む筈だ、余程の事だな?」

二人程、頭目の者を睨む。

「…ああ…0号騎の事だ…」

頭目は、静かに口を開いた。

「…0号騎…」
「0号騎に何か動きが?」
「ああ、0号騎に類似した『未確認体』の存在が確認されたそうだ…」
「なっ!?」
「本当ですか!?」

その発言に、その場に居た者達全員が騒然とする。

「間違いでは無い、ちらほらとそんな報告が有ったが、今回のこれは確定事項だ」
「…未確認体…」
「…本当にそんなものが…」

全員が総じて、隣に居る者と話し出す。

「…静粛にしろ!これより本題に入る!」

そうして、場が静かになったのを見計らって、話し出した。

「…今後の理想的な方針は…0号騎達と未確認体の双方の捕獲だ、特に『BW』が重要だ」
「…生け捕りってのは、面倒臭いんですが?」
「しょうがない事だ、設計図の為だ」

すると、黙って席に着いていた金髪の少年が立ち上がった。

「……もう設計図なんてどうでもいいだろ!?いっそぶっ殺しちまえば良いんだよ!!」

テーブルを叩き、そんな事を叫んだ。
その発言で、意見が二つに別れた。

「…確かに、生け捕りなんて甘い事言ってるから取り逃がすんだ…だったらいっそ殺すつもりで…」
「馬鹿を言うな!それで設計図が破損したらどうする?」
「だが、殺したからと言って設計図に影響が…」
「万が一だ!欠けてしまう部分が重要な場所だった時の事を考えろ!」

そんな言い合いが暫く続いた。

「静かにしろ!その案は却下だ!」

その言葉に、少年は頭目を睨んだ。

「何故!?」
「…設計図の速やかな確保、それが目的だからだ、殺しては駄目だ…」
「そんなのもう関係無い!僕が直接探し出して…っ!」
「待て」

今にも何処かに行きそうな少年に、誰かが声を掛けた。

「?」

少年が振り返ると、ゆったりとした動きで席を立ち、少年に近付いた。

「…お前は馬鹿だ…」
「…何…?」
「その程度で奴に勝てる筈が無いだろ?」
「…もう一度言って見ろよ…?」

少年が睨む、しかし相手は笑っていた。

「何だ、一度じゃ解らないのか?何度でも言ってやろう、勝てる筈が無いだろうが、自己を弁えろよこの大馬鹿者が!」
「『シャークボルト』!」

少年は瞬く間に鮫の槍を精製して、斬りかかった。

「………」

しかしそれを、何時の間にか片手で持っていた槍で、受け止めた。

「…な…?」
「…はぁ…」

ため息を吐きながら、空いた手を少年の胸に押し付けた。

「!?」
「………」

その瞬間、少年の槍が纏っていたのと、比べ物にならない雷撃が走り、呻き声さえ上げずに少年は地に付した。

「おいおい非殺傷設定だぞ?おまけに手加減してもその程度じゃ、奴を殺すなんてよく言えたな…」

そいつはテーブルに腰掛けて居る者達に振り返る。

「……BWは、元々殺し合いをしながら生きて来た…寧ろ殺害の方が難しいぞ」

それに全員が、顔を見合わせる。

「生半可な腕や覚悟では…」

倒れた少年の首根っこを掴んで、掲げて見せた。

「…この程度では済まない…」

全身を雷撃で焼かれて、まともに動けない状態を『この程度』とは、本当に命は無いと言う事になる。

「…奴を殺すのは私だ…よく覚えて置け…」

そう言い少年を放り、その場から居なくなる。

(……お前は私が殺す……)

奥歯を噛み締め、手を強く握った。

(……これが私達二人の……生前からの運命だ……斬!)


『変わる事無い想い』


ユニゾンデバイスどうように、フォースデバイスも、融合すると瞳と髪の色が変化する。

この特徴が現れない場合は、フォースデバイスとしてもそうだが、ユニゾンデバイスとしても不完全だ。
以前はやてを襲った少年も、瞳の色等に変化が見られなかった為、おそらく不完全なデバイスを使用していた。


「…ふむ…」

ディスプレイに表示されたデータを見て、クロノは一つ頷く。

「…このデータを見る限りだと…そこまで大した魔導師じゃなさそうだな…」
「え、そうなの?」

隣で、一緒にディスプレイを見ていたフェイトが、驚いたような声を出す。

「ああ、デバイスが不完全だからか、総合的に見ても、君の方が能力が高い」
「でも、はやては…」
「それは当然の結果だ、この少年は高速軌道型のようだ、はやてのような遠距離広域型だと相手をし辛いし、それ以前に魔力をかなり使っていたからな…」

