注意1:この話は、十字架の騎士とは一切関係ありません。
注意2:この話は、『ムシウタ』の設定を基に話が作られています。

ライトノベルが嫌い、ムシウタが嫌い、という方はこのままお戻りください。ちなみに、ムシウタの原作キャラは一切出てきませんので、ご注意を。

知らなくてもいいから見てやるぜ、という方は、このままどうぞお進みください。



























「君の『夢』は、何?」

久しぶりに故郷に帰ったとき、友人から聞かれた言葉はそれだった。




紡ぐ守護者




「何だか、しばらく時間が経っちゃったな」

ミッドチルダの地上に立ち、ユーノ・スクライアはそう呟いた。しばらく日の光を浴びずに生きてきた身としては、少々日差しが強い。

「・・・・・・我ながら、不健康な毎日を送ってるなぁ」

苦笑交じりに自分の生活を思い出し、止めた。非常に虚しくなってくる。
友人である八神はやてが機動六課を設立してしばらく。アグスタでの一件を含めなければ、ユーノはほとんど機動六課との交流が存在していなかった。

「翠屋のお菓子買ってきたけど・・・・・・足りるかな」

とりあえず、か細い腕力で持てる限界量のシュークリームである。しばらく顔を出さなかった罪はこれで免罪してもらおうと、ユーノはあらかじめ許可を取っておいた転移魔法を発動させた。
視界がぶれ、目の前に巨大な隊舎が現れる。上手くいったそれに満足し、ユーノはその扉を潜った。受付に行き、声をかける。

「済みません、アポの確認お願いします」
「では、お名前と所属をお願いします」
「無限書庫司書長、ユーノ・スクライアです」

言われた通りに返し、数秒間待つ―――しかし、その答えが帰ってくる前に別の声が響いてきた。

「ユーノさーん!」
「―――リイン」

飛んできたのは、小さな部隊制服に身を固めたリインフォースUだった。製作を手伝った身としては、元気そうで何よりである。

「お久しぶりですー♪」
「うん、久しぶり。元気だった?」
「リインはいつも元気いっぱいですよ!」

胸を張って言うリインに満足して、ユーノは手に持った袋を掲げた。

「はい、お土産だよ。翠屋のシュークリーム」
「わぁ! ありがとうございます〜。お昼の後のおやつに皆で食べますね。ところで、ユーノさんはどういったご用件ですか?」
「今日は休みが取れたからね。たまには顔出しに来たのさ」

無限書庫がてんてこ舞いなのは今も変わらないだろうが―――主に某提督のせいで。最近無限書庫の蔵書の中に『呪殺の方法百選』などという本が増えていたが―――興味を惹かれてしまったのは秘密である。

「もうすぐお昼ですから、皆食堂に戻ってくるですよ」
「そっか。じゃあ、そっちで待ってようかな」

ィイン・・・・・・

「あれ?」

食堂まで案内しようと身を翻したリインが、突然首を傾げる。

「ユーノさん、何か綺麗な音がしませんでした?」
「え? 気のせいじゃないかな?」
「そうですか・・・・・・」

何やら残念そうに呟くリインに、ユーノは小さく苦笑を漏らしていた。


 * * * * *


ぐったりと、あるいはふらふらとした足取りで、六課フォワードメンバーたちはのろのろと食堂に向かっていた。

「きょ、今日はまた・・・・・・いちだんと厳しかったですね・・・・・・」
「なのはさん、何か張り切ってたからね・・・・・・」

ぐったりとしながら呻くエリオとスバルに、嘆息しつつもティアナは内心同意していた。我らが教導官である高町なのはの今日の張り切り具合は、はっきり言って異常だったのだ。
何で浮かれているのか聞いて欲しそうだったが、聞けなかった。余計に浮かれそうで。

