『二つの《混沌》』 ―――クライン=ゲイツマンが唐突に現れたその姿を見たのは、己の執務室での事だった。 「おや、随分と珍しい来客だな」 「その割には驚いた様子じゃないな、蒼き隼」 そう言って、その白い『旅人』は小さく笑う。互いに一つも変わっていないその姿に苦笑し、クラインはにやりと笑みを浮かべた。今いる執務室は一種の結界に包まれ、何者にも干渉できない。それならば、込み入った話も出来る。 「ま、あれだ。再開でも祝って酒でも開けるか」 「酒を飲む機会が欲しいだけじゃないのかな、君は。それにそもそも、この私の身体は十八歳のうら若き乙女なんだが」 「時間の干渉を受けない奴が何言ってやがる」 小さく笑い、クラインはグラスを投げ渡した。何だかんだ言ってそれを受け取る彼女に笑み、年代物のワインを取り出す。注がれたそれを受け取り、白い少女は満足そうに笑む。 「どうやってこんな上物をちょろまかしたかは知らないが、ありがたく頂こう」 「おう、しっかり感謝しとけ」 涼やかな音でグラスを合わせ、互いにそれを口元に運んだ。香りと味に満足しつつ、クラインはその少女へ視線を向ける。 「さてと、今回はどう言った訪問だ? 何かあるんでも無ければ、直接俺の部屋には飛んでこないだろ」 「ふむ、別段重要な用事と言う訳でもないのだがな・・・・・・君の所には、確かオルディファリスの後継者がいたな」 「ああ・・・・・・で、それがどうした?」 黒ずくめの魔剣使いの姿を思い浮かべ、クラインは頷く。その反応に、彼女は悪戯っぽい、そしてどこか満足気な笑みを浮かべた。 「―――では、それに類する能力を持つ者を見つけた、と言ったらどうする?」 「―――! マジか?」 「驚いた事に、マジだ」 ―――第一階梯古代魔導族、『混沌の魔女』オルディファリス。そしてその彼女が命の全てを使って作り出した魔剣、混沌眼《オルディファリス》。至上の魔剣と言っていいそれは、現在一人の男の手で操られていた。 《オルディファリス》の能力は、その名の通り『混沌』と呼ばれる存在に干渉する事。限定的ながら『混沌』を招聘し、意のままに操る事を可能とする。非常に強力で、どこまでも危険な能力だ。 「・・・・・・別世界とはいえ、あんな危険なモンがこの世に二人以上いたとはな」 「私も驚いたさ。あるはずのない事だからな、普通は」 『混沌』は、世界の根幹に根ざすものゆえに、人間が操るには手に余るものだ。それに特化した魔剣でさえ破壊という限定的な行為にしか用いられないのだから、その存在の強大さが窺える。口元に拳を当て、ふむ、とクラインは小さく呟いた。 ―――そして。 「・・・・・・クク、どうやら随分と楽しい暇潰しが出来そうだな」 「ほう、そうなのか?」 「ああ、お前にも協力してもらおう。場所はどうなんだ? お前じゃないと行けない所か?」 どうやら、別次元というのにも大きな括りがあるらしい。自分の力では、その括りの中でしか移動は出来ないが―――この『旅人』は、それを可能とする能力を持っていた。 「ああ、その通りだ。私もそれなりに興味がある事なのでな、協力させてもらうよ」 「そうかい。そいつは面白くなりそうだ。そんじゃ、まずは手始めに―――『斥候』でも送っておくかね」 そう言うクラインの顔には―――知る者が見たら即座に逃げ出すであろう、悪戯好きな表情が浮かんでいた。 * * * * * 「・・・・・・・・・・・・何これ?」 呆然と、クローセスはそう声を上げていた。視界に広がるのは場所もよく分からない遺跡群。無論、今まで見た事も無い。半ば現実逃避気味に虚空を見上げ、クローセスは呟いた。 「えーっと、何だっけ。こういう時は・・・・・・素数を数える、じゃなくて」 とりあえず、状況の整理を始める。自分は確か、先ほどまで時空管理局の本局でフェイトと共に食事を取っていたはずだ。