管理局では、新たに出た予言が提示された。
余りにも支離滅裂な内容の為、半分以上は無意味かと思われた。
確かに、大規模の災害に関する的中率は高いとは言え、全次元世界の崩壊は度が過ぎている。
それは一時置いておく事になり、アルテミスの事は一つの対策が考えられた。

それは対アルテミスの特別部隊の設営だ。
なるべく高レベルの魔導師達を、遭遇率の最も高いであろうアースラに収容するというものだ。

至極単純な考えだが、悪くは無い筈だ。

正式な部隊の設営は約一月後になっており、その中にはアルテミスへの切り札と言う形で斬、同じくフォースデバイス所有者のユーノもおり、メンバーは管理局でも選りすぐりとも言える者が選ばれていた。


……しかしその中に……

……何故か高町なのはの名前は載っていなかった……


『一触即発の……?』


一面に砂海と岩山が広がる空間、見渡せば、幾つもの砂柱が巻き起こっていた。
巻き起こる度に、ぶつかり合う銀と翠の光が見えた。

「うわぁっ!?」
「!」

銀の方は、攻撃を避けられたが、直ぐに体勢を立て直して、拳を振りかぶった。

「ち…っ…!」

それに翠の方は、舌打ちをしながら手を翳した瞬間、翠に光る障壁が現れ、それに白銀に輝く拳が突き刺さった。

「…ぐ…ぅ……っ!」
「…が…ぁ……っ!」

二つの光は暫く拮抗し続け、障壁に亀裂が走り、砕けて吹っ飛んだ。

「うわぁぁっ!?」
「……っ!」

それに、吹っ飛んで行く以上の速さで追い付き、再び拳を見舞った。

「…ぐ…ぁ…っ…!」

それはそのままに胴に入り、自由落下して行った。

「………」

それを見ながら斬は、落ちていったユーノを見ながら一息吐いた。


一方、落下していったユーノは、無事に牙神に受け止められていた。

「……大丈夫か?」
「…は…はい…何とか…」

すると、ユーノの身体から翠の光が飛び出して来た。

「ユーノパパ!」
「…イリス…」

それに次いで、上から斬が降りてきた。

「悪い悪い、でもさっきのはかなり良かったぞ?」
「ありがとう」

先程までのは、実践形式の模擬戦だ。

因みに、ユーノはイリスとユニゾンしているが、斬は牙神無しで、デバイス代わりに闇桜で戦っていた。

「この数ヵ月でかなり慣れたな?」
「まあね」

ユーノは牙神に降ろして貰い、斬に並ぶ。

「一休みするか」
「そうだね」

そう言いながら、二人は座り込み、座禅を組んだ。
どうやら瞑想をするようだ。

「………」
「………」

二人は微動だにせず、風景と一体化するように座っている。
牙神はイリスと一緒に、邪魔しないように離れた。

「…にしても、よく続くな?」
「ユーノパパは頑張り屋さんですから!」
「………」

イリスの言い方はとにかく、牙神はそれに同意した。
並みの精神の持ち主では、おそらくこうは続かない。

「……想いの力か……」

牙神はそんな事を呟いた。

「……もう随分経ったな……」

それから、二人が瞑想している間、遊んでとせがんでくるイリスと遊ぶ事にした。



時空管理局本局、デバイスルームの一角で、何かが二つ転がっていた。

……人に見える……

「……う…ぅ…」
「……ぐ…ぁ…」

……いや、人だった……

「…マリーさん…生きてますか…?」
「…な…何とか…」

シャマルとマリーは、苦しそうにしながらも立ち上がった。
そしてふらつきながらも、マリーはコンソールを弄り始める。

何故こうなったか、それは少し前の事になる。
昨日の検査で、斬の遺伝子情報を細かく解析した結果、件の設計図が記憶されていた。
案外簡単に見付かったと、シャマルとマリーは設計図のデータを意気揚々とこのデバイスルームに持ち込み、更なる解析を行う事にしたが……

「……何これ……?」

図面を一通り眺めて出た言葉がこれだ。
内容が複雑すぎる上に、解らない部分が多すぎた。
専門家のマリーでもこれなので、シャマルは途中で目を回している。

……多少自信が有ったようだが……

「…言語は古代ベルカ語…大雑把に見ただけの内容でもオーバーテクノロジー並み…」

これではまるで、ロストロギアを一から作ろうとしているような物だ……

「…たかが百年以上も前のデバイス技術だと思ってたのに…これじゃあ…」

これは流石のマリーでもお手上げ状態だ。

……その時……!

