「―――ハッ!」

シアシスティーナが返したのは、嘲笑だった。冷静さを取り戻したのか、幾分余裕のある表情を浮かべてこちらを見下している。

「相変わらず、偽善者ね。誰かの騎士? 誰かを護る? そんな事出来る人間がいる訳ないわ」
「君が生きてた頃の人間の事は知らないさ。けど、僕らは違う。元より、騎士は自分自身の意味を見失って、誰かの為に在る事でしか価値を見出せなくなった人間の集まりだ。それに・・・・・・」

フェイトを下がらせ、半身で構える。その顔に不敵な、それでいて皮肉気な笑みを浮かべ、クローセスは宣言した。

「僕も兄さんも・・・・・・正義や綺麗事って、大嫌いなんだ」

そんな物は当に王侯騎士団に任せて、自分達は全く逆の存在になった。全てを護ろうとする王侯騎士団と、自分の護りたいものだけを護り、そのためなら他の全てを犠牲にする天界騎士団。どちらが正しいかは、言うまでもない。だが―――

「だから、それを謳う組織に―――時空管理局に尻尾を振った覚えも無い。アースラの皆が、そして皆が大切だと思う人たちが無事なら、他は何だっていい。手の届く範囲だけを護れれば、それでいい」

それは酷く歪んでいて―――ある種正しい人の在り方。人間は―――いや、古代魔導族でさえ、全知全能の存在はいないのだから。だから、己の力を利用できる限りの所まで利用する。

「―――僕が護りたいのはフェイトだけだ。そして、僕が護るのはフェイト本人と、彼女が護りたいと望む人だけ」
「・・・・・・相変わらずの歪みっぷり、恐れ入るわ天界騎士団」
「そりゃそうさ」

にやりと笑い、芝居がかった声と共に拳を握り締める―――

「我ら、天界騎士団―――クローセス=シェイン=ガルディアラス。我が前に立ち塞がる者を、討ち滅ぼす者也」
「―――ッ!!」

『我ら、天界騎士団―――アレン=セーズ=ブレイズィアス。我が前に立ち塞がる者を、討ち滅ぼす者也』

その言葉は、シアシスティーナを殺した男、その本人がその時に発した言葉と全く同じものだった。本当なら恭しく礼でもしてみようかとも思ったが、そこまで隙を曝け出すほど慢心するつもりもない。

―――後ろにいたフェイトは、クローセスの言葉が正しいかどうかを判断する事はできなかった。だが―――

「クロス・・・・・・」
「うん。何、フェイト?」
「クロスは・・・・・・私達のために、ここにいてくれるんだよね」
「ああ、その通り」

いつも通りの笑顔で、そう微笑んでくれる。それだけで、彼が変わらないと言う事は十分に理解できた。
フェイトがそれを理解した事を感じ取り、クローセスは満足気に頷く。そして―――目の前の敵に、全ての意識を向けた。

「フェイトはここにいて。僕が、終わらせる」
「・・・・・・大丈夫、だよね?」
「当然だよ」

小さく笑んで、そう答える。恐らくフェイトは、『終わらせる』の意味を理解していないだろう。『倒す』でも『封印する』でもなく、『終わらせる』―――彼女はクローセスの過去の事までは知らないのだ。理解できないのも当然である。

(けど―――)

ぐっと、足に力を込める。弓のように、ぎしりと体が引き絞られる。その中で、クローセスはただ笑みを浮かべていた。

(いつかそれも、話せたらいいな―――)

そして―――爆ぜた。
踏み込んだ足は水分が凍って硬くなっていた地面を踏み砕き、今までとは次元の違う速力を持ってシアシスティーナへと肉薄する。

「―――ッ!?」
「遅いよ」

迎撃しようと持ち上がった腕を掴み、クローセスはシアシスティーナへと顔を寄せた。ブラウンの瞳、ブラウンの髪―――シアシスティーナの瞳に映った己の姿は、紛れもなくガルディアラスそのものの姿。それに苦笑し、クローセスは声を上げた。

