「―――にしてもまぁ、思い切った事しなたぁクロス君」
「え? 何が?」

回収したディープスフィアをレイに託し、とりあえずまたそれぞれの自宅へ戻ろうとする中、はやてはクローセスに対してそう切り出していた。
ちなみに、熱暴走したフェイトはクローセスの背中で目を回していたりするのだが、それはともかく。

「だって、なぁ、シャマル♪」
「ええ、そうですねぇはやてちゃん♪」
「・・・・・・何か嫌な予感が」

顔を引きつらせ、一歩距離を取る。この二人が結託した場合、大抵ロクな事が起きないのだ。危険度はクラインを放置しておくほどではないとは言え、かなり高い。
にんまりとした笑顔と共に、はやてはサムズアップしながら声を上げた。

「何せ、小学生にプロポーズや。ホントは十六歳なんやろ?」
「大丈夫ですよ、外見はクロス君も小学生ですし。知り合い以外にはロ■コンだなんて思われませんよ」
「ぶっ!?」

思わず吹き出す。と言うか、ルヴィリスがいる所でそういう話題は止めて欲しい。

「ちょっ! 何でそういう事になるのさ!?」
「何でって・・・・・・どう聞いたってプロポーズやで、あれは。なぁシグナム」
「・・・・・・い、いえ・・・・・・はい」
「シグナムさん!?」

シグナムだけは理解してくれると思っていたのだが、どうやら主には逆らえなかったらしい。ヴォルケンリッターたちは天界騎士団の騎士よりも、よっぽど一般のイメージ通りの騎士をしていると思っていたのだが。

「ちょっと・・・・・・貴方達四人だってはやてに命を捧げてるんじゃないんですか?」
「確かにそうやけど、あんな風にきっちり宣言された訳じゃないで? しかも、男の子が女の子に対して言うんや・・・・・・これをプロポーズと呼ばんで何と呼ぶ! 今時、あんなカッコいい文句を貰える女の子なんでどこにもおらへんで!?」

何故か白熱しているはやてに顔を引きつらせ、クローセスは見えないように嘆息した。まあ、確かに騎士であるクローセスにとっても日常的に見かける行為と言う訳ではないのだが―――

「騎士の誓いがプロポーズって・・・・・・いやいや、そんな・・・・・・あれ? でも何か遠くもない気が・・・・・・・・・」

誓いを捧げた騎士と聞いて、思い浮かべるのは兄と兄のライバルである拳銃使いの騎士。そして、その捧げている相手は―――

「兄さんは姉さんで、ヴァインさんはミゼリアさん・・・・・・あれ? そういえばヴァインさんそろそろ結婚がどうとか言ってたような・・・・・・婿養子? それじゃあ僕って・・・・・・!」

考えるほどに、顔が紅潮してゆくのを感じた。はやてにそれが見つからないように顔を俯かせるが―――

「あら、真っ赤ねぇクロス♪ フェイトを意識しちゃったかしら?」
「―――ッ! ルヴィリス!」
「あはは♪ そーゆー反応も可愛いわよ」

油断していた訳ではなかったが、突如としてルヴィリスはその実体を発生させ、顔を上げたクローセスの頬をつついてくる。元よりこの体勢では何を言っても勝てる訳がないので、特に抵抗らしい抵抗もしなかったが。

「それで、意識するようになったのかしら?」
「―――否定は出来ないね。と言うより、否定する気もない。僕がフェイトに救いを求めたのは、紛れもない事実だ・・・・・・今の僕は『孤独』を感じられないんじゃない。感じていないんだ」
「・・・・・・・・・」

ルヴィリスの声に含まれているものは、クローセスの意識を急速に冷まさせる。
唐突に変わった空気に、はやてが目を白黒させる―――その中で、ルヴィリスは満足そうに目を細めた。超越者たる真紅の眼と、契約の証である空色の眼が薄く輝く。

「ただ、他人を求めると言う行為の実感が湧かない。貴方は何かに依存する事を知らなかったから、得ているのは自分自身の異常の自覚だけ」
「確かに。だけど、僕らは最初から異常者だ。異常の中で自分が異常である事を気付いて、正常―――あるいは、人並みの日常を求めた。その先に在ったのが、僕にとってはフェイトだったって事だろう?」
「ええ、そうね―――その通りよ」

