――八月――夏の空をの下で、日が沈もうとしていた。
その中、とあるビルの屋上に、怪しい人影が十数人…

「…奴は?」
「はい!この付近にいるらしいです!」
「そうか…多少手間取りそうだな…」

そいつらは、明らかに不振だった。
典型的な不振人物集団だった。

「隊長!」

部下らしき者に、隊長と呼ばれた少年が振り返る。
その少年は、スケボーのようなボードを持っていた。

「どうした?」
「張り込んでいた者から連絡が有りました!発見したようです!」
「本当か?」
「はい!」

そして部下は隊長に、幾つか通達していた。
どうやら、奴らが捜している人物は、商店街の辺りで見かけ、何処かに向かったそうだ。
そのまま尾行しているらしい。
「…よし!お前達!子供だと思って油断するなよ!?」
『はいっ!』
「これより一時間後!作戦を決行する!」
『はいっ!』
「対象の捕獲を優先せよ!それ以外はどうしても構わない!」
『はいっ!』
「行け!!」
『はいっ!!』

そして、隊長と呼ばれた男と、その補佐らしき者以外は、全員何処かに飛んで行く。

「…さて…僕はゲーセンでも…」

その少年も、宙に放ったボードに乗り、何処かに飛んで行った。


『夜に舞う月の神の威を名乗る者』


時刻は夕刻、高町家…

「……何?」

一家の大黒柱、高町士郎は、驚きに顔を歪めていた。

「そうか、そんな事が…」

士郎は、恭也と美由紀の二人から、今日の昼前に有った事を話していた。
黙っている手も有ったが、木刀が一本、あんな風に壊れてしまったのを発見された為に、話さざるを得なくなった。

「…それにしても『雷徹』に近い技を使い、恭也と差仕分ける腕前の子供か…信じられん…」
「…父さん…」
「お父さん、これ本当の事だからね?」
「はっはっはっ!勿論信じるさ、信じられないのは別だ…」
『?』

何だろうと、二人は考える。

「その少年だが…使った木刀はあれだろ?…あの大人用の…」
「そうだけど…」
「と言うか、普通の長さの木刀って、あれしかないからね…」
「もしも子供用の木刀を使っていたとしも、恭也の動きに着いていけたのは脅威だったが、それが大人用となると…」
『?』
「子供用の木刀は、長さも重さも子供に合わせている。
だが大人用は、大人に合った長さと重さだ、例え剣道をしていたとしても、そんなのを子供が自在に振り回せない筈だろ?」
「……確かに!」
「……言われて見れば」

そして士郎は腕を組み、笑いながら

「もしかしたら、真剣の重さで使い慣れていたのかもな?」

そう言ったが、恭也は考え込む。

「…そうかも…」
『?』
「あいつが『真剣なら』って言っていた、つまり慣れ親しむ程に、使った経験が有ると言う事に…」

それに士郎が考え込む。

「…そうかもしれないな…」
「しかも、あの腕の振りに足さばき、それ相応の重量の武器を振るう事を、想定しているように感じたし…」
「重量武器?」
「大剣や斬馬刀なんかだ、まあ斬馬刀は無いだろうが…」

馬ごと相手を叩き斬る武器だし、と付け加える。

「…それにしたって、恭ちゃんの手…」

恭也の右手を見る。
包帯が巻かれていた。

「『雷徹』と撃ち合って、恭也の手にここまでダメージを与えるとは、おそらく武器の大きさと重量の違いだろう、刀と小太刀では当然だな…」

御神の剣士達は、揃って頭を悩ませる。
すると、士郎は何かに気付いた。

「そうそう、忘れていたが、その子の名前は?」
「え?…ああ、言って無かったっけ…」

しかしその質問が、話を急速に転機させる事になった。

「確か、神威と言っていた…」
「何っ!?」

士郎が、いきなり声を張り上げた。
そして、恭也に詰め寄る。

「と、父さん!?
「苗字は!?まさか夜月か!?」
「そ、そうだけど…」
「お、お父さん?」

そこで、士郎の動きは止まった。

「…夜月…神威…」
「…父さん…まさか知って…?」

士郎は一回座り直し、話出した。

「…俺は知らない…ただ…先代から聞いた事が有る…」
「先代から…?」
「ああ…その昔、御神の剣士達が戦争に出た時、対峙した剣士が居たらしい…」
「……それで?」
「それで、御神の剣士達は、力を合わせて戦ったらしいが……師範代は居なかったとは言え、相手はたった一人だったのに、何人もの仲間がやられそうになった。
……幸い犠牲は出なかった、相手も深追いはして来なかったそうだし…」

