早朝、小鳥の鳴き声が聞こえ、朝靄が晴れきっていない空気の中、ある家のベッドで、もぞもぞと何かが動いていた。 「……ん……」 少し身動ぎした後、それはゆっくりと目を開いた。 「……朝か……っ?」 すると、違和感を感じた。 腕に、異様に柔らかくて温かい感触が有った。 というか、何かを抱き締めていた。 「………」 視線を下ろして見ると…… 「…ふみゅ…」 ……腕の中に蒼銀髪の少女がいた。 「…またか…」 「ふぇ〜?」 斬が深くため息を吐いている中、蒼銀髪の少女…リインフォースUは、眠気眼を擦って起きようとしていた。 『リインフォースのお兄ちゃん♪』 事の始まりは、斬と牙神が八神家にやってきた初日、まだ彼が神威と名乗っていた時まで遡る。 「ただいま〜!」 はやてが帰宅した事を告げながら玄関を潜ると、シャマルとザフィーラが出迎えた。 「お帰りなさいはやてちゃん」 「お帰りなさいませ」 それに続いてシグナムとヴィータが入って来た……が……! 「…今帰った…」 「…ただいま…」 『…邪魔する…』 ……怪しい服装の二人が一緒に入って来た。 「……え……っ!?」 「夜月神威!?」 シャマルは後退し、ザフィーラは戦闘体型になって向かい合う。 「……やるのか……ッ!」 「!?」 そう言い神威は、手に飛鳥を召喚し、ザフィーラに向ける。 そして同時に放たれた威圧感で、ザフィーラは身がすくみかけた。 「…く…っ!」 「…あ…ぁ…っ…」 シャマルは威圧の余波で腰を抜かし、膝を付いてしまった。 「あああ、あかへん、あかへんよ!」 「………」 はやてにそう諭され、威圧感を潜ませて飛鳥を閉まう。 「…はぁ…っ…」 そして、緊張の糸が切れたようにザフィーラが腰を下ろした。 「…ぁ…あ…ぇ…?」 「……主、これは一体?」 シャマルは呂律が廻らなくなっているようで、ザフィーラが聞いてきた。 因みにシャマルは、シグナムとヴィータの手によって奥に運ばれていく。 「……それがな……」 そしてザフィーラに、次いでシャマルに事情を説明した。 「…本気ですか…?」 「うん」 「…でも…」 シャマルが不意に、神威に視線を向ける。 先程のような威圧感は出していないが、無表情で突っ立っていた。 「?」 「ひっ!?」 シャマルは目が合うと、小さく悲鳴を上げながら視線を反らした。 「……不評やな……」 「……当たり前です……」 こっそりシグナムに聞くと、ため息を吐きながら応えた。 「……さっきのあれで不満に思わない者はいないかと……」 「……てか、あたし達もビビったし……」 ヴィータも同意を示してくる。 「……と、取り敢えず、神威君らはお風呂に入ったら?」 「は?」 「何故?」 「だって、結構埃っぽいし…」 「…そう言えば、ここ最近水浴びもしてないしな…」 『………』 ……水浴びって…… 「じゃあ、俺が先に…」 「ああ…」 そう言い、はやてに案内されて風呂場に向かった。 「…ふむ…」 浴槽に浸かりながら、神威は一息吐いた。 「…これはまだ…明かさない方が良いな…」 そう言い手を添えたのは、濡れた自身の髪だった。 「…明らかに……な…」 そう言いながら浴槽から出る。 「神威く〜ん」 すると、脱衣場にはやてが入って来た。 「は、はやて?」 「着替えここに置いとくからな?」 「あ、ああ」 神威は内心驚きながらも返答を返す。 そして、はやてがいなくなったのを確認してから、風呂場から出た。 リビングでは、何とも言えない空気が漂っていた。 「………」 牙神は神威がいなくなってから、目を閉じてピクリとも動かない。 一見すれば、死体に見えそうだ。 「…あ…あの〜?」 「………」 はやては、何とかコミュニケーションを取ろうとしているが、効果は無かった。 「…っ…」 すると不意に、牙神が顔を上げた。 「……良い湯だった」 次いで、神威がリビングに入って来た。 はやて達もそちらに目を向けると…… 「…ふぅ…」 『………』 ……背に掛かるくらいの黒髪の、とても綺麗な少女が入って来た。 「…えと……神威…君…?」 「ああ、そうだが?」 そう、髪を解いている為に、何処か雰囲気が違った。 何と言うか、どう見ても美少女にしか見えなかった。 「…ほんまに…?」 「俺以外に居るか?」 