「ま、とりあえずご飯食べて体力回復するわよ・・・・・・午後もあの調子だったら、全力で休まないと持たないわ」
「りょ、了解です・・・・・・」

同意を返したキャロに頷き、食堂の扉を潜る。と―――そこに、小さな上司の声がかかった。

「皆、こっちですよー」
「あ、はい」

初めて見た時は使い魔か何かと思ったが、実はそれよりも遥かに貴重な古代ベルカの技術―――ユニゾンデバイスである空曹長。単独でも魔法を使えると言うのだから、つくづく規格外な人物だと思う。
そんな事を考えながら呼ばれた席に向かい―――そこに見慣れない人物が座っていた事に、ティアナは首を傾げた。

「や、エリオ、キャロ」
「あ! お久しぶりですユーノ先生!」
「アルフも元気ですか?」
「もちろんね」

柔和な笑みを浮かべるメガネの人物に懐いているチビッ子二人組―――その二人に彼が誰なのかを訪ねようとした瞬間、その本人が先手を打ってきた。

「スバルとティアナだね。なのはから話は聞いてるよ・・・・・・二人とも、優秀な生徒だって」
「いや、そんな・・・・・・」
「なのはさんのお知り合いですか?」
「うん、幼馴染だね」

スバルの問いに笑顔で答えるメガネの人物。その彼の頭の上に着地したリインが、嬉しそうな声音で声を上げた。

「こちら、無限書庫司書長のユーノさんです。とっても偉いんですよ」
「いや、そんな大層な身分じゃないって」
「無限書庫、司書長・・・・・・って、提督クラスじゃないですか! 十分大層ですよ!」
「ああ、まあ・・・そうらしいね」

そうらしいね、って・・・・・・
そう半眼を向けるティアナに、ユーノは苦笑を返した。

「僕が権力を使う相手なんて、同じく権力を使ってくる相手だけだよ。権力とか地位とか、あんまり興味無いし」

あっさりと言い放つユーノに絶句し―――言うべき事が見つけられず、ティアナは小さく頭を抱えて席に着いた。およそ理解しがたい思考回路である。

「ユーノさんがなのはさんのご実家のお菓子屋さんでシュークリームかって来てくれたので、後で皆で食べましょうね」
「翠屋さんの!? 食べます食べます!」

以前地球に行った時に、すっかり餌付けされたパートナーに苦笑する。あそこのお菓子が美味しいのは事実なので、ティアナとしても一切不満は無いが。甘いものは疲れも取れるし。


 * * * * *


「ちょっと遅くなっちゃったかな・・・・・・」

六課の隊舎へと戻りながら、フィールドのメンテナンスをしていたなのははそう呟いた。心持ち駆け足で戻りつつ、小さく唇を尖らせる。

「ユーノ君、もう来てるかな・・・・・・うぅ、最近全然会えないのに・・・・・・」

溜め息混じりに呟き、さらに歩く速度を速める。周囲には秘密(のつもり。なのは的には)の関係だが、その実プライベートはさっぱり予定が合わない。そればっかりは拗ねてお願いしても通らない管理局の―――いや、世界の不条理。主観的にそう決め付けて、なのはは頷いた。
―――要は、バカップルをやっている訳である。

「私も休みが取れればよかったんだけどなぁ・・・・・・」

流石に、六課が軌道に乗り始める前の段階ではそうも言っていられない。しばらくは丸一日のデートもお預けのようである。

「ううううう・・・・・・・・・よし」

今日一日、可能な限り甘えてしまおう―――少しダメな事を心に決めつつ、なのはは六課の入り口を潜った。
―――刹那。

大音量で、アラートが鳴り響いた。

「ええええええええっ!?」

あんまりと言えばあんまりなタイミングに、なのはは思わず悲鳴交じりの声を上げていた。だがそんななのはの内心など関せずに、事態はさらに進んでゆく。

『―――市街地にガジェット反応! 数が多いです! フォワード隊と隊長陣は出撃準備をお願いします!』
「・・・・・・・・・ふふ」

俯いて前髪に隠れた目が、ギラリと危険な光を帯びる。半月の笑みが張り付いた口元からは不気味な笑い声が漏れ始めていた。

「ふふ、ふふふふふふふ・・・・・・・・・いい度胸なの」

桜色の輝きが、なのはの姿を包み込む―――次の瞬間、そこには修羅と化した一人の魔導師が立っていた。まあ、故事にもある事である。
曰く―――人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ、と。

