時空管理局本局の無限書庫では、現在大変な事態が起きていた。

「こっちの資料はまだか!?」
「事件調査資料持って来い!」
「犯罪者調書と執行履歴は!?」

こんな感じに、書庫内は資料請求で立て込んでいた。
理由は簡単だ、ユーノが二週間の有給を取り、先日も二、三日程休みを取ったからだ。

「…全く、やっと終わったよ…」

ユーノは作業が済んだのか、少し手を止めた。
そして集めた資料は、依頼者で有るクロノが居るアースラに送られた。
内容は『融合騎製作の経緯と事例のデータ』の洗い直しだ。
しかし、新式人格型融合デバイス『フォースデバイス』に関するデータは無かった。

「やっぱり、独自製作の特殊デバイスらしいな…」

そう言いながら、他の資料請求に取り掛かろうとしたら、またアースラから依頼が来た。

「ちょっ!何なんだよクロノ!?」
『どうした?』

ユーノの抗議に、クロノは素っ気なく返す。

「どうしたじゃないよ!さっき依頼終わったのに、何でまた直ぐに資料請求が来るの!?」
『しょうがないだろ?必要な資料なんだから…』
「だからって…」

ユーノは、請求を依頼された資料のリストを見た。

「何さこのデータは!?」
『必要なんだ、下手すれば今日中にも…』
「はぁ!?それこそふざけないでよ!こんな曖昧なのを今日中なんて…」
『どうしても必要なんだ、頼む』

