―――価値のある事など、何一つ無かったのかもしれない。 「・・・・・・」 辿り着ける場所は、雪の降りしきる戦場。炎の龍に侵された身体は、それでも凍える事すら叶わない。無数の人間だった残骸と、それを炭化させてゆく紅い炎。蒼く輝く魔剣を手に、ただ無表情に空を見上げる。 「・・・・・・あの時、届いていたら」 手を空へと向け、指の隙間から灰色の空を見つめる。意味など無いと理解しているそのIFの想像を、彼はそれでも止める事はできなかった。 ―――あの時、自分にもっと力があれば。 辿り着く思考は常にそこ。覆るはずも無い、ただ残酷な選択肢を思い起こし、愛すると同時に憎んだこの白の季節を眺めてゆく。 灰色の空。 原色の人々。 褪せて凍りついた世界。 ―――全てが、無価値だった。欠けて歪んだこの心も、たった一つの約束も果たせない自分自身も。 「・・・・・・意味なぞ、要らんのかもしれないな」 己の信ずるものさえあれば、生きてゆく事は出来る。自分にはこの命の意味がなかったとしても、彼女のためならばそれも覆る。そうして生きると決めたのだ。何より、自分自身が彼女の事を望んでいる。 だが――― 「―――それでも、俺はここから逃れられない」 擦れた心の中でもなお鮮烈に残る、雪の少女の面影。笑顔も涙も、その全てが―――自分にとって、代え難いものだった。 ―――薄く、自嘲する。 「俺はあんたの事を忘れたいのか、そうでないのか―――まったく、無様だな。どうしようもない。けど、それでも・・・・・・これだけは、言える」 空を見上げたその目じりに、雪の一粒が舞い降りる。解けて流れ―――雪が代弁した感情は、最早どこにも残っていない。しかし、それでも――― 「―――俺は、あんたの事を求めていたよ、クリス。誰よりも、何よりも・・・・・・な」 * * * * * 「・・・・・・眠みぃ」 ぼんやりと夏の空を見上げながら、アレンは小さくそう呟いた。肌を焼く夏の日差しの中、長袖のジャケットの袖を捲くり――それでも七部袖ほどあるが――汗一つ垂らさずにいる姿は、少々不気味でもある。 「・・・・・・つーかアレだな。何でこの世界の人間はマヨネーズを調味料として認知してやがるんだ。アレは人間の食べるもんじゃない」 「兄さん・・・・・・この暑い中たこ焼きなんて食べないでよ・・・・・・それから、僕らの世界の事を誤解されるような事は言わないでってば」 クローセスからの言葉を聞き流し、たこ焼きの中のタコを器用にくり抜いて口に運びながら、アレンは小さく嘆息した。 「しかしまぁ、蒸し暑いなこの世界は。流石の俺も参る」 「汗一つ浮かんで無いくせに何言ってるのさ」 「何を言う。見ての通り、かなり暑がってるぞ」 「どこがさ・・・・・・」 シャツに短パンのクローセスが、半眼で見上げながら呟く。対し、シャツに長袖のジャケットにジーパンを穿いたアレンは、それでも暑がる様子も無くのたまう。 「まー、あれだ。火龍の棲む火山地帯の方が暑かっただろ」 「そりゃそうだけど」 溶岩がむき出しになっている場所と比べればどこだって涼しいものである。納得行かない様子でぶつぶつと呟くクローセスを見下ろし、アレンは小さく嘆息を漏らした。 「つーか、いいのか? 俺の監視にお前がついて」 「一応、僕も管理局の一員だしね。本局のお偉いさん方はどうか知らないけど、リンディさんはそこの所を理解してくれてるみたい」 「成程な」 リンディはこちらの事を信用したと言うよりも、クローセスの事を信用しているようだった。まあ、クローセスもよほどの事でなければ公私混同するような人間でもないので、そこの部分は間違ってはいないが。 