「スターズ1、高町なのは! 行きますッ!!」

もう扉の外に出る時間も待てないと、なのははそのまま扉をぶち破って市街地へと飛び去っていった。





「・・・・・・・・・」

人気の無くなった六課の前で、なのはの飛び去った方向へ視線を向けながら、ユーノは小さく嘆息した。

「全く、ついてないね・・・・・・」

せっかくの休みで遊びに来ればこれである。日頃の行いは悪いつもりは無いのだが―――

「これも力を求めた代償って奴かい?」

ィイン・・・・・・
己の肩の上に乗った体長五センチほどの、翡翠色のエンマコオロギに声をかける。無論答えは返ってくるはずも無く、ただ涼やかな音を響かせるだけである。それでも、ユーノはそれに向かって小さく笑みを浮かべた。

「分かってるよ・・・・・・代償は『夢』だけだ」


―――君の『夢』は、何?―――


故郷の親友―――いや、親友だった人物に尋ねられた言葉。彼の記憶の中には、自分の事はもう何一つ残っていない。

「なら、これは罰か・・・・・・」

自分の事を忘れてしまった親友―――彼に対し、ユーノは笑みを浮かべた。そこにあるのは悲しみでも寂しさでも無く―――覚悟。

「僕の『夢』、か・・・・・・そんなの、言うまでもないよ」

ユーノの体から、翡翠の光が爆ぜる。バリアジャケットを纏うユーノは、懐から一本のサバイバルナイフを抜き放った。そこに、肩に乗っていたエンマコオロギが留まる。

―――爆ぜた。

エンマコオロギは触手と化してナイフに同化し、さらにナイフから伸びた触手がユーノの肌を突き破る。体の内側を引っかかれるような鈍痛と不快感に顔をしかめるが、ユーノはそれを黙殺した。伸びた触手はユーノの肌を伝い、全身に翡翠色の紋様を輝かせる。

「僕の『夢』は―――」

ふわりと、体が浮き上がる。四枚の翅の生えた翠の刃を手に、ユーノはなのはの背中を追うように市街地へと飛び去って行った。


 * * * * *


「はああああああああああッ!!」

リボルバーナックルでの攻撃が、小型ガジェットの中心を捉える。一瞬の近郊も無く、ガジェットのボディが大破し、爆発した。

「スバル左っ!」
「うん!」

パートナーの声に従いマッハキャリバーを動かす。スバルを狙ってきた光線は、全てティアナの援護射撃に阻まれた。敵の数は直線上に六―――即座に、カートリッジをロードする。

「リボルバァァァ・・・・・・シュゥゥゥトッ!!」

放たれた一撃は四体のガジェットを破壊するが、残る二体はAMFによって受けきったようだ。だが、その魔力流に捉えられ、抜け出せずにいる。拳を握り締め、交錯ざまにスバルは拳を叩き込んだ。
爆ぜて落ちたがジェットを尻目に、視線を廻らせる。視界の端に新たなガジェットを発見―――した瞬間、敵はエリオの槍によって貫かれていた。

「よし、後は―――ッ!!」

頭上に落ちた影に、スバルは咄嗟にその場から身を投げ出していた。攻撃を躱し見上げれば、巨大な球体の形を取るがジェットが―――十体。

「ちょ、ちょっとぉ!?」

思わず悲鳴を上げる。あれは二人で挑んでようやく倒せるものなのだ。どういう訳で自分達の所などに、こんな大量のガジェットが現れるというのか。
だが、事態の悪化はそれだけに終わらなかった。十機全体がAMFを発動させたのだ。魔導師がAMFの領域に引き込まれれば―――打つ手は、無い。

