――そこは、とある無人の辺境世界、見渡す限りに濃霧が立ち込めており、視界が殆ど効かない。 「…ふぅ…」 そんな中を、斬は歩いていた。 「……こっちか…」 時折周囲を見ながら、何処かに向かっていく。 その足取りに、迷いは見られない。 斬は、霜が張っている地面を踏み締めながら、歩いていく。 ……そして暫く歩いていくと…… 「………」 目の前に、小高い丘のような物が見えて来た。 「……居るな……」 そしてそこに、誰かが座っていた。 「…よお…」 それは斬より、幾分か年上の青年だった。 しかし、その顔立ちは…… 「…よく来たな?」 ……斬によく似ていた…… 「………」 「会いたかったよ…」 「………」 「俺はな…」 「………」 斬は、その青年が何か喋っている間も歩みを止めず、そのまま青年の方に向かっていく。 「今まで生きてきた中で、お前の事を考えた無かった事が無いんだ…」 「………」 「…だから俺はお前を…!」 「………」 ……しかし斬は……! 「………」 「……へ……?」 ……………そのまま、青年の隣を素通りしてしまった。 「……この先か……」 そう呟き、そのまま何処かに行ってしまう。 ――どうやら、今の『居るな』は、この青年の事を指したのでは無かったらしい―― 「………ちょっっっと待て〜〜いっっ!!」 「ん?」 「『ん?』じゃねえ!何で無視するんだよ!?」 「ああ、悪いが女を待たせてんだ、お前に構ってる暇は無い」 そう言いながら、封筒をちらつかせる。 「ふざけんな!!」 「真面目な話だ」 「いいから俺と…」 「時間の無駄だ…」 「だから待てぃぃっ!!」 青年は待ったを掛けるが、斬は無視して先に行ってしまう。 ……すると青年は、斬の前に立ち塞がるように出て…… 「待てよ……『No.14』!」 「!」 斬はその言葉に目を見開き、思わず足を止めた。 「何か気にさわったかよ『No.14』?」 「…十四…?」 「……何だ、知らなかったのか?お前を蘇らせたのと同じ技術で作成されたクローン体は、全部で五十体は居た…」 「!?」 「そして、その中で生き残ったのはたったの三体…」 「………」 「そして、最終的に成功体と認定されたのは…」 「?」 そして青年は、ゆっくりと斬を指を指す。 「…お前だけだ…」 「………」 ……そしてその目は…… 「お前はその、十四体目の実験体だ…」 ……強い敵意が込められていた。 「……あの御方が唯一無二欲した存在だ…!」 「?」 「…この俺では無くお前が…お前ごときが!」 青年は歯ぎしりをし、斬を更に睨み付けた。 「何故だ!?何故お前のような奴が!!お前のような忠誠心の欠片も持てなかった奴が!!?」 「……?」 「何故お前のような失敗が成功と称され!!俺が失敗と称され冷遇されなければならない!?」 青年は叫び続ける。 今までの何かを吐き出す様に、更に叫び続ける。 「お前に解るか!?生まれて最初に掛けられた言葉が『グズ』だと!!『ただのゴミ』だと言われた者の気持ちが!!!」 「!」 「それも!自分が最も思いを馳せる御方に言われた者の気持ちが!?」 「………」 「何かの役には立つだろう程度の!どうでも良い扱いで生かされた実験体の気持ちが!!」 「……っ…」 斬の口が僅かに動く、しかし青年はそれでも叫び続ける。 「そのまま実験動物以下の扱いでッ!!酷い虐待を受け続けた者の気持ちがッッ!!!貴様が居なくなっても人並み以下の自由も無い気持ちがッッッ!!!!」 「……ぇ…ょ…」 「解るのかよッッッッ!!!??失敗したゴミ以下の『No.8』の気持ちが解るのかよ『No.14』ッッッッッッ!!??!!?!?」 「……っ…!」 「何で貴様ら見たいなあの御方を尊敬もしないような……ッッ!!!」 「……うるさい……」 「!?」 「……解る訳無いだろ……」 ……青年がまだ何かを捲し立てようとしたが…… ……斬は静かに遮った…… 「……お前の事が……俺に解る訳無いだろ……?」 ……決して大きな声では無かった…… ……だが…… ……その言葉は辺りによく響き渡った…… 「……お前に俺の気持ちが解るか……?」 「………」 「…なら……解るだろ…っ!?」 ……斬は静かに…… ……だがしっかりと…… ……青年の言葉を否定した……! 「…な…何を…!?」 しかし青年は、斬を睨んで何か を言おうとするが、斬がそれを遮った。 「…解る訳が無い…」 「…っ…」 「……一方的にこんな時代に蘇らされて……こんな事させられてる……俺の気持ちが……お前に解んのかよ!!?」 