アースラのオペレーティングルーム、展開される巨大な画面を見ながら、クローセスはそこに映し出される映像に感嘆の息を漏らしていた。
遺跡を探索するアースラチーム。なのは、フェイト組とシグナム、ヴィータ組。そして、はやて、シャマル、ザフィーラ組という編成となっている。

「んー? どーしたのクロス君?」
「あ、エイミィさん。いえ・・・・・・皆、凄い実力と才能だな、と」

画面の中、なのはたちのウィンドウを見る。遺跡内のトラップとして置かれていた自動人形たちは、放たれた桜色の奔流の中に砕けて消えた。何と言うか、ある意味哀れにも見えてくる光景である。
先ほどクロノの名前を書き込んだ敵に回したくない人間リストの中に、高町なのはの名を極太の赤文字で大きく書き込みながら、クローセスは小さく嘆息した。

「僕にも、あれくらい才能があればよかったんですけど」
「・・・・・・本気で言ってるの、クロス君?」
「ええ・・・・・・僕の魔力容量は、そんなに高くありませんから。強く見えたのは、単に戦闘慣れしてるだけです。『敵に近付いて殴り倒す』しか、僕に出来る事はありませんから」

戦闘技術は磨けば誰でも高める事はできる。三歳の頃から拳での戦い方を学び、この三年間はほとんど戦場で生きてきた。この環境なら、戦いの素人だって嫌でも戦闘のスペシャリストになれるはずだ。

「・・・・・・さっきの君の戦闘データから私たち風に魔導師ランクをつけてみたんだけど、見てみる?」
「へ? あ、はい。一応」
「えーと、データが少ないから分かってる部分だけだけど。クローセス=シェイン。魔力量B+〜AA、高機動戦闘能力S、レアスキル適正AA、総合・・・・・・特定条件化での戦闘行動に限り、ランクはS・・・・・・とてもじゃないけど、これを天才じゃないとは言えないよ」

ちなみに、特定条件化というのは地上におけるクロスレンジ戦闘である。
じとーっとした視線を受けて、クローセスは思わず苦笑した。言わんとしている事は分かるが、そもそも魔法大系自体が違うのだからあまりそのランク付けには当てはまらないと考えた方がいいだろう。

「高機動戦闘って言うのは分かりますけど・・・・・・僕の取り柄って、スピードだけですからね。でも、僕らの世界じゃ魔導師は皆クロスレンジ戦闘を主眼に置いてますから、一対一の戦闘で僕より強い人は何人も居ますよ。だからきっとそのランクも、様々な状況を考えた上だったら、せいぜいB〜Aがいい所じゃないですか?」

スピードだけならば誰にも負けない・・・・・・その自信が、クローセスにはある。しかし、戦闘はそれだけではないのだ。クロスレンジだけで戦闘を制する事などできない。
ミドルレンジ、ロングレンジを含めてどのような状況下でも有利に戦闘を繰り広げられるオールラウンダー・・・・・・それをこなす人間こそが本当の天才だと、クローセスは信じていた。

「僕が手も足も出ないで惨敗しそうな相手は・・・・・・少なくとも、五人はいますね。僕が所属してた組織の中では」
「・・・・・・マジで?」
「マジです」

揃いも揃って化け物揃いな組織である。

「まあとにかく、彼女達のほうがずっと煌びやかな才能を持ってると思う訳です」
「う〜ん、クロス君も負けてないと思うんだけどなぁ・・・・・・何でユーノ君といい君といい、男の子はこう謙虚なのかねぇ?」
「ユーノ?」

聞き覚えのある名前に、クローセスは首を捻って記憶を漁った。数秒後、あの病室で寝ていた少年の名前と同じである事を思い出す。

「そーだよ。ユーノ君も、戦闘魔導師としては確かにそれほど才能があるって訳じゃないけど・・・・・・結界魔導師として、あるいは司書としてのユーノ君は、恐らく時空管理局全体でも並ぶ者はそうそういないでしょうね」
「へぇ・・・・・・そういえば、彼はどうして怪我を?」