「シアシスティーナ。僕は、君が憎い」
「くッ!!」

手を振り払い、発生した氷の爪を以ってクローセスを引き裂きに来る―――が、クローセスはその腕を右腕で受け止め、同時に左手で掌底を打ち、シアシスティーナの身体を大きく弾き飛ばしていた。

「ジェイスさんを殺し、リースから家族を奪った―――その中に、僕に無力感を味わわせたって言う、八つ当たりみたいな感情もある。認めるさ・・・・・・確かに僕は、殺したいほどに君が憎い」
「何よ・・・・・・だから何だって言うのよッ!?」

撃ち出されたのは、先ほど身体を貫いたのと同じ氷の槍。しかしその真正面に立ちながら、クローセスはそちらに向かって右手を向けただけだった。
刹那―――迸った衝撃波が、氷の槍を粉々に打ち砕いた。

「でも、僕は現金な人間でね・・・・・・今の僕には、君への復讐よりもフェイトを護る事の方が大事みたいだ」
「五月蝿いッ!! 何のつもり!?」
「別に。ただ、終わりにしようって言うだけさ」

穏やかだった、その表情―――そこに燃え上がる憎悪とも違う、氷の殺意が浮かび上がる。

「僕と君の因縁―――クローセス=シェインの復讐を、ここで終わりにする」
「ッ・・・・・・!」

瞬間、クローセスはシアシスティーナの背後まで回り込んでいた。踏み込んだ足が軋むほどに強く身体を引き絞り、そこから一撃を繰り出す。間一髪、氷の壁がそそり立つが―――暴走していた時は傷一つ付けられなかったそれを、放たれた衝撃波は完全に打ち砕いた。拳を止めた一瞬の隙に離脱したシアシスティーナに向け、再び跳び出す。

「ふざけないでよ・・・・・・ッ! 何で、何で人間なんかが!」
「ふッ!」

再び、数十本の氷の槍が撃ち出される―――向かってくるそれらを躱しながら、クローセスは尚も接近した。いくつかが身体に掠って傷を生むが、《再生》によって傷は癒され、バリアジャケットも即座に魔力で修復する。
その様を見て、シアシスティーナは唇を噛んだ。

「何で人間なんかがッ! ガルディアラスの力を使いこなしてるのよッ!?」
「ガルディアラスが、僕に力をくれたからだ!」

正面からぶつかり合う、氷の爪と衝撃の拳―――以前に拮抗していたそれが、今回は拳の方に軍配が上がった。有り余る衝撃波が、シアシスティーナの身体を吹き飛ばす。

「内包世界でガルディアラスと殺し合って、僕はガルディアラスを殺した。そしてガルディアラスは僕に全てを渡して―――消えた。彼はもう、どこにもいない」
「・・・・・・・・・何よ、それ・・・・・・!」

歯軋りを交えて、クローセスは呟く。刹那―――シアシスティーナの瞳に殺意が浮かび上がった。

「ふざ、けるなあああああああああああああああああっ!!」

轟音。
氷結。
舌打ちし、クローセスは咄嗟に後退した。そのままフェイトの身体を抱えあげ、後退しつつ《ルヴィリス》を構える。吹き荒れる氷の嵐を刃の能力を操って氷を打ち落とし、クローセスは舌打ちした。

「・・・・・・僕、話ミスったかな?」
『あたしの話忘れてたでしょ。あの子、ガルディアラスに執着してたからねぇ・・・・・・』
「・・・・・・そうなんだ」

ぶすっとしたフェイトの声に、思わず乾いた笑いを漏らす。
シアシスティーナの暴走は止まらず、再び周囲を氷の世界に変えてゆく―――

「フェイト、全体防御張って」
「クロス・・・・・・?」

飛行魔法で宙に浮き上がりつつ、暴走する魔力の塊を見下ろした。第四階梯とて、魔導師ランクで表せばAAAとなるシアシスティーナである。最早これは、災害に近い。

「僕のミスだし・・・・・・それに確か、彼女がこうなったのは・・・・・・」
『一応、ガルディアラスの後継者だしね。面倒なの押し付けてくれたわね、彼も』
「?」
「あはは・・・・・・ま、とりあえずここで防御してて。降りてくるから」

