「―――う・・・・・・んん・・・・・・・・・」

差し込んでくる朝日に、目を薄く開けながら目覚まし時計を探す―――が、寝惚けた頭がクリアになるにつれてそんな物は無いと言う事を思い出した。

「そうだ・・・・・・騎士団にいるんだっけ・・・・・・」

騎士たちが暮らす寮といえるこの建物、その部屋の一つ―――クローセスの部屋にユーノはいた。特に目立った点のない部屋を見回しながら、借りた寝巻きを脱いで普段着に着替える。

「マスター、おはようございます」
「うん、おはよう、フィー」

唐突に現れる少女にも、もう慣れたものだ。着替えを終え、さてどうしたものかと考え込む。食事をしたい所であるが、ここではどこで食事を貰えるのかが分からない。
と―――その瞬間、何の前触れもノックも無しに部屋の扉が開いた。

「やっほー。ユーノ、起きてる?」
「あ、どうもおはようございます、ミリアさん」

何の遠慮もなく現れたミリアは、そのまま部屋の中に入ってきて上機嫌に声を上げる。

「フィーちゃんもおはよ。今日はいい天気ね」
「はい、そうですねー!」

クレスフィードは、どうやらこの女性の事を随分と気に入っているようであった。少々自分勝手な部分はあるように思えるが、明るく接しやすい性格である。こちらとしても、あまり畏まらずに話せるのはありがたかった。
彼女は上機嫌に、笑顔で明るい声を発する。

「んじゃ、食堂に行きましょうか。ここの食堂は大体なんでも作ってくれるのよ〜・・・・・・そういえば、フィーちゃんって何か食べれるの?」
「流石にそれは無理です・・・・・・ルヴィリスさんみたいな身体ならよかったんですけど」
「え? ルヴィったら身体まで手に入れたの? クロスったら大変ねぇ」
「あはははは・・・・・・」

笑みをこぼしながら、ミリアの後を付いて行く。
―――不思議と、それを自然に思えている自分がいた。





「と、ゆー訳で。旅行に行きましょう」
「・・・・・・は?」

言われた事を咄嗟に理解できず、眼を点にする。その後数秒掛けてミリアの発した言葉を飲み込んでから、ユーノは斜め前に座っていたアリシェラに視線を向けた。残念ながら、彼女は溜め息と共に肩をすくめただけだったが。

「・・・・・・えーと、前の文との繋がりが一切無いんですけど」
「気にしちゃダメよ。とにかく、天気もいいから今日はちょっと南大陸の辺りまで行ってみようかと思うんだけど」

残念ながら、話の内容は変わらないどころか更に前進していたらしい。この人の思考回路は時々読めないなぁ、などと思いながらとりあえずミリアの話に耳を傾ける。

「最近仕事ばっかりで遊べなかったし、たまには遠出してみようかなーと思った訳よ」
「構いませんが・・・・・・私は今回留守番しています。前回の仕事の報告書、まだ確認が取れてませんので」
「そうなの? じゃあ、私とユーノだけで行ってくるけど」
「って、あれ? もう決定してるんですか?」

気付かない内に話が更に進んでいたことに驚き、そう声を上げる。どうやら、ミリアの中では既に旅行プランが出来上がっていたらしい。きょとんとした表情を浮かべ、首を傾げながら聞き返してくる。

「何? ユーノったら旅行嫌いなの?」
「いえ、元々そういう一族の出ですからどっちかと言うと好きですけど・・・・・・」
「じゃあいいじゃない。けってーい」

どうやらこれで確定してしまったらしい。何だかなぁ、と思いながらも、ユーノはとりあえず首を縦に振っていた。それを見たアリシェラが何やら可哀想なものを見る目をしていたのがどうも気になったが。

「じゃあ、食事終わったら早速出かけるわよー。アリス、夕方ぐらいまでには帰ってくるから」
「はい・・・・・・物を壊す時は証拠が残らないようにしてくださいね」
「やーねぇ、塵になるまで切り刻むから問題ないわよ」
「・・・・・・や、何か今不穏当な言葉が聞こえた気がしたんですが」

だが、そのユーノの呟きはあっさりとスルーされた。先ほど首を縦に振ってしまった事を早くも後悔しつつ、ユーノは久しぶりの栄養食品以外の食事を胃の中に押し込んだのだった。