「マリーさん、差し入れ持って来ました」

何処かに行ってたシャマルが戻って来た。

「ありがとうございます」

差し入れを受け取り、シャマルと食べ始め……

「……ぐぅっ!?」
「……がはっ!?」

……そして現在に至る……

「………」

それでもマリーは頑張って解析を続けようとしているが、傍目から見ても辛そうだった。
目が虚ろで、顔面蒼白になっている。
シャマルはまだ無理らしく、壁にもたれている。

……恐るべしシャマルの料理……!

「…ぅ…ぁ…っ…」

そして、遂にマリーも倒れ付した。

……しかし……

「…せ…めて…!」

そうして必死に手を伸ばし、キーを叩いた。

すると……

《古代ベルカ語の自動解読を開始します》

……ディスプレイにそう表示された。

それを見届けた後、マリーは力尽きた。

「…マリー…さ…」

そして、シャマルもまた、動かなくなった。


因みにこの後二人は、たまたま様子を見に来た他の局員に見付かり、医務室に運ばれた。



その頃、アースラの食堂では、何だか人が集まっていた。

「もう始めないか?」
「シャマルがまだだぞ?」
「その内来るんじゃない?」

そんな事を言うヴィータ、シグナム、エイミィの三人、更にフェイトにクロノ、アルフにザフィーラとリイン、リンディにレティ、何故かカリムとヴェロッサまでいた。

「……では早速…!」

シグナムが目配せし、エイミィが高らかに言い放った。

「第一回『はやてちゃんと斬君をくっ付けちゃおう会議』を執り行おうと思います!」

それに次いで、皆から拍手喝采が舞う。

「……さて、いきなりだけど……どうする…?」
『………』

その発言に、いきなり全員が沈んだ。
無理も無い、当の本人達に問題が有った。

「はやては最近、無理して笑ってるようにしか見えない…」
「……斬は、恋人さんが出てきたし……」

ヴィータとフェイトの言った通り、斬は恋人が確定してしまったらしく。
それに伴い、はやては斬から手を引こうとしていた。

「…どう見ても、無理してるのは丸わかりだな…」

クロノの意見に、皆が静かに頷いた。

「おまけに斬君、最近家に帰ってないらしいし…」
「スクライアの部屋に泊まっているようだな…」

全員ため息を吐いた。

「……少し良いか?」

そこで、シグナムが口を開いた。

「何?」
「何か良い考えでもあんのかよ?」

ヴィータが明らかに突っ掛かる言い方をする。
幾らはやての為でも、やっぱり気に食わない所が有るのだろうが……

「……そうじゃない、主はやての心境に関しては間違い無いが、斬は少し…」
『?』

全員が頭に疑問符を浮かべる。
それを見て、シグナムは一息吐いた。

「……すまない、もう少し早く言うべきだった…」
「……もしや、あれか?」

ザフィーラが顔を上げた。

「気付いていたか?」
「…辛うじてだが…」
「いやいや、二人だけで解り合ってないで、私達にも説明して欲しいんですけど?」

エイミィに言われ、シグナムは一度断りをいれてから、話始めた。

……しかし、一言で済んだ……!

「……剣咲斬と剣咲葉月の関係に疑問が有る!」
『!?』

それに全員が驚愕した。

「ど、どういう意味!?」
「……言った通りだ……あの時、葉月の事を斬から聞いた時に、斬の様子がおかしかった…」
「…で、でもそれだけで!?」
「…もう一つ有る…」
『!?』

シグナムは、今度は一体何を言うのか!?