含みもなく言い放った言葉にフェイトは硬直し、その隙にクローセスは地面へと飛び降りた。《ルヴィリス》の力を使って氷の嵐を切り裂き、凍てついた地面へと着地する。
―――飛び降りる寸前、フェイトが手を伸ばす気配を感じた事に、クローセスは小さく笑みを漏らした。

「ああ、全く・・・・・・壊されちゃったなぁ」
『嬉しそうねぇ』
「嬉しいさ。だから、こんな所で止まってられない」

《リインフォース》の発動時間はそう長くない。もうすぐ三分の一が終わってしまうだろう。短刀を左手に持ち替え、クローセスは静かに構えた。
―――荒れ狂う、嵐の発生源へと。

「どうしてよ・・・・・・どうしてガルディアラスの隣には、あんたがいるのよ―――リーシェレイティアッ!」

流す涙も凍てつかせ、シアシスティーナは金切り声で叫ぶ。その言葉に、ルヴィリスはふざけた様子のない、真面目な口調で声を上げた。

『あたしはガルディアラスの隣になんか立ててない・・・・・・それが許されたのは、彼が愛したあの人だけ。あたしはただの従者。彼に惹かれて、彼に命を捧げた・・・・・・ただそれだけの存在よ』
「だったら何!? 私は何なの!? 私は何処に立ってるって言うのよ―――何でガルディアラスは、レイムルドやクラグスレインと共に行っちゃったのよ!?」

血を吐くような、シアシスティーナの叫び。それを受けて目を細め、クローセスは己の始祖の生き様に思いを馳せる―――彼は古代魔導族の中で唯一、真に永遠を手に入れる事が可能な存在だった。だが、それをしなかった―――

「―――僕には、ガルディアラスの気持ちは分からない。でも、これだけは言える」
「何よ・・・・・・!」

憎悪と怨嗟―――その視線を受けながらも、クローセスは穏やかに声を発した。白い息が吹き荒れる風に消え、しかしそのガルディアラスと全く同じ眼光は、一切弱まる事無くシアシスティーナを射抜く。

「君は、選択を間違えた。『魔導王』に従うべきではなかった―――ガルディアラスが君を裏切ったんじゃない。君が、ガルディアラスを理解しようとしなかったんだ」

ガルディアラスは、シアシスティーナの事を忘れていなかった。彼は、彼女が道を誤ってしまった事を酷く残念に思っていたのだ。
全ての種族は共存すべきであると、その意志の元、ガルディアラスたちは戦いから離れて姿を消した。元同朋や同じ身体を持つ人間と敵対するのは嫌だと、好戦的であったブレイズィアスでさえそう納得したのだ。だがシアシスティーナは、そして他の古代魔導族たちは、そうしなかった。

「魔族と古代魔導族、どっちが優れてるとか・・・・・・そんな馬鹿げた事のために何人も犠牲にして、君は結局何を得られた? 失っただけだったはずだ」
「五月蝿い・・・・・・」
「ましてや、今更『そんな体』で何を望む? もう何も叶わない事ぐらい、君が一番良く分かってるだろ」
「―――ッ! 黙れッ!!」

足元から氷の槍がせり上がる―――だがそれは身体に当たる寸前、発生した衝撃波で粉々に打ち砕かれた。既に手をつけられないほどに怒り狂っている―――それを承知で、クローセスは続ける。

「人と人は分かり合えない・・・・・・力を持つ古代魔導族であれば、それは尚更だ。力の方向性を完全に違えてしまった以上、君は何をしたってガルディアラスから離れるだけだ!」

