「―――お疲れ、兄さん」 「ああ」 肩を回しながら戻ってきた兄に、今淹れたばかりの紅茶を渡す。それを受け取り、ゆっくりと冷ましながら、アレン=セーズは小さく嘆息を吐き出した。 「意味の無い仕事だったな、まったく。クラインの野郎、何でわざわざ俺に回すんだか」 「嫌がらせ、じゃないかなぁ・・・・・・」 「あーそーだろーな、ったく」 うんざりと呻きながら、アレンは紅茶を啜る。猫舌の彼にはまだ少し熱かったのか、口に含んだ途端に眉間にしわを寄せていたが。その様子に、クローセスは小さく苦笑する。 「面倒だったら僕らにやらせればいいのに」 「ミリアやアリスには手伝わせてる・・・・・・お前な、自分の状態ぐらい分かってんだろ」 机に置かれたティーカップがかちゃりと音を立てる。その視線に篭っているものは、普段とは違う厳しい物だった。 「『欠落』して二年・・・・・・お前も、そろそろ限界だ。答えを見つけなくちゃならん」 「・・・・・・兄さんは、どうしたんだっけ?」 「偶然だよ。再現しようの無い偶然だ。レイヴァンの魔剣に『欠落』部分の感情魔力を喰らい尽くされたから」 人の心を喰らうと言う魔剣―――それは不完全であったが故に、それを補う為に持ち主を初めとした人間の感情魔力を糧として完全体を目指していた古代遺産。完全体となった今、それを再現することは不可能だ。 「は、あ・・・・・・」 うんざりと、哀しく―――未だに答えの出せない自分にうんざりとしながら。 「―――兄さんは、誰の為に戦うの?」 「愚問だな・・・・・・自分の為以外に戦える人間なんて、どこにもいない」 その答えはどこか意外で―――それでいて、どこか納得出来る答えだった。その考えの表れた表情には気づかず、アレンは目を閉じながら声を上げる。 「誰かを護りたいと言う思いは、そいつを失いたくないって言う己の願望。誰かから奪いたいって言う思いは、何かを満たしたいって言う己の欲望。どんな戦う理由だろうと、そこには己の望みがある。そうである以上、自分の為以外に戦える人間なんてどこにもいないさ。無論、自分の為だけじゃないだろうが」 「そっか。じゃあ―――」 兄の後ろに回り、彼が座っている椅子の背もたれに体重を預ける。これで彼の表情を見ずに、そしてこちらの表情を見られずに済む。 「―――兄さんは、誰の為に生きるの?」 「俺はあいつの為、あいつは俺の為―――そういう約束だよ」 「そっか・・・・・・」 互いに依存し合う関係―――それを、弱いと断ずる事が出来る人間はいるだろうか。互いに表情の見えない位置で、クローセスは虚ろに虚空を見上げた。 と――― 「クロス。お前がどうしたいかは、この際俺には関係ない。俺はお前を死なせるつもりは無いからな」 「あはは・・・・・・兄さんらしいや。でも大丈夫だよ・・・・・・死んだら何も出来ない。だったら地面を這い蹲ってでも生きろ・・・・・・そう言ったのは兄さんだから」 「だったら―――見つけろ。こいつの為だったら生きてもいい・・・・・・そう思える相手をな」 「死んでもいい、じゃないんだ」 「当たり前だ、馬鹿者」 兄は、不敵な表情と共に振り返る―――それと同時に振り返ったクローセスもまた、小さく笑みを浮かべていた。 * * * * * 「―――そう、これがお前の答えなのね」 「・・・・・・っ」 フェイトと、プレシア。自らの母親を見上げるフェイトの目には、まだ若干の迷いが残っていた。が――― 「・・・・・・はい、私は・・・・・・クロスを、皆を信じる」 「それが独りよがりでないと誰が言えるのかしら?」 「証明なんか要らない・・・・・・誰が何を言ったって、私は皆を信じてるから」 「・・・・・・そう」 忌々しそうに、そう吐き捨てる―――だが、そのプレシアの目元が若干緩んでいた事をクローセスは見逃さなかった。驚き、そして小さく息を吐き出す。 「・・・・・・まったく、ね・・・・・・母親か」 地面に降り、小さく嘆息する。視線を交し合う親子の姿を見詰め、クローセスは小さく苦笑した。今は、邪魔しない方がいいだろうから――― 『―――まったく、つまらんのぅ』 「が・・・・・・っ」 唐突に響いた声と、動きを止めたプレシア―――思わず硬直し、クローセスはその姿を見上げた。