「…桜花…と言う者の名を呼んでいた…」
「…桜花…?」
「……それって、桜の花で桜花?」

フェイトが何気無く言った言葉に、シグナムが詰め寄る。

「知っているのか!?」
「う、うん、この前斬が自分で話してて……お姉さんの事を…」
「…成る程、お姉……へ……!?」
『……ぇ……えぇぇぇっっ!!?お姉さん居たのっっ!!!??』

いきなり判明した事実に、一同は騒然とした。

「本当に!?」
「ギガマジで!?」
「信じられない!」
「う、うん、斬が自分を見守ってくれた人とか言ってたし、アリサが絶対そうだって…」

フェイトは気圧され気味だが、何とか返答を返していく。

「……とにかく、斬は人知れずその名を呟いていた…」
『………』
「……それ以来、表面上こそは変化は無かったが、雰囲気が夜月だった頃のそれに戻っていた……」

シグナムは一度顔を伏せた。

「……あれは恋人を想うなんてものじゃない……最早、宿敵を前にしようとする殺人鬼だ…!」

……それに、誰も何も言えなかった。
しかし、それでは斬があの時、はやてに嬉しそうに語っていた事に対する疑問が残る。

「…何か矛盾が有る…」
「…とても大きな…だな…」

それに全員が唸った。

すると、リンディの視界に、席の端の方で話に参加せず、カリムが何かをやっている姿が見えた。

「どうかなさったのですか?」
「……いえ、少し…」

そう言いながら見せたのは、予言の一文が書き出された紙片だ。

「それは、例の?」
「…はい…」

カリムは、管理局に謎の予言を公表していた。
それに伴い何かしらの動きが有ったようだが、結局予言の意味は解らなかった。

「…他は今でも白紙のままで…」
「…そうですか…」
「そう言えばそれって、何時頃にそうなったんですか?」

クロノが何気無く聞いた。

……しかしそれは……

「……確か……」
「……え……?」

……果たして聞いても良かった事なのか……

「それって、斬があの葉月とか言う野郎と会った日じゃねえか?」
「?」

確かに、そう言われてみればその通りだ。
試しに詳しい時間を聞いて見ると……

「……な…っ!?」

……ちょうど、斬と葉月が対面した時と、全く同じ時間だった。

「……一体……どう言う事だ……?」

誰も予想だにしなかった。
ただ、友人二人の関係を進展させようと雑談する筈だった場で、事件に関する何らかの、結び目のようなものを見付けてしまう等……

……そう……

……誰も思わなかった……





その頃、本局の訓練室では、比較的よく見る人物と、比較的珍しい人物が対峙していた。

「……さて、そろそろ実戦だな」
「…うん…」

そう、斬とユーノの二人だ。
実はここ数日、二人はお互いに色々と教え合っていた。

「ここ数日でかなり上達したな?」
「…あんなに数ヶ月もやればね…」

最も、主にユーノが体術の師事を受けていた。

「…だが、実際に身体に身に付いていなければ意味は無い」
「うん」
「早速確かめるぞ、実戦に勝る修行は無いとも言うからな」
「…解った…」

そしてユーノは手を翳し…

「…イリ「待て」…へ?」

後方に控えているイリスを呼ぼうとしたが、斬に遮られた。

「条件は今回も同じで、俺は素手だが、お前も素手で相手をしてもらうぞ?」
「…へ…?」

……一瞬呆けたような顔に成り……

「…え…ええぇぇぇっ!?む、無理だよ!」
「つべこべ言うな、闇桜は使わないから」
「それでも無理!」
「いいから構えろ」


ユーノの後方では、イリスが牙神に連れられて控えていた。

「…ユーノパパ…」
「………」
「……お兄ちゃんと素手でなんて…」
「…あれで意外に間違ってはいないよ」
「へ?」

そう言われ、イリスは牙神を見上げる。

「お前の問題点は解決しているからな、次の問題点を叩くのは当たり前だ…」
「…でも…」
「…安心しろ、ユーノなら上手くいくさ、それにこの問題点を解決すれば…」
「すれば?」
「…ユーノは私達と大差無い力を手にする…戦う事の出来る力を…守る為の力を…」

