果てしない荒野に存在する影…

「何処かな〜?」
「にゃ〜?」

女の子と猫が歩いている。
そして歩いた荒野に、草木が芽を出し始めていた。


「…パパ〜…?」

そして、まだ迷子の女の子でした。


『…明かされた真実……知ってしまった過去…』


アースラの通路、そこを歩いている影が三人いた。

「………」
「…クロノ君…?」
「ク…クロノ…?」
「…くそ…っ!」

クロノは悩んでいた。
近々ある提督試験の事等では無い、フェイトに嫌われたとか、中々会えないとかでも無い。

「…解らない…」

簡単に言えば、神威と牙神のデータが足りない。
血液検査等の、簡単な検査は受けてくれたが、それ以上は協力してくれなかったからだ。

「…はぁ…」

クロノは大きく肩を落とす。

「…クロノ…」
「…せめて、ユーノ君が居ればね…」
「…全くだ…っ!」

そして、その怒りの矛先が向けられたのは、無限書庫司書のユーノ・スクライアだった。
無限書庫は、彼が居ない為、大変な騒ぎになっていた。
普通に依頼される資料請求の料が、ユーノが一人居ないだけで大混乱を招いていた。
当然そんな状態で、クロノが請求したユニゾンデバイスの資料が、直ぐに揃う筈も無く、余計に情報が不足していた。

「…全く…っ!」

クロノは起こっているようだが、実際他の司書達は、ユーノを攻めて居なかった。
何故なら…

「…ユーノ君…徹夜明け以外でまともに休むの…半年ぶりなんだって…」
「………」

クロノは何も言えなくなった。
当たり前だ、これは普通じゃない。
しかも徹夜明け以外だ。
下手をしなくても、過労で死ぬかも知れない。
他の司書達は、それなりに休みを取ったり、徹夜明けは数日間を開けてたりする。
しかし、ユーノはその間が殆ど無い。
……司書達がユーノに不満を言わないのは、当たり前と言える。

「…あの馬鹿は…」

クロノは額を押さえる。
そして、真面目な友人を、静かに馬鹿にした。
今回の休みも、司書達が無理矢理有休にした物で、ユーノは直前まで『自分だけ休むなんて悪いよ…』なんて事を言っていたらしい。
………何も言えない。

「…ユーノは、何時頃に戻る…?」
「有休は二週間、その間に遺跡巡りして、後数日で戻るらしいよ?」

クロノは盛大にため息を吐いた。

「…まあ…久しぶりの休みだから…しょうがないか…」
「…クロノ君…」
「…クロノ…」
「戻って来るまでに鋭気を養って、戻って来たらしっかり働いて貰うぞ…!」



その頃のユーノ君

「……へ……?」

一瞬、頬を何かが掠めたので、手を伸ばしたら血が着いた。

「……え……!?」

しかも、先程頬を掠めたのと同じ物が、今度は大量に、一斉に襲って来た。

「ぎゃぁぁぁあっ!!?」



「今頃何をしているだろう?」
「ご飯でも食べてるのかな?」
「案外修羅場に立ち合ってたりして?」
「それは無いだろ?」
「そうだよエイミィ」
「だよね〜?」

笑い合う三人、近からず遠からずだったりした。



日が暮れていく海鳴市、そこに二人の少女が歩いていた。

「どうしたの、アリサちゃん?」
「…すずか…最近のはやてって…」
「?」
「…どう思う?」

アリサは、ややげんなりしたように言った。

「…どうって…」
「…だって最近会ったら、何時も居候してる神威って奴の事ばかり話してるのよ?」
「そうだね、はやてちゃんはその神威君って子が、大好きなんだね…」
「…はぁ…」

