「―――初めまして。艦船アースラ艦長、リンディ・ハラオウンです」
「あ、はい。初めまして・・・・・・クローセス=シェインです」

関係者一同が集まった会議室、クローセスは翠の髪の女性に頭を下げて挨拶した。集まったメンバーはクローセスのほかになのは、フェイト、アルフ、クロノ、リンディ、エイミィ。そして、シグナムとヴィータの二人と、その他のアースラスタッフだった。
先ほどからメンバーがやたらと低年齢だと思っていたが、さすがに普通の年齢の人もいたらしい。
それにしても―――

「あの、クロノ・・・・・・」
「何だ?」
「フェイト、だっけ? さっきから彼女が睨んでくるんだけど・・・・・・・・・」

先ほどからかなり鋭い視線を向けてくる少女に、クローセスは眉間にしわを寄せて呟いた。何時間前かに助けたのだから、少なくとも恨まれるような事はしていないと思ったのだが。

「―――なのはは、彼女の親友なんだ」
「・・・・・・ああ、さっきの事か・・・・・・」
「その通りだ」

さっきの、と言うのは、言うまでも無くクローセスがなのはを人質に取っていた事だ。確かに彼女には悪かったと思ってはいるのだが、あれはあれでやむない状況だった。まあ文句を言えた義理ではないので、黙って置くが。

助けたときにプラスに傾いていたイメージは、なのはの事で帳消しを通り越してマイナスまで行ってしまったのだろう。

「よろしいですか?」
「あ、済みません」
「ではまず、あなたの素性から説明してもらいましょう。エイミィ、記録を」
「はい、艦長」

エイミィが端末を操作し、録画を始める。リンディが頷いたのを見て、クローセスは己の身の上を語り始めた。

「僕のいた世界は、クリスフォードと言う世界です。お世辞にも、治安が良いとは言いがたいですけど。僕はそこから、僕の上官の師匠―――クラインさんって言う人なんですけど、その人のマジックアイテムの実験でここにきました」
「実験?」
「はい。次元移動を可能にする物だって言ってましたけど・・・・・・」

思えば、あれは自分の前に物や動物で実験していたのだろうか?

「きっとしてた・・・多分してたはず・・・・・・してたら良いなぁ・・・・・・・・・」
「クローセスさん?」
「あ、いえ。何でもありません。ええと・・・・・・ここに来た目的、と言われても答えかねます。ほとんどクラインさんの道楽につき合わされたようなものですから」
「道楽で部下を別次元に送り込むって言うのか?」
「と言うよりは、道楽で部下をマジックアイテムの実験台にするのが大好きなんだよね・・・・・・」

あれだけは何とかして欲しいと、クローセスは深々と溜め息を吐いた。とても困る。
―――と言うか、現在進行形で困っている。

「とはいえ、何の考えも無しに行動する人じゃないですから、あの人には何らかの目的があったかもしれません」
「ふむ・・・・・・あなたは、それを何だと予想しますか?」
「・・・・・・今思い付く限りだと、僕をあなた方に接触させたかったからとしか・・・・・・」
「あのー・・・・・・」

控えめに手を挙げたのは、なのはだった。皆の視線が集中して手を下げかけるが、それでも首を傾げて質問する。

「その人は、私達時空管理局の存在を知ってたって事なの?」
「分からない・・・・・・ただあの人は、僕らの考えを何手か上を行く人だから。だから、その可能性も否めない―――君も、確かこの艦の戦闘員だったよね?」
「あ、はい」
「だったら、いつか会うかもしれない。どこまでも底の知れない、力の限界を測れない人間に。どんな場面でも余裕を崩さず、どんなに追い詰めても演技にしか思えない相手・・・・・・クラインさんは、そういう人種だ」

一切の誇張は含まれていない。その重さのある口調に、なのはは思わずごくりと喉を鳴らしていた。小さく肩をすくめ、クローセスは続ける。

「とにかく、僕の頭じゃいい意味でも悪い意味でもあの人の考えには追いつけない。その事は、僕に聞くだけ無駄だと思う」
「そうですか・・・・・・」
「僕からも質問を良いか」
「あ、うん。どうぞ」

