―――物心ついた時、父はもう失踪した後だった。 母と、自分と。たった二人で過ごしてきた日々は、確かに大変だったが、それでもとても楽しかった。学校へ行き、帰って来たら母の営む食堂で手伝いをする日々。 自由を望む自分の、好きな時に帰ってこれる場所―――あの時の『彼女』に無いもので、自分にとっての拠り所だった。それは、今でも変わらない。 ―――幸せだった。だからこそ、父に恨みを抱くような事はなかった。 時折母が話すヒーローのような父の事は、むしろ大好きだったといってもいい。もしも父が自由に世界を旅しているのであれば、とても羨ましいとも思っていた。 ―――だからこそ、アレンに感謝した。 自分に自由な旅を与えてくれた事、そして戦いの中だったとはいえ、父と再会させてくれた事。初めて前に立ったときには照れ隠しに思わずラリアットをかましてしまったが、それでもとても嬉しかった。 ―――だからこそ――― 「・・・・・・・・・・・・どう、してよ」 手には翠に輝く棍を。長大なそれを抱き締め、ミリアはただ顔を俯かせてそう呟く。その言葉は冷たい墓石となった父にか、それとも背後に寄り添うように立つ少年にか。 「やっと、逢えたのに・・・・・・どうして、こんな事になるのよ」 「・・・・・・お前は」 「何で、お父さんが・・・・・・死ななきゃいけないのよ・・・・・・」 嗚咽にすらならない、ただただ震える声で。絶望に苛まれる、弱々しい声で。彼女からは見えぬ顔に、アレンは苛立ちに似た表情を浮かべた。かつての自分を見ているような感覚と、彼女にこんな思いをさせてしまった己の無力とを味わって。 ―――同じ道だけは、辿らせてはならない。だからこそ、覚悟を決めた。 「・・・・・・ミリア」 「・・・・・・・・・何・・・・・・何で一人にさせてくれないの・・・・・・」 それだけは、出来なかった。そうしてしまえば、彼女もまた自分と同じになってしまうかもしれないから。 「どうして、泣かない? お前には今、泣く権利があるはずだ・・・・・・悲しむ義務があるはずだ」 「私の、勝手でしょ」 「・・・・・・自分の責任だと思ってるのか? だったらお前は馬鹿だ―――責任はむしろ、俺にある」 その言葉に、ミリアはばっと振り向いた。目を真っ赤に腫らし、それでも涙を流さぬように堪えたその姿に、痛みにも似た感覚を覚える。 「予測できていたはずだった。俺がもっと早く着いていれば、護れたかもしれなかった・・・・・・難癖でも八つ当たりでも、お前は俺を恨んでいい」 「何でよ・・・・・・何であんたを恨まなきゃいけないのよ!?」 「そう思うなら自分を責めるな馬鹿者! お前は泣いていいんだ! 俺のような泣けない人間に・・・・・・『欠落者』になるんじゃないッ! お前だけは、俺と同じになるな・・・・・・っ!」 願いすらこもったその言葉を吐き出すとほぼ同時、ミリアはこちらの胸に飛び込み、その顔を見えないようにこちらの胸に押し付けてきた。普段見せぬ様子に驚き―――それでも、震える肩と頭を静かに抱き締める。 「何でよ・・・・・・私は、あんたを支えなきゃいけないのに・・・・・・あんたに余計なもの背負わせちゃいけないのに・・・・・・・・・!」 「だったら、今だけはそれを忘れろ・・・・・・俺の所為にしていい。後で謝れば、それで問題無いんだろ。正しくない方法でも、楽にはなれる―――だから」 ―――刹那、ミリアは突き飛ばすように腕の中から逃れると、すぐさま近付いてアレンの胸倉を掴み上げた。目からは大粒の涙をこぼし、口からは嗚咽交じりの絶叫を吐き出す。 「何でよッ、どうして助けてくれなかったのよッ!? あんたは最強なんでしょ!? 誰よりも強い騎士になれるんでしょ!? だったら何で、お父さんを助けてくれなかったのよ・・・・・・ッ!」 「・・・・・・すまない」 「謝らないでよ・・・・・・一つも悪くなんか無いんでしょ・・・・・・ホントはあんたの所為になんか出来ないんだから、だから謝らないでよ・・・・・・」 怒りを向けられた事への痛みと、悲しませてしまった事への痛みと。力を失い手を下ろしたミリアをもう一度抱き寄せ、この痛みを悟らせないよう囁く。 