その時、何故か背後から声が聞こえて―――そうだ、あの声は何と言っていた? 「えーと・・・・・・クリア、あの時の声覚えてる?」 『・・・・・・『上等な物を食べているな少年。だからと言う訳ではない事もないが、ちょっと付き合え』でした』 「・・・・・・・・・なんか微妙に八つ当たりっぽく聞こえるんだけど」 『間違いないでしょう』 しかも、声にも聞き覚えがある。しかし、周囲のその姿は見当たらない。しれっと言ってのけるデバイスに、クローセスは再び現実逃避気味に虚空を見上げた。薄い雲がかかっている空は、どこまでも蒼く遠い。 「・・・・・・ほら、現実を見ないといい大人になれないわよ?」 「ルヴィリス・・・・・・僕は本当に大人になれるんだろうか・・・・・・何か成長する度にクラインさんの陰謀に巻き込まれたりするんじゃないかなあはははは」 「あー、ダメねこれは」 やれやれと肩を竦めるルヴィリスにも動じず、クローセスはただ虚ろな笑みを浮かべていた。が――― 『おふざけもそろそろ止めておきなさい、クロス。魔力反応です』 「・・・・・・! 仕方ない、か」 嘆息と共に笑いを引っ込め、クローセスは即座に魔力と気配を消し去った。ルヴィリスも短剣の中に戻し、岩の陰からそちらを探る。 ―――そしてその姿を見た途端、クローセスは思わず隠蔽を崩しそうになっていた。 (―――フェイトッ!?) 見覚えのある金髪の少女―――しかし、自分が知っている少女とは決定的に違う点があった。 (成長、してる・・・・・・? どういう事だ?) 自分が知っているフェイトはまだ十歳だ。だが、あそこにいるフェイトは明らかにそれ以上―――下手をすれば、自分より身長が高いかもしれない。 『・・・・・・クリア、他には?』 『検索します・・・・・・高町なのはの存在を確認。しかし、彼女と同じように年齢が一致しません。それと、もう一人・・・・・・とにかく巨大な魔力を秘めた存在がいます』 クリアスゼロは常に己の基準で喋る―――つまり、古代魔導族の規格でも巨大と言わざるをえないような術者がいると言う事か。 (冗談じゃない・・・・・・状況が掴めないってのに) 何が何でもその人物だけは確認せねばならないだろう。息を殺し、気配を殺し―――クローセスはその場から離れた。目指すのは、強力な魔力を秘めたその人物の所。 ―――感覚の先にある『人間の』魔力へ向け、クローセスは一直線に駆け抜けていった。 * * * * * 木々の間から日差しの差し込んでくる森の中。一人の男が、木の幹に背を預けながらその閉鎖された空を見上げていた。 黒いシャツ、ズボン、ロングコート。漆黒の髪は前髪部分が伸び、その顔の左半分を覆い隠している。左手に携えられた刃の柄は黒曜石のごとき光沢を持ち―――その中心にはめられた闇色の宝玉は、獣の瞳のような容貌を見せる。そして―――暗闇を纏うその中で、その刃と瞳だけが、銀月のごとく美しい銀色だった。 「・・・・・・・・・」 辺りに散らばるのは、無数の人間だったモノ。全身に血を浴びても色を変える事無く、男―――レイヴァン=クラウディアはその疲労した身体を静かに休めていた。 「・・・・・・くだらん」 ポツリ、と呟く。 「貴様らでは・・・・・・俺の目的に届かん」 小さな独白は森の空気の中に消える。この人間達を殺したのも、己の目的のため―――いや、目的を果たすために結んだ契約のため。しかしそれでも―――静かな焦りが、レイヴァンの中に存在していた。 「クライン=ゲイツマン・・・・・・・・・」 あの男は本当に、契約を果たすつもりがあるのか―――そう考えかけて、やめた。少なくとも、あの騎士団と言う組織は自分の目的に最も近い場所だ。今この世に残る第一階梯の力が全て集まった場所―――今のこの場所以上に条件を満たす場所など、自分は知らない。 