アリサは、肩を落としている。

「…フェイトも最近は…クロノさんの事しか話さないし…」
「良いよね、好きな人が居るのって…」
「…それでも…いい加減にして欲しいわよ…」
「…あ…あはは…」

思わず、すずかは苦笑した。


「じゃあ、私は図書館に寄って行くから…」
「それじゃあ、またね?」
「うん」

そうして二人は、別々の帰路に着いた。


「…え…と…」

すずかは本棚を物色して行き、幾つかの本を持って、席に向かった。

「?」

ふと席の端の方を見ると、自分と同じくらいの男の子が座って、何か読んでいた。

「…あれって…?」

すずかが、その少年に声を掛けようとした。

「……くっそぉっ!!!」

しかしいきなり、少年はテーブルを殴った。
それに伴い、回りから好奇の目が向けられる。

「……間違いないのか……!」

そう言い、テーブルに置かれた手に力が入る。

……何か軋む音が聞こえるが……

「………っ!」

その少年は、弾けるように立ち上がり、本も戻さずに図書館から出ていった。

「……?」

すずかは、少年が居なくなった席を見に行った。
そこに置かれていた本は…

「……歴史書…?」

そう、そこに並べられていたのは、歴史書の類いだった。
しかも、開かれているのが『幕末』や『明治』の記述が載っている場所ばかりだ。

「?」

すずかは訳がわからず、首を傾げるしか無かった。


「………」

少年は歩いていく。

……夜の街を……

……この世界を……

……何処までも……



翌朝、八神家の空気は重かった。

「………」

はやては、無言でソファーに腰掛け、天井に目を向けている。
そのはやてを、リインが元気付けようと、文字通り飛び回っていた。

「……主はやてはどうしたのだ?」
「今朝からずっとあんなだぞ?」
「私に言われても…」
「…やはりあれだろ…」
『あれ?』
「…夜月か…?」
「…ああ…」

ヴォルケンリッターと牙神は、はやての様子を見て、作戦会議を開いていた。
そしてザフィーラの問いを牙神が肯定していた。

「…それしか無いな…」
「てかシャマル、何であいつ帰って来なかったんだよ?」

そう、神威はあの後から、深夜になっても帰って来なかった。
その為か、はやては何だか元気が無かった。

「…それが、急用が出来たとかで…」
「……まさか旅立ったのか?」
「それなら私を連れて行くだろ?」
「じゃあ何故…?」

頭を突き合わせて考えるが、何も浮かばない。

「……シャマル、あの時夜月の様子が尋常では無かったが…」
「あの時?」
「あれだ、書店の前を通った時の…」
「…ああ!あれ?」
「?」
「どう言う事だ?」

ザフィーラとシャマルのやり取りに、シグナムが口を挟む。

「夜月が居なくなる直前、何かを見ていたようでな…」
「それで、私に少し質問したら…」
「…行ってしまったと…」

シャマルは無言で頷く。

「俺は見て無いが、シャマル、夜月は何を見ていた?」
「…え…と…」
「どうした?」
「…まさか忘れたのか…?」

牙神が呆れたように言うので、慌ててシャマルは否定する。

「ち、違うわよ!…ただ…意味が解らなくて…」
「それを皆で考えるのだろう?」
「そうだ!さっさと言えよな…」
「…ガイドブック…」
『……は……?』
「…だから…店先に置いてた…旅行のガイドブックを…」
「…見ていたのか…?」

シグナムの確認の言葉に、シャマルも歯切れが悪そうな顔で頷く。

「…それから…私に軽く質問して…」
「…そうか…」
「……余計こんがらがったぞ……」
「……俺もだ……」

シグナムは、かなり悩んだ顔をして俯く。
ヴィータとザフィーラは、頭を回しそうになっていた。

「………」

しかし牙神は、顎に手を当てて、何かを考えていた。

「牙神?」
「牙神ちゃん?」
「…シャマル……神威はその本を手に取ったか?」
「…いいえ…」
「……じゃあ、神威が見ていたのは表紙だけだな……表紙には何て?」
「確か…」

『もう直ぐ来る秋に備えて!紅葉狩りのオススメ百選!!京都旅行大特集!!!』

「…だったけど?」
『………』

普通の週刊誌か何かだった。
大した意味は…

「……え……?」

…有ったようだ。
牙神が口を開けたまま、驚いている。
そして、そのままシャマルに詰め寄る。

「……シャマルっ!」
「は、はい!?」
「神威は何て言った!?」
「…え…と…」
「早く言え!」
「わ、解りました!確か…」

『どうしたの、神威君?』
『…京都…旅行…?』
『ん?…そうね、京都は日本人の故郷とも言うらしいから…』
『…日本…?』
『?』
『…まさか…!?』
『神威君?』

「…と言った事を…」
「………」

そして、牙神は黙り込んだ。
それに、シグナムが声を掛ける。

「…牙神…?」
「…まさか…」
『?』
「…此処が…?」


その頃、海鳴市に異変が起きていた。

「…良いお天気だな…」

そうと知らずに月村すずかが、八神家への道程をゆっくりと歩いていた。

「………」

そして、ふと空を見上げた。

「…あれ…?」

そのまま何かに気が付いた。

「……え……!?」

そしてその顔が驚愕に歪んだ。


牙神は部屋の隅に踞り、何かを考えていた。

「…まさか…だが!」
「……どうしたんだよこいつ?」
「…知るか…」
「そうそう、もう直ぐすずかちゃんが来るわよ?」
「…何故そう唐突に…?」
「来て話したい事が有るってそうよ?」
「……っ!」

