「……何で……お前が…っ!」 斬は、自ら葉月と呼んだ少女に問い掛ける。 「……お前と同じだ……」 「!?」 ……それで全てが通じた。 「…斬…?」 《…斬お兄ちゃん?》 「………」 斬は一度顔を伏せ、もう一度葉月を見た。 「……運命って……やつか?」 「……そうだな……」 見つめ合う二人顔は、再会出来た事を喜んでいるのか、穏やかな顔に見えた。 「……帰るぞ陽炎……」 「…え…――…うん…」 『!?』 名前を呼ばれた瞬間に姿を変えたのを見て、ユーノとイリスは驚いたが、斬は到って普通だった。 「……逃げるか?」 「…まさか…」 二人は共に笑みを浮かべた。 「よく覚えておけ斬!お前は私の物だ!」 「……それはお互い様だ…!」 二人はそう言葉を交わし、それから葉月はユーノを見る。 「…ユーノ・スクライア…」 「?」 「……次までに、もっとましに『フォース』を使えるようになっていろ…」 「へ?」 「…じゃあな…っ!」 葉月はユーノに意味深な言葉を残し、手から迸った雷撃に紛れて、何処かへと消えて行った。 『……運命の相手……』 それからまもなく、二人は本局に戻っていた。 ユーノの方は酷い怪我をしていたので、早急に治療が為された。 「………」 斬は本局の休憩所で呆然としていた。 そして、それに寄り添うように牙神が隣に居た。 「…斬…」 「………」 「……まさか、あいつが?」 「…ああ…」 牙神の問いに気の無い返事を返していた。 結構重症だった。 「……クロノか?」 「?」 牙神が後ろを見ると、何時の間にかクロノが立っていた。 「…よく解ったな…」 「…まあな…」 「…こんな時で悪いが、あの魔導師の事で詳しい話が聞きたいんだが…」 「…ん…」 そう言い斬は、休憩所から出ていった。 「……斬は大丈夫か?」 「…多分な…」 そんな事を話ながら、クロノと牙神も斬の後を追って、休憩所から出ていく。 そして会議室に行くと、アースラの面々や八神家は勿論の事…… 「ユ、ユーノ!?」 「…やあ…クロノ…」 ……ユーノも居た。 「何でここに!?」 ユーノは胸を刺されていた筈だ、普通はこんな所に来れない。 「…それが…」 「それがですね…」 ユーノの言葉を遮り、シャマルが呆れたように言った。 「見た目に反して大した怪我じゃなかったんですよ」 シャマルはため息を吐きながら言った。 それには皆が驚いた。 「しかし、胸を刺されて…」 「はい、だから一大事だと検査したら…」 『検査したら?』 「内臓には傷一つ付いていなかったんですよ…」 『はぁっ!?』 胸を刺されて怪我が無い? 「どう言う訳か、刺したと言うより内臓の隙間に通した見たいに…」 『………』 「しかも、とても鋭い切り口だったので、傷口も簡単に塞がりました」 折角医療班総出で立ち会ったのにと、シャマルはまたため息を吐いた。 「…隙間を通したって…」 「…にわか信じられない話だ…」 クロノとユーノはげんなりとした様子だった。 それには皆が同意した。 「………」 しかしそんな中、斬だけが何か考えているようだった。 「……斬?」 「……気にしなくて良い…」 「…さっそくだが、彼女が言っていたフォースに付いて…」 そう言いながらエイミィに視線を送る。 そしてエイミィがコンソールを弄り始めた。 「これは、イリスちゃんのメモリーに残ってたデータを解析した物なんだけど…」 そうしてディスプレイが表示された。 誰かのバイタルデータのようだが…… 「……それって、まさかあの魔導師の!?」 「ううん、ユーノ君」 エイミィのあまりにあっさりとした言い方に、全員が脱力した。 「…な…何で僕…?」 「うん、話によるとユーノ君が魔導師に殴り掛かった時、普通じゃ有り得ないくらいの力を出してたよね?」 「…らしいですけど…」 「それで、試しにその前後のユーノ君の身体データを調べたら…」 言いながら、ディスプレイをグラフに変えた。 何か二つのデータが記されていた。 「…これって…?」 「どっちもユーノ君」 「でも、数値が違うような…」 「うん、こっちの低いのは普段のユーノ君の、こっちの高いのは魔導師に殴り掛かった時のユーノ君のなんだ」 「それが、どうして…?」 「この魔導師に殴り掛かった時は、何て言うか全身が活性化してるの、それで詳しく調べたら…」 画面がまた切り替わる。 ユーノの身体が何かに包まれている図が出てきた。 「その時のユーノ君、全身が高密度の生命気流に包まれていた事が解ったの、これは今まで、フォースデバイス使用時に発生する自然エネルギーって呼んでいたエネルギー体と同じ物だったんだ」 「……それで?」 