人を殺して生きていく日常の中で、その在り方の歪みを自覚し、閉ざされた規律の中で妥協した人間らしさを望む―――殺人鬼にはなりたくないと思う願いの中で、抱いていた綺麗事を捨て去り、陳腐なまでの露な感情に人間らしさを投影する。
―――血に染まった非日常の中で騎士たちが正気を保っていたのは、何でもない、ただそんな壊れたサイクルがあったため。

「敵を殺そうとする僕の『化け物』と、フェイトを護ろうとする僕の『ヒト』―――前者が在る事も、後者を求める心も否定しない。そんな中途半端さに、僕は『人間』を求めてるんだから」
「悩み続ける事が貴方の在り方?」
「さあね―――」

軽く、苦笑する。八神家の五人は、恐らくこの会話を理解できていないだろう・・・・・・当然だ。破綻した異常者―――己の異常に気付いてしまった異常者にしか、この話は理解できない。

「―――兄さんみたいに自虐癖がある訳でもないし、そんな哲学的な生き方に興味は無いよ」

自分は差し伸べられる手の取り方を知らなかっただけで、いつだってそれを求めていたのだから。だからフェイトが手を差し伸べてくれた時堪らないほどの嬉しさを感じ、それと同時にそれを手に入れられない痛みを感じていたのだ。
だからこそ―――

「でも僕は、今は幸せだよ―――それだけは、断言出来る」
「そう。なら、言う事は何も無いわ・・・・・・今の所は、ね」

最後の最後、いつもの悪戯好きな笑みを浮かべ―――ルヴィリスは、再びナイフの中に姿を消した。


 * * * * *


「さて、と」

小さく声を漏らしつつ、レイは先ほどクローセスたちが戦っていた世界の大地に足を下ろした。周囲に人の気配は感じない―――未発達の世界か、あるいはこの辺りに人里がないだけか。

「あるいは、人間は一度滅びた後か」

次元犯罪者が作ったのかどうなのかは知らないが、明らかに人為的に作られた物もあった。もし人間がいないのなら、その答えは当たらずとも遠からずだろう。

僅かに残る氷と冷気の残滓を肌で感じ、レイは周囲の魔力に意識を集中させた。こちらにはとにかく情報が足りない―――霧散したシアシスティーナの魔力から僅かな情報でも引き出せるかと、わざわざ足を運んだ次第である。
と―――

「ああ、例え仕事でも趣味でも、余計な邪魔が入るのは嫌いなんだけどね」
「それを好む存在も居らぬのではないですかな?」
「ふむ。確かに、正論だ」

淡く笑みを浮かべて振り返る―――その先にいたのは、杖を突いた銀髪の老紳士だった。目下の敵である、遥かな昔に袂を分けたかつての仲間。

「久しいね、メルレリウス。二年前の戦いじゃ顔を合わせてないし、実質君の顔を生で見たのは八百年ぶりだ」
「どちらも封印されてはいましたがな・・・・・・それにしても、私が貴方を監視していた事は気づいているようで。やはり、油断なら無い御方ですな」
「よく言う。第一階梯相手に油断するなんて、どこの三流だい?」

見下した視点で喋る青年と、慇懃無礼に返す老人―――酷く違和感のある組み合わせで、二人の化け物はただ穏やかに笑みを浮かべる。

「―――君が出てきたんなら好都合だ・・・・・・と言う所だけど、どうせその身体も《人形》だろう。わざわざそのために、単なる魔力結晶を奪ったんだろうからね」
「良く分かっていらっしゃる。流石、あの御方に継ぐ実力者だ」
「実力がどうかは知らないけど、能力の強力さじゃオルディファリスの方が上だろうね」
「『混沌の魔女』と『原書の司書』ですか・・・・・・いやはや、甲乙付け難い」

互いにただ穏やかな口調で言葉を交わす―――だが、その場にいれば赤子であろうと嫌でも気づいたはずだ。ここは―――人間のいられる場所ではないと。

「それで、僕をどうする気かな?」
「いえいえ、流石に貴方がいては、我が余興も達成する事は困難だ。そこで―――ここで、消えてもらおうと思いましてな」
「ほう?」
「魔力不足の今の貴方では、《原書》も自在に操れんでしょう」

メルレリウスが、その両手を広げる―――不可視の、魔力の糸が周囲に伸び、木の陰から無数の《人形》が姿を現した。精密な造形をしているものは少なく、あるのは単なるマネキンのような不出来なヒトガタばかり。
周囲の空気に魔力は無く、もしなのはがここにいれば、恐らく驚いた事だろう。彼女の最大魔法であるスターライトブレイカーは、この空間では何の意味も成さないのだ。