「それでも、だ」 「うくっ・・・・・・あやまるなぁ・・・・・・自分だって、辛いくせに・・・・・・!」 「辛いとか苦しいとか、そんなのは慣れっこだ」 最早泣き声すらあげられず、ドンドンとアレンの胸を叩きながらミリアはただ涙を流す。 無力と自己嫌悪に口を開く術を失い、ミリアを抱き締めながらアレンはただ唇を噛む。 ―――この時。絶対に強くなると心に決めたのは、果たしてどちらだったのか。 * * * * * 「はああああッ!!」 翻った棍が、殺到してきた砲撃を打ち砕く。そのまま接近しようとするも、横から放たれた砲撃が足止めをする。舌打ちし、ミリアは強く地を蹴り飛び上がった。腕を振れば、遥か上空より風の飛礫が嵐のように降り注ぐ。 しかしその攻撃は、敵が展開した魔法陣の盾によって弾き返される。 「・・・・・・っ」 思わず、舌打ちする。アレンやアリシェラを除けば、ミリアが防御や回避行動を取ったのはおよそ数ヶ月ぶりなのだ。 暴風とも呼べる風の鎧を纏うミリアは、その力によってほとんどの攻撃を受け流し、弾き返す事ができる。防御や回避は、その暴風の鎧を貫けるだけの攻撃を持つ者に対してしか必要ないのだ。 眼術も持たないただの人間では、騎士団の人間以外にそれを成し得た者はいない。 (なのに、何なのよこいつら・・・・・・!) 周囲に纏う暴風を、竜巻のような形に変化させる。そしてそのまま、棍をその芯として敵の中心に突撃した。これを受け止めるだけの自信は無かったのか、彼らは足に翼のような魔力の塊を発生させて高速で移動する。地面に衝突した竜巻は地盤と粉塵を高々と巻き上げ、周囲を煙で覆い尽くした。 (精々が訓練した人間程度の魔力で、どうして私の防御を貫けるのよ?) 地面を砕いた竜巻を、そのまま周囲に向けて拡散する。強烈な風圧が周囲の地面を捲り上げて吹き飛ばすが、その中に敵の姿は無い。 ―――彼らは、離れた場所で宙に浮かびながらこちらに武器を向けていた。 「・・・・・・・・・!?」 クリスフォードの魔導師にとって、飛行はかなり高度な術式だ。風の魔導師が風を纏って飛び上がるものを除けば、人間にはほぼ不可能な高度な術式となってしまう。 「・・・・・・あんたたち、どこでそんなものを手に入れたのよ?」 「答える必要を感じないな、ミリア=セフィラス」 貴様はここで死ぬのだから、とでも言いたげな表情で、リーダー格であった剣を持つ男は答える。その様子に小さく嘆息し、ミリアは肩を棍で軽く叩きながら半眼で声を上げた。 「私は、人間の中じゃ最も魔導に精通してるクラスの騎士よ? それが魔導って呼べるものじゃない事ぐらいすぐに分かる・・・・・・恐らく、この世界のものじゃない。それに―――」 小さく目を細め、低く声のトーンを下げる。僅かな怒りを滲ませ、ミリアは静かに声を上げた。 「あんたたち、無理矢理魔力の放出力を上げてるわね? 死にたい訳?」 「・・・・・・百も承知だ。貴様を殺せれば、我らの命など惜しくは無いッ!!」 ガシャン、と言う音と共に、リーダー格の男の剣から薬莢のようなものが飛び出す。それと共に、剣に込められていた魔力が一気に高まった。刃は炎を纏い、ミリアに向かって大上段から叩き付けられる。それを水平に構えた棍で受け止め、変わらぬ声の調子でミリアは静かに声を上げた。 「馬鹿ね、ホントーに馬鹿。私なんか相手にするのに命を削って、意味なんか無いじゃない」 「戯言を・・・・・・ッ! 今だ、私ごと撃ち抜けッ!!」 男の絶叫と共に、残る三人の男がその武器をこちらに向ける。命すら削って無理矢理に高められた魔力は、膨大な密度の一撃をその前に生み出した。その様に、ミリアは静かに嘆きの声を上げる。 「何で気付かないのかしらね、あんたたちは・・・・・・」 ―――砲撃が、放たれる。凄絶な笑みを浮かべる眼前の男に、ミリアは小さく目を伏せた。そして―――囁くように、小さな声を上げる。 「――― ―――刹那、倍へと高まった風が男達と魔法を軽々と吹き飛ばした。 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた相手に止めを差そうともせず、ミリアは小さく肩を竦める。 