「それでそのエネルギーは、身に纏うだけで肉体強化、加速、物理防御、魔法防御、鼓舞、耐熱、耐寒なんかの付属効果が有るらしくて、勿論前のデータの通りに魔法の発動も出来るし…」 「……殆どバリアジャケットだな…」 つまり、以前まで斬がジャケット展開していなくても問題無く戦っていた事や、戦闘魔導師と言う点から見ても、異常な身体能力は、それの影響だろう。 「つまり、フォースデバイスを使う際の常識的な現象見たいな物なの、多分これが『フォース』だね」 「…何と言うか…滅茶苦茶だな…」 「まあね……それに正確には、自然エネルギーって言うよりも『自然界に宿っている生命エネルギー体』って感じだから、生命エネルギーとかって呼んだ方が妥当だね…」 クロノが額を押さえながら言う。 それにエイミィも同意する。 今までは『自然現象等』を起こす事しか出来ないエネルギーと考えられていたが、応用範囲の更なる広がりに、見方を多少変えていくらしい。 「大体何だ『こぶ』って?」 「……『鼓舞』とは鼓を打ちながら舞を舞う事……また、何かをする時の意義を改めて、意気を奮い立たせる事を言う……」 クロノの疑問に、斬が静かに説明した。 しかし、今一意味が掴みかねる…… 『…つまり…?』 「…気合いを入れる…気を引き締めると言う事…」 全員が成る程と頷く。 そこでシグナムが質問して来た。 「……そのフォースだが、私達でも使えるようになったりするのか?」 「調べて見たら、フォースデバイスを使った事が有れば大概身に付くらしいんだけど…」 身に付ける為にはフォースデバイスを使わないといけない。 しかしフォースデバイスは、そんな簡単に出て来る物ではない。 「…つまり…」 「…ほぼ無理だな…」 「……それに、フォースって本当に魔力を変化しているのか何のか……斬君とユーノ君のリンカーコアを調べてもよく解らなくて…」 その言葉に全員が首を傾げた。 「……魔力や魔力素から生成されているのは間違いないんだけど、リンカーコアに能力を依存させるのか、リンカーコアをある程度改造するのか、リンカーコアが使い方を覚えるのか…」 詳しくは解っていないんだよと、エイミィは苦笑した。 原理適当には一つ目と二つ目が近いが、確定はしていないそうだ。 「…それで斬…」 「ん?」 「そろそろ話を聞きたいんだが…」 クロノは何をとは言わなかった。 だが、それでも斬には何か解っていた。 「…詳しくは言えないが、前世からの付き合いだ…」 それに皆が驚いた。 おそらく、斬と同じプロジェクトFで蘇った事になる。 「…奴の名は葉月…『剣咲葉月』…」 「……え……」 はやては一瞬目を見開き、斬の顔を見つめた。 「…簡単に言うと…俺の運命の相手だ…」 そう、斬は自傷的に言った。 「………」 はやては、先程斬が言った事を半濁しようとしていた。 いや、何かの間違いだと思いたかった。 「……そ、それはどう言う…!?」 クロノは、額に若干脂汗を滲ませて斬に聞き直した。 「……これ以上詳しく言えないが、俺達は一つの運命で繋がり、血を交えた仲とでも言えば良いか…」 それにシグナムが疑問を抱く。 「……だが、何故本人だと?」 「簡単だ、これを着けていた…」 そう言い、斬は自分の胸元を探り、何かを取り出した。 「…十字架…?」 「…ロザリオか…?」 「…ああ…前世から着けていた物だ…」 例の研究所から立ち去る時に、回収されていたのを偶然見付けたと、苦笑して言う。 「……これと同じ物を持っていた、これは俺と葉月しか持っていない筈だ…」 「………」 「…これも、俺と葉月を繋ぐ要因の一つだ…」 そう言う斬は、ここじゃない何処を見つめていた。 その姿を見ているはやては、酷く複雑そうだ。 「……クロノ、すまないが葉月の事は俺に任せて欲しい…」 「……え?」 「…俺がやらないといけないんだ…」 とても真剣な顔でクロノを見つめて来た。 その表情からは、斬の本気が見てとれた。 「……約束は出来ないが、なるべく君に任せるようにする…」 「ああ、それで構わない…」 そして斬は、静かにクロノに礼を言った。 「………」 そんな中ではやては、何か思い詰めたように俯いていた。 「……斬君…っ!」 あの後、もう少しだけフォース等の事を話してから、斬は通路を歩いていた。 不意に背後から呼ばれて振り替えると、そこにはやてが居た。 「…はやて…?」 はやては、何か落ち着かない様子だった。 どうしたのかと考えていると、はやてが話し出した。 「…あのな……斬君にも…」 「……?」 「…大切な人が…居ったんやな…」 「…え…?」 