そして斬の全身から、圧倒的な威圧感が発せられていた。 「…う…うるさいんだよ!お前が全部悪いんだろ!?」 「…っ…」 青年は逆ギレし、勝手に斬に何か言い出す。 それに斬がため息を吐くと、何か青年の気に触ったようだ。 「……俺を今までの『レプリカ』と一緒だと思っているのか……馬鹿が!」 そう言う青年の身体から、黒い何かがにじみ出して来た。 「俺のフォースデバイスは『オリジナル』だ!」 そしてその黒い物体が、何かを形作り始めた。 ……それは…… 「…見ろ…俺のデバイスを!」 「…龍か…」 ……細長い肢体の…… ……強靭そうな鋼の黒龍…… 「…そうだ…解るだろ?」 龍は低いうなり声を上げながら、斬に顔を向ける。 「…お前はこいつには決して勝てないってな!」 「………」 しかし、斬は何も答えず、そのまま青年との距離を縮めていく。 「…何だ…?」 「………」 そして斬は、そのまま青年の横を通り過ぎた。 「………」 しかしそれでも、斬は歩みを止めず、そのまま本来進もうとしていた方に、真っ直ぐ歩いていく。 それに青年は怪訝に思い、斬に振り向く。 「…何がしたいんだ…?」 「………」 だが、斬は何も言わない。 「…っ…何とか言…っ!?」 すると、青年の様子が突如変化した。 「……ぁ……っ!」 ……いきなり身体が硬直したかと思った瞬間…… ……全身を縦横無尽に斬りつけられていた…… 「…っ……?」 ……そのままうめき声も上げず…… ……倒れて動かなくなった…… ……そして黒龍の方も…… ……何時の間にかその身を切り裂かれて…… ……その場に蹲っていた…… 「……神魔双天流……」 ……そして斬の手には…… 「……劣義『黒翼五月雨』……」 ……何時の間にか白銀の太刀、牙神が握られていた…… 「……全く気付けないなんてな……お前には至極がっかりだよ……」 そして斬は、倒れた青年を一瞥した後、再び歩きだした。 『――Fの覚醒――』 その頃、時空管理局本局では、困った事が起きていた。 「居たか?」 「ううん…」 「駄目だよ、何処にもいない!」 クロノ、フェイト、エイミィの三人は、先程まで走って荒れた息を整えながら、自分達の結果を報告していた。 「まったく、ユーノの奴は何処消えた?」 そう、彼らはユーノを捜していた。 「シグナム達や、他の人にも手伝って貰ってるのに見付からないなんて…」 少し前に、訓練室で目撃されたらしいが、今は何処に居るのか不明だ。 「ユーノと一番最後に会ったのは斬のようだが…」 「じゃあ斬に聞ければ…」 「…あ…それ多分無理だよ…」 『?』 クロノとフェイトが声の方に振り向くと、エイミィが苦笑していた。 「多分斬君、何処か別の世界に行っちゃったよ…」 「は?」 「何で?」 「……ユーノ君を捜す少し前かな……」 「……エイミィ」 「ん?」 エイミィは何の前触れも無く、いきなり後から声を掛けられた。 「ああ、斬君?」 「聞きたい事が有る」 「?」 唐突に斬は切り出す。 「砂漠だ」 「砂漠?」 「ああ、砂漠…熱砂の次元世界を知らないか?」 「?」 よく解らないが、つまりは砂漠の世界に行きたいらしい。 「それなら……」 「……で、転送ポートとかで次元世界を調べたりも出来るから、それで調べたらって教えたんだけど…」 「…となると…」 「…もう居ないね…」 そして三人は腕を組んで悩む。 するとフェイトが何か閃いた。 「そうだ!なのはなら何か知ってるかも!」 「ん?」 「ああ、確かに!」 そして三人は、なのはの病室に向かった。 「……知らない……」 なのはは三人の方を見向きもせず、簡潔に答えた。 「そ…そうなんだ…」 「それじゃあ斬は?」 「………」 なのはは何も言わずに、顔を伏せた。 「…ごめんね…少し一人になりたいんだ…」 「…あ…うん…」 「…そ…そうなんだ…」 「…ご…ごめんね…」 そして三人は、病室から出ていった。 「……っ…」 それからなのはは、小さくしゃくり上げ、静かに泣き始めた。 なのはの病室を後にした三人は、途方に暮れていた。 「…なのはも知らなかったか…」 「それにしてもなのは…」 「どうしたの?」 フェイトは一つ頷く。 「……ううん、何でも無い!」 しかし、直ぐに首を振りながら、顔を上げた。 「そう言えばさ、斬君ってどうしていきなり砂漠に行ったのかな?」 「さあ…」 「…あ…それね…」 フェイトは少し顔を伏せ、悲しそうな顔をした。 「……実は、はやてと…」 「?」 「はやてちゃんと?」 「…うん…」 そして、フェイトはゆっくりと話し出した。 