実際に、少年がフェイトと戦った場合、互いに決定打が入り辛く、最終的に魔法と手数の差でフェイトが勝つだろう。

「しかも攻撃が単調過ぎる、威力とスピードは有るがそれだけで、ただ振り回しているだけだ…」

確かにそうだ、この少年はそれなりに強いが、実践経験が少ないように見える。

「…動きに無駄も多いな…」
「…そうだね…」

フェイトから見ていても同じ感想だ。

「じゃあ斬は?」
「………」

クロノは無言でキーボードを叩いた。
すると、新たなディスプレイが展開された。

「…これって…」
「…ああ…」

それは、ここ数日の斬の戦闘データだった。

『………』

シグナムとヴィータは勿論、クロノやフェイトと戦ったデータも有った。
二人はそれを見ていて、少し怖くなった。
魔力運用の低さ補う、圧倒的な戦闘技能、判断力と反応速度、幕末の日本を戦っていた剣技が生きていた。

「…敵に回したく無いね…」
「…ああ…」

そうしてデータを見ていくと、気になる映像データが有った。

「…これ…」
「君と戦った時だな、あれは驚いたよ…」

再生して見た。
二人とも高速戦闘主体なだけ有って、斬とフェイトがかなりの高速度で戦っていた。
近接では不利と思ったか、フェイトは『ソニックフォーム』にを使って斬から離脱した。
そして背後に回ってバルディッシュを振りかぶった。
その時斬は、身体が白銀の魔力光に包まれた。
そして、バルディッシュが振り降ろされる前にフェイトに突っ込んで、地面に押し倒した。

「………」

クロノはそれを見ていて、不機嫌そうな顔になった。

「…でも、これ見て…」
「…それか…」

フェイトを押し倒した時の斬だが、手に何も持っていない。

「…どうだった…?」
「…突っ込んで来た時には…もう持って無かったと思う…」

そう、斬がソニックと同等かそれ以上の速度を出した前後、飛鳥を持っていなかった。
何故消したのか、そのまま飛鳥で攻撃した方が有効だったのに、わざわざ消して捕まえた。

「……そう言えば、斬は?」
「うん、嘱託と言っても何も無いから、基本的にはやてに着いてるよ?
今日ははやてもお休みだから、一緒に家でのんびりしてるかな?」
「そうか……イリスは、どうなった…?」

クロノは恐る恐る聞いた。
なのはの事を考えれば、当たり前だが…

「うん、なのははイリスを気に入った見たいで、イリスもなのはになついてママって呼んでるし、もう親子見たいに」

それを聞いて安堵の息を吐いた。
これで一先ず安心だからだ。
寧ろなのはとユーノの仲が、進展する手助けになった。

「今度改めて、桃子さんと士郎さんに紹介しに行くって」

それに安堵と不安が同時に募った。
桃子は喜んで受け入れるだろうが、士郎はユーノに襲い掛かる可能性が有る。
それだけならまだしも、ユーノに襲い掛かった士郎に、イリスが何をするか……

「………」
「………」

フェイトも冷や汗を垂らしているので、同じような事を考えたのだろう。
イリスの戦闘能力と特殊能力、不意を突いたとは言え、一度はなのはをも圧倒していた。
並の武装局員では話にならない。
その強さと戦い方は、本物の悪魔のようだと言われた。

……そしてその悪魔を……

……なのはがママと呼ばせていたのを見て……

……『悪魔の母親』……

……即ち『魔王』と……

……改名されたとか……

兎に角幾ら強いとは言え、一般人の士郎では対抗出来無いだろう。

「……士郎さん……どうなるかな?」
「……最初に鎖で宙吊りは確実だな……」
「……それで……?」
「………」

クロノは静かに視線を反らした。
それにはフェイトも苦笑するしか無かった。
良くて全身袋叩き、下手すれば幾多に及ぶ刃が殺到する。

「……少し休憩でもしよう…」
「…うん…」

そうして二人は食堂に向かった。


風鈴の音が鳴り響く夏の空の下で、少年と少女が肩を寄せ合い、縁側に腰掛けて…

「美味いな?」
「本当やな?」

スイカを食べていた。

斬は美味しそうにスイカを食べているが、はやては微妙に困った顔をしていた。

(……どないしよう……)

今日はシグナム、ヴィータは任務、ザフィーラはそれに着いていった。
シャマルは医療班に、リインフォースは健康診断に行き、牙神もリインに着いていった。
その為、この家には斬とはやてが二人っきりだった。

(……あかん……耐えきれへんかも……)

縁側で仲良く、肩を寄せて座っている。
このシチュエーションは…

(…来るんか…来るんか…?)
このまま告白されたりしても変じゃ無い。
彼ももうスイカを食べ終わる。
二人では食べ切れないので、残りはヴィータ達の分に置いておく事にした。

「…はやては…」
(来た!?)

