「アクセルシューター!」

なのはの声と共に、再び桜色の弾幕が放たれる。それによってグランゼストの動きが鈍り―――そこに、ユーノの魔法が放たれた。

「チェーンバインド!」
『Arrest Shift!』

放たれる鎖は魔法陣からではなく、ユーノが横薙ぎに振った腕からだった。一端をどこかにつける事無く、二メートルほどの鎖は黒き大剣に絡みつき―――そして、その長さを唐突に伸ばした。鎖の両端は、少し離れた床に突き刺さる。

「ぬぅっ!?」
「アクセル!」
『Snipe Shot!』

さらに動きの鈍ったグランゼストに、アクセルシューターが殺到した。次々に魔力弾が命中し、爆煙を上げる。それを見たなのはは、レイジングハートをバスターモードに―――

「―――甘いッ!!」
「えっ!?」

煙の中から、グランゼストはほぼ無傷で飛び出してきた。レイジングハートはモード移行中―――防御など間に合わない。
だが―――

「僕達がいるッ!」
『そうですっ! Round Shield Exact!』

剣の前に現れた魔方陣は大きさこそ同じなものの、放っている光は普段とは段違いに強かった。盾は完全に剣を受け止め、それを弾き返す。なのはの前に立ち、ユーノは力強く声を上げた。

「僕がいる限り、なのはは傷つけさせない!」
『フィーだっています!』
「フ・・・・・・そうか」

愉快そうに笑み、グランゼストは再び剣を構える。それを見て、ユーノは後ろのなのはに小さく囁いた。

「なのは、レイジングハートはバスターモードのままでいい」
「えっ? でも、それだと―――」
「砲撃の隙なら、僕とフィーが作る。なのはは撃ち抜く事だけを専念して」

そう言ってなのはを下がらせ、前に出る。頭の中に流れてくる、クレスフィードによって新たに作られた、あるいは改良された魔法の数々。それのうちいくつかを構築し、ユーノは両腕を広げた。

『準備完了・・・・・・Load Cartridge.』
「ヴァリアブルフィールド!」

右腕のガントレットから、一本の空薬莢が排出される。ユーノの声と共に、周囲の空間にいくつもの翡翠の魔方陣が浮かび上がった。それらを警戒するようにグランゼストは動きを止めるが、特に何も起こらない。

「・・・・・・不発か? 守護者よ」
「それは、挑んでから決めてください」
「ならば―――そうさせて貰う!」

その声と共に、グランゼストは魔剣を手に駆けた。一直線にユーノへと走り―――その魔剣の先が、一瞬魔方陣に触れる。
―――瞬間、魔剣は翡翠のリングに捕らえられた。

「なっ!?」
「リングバインド・・・・・・続けて、チェーンバインド!」

ユーノの声と共に、周囲にあった魔方陣の内の二つが、それぞれ三本の鎖を放った。それらは動きの止まったグランゼストと魔剣を絡め取り、その場に縫い付ける。

ヴァリアブルフィールドは、複数の術式を発動一歩手前の状態で留めて設置し、任意にそれを発動する魔方陣の結界。魔方陣の制御はクレスフィードが行っているので、ユーノはタイミングを計ってそれを発動するだけだ。

「なのはっ!」
「うん! 避けて、ユーノ君!」

なのはの声に従って、その場から退避する。そしてグランゼストに向かって、レイジングハートの先端が向けられた。

『Divine Buster.』
「いっけえええええええッ!!」

放たれる桜色の砲撃。障害物も無く、それは一直線にグランゼストへと駆け抜け―――
しかしその瞬間、その前に複数の傀儡兵が立ちはだかった。砲撃は傀儡兵を爆砕させるが、そこで止まってしまう。二人とも咄嗟に身構える―――が、傀儡兵の登場に大きく反応したのは、他でもないグランゼストだった。

「何のつもりだ、ウェルフィレア!」

魔剣から放った力場で鎖を砕き、グランゼストが咆哮する。それに対する声は、虚空から聞こえてきた。

『何じゃ、助けてやったと言うのに・・・・・・相変わらず恩知らずな奴よのぅ』
「これは我の戦いだ! 手出しは許さん!」
『今生きているのが妾のおかげだと言う事が分からんのか?』

その声―――ウェルフィレアの声と共に、地面から滲み出るように傀儡兵が現れる。

『まぁ、どの道その身体では妾達には逆らえん。いつまで持つかも分からんが、その剣に宿った亡霊なら、死ぬ前に少しは役に立ってはどうじゃ?』
「誰も・・・・・・生き返せなどと頼んだ覚えは無い・・・・・・!」