「シグナムに聞いたんだ……」 聞けば、通路ではやてが倒れているのを見付けたらしい。 特に外傷も見られなく、一安心した。 ……しかし、はやてが目を覚ますと、急に何かに怯えるように震えだし、泣きながら謝り出して、暫くしたら少し落ち着いたらしいが、それでもまだ、怯えたように震えていたそうだ。 「……多分、斬と何か有ったって…」 『………』 はやては、今日はもう大事を取って部屋で休んでいるそうだが、それでもまだ泣き続けている。 何があったか聞こうにも何言わず、たまにうわ言のように斬の名前を呟いていた事から、斬と何か有ったのは間違いないそうだ。 「…ふ〜ん…」 それを聞いていたエイミィは、何を思ったか懐から携帯端末を取り出し、何処かに連絡を取り始めた。 「…もしも〜し…ふんふん…で…?」 『?』 クロノとフェイトは、首を傾げてそれを見ていた。 そして暫くすると、目の前にディスプレイが表示された。 「ほいっと…!」 「?」 「何これ?」 「見てれば解るよ?」 そう言われて見ていると、泣いているはやてが映し出された。 『…ざ…ん…く…ん…っ!』 『呼んだか?』 『!?』 「……これって…!」 「はやてと斬の?」 「そう、少し前に二人が会った時の映像記録」 「…で…でもどうしてこんな…」 不意にフェイトが尋ねるが、エイミィは何故か良い笑顔で… 「フェイトちゃん、世の中には知らない方が良い事も有るんだよ?」 「…う、うん…」 ……何とも言えない迫力が有った。 「………」 それを見ていて、クロノは何とも言えないため息を吐いた。 『…どうして泣いてる?』 『…え?……いや…その……あ、足の小指をそこの角でぶつけたんや!』 『成る程な、あれは痛いよな』 『………』 一方ディスプレイは、ちょうどそんなやり取りを映していた。 そして、斬が女の子から手紙を貰い、それではやてが癇癪を起こして、斬を叩いてしまった事。 『…ぁ…ぁあ……ああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!』 そして、はやてが自己嫌悪で泣き叫び、気絶してしまった事も、全てが記録されていた。 「………」 「…はやて…」 「……これじゃあ…塞ぎ込んでも仕方無いね…」 エイミィは額に手を当て、困ったように呟いた。 「……さて、斬君は…?」 そして画面を切り替えて、ちょうどその時の斬の姿を映した。 『……行くか……』 ……その時の斬は…… 「…っ…」 「…え…?」 ……何かとても遠くを見据えた目をしていた。 「…斬…?」 「……えと、斬君はさっき……ラブレターを貰って舞い上がって…え…?」 フェイトとエイミィがしどろもどろにしている。 「……舞い上がってたって言うより……」 『?』 「……何か、もっと違う…!」 三人は頭を突き合わせて悩む。 ……ふと、フェイトが何かに気付いたように顔を上げた。 「ねえ、エイミィ」 「ん?」 「今の画面って、もっとピンポイントに映せたりしない?」 「例えば?」 「例えば……あの手紙の文面とか…」 「それだ!」 それを聞いた途端、エイミィは手早く端末を操作して、画面を切り替えた。 『っっっ!?』 そして三人は、その手紙の文面を見て絶句した。 ………何故なら………! 『……よ…読めない……!』 …………読めなかった………… 「…これって一体…」 「…日本語…だよね…?」 「…そうらしいが…」 ……日本語だった…… ……確かに日本語だった…… ……ただ…… 『…読めない…』 ……字が汚くて下手くそな訳では無い…… ……だが読めなかった…… 「…どうしよう…」 「てか、これ漢字……だよね?」 「…しょうがない、地球に行って、誰か読める人に解読して貰おう」 そう話しながら、三人は歩き出した。 とある管理世界、そこは緑が生い茂り、自然に溢れた美しい場所だった。 そしてそんな草原を、一人の少年が歩いていた。 「………」 顔を俯かせ、おぼつかない足取りで、それはまるで幽霊のように見えた。 「……嘘だ……」 ただ静かに、そう言った。 「……嘘だ……」 目元に涙を浮かばせ… 「…嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ…!」 少年は…ユーノは、ただそう繰り返し言い続ける。 「…嘘だ……嘘だ…っ…!」 ……事実を受け入れなくて…… 「…嘘だ……嘘だ――――――ッッ!!!」 ……彼は叫んだ…… 「…ユーノパパ…」 「……僕のせいだ……」 「………」 「……僕のせいで……」 そのまま、ユーノはその場に膝を着く。 