いかなる戦闘においても、覆しようの無い戦力差でもない限り、勝つのは長く準備を行った者だ。こうなれば、囲まれた者に勝ち目は無い―――

「クッ・・・・・・」

小さく、嗤う。
そうだ、勝ち目は無い―――覆しようの無い戦力差でもない限りは。

「ああ、おめでたいねメルレリウス。こんな出来損ないで僕を殺すつもりかい? 魔力なんて―――そこら中に腐るほどあるって言うのに」
「ム・・・・・・?」

結界に綻びでもあるのかと、メルレリウスは眉根を寄せる―――だが、結界には一辺の隙も無い。それでも、黒ずくめの古代魔導族は、愉快そうに嗤っていた。

「だってほら、ここなら―――誰が死んだって、僕は気にしないから」

刹那―――世界が、死んだ。
木々は枯れ、瑞々しい葉を広げていたその先まで全てから生命力が消え去る。先ほどまで枝に付いていた葉は一斉に枯葉となって舞い、視界を覆い隠す。大地は水気を失い、ヒビ割れ―――ただ、乾燥した不毛の地面へと早変わりする。
周囲数百メートルにわたって生命力を―――魔力を奪い尽くしたレイは、その中心で残酷に微笑んだ。

「な―――!?」
「さあ、舞おうか―――《原書》よ」

世界を覆う枯葉の雨の中で―――漆黒の本が、その記述を輝かせた。刹那―――

「―――《ヴィトラム》」

―――枯葉は、全て粉々に砕け散った。
現れたレイの手の中にあるのは、一枚の金属から作られた巨大な黒い大剣。その刃が、激しい輝きと共に翻った。

衝撃。
轟音。
鳴動。

己の背後にあった《人形》たちを、その空間ごと薙ぎ払う―――迸った力場の衝撃波は、レイが奪い尽くした世界のちょうどその末端まで深い爪痕を刻み込んだ。捲れ上がった地面が衝撃波によって粉々に砕け、空高く粉塵として舞い上がる。数百メートルの大地を抉り取った破壊の魔剣を、レイは己の隣に突き刺した。
―――背後に迫るのは、刃を持った二体の人形。

「―――《ムーラリエス》」

その攻撃を遮ったのは四枚の盾。四枚同時に見れば手裏剣のような盾は、周囲の攻撃を転移しながら受け止め続ける。

「く―――ならば!」

《人形》がメルレリウスの操作に従い、レイの周囲を包囲する。そして、その身に魔力を溜め込み始めた。全方位から砲撃して防御を抜こうと言う訳か。
―――あまりにも愉快で、レイの口元には再び笑みが浮かんでいた。

「―――《レーグナム》」

レイの右手に現れたのは、一振りの刀。刀身が蒼く、その柄尻から伸びる飾り布も蒼い―――
レイが刃を構えると、飾り布は独りでに舞い、レイの周囲を囲むように浮かび上がった。そしてそれとほぼ同時―――人形の砲撃が放たれる。レイを消滅させようと放たれた砲撃は―――全て、その飾り布に受け止められた。

「無駄だよ。だって―――」

飾り布が砲撃を受け止め、吸収するほどに、蒼い刀身はそこに灯った蒼い炎を肥大させる。砲撃が収まった時、そこに在ったのは―――ただただ天のみを焦がす、熱の無い炎の柱だった。
口元には、ただ嘲笑に歪んだ笑顔のみ。

「―――第一階梯と第二階梯じゃ、立ってる場所が違うんだから」

そして、レイは蒼い刃を振り切った。蒼い炎は周囲を破壊せず、ただ標的とした敵の存在のみを《否定》する。蒼い炎は《人形》を包み込み、そのまま凍ったように固まる―――そしてそれは、音も無く粉々に砕け散った。最初の一撃とは違い、ただ静かで理不尽な破壊。
―――それに晒されたメルレリウスの《人形》は、忌々しげに蒼い刃に目を向けた。

「―――クラグスレインの翼、とは・・・・・・成程、矢張りまだ届かぬようですな・・・・・・・・・」

炎に半身を砕かれ、魔力に還りながらメルレリウスは声を上げる。その顔にあったのは絶望でも何でもない、どこか好奇心じみたものだった。

「一週間後、余興の舞台の幕が上がる―――抗う準備は、どうぞ綿密に―――」
「フン」

消滅を待たず、レイは刃をメルレリウスの顔面に突き立てた。魔力の結合を完全に破壊され、その身体は一辺残らずもとの魔力へと還る。

「まだ、か・・・・・・何を企んでる事やら―――いや、予想はつくけどさ」

苦笑し、レイは《レーグナム》を地面に突き立てた。一切の劣化無しに作り出した武装が三つ―――通常なら魔力など当に無くなるほどの力を使ったが、流石に世界から奪い取った魔力の量は少なくなかったようだ。消すのももったいなく、そのままの状態で取って置く。