グランゼストが傀儡兵に向かって刃を叩きつけようとする―――だが、その体が動かなかった。グランゼストのことは無視し、傀儡兵達はユーノたちに向かって進んでくる。
虚空から聞こえてきた声に、ユーノはポツリと呟いた。

「気に入らないな・・・・・・フィー」
『はい・・・・・・フィーも、怒りました』

俯いていた顔を、上げる。向かってくる傀儡兵たちを睨み据え、ユーノは叫んだ。

「クレスフィード、ダガーエッジモード!」
『Load Cartridge! Daggeredge mode―――』

右腕からカートリッジが排出されると共に、盾を形成していた翡翠色の光が消える。そしてそれと共に、盾の下から一本の柄が飛び出した。ユーノはそれを、思い切り引き抜く。

『―――Drive ignition!』

ユーノの右手には、翡翠の光を放つ短刀が握られていた。元となる刃はナイフほどのサイズだが、その先に翡翠の魔力が収束し、刃を形成している。

「身体強化!」
『Intensification!』

再び、カートリッジをロード。空薬莢が排出されると共に、体の中を衝撃が駆け抜ける。身体能力をカートリッジの魔力によって強化し、ユーノは駆けた。

『―――Reproduction, start.』
「―――ッ」

クレスフィードの声と共に、頭をかき回されるような頭痛がユーノを襲った。今ユーノの頭の中では、ナイフを使った戦い方―――クローセスが行ってきた膨大な戦闘データが再生されているのだ。

(ナイフだけで、こんな量か・・・・・・!)

様々なスタイルで戦闘を行うクローセスの、そのほんの一部。それだけで、彼は数百と言う数の戦闘を行っていた。レイが本のような形でまとめたデータに検索魔法をかけ、その場で最適な動きをピックアップし、それを再現する。

敵の位置を把握しつつ、適切な対処法を検索、さらに必要とあらば防御魔法を行使する―――無限書庫で培われた処理能力は、決して伊達ではなかった。

「そこッ!」

突き出された傀儡兵の槍を屈んで避けつつ切断し、ユーノはさらに体勢を低くして、足の間を縫うように駆け抜けた。そしてその交錯の刹那、傀儡兵たちの踵―――人間のアキレス腱の部分を切り裂いている。
しかし、その程度で敵は止まらない。傀儡兵はユーノに向かって武器を振り下ろそうと振り返る。が―――

「遅い」

一瞬で飛び上がり、ユーノは左手で相手の首を掴み、短刀でその首を切断した。頭部を失った傀儡兵がゆっくりと倒れ、爆砕する。距離を取りながら、ユーノは思わず頭痛に顔をしかめていた。

「―――っ、ぐ」
『マスター、いくら何でも無茶です! 情報量を処理し切れませんよ!?』
「分割して絞り込んで! 大人数相手の時! それに、これくらい倒せなきゃ―――」

襲い掛かってくる傀儡兵に対し、再び短刀を構え、叫ぶ。

「―――なのはを護れる訳がないだろッ!!」

幾分和らいだ頭痛を完全に無視し、ユーノは再び駆けた。振り下ろされた大剣を躱して肉薄し、その腕を切断。さらにもう一方の腕の手首を切断し、武器を完全に離した。そして、背後からの攻撃を紙一重で躱す。突き出された槍はユーノを外して両腕の無い傀儡兵に突き刺さり、そして攻撃した方の胸にはユーノの刃が突き刺さった。

爆発を躱し、距離を取る―――そしてふと、ユーノは自分が包囲されていることに気付いた。

「・・・・・・やっぱり、付け焼刃の見よう見真似じゃこんなものか」
『ユーノ君、やっぱり援護を―――』
『大丈夫。なのは、君は砲撃の隙を探して・・・・・・これなら、何とかできる』

出来るものならやってみろ、とでも言うのか―――包囲する傀儡兵は、一斉にユーノに向かって襲い掛かった。小さく笑み、クレスフィードに命じる。

「カートリッジロード!」
『Load Cartridge. Sphere Protection Extensive.』

ユーノを取り囲むように、球状の防壁が作り出される。全ての武器を受け止めきった強固な防壁に満足し、ユーノは右手を地面に着いた。

「行くよ。チェーンバインド、攻撃型バリエーション!」
『了解です! Load Cartridge.』

ユーノの声に応え、クレスフィードが一気に四本のカートリッジをロードする。湯水のように消費しているが、まだまだ余裕はあった。

(まさか、十五本二列のカートリッジを内蔵、なんてね)