結界魔導師というのは良く分からないが、響きからして恐らく守りなどに特化した魔導師の事なのだろう、と胸中で呟く。クローセスには、その中でも肩を並べる者がいないほどの術者が、どうしてあれほどの重傷を負ったのかが分からなかったのだ。

「ユーノ君ね、本当はうちのクルーじゃないんだよ。でも遺跡の調査とかが得意で、今回は特別に付いて来て貰ってたの。でまあ、まだ外回りの調査の段階だったし、危険も無いだろうって油断してたら・・・・・・」
「あの鎧どもが現れた、と」
「そうなの。ユーノ君も前に出てきたのは久しぶりだし・・・・・・ちょっと勘が鈍ってたみたいでね。なのはちゃんに襲いかかろうとした傀儡兵をバインドしたまではよかったんだけど・・・・・・自分の方までは手が回らなかったみたいで」
「―――!」

クローセスは、思わず息を飲んだ。
己よりもまず他人を優先するその行為。その在り方はまさしく―――

「騎士、みたいですね」
「へ? ユーノ君はミッド式魔導師だから、騎士じゃないけど?」
「あ、いえ。僕らの世界での意味です。気にしないで下さい」
「えー、気になる―――」
「エイミィ! 喋りすぎだ」

さすがにお喋りが過ぎたのか、後ろからクロノが声を張って諌めて来た。エイミィは不満げな表情ではあったが、さすがに場面は弁えているのか、これ以上の余計なお喋りは止めたようである。

(・・・・・・ユーノ、か)

外見的には、なのは達と変わらない年齢―――その年で既に『自分より他人』という考え方を持っているのは、正直意外だった。綺麗事ではなくその考えを実行する人間は、ほとんど居ないと言っていい。

彼が一体どんな経験をして来たのか―――それを、聞きたい。
そう思った、瞬間だった。

「―――クロノ!」

聞こえてきた新たな声に、クローセスはそちらへ視線を向けた。オペレーションルームの入り口、そこに立っている一人の少年に。

「起きてきたのか、ユーノ」
「ああ・・・・・・皆は?」
「下に降りてる。とりあえず、心配は要らないだろう・・・・・・そうそう、君の傷を癒してくれた相手がそこにいるから、しっかり感謝しておくように」
「・・・・・・まるで自分に感謝しろとでも言ってるような言い草だね、クロノ」

悪態や皮肉を交えた会話に、クローセスはぱちくりと目を見開いた。
―――仲が悪いようで良い、というパターンだろうか?
そう胸中で呟きつつ、ユーノが目の前まで来るのを待つ。目の前に立った少年と目線が同じ事にどこか複雑なものを感じながら、クローセスは声を上げた。

「怪我の具合は大丈夫?」
「あ、うん。君は・・・・・・」
「クローセス。クローセス=シェインだ。クロスって呼んでくれて構わないよ」

初対面時でこれを言うのは久しぶりだと苦笑して、クローセスは右手を―――己の利き腕を差し出した。その意味には気付かずに、ユーノも笑顔でその手を握り返してくる。

「ありがとう、クロス。僕はユーノ・スクライア。無限書庫の司書をやってるよ」
「僕は、ええと・・・・・・一から説明するのも大変だな・・・・・・エイミィさん、データ出してもらえません?」

横着な台詞を吐きながら、クローセスはその顔に笑みを浮かべていた。


 * * * * *


「バスタ――――ッ!!」

放たれた砲撃魔法が、何対もの自動人形を巻き込んで消滅させてゆく。親友の苛立っている様子に、フェイトはなのはに気付かれないようこっそりと溜め息を吐いていた。気持ちは分からないでもないが、せめてもう少し回りに――主に、この壊れかけの遺跡に――配慮してもらいたいと思う。