 * * * * *


旅行の準備のために中庭に出て、ミリアは満足気な表情と共に空を見上げた。これならば、問題なく進めそうである。
と―――

「ところでミリアさん」
「んー?」

後ろからかけられた声に、ミリアは頭の後ろで手を組みながら振り向いた。見れば、どことなく不安そうな表情のユーノがおずおずと手を挙げている。

「南大陸に行くとか行ってましたけど、そこって日帰りで行ける場所なんですか?」
「まーね。レイヴァンなら一瞬だけど、私なら片道三十分って所かしら」

生憎ながら、空間転移などと言う便利な術式は使えない。覚えればいいだけの話かもしれないが、それでは旅の楽しみが半減してしまうと言うものだ。小さく笑みを浮かべ、掌を広げる。そして―――小さく、その名を呼んだ。

「来て、《風律棍》」

手の中に現れたのは、二メートル弱の長大なエメラルドグリーンの棍。空気を裂きながら振り下ろすと、それによって生まれた風が己の周りを舞う。もう三年の付き合いになる己の相棒に、ミリアは小さく笑みを浮かべた。

(今日もお願いね、お父さん)

その言葉に反応するかのように、周囲の風が僅かに強まる。頭を撫でているようなそれに目を細め、今日も絶好調だと満足する。その様子を見て、ユーノはどうやら大いに感心したようだった。

「ミリアさんは、魔導武具のマスターなんですね」
「んー・・・・・・そうね、私は眼術持ちじゃないわ。まあ、ちょっと特殊な所もあるけど」

まあ、それは今言うべき事でもないだろう。微笑み、棍で軽く地面を叩く。瞬間―――二人の身体を、球状の風が包み込んだ。ふわりと浮き上がり、徐々に上空へ向けて駆け上がってゆく。そして十分な高さまで上った所で、球状の風の上から更にそれを風で包み込んだ。

「そんじゃ、行くわよ〜」
「・・・・・・まさか」

どんなまさかを想像したかは知らないが、ミリアはすぐさま実行に移った。外側の風の結界が働き、目的地へ向かって爆発的な推進力を生み出しながら、あたかも砲弾のごとく飛び出してゆく。
衝撃を予想していたらしいユーノは防御姿勢のまま恐る恐る目を開け、その構えを解いた。内側に張られた風の結界が、防壁の役割を果たして中を快適な状態に保っているのだ。しかし疲れた表情を浮かべ、ユーノは呻き声を上げる。

「ミリアさん・・・・・・先に言ってくださいよ」
「あはは〜・・・・・・ゴメンゴメン。でも―――」

言いながら、下の様子を指差す。流れてゆく風景と、遠ざかってゆく白い宮殿を。

「いい眺めでしょ? こんな役得もあるんだから。空間転移なんかより、私はやっぱりこの方が好きね。昔からずっとこうして旅をしてみたかったし」
「こうやってって・・・・・・空を飛んで?」
「うん、そう。私はね・・・・・・ずっと、空を独り占めしたかった」

体の向きを仰向けに変え、広がる蒼い空へと手を伸ばす。それしかない視界を、大きく手を広げて抱き締める。

「私はね、ずっと小さな町で過ごしてきたの。町の外に出る事なんてほとんど無い。出るとしても、馬車に乗って安全な街道を進むだけ。私は、ずっとあの塀の向こうに出てみたかった・・・・・・いつか外を旅して、この空を独り占めできる場所を見つけようとしてた」

普通なら、そこまでだったはずだ。ただの子供の小さな願い。成長するにつれて薄れて、やがては失うはずだった小さな夢。だが―――

「でもね。ある時、私の前に一人の女の人が現れた。何だか不思議な人だったんだけどね」
「不思議な・・・・・・? どんな人だったんですか?」
「その人は、世界を旅してるんだ、って言ってた。だから私は、その人に色んな事を教えてもらった。楽しい事も、厳しい事も」
「―――旅する事がどんな事なのかを、教えてもらったんですか」

ユーノの言葉に、笑みを浮かべながら頷く。決して子供ができる事ではないと言う事。戦えなければならないし、様々な知識がなければならない。その人物の言葉は、幼いミリアにさえ分かるように、今のままでは無理だと言う事を教え込んだのだ。

「付いて行きたい、って思ったけど。でも無理なんだって事も理解してた。あの人も、そんな私の事を理解してくれてたんだと思う。だから私に、あんな事を言ったんだと思う」
「あんな事って?」
「『私は、君を連れ出す人間ではない。だが君が自由を追い求める人間であれば、いずれ君を連れ出す人間は君の前に現れる』、って言ってた。今考えても、何であんなに自信たっぷりだったのか良く分からないんだけど」