カートリッジシステム専門の、三十本のカートリッジを搭載したガントレットに苦笑して、ユーノは床に巨大な魔方陣を広げた。傀儡兵達も警戒するが、既に鈍重な動きのそれらが逃げられる状況ではない。

「行くよ―――アクティブチェイン・アセンションシフト!」
『Active Chain, Ascension Shift!』

ユーノが術式を起動する。その瞬間、魔方陣から先端に鋭い刃を取り付けた鎖が無数に立ち昇った。槍のような鎖は余す事無く傀儡兵を貫き、爆砕させる。
息を吐いて振り向き―――ポカンとした表情のなのはと、視線が合った。

「・・・・・・僕が攻撃するのって、そんなに意外かなぁ?」
『今までのマスターを見てれば、そうかもしれませんけど』

クレスフィードの返答に苦笑し、ユーノは今まで手を出さなかったグランゼストに向き直った。彼は、魔剣を握ったまま強く拳を握り締めている。

「・・・・・・話を、聞かせてもらえませんか?」
「・・・・・・・・・ああ」

苦虫を噛み潰したような表情の顔を上げ、グランゼストは声を上げた。

「貴殿は聡い。恐らく、大まかな事は気付いているだろう」
「・・・・・・貴方が、二年前の戦い、あるいは遥か昔に死んでいると言う事ぐらいは」

ウェルフィレア―――クローセスが注意しろと言っていた第二階梯の古代魔導族。その言葉を聴く限りで、得る事が出来た情報。彼女達は、何らかの方法で死人であったグランゼストを蘇らせた、と言う事になる。
ユーノの言葉に、グランゼストは自嘲気味に頷いた。

「その通りだ。我は二年前の戦いで・・・・・・騎士団の魔剣士レイヴァン=クラウディアに敗れ、この世から消滅した。だが―――」
「ウェルフィレア、そしてメルレリウス・・・・・・恐らくはメルレリウスの人形、ですか」
「ああ・・・・・・メルレリウスは、《ヴィトラム》に残っていた我の魔力と、自身の記憶にあった我の情報から、我の人形を作り出した。そして、ウェルフィレアは我にその魔力を埋め込み・・・・・・」
「絶対服従の、強力な駒を作り出した・・・・・・」

歯軋りと共に、会った事も無い古代魔導族に対する怒りを吐き出す。外道である、最悪な連中であると言われていたが―――根っからの戦士であるグランゼストを、そんな事に利用するとは・・・・・・許せない。

「生き恥を晒すくらいであれば、自ら命を絶つ。だが・・・・・・それもままならん。守護者よ、貴殿の名は」
「・・・・・・ユーノ・スクライア。そして、クレスフィードです」
「そうか・・・・・・ユーノ・スクライア、クレスフィード。そして高町なのは、レイジングハート・エクセリオン・・・・・・貴殿らに頼みがある」

言って、グランゼストは《ヴィトラム》を持ち上げる。一振りし、構えたそれを、ユーノは静かに見詰めていた。

「我を、止めてもらいたい。そして願わくば、今一度戦士としての最期を迎えたい」
「何故ですか・・・・・・例え何であっても、今貴方は生きているんじゃないんですか!?」

その声を上げたのは、なのはだった。己の誇りに殉ずる―――その意味を知らない少女には受け入れがたい事であり、あまりに哀しすぎる結末だから。なのはの言葉に、グランゼストはその顔に淡い笑みを浮かべていた。

「ここに来る前、我は貴殿の世界を見てきた・・・・・・素晴らしい場所だ。例え戦いがあろうとも、我等ほどには無意味な殺し合いをしていない。だが・・・・・・その調和を乱さなければならないのは、我には耐え切れん。我を倒せば、貴殿の世界の敵は一つ消えるのだ」
「そんな・・・・・・どうしてですか!? 何で貴方達の戦いは、そんな結果にしかなれないんですか!? そんなの・・・・・・寂し過ぎるじゃないですか!!」
「良いのだ・・・・・・いずれ、貴殿にも分かる時が来るだろう。『護る』と言う事の意味・・・・・・何よりも愛し、護りたいと思うもののために戦う意味が。我には何も残っていないが・・・・・・せめてこの誇りと、貴殿の世界を護らせてくれ」

グランゼストは、ただ受け入れた表情で刃を構える。その正面に立ち、ユーノは顔を俯かせ―――声を上げた。

「・・・・・・やろう、なのは」
「ユーノ君!?」

非難するような、あるいは信じられないと言うような、そんな声音。けれども、ユーノは頑なに言い放った。グランゼストの心を、深く理解する事が出来たから。
―――何よりも、護りたいものがあるから。