すると、ザフィーラの耳が動いた。
次いで、チャイムが鳴った。

「あら、来たみたいね?」

シャマルが玄関に向かった。
それから直ぐに、すずかが駆け込んで来た。

「はやてちゃん!大変だよ!?」
「ど、どないしたんすずかちゃん!?」

尋常ならざる様子に、はやては驚きながら問い掛ける。

「いいからテレビ!」
「へ?」

すずかにそう言われ、テレビを見ると、ニュース番組に海鳴が出ていた。

「……へ……?」
「…やっぱり…」

『続いてのニュースです。海鳴で異常気象が発生しているとかで…』

「?」

テレビが、現場の中継に代わった。

『はい、こちらは海鳴臨海公園、見て下さいこの桜を、全ての桜の木が咲き誇っています』

「…え…!?」
「……私が来る途中に有った桜も、花が咲いてたの……まさか街全体に…?」

『しかも、桃の花も咲いている上、向日葵なんかの散り始めた夏の花や、秋、冬の花まで咲き誇っています』

「…何やこれ…?」
「…私もちょっと…」

すずかも困っているらしく、眉根を下げている。

「…あの…」
「はい?」
「こんな時に何ですが、すずかのお話は?」
「……あ、はい!実は、昨日図書館で変わった子を見て…」
「変わった?」
「はい」

すずかは、頬に指を当てて悩む。

「…少し長い黒髪の男の子を…」
「…まさか…私に似ていなかったか?」
「へ?…言われても見れば…似てますね…?」

牙神の問いに頷く。
それを聞き、はやてはすずかに詰め寄る。

「それって神威君!?」
「た、多分…」
「何しとったの!?」
「わ、解らないよ…」

そうして、自分が見た一部始終を、はやて達に話した。

「…そうなん…」
『………』
「…月村すずか…」
「…?」

全員が黙っている中、牙神はすずかに声を掛ける。

「神威はどんな本を?」
「…えと…歴史書を開いていましたよ?」
「……どんな記述を読んでいた?」
「確か『幕末』と『明治』を…」
「何っ!?」

牙神がすっとんきょうな声を上げた。
それに皆が驚く。

「が、牙神?」
「……間違いないな…」
『?』
「……神威は知ってしまったのだろう……」
「…え…?」
「……この国が日本だと……」
「…どう言う事だ…?」

牙神は一度眼を伏せて、話し出した。

「…何年か前だ…あいつが不意に、故郷の事を話始めたんだ…」
「………」
「……故郷の……京都の事を……」
『京都!?』

全員が驚きの声を上げる。

「ああ、奴は京都で生まれ育ったそうだ…」
「つまり神威君は…」
「関西人やったんか…?」
「?…それで、色々な話をしてくれた…」
『………』
「……そして、自分の師の事を、自分が参加した戦争の事を話してくれた」
「…戦争…?」
「ああ、神威の所属側が勝っていれば、幕末の終わり頃に有った事になる戦争だ…」
「……それ……?」
「……まさか……?」
「ああ『長州と幕府の戦』だったか…」
『!?』
『?』

はやてとすずかは目を見開く。
ヴォルケンリッターは、首を傾げるだけだった。

「…明治は今から何年前だ?」
「…百数十年くらいですけと…」
『な!?』

やっとヴォルケンリッターの面々もわ話の異常性が見えたようだ。
守護騎士達からしたら、大した事は無いが、普通の人間がと言えば、とんでもない話しだ。

「…それで…?」
「…さあな…」
「?」

はやては詳しく聞こうとしたが、牙神は話すのを止めた。

「…後は神威に聞け…」
「え…そんな…」
「これは神威の事だ、私が気軽に喋る物では無い筈だが?」
「………」

はやては俯いてしまった。

「…せやかて…神威君何処に…」
「…さっきの異常気象とやらだが…神威が原因だな…」
『?』

それに全員が首を傾げる。

「神威が居なくなってから、こんな事が有った……なら神威だろ?」
「…確かに…」
「任せてはやてちゃん!」

シャマルが、自信満々に宣言する。

「シャマル?」
「私に心当たりが有ります!」
「ほんま!?」
「任せて下さい!シグナム達も手伝ってくれる?」
「勿論だ!」
「おう…」
「うむ!」
「手伝うです〜♪」
「では早速行って来ます!」

そう言いシャマルは、シグナム達とリインを従えて庭に出た。
そして、転移魔法で何処かに消えた。

「…シャマル…」
「…シャマルさん…」
「…何処に消えたんだ?」
『…さぁ…?』

はやてとすずかは、揃って首を傾げる。

「……神威の居場所だが、多分私も解るぞ?」
「え?」
「これが神威一人の影響なら、どうしても歪みが生じる筈だ…」
「歪み?」
「…多分だが、花の咲き方に歪みが有ると…」
『?』
「場所によって、満開になっているかもしれない…」
「満開?」
「満開の場所は影響が強いだろう、ならば満開の辺りの中心に…!」
「…神威君が居る…?」
「多分な…」