何だか、とても説得力の無い言葉に聞こえた。 「…そか…」 「…ん…」 そして神威は、扉の壁に背を預けた。 「………」 はやては横目で神威を見た。 若干湿っている繊細な黒髪、風呂上がりでほんのりと上気した頬と少し荒い息遣い、潤んだ瞳…… (…色っぽいな〜…) ……だが彼は男だ。 「…じゃあ…」 「…ああ…」 そうしている間に、神威は牙神と何かコンタクトのような物を取り、牙神はリビングから出ていった。 「………」 神威は背を預けたまま目を閉じている。 何と言うか近寄りがたい雰囲気だ。 ……しかし…… 「神威さん」 「?」 『?』 そんな事を気にせずに、リインは神威に近寄り手を取る。 「そんな所に立ってないで、ソファーに座ったらどうですか?」 「…え…?」 「さあさあ」 「あ…ああ…?」 そのまま手を引き、神威をソファーに座らせる。 「えへへ〜♪」 「………」 そしてリイン自身も、嬉しそうに神威の隣に腰を下ろした。 『………』 それを見ていて、全員が唖然としていた。 確かに、リインは人懐っこい方だ、だがここまで露骨に懐くのは珍しかった。 これはおそらく、リインが神威に対して、何かを感じ取ったのだろう。 それが何かは明確ではないが、リインがこんな感じの為、全員が何だか毒気を抜かれた。 この影響で、結果的に神威達と割りと早く打ち解けられた。 それから時が過ぎていき、神威が斬と言う名を明かし、より八神家と近付いた現在…… 「…おはようございます…お兄ちゃん…」 名を明かして以来、リインは斬の事をお兄ちゃんと呼び、よくなついていた。 「…なあリイン…」 「…ふぁぃ…?」 リインは、眠気眼を擦りながらも身を起こす。 しかしこうして見ると、二人共銀髪で、兄妹にも見えなくもない。 「何度も聞いたが、何故俺の寝床に潜り込む?」 「…なんででしょう…?」 そう、リインは異様なくらいに斬に懐いてしまい、時たまこのように斬のベッドに潜り込んで来る。 それだけなら、まだ許容範囲だったかもしれないが、斬にはどういう訳か抱き癖が有り、近くに在るものを無意識によく抱き込む。 因みに本来ならこれは、例え寝ている時で有っても刀を手離さないと言う、剣客としての心掛けで有った。 しかし、手元に刀が無い為、代わりに別なものを抱き込む癖になっているらしい。 その結果、最近のリインは実質上、斬の抱き枕と化していた。 これに対してリイン本人は…… 「寝ている間に、何かに優しいものに包まれているような温かさが感じられます♪」 ……と語っており、嫌がっていないようだ。 寧ろ、安眠出来ると主張している。 因みにこの事は、八神家内では周知の事で有り、微笑ましいものとして見られている。 「…はぁ…」 斬はため息を吐きながら、リインの頭を撫でてやる。 「♪」 するとリインは、とても嬉しそうに身動ぎした。 「…行くぞ…」 「はい♪」 そして斬は、リインを連れて部屋から出ていった。 八神家のキッチンでは、既に朝食の準備が始められていた。 食材を刻んでいく小気味の良い音が、リビングに響き渡っている。 「…さて…」 そして、刻んだ具材を鍋に入れて火に掛けていく。 「…後は…?」 そうしていると、不意に声が掛けられる。 「おはようはやて」 「おはようございます。はやてちゃん」 「ああ、おはよう二人共」 朝食の準備をしていたはやては、振り向いて斬とリインに挨拶をする。 「…朝起きたらリイン居らんかったけど…」 「…また俺の所に居た…」 「…ああ…」 呆れ顔で斬に言われ、はやては苦笑を漏らした。 「……じゃあ」 「うん、いってらっしゃい」 そうしてから、斬は玄関に向かう。 「早く戻るよ」 「そうしてな?」 「いってらっしゃいです♪」 はやてとリインに見送られながら、斬は出掛けていった。 ………『神名魔断双裂天空流』通称『神魔双天流』継承者、剣咲斬の朝は基本的に早い。 この剣術は本来、使用者に致死レベルの反動を及ぼす物だ。 その為、例え魔法を得たと言えども、常日頃から身体作り等の鍛練を欠かす事は出来ない。 「…………」 今日も斬は、早朝から走り込む。 そして一通り町内を走って、桜台までやって来た。 「…ほっ…」 そしてそのまま、クールダウンをして柔軟をする。 