「精々が人間程度の魔力。放出量上げた所で何とかなると思った訳?」 「が、ぐ・・・・・・何だ、その魔力は・・・・・・!」 「別に。ただ多すぎるから、自分の魔力を封印してたってだけの話よ」 事も無げに答えたミリアに、男が絶句する。その様子に再び嘆息し、ミリアは静かに棍を構えた。風が周囲に広がり、先ほどとは比べ物にならない領域を支配する。男達に最後の一撃を放とうと棍を振り上げ――― 「―――え?」 風の中、二つの異物がある事に気づいた。思わず、そちらの方へ振り返る。 「ユーノ・・・・・・!?」 振り向いた先にいたのは、小さな狐を連れた少年。思わず、胸中で舌打ちする。封印を解放したために魔力を掴まれたのか、それとも――― 「―――ッ!」 ―――刹那、悪寒が走った。自分は今、攻撃のために暴風の鎧を解いている。 (なら、あいつらは―――) すぐさま風を発生させつつ振り返る。敵は―――敵の攻撃は、既に眼前にまで迫っていた。 「く、うッ!」 身体を捩る。逆巻く風が砲撃の軌道をそらし、身体を掠めつつも後ろへと受け流す。残る二撃と刃の一撃を復活した風の鎧が弾き返し、ミリアは風を纏って一度後退した。 ―――そしてそれとほぼ同時、背後から聞こえた炸裂音に思わず身を竦める。 「え・・・・・・」 ぞくりと、背筋が粟立つ。自分の背後には、今ユーノがいた。ならば今のは――― 風を纏ったまま振り返る。視界に映ったのは、尻餅をつくように倒れたユーノと、その手前に血まみれになって倒れる一匹の狐。 (ユーノを、庇った・・・・・・?) 何故だかは知らないが、恐らくそうだ。そして――― (―――私の油断が、この子を殺した?) ぎちり、と何かが歪む。 そのまま、ミリアはゆっくりと敵の方へと向き直った。こちらへ向けて砲撃を放とうとした男が、天空より降り注いだ無数の風刃によって血煙と化す。 「な・・・・・・ッ!?」 抵抗すら叶わず絶命した仲間に動揺したのか、こちらに対する注意が一瞬消える。刹那―――ミリアの瞳が、一瞬だけ銀色に輝いた。 「《 詠唱術と呼ばれる、古代魔導族たちにのみ許されたはずの詠唱術式。その詠唱を、ミリアは完璧に無視した。本来より弱いながらも正確に顕現した無数の旋風が、視線を外した男二人を抉るように貫き、引き裂く。 あっという間に一人になった剣を持つ男に、一歩ずつ近寄りながらミリアは無表情に言い放った。 「やっぱり、中々癖は抜けないわね。人間相手だと、どうしてもセーブしちゃう」 風をまとうミリアの髪は、水中にいるかのように宙を舞う。幽鬼のような表情をその内に浮かべ、ミリアは眼前に立つ男の胸倉を掴み上げた。 「でも、言い訳はしない・・・・・・言い訳になんかなるはずない。アレは私の油断の所為だ。だけど、それでも―――私は、あんたを許さない」 男は反射的に剣を振り上げようとし、その腕が既に存在しない事に気が付いた。絶叫を上げようとして、その刹那に声帯を風の刃に切り裂かれる。 ―――恐怖と絶望の表情を浮かべる男にダークグリーンの瞳を向け、ただ淡々と言い放つ。 「消えろ」 従える風は、その言葉を正確に再現した。背後に固まっていた風の渦が男の身体を捕らえ、包み込んで砲弾のように撃ち出す。風の守りすらないままに、男の身体は音速を超える勢いで林の中に突っ込んでいった。生死など、確かめるまでもない。 しかし感傷に浸る間もなく、ミリアはすぐさま身を翻して倒れるユーノと子狐の傍に駆け寄った。治癒のエレメントを懐から取り出して、血まみれの小さな体躯を癒し始める。が――― (効き難い・・・・・・!) この世界での治癒魔導は、対象の魔力にエレメントと自分の魔力を干渉させ、生命力と変えて傷を癒す。しかし対象が極端に弱っている場合、魔力は傷へと回されてしまうため効き目が薄くなるのだ。 つまり―――この子狐は、既に手の打ちようが無い状態だった。 「・・・・・・・・・ッ!」 理屈では分かっている。だが、認められなかった。消える必要のない命が消えると言う事だけは、絶対に許せなかった。例えそれが自己満足であろうとも、言い訳じみた我がままであろうとも―――救われるべき命があるというこの信念だけは、絶対に。 