「…この世界の何処かに居るんだ…」

果てしなく続きそうな荒野、その中を、何処にでも居そうな女の子が歩いている。

「頑張って探そうね?」

そう、自分の前を歩いている。

「にゃ〜っ!」

……猫に言った。


「……パパ〜……?」

そして、まだ迷っていた。


『八神家の生活 気付いた真実』


夜月神威、牙神らが、八神で暮らすようになってから一週間が過ぎようとしていた。
シャマルとザフィーラは、割と早く馴染み、シグナムも、神威と一緒に練習するのも悪く無いと思い始め、ヴィータも、前程は神威達に突っ掛かるような事は無くなった。
神威と牙神も、八神家に馴染んでいき、基本的に普通になって来た。

「シャマル、リイン、ザフィーラ……神威君!お散歩行こ?」
「は〜い」
「はいです〜♪」
「解りました」
「ん…」

今では、いたって普通に見える。
因みに、今神威達の着ている服は、恭也やクロノが昔着ていた服や、美由紀の着ていた服である。
二人共、黒っぽい服飾だ。

そして、留守をシグナム、ヴィータ、牙神に任せて、はやて達は出掛けた。



一方アースラでは、クロノが至極難しい顔をしていた。

「………」
「どしたのクロノ君?」
「…エイミィ…」

そのクロノに、エイミィが近付いて来た。

「………」

するとクロノは、エイミィに無言でファイルを差し出す。

「ん?…これって神威君と牙神の検査記録?」
「ああ、牙神がフォースデバイス……少なくとも、ユニゾンデバイスの一種で有るのは、間違い無いそうだが…」
「……それで悩んでたの?」
「…神威の方だ…」
「?」

そして、神威の検査結果を見た。

血液検査等では、夜月神威は人間で有るとの結果が出た。
だが、その肉体は通常の人間を凌駕している。
あらゆる面から診ても、彼の身体は異常だ。
現時点で、並の大人をも凌ぐ身体能力、動体視力に瞬発力、反応速度も桁違いに高い。
そして異常な頑丈さと、生命力の強さ
これらはおそらく、産まれる過程で、人為的処置を施した結果だと思われる。
とは言え、魔力無しでは魔導師に劣る。
それでいて、保有している魔力や資質は、後付けでは無く、本来より持っている物と考えられる。