「さて・・・・・・これはまた、最悪の可能性だ」

小さく呟き、虚ろな光をその眼に映す。口元に浮かぶのは小さな笑み。だが―――そこにあったのは先ほどまでのような嘲りではなく、後悔の混じった苦笑だった。

「まだ決まった訳じゃないけど、予防しておく分には損は無いかね・・・・・・」

乾いた笑みと共に、吐息を吐き出す。既に周囲の冷気は消え去り、吐く息も存在感を現す事は無い。

「しかしまぁ、これは恨まれそうだ。殺されないように気をつけないとね・・・・・・」

そう呟き―――最強を冠する古代魔導族は、三つのマジックアイテムと共にその場から姿を消した。


 * * * * *


クリスフォードにて―――
黒い円形の穴―――酷く違和感を覚える出入り口から外へと帰還したレイヴァン=クラウディアは、己が出てきた小さな建物の上に腰掛ける魔力の塊に視線を向けた。

「どうだった?」
「・・・・・・・・・奴の言った通りだ。持ち去られている」

ぶっきらぼうな口調で吐き捨てる。その様子に、言葉を受けた女性―――ミリア=セフィラスは軽く肩を竦めて見せた。

「そ。やっぱり、最悪の可能性って訳ね・・・・・・クロスもレイも大変ね、これは」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ねぇ、最後の生き残り同士なんだし、少しは仲良くしようって気は無いの?」

呆れを交えて、ミリアはレイヴァンに声をかける。が―――

「貴様のような混ざり者に興味は無い」
「悪かったわね。つーか、私が純正だったらとっくに死んでるわよ」

取り付く島も無い魔剣使いに嘆息し、ミリアはその場から飛び降りた。レイヴァンの後ろに着地し、手に持った棍で己の肩をポンポンと叩く。

「アレンはそーゆー差別が嫌いなんだから、あいつの前で言うと怒られるわよ?」
「だからどうした」
「・・・・・・ま、アンタには人の機嫌なんて関係ない話か」

再び嘆息。エメラルドグリーンに近い長大な棍で徒に風を起こしつつ、何も無いただの草原である周囲に視線を向ける。背後には小さな小屋程度の岩と、そこに開いた黒い穴。それ以外は何も無い、ただの広い風景。

「でもねー、アンタがアレンだけ認めて、私の事認めようとしないのは許しがたいわ。別に私は同情しようとは思わないけど、アンタの経験はそれに値する物だって知ってる。だから、私はそれでも立ってるアンタの事認めてるの。でも、私が認めてるのにアンタが認めてないのは不公平よ! そーゆー訳だから認めなさい!」
「断る」
「多少は吟味したらどうなのよ? アンタ、人間の経歴からしか人間を測れないの?」

ミリアの問いに、レイヴァンは煙たそうに顔を背ける。見えないようにこっそりと嘆息しつつ、ミリアは胸中で呟いた。

(ま、実際その通りか)

レイヴァン=クラウディアと言う人間は、ほとんど主観的に他人を捉える事ができない。何故なら―――彼は、現在観測される中で最も多くの感情を『欠落』した人間だから。
少なくともミリアは、喜怒哀楽のうち彼が喜と楽の感情を見せるのを見た事が無かった。哀すらも怪しい所ではあるが。レイヴァンはほぼ全ての感情を『欠落』・・・・・・あるいは、そこまで至らなくとも磨耗している。その中で持っているのは、他人を憎む心―――『憎悪』の感情だけ。

―――故にレイヴァン=クラウディアと言う人間は、『憎悪』する事以外では自身の主観で他人を評価する事が出来ないのだ。

「『崩壊』してなお正気を失わなかった、ね・・・・・・もとより『憎悪』のみに頼って生きてきたから、それだけになっても大して変わらなかったのかしら?」
「・・・・・・貴様」
「アンタが思ってるほど、私は馬鹿でも無知でもないわよ。もちろん、クロスもね」