「ミリアさん・・・・・・」 「何!? 無理とかそういう言葉は一切聞かないわよ!? そっちの力でこの子を助ける方法があるなら一から十まで全部言いなさいっ!」 その剣幕にユーノは驚いたようであったが、生憎今のミリアにはそれに気付くだけの余裕はなかった。魔力を封印し直す事も忘れ、過ちで傷つけてしまった子狐を癒そうとする。初めて見る焦った様子にユーノはしばし硬直していたようであったが、やがて何かを思いついたのか、首にかかっていた菱形の宝玉をこちらに手渡してきた。 「・・・・・・ユーノ?」 「フィー、起動して。魔力回路はミリアさんに接続。それから、僕が指定した術式をセットするんだ」 『え? あ、は、はい! Stand by ready, Set up.』 クレスフィードが輝きを放つと共に、ミリアの左腕に盾が、右腕にガントレットが現れる。唐突に現れたそれにミリアは驚き仰け反るが、お構いなしにユーノはクレスフィードに指示を飛ばしてゆく。そしてその指示が終わった瞬間、子狐の下に新緑色の魔法陣が現れた。 「ユーノ!? これ何!?」 「使い魔を生み出すための術式です。ここまで弱ってるとそのままで助ける事は無理です・・・・・・けど、この子を素体として使い魔に生まれ変わらせれば、何とか―――ただ、僕の魔力じゃ弱くて組み上げるまで行かないかもしれない。だけど、ミリアさんの魔力ならきっと十分なはずです」 『私に魔力を注ぎ込んで下さい! そうすれば、術式が起動します』 とりあえず、使い魔と言うのは良く分からなかったが―――この盾の姿となったクレスフィードに魔力を注ぎ込めば、この子狐は助かるらしい。とりあえずそれだけ理解したミリアは――― 「――― ―――何も考えず、全力で魔力を注ぎ込んでいた。 * * * * * 「くっくくく・・・・・・はっははははははっ! いやー、久々に大爆笑したわ。流石の俺でもここまでは読めなかったぞ、オイ」 騎士団に帰って来たミリアたちを出迎えたクラインは、開口一番にそんな事を言ってのけた。未だに笑いを堪え切れない様子の彼の前に立つのは、少し苦い表情のミリアと、苦笑交じりのユーノ、そして――― 「・・・・・・・・・?」 ―――金色の髪の一部をポニーテール風に束ねた、七、八歳ほどの少女だった。ミリアの横に立つ少女は、未だに大笑いしているクラインに向かって首を傾げている。 「あーもー・・・・・・笑うんじゃないわよ腹立つわね。しょうがないでしょ。使い魔ってのがこういう風になるなんて知らなかったんだから」 「いやまあ、僕の説明が少なかったのも悪いんですけどね」 オーバーヒートして自己修復状態になっているクレスフィードを手に、ユーノはそう苦笑する。 結論から言えば、術式は成功した。許容量を遥かに超える魔力にクレスフィードがオーバーヒートしてしまったが、その魔力は余す事無く子狐に注ぎ込まれていた。ただ、予想外だったのが――― 「『ヴァルピニス』・・・・・・位は高くないとは言え、山に属する魔獣の一種―――魔族だぞ? 古代魔導族になる訳でもなく魔族が人の姿を取るか・・・・・・いやまったく、お前の世界の魔法とやらは面白いもんだな、ユーノ」 「確かに、奇妙な魔力は感じてましたけど―――」 小さく、苦笑する。正直な所、使い魔を作った経験もない自分としては、形になってくれればいいとすら思っていたのだが―――大成功どころか、ここまで大量の魔力を持った使い魔は、今までに見た事がなかった。 「素体が持ってたポテンシャルに、ミリアの大量の魔力が作用したって所か? 法則のエラーで生まれた存在って訳じゃないだろうから固有能力は持たないだろ・・・・・・分類するなら、第三階梯が妥当か」 「・・・・・・第三階梯って言うか・・・・・・この子アレンどころか、レイヴァンより魔力あるわよ?」 笑いを納めたクラインは、しかし相変わらずにやりとした笑みを浮かべ、何やら思案しているようであった。と―――今まで沈黙を保っていた少女が、隣に立つミリアの手を小さく引いているのが視界に映る。 「・・・・・・母様」 「あ、何?」 その呼ばれ方がこそばゆいのか、少し照れたような笑みでミリアが答える。