クロノが此処まで頼んで来たのだ。
流石に断れない為、ユーノは観念したようにため息を吐いた。

「…解ったよ…」
『助かる』
「ただし、奥の手使うよ?」
『?』
「イリス?」
「はい!」

イリスがふわふわと飛んで来た。

「いくよ!」
「了解!」
『フォースイン!』

二人が魔力光に包まれた。

『…な…?』
「…それじゃあ…」
『!?』
「直ぐに済ますから、待っててね…?」
『あ…ああ…』

そして、ユーノは検索を開始し始めた。
クロノはその姿に戦慄を覚えた。


『銀光の桜散華』


――茜色に染まり切った空の中――


――佇んでいる影が在った――


「………」

青年は、冷たく対峙する少年を見ていた。

「……ぁ……っ!」

一方の少年は、青年の手にした鋏で胸を穿たれていた。

「……残念だが俺の鎧甲の方が、強度が上だったようだな?」

鎧に走っていた亀裂が、炎に包まれて塞がっていく。

「……これが『Bloody Windy』……『鮮血の風』とまで呼ばれた奴か…」

青年は鋏を握り締めた。

「……くだらない……俺が引導渡してやる…っ!」

そうして鋏に力を込めようとした。

「!?」

しかし、青年の手に射撃魔法が当たり、鋏が手から抜け落ちそうになった。

「…ちっ!」

咄嗟に持ち直したが、斬の身体が鋏から抜けて落下していった。
髪が解けたのか、黒髪をはためかせながら……

青年は射撃が飛んで来た方を見る。
そこには、青年に対して杖を向けるはやてが居た。

「…何をする?」
「黙って見てられる訳が無いやろ!」

そう言いはやては、砲撃魔法を撃った。

「無駄だ!」

しかし、易々と弾き返された。

「!?」
「…そうだ、よく考えたらあいつは殺したら駄目だったな…」

急に何かを考えだした。

「…そうだとすると…助かったとも言える…」

そんな事を呟きながら、はやての方を向いた。

「……BW……鮮血の風の奴は殺せないが、お前は寧ろ殺した方が良いらしい…」
「え!?」

そうして鋏を構え直した。

「…命を貰おうか…?」

静かにそう言ってから、はやてに向かって来た。

「くっ!」

射撃魔法を放つが、簡単に弾かれてしまう。
幾つか通ったかと思えば、鎧に阻まれて全く効いていない。

「だりゃぁぁぁあっ!!」
「!」

振り抜かれた鋏を障壁で防ぐが 、障壁ごと吹っ飛ばされてしまった。

「……く…っ!」

体勢を立て直そうとするが、直ぐに距離を詰めて来て、鋏を降り下ろされる。

「…ぐぅ…っ!」

それを障壁で受け止めて、また吹っ飛ばされた。
青年は更にはやてに追い縋り、攻撃を叩き込み続けた。



時空管理局本局の無限書庫では、現在大変な事態が起きていた。

「……茶が美味いな…?」
「…ああ…」
「おい、こっちにも回してくれ」
「はいよ」

こんな感じに、書庫内は比較的のんびりとした空気が流れていた。
理由は簡単だ、仕事が無くなったからだ。
資料請求の依頼が、全く無いと言う事態に陥っているからだ。

「…スクライアには感謝だな…」
「…ああ…」
「てか、もうあいつが司書長で決定だろ?」
「…だな…」

そう言いながら皆頷き合う。
一方、そのユーノはと言うと……

「…う…うう…っ…!」
「ユーノパパ、大丈夫ですか?」

グロッキーになっていた。

「…フォースインって…こんなに反動来るんだ…?」
「はい、慣れても辛いらしいですよ?」

そう話しながら、イリスに膝枕されている。

「…でも…それに見合うだけの力は有ったよ…」

すると、急に通信が入った。

『ユーノ、どのくらいまで調べ終わった?』

クロノだ、おそらく資料の催促に来たのだろうが……

「ああクロノ、もうとっくに調べ終わったよ?」
『はぁ?そんな馬鹿な…』
「本当です。次いでに書庫に溜まっていた仕事も全部片付けちゃいましたよ?」
『………』

クロノは空いた口が塞がらなかった。
あれだけの量をこの短時間で!?
信じられないと言うのが強かった。

『……それで?』
「ああ、検索は終了した。有力なのは二、三在ったよ?」
『…じゃあ…これは…?』

そう言い、クロノは何かのデータを表示する。

「…クロノ…」

それを見てユーノは……

「……こう言うのは先に出してよ…もう動けない…」
『…あ…すまない』

文句を言った。

そしてこの後なのはが来るが、あえて伏せて置こう。



――海鳴の空――


――茜色の夕焼けの中――


――影が堕ちて行く――


――その時――


――空に何かの胎動が響き渡った――


――そして――


――その胎動に合わせて――


――影の姿が豹変して行き――


――そして――



「うぁああっ!」

はやてはまた弾き飛ばされた。
これで何度目だろう、障壁も何度も破壊されている。
しかし、はやては諦めないで防ぎ続けた。

「…いい加減にしてくれよ…」

対する青年は、はやてのしぶとさにため息を吐いた。

「……まだや!」
「……しょうがないな……」

そう言いながら構えた鋏に、炎を灯した。

「!?」
「…これなら防御に関係無く、仕止められる…」

そう言い、はやてに鋏を向けた。
はやては杖を握り締めた。

「…抵抗するか…っ!」

そうして突っ込んで来て、鋏を突き出した。
はやては障壁を展開した。

(……あかん…っ!)

しかし、はやては直感した。
障壁は簡単に壊されて、自分はあの鋏に……

(!)

思わずはやては目を閉じた。

……そして……

(………あれ?)

……何も起きなかった。

「……?」

はやての身体に異常は無い、ならば防いだのだろうか?
だが普通なら、例えあの攻撃を防げても無理でも、かなりの衝撃が来る筈だ。
その衝撃すら全く無かった。

「………」

そして、恐る恐る目を開けた。
そこには、展開された障壁が健在していた。

「………?」

そして青年が、鋏を突き出した体勢のまま固まっている。

「……え……っ!?」

はやては目を見開いた。
大鋏は綺麗にはやてを避けて、隣の空間に在った。

「……っ…!」

青年の方に目を向ける。
その顔は驚愕に染められていた。
そしてゆっくりと、鋏が逸れたのと反対の方を向いた。
それに吊られてはやても向こうとした。

「…ぐ…っ!?」

しかし急に、青年が何かに巻き込まれたように、吹っ飛ばされた。

「……なっ…!?」

一体今のは何だ?
あの青年が簡単に飛ばされた。
はやては何かが飛んで来たらしき方に目を向けた。

「……え……っ?」

はやては一瞬間の抜けた声を出し、驚愕に目を見開いた。


「…これは…!」
『……それなのか?』
「うん、一致したのはこれだよ…でも…」

無限書庫で、ユーノは検索した資料とデータを見比べていた。

「…本当なの…?」
『…ああ…間違いない筈だ…』
「…斬…君は…」

ユーノは資料を見ながら、斬の事を思った。

――これが本当なら――

――彼は――

――そして自分も――



海鳴上空、はやてが見据えた先にいたのは、少年だった。

「…っ…」

その少年は、一度顔を伏せた後で、はやての元にゆっくりと近付いて来た。

「………」

はやてはそれに何も言えなかった。
いや、何も言わなかった。
少年を避けよう等と言う考えは浮かばなかった。

「…誰…?」

自分を見ていた少年に、そう問い掛けると、ため息を一つ吐いて、はやてから目を反らした。

「……?」

その少年は、所々に白のラインが入った黒いコートを着ていた。
その姿は…

(…斬君…?)