そうして牙神は、対峙する二人に視線を向けた。


二人は距離を置いて向かい合っていた。

斬は力を抜き、楽そうな体勢で、爪先を叩いている。
しかし目は、油断無くユーノを見ている。
一方ユーノは…

「……ユーノ…」
「な、何?」
「…腰が引けてる…」
「…あ…」

何と言うか、逃げ腰と言った感じだった。

「あんだけ俺と戦ってただろ?」
「で、でもあれは、イリスも居たし…」
「それだ」
「……へ?」
「魔導師ってのは、デバイス使って魔法を使うが、無しで使う修行もする……何故だ?」

ユーノは、疑問を抱きながらもそれに答える。

「…それは…常にデバイスを使えるとは限らないし、デバイス無しで訓練すれば、デバイスを持った時に、より効率良く魔法が使えるから…」
「成る程な…ならこれも同じだろ?」
「?」
「フォースデバイスは、フォースを引き出し、使用する際の補助をしてくれる」
「…うん…」
「つまり、使ってるのが魔力かフォースかの違いだけだ」
「…あ…!」

それでユーノは気が付いた。

「……常にデバイスが使えるとは限らない……フォースデバイスも同じだ……お前自身がフォースを使えるようになれば、イリスの負担も減らせて、より効率良くフォースを使える…」

ユーノは黙って斬の話を聞いている。

「……お前はもう、身体がフォースの使い方を覚えている筈だ、自信を持て…」

そう言いながら、右足を半歩引いた。

「…うん…!」

それを見て、ユーノも構えを取った。

「…よし、早速!」
「うん!」
「お前の身体から、フォースを引きずり出すぞ!」
「うん……へ?」

……引きずり出す……?

「…それって…?」
「…使い方がまだ解らないんだろ?」

そう言われ、ユーノは頷いた。

「これから俺が殴り掛かるから、避けるように…」
「ええ!?」
「大丈夫、出来る限りは加減するつもりだ」
「……出来る限り……?」
「ああ、死なんと思うが……まあな…」