「フェイトちゃん、この辺りは片付いたよ?」
「なのは・・・・・・ええと、大丈夫?」
「む・・・・・・」
「イライラしてるよ、なのは」

まだ付き合いは一年に達していないが、それでも何がなのはを追い立てているかは分かる。

「原因は、ユーノが怪我した事と・・・・・・その原因が、自分だからって事かな」
「フェイトちゃん・・・・・・鋭いよぅ・・・・・・」
「親友だからね」

小さく笑って、フェイトはなのはに近寄った。彼女の顔に浮かんでいるのは、複雑な―――泣きそうで、それに自分で気付いていないような表情。

「なのは、泣いちゃったもんね、ユーノが倒れたとき」
「にゃああぁぁぁ・・・・・・い、言わないでフェイトちゃん・・・・・・」
「ふふっ」

真っ赤になって崩れ落ちるなのはに微笑んで、フェイトは小さく息を吐き出した。あの時のなのははそれはそれは取り乱していたもので、ヴィータが駆けつけたときには対応にかなり困っていたらしい。
溜め息には見えないようにしながら、胸中で呟く。

(何でこう・・・・・・自分で気付かないんだろう、なのは)

見ていてこう、いつもいつも歯痒い思いをさせられる。
ユーノがなのはに特別な想いを抱いている事は、どこからどう見ても一目瞭然だった。はじめに聞いた時はかなりうろたえていたけれど、最近はからかわれ慣れてしまったのか、ずいぶんと対応が落ち着いている。

―――つまり、それだけ長い間なのはが気づいていないという事。

ここからはまた皮肉な話だが、なのは自身も、ユーノに対して特別な想いを抱いているようなのだ。ただ本人がそれに―――その感情の名前に気付いていないというだけ。
何と言うか、見ていて非常に歯痒いものがある。

―――そんな事を考えて油断していたからだろう、なのはからの反撃は、隙を突いて鋭い角度から入ってきた。

「そういえばフェイトちゃん、どうしてクロス君の事気に入らないの?」
「―――っ!?」

いつの間にか復活していたなのはが、ごくごく自然な―――含む所の無い表情で聞いてくる。無垢な子供が一番怖いと言ったのは、一体誰の台詞だったか・・・・・・いやまあ、フェイトも子供ではあるが。

「フェイトちゃん?」
「う・・・・・・じゃ、じゃあ何でなのはは悪い印象持ってないの? 人質に取られたのに・・・・・・」

―――言っている途中で、それは既に分かり切っている質問だという事に気づいた。ほとんど間を空ける事も無く、満面の笑顔でなのはは答える。

「ユーノ君の怪我を治してくれたから」
「そうだったね・・・・・・」
「ねえ、フェイトちゃんは何で?」

どうやら、見逃してくれるつもりは無いらしい。諦めの吐息と共に、フェイトは声を上げた。

「なのはを人質にしたのは・・・・・・確かに嫌だけど、でもそれが合理的だったって事は分かるよ」
「じゃあ、何で?」
「・・・・・・シグナムが・・・・・・一目で認めたから」
「あ〜・・・・・・」

あのシグナムが剣を交えたわけでもない相手に対して、その戦い方を見ただけで『強い』と評したのが、フェイトとしては中々認められるものではなかったのだ。シグナムのライバルは、自分なのだから。

「あと、私より凄い高機動戦闘をしてたのも・・・・・・」
「そっか・・・・・・」
「私が気付けなかった隠蔽魔法にあっさり気付いちゃったし・・・・・・」
「え〜と・・・・・・あの、フェイトちゃん?」
「カートリッジが足りてれば、私だって・・・・・・」
「フェイトちゃん!」

突然のなのはの制止に、フェイトは思わず硬直して目を白黒させた。視線を向けると、なのはは苦笑しつつ両手を腰に添える。少し呆れたような口調で、彼女は声を上げた。

「フェイトちゃん・・・・・・さっきから、何か無理やり理由を探してるみたいだよ?」
「え?」
「もしかしたらなんだけどさ・・・・・・フェイトちゃんって、クロス君に認めてもらいたいんじゃないかな? 対抗意識って言うか、シグナムさんに対するのと同じような気がするけど・・・・・・」
「認めて・・・・・・?」

言われて、考えてみる。戦闘技術は明らかに自分よりも上―――あのシグナムが一目で認めたのだ。それは間違いない。

そんな人間に認められたのなら―――自分は、どう思うだろう?