それに対し少女は少し無表情に、と言うよりは目蓋が若干下りた半眼の状態でミリアを見上げ、声を上げる。 「私の、名前」 「あ、名前ね。うん、考えといたわよ―――貴方の名前は、シルフィス」 ―――かつて風に属する精霊を束ねたとされる伝説の魔導師。ユーノはそれを知らなかったが、ミリアの使い魔である彼女には適した名だ、と直感的に感じていた。 しかし相変わらず、クラインはにやりとした笑みを浮かべたまま――― 「シルフィス=S=セーズってか? 既成事実とは中々やるなぁ、ミリア」 「ぶっ!?」 「・・・・・・ファミリーネーム・・・・・・? ・・・・・・・・・それがいい」 「ちょっ!?」 ―――とりあえず、人をからかう事を優先していた。 ミリアがこんなにも真っ赤になって慌てている姿は初めてで、ユーノにしてみれば少々新鮮だったが。 「いいじゃねぇか。どうせその内そうなるんだろ?」 「そっ、それは・・・・・・!」 「ほれシルフィス、お前の父様の写真だぞ」 「余計な事してんじゃないわよ―――――ッ!!」 クラインが差し出した写真を風の刃で粉々に切り裂き、ミリアが《風律棍》を片手に暴れ始める。シルフィスの背を押して退避しながら、ユーノは深々と嘆息を漏らしていた。 * * * * * L級次元航行艦、『イーヴァルディ』。 次元の海を巡回していたその船は、一つの救難信号を受信していた。 「艦長、近隣の次元世界より、救難信号が発信されています」 「世界の特定は?」 「現在実行中です」 モニターに検索中の文字が流れる。そして――― 「検索結果が出ました。どうやら、初めて観測される世界のようです・・・・・・いや、少々お待ちください」 「どうした?」 「いえ・・・・・・どうやら、この世界は捜索指定を受けているようです。世界の名前は・・・・・・クリスフォード。捜索申請者はリンディ・ハラオウン提督です」 「あのハラオウン提督が・・・・・・?」 自らのモニターにもその資料を映し出し、イーヴァルディ艦長は小さく首をかしげた。一体何ゆえに、かの奇跡の提督たるリンディ・ハラオウンが世界の捜索などを行っているのか。気にはなったが、ここでその理由を調べる事もできない。 「・・・・・・一度帰還する。流石に、未発見の世界に無断で干渉を掛ける訳には行かない」 「はっ!」 頷いたオペレーターに彼もまた頷き、深く椅子にその身を沈めた。 「何が、起きようとしている―――?」 ―――そう、小さく疑問を口にしながら。 あとがき? 「知らない間に父親になってんな、アレン・・・・・・ぶふっ」 「笑ってんじゃねえよクソ師匠・・・・・・つか、何やってんだあいつらは・・・・・・」 「まぁ、いいんじゃねえのか? ミリアもそろそろまた魔力の分割が必要になってくる頃だったしな。魔力を喰う使い魔の存在はあいつにとっても有益だろ」 「まあ、確かにそうなんだが・・・・・・使い魔って奴は、皆が皆作り出した相手を親と認識するってのか?」 「そういう訳でもないだろ。アルフとかは違うしな」 「だったら何でウチのはああなってるんだよ?」 「使い魔の素体自体の年齢や主人の年齢じゃないか? リーゼロッテ、リーゼアリアの二人は作り出した主人を父と呼んでるみたいだしな」 「誰だよ、そいつらは?」 「ああ、お前は会わないだろうがな」 「・・・・・・・・・まあいい。呼び名ぐらいなら別にいいんだが・・・・・・俺が帰ってくるまでに、絶対に何かしらの騒動が起きてるよな、これは」 「だろうな」 「・・・・・・あー、クソ。帰りたくなくなってきたぞ畜生め」 「ガキの見た目年齢からしてお前が鬼畜ロリコン扱いされるだけだから大丈夫だろ」 「誰がだっ!? つーか、そんな前の時じゃそもそもミリアと会ってねえだろうが!」 「いやまあ、俺が噂広める訳でもないし」 「だあああああああああッ!? 畜生、こういう時に限って明確な標的がいない!?」 「ま、ロリコンとシスコンは広まってんだから今更気にする事でもないんじゃねえの?」 「ロリコンじゃねえって言ってんだろうがクソ師匠が!」 「相変わらずシスコンは否定しないのな・・・・・・さてと、そんじゃこの辺で。また次回」 |