斬は少しばつが悪そうに余所見をした。

「いやいや!不安だよ!?」
「出来る限り軽傷……骨折で!」
「軽くないよ!?」
「いくぞ!」
「無視!?」

次の瞬間、ユーノの身体は吹っ飛んでいた。


多少離れた場所で、その様子を見ている牙神とイリス……

「パパ!?」
「………」

イリスは悲鳴のような声を上げ、牙神はやっと始まったのか、と言った顔をしている。

「パ、パパが!ユーノパパが!」
「…そうだな…」

因みに、イリスは今すぐにでもユーノの下に飛んで行きそうだが、牙神に手を握られている為に動けない。

それにしても、何とも言えない光景だった。

まず、最初の一発で後方に吹っ飛び、床に落ちるか落ちないかで斬が追い付いており、更に殴り飛ばした。

殴り、追い付き、また殴る。

そんな風に、暫くユーノは床に落ちず、空中を跳ね回り続けた。

「パパが!パパが!」
「大丈夫だ、斬の手をよく見ろ…」

そう言われ、斬の手を見た。
注意深く見たら、足はとにかく手に纏っているフォースは、比較的薄く見えた。

「…あれって…」
「あれなら、当たっても大した事は無いだろ…」

それにイリスは、ホッと一息吐いた。

………しかし……

「…それでも痛いですよね…?」
「…まあそれなりの威力は出てるし、吹っ飛んでるからな…」

………………


……そして……


暫くしたら、ボロボロになったユーノが横たわっていた。

「…ぅ…っ…」
「おい、大丈夫か?」

斬が心配そうに尋ねた。

……自分でやっといてそれは無いだろ……

「…痛い…」
「そりゃ、ちゃんと受けたり避けたりしないからな…」

更にダメ出しまでされた。

「…で…でも…」

そう言いながらも、治療魔法を使いながら上体を起こした。

「教えた筈だ、フォースは感情から生まれて本能で作用する、同じ魔力でも、気力や感情によって、精製されるフォースの強弱も違ってくる」

斬はゆったりとした足取りで、ユーノに歩み寄る。

「戦う時は『闘争本能』守る時は『防衛本能』負傷した時は『生存本能』でフォースは作用する」

そして、ユーノの隣に腰を下ろした。

「今だって、今までのお前だったらそんな風にしていられない筈だろ?」

ユーノはゆっくりと、隣に目を向けた。

「あの日以来、身体の調子が良かったり、怪我の治りが早くなったりとか感じないか?
もう無意識に、お前はフォースを使ってるんだ…」

そこには 優しい笑みを浮かべた斬が座っていた。

「………」

ユーノはそれが誰かも忘れて、その笑顔に暫く見惚れていた。

「…最初は魔力でも良いさ…」
「…え…?」

そう言いながら、斬は立ち上がる。

「…少しづつで良いから、身体で覚えろ…!」
「…うん…!」

そう言い、ユーノは魔力を纏いながら立ち上げがった。

「…いくぞ…!」

そして斬は、また殴り掛かった。

「…ぐっ…!」

ユーノは吹っ飛ぶが、今度は腕を引き上げて防いだ。
そして、追い付かれて殴られた時も、一応防げた。

「……っ!」

それに更に追い縋るが、ユーノは体勢を立て直し、床に着地した。
そして斬に向かい合う。
それに斬は突っ込んで行き、殴り掛かった。


その様子を、牙神は感心したように、イリスはオロオロとして見ていた。

「…中々だな…」
「?」

最初はやられっぱなしだったが、ユーノも段々斬の動きに反応し、対応しだしている。
これは……

「…やはり、才能は有ったな…」

牙神は、やれやれと言った感じに一息吐いた。


ユーノは、自分自身に驚いていた。
先ずは、身体中を何かが駆け巡っているように熱く。
そして手足がとても軽い、まるで重さを感じないようだ。
相手をしている斬の動きも、まだまだ早いが、先程までよりは捉える事が出来る。

(……これって……)

そしてその感覚は、未だに不安定だが、時間が経つに連れて段々安定してくる感じがする。

(…凄い…これがフォース…っ!)

そしてユーノは、身体を駆け巡っているそれに身を任せ、跳んだ―――ッ!


斬は内心驚いていた。
ユーノの動きが格段に良くなった。
喜ぶべき事だが、それ以上に驚くべき事だ。

(…やるな…!)

そうして斬は、身に纏っているフォースを、更に全身に行き渡らせた。

「手加減はここまでだ、真面目に相手してやる!」

そして斬は、ユーノの動きに合わせて跳んだ―――ッ!


傍目から見て、二人の動きは異常だった。
先ず、二人は飛行魔法を使っていない筈、それなのに飛ぶように走って、もの凄い速さで攻防を行っている。
それも、歴戦の陸戦魔導師も真っ青な速度でだ。

たまたまそれを見た局員は唖然とした。
斬はまだ、色々と噂されているから解るが、無限書庫に引きこもっていて有名なユーノが、それと対等に渡り合っているから驚きも一押しだ。

更にユーノは、斬から蹴りを食らったが、そのまま足を掴み。

「なっ!?」

……ジャイアントスイングして……

「おおおぉぉぉぉっ!!」

……放り投げた!

「うおぉぉっ!?」

しかし、斬は体勢を立て直して着地した。
そしてユーノの方を見ると、斬に真っ直ぐ目を向けていた。

「…合格だ…」
「…うん…」
「…その感じを忘れるなよ?」

……斬は笑った。

「…もっと強くなれ…俺も本気出したいしな…」
「…へ…?」

……何ですと……!?