だが、それでも――― 「あの場所はどこに、ある・・・・・・」 ―――静かな苛立ちと共に、その声は発せられていた。 と――― 「・・・・・・ふむ、では君の目的に近いかもしれない存在を教えようか、少年」 「―――!」 自らが背を預ける幹の裏側―――そこから聞こえた声に向かって、レイヴァンは魔剣を薙ぎ払った。吹き上がった魔力が巨木を両断し、斬り倒すが―――その先にいる白い少女の姿は、一切揺らいでいない。 「・・・・・・貴様は」 「会うのは初めてだが、オルディファリスから知識を与えられたかな? それだったら話は早いのだが」 ―――知ってはいる。実際に会うのは初めてだが、この存在の事は知識として持っていた。 「・・・・・・『旅人』か。どういう事だ」 「いやなに、君の目的を知ったものでね。一つ有力かもしれない話があるが・・・・・・乗るかな?」 「話せ」 躊躇している暇は無い。目的のためならば手段を選ぶつもりはないのだ。レイヴァンのその言葉に、白い少女は小さく笑みを浮かべていた。 「私の存在は知っている・・・・・・ならば話は早い。率直に言おう。私は『旅先』で、君と同種の能力を持った人物を見つけた」 「―――っ!」 「能力の度合い、方向性は知らないが・・・・・・もしも君以上の使い手ならば、君の目的のものにも接触できるのでは?」 確実性は無い、眉唾な話ではあるが――― 「―――連れて行け」 「ふふ、そう言うと思った」 ―――その言葉を発するのに、迷いは無かった。 * * * * * 「あれが・・・・・・」 気配を殺し、魔力遮断の結界を張り、クローセスは遺跡の瓦礫越しにその姿を発見した。一見、どこにでもいそうな少年である。だが――― 『半端ないわねー、アレは。潜在魔力は魔剣使い並かしら?』 「・・・・・・それだけじゃないよ。技量もかなりの物だ」 茶髪の少年の足の運びを見て、そう断言する。間違いなく、彼は手練だった。瀑布に等しいプレッシャーに、思わず息を飲み込む。 「さてと、どうしようか・・・・・・」 『対応に困る状況よねー・・・・・・一応、現状は掴んどきたい所だけど』 「確かに・・・・・・さて、どうやって出てったら怪しまれないかな?」 『行き倒れてる振りをするとか?』 「怪しさバリバリだと思うけど―――」 ―――この時、クローセスは決して油断していた訳ではない。ただ、彼は『人間の魔力』にのみ気を配っていたのだ。それゆえに気付かなかった。 「誰、ですか?」 「―――ッ!?」 背後に近付いていた、ユニゾンデバイスの姿に。予想外の事態に、しかしクローセスの身体は即座に、そして正確に反応していた。あらかじめ生成しておいた投擲ナイフを袖の中から取り出し、ほとんど反射的に投げつける。相手が何であるかも確認せずに。 ―――己の失策に気付いたのは、既にそれが相手の眼前に迫った時だった。 「しまっ―――」 「おっと」 しかし、失敗を後悔する間は無かった。現れた金髪の少女が、迫ったナイフをあっさりと捕まえていたからだ。 「いきなり物騒だね―――デルタレイっ!」 「ッ!!」 発せられた魔力弾に即座に反応、眼術を発動しながらクローセスはその場から跳躍した。着地し、そこでようやく、自分が最悪の過ちを犯した事に気付く。この時ばかりは、正確に反応した自分の体が恨めしかった。 「―――エクス!?」 「ユウ、敵だよ! その子、ゼロにいきなり攻撃した!」 『・・・・・・見つかった相手もまずかったみたいねー』 文字通り無責任であるルヴィリスの言葉に胸中でうんざりと同意しながら、クローセスはどうしたものかと思案した。どうにか話し合いで解決したい所ではあったが―――ユウと呼ばれた少年の顔に敵意が走るのを見て、それを廃案にする。