小さく苦笑を漏らし、体の向きを元に戻す。視界に再びユーノの姿を納め、ミリアはその顔に笑みを浮かべた。

「・・・・・・いや、違うかな。今なら分かるかもしれない。あの人と私は同じだったから、自由を追い求める人間だったから、だから確信できたのかも」
「自由を、追い求める?」
「そう、自由。私は自由で在りたい。どこにでも、好きな所にこうやって飛んで行きたい・・・・・・ね、それって素敵な事だと思わない?」

幼い、子供のような無邪気な笑顔でそう告げる。その笑顔に何を思ったか―――ユーノもまた、嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。

「そうですね。そんな風に空を飛べたら―――」
「―――――」

ユーノの表情に一端言葉を切り、そして淡い笑みを浮かべて頷く。今この少年の目は、自分を見ていなかった。誰に重ねていたのかは分からないが、予想の通りだったとしたら―――

「―――ユーノ」
「はい、何ですか?」
「私はまだ、君の事を良く知らない。何となくどんな人間かなー、って言うのは掴んでるけど、でもまだ足りない。だから、私は少し君の事を見極めようかなって思うの」

その言葉に、ユーノはきょとんとした表情で首を傾げて見せた。その様子に小さく笑いながら、パタパタと手を振って言葉を続ける。

「緊張する必要は無いわ。いつも通り自然にしてればいい。私の予想と外れたからって、それで問題があるって訳じゃないからね。でも君が私の予想通りだったとしたら・・・・・・私は、君に教えたい事があるわ」
「教えたい事・・・・・・?」
「そ。変に取り繕う必要は無いわ。別に、聞いたから君に得があるって訳じゃないかもしれないしね。とにかく、覚えておいて」

話はそれだけ、と呟いて、風の制御に意識を集中する。風が教えてくれる周囲の地理から方角を割り出し、一直線に目的地へ行ける軌道へと修正する。
―――久しぶりに感じるこの心の躍る感覚は、きっと旅行のためだけではない。その確信と共に、ミリアは速度を上げていった。


 * * * * *


「はい、到着よー」

ゆっくりと地面に降下しながら、ミリアは上機嫌にそう告げる。およそ三十分間の飛行の後、二人は時計塔のある少し大きな街へと到着していた。直接街に下りるような真似はせず、一応ながら門の外に降りて、衛兵に手を振ってから街の中に入る。

「ミリアさん、ここは・・・・・・?」
「ディリクロックって言う街よ。一応、南大陸じゃ有数の観光地。後は海があるクリアフェイルとかかしらねー・・・・・・ま、流石に遠いから行かないけど。泊りがけじゃなきゃ」

感心したように頷くユーノに満足し、ミリアもまたうんうんと頷いた。海―――海水浴と言うのもまたいいかもしれないが、アレンがいない今行ってもあまり面白くは無い。

「埋める相手がいないとねー」
「は?」
「いや、こっちの話」

小さく笑い、誤魔化す。まあ、アレンが相手では埋めようとして返り討ちに遭うのがいい所かもしれない。埋められる相手と言えば―――

「ねえユーノ」
「はい? 何ですか?」
「首まで埋まるのに興味ある?」
「ありません」

即答だった。ちえー、などと呟きながら、再び声を上げる。

「このぐらいの大きさになると、結構治安もいいから大丈夫だけど・・・・・・路地裏とかには入らない事をお勧めするわ。こんな風に―――」

言って、軽く《風律棍》を振るう。瞬間、風が動き―――近くの路地裏から、何かが倒れるような音が二つ響いた。ユーノが不振がってそっちを向くのと同時に、少々乱れた服を直しながら女性が飛び出し、その場から逃げてゆく。

「ま、ユーノは男の子だからああいうのは大丈夫だとは思う・・・・・・うん、たぶん大丈夫だとは思うけど」
「何ですか、今の間は。って言うかたぶんって!?」
「気にしたら負けよ。まあ、ともかく人買いとかそういうのは気をつけなさいよ」

まあ、今の実例を見たためでもあるのだろう。ツッコミはともかく、ユーノは素直に首を縦に振った。それに満足し、これからのプランを―――今更だが、考え始める。
一応、この街にも知り合い入るのだが、生憎と彼女にユーノを見せると適当に作った薬の実験台にされかねない。まあ、それはそれで面白いような気もするのだが―――