青年は驚愕していた。
はやてを貫こうとしたら、手に衝撃が走って反らされた。
そうして、衝撃が来たで有ろう方を向いた先に居たのは……

「…あれが…」

――見えない衝撃――

「…鮮血の…」

――空気の塊――『風』――

「……それがお前の本当の力……」

……黒き衣を纏った……

……人外の少年……

「……本来の姿か……っ!!」

青年は大鋏を振りかぶった。

「……面白い!ようやく本気になったな鮮血の風!?」

そして、叫びながら突っ込んで来た。

「………」

それを見て、少年は挑戦的な笑みを浮かべた。


それを見ていたはやては、疑問を感じていた。
その瞳も、手も足も、髪も、全てが先程までの斬とは違った。

ただ唯一コートだけは、はやてがイメージしたバリアジャケットだけは、斬の物だった。

「…何で…?」


――向かって来る相手――

――手にした鋏で――

――此方に攻撃を加えようとしている――

斬は静かに、思考を巡らしながら対処を行う。
振り抜かれた鋏を避けて、続く降り下ろしを、鋏の腹に手を当てながら受け流した。

「!?」
「!」

そして、空いた手で青年を殴り飛ばした。

「…ぐ…っ!?」
「………っ!」

そのまま攻め続ける。

――徒手空拳のままでは攻めにくい――

――武器が欲しい――

そう考えたが、飛鳥を出す事が出来ない。

――なら――

――他に武器を作れば良い――

そう思い、右手に意識を集中した。

――魔力を変換――

――風とエネルギーを混成――

――それを手に集めて研ぎ澄ます――

そうすると、斬の右手から……

「……な……っ!?」

白銀の魔力刃が生成された。

「はぁあっ!」
「ちっ!」

慌てて鋏を引き戻して防ごうとするが、大鋏と手刀では取り回しが違い過ぎて、防せぎきれない。

(…な…何だこれは…速い…っ!)

青年は驚愕を隠しきれなかった。

(…何だこりゃ…前にやった時とは段違いだ…!)

実は斬も驚いていた。

――その魔力刃は――

――研ぎ澄まされた風で――

――魔力を結合して生成され――

――大気中に飛散して行く風と魔力の混じり合った残照が――

――とても細かな結晶のようで――

――まるで深き夜闇の中で散って行く桜の花弁のように――

「…………『闇桜』っ!!」

………そのまま命名した。

てか、今まで無名だったんかいっ!?

「……ちっ!」

青年が大鋏を振りかぶる。

「…――ッ!」
「!?」

しかし、青年の目の先には、既に斬は居なくなっていた。

「…あ…?」

圧倒的な速度で、青年の背後に移動していた。

「……悪いな…?」
「…っ…!」
「……相手が悪かったな……」

気が付けば、青年の身体には斬撃が走っていた。

「…こ…の…や…っ!」

鋏を振り抜く、しかし手刀で受けられた。
続く攻撃の全て受けきるが、魔力刃に変化は無い。
それ処か、明らかに質量で勝っている大鋏の方が損傷して見える。

「!?」
「………」

青年は目を見開いた。

斬は表面上普通に見えるが、結構驚いている。

何せ……

(……精々、短刀程度だったのに……)

……らしい。

(……こりゃあ牙神でやったらどうなるんだ……?)

とまあ、そんな事を考えながらも、青年を迎え撃つ。

「…こ…の…ぉぉぉおっ!!」

雄叫びを上げながら、鋏を振り回して突っ込んで来た。

「………」

振り下ろされた鋏に、斬は手を翳した。
そして魔力刃と鋏が接触し、動かなくなった。

「…ぇ…!?」
「あ、出来た出来た!」

斬の手刀だった闇桜が、爪のような手の形状をとり、大鋏を握り締めていた。

「…一応、手を被うのを想定してるから…」
「…ぁ…」
「…形は自由だ…」

鋏を離し、また刃に変えて振り抜き、鋏を破壊した。

「…ぅ…ぁ…」

そして、静かに刃を突き付け……

「――悪いな――ッ!」

一撃で斬りせた。

「……が……っ!?」

青年は地上に墜ちて行く。

「………」

斬はそれを見届けると、魔力刃を消して、手を普通に戻した。

――そして――

「………」
「……斬君……?」
「……はやて……」

――振り向き、はやてと向かい合った――

「…っ…」

――はやては斬に近付いて行き――

「…はや…て…?」
「………」

――斬に向かって手を伸ばした――

「……え……っ!?」

――そして――

「…う…わぁぁぁぁっ!?」


――茜色の夕焼け空に――


――少年の声が響き渡った――




あとがき


はいどうも、最近難産が続いております十六話でした。

まあ斬の姿ですが、はやてが驚いたのも無理ないんですよ……

そして斬の悲鳴(?)が空に……

はやては何をした!?

次回!

新学期と翠屋と……?



―一言で言いますと――まあ……趣味ですねっ!!





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