少なくとも、話し合いの余地は無さそうであった。 『さてと、どうする? 捕まったら捕まったで後々面倒だと思うけど?』 「あの人が迎えに来るにしても、この場所に留まった方がいいだろうしね・・・・・・さて、それまで逃げ切れるかな」 『次元航行艦も控えてそうね。この世界限定じゃ逃げようもないか』 いきなりこんな所にほっぽり出してくれた白い旅人の姿を脳裏に浮かべ、クローセスは小さくひきつり気味の笑みを浮かべる。 『じゃあ、説得?』 「・・・・・・するにしても、説得力無いよね、僕たち。彼も怒ってるみたいだし」 『そうよねぇ。仕方ない―――』 背後に突如、質量を持った存在が出現する。実体を持ったルヴィリスは、己が本体をクローセスの腰から奪い、悠然とした笑みを浮かべて隣に立った。 「多少怒りが冷めてくれるまで、付き合うしかないかしらねー」 と、ルヴィリスの姿を見たユウが目を細め、その手に悪魔の翼を模したような柄を持つ剣を発生させる。正直、ルヴィリスが出てくる前の方が良かったような気がしてならないが。 それでも一応、弁明は試してみた。 「えっと・・・・・・見逃してはくれません、よね? 話し合いとかは―――」 「―――君を捕まえた後に聞くよ。その方が安全だ」 「・・・・・・ですよね」 妙に弱気なのは―――この際許されるべきであろう。自暴自棄なりかけている自分に嘆息し、のろのろとデバイスを起動した。しかし、それでもすぐさま頭を戦闘体勢に切り替える。 「・・・・・・ルヴィリス」 「はいはい。あっちの二人は任せてもらっていいわよ」 ルヴィリスは宙に浮く少年の姿のユニゾンデバイスと、その隣に立つ少女を指差す。名前は確か、ゼロ、そしてエクスと呼ばれていたはずだ。不敵な笑みを浮かべているルヴィリスを一度見上げ―――そのまま、眼術の発動率を限界ぎりぎりまで高める。 (やれやれ・・・・・・) 最後に、嘆息を一つ。それで全ての余計な思考をカットし、クローセスはルヴィリスと共に地面を蹴った。 * * * * * (さてと・・・・・・) 視線の先には、レモン色の髪の少年と金髪の少女。その内片方は極端に小さく、それがかつて資料で見たユニゾンデバイスであると確信する。 「ま、どの道どっちも人間じゃないみたいだけど・・・・・・起きなさい、《クルス》」 左腕にはめられた腕輪が起動し、小型の弓を作り出す。近接戦の時に使う、射出形態とは違うもう一つの形態。それが周囲の魔力を吸収すると共に、ルヴィリスの両手には二振りの剣が生み出されていた。 「ムーンランス!」 少年―――ゼロが放った光の槍を、ルヴィリスは笑みを浮かべながら剣で弾き飛ばす。そのままエクスへと肉薄し、左の刃を横薙ぎに叩き付けた。エクスが生み出した光剣と魔力蒐集によって生み出された刃が打ち合わされ―――力負けし、エクスはそのまま弾き飛ばされた。 追撃はせずにそちらへと視線を向け、小さく笑む。空色であった右目を紅く染め上げながら、ルヴィリスは静かに声を上げた。 「手加減してるとキツイわよ? これでもあたし、一部例外の化け物を除けば負けた事無いし」 「ッ・・・・・・そうみたいだね」 エクスが両手を広げる。それと共に三つ一組の光球がいくつも発生し、周囲を舞い始めた。それの術式に目を向け―――小さく嘆息する。 「術式は全部別、か。面倒ね・・・・・・ま、それぐらいじゃないと面白くないか」 言葉と共に自らの身体に身体強化の術式を掛け、更にそれを《強化》する。左の刃を中段、そしてもう一つの刃を上段に構え、ルヴィリスは不敵に笑んだ。 「我が名はルヴィリス=リーシェレイティア。あたしが積み上げた千年の時を、貴方達は凌駕出来るかしら?」 千年と言う言葉にゼロが絶句したようであったが、生憎とそれに構ってやるつもりは無かった。地面を蹴り、三歩でトップスピードに乗る。