体から魔力が吹き上がる―――発せられた衝撃波は周囲の氷を砕き、新たな氷の侵入を防いだ。無色に輝く魔力の中心で、狼の王の後継者は、静かにその牙を剥く。

「これが僕の復讐だ・・・・・・美化するつもりも、正当化するつもりも無い。子供みたいな八つ当たりで、とんでもなく無様な足掻き―――君を救えなかったガルディアラスの、その後継としての行為じゃなく、ただのクローセス=シェインとしての復讐―――」

駆け出す。
吹き付ける氷の嵐を衝撃波で砕き、突き抜けた攻撃は全て《再生》で回復する―――

「ふざけるな・・・・・・ふざけるな、ふざけるなふざけるなあああああああッ!!」

氷の嵐は勢いを増す。防御を抜ける攻撃の数も増える。
―――しかし、それでも止まらない。

「君に事実を突きつけて、君を殺す―――」

聞きたくない、とシアシスティーナは耳を塞ぐ。放たれた氷が脇腹を貫くが、その傷もすぐに消え去った。
―――そして、あと一歩。クローセスは、叫んだ。

「君が間違えた以上、君とガルディアラスが想いを共有する事は―――もう、二度と無いッ!! 《ルヴィリス》!!」

最後に振り下ろされた氷の爪を右の拳で打ち払い、クローセスはその刃をシアシスティーナの胸に突き立てた。ほとんど抵抗も無く、左胸にラベンダー色の刃が沈む―――

「―――術式、消滅!」

《ルヴィリス》の有する能力は、『術式の消滅』。
―――その一撃で、《ルヴィリス》はシアシスティーナと言う《人形》の構成術式を完全に破壊していた。氷の嵐は消え去り―――クローセスの胸の中に、力を失ったシアシスティーナが倒れ込む。

「―――全く、ホント、忌々しいわ」
「・・・・・・・・・」

制御する術式を失ったシアシスティーナの身体は、徐々に魔力へと戻って消滅していた。それを抱きかかえ、クローセスは呟く。

「・・・・・・本当に、残念そうだったよ。ガルディアラスは」
「そう・・・・・・」

身体は透け、輪郭すらも朧となっている―――その中で、シアシスティーナは悔しそうに、それでも僅かな笑顔を浮かべていた。

「でも、ま・・・・・・次の人生に期待するわ。そしたら、またチャンスもあるわよね・・・・・・」
「さあ、ね・・・・・・」

苦笑し、目を閉じる―――次に開けた時、シアシスティーナの姿は何処にも存在していなかった。柄でもない、ともう一度苦笑―――そしてクローセスは、その場に倒れこんだ。

「クロス!」
「っ・・・・・・やあ、フェイト。怪我は無い?」

膝を着き、地面に倒れようとした所でフェイトに身体を支えられる。染み込むように髪の色は黒に戻り、そのまま瞳も元の空色へと変化した。

「クロス、大丈夫・・・・・・?」
「何とかね、うん・・・・・・でも、ちょっと休ませてもらえないかな・・・・・・力も魔力も限界で、ちょっと・・・眠いや・・・・・・・・・」

落ちかける目蓋を支えられず、そのまま体重をフェイトの身体に預ける。あわあわと慌てるフェイトに苦笑して、クローセスは目を閉じながら呟いた。

「起きたら、伝えたい事あるから・・・・・・ちょっと、待っててね・・・・・・」

―――そして、クローセスの意識は闇に落ちた。


 * * * * *


「・・・・・・どう思う、はやてちゃん?」
「んっふっふ、そりゃ当然、あれやろ。なぁ、エイミィさん」
「そーそー、その通りだよねー♪」

何やら周囲が騒がしい。人の気配を複数感じる―――本来なら、在り得ない事だ。寝てる間でも敵襲があれば即座に反応しなければならない―――そのため、寝ていても動く気配があれば、すぐに起きるよう訓練されているのだ。
だが、今回ばかりは上手く体が反応しなかった。

「ふ、二人とも止めてってば・・・・・・別に、まだそうと決まった訳じゃ」
「何言ってるんよフェイトちゃん。フェイトちゃんやて、その方が嬉しいやろ?」
「あう・・・・・・」