「…だって…」

次の瞬間、斬の姿が歪んだと思ったら、ユーノは身体が持ち上がっていた。

「…え…?」
「…これじゃあまだまだ…だからな…」

よく見ると、ユーノは何時の間にか斬に首根っこをひっ捕まれ、身体を掲げ上げられていた。

「………」
「まあ、まだ使えるようになったばかりだからな…」

そう言い、斬はユーノを下ろした。

「…気を落とすな…」
「…凄いね…」

ユーノのは、斬の底知れない実力に、改めて驚いた。

「てか、これは属性の優劣で見たら当然の結果だ…」
「?」

唐突に言った言葉に、ユーノは疑問符を浮かべた。

「ユーノは、最初『土』かと思ったけど『大地』とも違うし、どっちにしろ『土』の系統で、あんまり速く動けないな…」

――土――
その名の通り、土を操作して操る属性
色んな形にして相手にぶつけたり、人形を造って戦わす事も出来る。
土の無い場所では用途が極端に下がる。

――大地――
地面を操作して操る属性
土のように細かい操作に向かない分、大質量の土や地面を操る事が可能、また地震を起こしたり、地盤にまで働きかける事も出来る。
土同様に、土や地面が無い場所では用途が極端に下がる。

尚、これら『土』系統は、身体強化する際、スピードよりパワー面重視で強化される傾向が有る為、あまり速く動けない。

「…じゃあ斬は…?」
「俺は『凩』だ」
「…こがらし…『風』じゃないの?」
「言っただろ『風に類する』って…」

――風――
空気の流れに働き掛け、真空の刃や壁を生み出す属性
攻防のバランスも良く、強力だが扱いが難しい。

――木――
木々や植物の力を借りる事の出来る属性
木々から魔力や生命力を分けて貰ったり、逆に送り込んで成長を促したりと、通常では干渉出来ない魔力を使う事が出来る。

――凩――
風の属性と木の属性の力を同時に使える属性
メインは風を使う事が多いが、木々や植物の助けを借りる事も出来る。
また、二つの属性の力が使える分、発現出来る者が希少な属性でも有る。

尚『風』系統の属性は、高いスピードや機動力を誇るが、その代わり防御出力がやや低い。

「……てな感じだな、お前の場合は攻撃を『避ける』より『受け止める』方が属性を活かせるかもな」
「…『受け止める』…?」
「……おい待て、フォースで防御魔法使えば良いだろ?」
「…あ…そっか!」

そんな風に、残りの時間はフォースの上手い活用法の話し合いで終わった。





管理本局の通路を、はやてはぼんやりとした足取りで歩いていた。

「………」

頭に浮かぶのは、自分が未だに想っている彼の顔……

「…っ…」

しかし、次いで浮かぶのは、彼と想い合っているだろう彼女の顔……

「…な…んで…?」

そう、八神はやてはまだ、剣咲斬の事が好きだった。
そしてその感情が、はやてを苦しめていた。

彼にはもう相手が居た。
しかし、それでも嫌だと言う自分が居た。

「…もう…嫌…や…!」

まだ、彼を想うのを止めようとした時は、彼は家族としては傍に居てくれた。
自分もそれで良いと思った。

……でも今は……

……家族としても触れ合えない……

「…斬…君…」

……彼が家に帰って来なくなった……

……その時気が付いた……

……自分は……

……ただの家族では……

……嫌だと……!

「…嫌…や…」

――彼に名前を呼ばれたい――

「…いや…や…」

――彼に頭を撫でられ、抱き締められたい――

「…や…や…っ!」

――彼に――

――彼に――

「…ひ…っ…ひく…っ…」

――彼と一緒に居たい――

――ずっと一緒に居たい――

「…斬…く…ん…」

――彼の隣に居たい――

――自分は――

――自分は――ッ!