クローセスほどではないが、それでも本来人間が到達し得ないスピードで距離を詰める。 「ムーンブラスト!」 刹那、頭上から無数の光球が放たれた。先ほど放たれたデルタレイと共に、ルヴィリスに向かって殺到する。 「弾幕? いいわよ、悪くない」 その言葉と共に―――ルヴィリスは、慣性を無視して直角に跳んだ。無理のある動きに体が軋むが、それを完全に無視する。横から飛んできていた光球を斬り落とし、剣を地面に突き刺して跳躍しながらぐるりと回転、空中にいたゼロに向けて蹴りを放つ。 「わぁっ!?」 完全に予想外だったのだろう。ゼロは咄嗟に防御魔法を張るものの、躱せずにその場に留まってしまう。そして――― 「ほいっと」 ルヴィリスは、ゼロの影に向けてもう一方の剣を投げつけた。発動した影縛りの術式がゼロの身体を空中に縛り付け、動きを完全に抑え込む。 しかしルヴィリスはそこで止まらず、地面に突き刺した剣の柄を蹴り、それを一瞬置いて炸裂させた。命中しようとしていた光球は掻き消され、ルヴィリスは防壁を張りながら宙を駆ける。そして――― 「《クルス》!」 「い、いくらなんでも無茶苦茶過ぎない!?」 地面にいたエクスが、何やら抗議のような声を上げているが―――それを聞きながらも、ルヴィリスは弓を展開した。それに対し、エクスはルヴィリスに向けて光の砲撃を放つ。 「―――“Obscurus Ater Tenebrae”」 眼前まで迫った光に、ルヴィリスは遅かったかと舌打ちする。しかし、それでも――― * * * * * ―――この少年は奇妙だ。胸中で呟き、ユウは思わず首を傾げた。 魔導師である事は間違いない。魔法を使い、戦っているのだから。しかし、その完成度がどうにも異様だった。 『Darkness Saber.』 放たれた闇の刃を、彼は完全に見切った上でそれを躱す。しかも、その視線はこちらの姿を捉えたまま離さなかった。ゼロシフトで背後まで移動しても――― 「ふっ!」 「ちッ!」 身体を沈み込ませて放たれた足払いが襲う。それは咄嗟に躱したものの、それによって距離が開き、二人は再び正面から対峙する事になった。 「・・・・・・君は、何者だい? その歳でこれほどの完成度・・・・・・正直、異様だとしか言えない」 「いやぁ・・・・・・それほどじゃないです。僕、打つ手無いですし」 その言葉通り、彼の体には幾筋かの傷が刻まれていた。躱し切れず、攻撃が命中したのだ。対して、こちらは無傷である。 「僕はスピードしか取り得ないですし・・・・・・それに対応されたら一人で勝つのは無理ですよ」 少年の持つスピードは、確かにユウと同等かそれ以上ではあったが―――生憎と、攻撃力は伴っていなかった。その為しっかりと見切り、防御魔法を行使すればカウンターを入れる事は不可能ではない。まあ、そのパターンが二度ほど成功してからは、彼もそうそう攻撃はして来なくなったのだが。 しかしこれは――― 「勝負付かないね・・・・・・」 「そうですね・・・・・・」 思わず、互いに苦笑を漏らす。先ほどはゼロに―――家族に対する攻撃での怒りを感じていたが、何故そうなってしまったのかの理由も何となく理解してからはそれも冷め、何となく、徐々に戦う気が失せてきているのが分かる。恐らく、どちらかが武器を下ろせばそれで戦いは終わるだろう。 苦笑交じりにソウルイーターを下ろそうとした、瞬間。空中に、二つの魔力を感じた。 「フェイト、なのは?」 「あちゃ〜・・・・・・」 向こうも二人の魔力を感じ取ったのか、何やら困った表情で頭を抱えている。そんな彼の背後に二人は降り立ち、そのデバイスを向けた。 「動かないで」 「公務執行妨害で、貴方を逮捕します」 「・・・・・・何となくそうだろうなーとは思ってたけど、実際フェイトに言われるとショックかなぁ」 ―――今、何か聞き捨てなら無いことを聞いたような気がした。