腹部から腕を生やした、先ほどまで戦っていた相手の姿を。 ―――そして、その後ろに現れた波のような緑の髪の女を。 「そこの娘の苦悶を期待しておったのじゃがな。まったく、あっさりと乗り越えおって。まったくもってつまらんわ」 「母・・・さん・・・・・・?」 「―――」 女は、至極あっさりとした動作でプレシアから腕を引き抜くと、彼女の身体をそのまま投げ捨てた。構成を維持できなくなり、プレシアの《人形》は声を発する事すら許されずに消失する。 「仕方あるまい。妾が直々に相手しようではないか。のう、ガルディアラス」 「何を、している・・・・・・ウェル、フィレア!」 「おかしな事を聞くのぅ。使えぬ《人形》を廃棄しただけじゃろうが」 呆然としているフェイトへ、そして不敵に佇むウェルフィレアへ、視線を向ける。 ―――何故か、浮かんできたのは笑みだった。 「クッ、ははは・・・・・・っ! 何だ、ホントにもうさ・・・・・・どうしてこう愚かなんだろうね、僕は」 「何じゃ、気でも触れたか?」 「油断はしちゃいけなかったのにさ、まったく―――ホント、腹が立つ」 クリアスゼロが、ゆっくりと輝きを発し始める―――呆然としながら瞳に涙を溜めていたフェイトは、その淡い輝きに我に返った。手で顔を覆うクローセスの姿が、ゆっくりと銀の輝きに包まれてゆく――― 「―――八つ当たりだけどさ・・・・・・この落とし前は付けさせてもらうよ、ウェルフィレア」 「ほう・・・・・・? どうやってじゃ?」 「決まってるさ・・・・・・お前の、命でだ! 来い、ガルディアラスッ!!」 ―――光が、弾けた。 ブラウンの瞳、ブラウンの髪―――ガルディアラスの力をその身に宿し、クローセスはその視線で敵を射抜く。 「―――封印なんて、甘っちょろい事はもう言わない・・・・・・元々、殺し合うしか出来ない関係なんだ。だったら―――徹底的に!」 「ほざけ、小僧が」 刹那、周囲に水が溢れた。蛇のようにうねりながら、クローセスとフェイトに向かって殺到する。クローセスは即座に床を蹴り、フェイトを抱え上げて距離を取った。 「・・・・・・フェイト、大丈夫?」 「・・・・・・・・・クロス」 『ごめんなさい』―――その言葉がフェイトの頭の中を駆け巡る。 貴方の為になれなくてごめんなさい。 貴方の望みを叶えられなくてごめんなさい。 貴方を救えなくてごめんなさい。 だが――― 「私は・・・・・・クロスが思ってるほど、心は弱くないよ」 ―――全てとは言えないけど、あの闇の書の夢の中で決別したから。 だから――― 「―――私は、戦える」 「・・・・・・うん、分かった」 頷き、フェイトを下ろす。水を纏う古代魔導族の姿を見上げ、クローセスはフェイトに小さく耳打ちした。 「ザンバーじゃ大きすぎて攻撃を掻い潜るのは難しい。遠距離か中距離から大規模魔法を狙って」 「了解」 小さく頷き合い、飛び離れる。そのまま地を蹴り、クローセスは駆けた。両手の指にナイフを生み出し、迎撃に来た水を横に跳んで躱す。一秒にも満たない時間で射程圏内に入り、クローセスは右手のナイフを放った。 『Strike Fang―――Fang Burst.』 ―――続けて、第二波。放ったナイフを爆破して視界を奪うと同時に、その煙の中へと左手のナイフを投げ込んだ。爆炎を突き抜け、ナイフが走る―――が、聞こえてきたのは金属音だった。 「―――っ!」 その刹那、煙の中から蒼い三叉槍が突き出された。横に向かって地面を蹴り、その一撃を躱す。煙の中からは、悠然と佇むウェルフィレアの姿が現れた。 「忘れておったのか、ガルディアラス?」 「覚えては、いたんだけどね」 水を操る槍、《ケートゥース》。以前の戦いでも持っていた武装だ。だが――― 「あってもなくても、やる事に変わりはないだろ!」 地面を蹴り、背後に回る。居場所を感知した水が喰らいつくが、それは左腕で薙ぎ払うと同時に発した衝撃波で相殺した。そしてその勢いで身体を捻り、右手の拳に三つの光球を生み出す。 「ブラストナックル・・・・・・!」 「ちッ」 銀の拳と、青い槍が正面からぶつかり合う。衝撃が爆ぜ、二人は同時に吹き飛ばされた。 「水よ!」 『Energy Bullet.』 宙に浮いた身体に、互いに攻撃を放つ。