恭也と美由紀は絶句していた。
例えば師範代で無くとも、御神の剣士複数に対して、一人でそこまで倒したとは…

「…その時…去り際に互いに名乗り合ったそうだ……此方は流派……相手は名前を……」
「…その名前が…」
「…夜月神威…『十代目 夜月神威』と…」
「十代目?
「お父さん、何その十代目って?」

美由紀に言われて、士郎は顎を抱える。

「…さぁ…?」
「さぁって…」
「父さん…」
「…とは言っても、多分伝承者の『隠し名』の一種じゃないかと言うのが、先代達の考えだが…」
「恭ちゃん『隠し名』って?」
「ある事情で、本来の名前と別に持つ、もう一つの名前の事らしいが……父さん、先代達って?」
「…先代達がその剣士と会ったのは、今から百五十年程前らしい、それ以来会わなかったそうだし…」
『はぁっ!?』
「あら…それじゃあ戦国、それも幕末の辺りって事ね?」
「その通り…」

何時の間にか、士郎の隣に腰掛けている。
高町家の母、桃子が話に参加して来た。

「…とにかくそれ以来、夜月神威と言う名の剣士に合った場合は、なるべく戦うのを禁忌としたそうだ」
「どうして?」
「一人でそこまでの力を持っていたんだ、師範なんかでも危険かもしれない…」
「成る程…」

恭也は納得と頷く、美由紀と桃子も納得したようだ。

「…しかし、不振な点も有ったそうだ…」
『?』
「もし、神威が隠し名なら、何故名乗ったか……隠し名は本来隠匿する名前らしい…」
「あら、そうなの?」
「俺もそんな事を聞いたな…」
「……もしかしたら、本来の名前を棄てて、隠し名を名乗る風習が有るとも…」
「…名前を棄てる…」

そう、名前を棄てたのかもしれない。

……あんな少年が……自分で名前を……

「…その神威は、どんな奴だったんだ?」
「確か…若干長い黒髪で、緋色の大剣を使っていた…」
「…黒髪に…」
「…大剣…?」

今日家に来た神威は、黒髪に重量武器を扱う風の少年だった…

「…後は、左瞼に刀傷の痕を持つ、二十歳後半の男だったとか…?」
「まあ、そんなに若いの?」
『……』

恭也と美由紀には、一瞬『子孫?』と言う考えが頭を過った。
「まあ、真実は闇の中と言った感じだな…」
「そうか…」
「……悩んでても仕方無いし、もっと別の話しよ?」

場の空気を明るくしようと、美由紀が提案した。

「…そうだな…そう言えば今日店でな?」
「うん!」
「……」

それに、士郎が今日の事を話出した。
美由紀は軽く相づちを打ち、恭也は黙って聞いている。
桃子は、夕食の準備に戻って行った。
しかし、恭也は不意に空を見上げた。

そこには、夕日で茜色に染まった空が、広がっていた。



同時刻、桜台の一本の桜の木の下で、一人の女性が、木に背を預けていた。

「…良いのか?…もっとゆっくりすれば…」

木の上を見上げながら、誰かに話し掛ける。

「何も言わないが、正直居心地が良いんだろう?」
「…先を急ぐ…」
「…だが…」
「…明日には次の世界に行くぞ…」

木の上から聴こえて来た返事に、女性…牙神がため息を吐いた。

「…せっかく長生き出来るようになったのに、まだ生き急ぐのか?」
「…それが神威だ…」

牙神は、嘆くように頭を抱える。

「…神威…考え直せ!まだ遅くは無い筈だろ?」
「逆だ!遅すぎたんだよ全て…百年以上…」
「………」
「…俺には…これしかない…」
「だが!やはり主を失うのは…」

しかし、神威は牙神の言葉を遮る。

「…なら主としての命令だ…」
「…っ…!」

牙神は、そこに在った石を蹴り飛ばした。
その石は、まるで夕日に呑まれていくように、飛んでいった。

「…解ったよ…主殿…」
「…精々俺の分も生きてくれ…」
「………」

牙神は何も言わない。

「…すまない…だけどしょうがないんだ…」

神威は、空を見ながら謝る。

「…これが…俺の務めだから…」
「………」
「……最後の…『十代目 夜月神威』の務めだから…」

それ以降、二人は黙り込んだ。
そして、何も言わなかった。
日の沈み切った中、住宅地を一人の少女が走っていた。

「う〜っ!すっかり日が暮れてもた!」
「やっぱり家まで送って貰えば良かったですね?」
「それやとアリサちゃんに悪いし、途中まで送って貰えただけでも充分や……でも実際そうかもな…」