しかし、それよりもまず戦っていた二人の安否が気になったので、そちらへと視線を向け―――絶句する。 エクスとゼロ、その二人を同時に相手にしていた浅葱色の少女は、全くの無傷でこちらに歩いてきていたのだ。 「あらクロス、捕まっちゃったの? 本気でやればよかったのに」 「いや、それなら逃げられただろうけどさ・・・・・・ルヴィリスを置いてく訳にもいかなかったし」 「ま、それもそうかしらね」 エクスとゼロは、彼女の後方で立ったまま動かなくなっている。目を凝らすと、二人の影に剣と矢が突き刺さっているのが確認できた。恐らく、影縛りの魔法―――しかも、あの二人を拘束できるほどに強力な。 「誤算だったみたいねぇ、少年。ま、普通はあたしの方が強いとは思わないわよね・・・・・・ああ、安心なさいな。危害を加える気も戦う気も無いから」 「安心しましたよ・・・・・・」 二人に危害を加えていないため、一応の信用は出来た。それでも警戒はしながら、ルヴィリスと呼ばれたその少女に視線を向ける。 「それで、貴方達はここで何をしていたんですか?」 「んー・・・・・・別に来ようと思った訳じゃないんだけど、知り合いに連れて来られてそのまま置き去りにされたのよ。何考えてんだか知らないけど」 信じるには突飛過ぎる話ではあったが―――実際、彼女達が危害を加えるつもりでなかった事は理解している。盗掘か何かの類にしても、この二人の装備はあまりにもそれに向いていなかった。 「その子はクロス・・・・・・クローセスよ。で、あたしはルヴィリス。まあ、別に忘れてもいいけど」 「僕は城島ユウ。彼女達は―――」 「ああ、知ってるから問題ないわよ」 「はあ・・・・・・それで、どうするんですか?」 「迎えが来るまでここで待っていたい所なんだけど。別に監視付けてくれてもいいわよ」 ルヴィリスの言葉を受け、ユウはなのは達と視線を合わせ、確認を取った。頷き、再び視線を戻す。 「それじゃあ、二人は―――ッ!?」 そう言おうとした、刹那だった。背筋の粟立つ、まるで首筋に刃を突き付けられたかのような感覚に、ユウは咄嗟に振り返る。 ―――その先に、『何か』がいた。 「・・・・・・貴様が、城島ユウか」 「・・・・・・貴方は?」 全身に漆黒を纏った姿。左手に携えられた剣は、悪魔の爪が両側に飛び出したかのような柄を持ち、それを持つ事による殺気は全てユウに向けられていた。 「レイヴァン、さん?」 「魔剣使い・・・・・・何なのよ、完全武装までして」 クローセスとルヴィリス、その二人の声が聞こえる。ユウが知る由もなかったが、今レイヴァンは普段の服装に加え、黒い手袋とマフラーを装着していたのだ。 レイヴァンはその二人を完全に無視し、こちらにのみその鋭利な視線を向けて言い放つ。 「貴様が俺の同類と聞いた。ならば、貴様の力を俺に見せてみろ」 「―――ッ!?」 思わず、絶句した。ならば、彼のあの剣は――― 「・・・・・・どこで、その剣を?」 「答える義理は無い。貴様の力ならば俺の目的を果たせるのか・・・・・・確かめさせてもらう」 言って、レイヴァンは刃を振り払った。そこから放たれた漆黒の斬撃が、一直線にユウに向かう。こちらもダークネスセイバーを放って相殺し、斜め横に飛び出してなのは達を射線から外した。 「ブラッディランス!」 赤黒い魔力が凝固し、槍となってレイヴァンへ直進する。放たれた四本の槍に向かって、レイヴァンはそのまま前に直進し、真っ向からそれを躱して見せた。 あまりの行動に、思わず絶句する。だが、それは一瞬に留めた。 「ふッ!」 鋭い呼気と共に刃が振り下ろされる。それを刃で受け止め弾き返そうとした瞬間、相手の剣は手首の動きによって脇腹へと狙いを変えた。