「…何か凄いね…」
「…ああ…」
「…魔力値は『AAA以上』…」

クロノはため息を吐いた。

「神威君にこの事言ったの?」
「…一応は…」
「それで、何て?」
「…『そうか』…だと…」
「………」

何と言うか、素っ気無さすぎる返事だ。

「…別に良いのかな…?」
「…多分な…」

そしてクロノは、背もたれに寄り掛かり、天井を見る。

――偽名――

「…神威が…彼が言った事…」
「?」
「…名前…」
「…ああ…」

神威が言っていた不思議な事、それは、至極当たり前のように言った。

「…夜月神威は…偽名だ…」

……そう……

……神威の名前……『夜月神威』は……

……本来の名前では無いらしい……

……彼には彼の名前が有る……

……だが彼は……

「…なあ…」
「ん?」
「……名前を……自分を棄てるって……どんなのだろう…?」
「………」

エイミィは、静に首を振る。

「………」

暫く二人は、何も言わなくなった。

余談だが、後から来たフェイトが、二人が一緒に居たのを見て、泣きながら逃げてしまうと言う事件が起きたらしい。



はやて達は、海鳴の臨海公園でのんびりしていた。

「ええ天気やな?」
「本当に…」
「そうですね」

並んで座って、楽しそうに話している女性陣

「………」
「………」

特に話そうともしないで、寝そべっている男性陣

「…なあ…?」
「ん?」
「何ですか?」
「…二人共…こんなええ天気やのに…」
「…だから気持ち良いのに…」
「…うむ…」

そう言い、彼とザフィーラは、また眼を閉じる。

「…神威君て、お昼寝好きやな?」
「…ああ…寝るのは好きだ…」

はやては、少し含み笑いをして、空を見上げる。

「……神威君らと、こんな風に一緒に暮らして、もう一週間やな?」

彼は何も言い返さない。

シャマルはと言うと、リインとザフィーラを連れて、少し離れた場所に居る。

……気を使ったのだろう……

彼らが来た時、初めは結構大変だった。
家に帰たら、シャマルとザフィーラに色々聞かれた。
それから身体が汚れていたからと、二人に風呂を使わせた。
服は一応、恭也達から貰って来た物が有った。
しかし、風呂上がりの彼だが、最初は誰か解らなかった。
一瞬『何で女の子が!?』と言った騒ぎになりかけた。
普段があんななのに、何故か騙された気がした。
髪型を変えただけで、雰囲気が変わると言うのは、本当だと思った。
彼は、それなりに料理が出来るので、家事を手伝って貰ったりした。
正直シャマルより上手だった。
また、彼は暇な時によく寝ている。
牙神が言うには、昼寝が好きらしい。
その寝顔は、とても安らかで、少年と言うより、少女や美少女のようだった。
思わず見詰めていたら、寝たまま押さえ付けられてしまった。
しかも、顔が眼前に有った為、お互いの息遣いまでが、はっきりと解った。
彼は寝ていたが…
その後、起きた彼が言うには、条件反射らしい。
風呂上がりの彼は、何度見ても色っぽく感じて、見る度に鼓動が高鳴る。
……だが、彼は男だ。

ある時、不意にはやてを、母親みたいだと言い出した。

本当にいきなり言ったので、はやては顔を真っ赤にしてしまった。
多分、家事が得意だったのだろうと言う話になり、料理の腕前はどうだったかと聞いたら…
……顔色が真っ青に変わり……目が死んだ魚のように光を無くして……数時間程ソファーで丸まって奮えていた。
………そんなに酷かったのか……じゃあお前のそれは父親譲りか?

彼は、見た目は冷たそうに見える。
だが実際は、冷たそうに見せているだけだ。
本来の彼はもっと違う。
自分の感情を押し込めて、名前も自分も棄てて、無くして、そうして生きている。

「………」

はやては、単純に寂しいと思った。
闇の書の罪を背負った自分よりも、別な意味で辛いと思った。

「………」

……夜月神威は偽名……

……なら本来の名前が……

「…なあ…」
「…ん…?」

彼は、眠そうな声を出した。
一応起きているらしい。

「…本当の名前…」
「………」
「……教えて?」
「………」

彼の表情が、少し固くなった。
この質問は、彼の名前が偽名だと聞いてから、何度していた。

「…無理…」
「…ええやん…」
「…棄てた…」
「………」

はやては、彼の横に寝転がる。

「…教えてよ…」
「………」
「……なあ?」
「………」

しかし、彼は黙っている。

「…せやったら…」
「………」
「…せめて訳くらい…」
「……掟……」
「?」

彼が、ぽつりと何かを言った。

「……俺の剣は、本来なら死を呼ぶ剣……その為に継承者は代々、名前と自分を棄てて来て……そして死んだ……」
「………」
「…だから俺も…夜月神威と名乗る……それが掟だ…」
「………」