「この人は、君の世界を護ろうとしてくれているんだ・・・・・・応えなきゃ、ダメだよ」
「でも、そんなの・・・・・・!」
「どの道、我のこの身体はそう長くは持たん。貴殿の世界を傷つけて―――その先の未来は無い」
「・・・・・・・・・っ」

俯いて、なのはは唇を噛む。頬を流れる一筋の雫を拭いもせず、絞り出すように声を上げる。

「方法は・・・・・・無いんですか・・・・・・?」
「ああ・・・・・・今の我は、ただの使い捨ての駒。未来など・・・・・・皆無だ」
「・・・・・・」

悔しい、許せない。何よりも、無力な自分が・・・・・・けれども、どうする事もできない。
―――皮肉な事にその思いは、ユーノが今まで抱いていたものと似通っていた。

「・・・・・・グランゼストさん」
「・・・・・・何だ?」
「貴方は・・・・・・幸せですか? 少なくとも今まで・・・・・・幸せでしたか?」

それは、なのはの精一杯の願い。皆に幸せでいてもらいたいと思う、優しい心。なのはのその言葉に―――グランゼストは、静かに頷いた。

「あれほどに美しく平和な世界が存在している事、そして、貴殿たちのように善い心を持つ者が存在していてくれている事・・・・・・それを知る事が出来ただけで、我は十分に幸福だ」
「・・・・・・・・・分かり、ました」

ぐっと、視線を上げる。涙を流すその表情は隠そうともせず、なのはは毅然とした視線をグランゼストに向けた。

「でも、これだけは約束して下さい」
「・・・・・・何だ?」
「いつか、生まれ変わったら・・・・・・絶対に、今よりもずっと幸せになってください!!」

なのはの言葉にユーノもかすかに涙を見せながら、それでも小さく笑んで頷く。グランゼストはその表情に驚愕を貼り付け―――それを、優しく綻ばせた。

「ああ、約束しよう」

魔導の思想の中にある、魔力の輪廻。死した者の魔力は輪廻に引き込まれ、いずれまた新たな命の魔力として生を受ける。グランゼストは、それが事実であると知っている。だから―――

「必ずや、今以上の幸福を見つけてみせよう」

その約束を必ず果たすために、そう宣言した。







あとがき?



「なーんか、予想以上に暗くなったな」

「シナリオの大筋は出来てたみたいですけど・・・・・・よくよく考えたら、なのはが人が死ぬ結果をそうそう許す訳が無いと言う事に気付いたらしくて」

「敵を殺す役目は、本来なら君が全部受け入れる事になるはずだったんだけどね」

「皆強いし、そうも言ってられないね。殺さない方法も考えないと」

「まあ、それはともかく。一つの戦闘が三話に渡るのは、どうやら作者も初めてらしいな」

「まあ、そりゃ・・・・・・」

「そうそうそんな長くはならないですよ。長くても二話ぐらいだと思いますし」

「と言うかまぁ、よくここまで話が延長したね。本当なら、グランゼストとの戦いも一話で終わらせるつもりだったんでしょ?」

「そーだな。まぁ、書いてみたら予想以上にいい奴になったらしいが」

「どこと無くリインフォースみたいな感じもするんですよね、こんな感じの性格だと」

「うむ、そうだな」

「さて、結末はどうなる事やらね」

「流石に次の話で戦いは終わるだろうし・・・・・・」

「そうだねぇ・・・・・・って、この話でフィーの事が完全に忘れられちゃってるんだけど」

「仕方ないでしょ・・・・・・まあ、話の中で出来なかったから仕様の説明ぐらいはしとけば?」

「んー・・・・・・ま、そうだね。とりあえず、二つのモードだけでも説明しとこうか」

防御:シールドモード
基本形態。翡翠色の菱形の宝玉を取り囲むように黄金の盾が形成され、その周囲にさらに魔力が発生して盾になっている。右手のガントレットには十五本×二列の計三十本のカートリッジが搭載されており、ユーノの魔力を補強している。

攻撃:ダガーエッジモード
攻撃形態。シールドモードの盾の周りにあった魔力が消失し、それとカートリッジの魔力を合わせた短剣を使用する。『遮断する』魔力を『切断する』力に変えており、非殺傷設定を解除した状態の切れ味は非常に高い。

「とまあ、この二つが基本かな」

「何か色々機能がついてたみたいだけど・・・・・・後はフルドライブ?」

「そーだね。ま、しばらくは出てこないからそれもまた今度だけど」

「だな・・・・・・さてと、次回は決着だ」

「どんな結末を迎えるのか・・・・・・お楽しみに」






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