「スバルさんッ!!」

キャロの声に、はっと我に返る。だが、既に帯のようなガジェットのアームは眼前まで迫っていた。

「まず―――ッ!!」

防御などする間もなく、そもそも防御をする方法もない。スローモーションに動く視界の中、スバルは咄嗟に目を閉じた。

―――ィイン・・・・・・

聞こえたのは、そんな音だった。いつまで経っても来ない衝撃に、恐る恐る目を開ける。

―――そこに、波紋があった。
空間に走る波が、ガジェットの攻撃を受け止めている。

「これ・・・・・・」
「大丈夫?」

降ってきた声に、視線を上げる。そこにいたのは他でもない、先ほど食事を共にした司書長だった。AMFで飛行魔法も維持できないはずの空間で、あっさりと空中に浮かび上がっている。よく見てみれば、彼の足元にも自分の前に在るのと同じ波紋が広がっていた。

「時間が無いけど・・・・・・片付ける!」

そう叫び、ユーノは最も近くにいたがジェットに拳を叩き付けた。瞬間、まるで自動車同士が正面衝突したような音と共に、何もつけていないその腕がガジェットの中に埋まる。彼はその手を、中にあるものを掴んで抜いた。引き千切られた部品と共に、ガジェットの体が四散する。
途端にガジェットたちはユーノを危険と見たか、そちらへと矛先を変えた。伸びたアームが、ユーノに叩き付けられる。が―――

「甘いッ!」

ガジェットのアームを、ユーノは片手で受け止めて見せた。さらに彼はそれを掴み、思い切り振り下ろす。地面に叩きつけられ、半分ほど埋まったがジェットはその場で動きを止めた。
そして、右手のナイフを構える。

ィィィィイイイイイ・・・・・・

擦り合わされる二対の翅。高まる音と共に、ユーノはナイフを振り切った。

―――ィィンッ!

刃から放たれたのは、音波―――振動波による斬撃。その攻撃は、地面に埋まったガジェットをその地面ごと真っ二つに切り裂いた。それを確認もせずに跳躍、ガジェットの上に飛び乗ってそのボディにナイフを突き刺す。
放たれた振動波が、そのガジェットを内部から粉々に打ち砕いた。

「皆、耳塞いで!」
「え、え?」

唐突に声をかけられ、混乱するが―――スバルは他の三人が既に両手で耳を押さえているのを見て、あわてて自分もそれに倣う。それを確認したユーノは、小さく笑んでナイフを掲げた。

「・・・・・・行くよ」

返事の代わりに、エンマコオロギはナイフから生えた翅を再び震わせ始めた。

ィィィィィィィィイイイイイイイイィィィイイイイイイ・・・・・・!!

びりびりと空気が震え、波紋が広がる。ガジェットから放たれた光線やアームは、ユーノに届く事無く波紋に遮られた。その間も音は高まり、空気の振動は肌で感じられるまでに高まる。

「―――行けッ!!」

―――――!!!

可聴域を超え無差別に放たれた振動波は、AMFを展開するガジェットの身体を容赦なく粉砕し、爆砕させた。余波でガラスも割れたが―――まあ、それは気にしない事にする。
近くにガジェットがいない事を確認したユーノは、下にいたフォワードメンバー達に向かって声を上げた。

「僕は行くから、後は任せたよ!」

耳を塞いでいるため聞こえないような気もしたが、それはともかく。AMFから開放されたユーノは、飛行魔法を駆使して先を急いだ。目指す先は、なのはが向かった海上地区。

「急がないと・・・・・・!」

無論、自分がいなければ勝てないほどなのはは弱くない。自分は足手まといにしかならないかもしれない。けれど、それでも―――

「『夢』を、忘れたくない」

“虫”の糧である『夢』を忘れないために。『夢』を忘れて、“虫”に喰い潰されないために。そのために、戦わなくてはならない。

「『夢』を忘れないために戦って、戦うために『夢』を喰らう・・・・・・皮肉なもんだね」

肩を竦め、嘆息する。それは矛盾であり、ある意味正しい螺旋。“虫憑き”となってしまった自分が、願う未来へと生きてゆくための循環炉。その炉へと、ユーノは再び火を灯す。
戦う事は、虫憑きの宿命なのだから。

「・・・・・・・・・っ!!」

なのはの姿を発見したユーノは、思わず喉に詰まった悲鳴を上げていた。腕をガジェットの触手に絡め取られたなのはが、海面へと落下して行っているのだ。恐らくAMFの中に閉じ込められているのだろう。体が浮き上がる気配はない。