はやては、とても寂しそうな瞳をしていた。

「……俺は望んで……継承者になった……神威を名乗った……」
「………」
「……だから、俺の名前は神威だ……」
「…うん…」

はやては少し落ち込んでいる。
彼に名前を教えて貰えないから、彼の事を解ってあげられないから、そんな悲しみを感じていた。



八神家の庭に、木刀が打ち合う音が響いている。

「…お前の腕前も…中々…」
「…どうも…」

シグナムと牙神が、軽く打ち合っていた。
それをつまらなそうに、ヴィータが見ている。

「…にしてもお前…」
「ん?」
「…見た目に反して……微妙にリインっぽいと思ったら…」

ヴィータはため息を吐き、言葉を続ける。

「…五歳かよ…」
「ああ、製作されてから五年程だ…」
「………」

……ヴィータは、それに不満が有るようだ。
何故ならば、牙神はまだ五歳なのに、あらゆる外見的な面で、ヴィータを上回っていた。

「………」
「……?」

牙神は、何か刺すような視線に、居心地を悪く感じていた。

「…む…っ!」
「…あ…」

そうしていると、シグナムに木刀を突き付けられた。

「私の勝ちだな?」
「ああ」

余裕を見せているが、内心シグナムは驚いていた。
まだ五年、しかも教えられた訳でも無いに関わらず。
シグナムと多少打ち合う程の腕前、しかも打ち合度に、段々太刀筋が鋭くなっているようだ。

「………」

シグナムは、牙神をじっと見ている。

「……どうした?」
「…いや…」

シグナムは目を伏せ、視線を反らす。

「……気を付けろよ?シグナムの奴……実はな…」
「何だ?」
「ヴィータ!余計な事を言うな!!」

牙神はまだ五歳なので、経験不足で純粋だ。
その為、たまにヴィータが変な事を吹き込もうとする。

そんな昼下がりの中、時間はゆっくり流れていく。


その頃のユーノ君

「…あれは……何処に?」

何かを探して、荒野を歩いていた。

「ん?…街だ…」

そして、その街に入った。

……廃墟街に……



はやて達は、帰りに商店街に寄っていた。

「今日は何が食べたい?」
「何でもいいですよ?」
「はいです!」
「………」
「はやての飯は上手いからな…」

帰りに、夕飯の材料を買っていく事にした。

「せやな、買い物しながら考えようか?」
「はい」

そして、談笑しながら商店街を歩いていく。

「…なあ…神威君…」
「ん?」

不意にはやては、彼に問い掛けた。

「…やっぱり…何処かに行ってまうん…?」
「…何時かな…」
「………」

はやてが俯いてしまう。
やはり寂しいのだろう。

「………」

彼は、はやての頭に手を置き、優しく撫でる。

「…ぁ…」
「……そんな顔するな……気が向いたらまた来るから……」
「…うん…」

はやては、とても嬉しそうに笑った。

「シャマル?二人は何をしているのですか?」
「リインちゃんはまだ知らなくて良いのよ?」
「……っ…!」

二人から、少し距離を取っている。
ザフィーラは欠伸をかいた。


夕飯の材料を買って、家路に着いた。

その間にはやては、彼に母親の事を聞いていた。
彼が言うには、桃子に近い印象が有るらしい。

「……お母さんは、特技とか有ったん?」
「強いて言うなら…」

彼は少し、ため息を吐いて俯く。

「……味噌汁を味噌以外の色にする事…」
「……特技……?」
「…さあな…」
「…どんな色…」
「……桜色に黒に青に……」
「…味噌汁…やろか?」
「……自称……」

掌で顔を被って、奮え始めた彼を、はやてが宥める。

「…はやてちゃん、神威さんが来てから嬉しそう…」
「…そうね…」
「………」

シャマル達はその様子を、少し後ろの方から見守っている。

「……?」

書店の前を通り掛かった時、彼は何かに目を止め、不意に顔を上げ、それを見つめ出した。

「……え……?」
「あら、それって…」

すると、シャマルが彼に近付き、何かを言ったら、彼の顔が驚愕に染まった。

「……嘘……」
「?」

彼ははやてに向き直る。

「…はやて…」
「神威君…?」
「…急用が出来た…」
「…へ?」
「…じゃあ…」

そうして、彼は走り出した。
はやてはそれを追い掛けようとしたが、目の前に人が通り過ぎた後、彼の姿は消えていた。

彼は何処に―――――?




あとがき


どうも『0』です。
自分でもどうしてこうも、ネタが出てくるか不思議ですね。
さて、大分謎が解明されて来ました。
しかし、一体どうなるのでしょうか?

因みに神威の身体ですが、解る人はわかります。

次回!

神威は何処に消えた!
はやての願いは!?
牙神は!?
神威の本名は!?

後、夕飯何にしよう?


―――――以上!!





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