「…ざ…ん…く…ん…っ!」
「呼んだか?」
「!?」

いきなり背後から聞こえた声に、慌てて振り向くと……

「…はやて…?」

……自分が会いたいと思い……

……同時に会いたくないと思っていた……

……彼が居たい……

「……ぁ…っ…!」
「…どうして泣いてる?」
「…え?」

顔に手をやると、濡れていた。
何時の間にか泣いていたらしい。

「…いや…その……あ、足の小指をそこの角でぶつけたんや!」
「成る程な、あれは痛いよな」
「………」

――信じるか普通!?――

はやては内心そう思った。

「…それじゃあ、何で俺の名前を言ってたんだ?」
「…え…あ…」

はやての目から、また涙が滲んできた。

「…はやて…」

斬はその様子を見て、心配そうに……

「…そんなに痛むのか?」

なら治療魔法とか使えば、とか的外れな事を言ってきた。

「……せやな……」

はやては意気消沈して、適当に相槌を打つ。

斬は、シャマルの所に連れて行こうかと、考えを巡らしていた。

……すると……

「…あ…あの…!」
『?』

斬が後ろから誰かに呼ばれた。
そちらに目を向けると……

「…え…えと…」

斬やはやてより、少し年下らしき少女が立っていた。
少女は二人に一斉に見つめられた為、恥ずかしそうに身を縮ませる。

「どうした?」
「…あ…っ…その…」
「………」

斬が目線を合わせて問い掛けると、少女は頬を赤らめて顔を背ける。

(……これって……)

その様子にはやては、何だか嫌な予感がした。

「…こ…これ…を…!」
「へ?」

少女が差し出したのは、一通の封筒だった。

「…文…?」

因みに『文』とは、現代で言う『手紙』です。

(ラブレターや!!)

『ラブレター』とは、意中の相手に送る『愛の手紙』です。

「へ…返事は…後で…い…良いですから…!」

そう言い残し、少女は走り去った。

「………」
「…はやて…!」

斬か急に真面目な顔をして、はやてを見た。

「な、何っ!?」
「この文って……」
「…っ…」
「…何だ?」

はやては転びそうになった。

「…ラブレターや…」
「…ら…ぶれた…?」
「…恋文って言ったら解る…?」
「こ、恋文だと!?」

斬は驚いた顔になり、はやてはため息を吐いていた。

「…こんなもん貰うの…生まれて初めてだ…」

そりゃまあ、前世では人斬りでしたしね?
現世でも無関係でしたし……

「…っ……さて…」

一通り驚いてから、斬はその飾り気に欠けた白い封筒を開けた。
はやては正直な所、気にはなったが、覗くのは自粛した。

「…これ…は…っ!」

斬は一瞬だけ目を見開き、物凄い早さで手紙を読んでいった。

「……成る程な…」
「?」

斬は一言漏らして、手紙を畳んだ。
……口元がつり上がっていた。

「…何て書いとったん…?」

はやては、気になったので聞いてみた。

……すると斬は……

「ああ、近い内に二人っ切りで会いたいってさ♪」

にっこりと笑って、そう言った。
これでもかと言う程の満面の笑みだった。
そんな顔を見た瞬間、はやては頭に雷が落ちた気がした。

「…会うん…?」
「当然!」
「…嬉しい…?」
「当たり前♪」
「…何で…?」
「秘匿事項だ」
「…さっきの娘可愛かったな…?」
「?」

はやては、顔を俯かせて絞り出すような声で言う。

「…嬉しいんや…?」
「まあな」

斬の、幾多の戦場を潜り抜けて鍛えられた鋭い勘と洞察力も、こう言う事に関しては、意味を成さないようだ。

「…私…は…?」
「は?」
「…斬…君に…とって…大切…?」

はやては震える声で、言葉を紡いだ。
その目には、涙さえ滲んでいる。

「…当たり前だ……『家族』だろ?」

それに斬は、あっけらかんと言いはなった。

「―――ッ!」

それを聞いた時、はやての中で何かが弾けた。


――家族――

――自分はただの――

――家族――ッ!?


「…斬…君…の…」
「?」
「……斬君の……っ!」


――自分は家族なのに――

――何故あの娘に――

――あの娘に――

――あの娘にだけ――

――自分にも見せないような笑顔を――ッ!?

――何故――

――何故――

――何故――ッ!!?

――何故自分の想いに気付いてくれない――

――何故あんな女の子を――ッ!!!