半ば反射的に、刃を返しながら横に跳ぶ。刃は何とか間に合ったが、ユウは剣圧に押されそのまま大きく後退した。レイヴァンが再び接近しようと腰を低く構える。 が――― 「ここだっ! イービルクロス!」 「ッ!」 先ほど放っていた魔力の槍が、四方からレイヴァンに襲い掛かった。迎撃しようと、レイヴァンが刃を構える。しかし、動きの止まった相手を放っておくつもりはユウには無かった。 「ダークネスノヴァ!」 「チッ・・・・・・《オルディファリス》」 僅かに聞こえる舌打ちの音。それと共に、レイヴァンの刃から黒い魔力が吹き上がった。そしてそれを、地面に向かって突き刺す―――それと同時に、五つの魔法がレイヴァンに着弾した。魔力と粉塵が吹き上げ、一時的に相手の姿を覆い隠す。 「・・・・・・・・・」 構えは解かない。魔力を練り上げ、いつでも攻撃できるように意識を集中させる。 ―――相手の殺気は、一分の減衰も見せていなかった。 「―――《ケイオスフォース》」 そして刹那、粉塵の中から漆黒の雷が何の前触れも無く飛び出してきた。ゼロシフトの移動で躱し、今の一撃によって晴れた煙の中心に視線を向ける。 彼は、右手に黒い雷を纏わせてそこにいた。刃が突き立てられたその半径一メートルほどの空間以外無事な場所などどこにも無く、その周囲の地面は消滅してしまっている。雷を振り払い、低い声音で呟く。 「もっと力を引き出せ。その程度では足りん」 「・・・・・・っ」 彼の言っている事は分かる。だが、理解出来なかった。彼も同じ力を持っていると言うなら、何故その力を使う事に躊躇いを持たないのか。 「・・・・・・使う気が無いなら、引きずり出すまでだ。《カースドルーン》」 ―――言い放ち、レイヴァンはそのマフラーを宙に放った。 * * * * * 「うげ」 ルヴィリスが呟いたその言葉に、加勢に加わろうとしていたなのはとフェイト、エクスとゼロを引き止めていたクローセスは振り返った。訝しげに視線を送り―――思わず絶句する。 「・・・・・・ほ、本気?」 「あの無愛想に限って冗談なんて有り得ないでしょ」 レイヴァンが放ったマフラーは、空気に溶けるようにほどけながらレイヴァンの周りを舞い始めた。その無数の黒い筋は、目を凝らせば文字である事が分かる。 「えっと・・・・・・クローセス君、だったよね? アレが何だか分かるの?」 「・・・・・・簡単に言うと、マフラーの形をした魔導書です」 なのはの質問に答えている間に、立っていたルヴィリスがその本体であるナイフで地面に魔法陣を描き始めた。次に来る一撃がどんな物かは分からないが―――少なくとも、普通と言える威力の物ではないはずだ。気を引き締め、ガルディアラスの力をその身に宿す。目を丸くする四人を尻目に、クローセスは魔法陣に魔力を注ぎ込み始めた。 ―――そしてそれと同時、低い声が詠唱を紡ぎ始める。 「天空より出で、地底に帰する。なれば我は原初と終焉を定義し、ここに宣言する―――奔れ」 収束する魔力に似合わぬ、短すぎる詠唱。しかし、魔導武具の補助を受けてそれは正確に顕現した。空を漆黒が覆い、それが更に広範囲に広がってゆく。 「―――《 そして―――天より、漆黒の雷が無数に降り注いだ。それと同時に、クローセスは地面の魔法陣を起動する。ルヴィリスが術式を《強化》し、半球体の防壁が六人の姿を覆い隠す。 ―――黒い閃光と轟音が、全てを飲み込み、破壊した。 * * * * * 「・・・・・・」 術式の発動と共に挙げていた手を下ろし、レイヴァンは静かに前を見据えた。その先にいる、髪と瞳を漆黒に染めたユウの姿を。 「ようやくか」 「―――無影、一閃」 ポツリと呟いた言葉は、そんな台詞にかき消される。そして―――魔力が膨れ上がった。こちらもまた、魔力を練り上げ小さく呟く。 