「・・・・・・それにまぁ、俺を止められる可能性があるのなんてお前ぐらいか」 「正確には僕とルヴィリスだけどね」 確かに、魔剣が無い今の状態では二人を相手にするのは難しいだろう。全力を―――ブレイズィアスの力を使った場合は話は別だが。と、ふとこの間の模擬戦の事が頭に浮かび、アレンは弟へと視線を向けた。 「・・・・・・そういやお前、随分ポンポンとガルディアラスの力を使ってたが・・・・・・大丈夫なのか?」 「どう、だろうね・・・・・・治す手段が見つからない以上、どうした所で結果は同じような気がするけど」 「お前は勝手が違うだろうが。不老不死なんぞ、ロクなもんじゃ無いぞ? 今まで生きてたり精神残ってたりする古代魔導族の連中は、どいつもこいつも変人ばっかだろうが」 「・・・・・・ルヴィリスが『後で覚えときなさいよ』だってさ」 とりあえずその部分はスルーし、肩を竦めて嘆息を漏らす。 「まるで昔の俺だな。死ぬ可能性がない分マシと言えるかも知れんが、どうにも問題が山積みになってやがる」 「そう、だね」 「大して時間は経ってないが・・・・・・そろそろ我慢が必要になってきたな、俺の場合」 クローセスが半年も耐えているのに対して情けなくはあるが、自分の場合は彼よりも積み重ねが大きすぎる。そうそう耐えられるものではないのだ――― ―――殺戮衝動、と言うものは。 「実際・・・・・・そろそろキツくはあるね。不意打ちの悪戯でも受けたら反射的に殺しちゃいそうで怖いよ」 「お前の場合は気配に敏感だからそこの所はまだマシだろうが」 「あはは・・・・・・難儀なものだよね、ホント」 一度壊れた―――『崩壊』の一歩手前まで行ってしまった人間は、その心に強い破壊衝動を持つ事になる。騎士団にいれば、週に一度は任務によってそれを『解消』する機会が与えられるが―――今は、そうもいかない。 「とっくに壊れてるとはよく言ったもんだ。七年前の戦場で、俺はもうとっくに引き返せない所まで行ってたってんだからな」 「・・・・・・僕は」 「あのガキンチョどもには知られたくない、って訳だろ? それならそれで構わんさ」 ―――正確には、その中でも特に一人、知られたくない人間がいるようだが。 苦笑し、たこ焼きの残りを口に運ぶ。咀嚼してから入れ物を見られないように焼き尽くし、ポンポンと隣を歩くクローセスの頭を撫でる。 「変わったな、お前も。前は一歩下がって眺めてる人間だったくせに」 「うん、僕もそう思う―――でも、これでよかったと思えるよ」 「いっちょまえの面しやがって」 笑いながらその頭を小突くと、クローセスもまた笑顔を浮かべる。どの道、解決策は元の世界に戻る以外には無いのだ。今は気にしてもしょうがない。 「ま、今の問題は・・・・・・」 「・・・・・・?」 小さく一人ごちたその言葉に、クローセスが小さく首を傾げる。それには答えず、アレンはポンポンとクローセスの頭を叩いて声を上げた。 「クロス、喉乾いたから飲み物買って来い」 「・・・・・・何の躊躇いも無く命令口調だね、兄さん」 「たまには兄孝行したらどうだ?」 「いや、最近はそこまで世話になってないよ・・・・・・いやまあ、別にいいけどさ」 嘆息を漏らし、半眼でこちらの姿を見上げてからクローセスは踵を返す。この辺りに自動販売機はないようなので、少し離れた場所にあるコンビニにでも行くつもりなのだろう。 「さて、と・・・・・・」 手をポケットに突っ込み、小さく笑む。その顔を彩るのはいつもの皮肉気な笑み。そして―――何の躊躇いもなく、声を上げた。 「―――そろそろ出てきたらどうだ?」 その言葉を放った刹那―――周囲の空間が、色彩を無くした。