「・・・・・・ミリアさん、今なんか不穏な事考えませんでした?」
「勘が鋭いわねー」
「・・・・・・否定もしないんですか」

半眼で呟かれた言葉をスルーし、とりあえず見る所を見ながら買い食いし、ウィンドウショッピングでもしてみるかとまあいつも通りの事を考え始める。
とりあえず、同行者の意見も聞いておくべきだろう。

「ユーノ、何か見たい所でもある?」
「いえ、僕に聞かれても・・・・・・あの時計塔ぐらいしか何があるのか分かりませんし」
「あ、あそこは却下。いい思い出無いし」
「へ?」

疑問符を浮かべるユーノに、ミリアは顔をしかめてびしっと時計塔を指差した。そのまま、間髪いれず一呼吸で言葉―――と言うか罵声をまくし立てる。

「あそこはね、あの黒ずくめと始めて会った所なのよ。もう出会いから何まで最悪よ何考えてんのかしらあの真っ黒くろすけ。何が『所持者とはそこの小娘のような腑抜けばかりではないのだな』、よ! もうちょっと言い方とかそういうのがあるでしょうがあの陰険根暗性悪黒ずくめえええええッ!!」
「み、ミリアさん、ボリューム抑えて。目立ってますよ?」
「いいわよ別に目立ってても! どうせ騎士団の紋章掲げてるだけで十分目立ってるんだから!」

白い服の胸に刻まれた紋章を指差して憤然と言い放つミリアに、ユーノはどうやら深々と溜め息を漏らしていたようであった。とりあえず言いたい事は言って満足したので、周囲の視線を一身に集めながらもそのまま堂々と歩き出す。ユーノはその後を周囲の視線を気にしながら歩き、おずおずと声を上げた。

「あの、ミリアさん・・・・・・とりあえず、ミリアさんのお勧めの場所でいいので連れて行ってもらえますか?」
「あや、ようやく乗り気になったの?」
「まあ、それぐらいのテンションじゃないとやってけませんし・・・・・・」

何やら溜め息を吐く少年に首を傾げる。それぐらいのテンションと言う割には随分と低いテンションだが。しかしまあ、そう頼まれたのならそうしよう、とミリアは懐から財布を取り出した。

「ま、テキトーに買い物でも楽しみましょうか。お金なら十分あるから興味ある物があったら遠慮なく言うのよ?」
「は、はあ・・・・・・あの、ミリアさん」
「何?」
「何か、財布から紙切れがはみ出てますけど」

言われて見ると、確かにそうだった。お札ではないようなので、首を傾げて引っ張り出してみる。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ミリアさん?」

笑顔でその紙切れ―――『俺の財布につき、触るべからず。って言うかテメー等いい加減にしやがれ主にクソ師匠とバカ女。貴様らは脳味噌が腐ってるんだと断定するぞコラ』と書かれていたそれを丸めて投げ捨て、そのまま空中で粉々に切断する。
笑顔を崩さず、ミリアはユーノに向き直った。

「大丈夫大丈夫。移動にお金はかからないから全部使う勢いでやっても大丈夫よ〜♪」
「・・・・・・えーと。その財布―――」
「大丈夫よ」
「・・・・・・イエス、マム」

逆らえないものを感じたか、敬礼の姿勢でユーノが頷く。うんうんと頷き、ミリアは踵を返して歩き出した。と―――

「・・・・・・あの、ミリアさん」
「ん?」

背中越しに、声をかけられる。振り返ると、ユーノは先ほどの場所から動かず、僅かに視線を俯かせて立っていた。首を傾げ、そちらへと向き直る。
同時、ユーノは顔を上げた。

「アレンさんって、どういう人なんですか?」
「何、唐突に?」
「いえ、昨日から聞こうと思ってたんですが・・・・・・」

そう言って、ユーノは再び顔を俯かせる。ミリアは嘆息し、その背中を押しながら歩き出した。困惑するユーノをそのままに、適当な店で飲み物を購入し、近くにあったベンチに座る。

「・・・・・・まず、君はあいつについてどんな事を知ってるの?」
「表面上の事は、大体。強くてお人好しな人だって、それだけ聞いてます」
「まぁ、間違いじゃないわね。実際、その通りだと思うし・・・・・・それで、それ以上知ってどうしたいの?」
「直接どうしたい、って聞かれると分からないんですけど・・・・・・強く在りたいんだと、思います。戦闘能力的な強さじゃなく・・・・・・なのはを護るために、何事にも迷わない人間で在りたい」