互いに相殺されたのを見ながら地面に着き、クローセスは左手にナイフを生み出し、それを隠し持った。それを、その場を蹴ると共に地面に突き刺す。そのまま上へ飛び上がり、クローセスは虚空を蹴って一直線に飛び出した。 「馬鹿が!」 空中では方向転換できない。ウェルフィレアは飛び込んでくるクローセスに向かって槍を突き出した。が、直前で生み出した床を蹴り、クローセスはウェルフィレアの頭上へと跳ぶ。強力な慣性を足一本で相殺したためか骨にヒビが入ったが、《再生》で即座に癒し、もう一度宙返りして足を振り上げた。 「《墜狼牙》!」 放たれたのは、衝撃波の伴う踵落とし。それは咄嗟に現れた水の障壁に阻まれたが、突き抜けた衝撃波がウェルフィレアを地面に叩きつける。だがそれと同時にしなる水の鞭がクローセスの身体を打ち、弾き飛ばした。 (身体まで届かないと決定打は与えられないか・・・・・・けど) 地面を滑り、起き上がりながら胸中で呟く。そしてそれと同時、遥か空中から小さな声が響きだした。 「アルカス、クルタス、エイギアス。煌きたる天神よ、今導きのもと降り来たれ」 フェイトの詠唱。天空には巨大な魔法陣と、黒い少女の周りに浮かぶ42基のフォトンスフィア。放たれる魔力は空間を歪めかねないほどに膨大だった。 「バルエル、ザルエル、プラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷―――」 「ちッ! やらせは―――」 ―――瞬間、ウェルフィレアの背後で唐突に爆発が起こった。先ほど仕掛けておいたストライクファング―――その硬直の隙に、クローセスは再びウェルフィレアに接近した。 「止めさせないよ」 「な―――貴様、正気か!?」 「もちろん」 ここにいれば、ウェルフィレアもろともフェイトの魔法に晒される。だが―――大規模に広がる砲撃ではなく、無数の攻撃が放たれるこの魔法ならば。 槍を掴んで離さず、クローセスは笑みを浮かべた。 「一緒に付き合ってもらうよ」 「く―――ならば」 刹那、槍から水が溢れ出した。この距離では避ける間もなく四肢を絡め取られ、空中に大の字で磔にさせられる。人質にしようと言うのだろう、それを目撃したフェイトは、思わず詠唱を中断して声を上げていた。 「―――クロス!?」 『大丈夫!』 ―――念話を伝えると共に、クローセスは衝撃波を発した。強力なそれが、水によって捉えられた四肢をまとめて弾き飛ばし、切断する。 「なッ!?」 「ぐぅっ・・・・・・!」 ウェルフィレアの驚愕の声と、クローセスの苦痛の声。だが吹き飛ばされた四肢はすぐさま《再生》し、バリアジャケット、そして手甲と足甲もすぐさま再構成する。すぐさま身体を捻り、クローセスはウェルフィレアに肘を叩き込んだ。衝撃波が突き抜けるが、痛みで集中が崩れ、内臓を潰せるほどの威力は叩き出せなかった。 そして――― 「―――アルカス、クルタス、エイギアス!」 詠唱が完成し、空中のフェイトと一瞬視線が合う。二人は、同時に頷き合った。 ―――そして、開放。 「フォトンランサー・ファランクスシフト―――ファイア!」 四十二基のフォトンスフィアから、毎秒七発のフォトンランサーが放たれる。無数に放たれる光の槍に、クローセスは真っ向から飛び込んだ。躱し、弾き、最短ルートで魔法を放つフェイトの下へと駆け抜ける。 「フェイト!」 「クロス! 大丈夫!?」 「平気だよ」 元々、即死しなければ死なない体である。殺さないよう手加減されているフェイトの魔法ならば、少し当たった所でそれほど問題は無い。苦笑交じりに、クローセスは眼下を見下ろした。魔法を撃ち終わり、煙の立ち込める場所をに注意深く視線を向ける。 ―――気配は、健在だった。 「気絶もしてないか・・・・・・クリア」 『分かりました・・・・・・Divide Energy.』 クリアスゼロから放たれた銀色の光が、バルディッシュに吸収される。増幅した魔力を分け与えたクローセスは、残った魔力を体内で静かに練り上げた。 ―――煙が、晴れる。 「・・・・・・!」 「まだ・・・・・・!?」 そこに立つウェルフィレアは、左腕を炭化させ、口元から血を滴らせている以外はほとんど健在だった。無数の電撃を全て一点に集中させ、他へのダメージを最小限に留めたのか。