次に声を上げたのはクロノだった。彼はエイミィに目配せをして、座っていた席から立ち上がる。数秒後、会議席の中央にいくつかの映像が浮かび上がった。

「君の戦闘を、フェイトのバルディッシュが記録していたものだ・・・・・・僕が聞きたいのは、一体君はどのような魔法を使って攻撃を行っていたのかと言う事だ」
「魔法・・・・・・僕らの世界じゃ魔導って言うんだけど、これは多分君達の扱うものとは別物だと思う。魔導は基本的には物理的なエネルギーなどを発生させる物だ。これには九つの属性があって、人によって得意なものがある。僕の属性は『無』・・・・・・最も一般的に言えば、衝撃波を操れる」

拳の一撃で傀儡兵を破壊している場面を指差し、クローセスが声を上げる。

「それでまあ、これを高速、高密度化するのに僕らはエレメントって言う物質を用いる。それが、君達が回収したクリアスゼロとその他の宝玉だ」
「・・・・・・? クリアスゼロにだけ名前がついているのか?」
「うん。あれは『魔導の欠片』って言って、それぞれの属性につき一つずつ作られた古代遺産だ。クリアの他にも、あれとほぼ同じで属性だけ違うものが八つある」

クローセスの言葉に、そこにいた全員が思わず息を飲む。あれだけの力を秘めたロストロギアが、あの他にも後八つもあるというのか。

「言っておくけど、あれよりも強力な古代遺産ならいくつもあるからね。僕らの世界の古代種族は、それこそ天変地異を力技で捻じ伏せるほどの力を持っていたから」
「・・・・・・・・・」

今度こそ絶句して、クロノは大きく嘆息した。もし彼の世界に管理局の手が届いたとしても、そこにあるロストロギアを回収しきる事は不可能なのかもしれない。

「・・・・・・とりあえず、君の世界のロストロギアの話はいい。もう一つ質問だ。エイミィ」
「はいな」

クロノの言葉に頷き、エイミィは画面に再びいくつかの映像を映し出した。そう、クローセスが現れた瞬間と、彼が傀儡兵を全滅させたときの映像を。

「―――!」
「・・・・・・心当たりがあるだろう・・・・・・何故、君の瞳の色は変化しているんだ?」
「・・・・・・・・・」

クロノの質問にクローセスは言葉を止め、即座に脳内会議を開いた。果たしてこれから先どうなるか分からない相手に、そこまで手の内を明かして良いものかどうかと。

(大きな組織である彼らを敵に回すべきではないけど・・・・・・それだけ、敵に回った時は厄介だ。けど―――クラインさんは、もしかしたら彼らとの繋がりの為に僕をよこしたのかもしれない)

せめてもう少し詳しい説明が欲しかったと嘆息して、クローセスは覚悟を決めた。そもそもこの能力は、外的な要因からでは抑えられないのだから、そうそう対策は立てられないはずではあるし。

「・・・・・・これは、眼術と呼ばれる特殊技法だ」
「眼術?」
「身体能力を高める特殊技法。発動すると瞳の色が変化するから、眼術と呼ばれている。特定の血を引く者にしか使えない技法だ」
「ふむ・・・・・・さしずめ君は、速力の強化と言った所か」

ばっちりと見破られている事に溜め息を吐いて、脳内メモの出来れば敵に回したくない相手にクロノの名前を書き込んでおく。中々に油断ならない相手だった。
警戒しておくべきかどうかを考えて―――そこに、リンディの声がかかった。

「―――最後に、よろしいですか?」
「あ、はい」
「私達が先ほど交戦していた傀儡兵・・・・・・あれは、出所の知れないものです。そこにあなたは突然現れた・・・・・・」
「・・・・・・疑われても仕方が無い状況、と言う訳ですか」

頷いたリンディに、クローセスは小さく目を細めた。よくよく考えれば、今現在の彼らの状況を自分は掴めていないのだ。実際、客観的な視点から見て自分自身がスパイである可能性は大いにある。無論、無関係ではあるのだが・・・・・・それを証明する手立ては、今の所無いと言える。