はやては一つ頷くと、すずかに向き直る。

「…すずかちゃん…」
「……いってらっしゃい、はやてちゃん!」
「……うん!」

そうして、はやては出掛けて行った。

「…え…と、牙神さん?」
「ん?」
「…牙神さんは行かないんですか…?」
「……主の命令だからな…」
「?」
「…『後を追うな、生きろ』と…」
「………」

牙神は、視線を落とした。

「…普通なら…多分、関係無く追い掛けるだろうけど…」
「…けど…?」

そして顔を上げ、すずかに笑いかけた。

「…今は…従おうと思う…」
「………」
「……もっとも…必要が無いから…だがな…」
「…っ…!」

すずかは、ふっと笑った。

「……さて、月村すずかは…」
「すずかで良いです」
「すずかは、今からどうする?」
「はい、図書館に行こうと思います」
「私は桜とやらを見に行く…」
「じゃあ、途中まで一緒に行きませんか?」
「そうだな…」


そうして、二人は一緒に出掛けて行った。



「…はぁ…はぁ…はぁ…っ!」

探そうにも、街中花が咲き乱れていて、咲き具合が全く解らない。

「…探さな…っ!」

だが、それでも諦め無い。
彼を探して、再び走り出した。

(…神威君…神威君…神威君……っ!)

はやては走っている。
神威を、彼を見付ける為に、走り続けた。
しかし、幾ら探しても見付からない。

……すると……

「………?」

……はやての横を、一陣の風が吹き抜けた。
ふと、風が吹いてきた方向を見たら、桜の花弁が舞っていた。

「………」

変だった、自分が走って行こうとしていた方には、人が賑わっている。
だが、風が吹いてきた方は、人が居ない。
まるで、風の流れに誘われているように、その方向に有るのは…

「…桜台…?」

その名の通りに、桜の木が沢山有る筈だが、誰もその方には見られない。
それはおかしい、こんなに花が咲き乱れているのに、誰も桜を見に桜台に行かないなんて…

「……神威君……?」

そしてはやては、風の吹く方に向かって走り出した。


桜台の方に行けば、やはり桜が咲いていた。
その桜は…

「…満開の…桜並木…?」

その桜は一目見ただけで、色鮮やかに咲き誇って見えた。

「…あ…っ…!」

桜台の頂上付近、海鳴の街を一望出来る場所に、誰かが居た。
そして、踊っていた。


――桜の花弁が舞い散る中――


――優美に――


――そして静かに――


――それは舞っていた――


――手にしているのは――


――扇子等ではなく桜の枝――


――手が動き――


――舞う度に――


――枝は揺れ――


――花弁は散り行き――


――その舞踊を――


――より美しく彩る――


――そして舞いに合わせ――


――控え目に伸ばされた――


――黒髪が揺れる――


――その舞踏会の中心に居るのは――


――何処にでも居そうで――


――それでいて類を見ない――


――とても綺麗な少年――


その姿を見ているはやての視線に気付き、少年は舞いを止める。
そして二人は見詰め合う…

「……神威…君……?」

はやては呆然として、少年名を呼ぶ…

「……はやて……」

少年も、はやての名を呼んだ。










その頃の、ヴォルケンリッターとリインは…

「……着いたわ!」
「む!?」
「な!?」
「ほう…」
「わぁ♪」

シャマルに言われて、周りに目を向ける。
リインは嬉しそうな声を上げた。

……そこは……

『京都だな!?』
「ですね?」
「ええ、そうよ?」

シャマルは、得意気な顔だった。

「神威君の故郷が京都なら、当然何か有る筈でしょ?」
「…確かに…」
「…一理有る…」

シャマルの意見に、シグナムとザフィーラが頷く。

(…あれ?…牙神が異常気象に関係が有るって…?)

ヴィータは、密かに一人で首を傾げた。

……異常気象が起こっているのは海鳴だけです……

「じゃあ、早速皆で探索開始よ?」
『おーっ!!』

総員が何処かに散っていく。
リインだけは、フルサイズでザフィーラと一緒だ。

ヴォルケンリッターとリインは、神威を探して京都を探索し始める。

……意味が無いが……




あとがき


はい、九話でした。
様々な突っ込みが有るでしょうけど、どうなんでしょう?

神威が行方不明になったり、踊っていたり、色々有りました。
ユーノもさりげに修羅場だったし…

次回!!

ヴォルケンリッターの面々が京都観光をします。
しかし、リインとザフィーラは……!?

次いでに、神威とはやても何か…





――――以上!!





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