困ったような、そんな声。これはフェイトだ―――自分がこれから■■をする相手。

「あはは・・・・・・やっぱり、女の子ってこういう話が好きなんだね」
「怪我人が寝てる隣でする話でもないと思うがな」
「別に怪我人って訳でもないけどね」

これはユーノとクロノと―――レイ。良かった。レイにもいてもらいたいと思っていたのだ。ユーノも怪我はなかったようだ―――どうやら今回も、しっかりなのはを護れたらしい。
安堵して、クローセスはゆっくりと目を開けた。

「起きた?」
「うん、まあ」

レイの言葉に曖昧に返事をして、クローセスは起き上がった。隣の椅子に座っていたフェイトが驚いて仰け反ったが、それはともかく―――

「何で病室にこんなに人が集まってるのさ」
「あはははは・・・・・・」

半眼のクローセスの言葉に、ユーノが苦笑で答える―――まあ、先ほどの話を聞くに、自分がフェイトに伝えた言葉が広まっているためであろう。アースラは音声を拾っていたらしい。嘆息し、クローセスは諦め気味に声を上げた。

「・・・・・・まあ、いいか。レイ、立会人を任せられる?」
「ああ、なるほどね。別にいいよ」

どうやらレイは、その一言で納得したらしい。クローセスも頷き、地面に足を下ろすと―――その姿を、バリアジャケットへと変化させた。レイはユーノの頭から飛び降りて、そのまま人間へと姿を変える。

「ところで、場所はここでいいの? 二人っきりの方がいいんじゃない?」
「いや、人がいる方がいいよ」
「ええっ!?」

クローセスの言葉に、フェイトが思わず悲鳴じみた声を上げる。思わず首を傾げたが、クローセスはすぐに気を取り直した。

「まあ、確かに教会とか聖堂とかそういう所の方がいいけど」
「おおおおっ!?」
「いきなりか!? 大胆やなクロス君!」
「ちょ、ちょっと待って・・・・・・! こ、心の準備が・・・・・・」

何故か盛り上がる周囲に首を傾げる―――何か変な事を言っただろうか?

「ふむ・・・・・・じゃあ、幻想結界でも張ってみようか」
「ああ、うん。お願い」

レイの提案に頷く。同時、レイは指をぱちんと鳴らし―――その瞬間、周囲の景色は病室から巨大な聖堂へと変化していた。何の脈絡も無く変わった情景に、皆キョロキョロと周囲を見渡す。

「クレアセンドの・・・・・・王室大聖堂か」
「うん。よく覚えてたね」
「まあ、これは一度見たら忘れられないよ」

この映像は全て幻―――そう分かっていても、思わず本物だと信じてしまいかねない。少し埃っぽい臭いすら再現されたこの大聖堂の天井を見上げ、クローセスは静かに頷いた。

「ありがと、レイ。これなら十分だ」
「礼には及ばないよ。ほら、やるんだったら女神様の前でやってきな」

言われ、クローセスは苦笑しながらその最前列、翼を広げた女性の像の前に立った。そしてそれに続いてレイ―――それと彼に背中を押されたフェイトが前に出る。
そうして立ったフェイトの真正面でクローセスは微笑い―――その場に、片膝を着いた。

「え・・・・・・?」
「―――我が名はクローセス=シェイン。父に偉大なる騎士、『拳聖』ハーティセン=シェインを、始祖に第二階梯古代魔導族、『孤高なる狼の王』ガルディアラスを持つ騎士―――」