「ですから聞きます。あなたは・・・・・・我々の、敵ですか?」
「違います―――この名に懸けて」
「・・・・・・エイミィ」
「とりあえず、装置では嘘は発見できませんね」

ずいぶんと警戒されているものだ、とクローセスは苦笑した。まあ、当然の処置ではあるが。

「では、あなたの身柄はこのアースラで拘束、観察と言う形を取ります。異論はありませんね?」
「ええ、そのくらいで済むなら十分です」
「こちらの指示には従う事。この件が解決し、あなたの関与が認められなければ、拘束観察は解除します」
「はい」

頷き、リンディが表情を緩めたのを見て、クローセスも肩の力を抜いた。さすがに艦長と言うだけあって、中々の気迫と実力の持ち主らしい。
安堵して周りを見渡すと、それぞれ違った視線とぶつかった。単純に嬉しそうななのは、まだ一部警戒している部分があるらしいクロノ、そして複雑な視線のフェイト。

(彼女のは、後でなのはに取り成して貰おうかな・・・・・・)

苦笑する。だが、そこまで想える友人がいるのはいい事だとも言える。友人関係には恵まれているらしい彼女らに、クローセスは多少羨望を覚えていた。
と―――突然机の中心にモニターが開き、そこから一人の少女の声が聞こえてきた。

『リンディ艦長』
「あら、はやてさん。調査はどうなってるの?」
『順調です。今はシャマルに広域調査してもろてます』
「そう・・・・・・何か分かった事は?」
『今の所は、特に。ただ、もう少しでロストロギアの位置特定は出来そうです』
「分かりました、それじゃあ、そのまま頑張って」
『了解や・・・・・・っと』

会話が終了し、モニターが消える―――と想った瞬間、今度はクローセスの前に同じものが現れた。中に、茶髪の利発そうな少女、はやての顔が映っている。

『君がクローセス君やな。私は八神はやて言います。さっきはうちの子が迷惑かけてごめんなー?』
「あ、うん。クローセス=シェインです・・・・・・えっと、うちの子って?」

多少大人びてはいるが、とても九歳や十歳の子供が言う言葉ではないと思う。首を傾げながらクローセスが聞くと、はやてはカラカラと笑いながら応えた。

『シグナムとヴィータや。さっき問答無用で襲い掛かったって聞いたんやけど?』
「あー・・・・・・いや、あれは咄嗟に武器を抜いちゃった僕にも責任があるし」
『お、いい人やなクローセス君・・・・・・言いにくいな。クロス君でどや?』
「ああ、それで良いよ。昔からそう呼ばれてたし」

友好的で親しみやすい態度に、クローセスは思わず笑みを浮かべていた。元々天界騎士団は上も下も無礼講のようなものであったし、こういう柔らかい空気の方が自分としても居心地はよかった。

『ほんじゃ、また後で話させてもらうわ。皆と仲良くしたってな?』
「はは・・・・・・まあ、こっちも出来ればそうしたいと思うよ」

旧知の仲であるような言葉を交わして、通信が切れる。そんな様子に苦笑して、なのはが声を上げた。

「にゃはは、さすがはやてちゃんだね」
「主はやては懐の広い御方だからな」
「そうみたいだね・・・・・・彼女とは、何だか息が合いそうな気がするよ」

ただし、何だかこう―――合いたくない方面でも息が合うような気がしてならなかった。
・・・・・・ボケとツッコミとか。
思わず光景が浮かんできて、クローセスは頭を振ってその光景を追い払った。何故自分にここまでツッコミ属性が付いてしまったのかを腕を組みながら真剣に考え始めた辺りで、リンディから全員に対しての指示が入ったため、思考を中断する。

「とりあえず、はやてさんの調査が済むまでは全員待機態勢。いつでも出撃できるようにしておいて下さいね。クローセスさんは、とりあえず私と一緒にいる事」
「あ、はい。分かりました」