そう言いながらも、少女…八神はやては走っている。
因みに、彼女が話している相手は、一見小さな女だが、彼女はリインフォースUだ。
融合騎である彼女は、自分の身体をこのように、縮小する事が出来る。
この方が色々楽らしいが、流石にずっとこのままでも居られない為、等身大に成る事もそれなりに有る。

「はよせな、シグナムやヴィータも帰っとるやろし…」

家路を急ぐはやて、そこに…

「…あの、すみません…」
「?」

はやてとそう、年の変わらない男の子が話し掛けて来た。
何故かこの子供は、スーツ姿でヘルメットを被り、郵便屋さんのようだった。
手に小包も持って居る。

「この辺に『夜神』って家、知らない?」
「…へ…?」
「夜の神で『夜神』って言うんだけど…」
「…やがみ…?」
「…うん…知らない?」

はて?
自分の家は『八神』だが?
そんな珍しい苗字は…?

「……知らへんよ?」
「…そう…」
「…ぅ…っ…」

幾ら知らないとは言え、見捨てる訳にもいかないだろう。
はやては、少年に話を聞く事にして見た。

「…なあ…?」
「?」
「下の名前とかは?」
「……下?」

取り敢えずそう聞いた。
まさか『月』と書いて『ライ…

「うん!『はやて』だよ?」

……『夜神はやて』……?

……『やがみはやて』……?

……『ヤガミハヤテ』……?

「…はい…?」

字が違うが、どうも自分の事のようだ。

「知ってるの?」
「…小包…少し見せて…?」
「うん?」

少年は小包を差し出した。
そこには、はやての名前が書かれていた。

……英語で……

「…これ…私や…」
「えぇ!?お姉ちゃんなの!?」
「せや…」

そしてその男の子は、

「な〜んだ!てっきり…」

…笑いながら…

「『闇の書』…正確には『夜天の書』の主だから、夜の神だとばかり…」

……そう言った。

「えっ!?」
「バイバイ、お姉ちゃん…!」

少年は、おもむろに魔力弾を、はやてに放った。

「……くっ!」

はやては咄嗟に障壁を張って防いだ。

「あらら…」

少年は、呑気な声を上げて、その様子を見た。

「…な…!?」
「ちょっと!いきなりはやてちゃんに何するですか!?」

いきなりの暴行に、リインが飛び出して来た。

「ん?君のマスターに用は無いよ…」

さも当然のように少年は言った。

「じゃあ…」
「用が有るのは君だよ……リインフォース?」
「…へ?」
「リインに!?」
「そっ!」

そう言い、リインに視線を注ぐ。

「僕達が求めているのは彼女だけだ、彼女を差し出せば君は見逃して良いよ?」
「ふぇっ?」
「な、何やて!?」
「悪いようにはしないから、抵抗は好きじゃないし、ね?」

しかしはやては、シュベルトクロイツを取りだした。

「そんなん御断りやっ!」
「ですっ!」

デバイスを起動、ジャケットを精製しながら距離を取る。
すると、周囲が封鎖結界で被われた。

「!?」
「逃がしはしないよ?
それに、その娘を連れてくるだけだから、マスターの君はどうなっても構わないし」

はやては飛んだ。
すると、空中で幾多の魔導師に囲まれた。

「仲間っ!?」
「十人以上は居ます!」
「…最後の通告…」

少年は、ボードのような物に乗って、空に上がって来た。

「………」
「……その娘頂戴……攻撃や逃走、ユニゾンしたら容赦しないよ?」
「…リイン…」
「………」

そして、リインフォースは…

「……ユニゾン!」
『インッ!』

はやてとユニゾンした。
それに伴い、はやての髪と瞳の色が変わる。
髪は白っぽいブラウン、瞳はリインに若干近い碧眼になった。

「…殺れ…」

さも面倒臭そうに、少年は指を弾く。
すると、魔導師達が一斉に襲い掛かって来た。

「行くでっ!!」
《はいです!!》

そして、はやてとリインは戦いに赴く。




あとがき


遂に本編本格始動!!
まあ、最初の方だけ見たら、神威のを捜してる見たいですが、実際はリインでした。
しかもはやてはガン無視で、殺害決定でした。
因みに、はやて達は商店街の近くで迎えの車に乗って、月村邸に、日が傾き始めて来たので、アリサの車に便乗して途中まで送って貰い、そこからは歩いて帰宅してました。
てか、はやてって実は個人戦苦手何ですが……?
まあ、次回は驚愕の事態に!?
そしてあの少年の力が明らかに!?

―――そんじゃっ!





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