封時結界と呼ばれるそれに取り込まれながら、それでも笑みを崩さず言葉を続ける。 「随分と前から俺に目をつけてたみたいだが―――俺に何か用か?」 「ええ・・・・・・ぜひ貴方と話がしたいと思い、こうさせて頂きましたよ」 声が響き―――それと共に、周囲を取り囲むように人影が現れる。口調こそは友好的だったが、そこに現れた者たちは皆武器を持っていた。それに対してにやりと笑みを浮かべ、皮肉った声を上げる。 「ほぉ? 中々礼儀をわきまえてる連中だな?」 「非礼は詫びましょう。今回は、話し合いに来たのですから」 ふむ、と呟く。果たして本当に『話し合い』のつもりなのか。失笑気味に肩をすくめ、言葉を促す。 「貴方に・・・・・・いや、貴方達騎士団に協力して頂きたいのですよ。我ら《リヴェルタス》に」 「・・・・・・」 騎士団の名と、レイから聞かされた《リヴェルタス》の名。その二つに、今まで皮肉気に歪んでいたアレンの表情が一瞬鋭く変わる。しかしそれを一瞬で隠し、普段の余裕ある表情を浮かべ、不敵な声音で声を上げた。 「協力、ねぇ。それで、その協力とやらのどこに俺のメリットがある訳だ?」 「分かっていないのですか? このままでは、貴方の世界も管理局に支配される事になるのですよ?」 「支配できるもんならな」 にやりと、皮肉気に笑む。その様子に気分を害したのか、代表としてこちらに放しかけてきていた男は顔をしかめて見せた。しかしそんな事は気にもせず、アレンは不敵に声を上げる。 「甘く見るなよ、人間。例えどれだけあがいた所で、第一階梯は第一階梯にしか殺せない。貴様らも、管理局も―――俺やクラインを殺す事なぞ不可能なんだよ」 「・・・・・・どうやら、貴方は我等の事を甘く見ているようだ」 「常にそれぐらいのハンデをやらにゃ面白くないからな」 どんな言葉を掛けられようと、アレン=セーズは不遜な笑みを崩さない。それを崩す方法は数少ないのだ。そして――― 「―――ならば、ミリア=セフィラスの存在は貴方にとってハンデと言う事ですか」 「―――」 ―――男は、その内最も簡単で最も危険な方法に手を出した。アレンの纏う空気が、一瞬で変化する。 「・・・・・・どうやら、俺達の事を良く調べてるみたいだな、《リヴェルタス》・・・・・・貴様ら、肉塊になる覚悟は出来てるんだろうな、あァ?」 「フン・・・・・・今現在、現地調達した戦力が彼女を襲撃しています。強制的に出力を上げ、一時的ながらSランク相当の戦闘能力を持つようにした戦力が三人・・・・・・AAAランク程度の彼女では、ひとたまりも無いでしょう。さて、どうします?」 男の言葉を受け、アレンは小さく視線を俯かせる――― 「ああ、そうかい。テメェらは、どうにも俺の事を舐め腐ってるって訳だな―――ホント、哀れすぎて抱き締めてやりたくなるよなァ、おい」 ―――その口元に、裂けたような三日月の笑みを浮かべて。 「何を・・・・・・」 「クッ・・・ハハハハッ! いやァ、久しぶりだぜオイ。最近はどうにも俺の事を警戒する連中ばっかでつまらんかったんだわ。ここまで俺の事を舐めた連中は数年ぶりだ・・・・・・お礼と言っちゃ何だが、手足の先から切り刻んで殺してやるぞクソ共が」 「っ・・・・・・! ミリア=セフィラスの命が惜しくないのですか!?」 その言葉に呼応するように、アレンは―――龍眼の殺戮者は視線を上げる。憎悪に満ちた狂気を、その内に孕ませて。 「あーあーおめでたいねェクソ共。テメェら、本気でその程度の戦力で俺の女を殺せると思ってた訳かァ?」 「何だと・・・・・・?」 「甘いんだよ、大甘だ。砂糖を直接口の中にぶち込むよりなお甘い。