不意に声を掛ける斬に、はやては身構える。

「…スイカ好きか?」
「…へ…?」

思わずはやては呆けた声を出した。

「嫌いなのか?」
「…別に…」
「そうか…」

そう言うと斬は、正面を向いて目を閉じた。
そうして、急に吹き始めた心地好い風に、揺られる風鈴が奏でる音色を聴いていた。
その仕草はとても自然で、風が吹くのが分かっていたようだ。
それにはやては、特に不思議に思わなかった。

「…なあ…?」

はやてが声を掛けると、斬は此方を向く。

「斬君は好きなん?」

その問いに不思議そうに首を傾げた。

「だから、スイカや」
「……嫌いじゃないが、別段好きでもないけど?」

はやてはその返答を、可笑しく思った。

「…何やそれ?」

はやてが笑うと斬も笑って、二人で笑い合った。



少しして、良い天気だからと散歩に出掛けた。

「ええ天気やな…」
「そうだな」
「……たまには二人もええな?」
「…ああ…」

はやてと斬は並んで歩いて行く。
今日は二人だけなので、じっくりと海鳴の案内をしようと考えた。

「…ほら、あれがな?」
「…へぇ…」

もう斬も知っている場所から、まだ知らないだろう場所まで、はやてが嬉しそうに説明するのを、斬も楽しそうに眺めている。
気が付けば二人は寄り添って、自然に手を取り合っていた。
そうして海鳴の各所を回って行った。


その内、日が落ち始めてそんな時間も終わりを迎えた。

「…もう日暮れや…」
「…そうだな…」

二人は桜台に行った帰り道に、海鳴の商店街を歩いていた。

「…今日は…楽しかったな?」
「…そうだな」

二人で商店街を練り歩いたり、少し遠くに行ったり、ちょっとした穴場や小道に入ったり、沢山の場所に行った。

「………」
「………」

……手はまだ繋いだままだ……

「…なあ…」
「?」

……偶然会った学友やアリサ達にはからかわれ……

……周りの大人なんかには、微笑ましく見られ……

……翠屋に立ち寄ったら桃子にまで色々言われた……

「…本当に…楽しかったな…」
「…ああ…」

……それでも繋いだ手は……

……けっして離さなかった……

「…斬君…」
「…ん…?」

はやてが斬を呼ぶ、はやては少し寂しそうな顔をしていた。

「…何時まで…こうしとるん…?」
「………」

はやては解っていた。
彼は何時までも自分と一緒に居てくれないと、事が済めば何処かに行ってしまうと、会えなくなる事は無いが、こんな風に過ごす事は無い、それは間違い無いだろう。

「…迷惑は…掛けなく無いから…」
「………」

はやては顔を伏せた。
迷惑な事は無い、自分は彼と一緒に居たいのだから、自分は彼の事が……

「……それでも…」
「?」
「…それでも変わらないから…俺の在り方は…」
「…え…?」

顔を上げた先で、彼が笑っていた。

「…はやてが大切な事は変わらない…」
「…っ…」
「…それは絶対だ…」
「…あ…」
「…はやては、俺が護るから…」
「…斬君…」

その笑顔は、傍に居てくれる事など関係無く。
自分を大切に思ってくれているのを感じられて、はやては嬉しくなった。

「…うん…っ!」

はやても笑顔を浮かべ、斬と見つめ合う。
告白のようにしか見えない。

ちなみに、此処は商店街のど真中なので、二人がそんな事をしていればそれは目立った。
人影が疎らとは言え、周りに人は居た。
しかし二人は、そんな周りの事に気付か無いで、見つめ合っていた。

「……っ!」

だが急に、斬の顔が険しくなった。

「…何…?」

すると、斬の背後に何かが落ちた。
そしてそのまま燃え上がった。

「!?」
「え!?」

突如起きた事態に、周りの人達も目を向ける。

「……あれ?」

頭上から声がした。

「…0号騎は?」

目をやると、電灯の上から誰かが降りて来た。
それは、癖っ毛の強い燃える赤毛の、何処にでも居そうな不良っぽい青年だった。

「まあ良いや」

ただし、炎を纏っている右腕を除けば……

「一緒に来て貰うぜ…」

青年は斬を見据えた。

「…『BW』…!」
「……くそっ!」
「…へ…?」

――青年は謎の呼び方で斬を呼び――

――斬は舌打ちをしながらはやての肩に手を掛け――

――はやては首を傾げてされるがまま――


「ママ〜あれ何?」
「見たらいけません!」

「奥さん、あれは一体?」
「…さあ…何かの撮影かしら?」

……商店街で騒ぐのはやめましょう……




あとがき


やっと書けました十四話です。
最近忙しいし、ネタが微妙に無くなった為に時間掛かりました。
大分先までの構想は練れているのに、それを書く段階じゃない為、至極残念です。


次回!

この青年は何者!?
『BW』って何!?
はやてはどうする!?
次いでに斬のはやてに対する好意ってどんなもの?


――――以上!!





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