その言葉に頷き、クローセスは席を立った。着ている物が未だ病人服だったため、非常に居心地が悪かったのだ。
そう言えば、とクローセスは首を傾げた。ロストロギア扱いされていたクリアスゼロはどうなるのだろう。ふと気になって、隣を歩いているリンディに質問する。

「あの、リンディさん、クリアはどうなるんですか?」
「ああ、あの宝玉? しばらくは調査、観察という風になるでしょうね。本局で危険が無いかどうか調べて、安全と判断されれば返還、という風になると思います」
「はぁ・・・・・・」

どの道あれは僕の呼び声にしか応えないんだけどな、とクローセスは思う。いかなる状況下にあろうとも、クリアスゼロは所持者であるクローセスにのみ従う。たとえ封印されていようと、呼ばれればすぐにその手の中に現れるのだ。

「まあ、あなたにとっても大事なものでしょうし・・・・・・悪いようにはしないつもりよ?」
「ありがとうございます」

融通の利く人、組織でよかったと安堵する。

―――皮肉な事に、落ち着いたと思える時間は後数時間で消える事になる。己の置かれた状況を、彼はまだ理解してはいなかったのだ。







あとがき?



「立てたフラグを叩き折る、それが不幸少年クオリティ。さぁ今回もこの俺のコーナーがやって来たぞ」

「あーもー・・・・・・せめて一つの台詞にツッコミ所は一つにしてくださいよ」

「まだまだだな、クロス。我が馬鹿弟子なら、一言一句逃さず、しかも物理攻撃も交えてツッコミを入れてくるぞ」

「兄さんもいいように乗せられてるなぁ・・・・・・」

「ま、それは置いといて・・・・・・何だかんだであの嬢ちゃんに嫌われてんな、お前」

「いや、そりゃなのはにもフェイトにも悪かったとは思いますけど・・・・・・」

「大宇宙の神秘という不可抗力だ、諦めろ」

「・・・・・・普通の会話にもツッコミ所を混ぜないで下さい」

「はっはっは・・・・・・お?」

「? どうしました、クラインさん?」

「ほれ、あそこに見えるは・・・・・・」

「あ、フェイト・・・・・・うぐ」

「・・・・・・・・・思いっきり目を逸らされたな」

「・・・・・・何か、いくら何でもあそこまで嫌われてるのは何か別の理由があるんじゃないかと」

「女心の分からん奴には一生かかっても分からんさ。そう、お前の兄貴のように」

「兄さんと一緒にしないで下さい・・・・・・って言うと兄さんに怒られそうだけど」

「安心しろ、言っといてやるから」

「止めてくださいっ!」

「遠慮するな遠慮するな」

「断じて違いますッ! って言うか自己完結型で生きるの止めてください!」

「まーまー、そう血圧を上げるな・・・・・・さて、お前のキャラを説明するのも今日は気が乗らんし、次回予告でもしておくか」

「何でこんな人が一番偉いんだろう・・・・・・」

「実力だ。えー、次回はいわゆる『急・展・開!』という奴だな」

「適当ですね・・・・・・って言うか、発音おかしいですよ?」

「いいだろ、情緒があって」

「ありません」

「ふむ・・・・・・では巻き舌で」

「いいから進めてくださいよいい加減っ!」

「わがままな奴だな・・・・・・まぁ急展開っつってもその次の回にもなりかねんが、現場組に頑張ってもらう回だな。恋愛話で盛り上がる女子達っつーのは、外から見てるとまた面白いもんだが」

「悪趣味ですよ」

「そう言いながらアースラのモニターで見てるクロス」

「人聞きの悪い事言わないでくださいっ! そんな音声まで拾ってませんよ!」

「つまらん奴だな。それぐらい酒の肴にしろ」

「実年齢もこの体もどっちも未成年です!」

「気にするなそんな事。我が弟子は十四の頃には酒を飲んでたぞ?」

「クラインさんが飲ませたんでしょうが」

「そうとも言うな。あいつは酔わなくてつまらなかったが」

「はぁ・・・・・・もういいです。それじゃあ皆さん、次回にお会いしましょう」






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