球電化した雷の衝撃で内蔵を傷めたのだろうが、その眼光は一切弱まってはいない。 「舐めた真似を、してくれるのぅ・・・・・・ガルディアラス」 「・・・・・・・・・っ」 《リインフォース》を発動してなかったとは言え、眼術を限界まで発動していた兄と正面から渡り合った古代魔導族。この程度、と言える威力ではなかったが、これでは倒せない。だが、どうすれば、と考える時間は与えられなかった。 「―――海原を廻る原始の波涛よ」 「な―――っ! クリア、術式制御! 無明打ち消す音無き波紋よ!」 「え!?」 『敵の最大魔法です。物量で圧倒する水の波動・・・・・・飲み込まれれば、たちまち捻り潰されます。クロスも同レベルの術を放って対抗するようですが・・・・・・』 唐突に始まった詠唱にフェイトがうろたえ、そこにクリアスゼロの念話が響く。詠唱はなおも続く。 「今ここに、汝が力を指し示さん」 「今ここに、汝が調べを弾き奏でん」 『クロスでは最大威力でもこれに対抗する事は叶わないでしょう。精々穴を開け、数秒間の拮抗を生み出すのみ。あなたが頼りです・・・・・・迷う暇はありません』 「・・・・・・! バルディッシュ!」 『Yes, sir.』 有無を言わさぬクリアスゼロの口調に押され、フェイトはバルディッシュを構えた。プラズマスフィアが形成され、それが刀身に吸収されてゆく。 「我、汝が声を記憶せし者なり―――」 「我、汝が調べを記憶せし者なり―――」 『クロスの術で遅らせられるのは精々数秒・・・・・・その間に仕留められなければ、確実に死にます』 「・・・・・・ッ!」 重いプレッシャーがのしかかる。だが、やらなければならない。 「されば汝、原初の波涛よ! 我が前に来たりて、敵を飲み込む戦禍と為せ!」 「されば汝、原初の波紋よ! 我が前に来たりて、万物砕く破滅と為せ!」 『飛び込み、確実に仕留めなさい・・・・・・分かりましたね』 「了、解!」 覚悟を決める。二人の詠唱は完成し、その周りに膨大な魔力が集まり始めた―――だがやはり、クローセスの方が若干弱く感じる。そして――― 「《海裂の波涛(ディープ=ローラー)》!」 先に放たれたのは、ウェルフィレアの術だった。彼女の身体を包み込むように水流が現れ、球体の膜となる―――そしてそれが、周囲に向けて一気に広がった。飲み込まれた木などが中の水圧に潰され、水流に引き千切られる様が目に飛び込んでくる。そしてその波が迫る―――それと同時に、クローセスの術が放たれた。 「《破滅の響震(ディストラク=カデンツァ)》!!」 ―――派手な音は何も無い。ただ、迫りくる水の壁が自分達の周りだけその動きを止める。 フェイトが訝しんだ次の瞬間、ぐにゃり、と景色が歪んだ。放たれた波紋同士が干渉し、空間自体を歪めているのだ。鉄が軋むような音を立てて歪む空間は徐々に広がってゆく。 「ぐ・・・・・・フェイト、準備」 「う、うん!」 バルディッシュを構え、フェイトがいつでも飛び出せるように準備する。そして―――歪んだ空間が、弾けるように元に戻った。閃光も音も無い、ただ空間が砕けたような大爆砕。それが更なる波紋を呼び、連鎖的に周囲を破壊してゆく―――その中へ、フェイトは躊躇いを捨てて飛び込んだ。ともすれば弾き飛ばされそうになる魔力の嵐を抜け、ただ前へ。 「はああああああああああッ!!」 「何、じゃと!?」 水の壁に穴を空けて突っ込んできたフェイトの姿に、ウェルフィレアが驚愕の声を上げる。チャージの完了したバルディッシュを手に、フェイトはただ一直線に駆け抜けた。それを迎撃するため、水の刃がフェイトを貫こうとせり上がる。が――― 『Sonic Move.』 黄金の閃光と共に、フェイトの姿が掻き消える。が、それに合わせてウェルフィレアの槍が翻った。 「そこッ!」 蒼い槍は頭上へ―――マントを突き抜け、槍が影を貫く。 ―――そう、マントだけを。 「零距離―――」 『Sonic drive―――』 気配遮断と魔力隠蔽―――それを駆使したソニックフォームのフェイトは、ウェルフィレアの背後にいた。 ―――刃が、翻る。 『―――ignition.』 「プラズマザンバ―――ッ!」 「馬鹿、な―――」 放たれた突きが、ウェルフィレアに触れる。