最も斬が柔軟をしているのは、神魔の剣を使う最の反動を、最小限に抑える為だ。 全身の力を使って放たれる神魔の剣は、放つだけでも相当な負荷が身体に掛かる。 その為、負荷に耐えられる造りをした身体が重要で有る。 「…んっ…!」 こうして柔軟しているのを見ていると、斬の身体はかなり柔らかい事が解る。 それこそ、体操の選手と比べてもそう変わらないだろう。 「……さって…!」 そして柔軟を終え、斬は跳ねるように立ち上がりながら、飛鳥を出した。 「……―――ッ!」 すると、ゆっくりと構えを取りながら、周囲が張り詰めたような空気に包まれ始めた。 「―――――」 そしてそのまま、ゆっくりと剣を振り、構えを取っていく。 非常にゆっくりと、ゆったりとした動きで、スローモーションを見ているようだ。 「……はっ…!」 おそらく、一つ一つの動作を確認しているのだろう。 とても丁寧に剣を振っていく。 「…ふぅ…」 暫くしてから、息を吐きながら構えを解いた。 「………っ!」 そして、ちょうど舞っていた木の葉に剣先を突き付けた。 「………よし…!」 ……その木の葉は、一瞬の間を置いて粉々になった。 それから暫く素振りをして、それから桜台を後にした。 そして、次に斬がやって来たのは…… 「おはよう」 「おはよう、斬」 「おはよう、斬君」 高町兄妹ら、御神流師弟が住まう高町家、その道場に来ていた。 「じゃあ早速…」 「ああ、美由紀」 「は〜い」 恭也は壁に掛けて有る木刀を取り、斬は美由紀から木刀を受け取る。 そしてお互いに距離を取り、向かい合った。 「………」 「………」 「……始め」 『!』 美由紀が何気無い感じに開始を告げた瞬間、二人は同時に突っ込み、鍔競り合った。 「…ぐっ…」 「…ぎっ…」 しかし、鍔競り合いも程々に二人は多少間を取り、並走しながら打ち合っていく。 「……!」 「……!」 実の所、二人は実戦型式で型の確認を行っているだけで有り、実際は寸止め出来るくらい加減している。 しかし、普通の人から見れば、かなり激しく打ち合っているようにしか見えない。 「だ!」 「は!」 「りゃ!」 「た!」 そして、一通り打ち終わると、二人は打ち合うのを止めて構えを解いた。 「ありがとう」 「いや、別に良いさ」 そうして斬と恭也は互いに礼をして、斬はまた何処かに行ってしまった。 「ただいま」 「お帰りなさい、朝御飯出来とるよ?」 それからもう暫く走り込み、斬は八神家に帰ってきた。 「解った、すぐ行くから」 そう言い、斬は髪を解きながら風呂場に歩いて行く。 「………」 はやてはその後ろ姿を見ている。 解かれた髪は、広がりながら白銀に染まり、歩く度に軽く揺れている。 先程まで走っていたためか、頬は軽く上気し、汗で服が張り付いている。 ……何と言うか…… (…色っぽいな…) 「……どうした?」 「え?」 気が付けば、何時の間にか振り向いていた斬が、不思議そうな顔をしていた。 「ななな、何でもない!」 「…そうか…」 斬は、首を傾げながら脱衣場に入っていった。 「……はぁ……」 それを見届けた後、はやて大きく息を吐いた。 それから斬は、風呂で禊して汗を流し、皆と朝食を摂った。 そして朝食の後、はやては学校に行った。 「ほな、いってきます」 「気を付けてな?」 「いってらっしゃいです」 それから、シグナム達守護騎士達も、管理局に出向いた。 「じゃあ我々も行ってくる」 「いってきます」 「おう」 「いってらっしゃいです」 ……そして…… 「……どうする?」 「どうしましょう?」 ……斬とリインは腕を組んで唸っていた。 「お兄ちゃんは何か用事は無いですか?」 「無い、リインは?」 「無いです…」 実質的な所斬は、嘱託魔導師と言うよりは事件の重要参考人に近い為、基本的に仕事は無かった。 そしてリインは、はやての補佐をしている為、はやてに仕事が無い場合はリインも仕事が無かった。 「…どうするか…」 「…です…」 斬の一日の過ごし方は、大概が暇な誰かと模擬戦をしている。 しかし、今日は手頃な相手が居ない。 唯一空いているのはリインだ。 「………」 「?」 ……かと言ってリインと戦う訳にもいかない…… (…リイン相手なら、五秒で済みそうだな…) 斬は、ため息を吐きながら、リインの頭を撫でる。 (……さて、どうするか……) 嬉しそうに喉を鳴らしているリインを見ながらも、考えを巡らせる。 (…恭也や美由紀は学業が在る…翠屋は流石に早すぎる…) そう考えて一つ頷き、斬はリインを連れて出掛けていった。 ……そして二人が来たのは…… 「………」 「………」 ………桜台だった。 そこで斬は目を閉じて突っ立っている。 見るからに精神統一を図っているようだ。 そしてリインはそんな斬をじっと見詰めている。 「………」 「…お兄ちゃん…?」 「………」 「……お兄ちゃん?」 「………」 「う〜…」 声を掛けても全く反応が無く、リインはつまらなそうに唸る。 そうしている間も、斬自身は微動だにせず、ただ纏っている魔力を、絶えず変化していく。 まず膨張し、次に瞬間的に小さくしてからまた膨張と、そんな事を繰り返している。 そして突如、纏っている魔力を完全に絶った。 (……やっぱり不可能じゃないな…問題は……) そして、大きく息を吐きながら空を見上げた。 「………」 「?」 リインはそれを見て首を傾げる。 「…別な場所に行くぞ…」 「…はい♪」 そして斬の後ろを、リインは嬉しそうに着いていく。 「おはようございます」 「あら、おはよう斬君リインちゃん」 そうして、次にやって来たのは翠屋だった。 早速二人は、店先で開店準備をしている桃子に挨拶をした。 「珍しいわね、こんなに朝早くから?」 「今日は少し暇で…」 「そうなの」 そんな風に世間話をしていると、店内から士郎が顔を出した。 「何してるんだ桃子…っと、斬君じゃないか?」 「おはようございます」 「今日はどうしたんだい?」 「少し暇でして、それでリインと一緒に色々回ってるんです」 「そうかい…」 そう言いながら、士郎は斬をじっと見ている。 そして次第に、斬の身体を見て回り始めた。 「…士郎さん…?」 「いや、中々に良い身体付きをしていると思ってね……」 士郎はそう言い、苦笑する。 「日々鍛練は欠かしていませんから」 「うん!若いのに立派な心掛けだ!」 そう言い、斬の肩を叩きながら士郎は笑うが…… 「……俺って実年齢、士郎さんとそう変わらないんすけど…?」 ……そう呟きながら、斬は苦笑を浮かべていた。 「何時か手合わせをしたいね?」 「……はい!」 何はともあれ、斬と士郎は笑いあっていた。 「それじゃあ、お願いね?」 「はい、解りました」 それから結局、斬は翠屋の手伝いをする事にした。 「何時もごめんなさいね」 「いえ、こっちもお世話になってますから」 そう言いながら、斬が袖を通していくのは…… 「は〜い、ちょっと動かないでね?」 「は、はい…」 やはりエプロンドレス、所謂メイド服だった。 流石に、まだ一人では着られないので、桃子に手伝って貰いながら着替えていく。 「はい、出来たわ」 「ありがとうございます」 そう言い斬は……いや鞘は、試しにくるっと一回転して見た。 紺色のスカートがふわりと靡き、解かれた白銀の髪がそれに合わせて舞った。 「……どうでしょう?」 そう、振り返り様に聞いてくる仕草もとても自然で、流石は桃子と言った処か…… 「とってもよく似合ってるわ♪」 その様子に、桃子は親指を立て絶賛した。 そして、鞘と言う助力を得て、翠屋は開店した。 鞘は見事な手並みで仕事をこなして行った。 完璧な営業スマイルで接客をし…… 「いらっしゃいませ、お席はこちらになります♪」 時折、桃子から料理の師事を受けたり…… 「ここは弱火でね?」 「はい!」 少々大変そうながらも、何処か生き生きとした顔で仕事をしていた。 「♪」 そしてその様子を、リインはニコニコしながらカウンター席で眺めていた。 「はい、ご苦労様」 「は、はい…」 そしてお昼過ぎ、客足が引いてきた頃に、鞘は上がる事になった。 「……ふぅ……」 「とりあえず、ゆっくりしてね?」 そう言い桃子は、鞘にオレンジジュースを注いだグラスを渡す。 「はい、ありがとうございます…」 鞘はしゃべり方を斬に戻しつつ、カウンター席に腰掛けた。 「お疲れ様です、お兄ちゃん♪」 「ありがと…」 「ほら、二人共」 すると士郎が、斬とリインにケーキを出した。 