「…なのは…」 「………」 「…なのは…っ…!」 「……」 イリスは何も言わず、ユーノの背にその身を預けた。 「…僕が…なのはに…出会わなければ…」 「…パパ…」 「…なのはは…っ…」 「…ユーノパパ…」 イリスはユーノに擦り寄るように抱き着いた。 「…ユーノパパのせいじゃ有りません…」 「…イリス…」 「…ユーノパパのせいの筈…無いじゃないですか…!」 イリスの目元からも、雫が伝った。 「…でも…」 「…なのはママも…ユーノパパを攻めてる筈有りません…」 「………」 そして暫し、二人の啜り泣く声だけが、その場を包んだ。 ……すると…… 「あーくそっ!」 『?』 ユーノとは違う、何か憤慨したような声がした。 声の方に顔を向けると…… 「ちっ!むかつく!」 「まあまあ、落ち着いて…」 「にゃっ!」 何処かで見知ったような二人が、こちらの方に歩いて来ていた。 「もう、飲み過ぎだよ!」 「うるせえ!これが飲まずに居られるか?」 そう言いながら、少年はコーラのペットボトルをらっぱ飲みしていた。 ……と言うか…… ……おもいっきりアルテミスメンバーの…… ……雷の少年と猫の女子高生だった…… 「……ん?」 「はれ?」 そして二人は、目線の先に居るユーノ達に気が付いたようだ。 「…あれは…」 「あ!ひっさしぶりだね?」 少年はユーノを見た瞬間、嫌悪感を漂わせる。 しかし少女の方は、ヤッホーとやけに親しげに話しかけて来た。 「どしたの、元気無いね?」 「…はい…」 そして、そのまま三人(ユーノ、イリス、少女)で並んで座る。 「ちょっ!僕は!?」 ――ぶっちゃけ無視っすね!―― 「…はい…」 『…ありがとうございます…』 ユーノとイリスは、少女からエクレアを受け取った。 ……しかし一向に食べようとしない…… 「……どうしたの?」 「…なのはが…」 「なのは?」 なのはと聞いて、少女は思考を巡らせる。 そして、管理局の注意人物にそんなのが居たのなと、思い出した。 「……それって……」 「ああ、あの『砲撃馬鹿』か?」 『…え…?』 「………」 少女が何かを言おうとしたら、少年がそれを遮った。 「…何で泣いてんのかと思えば、あんなのの事かよ?」 「……あんな……」 「ああ、大丈夫かお前?あんなぶっ放すしか出来ない能無しの事で悩むなんて…」 「!」 『!?』 ユーノが目を細める。 そして、ユーノの変化に敏感に反応して、イリスと少女は慌てて離れた。 しかし、少年はそれに気付かず…… 「だってそうだろ?あのグズって撃つしか出来ないし、それ以外に何が有る?あんなの馬鹿だよ馬鹿!」 「………」 「…いや、カスで十分だ!」 「――ッ!?」 ……更になのはの事を罵倒し続ける。 『………』 イリスと少女は、十分に距離を置いてその様子を眺めていた。 「……取り消せ…」 「は?」 ……ユーノは顔を俯かせ…… 「……さっき言った事を今すぐに取り消せ……」 「……何言ってんだ?」 ……絞り出すような声で言う…… 「…取り消せ…」 「……取り消す事なんて何も無い、事実だろ?」 「………」 ……その身体からは…… 「あんなクズ女なんかに弁解する言葉なんか有るかよ?」 「……――――ッッ!!?」 ……異常な程の魔力が…… ……フォースが…… ……にじみ出していた…… 「……お前に……」 「?」 「……お前になのはの何が解る…?」 「……解りたくも無いね、あんな蛮人なんかな…!」 「………」 ユーノはゆっくりと顔を上げた。 「……?」 その顔は、かつて見たことも無いような…… 「……何だ……?」 ……怒りに満ちていた。 「…何か文句あ…っ!?」 次の瞬間、少年は殴り飛ばされていた。 「……うるさい……」 そして殴った本人、ユーノは…… 「……喋るな……口を開くな……顔も見たくない……」 ……全身から、膨大な翠の魔力光を迸らせ…… 「……消えろ……!」 見る者全てを凍り付かせる瞳を讃えていた。 「…うわぁ…」 「…パパ…」 イリスと少女は、冷や汗を流していた。 「……あれが……」 そして少女は…… 「……『F』の……!」 ……驚愕の顔でそう呟いた。 あとがき やっとここまで来た二十三話です。 ……てか、難産で滅茶苦茶時間掛かりまして、申し訳無い…… 兎に角、何か色々有って、解らない展開になって来ましたね? 斬はどっかの辺境で強敵っぽいの瞬殺してるし、ユーノぶちギレてたし、更になのはに何が有った!? そんでユーノの名前が!? 次回! 戦闘開始!! ユーノの属性と新能力発現!!! ――――それでは! |