そして――― 「ブレイカァァァァァァァッ!!」 ―――細く引き絞られ、これ以上ない魔力密度で放たれた砲撃が、ウェルフィレアの姿を完全に飲み込んだ。 ウェルフィレアの制御から離れた水の塊が弾け、周囲に雨のように降り注ぐ。術の負荷で折れた腕を癒しながら、クローセスはフェイトと、その傍に倒れたウェルフィレアに近付いた。 「・・・・・・妾を殺すのじゃろう、ガルディアラス」 「・・・・・・・・・」 半ば諦めの含まれた口調のウェルフィレアに、クローセスは嘆息交じりに短剣を取り出した。緑がかった刀身の、封印の短剣を。 「クロス・・・・・・?」 「やっぱり、止めた。僕が考えてたのは君への復讐みたいな物だからね・・・・・・ただ殺すよりは、こっちの方がいい」 「・・・・・・見た目と違って、嫌な男じゃな」 「たまに言われる」 自らが見下している人間に敗北し、封印される―――封印した古代魔導族はレイが処分するのだろうから、結局殺す事に変わりはない。ならば、こちらの方が屈辱を与えられるという、ただの憂さ晴らしのような理由。 ―――汚い人間だと自覚して、でもそれに言い訳はしない。 「ま、それに・・・・・・」 「・・・・・・? 何、クロス?」 「いや・・・・・・」 ―――ここで殺したら、立場が危うくなってフェイトと一緒にいられなくなるかもしれないし。 その言葉を胸中で呟き、クローセスは苦笑した。自覚できるのは、先に述べた理由よりもこちらの理由の方が強いと言う事。その思いを噛み締め、クローセスはウェルフィレアに近付いた。その傍に跪き、刃を心臓の上に当てる。 ―――と、ウェルフィレアの指がクローセスの胸に触れた。その指先が、僅かに光る。 「―――ッ!」 躊躇わず、クローセスは刃を沈めた。瞬間、ウェルフィレアの体が薄れ始め、急速に短剣の中に引き込まれてゆく―――己の胸に触れ、クローセスは目の前の敵に視線を向けた。 「・・・・・・何をした」 「最後のささやかな抵抗じゃよ・・・・・・何、死にはせん。いや・・・・・・死ねはせん、と言うべきか―――精々、己が存在を自覚するのじゃな」 ―――その言葉を最後に、ウェルフィレアの姿は消え去った。今のやり取りを見たフェイトが、心配そうに傍に駆け寄ってくる。 「な、何されたの?」 「・・・・・・いや、害のある物じゃないみたいだ。僕の中の術式に手を加えた・・・・・・?」 分からない。だが―――何にした所で、もう限界だった。髪の色と瞳の色が元に戻り、クローセスはその場に崩れ落ちる。咄嗟にその身体を支え、フェイトは血相を変えて声を上げた。 「クロスッ! やっぱり何か―――」 「いや、違う・・・・・・単に、限界が来ただけ・・・・・・」 魔力回路に強く負荷をかける行動をしたのだ。ガルディアラスになるどころか、後丸一日は眼術も使えないだろう。 「参ったな・・・・・・まだ、メルレリウスが・・・・・・」 「クロス・・・・・・今クロスは、一人で戦ってるんじゃないんだよ? 他の皆がいるんだ・・・・・・皆を信じて」 「あ・・・・・・ゴメン、そうだった・・・・・・」 苦笑交じりに目を閉じ、フェイトに身体を預ける。疲弊し、水で濡れて冷えた身体に、心地よい体温が伝わってくる。眠りそうになるような感覚の中、クローセスはただ穏やかな表情を浮かべていた。 あとがき? 「VSウェルフィレア、終了」 「今回は派手さを求めたらしいけど・・・・・・まあホント、よく殺し合ってるね」 「一応、普通に強い相手だからな。クロス一人じゃ負けてただろうし、フェイト嬢一人でも負けてただろう」 「まあ、あのアレンやレイヴァンが苦戦した相手だからね。仕方ないさ」 「後、気になるのと言えばウェルフィレアの奴が最後にやったアレだが・・・・・・」 「さあ? 解析してみないと僕でも分からないよ。ただ、死ねはしない、って言ってたのが気になるけど」 「・・・・・・ああ、なるほどな」 「? 分かったの?」 「まあな。さて、それはともかく・・・・・・次は最後の戦い、ユーノ&なのは嬢VSメルレリウスという訳か」 「だね。ユーノもフルドライブを・・・・・・ジェニウスモードを出した訳だし」 「守護神、ねえ。さて、一体どんな形をしてる事やら」 「まあ、それは次回をお楽しみに、って事で」 |