「ありがとうございます」 「頂きます♪」 そして二人は、翠屋特製ケーキに舌鼓を打ち、それから翠屋を後にした。 それから少ししてから、二人は海鳴臨海公園にやって来た。 「わぁ〜い♪」 「はは…」 リインがはしゃぎながら走っていくのを見て、斬は苦笑していた。 子供は元気だなと思いながらも、リインの後を追って歩いていく。 「………」 すると途中、一本の木が目に着いた。 「…桜…か…」 そう呟きながら、桜の木に近く。 「……っ…」 そして少し目を細め、木を見ていると…… 「…ん……?」 たちまち桜の花が芽吹き、瞬く間に満開になっていた。 「…ま…いっか…」 そう言いながら踵を返す。 「綺麗ですね!」 すると、いつの間にか後ろにリインが居た。 「これって、お兄ちゃんが?」 「……ああ、気が付けば自然にこの桜と同調していた……」 そう言いながら頭を掻いた。 「お兄ちゃんって、木と仲良しなんですね?」 「……まあ属性が属性だしな、しょうがないな…」 そう言いながら、人が集まり始めたので、その場から少し離れる事にした。 「……臨海公園だし、海を見よう海を!」 「は、はいです!」 そう言い、海に面した方に向かった。 「…へぇ…」 斬は思わずと言った感じに、そこから見えて景色に声を出した。 「…綺麗だな…」 未だに夏の残暑が在る時期の為、日はまだ高いが其れ故に、空の青と海の青が栄えている。 何処までも果てしない青い空 何処までも拡がる青い海 そしてそれが水平線で合わさり、その境が深い濃紺に見えた。 「ここ以外の海ってどんな感じなんですか?」 「さあな、海自体初めて見たような物だしな…」 「へ?」 「前に来た時はちゃんと見なかったし、はやてと一緒に市内を回った時は、ここに来る前に邪魔が入ったし…」 「…初めて…?」 「ああ、俺は生まれも育ちも山奥だったから」 今まで旅した場所も、秘境や奥地ばかりだったしなと、斬は苦笑しながら言う。 それにリインも苦笑した。 「夕焼けもとっても綺麗ですよ?」 リインは少しはしゃぎながら、斬に得意気に説明する。 それから二人は、海に沿ってゆっくりと歩き出した。 「わ〜い♪」 リインは、はしゃぎながらそこらを駆け回る。 その様子を、斬は少し呆れたような笑みを浮かべて見ていた。 「…っ……?」 その時、斬の脳裏に何かが過った。 「………」 一度顔を伏せ、もう一度リインを見た。 リインはそれに気が付いたようで、はにかんだ笑みを返した。 「…ぇ…」 ――この顔は―― 「どうかしたですか?」 「え!?……いや…」 「そうですか」 リインは、一度キョトンとした顔をし、それからまた駆け回り始めた。 「………」 そして斬は、もう一度リインの姿を見直した。 「………」 ……暫く見ていると…… 「…っ…!」 今度は、明確に何かが見えた。 ……それは…… 「………」 ……記憶の片隅に在った…… ……記憶の奥底に閉まっていた…… ……とても大切な…… ……大切な…… 「…似てる……かな?」 ……『あの後』で、斬が唯一笑った…… ……その要因足る存在…… 「……ふふ…っ!」 斬は含み笑いを漏らした。 その時リインが、丁度斬の方に振り返っており、それに気付いた斬がリインに返したのは…… 「…ぇ…?」 何の屈託も無く、とても暖かい笑顔だった。 今までに見た事も無いような、とても自然な笑みを浮かべていた。 「………」 「……どした?」 「え!?…い…いえ、何でも…」 「そか…」 斬は、ぽけーっとした顔で頭を掻いている。 「………」 リインはそんな斬を見て、嬉しそうに斬の手を取った。 「そろそろ帰りましょう!」 「…そうだな」 そして二人は手を繋ぎ、家路に着いた。 その様子はとても中の良い兄妹のようで…… ……そして… 「えへへ♪」 「………」 ……いや…… ……今は止めて置こうか…… ……この場では…… あとがき ………やっと書けた……… 実は今回モチベーションが上がらなくて、書き上げるまでかなり時間が掛かりました。 ………正直もう駄目かと……… さて、今回の話の肝ですが、ぶっちゃけタイトル通りに斬とリインの関係です。 しかし、それだけではなく、斬はリインを見て何かを……? それは後程語られる筈ですので、暫しお待ちを…… ―――では! |