「・・・・・・私は―――」
『こちらシグナム! 聞こえているか、テスタロッサ』
「きゃ!? な、何ですか?」

突如として眼前に開いたモニターに、フェイトは思わず悲鳴を上げていた。どうやら、少々考え込みすぎていたらしい。

『先ほどの傀儡兵とエンカウントした。こちらは交戦を開始する』
『フェイトちゃん、なのはちゃん、実はこっちもなんよ』
「はやてちゃんの方も!?」
『うん。だから、もしかしたらそっちにも行くかも知れんし、気をつけてな』
「分かった。ありがとう、二人とも」
『いや。油断するなよ?』

二人の通信が切れ、フェイトは気を引き締めた。アンノウンが多い遺跡の中で、自分は少々緩み過ぎていたと思う。

「なのは」
「うん、フェイトちゃん」

互いにデバイスを握り締め、二人はそのまま先へと歩き出した。

―――その先に、一体何がいるかも知らずに。







あとがき?



「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・ホントに次回になりましたね、急展開」

「まー、予想外に話が盛り上がったってことだろ。お前の魔導師ランクとか」

「ああ・・・・・・でも、流石にSは高すぎると思うんですけど?」

「んなこたーない。仮にもお前は最高ランク一歩手前の騎士だろうが。むしろ、それぐらい無いと困る。つーか、困ってる」

「分かりやすい嘘吐かないでください。そもそも形式が違うんですから・・・・・・僕らみたいに一対一で『相手を仕留める』戦闘をするようなのは、向こうの魔導師にはいないって事でしょう?」

「大規模殲滅する術者もいるこたいるんだがなぁ・・・・・・俺とか」

「そりゃ、クラインさんならSSランクなんて余裕でオーバーしてるでしょ」

「そーだな。あんまり戦闘能力高すぎるのも困るから、偏りのあるお前を使ったんだろ、作者は」

「偏り・・・・・・そういえば、いつの間にか暗殺者みたいなスタイルになってますもんね、僕」

「ナイフだもんなぁ・・・・・・しかも、黒鍵のごとく大量に仕込まれた」

「分かりにくい上に微妙に際どいネタは止めてください。そもそも、僕は元々格闘型なんですけど」

「今だってそうだろ? 内部破壊なんてエグイ攻撃をしこたま打ってくる。ナイフは距離が開いたときの牽制程度に使ってるんだし」

「エグイ言わないで下さい。気にしてるんですから」

「エグイだろ。(自主規制)な感じの(銃声)がいくつも(めかりるうぃ〜しゅ)でしかも(おとなにな〜ってもわ〜すれない〜)な感じになってる(ほしぞらのす〜ぴか〜)を量産したくせに」

「訳分かりませんから・・・・・・意味が繋がらないけど文が繋がってる辺りが特に」

「訳の分からん事を言うな」

「ああ・・・・・・また収拾がつかなくなる・・・・・・」

「余計な事を気にする奴だな。禿げるぞ?」

「ほっといてください。ええと、話が盛大に逸れましたが、僕の魔導師ランクはこれから正確に測ることになるので、一応」

「うむ、まぁあの嬢ちゃんたちに比べればお前の魔力量は大した事ないが」

「彼女達が異常なんですよ。姉さんに近い魔力を持つ人間が三人も一箇所に集まってるんだし」

「海鳴市は恐ろしいな。戦闘民族も暮らしてるし」

「・・・・・・何気なく派手にケンカ売ってますよね」

「何気なくと派手には全く逆の言葉だぞ?」

「・・・・・・もういいです。えー、次回は何となく予想できると思いますが、派手に戦闘になると思いますので」

「まぁ、室内だとあの嬢ちゃんたちは派手に立ち回れはせんだろうが」

「そこが考え所ですね」

「だな。じゃ、次回をお楽しみに」






BACK

inserted by FC2 system