斬は一瞬呆けたように口を開き、少ししてから返事を返した。 「…まあな…」 「………」 はやては一度俯き、ゆっくりと顔を上げた。 「…やっぱり、今でも…?」 「………」 「…好き…なん?」 「……当たり前だよ」 斬は口元に笑みを浮かべて、とても嬉しそうに言う。 「…どんな…」 どんな人だったのかと、はやては言った。 すると不意に斬は、ここじゃない何処かを見上げた。 「……俺が一番大切で……」 ――それは本当に嬉しそうで―― 「……俺が一番憧れて……」 ――それはとても純粋で―― 「……俺が一番護りたいと思った……」 ――そして一抹の寂しさを含んだ―― 「……大切な人だ……」 ――儚い笑顔だった―― 「……今でも忘れられへんの…?」 「…何が有っても…忘れられる訳が…無いよ…」 斬はため息を吐き、悲しそうに顔を伏せた。 「……例えどんな事が有っても、絶対に忘れない…っ!」 そしてはやてに視線を向けた。 はやては顔を俯かせていたが、ゆっくりと視線を合わせた。 「…私…は?」 「……はやては……大切な家族だろ?」 「…そ…うなん…や…」 「……はやて?」 はやての顔を見て、斬は首を傾げた。 何故ならはやては…… 「…何で泣いて…」 「…え?」 何時の間にか、はやては泣いていた。 慌てて涙を拭って言葉を紡ぐ。 「…こ…これはちゃうねん!寂しいとやなくて……そう!斬君にもそんな人居るんやってな!感動したんや!感涙や!」 「…は…?」 「せ、せや!私用事有ったんや!急いで行かなあかん!」 そんな言い訳めいた事を捲し立てながら、はやてはその場から立ち去った。 「………?」 それに斬は、ただ首を傾げるしかなかった。 はやては走っていた。 あの場に居たくなかったから、あのままだと本当に我慢出来なくなるから、彼に迷惑を掛けるから、だから走っていた。 「ひゃっ!?」 「きゃっ!?」 すると誰かにぶつかりそうになった。 「ご、ごめんなさい…」 「いえ……はやてちゃん?」 よく見ると、それはシャマルだった。 シャマルははやてを見て、心配そうな顔になった。 「……どうしたんですか?」 「……シャマル……っ!」 はやてはシャマルに抱き付いた。 シャマルはいきなり抱き付かれて驚いたが、直ぐにはやてを抱き締め返した。 「……あんな…斬君…っ…や、やっぱり………な…っ…」 「………」 「……好き…って…」 はやては、シャマルの胸に顔を埋めて泣いていた。 シャマルは黙って、ぐずるはやての頭を撫でる。 「……大切な人…って……っ!」 ――同じ苗字―― ――同じ装飾品―― ――運命の相手―― 「……好き……なんや…っ…恋人なんや…!」 ――そして血を交えたとは―― 「……夫婦…なん……や…!」「………」 「……あかん…っ…私には無理や…入り込む隙なんか…っ…あら…へん…っ…!」 はやてはシャマルの白衣を握り締める。 「…何でやろな…」 「………」 「……私は好きや……でも斬君は…葉月ちゃん…っ…て…娘…が……」 「………」 「……何で…っ…好きな人が……幸せやのに……」 「………」 「……涙なん…か…っ…出て…っ…まう…っ…や」 「…はやてちゃん…」 「……大切な……か…家…族が……幸せや……のっ…にぃ…っ…」 「…はやてちゃんは悪く有りませんよ…」 「…ひ…ぅっ…ふぇぇぇぇっ!!」 シャマルははやてを強く抱き寄せ、慰めるように背中を擦っていた。 はやては泣いた。 彼への想いを断ち切る為に、また会っても、普通に笑って家族で居られるように、優しい彼に心配を掛けたくないから、悲しい顔をさせたくないから、今ここで泣き晴らそうとしていた。 「………」 斬は、ただ静かに通路を歩いていた。 しかし不意に足を止め、胸元からロザリオを取り出した。 「……っ……」 そしてロザリオを握り締める。 「……まさか今になって……」 視線をさ迷わせ、ここじゃない何処か見上げた。 「……もう直ぐだ……桜花…!」 斬はロザリオを仕舞い、また歩き出した。 「………」 そして、人知れずそれを見つめる者が居た。 「……斬……?」 直ぐそこの通路に、シグナムの姿が有った。 そして、疑惑の眼差しを斬に向けていた。 様々な疑問を抱いた眼差しを――― あとがき 色々と謎の十九話でした。 実は久しぶりにスラスラ書けました。 謎の少女剣咲葉月 剣咲斬と運命で繋がった相手 そこに秘められた想いとは…… しかし斬が呼んだ桜花とは!? シグナムは斬の何を見ている!? 何かが大きく矛盾していないか!? 何で明治前の幕末にロザリオが!? 次回!! ―――はやてが―――? ――――そんじゃあ!! |