レイヴァンの注意がこちらに向いた事を確認し、ミリアは続けた。

「でも―――そうね、クロスはちょっと違うかもしれない。あの子は私でも、欠落者としてのアンタやアレンの物差しでも測る事は出来ない。他人の心を感じる事については、結構自信あるんだけどね」
「・・・・・・・・・」
「でも、これだけは言えるわ。アレンは自分やアンタにクロスが似てるって言ってたけど・・・・・・あれは表面的な部分だけ。アンタ達が求めてるものとクロスが求めてるものは、根本的に違う」
「愚問だ。求める物が同じ人間などいない―――そもそも、俺とアレン=セーズの求める物も違う」

右目だけが晒された、その冷酷な表情。ミリアは、この男が表情を歪める所を、両手で数えるほどしか見た事が無かった。いつか自分の手でそうしてみたい、と言う感情もある―――到底今の実力では届かないので、言葉で負かすしかないのだが。

「そりゃそうね。アンタ、アレンより前の段階だもの。今のアンタは求める物を求めてるんだから・・・・・・でもまあ、前者の方は否定させてもらうわ。だって、この世にある物は限られてるんだもの。当然、限られてる以上求める物はいずれ被るわよ」
「フン・・・・・・」
「ま、経験が全く同じだからって、アンタが求める事になる物とアレンが求めてる物が一緒になるとは言わないわ。そんな物は誰にも・・・・・・当人でさえ分からないんだから」

レイヴァンは、不機嫌そうに再び顔を背ける。基本的に頑固で我がまま―――性質としては、この男は自分に似ているだろう。軽く嘆息し、ミリアは宙を見上げた。この感情は、感傷だろうか―――

「―――ま、クロスとアンタたちが違うのも当然か。そもそも失ったのが三歳と九歳じゃ、価値観なんてまるっきり変わるわね」

ただ、言える事は―――クローセスのような人間が求めるのは、アレンのように『家族』ではないと言う事。

「だって、その暖かさも知らないんだもの。優しい物なのか怖い物なのか―――そんな実感も湧かない未知な物を、求めたいなんて思わないわよ」
「・・・・・・?」
「独り言よ。気にしないで」

それは、堪らなく不幸な事で―――同時に、堪らなく幸福な事なのかもしれない。失う事を、恐れなくて済むのだから。

「アンタが欲しい物は何なのかしらね、クロス・・・・・・それとも、もう手に入ったのかしら?」

彼の瞳と同じ青空を見上げ、ミリアは小さく呟いていた。







あとがき?



「書きたいから書いてみたぜなレイの戦闘があったが」

「辺りに味方とか人間とかがいなければ、別に好き勝手魔力を吸えるんだけどね」

「歩く災害ねぇ・・・・・・あそこまで魔力吸われたら、もう何も育たないわよ、あの土地」

「周囲の事考えなきゃいくらでも暴れられるしね・・・・・・まぁ、都会みたいな所だと魔力も薄いし人間もいるしあんまり出来ないけど」

「どっちにしても止めてよ・・・・・・なんで僕に始末書書かせるのさ、レイ・・・・・・」

「無限書庫の整理、最近はかどらなかったもんで」

「うむ。忙しい時は仕事は部下に任せるべきだな」

「部下と分担するべきでしょ!? 兄さんは普段から結構怒るからそれほどでもないですけど、ミゼリアさんがキレるとすっごい怖いんですから・・・・・・」

「あれは凄かったわねー。アレンが退け腰になってたし」

「口答えすると即座に矢が飛んでくるしね」

「ま、被害に遭うのは馬鹿弟子だからな。俺は大丈夫だ」

「その後怒り狂った兄さんが襲ってくるんでしょうが・・・・・・もう今更ちゃんと仕事しろとは言いませんけど、せめて兄さんを煽るような真似をしないで下さいよ・・・・・・」

「おいおい、俺の娯楽を奪うなよ」

「娯楽・・・・・・まあ、娯楽と言えば娯楽かしら」

「ま、反応は楽しいけどね」

「・・・・・・二人とも、兄さんに怒られるよ?」

「大丈夫よ」

「聞こえてないし」

「・・・・・・・・・後で絶対痛い目に遭うって・・・・・・ええと、今回はそこまで特筆するような事件はありませんでした。レイや姉さんが言う『最悪の可能性』って言うのが、一つキーワードかもしれないけど」

「次回は最終決戦の準備、って感じだね。いよいよ大詰めに近寄ってってる訳だ」

「次回もお楽しみにね〜♪」






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