――日の傾き始め――

――まだ茜色に染まっていない中――

――空を焦がすと思われる程の閃光が――

――ぶつかり合っていた――


『砕けた翼』


海鳴の商店街より多少離れた場所に、学生が二人程歩いていた。

「おいお前、この前のテレビ見たか?」
「見た見た、いきなり街全体の花が咲き乱れたんだよな?」
「ああ、桜と向日葵が一緒に咲いてたぞ?」
「異常気象とか言ってたよな?」
「…実際どうだか…」
「まあ、あんな変な事は滅多に無いだろ…」

しかし、いきなり何かが砕けるような音が聞こえた。

『…へ…?』

何の前触れも無く電柱が折れ、倒れる寸前に砕け散った。

「…何が…?」
「……げっ!?」

次いでガードレールが幾多も破ぜていった。

『…嘘…』

そのガードレールの端は、少し焦げていた。


そこからそう遠くない駐車場に、二人の男が立っていた。

「どうだいこの車は?」
「凄いじゃないですか先輩!」
「はっはっはっ!まあね、十年ローンを組んで買った最新型だからね!」
「良いな〜!」

次の瞬間硬い音が響き、車が煎餅のように平たくなった。

「えぇっ!?」
「僕のカー!?」

次いで何かが降り注ぎ、車が燃え上がった。

「ええぇっっ!?」
「ボクノカー!?」

止めとばかりに何かが叩き込まれ、車が跡形も無く消し飛んだ。

「ええぇぇっっっ!!?」
「ぼくのかーーーっ!!?」

一人は絶句してその光景を見続け、もう一人は気絶した。


更にその場所からそう離れていない住宅地で、三人家族が新築らしき一戸建てを眺めていた。

「パパ〜!これが新しいお家?」
「そうだよ」
「これから私達三人の、新しい生活が始まるのよ?」
「うん!」
「さて、荷物を運び…」

その瞬間、何かが家に突っ込んで来て、そのまま屋根を貫通した。

『…はい…?』
「パパママ、あれ何?」

その時家に突っ込んだのは、人影のように見えた。


家の中で、瓦礫を避けながら誰かが立ち上がっていた。

「…っ…って〜!」
「だ、大丈夫!?」

少年が痛みを訴えるのを少女が心配する。
見るからに、家に突っ込んだ時に少女を庇ったようだ。

「いや、これくらいは……っ!?」

少年が急に顔を上げた。
次の瞬間、幾多の炎弾が降り注ぎ、瞬く間に家を消し炭にした。

「…え…?」
「…ローンがまだ…二十年も在るのに…」
「凄い!ねえねえ花火?」





「……あっぶね〜っ!」
「………」

斬とはやては何とか家から脱出して、少し離れたビルの屋上に居た。

「…あ…ありがとうな…」
「気にするな」

現在はやては斬に抱えられている。

「そう言えば、バリアジャケットは?」
「あ、忘れてた…」

そう言い、二人はジャケットを展開する。
実は今まで普通の服だった。

はやては何時もの騎士服だが、斬は、Tシャツにロングの下、ブーツとグローブを着け、所々に白ラインが入ったロングコートを着た、黒一色の姿になった。

「…今更やけど……それで良えの?」
「ああ…何か変か?」
「…別に…」

そんなやり取りをしていると、上の方から青年が降りて来た。

「やっとジャケットを着たか、じゃあ始めようぜ『BW』」

軽い感じに、また斬を謎の呼び名で呼んだ。

「…ビーダブリュー…?」
「そうさ、まあそいつが戦う姿から付いたあだ名の略称だがな?」

はやてが首を傾げていたら、丁寧に教えてくれた。
そうしながら、手の炎を何かの形にしていく。

「…飛ばすのは好きじゃねえからな…」

その姿は、頑丈そうな甲羅と鋏を持った……

「…海老…?」
「ちゃうよ、ザリガニやて」
「いや、あれは海老だろ?」
「ちゃうって、ザリガニやろ?」

二人共、眉が僅かに動いた。

「海老だ」
「ザリガニや」
「海老だ!」
「ザリガニや!」
「海老!!」
「ザリガニ!!」

珍しく意見か対立し、言い合いが続く。

「ロブスターだよ!」

青年の一言に、二人が振り向く。

「…ろぶすた…?」
「つまり甲殻類やな?」

……理解していなかった……

「……俺の『フレイムシザー』の力を見せてやる!フォースイン!」

青年は全身を炎に包まれ、その 炎が甲羅のような鎧を形成した。
そして手には、身の丈を越える程の巨大な鋏が握られていた。

「……行くぜ!」
「はやて、下がってろ」
「…うん…」

はやてが離れて行き、斬は飛鳥を取り出した。

「だりゃああっ!」
「はあああっ!」

両者は飛び出し、打ち合った。

「!」
「!」

縦横無尽に振るわれ、大鋏と太刀が噛み合う。

(この鋏!これじゃ殆ど斬馬刀じゃねえか!)
(このガキ!あんな大剣を自在に操るなんて!)
((一体どんな身体してるんだ!?))