片膝を付いた姿勢で頭を垂れ、クローセスは静かに、そして厳かに声を上げる。声の反響すら再現された空間の中で、クローセスは尚もその『誓い』を続ける。

「誓約をここに。我と我が父と我が始祖の名に懸けて、我はここに、我が刃のその最後の一振りまでフェイト・テスタロッサの護り手である事を誓う」

周囲は完全に静まり返る。それは言葉に魔力が込められていたためでもあり、それが決して冒してはならない物だという事が十分に伝わったからであろう。

「誓約をここに。我と我が父と我が始祖の名に懸けて、我はここに、我が血肉はその一片までフェイト・テスタロッサの所有する所にある事を誓う」

誓いは続く。偽りの聖堂を誓約の響きで満たし、それでもまだ満足しない。

「誓約をここに。我と我が父と我が始祖の名に懸けて、我はここに、この身が命の尽きるその刹那まで、フェイト・テスタロッサの騎士である事を誓う」

そして―――クローセスは、そこで一旦言葉を切った。それ受け、レイ、もまた厳かに声を上げる。

「―――フェイト・テスタロッサ」
「ッ! は、はい!」
「誓いを拒むなら、誓約の破棄を。誓いを受け入れるなら、彼に右手を」
「み、右手?」

言われた通り、クローセスの前に手を差し出す。目の前に手を差し出されたクローセスは、そのまま静かに微笑んだ。

「刃と錫杖の十字の下、我が命に懸けて―――」

心臓の上で騎士団の十字架を切る。そして優しくフェイトの手を取り―――クローセスは、その手の甲にそっと口付けを落とした。

「―――!!?」
「誓いは交わされた。今この瞬間より、クローセス=シェインはフェイト・テスタロッサの騎士となる」
「よろしく、フェイト」

微笑んで、立ち上がる。そして真っ赤な顔になったフェイトに苦笑し、軽く宙を見上げた。
―――兄に教わった、『騎士の誓約』の言葉。たった一人護りたい誰かが出来た時、これで誓いを立てろと言われた、その言葉。

「僕はフェイトに助けてもらって、救ってもらった」

本当の事に気付かせてくれた、助けを求める声に気付いてくれた―――その手を差し伸べ続けてくれた。だからこそ。

「だから、僕の命の全てを捧げる。僕は君に命を救われたんだ。それだけの価値はある―――それに君と一緒にいれば、いずれ『欠落』も癒えて行くから」
「え、えと・・・・・・」
「―――ありがとう、フェイト」

聖堂の薄い逆光の中、クローセスは穏やかに微笑む。
―――フェイトが真っ赤になって倒れるまで、そう時間はかからなかった。







あとがき?



「天然女殺し、炸裂」

「顔の作りはアレンよりいいもんねぇ、クロス」

「二人とも、からかわないで下さいよ・・・・・・」

「って言うか、下手すると本当にプロポーズだよね、これ」

「レイまで・・・・・・何言ってるのさ」

「まあ、要約すると『一生一緒にいます』だからね。主従関係とは言え」

「いや、だから・・・・・・」

「だって、騎士の誓いは一生に何度もしていい物じゃないでしょ。まぁ、大抵主が死ぬ前に自分が死ぬからだけどさ。でもクロスは死に難いし」

「うううううう・・・・・・」

「ま、そー気にする事もあるまい。どっちにしろこーなってたんだろうからな」

「まーね。それにしても、戦闘はあんまり派手にはなんなかったねぇ。《再生》のおかげで大分捨て身戦法を取ってたけど」

「フツーだったらあっという間に死ぬわよね、あれ」

「心臓と頭に当たりそうな攻撃だけはきっちり防いでたけどね」

「痛覚が無くなる訳じゃないし、苦痛はあるんだろうに」

「痛み慣れしてますから・・・・・・」

「それと、短剣であるあたしの能力か・・・・・・言っとくけど、術式消滅はあたしの固有能力じゃないからね。あくまで武器としての能力よ」

「ま、どっちにしろ派手じゃないがな」

「いーでしょ、便利なら」

「まあな。さて次回は・・・・・・そろそろ最終決戦の準備に入る訳か」

「そーだね。回収する伏線があとどれくらいあったか」

「って言うか、作者ならまだ伏線張るでしょ。裏設定なら不自由しない奴だし」

「あはは・・・・・・それじゃあ、次回をお楽しみに」






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