一般に公開されてる程度の情報が、本気で正しいとでも思ってた訳かねェ?」 紅い凶眼の男はただただ凄惨な笑みを浮かべる。狂気と正気をない交ぜにした殺意を身に宿し、その足元からはその怒りを体現したかのような炎が燃え上がる。 「言っとくがなァ・・・・・・ミリアが本気を出した場合、この俺でさえ全力を出さにゃならないんだぜ?」 「な、に・・・・・・?」 「親切なアレンさんのお言葉はここまで・・・・・・後は・・・分かるよなァ?」 右手の指を折り曲げながら広げる。あたかも、龍の鉤爪のように。そこから燃え上がった炎に照らされ、真紅の瞳は更なる赤を見せ付ける。 「ちっとは楽しませろよ、人間。数だけじゃ生贄には足りないぜ?」 「ほざ―――」 ほざけ、と言いたかったのだろう、その男は。しかし、それは叶わなかった。 炎を纏う貫手に胸を貫かれ、心臓を抉り出されながら焼き尽くされたから。 灰と変わる男の姿を見て、しかし五十人の魔導師たちは動じる事も無くそれぞれの武器をアレンに向けた。その様子に、 「いいねェ! 訓練された五十の兵は千の雑兵に勝る! 俺を殺して見せろクソッタレ共がッ!!」 ―――そしてアレンは、その五十の兵へと踊りかかった。 * * * * * 「・・・・・・あれまぁ」 とあるビルの屋上、そこから遠く離れた戦闘の様子を見つめ、ルヴィリスは小さく嘆息を漏らした。 「景気良くやってるわねぇ・・・・・・まったく、大したもんね」 そう言いつつ、ルヴィリスは隣に刺さっていた剣を引き抜く。 ―――剣で貫かれ、地面に縫い付けられていた男の頭蓋から。 「あいつがスナイパーに気付いてない・・・・・・って訳は無いか。どうせあたしがここにいる事にも気付いてるでしょうし」 嘆息交じりに、ルヴィリスは剣の形状を矢へと変化させる。そのまま《クルス》の弓を広げ、そこに矢を番えた。狙うは、眼下の戦場を挟んだ数百メートル先のビルの屋上。そこにいる、もう一人のスナイパー。 「―――“Exurere Ardens Ignis”」 放つは、使い慣れた灼熱の矢。紅い軌跡を宙に描き、矢は刹那の内に狙いへと吸い込まれた。その熱量で跡形も無く焼き尽くし、矢は満足したように宙へと解けて消えてゆく。 「・・・・・・ったく」 小さく毒づきながらも、その表情には苛立ちのようなものは見せず、ルヴィリスは小さく肩を竦めた。 ―――最初、彼は嫌いな部類の存在だった。生きる意味も見出せず、ただ怠惰に戦っていたあの男は。二度の復讐を果たし、空虚ながらも生きる意味を見出すために殺戮を繰り返す。その様があまりにも無様で、見る事すら嫌だった。 「・・・・・・・・・でも」 彼は、生きる意味を見つけた。そして気付いた。彼が、自分と同じ部類の存在だった事に―――今までの感情が、単なる近親憎悪だった事に。 ―――彼もまた、たった一人の存在のために生きる人間だった事に。 「運が無かったわね、あんたたちも・・・・・・文字通り、逆鱗に触れちゃった訳なんだから」 同情と、侮蔑と。小さく笑い、ルヴィリスは結界の制御の掌握を始めた。一人の男の戦いを、誰にも見せないために。 * * * * * 「ははははッ!」 綺麗な弧を描いて足が翻る。その一撃は防御の為に差し込まれたデバイスを小枝のようにへし折り、その先にあった頭部を容赦なく打ち据えた。頭蓋は呆気無く砕け散り、脳漿や眼球を撒き散らして果てる。 「どうした!? 温いぞ雑魚共!」 一連の動作でもう一度足が翻る。放たれた蹴りは頭の無くなった胴体に命中し、その身体を粉々に吹き飛ばした。その飛び散った肉片を焼き払うように、無数の砲撃が接近する――― 「―――《昇華》」 迎撃するのは不可視の《魔力固化》の刃。