「なのはッ!!」

飛行魔法に増幅した魔力を注ぎ込む。加速した身体で飛び込むようになのはの元へと駆け―――受け止めた。そのまま片方の手で、なのはを捕らえている小型がジェットを掴む。頬まで浮かんだ翡翠の紋様が輝き―――ガジェットは、ユーノの手に握り潰された。
ほっと息を吐いた所に、呆然とした様子のなのはの声が響いた。

「ユー、ノ・・・・・・くん?」
「うん・・・大丈夫、なのは?」

“虫”によって強化されたユーノの腕は、一切の不安感なくなのはの身体を受け止めている。だがそれにも気付かず、なのははただ茫然自失としてユーノの姿を見上げていた。

「ユーノ君・・・・・・それ、何?」
「ああ、これ? ちょっとね・・・・・・“虫”に取り憑かれちゃって」

四枚の翅の生えたナイフを掲げ、ユーノは小さく苦笑する。気持ち悪いと思われてしまうかもしれない―――例えそうだとしても、自分の『夢』は変わらないが。

ィイン・・・・・・

エンマコオロギが涼やかな音を鳴らす。どうやら警告だったらしい。鳴らした音によって発生した波紋が、飛行型ガジェットの攻撃を受け止めていた。

「っ・・・・・・なのは、飛べる?」
「あ、う、うん」

危なげなくアクセルフィンを生成し、なのはが自分の隣に浮かぶ。そちらに一度視線を向けてから、ユーノはナイフを掲げた。宿主の意思に答え、エンマコオロギは翅を擦り合わせ始める。

ィィィィィィィィィィィ・・・・・・

「ねえ、ユーノ君・・・・・・」
「ゴメン、この力についての説明は後でするから―――」
「それもあるんだけど・・・・・・もう一つ聞きたいの」

ィィィィィイイイイイイ・・・・・・

翅の音は徐々に高まり、周りの波紋も少しずつ大きくなってゆく。その中でなのはは、ひとつの疑問を口にした。

「何で、来てくれたの?」
「それは・・・・・・『夢』のため、だね」
「『夢』?」

イイイイィィィイイイイ・・・・・・

震える音叉を水面につけるように、波紋と音はさらに大きく広がる。敵の攻撃も届かず、ただ力だけが一箇所に集中してゆく。

「『夢』を忘れなければ、僕は僕でいられる。ここにいるから僕は『夢』を忘れず、『夢』の通りにいられるんだ」
「じゃあ・・・・・・ユーノ君の『夢』って、何なの?」

イイイイイイイイイイイ・・・・・・!!

力はまるで水が一杯に溜まった水風船のように。開放されるのか、あるいは弾けるのか―――その時を待っている。その中で、ユーノはなのはに向けて淡く笑みを浮かべた。

「僕の『夢』は―――」

イイイイイイイイイイイイインンン!!!

―――次の瞬間、開放された荒れ狂う振動波は、辺りのガジェットを粉々に消滅させていた。


 * * * * *


「なるほど・・・・・・虫憑き、か・・・・・・」

機動六課の会議室、はやての前に座ったユーノはその言葉に頷いた。無限書庫にも資料は少ない、希少な異能者―――“虫”に取り憑かれ、その“虫”を使役して戦う存在。
指の上のエンマコオロギを見つめながら、ユーノは小さく苦笑した。

「この間里帰りしたら、どういう訳だか虫憑きにされちゃってね」

無限書庫で調べて分かったのは、虫憑きには三つの種類があるという事―――それと、“虫”は『夢』喰らうという事だった。

「分離型と特殊型・・・・・・それと、同化型。僕のは、この同化型らしいね」
「前例とかは?」
「他の二つはともかく、同化型はほとんど無い。ただ共通して言える事は・・・・・・“虫”は宿主の『夢』を餌にしているという事、それと、“虫”を殺されると宿主は廃人同然になってしまうと言う事だ」