……どっちもどっちだが……

「うおおっ!」

青年は大鋏を、荒々しくもかなりの速さで振り回している。
閉じたまま振っているので斬る事は出来ないが、この威力で一撃でも入れば危ない。

「はああっ!」

斬の飛鳥は、威力では多少劣っているが、その分手数で補っている。
一撃一撃が正確に相手を狙っている為、侮れない。

「だぁぁっ!」
「…ぐ…っ!」

青年は大鋏を振りかぶり、叩き込んだ。
それを飛鳥で受けたが、吹っ飛ばされた。

「…ちっ…!」

飛鳥が炎に包まれる。

「……このっ!」

――神魔双天流『飛王刃』――

炎の斬撃が青年に向かう。

「むっ!」

青年は大鋏で斬撃を挟み込み、粉々にしてしまった。

「何!?」
「……男なら、直接来いよ?」
「………」

それに斬は、無言で身構えた。


「…何あれ…?」

この辺り一帯に結界を張り、離れた位置から二人の戦いを見ていたはやては、呆然と呟いた。

「…あれがフォースデバイス…?」

以前の少年は、フォースデバイスの力を半分も使えていなかった。
だがこの青年は、デバイスをかなり使いこなしていた。

「…ほんまに未完成なん?」

未完成であの力、完成したフォースデバイスとは、一体どんな化け物になる?

「………」

そして、それに実質単身で渡り合っている斬も驚異的だ。
幾ら強いと言っても人間は人間、限界は在る。
だがそれでも、フォースデバイスを使っている相手に対して、フォースデバイスは愚か普通のデバイスすら無い。
自分の魔力で精製した飛鳥しか使っていない。
それにさっきまでも、お互いに素手で戦っていた。
それなのに斬は、互角に渡り合った。
はやてを抱えていたにも関わらず。

「…斬君…」

……彼は一体……


「はぁぁあっ!」
「うりゃぁぁっ!」

飛鳥と大鋏がぶつかり合い、弾き合う。
続けて斬を挟み込もうと、幾多も突きが放たれた。

「ちっ!」

斬も飛鳥を振るった。
だが鋏に捕まれてしまう。

「…な…っ!」
「ふんっ!」

そのまま刃が閉じられ、飛鳥を真っ二つにしようとする。

「ちっ!」
「む!?」

斬は舌打ちをしながら、鋏を蹴り飛ばして飛鳥を抜き去った。

「…っ…」

だが軽くでは有るが、飛鳥に罅が入っていた。

「……次は砕ける!」
「……その前に斬る…!」

青年は鋏を振りかぶった。
斬はそれを避け、続いて来た物も全て避けた。

(……多分、後三回くらいだ……)

――後三回で飛鳥は壊れる――

――なら――

(……三回で決める……っ!)
「おおぉぉぉっ!」

振り下ろして来た一撃を、受け流しつつ弾き、懐に潜り込んだ。

――一回――

続いて無防備な懐を斬り付けた。

「…ぐ…っ!?」

青年の鎧に亀裂が走った。

――二回――

(…ここだっ!)

止めの一撃を見舞おうと、飛鳥を振りかざした。

「……?」

その時、手に持った飛鳥に違和感を感じた。

「…な…!?」

目をやると、刀身に幾多の亀裂が入り、砕け散った。

「……残念だったな……」
「!?」

斬が青年の方を振り向くと、鋏を半開きにして、真っ直ぐ此方に構え……

「……ぁ…っ!?」

そして辺りに、何かを貫く鈍い音が響いた―――。




あとがき


はい十五話でした。
前回より早く上がったと思います。
ぶっちゃけると、書きながら斬達の設定をちょっとずつ弄ったりしてるんですが。

一重に言えば眠いですね。

次回は!

斬に異変が!?
はやてはどうなる!?
飛鳥は!?



――――――眠い……。





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