ぐるりと回転した二振りの刃は、迫ってきていた魔法を正確に迎撃する。小さく笑み、アレンは手近な相手にその刃を投げつけた。恐ろしいほど真っ直ぐに飛んだ一メートル弱の刃は、反応すら許さず顔面の中心に突き刺さり、後ろにあった建物の壁にその身体を縫い付けた。びくんびくんと震えるその体には目も向けず、その瞳は次なる獲物を映す。 「クソッ、何なんだアレは!?」 「人間じゃ・・・・・・」 「最初っからそうだって言ってんだろうがタコ共! テメェらは最初っから間違えたんだよ!」 会話によって注意を逸らしたところを、許すはずも無くアレンは肉薄した。鉤爪のように指を折り曲げ、その手を相手の脳天から振り下ろす。その腕は反応すら許さず、男の身体をバリアジャケットごと紙屑か何かのように引き裂いた。吹き上がる血飛沫にもう一人が怯んだ瞬間、放たれた手刀がその首を叩き落す。 「俺は最強の能力を手に入れた世界最強の幻獣の、その末裔だ。人間を相手にするつもりで来たんじゃ、最初から追い付ける訳がねェだろうが」 ぐにゃり、と。歪んだ笑みすら浮かべ、アレンはその表情と共に両腕を広げる。 ―――まるで、巨龍が翼を広げるように。 「ひぃ・・・・・・っ」 逃げ腰ながらもこちらに武器を向けていたうちの一人が、ついに耐え切れなくなって踵を返す―――その目の前に、真紅の瞳があった。 「逃げれると思ってたのかなァ、負け犬さんよ。あァ!?」 「ひ、ぐッ!? ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」 がしりと、アレンの右手が逃げようとする女性の頭を鷲掴みにする。ぎしぎしと、頭蓋が軋む音が周囲にすら響いた。 「痛い、止めてッ! イタィ、嫌あっアアああああああアああァぁああああアアああああ―――ッ!?」 「はい残念でした子猫ちゃんここでゲームオーバーですってなァ!」 ぐしゃり、と、呆気無い音が響く。 事切れた躯を放り捨て、全身に返り血を浴びながら殺戮者は静かに目を細める―――ようやく収まってきた狂気の間から、漏れ出した僅かな哀れみを怒りに塗り替えて。 「悪ィけどな、あいつの事を傷つけるものも、あいつの事を悲しませるものも、全部この世から消してやるって誓ってんだ」 不可能である事は分かっている。感情豊かな彼女が、何かに悲しまないはずが無い。だから―――必要の無い苦しみや、悲しみ、せめてそれだけはすべて消してみせる。それが、ミリア=セフィラスに立てたアレン=セーズの誓い。 だからこそ――― 「テメェらはぶっ潰すぞ、《リヴェルタス》。どれほど汚名を被ろうが、殺戮者の烙印を押されようが知った事か。あいつを傷つけるなんぞと口に出しやがった貴様らは、肉片一つ残らず―――」 掌の上に炎が灯る。それはゆっくりと膨張しながら、頭上へと静かに上ってゆく―――そして、それは激しい回転と共に白い輝きへと変化した。一万℃を超え、炎と呼べる領域から遥かに逸脱した光―――熱量によって原子を陽イオンと電子に分離させ、それを一点に集中させた一撃―――この世界ではプラズマ、と呼ばれるもの。 「―――蒸発させてやる」 ―――その宣言通り、極熱の光は容赦なく放たれた。 * * * * * 結界が解けて現実世界へと帰還したのは、たった二人だった。 プラズマの熱量によって器用に血だけを蒸発させたアレンと、違和感の無いようこの世界で購入した普段着を纏うルヴィリス。 「それにしてもまぁ、派手にやったわねぇ」 「お前だってクロスに・・・・・・いや、ガルディアラスに関して言えば同じだろーが」 半眼を向けるその瞳の中に、狂気の色は既に無い。