その言葉に小さく目を見開き―――そして、小さく息を吐き出した。この少年は、自分が予想していたよりも遥かに世界の事を理解しているのかもしれない、と。

「まず初めに言っとくけどね、何にも迷わない人間なんて、いやしないわ。些細な事ならともかく、物事が大きくなればなるほど、その選択の責任もリスクも重くなる。当然、迷いもするわね」
「じゃあ、アレンさんは?」
「あいつだって迷うわよ。皆強い強い言ってるけど、あいつだって何もかも強い訳じゃない。弱い部分だってある」

小さく嘆息する。きっと、数えてゆけばきりが無いだろう。それだけの物を積み上げてきた事を、ミリアは知っている。ずっと隣で見てきたのだから。

「確かにあいつは強いし、色々事件も解決してきた・・・・・・そのおかげでたまに英雄扱いされたりするし、ユーノだってそういう視点で見てる訳でしょ?」
「あ・・・・・・は、はい。そうかもしれません」
「でも、私はそうは思わない。ま、そういう視点ってのはその人の強い部分しか見ようとしないから仕方ないのかもしれないけど。クロスの場合は憧れのお兄さんだしね」

レイやルヴィリスは、恐らくそれとは違うだろう。しかし、あの二人はきっと外見以上の事はあまり喋らない。

「あいつはね、別に強い訳じゃなかったんだ。ただ、心が頑丈だっただけ。だから大抵の事は背負えたし、どんなに辛くてもそれから逃げなかった」
「・・・・・・・・・」
「でも、多くを背負えた分だけ、あいつの心は軋んでった。私が出会った時には、あいつはもう壊れかけだった。独りで戦って、何もかもを背負っていく・・・・・・外から見れば、そりゃあ強かったでしょうね」

英雄は孤独だ、と誰かが言っていた。今ならそれを十分に理解できる。

「君も、知ってるんじゃない? 強い人間は、皆に見てもらえても、理解はしてもらえないんだよ」
「なのは・・・・・・」
「あいつの強さが一体何なのか・・・・・・それは、今私が教えるべきじゃないと思う。君は今、してあげるべき事があるでしょ?」
「まだ・・・・・・なのはは、そういう孤独を知らない?」
「私はその子の事を良く知らないけど・・・・・・強く見える人間に何より必要なのは、理解者なんだよ」

手に持っていたジュースを飲み干す。下手をすれば口から出てしまいそうになる言葉を飲み込み、ミリアは笑顔を浮かべて見せた。

「護るって言うのは、難しいでしょ?」
「・・・・・・はい」
「だから、しっかり護れるようになってから・・・・・・それからもう一度考えなさい。強く在るって言うのはどういう事なのか」

きっとユーノなら見つけられるよ、と頭を撫でて囁く。表情に輝きを取り戻して頷くユーノに、ミリアは満足気な表情で頷いていた。









あとがき?



「随分と好き勝手やってやがるな、ミリアの奴」

「ま、どーせいつもの事だろ」

「財布を盗んでく事がいつもの事でどーすんだよ、オイ。あいつはアレか? 定期的に人様の金を使わないといられない性分だったりするのか?」

「本人に聞いてみたらどうだ?」

「今は聞けないだろ・・・・・・ったく、戻ったときには金がなくなってそうだな、こりゃ・・・・・・」

「いつもみたいに激しいツッコミじゃないな・・・・・・照れてるって訳か」

「だ、誰が照れてる! 勝手な事抜かしてんじゃねえぞこのクソ師匠」

「はいはいはいはいわかったわかった」

「この・・・・・・いつかコロス・・・・・・」

「さてと、ユーノの方は相変わらずだな」

「・・・・・・はぁ・・・・・・俺の事なんか知って楽しいのかね?」

「さーな。老成してるように見えたって、まだまだ十歳程度のガキだ。まだまだ際限なく強さを求める頃合だろ? 強さの区別をつけてる辺り、ただのガキって訳でもないが」

「・・・・・・確かに、同じ頃の俺は戦う力しか考えてなかったな」

「ま、フツーに考えりゃ生きてく上で必要の無い物なんだがな。お前さんの場合は特殊だろ・・・・・・まあ、ある意味ありきたりな理由ではあったが」

「フン、悪かったな」

「別に悪かないさ・・・・・・さてと、しばらくは平和に、って感じか」

「どーせ、敵の動きはお前が勝手に調べてるんだろうからな。俺たちはゆっくりさせてもらうさ」

「そうかい。それじゃ、また次回と言う事で」






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