ユーノの説明を聞き、機動六課隊長三人が息を飲む―――最初に気を取り直したのははやてだった。

「そか・・・・・・そんなら、今度から殺虫剤は使えんな」
「あはは・・・・・・まあ、大丈夫だよ。同化型の“虫”を殺すのは難しいし」

何せ、武器と身体に同化しているのだ。“虫”本体で戦う分離型や特殊型のほどには戦うリスクは大きくない。どの道虫憑きに危険が伴う事には変わりないが―――

「大丈夫なの、ユーノ?」
「大丈夫さ・・・・・・新人達には、試作デバイスの実験とでも説明しといて」
「ユニゾンデバイスみたいだね、あれだと」

苦笑するなのはに、ユーノもまた苦笑する。エンマコオロギはそれと同時に飛び去り―――どこかへと消えた。それを見送り―――はやてが、にやりとした笑みを浮かべる。

「ほんなら、ユーノ君の『夢』て何なんや?」
「聞くと思った」

苦笑する。何が何でも聞き出そうとする姿勢に身構え、ユーノはエンマコオロギを呼ぼうかどうか逡巡した。その中で、ちらりとなのはに視線を向ける。
―――視線に気付くと、なのはは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

「でも、秘密だよ。だって―――」

その先の言葉は飲み込む。はやてとフェイトの腕から逃れながら、ユーノは胸中で呟いた。

―――僕の『夢』は、なのはを護って戦い続ける事なんだから―――







あとがき?



「十字架の騎士ではないが、出張あとがきでクライン=ゲイツマンがやってきたぞ。本日のゲストは虫憑きユーノだ」

「いや、ゲストって言うか・・・・・・僕主役ですよね?」

「まー、そー言う細かい事は気にするな。さて、今回のコンセプトだが―――突発的に書いてみたくなった、らしい」

「突発的って・・・・・・何でこんな脈絡も無いもの組み合わせたんですか?」

「喋り方がクロスと変わらんから分かりにくいぞ? まあそれはともかく。最近、ムシウタがアニメでやってるよな」

「ええ、まあ・・・・・・そうですね」

「作者の奴、しばらくザ・スニの本誌を買ってたんで、ムシウタbugはいくらか読んでる訳だ」

「はい」

「んでまぁ、少々気になったらしく、アニメを見てみたらしい」

「なるほど・・・・・・」

「それで、OPが個人的に十字架本編内のクロスやらお前やらに雰囲気が合ってたらしく、気付いた時にはこれのネタが思いついてたらしい。オチは無いぞ。引っかかったな」

「いや別にオチなんて期待してないですけど・・・・・・書いた理由は分かりましたけど、何で同化型にしたんですか?」

「うむ、ムシウタbugの方は主人公が両方とも同化型だからな」

「それだけですか?」

「いや、分離型だと流石に書いてて何だかなぁと言う感じになるし」

「何だかなぁ・・・・・・?」

「特殊型の方は媒体にする物を考えるのが面倒だし」

「いや、別にそんな変わった物にしなくても・・・・・・」

「それにまぁ、キャラが直接戦闘するとなると、やっぱ同化型が一番書きやすいらしい」

「あー・・・・・・まあ、それは確かに」

「どれくらいのもんかは分からんが、結果的には火種三号程度の実力だったんじゃないか?」

「そんなに高かったですか?」

「振動波による攻撃と防御と空間攻撃。まぁ、流石に“かっこう”やら“ハンター”には勝てんだろうがな。ちなみに作者の奴は“霞王”が好きらしい」

「個性的なキャラが多いですけど」

「我が家のオリキャラの中でもトップレベルにキャラが濃い奴(一日平均睡眠十六時間とか)よりも余裕でキャラ濃いのが何人もいるからな」

「それもそれで目立ってると思いますけど」

「うむ。さてこの話だが、あくまで短編なので・・・・・・続編は期待するべからずだ。つーか、話を広げるの無理」

「いきなり投げ出さんでも・・・・・・」

「そこまで設定を知り尽くしてる訳じゃないからな。それにまぁ、連載を二つも抱えるのは流石に無理だ。期待なら十字架の方でするように」

「あはは・・・・・・」

「とゆー訳だ。次に会うのは十字架のあとがきだな。では、さらばだ」






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