先ほどの戦闘で、溜まっていた衝動をすべて吐き出したのだ。 アレンの言葉に、ルヴィリスは小さく笑みの混じった溜め息を吐き出す。 「まーね。そんな戯けた事言う奴がいたら、手足の先から順々に打ち抜いて殺してあげるわよ。ほとんど苦しませないだけ優しいわね、あんたは」 「救いにもなんねぇだろ。結局殺してるんだしな」 ぼりぼりと頭を掻き、嘆息する。元より善悪の存在しない領域だ。相手に対しどんな戦い方をしたかなど、経緯が違うだけで結果は変わらない。論ずる事自体が無意味だった。 それよりも、気になっている事が一つ。 「クリスフォードの方、か」 「何、心配な訳?」 「ちげーよ。奴ら、既に俺たちの世界の場所を掴んでた訳だが」 「あの《人形》でしょうね」 「ああ・・・・・・が、正直《リヴェルタス》の方はどうでもいい。問題は、クラインの奴が今回の襲撃について知ってたのかって事だ」 何の根拠もないが、知っていても驚きはしない。だが――― 「分かってて、それで敵をミリアに通したのなら―――奴の狙いは何だ?」 「・・・・・・・・・」 ミリア=セフィラスは騎士団でも有能な戦力であり、ある意味アレンやレイヴァンよりも情報を封鎖された存在である。その力を外に示す事に、メリットは見出せない。 「・・・・・・まだあの子に戦力が届いたって決まった訳じゃないでしょ?」 「得意げに話してた感じ、同時中継でもしてやがったんじゃないかと思ったが、まあまだもしもの話だ」 だが――― 「気味が悪い。元々あの野郎が何考えてんのかなんぞさっぱり分からんが、それが騎士団にとってのメリットになるのか、それとも俺にとってのメリットになるのか―――あるいは、奴にとってだけのメリットになるのか」 「・・・・・・・・・」 「今回ばかりは、慎重に動かにゃならんな」 クラインを殺す事は―――そもそも難しいが、ミリアにとってのデメリットになる。選択肢の中には入れられない。 ならば、自分がすべき事は――― 「《リヴェルタス》をぶっ潰す・・・・・・それが単純で確実だな」 「ま、そうかもね」 二人は小さく笑う。愛する者のためにバケモノとなる道を選んだ二人は。 ―――その姿はどこまでも、迷い無く真っ直ぐだった。 あとがき? 「おーおー、グロ注意だな」 「・・・・・・最初に言った方がよかったんじゃないのか、そういうのは」 「ん〜む、しかしまぁ、そこまでグロいって訳でもないだろ。まぁ、粉々にしたり引き裂いたり叩き斬ったりしてたが」 「うるせ。ストレス解消・・・・・・とも違うが、多少は発散しとかないといつ暴発するか分かったもんじゃないだろうが・・・・・・読者殿たちに言っとくが、俺は普段からあんな戦い方するって訳じゃないぞ?」 「まぁ、基本苦しませないように一撃必殺だもんなぁ、お前」 「そこまで優しくは無い。拷問する時とかはしっかりするしな」 「地面に埋めたり宙吊りにして火を焚いたりする奴か? 甘い甘い」 「・・・・・・じゃあどうしろってんだよ?」 「まず椅子に縛り付けてだな」 「・・・・・・で?」 「指を一本一本ぽきぽきと折ってく」 「それで? 指が無くなるまで耐えたらどうするんだよ?」 「肋骨を一本ずつぽきぽきと・・・・・・」 「どこぞの拷問吏か、お前は」 「骨折ったぐらいじゃ死なないからな。流血を伴う方よりは苦しむだけ苦しむぞ。へたして死ぬ可能性も少ないしな」 「もーいい。それで、次回は?」 「またミリア側だな。とりあえず、ミリアも多少は本気を出すだろ」 「本気、ね。まあ、厄介ではあるが」 「まーな。お前とは相性最悪だが」 「魔剣があればな。それじゃ、また次回に会おう」 |