「……馬鹿―――ッ!!!!」

はやては叫びながら、腕を振り上げ……

「…え…っ?」

……辺りに乾いた音が響いた。

「………」
「…はぁ…はぁ…はぁ…」

それは、斬がはやてに頬を叩かれた音だ。

はやては大きく息をしている。

「…はぁ……はぁ…っ!?」

そして呼吸が落ち着いて来ると、自分が何をしたのか自覚してきたのか、表情が青ざめていった。

「……っ…!」

そして自分の手と、先程叩いた斬の頬を見比べながら、声にならない声を漏らす。

「…そ…その……あの…」
「………」

何とか弁解をしようとしたが、斬は無表情で、叩かれた頬に手を添えていた。
そして、何も言わずにはやてを見つめて来た。

「…ざ…斬…く…」
「………」

はやては手を伸ばそうとしたが、斬は無意識にその手を避けた。

「!?」
「……はやて……?」

斬は静かにはやての名前を呼ぶ。
そしてはやての顔をじっと見ている。

「…ぁ…っ…」

はやてにはそれが、まるで自分を攻めているように見えた。

何故自分は叩かれないといけない?
自分は何か悪い事したのか?
悪いのは全部お前だろ?
お前が悪いのに何で?
それなのに何で自分を叩いた?
何でだ?

……その視線は、はやてにはそう訴えているように見えた。
そのような、拒絶の意識が込もっているように感じた。

「…ぁ…や…っ…!」
「はやて?」
「!?」

そしてはやては……

「…ぃ…いやぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!!」

叫びながら、その場から走り去ってしまった。

「はやて!?」

彼が呼ぶが、そんなの関係無かった。
一刻も早くこの場から離れたい、それだけしか頭に無かった。


そして暫く走り続け、立ち止まった時に気が付いた。

――自分は何をしている!?――

「………」

――自分は何故あの場から逃げ出した!?――

「……ぁ……」

――何故せめて、彼に謝罪を述べなかった!?――

「……ゃ……」

――何故一刻も早くあの場から離れたかった!?――

「……ぇ……」

――それは自分が傷付きたくなかったから――

「……ぁ……」

――自分が傷付きたくない一心で――

「……ぅ……」

――彼を傷付けた――

「!?」

――彼は深く傷付いた筈だ――

「……ぁ……」

――そしてもう、自分の事など嫌ってしまっただろう――

「……ぁ…ぁ……」

――もう自分に笑い掛けてくれない――

「……っ……」

――次からは拒絶されるだろう――

――いや酷く罵倒されるだろう――

「……や…や…っ…」

――もう彼は――

「…いや…や…っ…!」

――自分を――

「…ぁ…ぁあ……ああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

はやては膝を付き、泣き叫んだ。

「…ぁ…っ…ざ…くん…」

そしてはやては、その場に倒れてしまい……

「…ご…め…っ…なさ…」

………意識を失った。



その頃斬は、ぼんやりとした足取りで、通路を歩いていた。

「………」

そして、先程はやてに叩かれた頬に手を添えてた。

「…馬鹿…か…」

そう呟き、軽く苦笑する。

「…そうかもな…」

あの程度の平手打ち、斬なら難なく受けるなり避けるなり出来た筈だ。
しかし、反射的にそうしようとした瞬間、はやての顔が目に入った。

……酷く悲しそうな顔が……

「…そっか…はやては…俺を…」

斬は俯いたまま、立ち止まる。

「…はやて…」

そして、自分にとって大切な少女の名前を呟き、また歩きだした。



あとがき



結構長くなった二十二話です。
何か様々な謎とダークなのが入り雑じりました。

はやては酷く自己嫌悪に陥り、斬は何かに気が付いた。
やっと斬に想いが伝わったかもしれないのに、寧ろ関係が後退、悪化した。

斬と葉月の関係は一体!?
予言は何を指している!?
そしてはやてと斬は今後どうなる!?

はやての悲痛な思いが伝わっていただければ、書いたかいが有ります。
実を言うとあんまり自信無いですからね……


さて次回!


斬君、お手紙の返事に向かいます!


―――じゃ!





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