「・・・・・・限定開放」 「ストレイヤー・・・・・・」 ユウの周りに円形の闇が膨れ上がる。そして―――彼は姿を消した。刹那の間すら置かず、その身体はレイヴァンの前に現れる。初めてその動きを捉えられず、レイヴァンは小さく瞳を見開いた。 そして――― 『―――Void.』 闇の斬撃が、放たれた。神速の刃は横薙ぎに迫り―――避ける間もなく、レイヴァンが掲げた右腕に命中する。 ―――そして、止まった。 「―――なッ!?」 ユウの表情に、今度こそ驚愕が広がる。闇を纏った刃はレイヴァンの右腕に半ばまで食い込んでいるものの、そこで止まっていたのだ。 ―――それをレイヴァンの腕、と言っていいのかは分からなかったが。 彼の腕は、肘から先が変貌していた。黒い『何か』に包み込まれ、若干太く膨張し―――その先に、鉤爪のような四本指の手が続いている。その纏わり付いたものが何であるかを理解したのか、ユウの表情は驚愕のまま固まって動かない。 「・・・・・・フン」 小さく息を吐き出し、レイヴァンは相手の刃を抜き取った。傷―――と言うよりも溝と言った方が正確かもしれないが、それもすぐさま塞がり、血が噴出する事すらない。消滅してゆく『何か』と共に刃を収め、レイヴァンはそのまま背を向けた。 「・・・・・・貴様の力の方向性は、俺と同じか」 「ば、かな・・・・・・そんな事、出来るはずが―――」 「貴様では、届かぬようだな・・・・・・ならば用はない」 歩き出したレイヴァンに、ユウはとっさに正気に返る。信じがたいと言うように、その声に驚愕を込め――― 「待ってください! 貴方は、どうしてそんな危険な力を! 原型のままの『混沌』を纏うなんて、自殺行為だ!」 「・・・・・・必要だからだ」 「貴方は・・・・・・・・・『混沌』そのものになろうって言うんですか!?」 ユウの言葉に、レイヴァンはぴたりと足を止める。肩越しに振り返り、小さく声を上げた。何の感情もこもっていない冷え切った声が、ユウを射抜く。 「―――それが、俺の目的を果たす最も確実な手段だ」 「な・・・・・・ッ!」 「貴様に案じられる義理は無い。貴様は己の事だけを気にしていればいいだろう」 光沢の無い銀色の瞳に見据えられ、ユウは今度こそ言葉を失った。その様子を見て何か反応するでもなく、レイヴァンは歩き出す。 ―――今度は、引き止める者はいなかった。 * * * * * 「・・・・・・・・・生きてる?」 「何とか、ね・・・・・・ったく、冗談じゃないわよあの黒ずくめ・・・・・・」 うつ伏せに倒れていたクローセスは、首だけを動かして隣の様子を覗き見た。そこに、精根尽き果てた様子で仰向けに倒れるルヴィリスの姿を発見する。他の四人は―――気を失ってはいるが、命に別状は無さそうだ。 と――― 「おやおや、随分とボロボロだな少年」 「・・・・・・来るの遅いですよ、トラスさん」 顔を反対の方向へ向けると、そこにしゃがみ込んでいる白い旅人の姿を発見した。指でぷにぷにと頬をつついて来るが、生憎とそれを振り払う余力も無い状態だ。でなければ、ルヴィリスが即座に矢の収束を始めているだろう。 「どうだったかな? 本来成し得ない次元の移動と言うのは」 「・・・・・・レイヴァンさんを呼んで来なければ、もうちょっとまともでした」 「ふむ・・・・・・では」 呟き、彼女は視線を返す。その先にいる、ユウの姿へと。 「君はどうだったかな、少年。君と同じ力を持つ者を前にして、何を思った?」 「・・・・・・貴方は?」 「この二人を連れて来た者だよ。さて、是非あの男と会った感想を聞かせて欲しいんだが」 彼女の様子にユウは訝しげに眉根を寄せていたが、小さく嘆息すると肩を竦めて声を上げた。 「・・・・・・理解の範疇を超えてます。何者なんですか、あの人は・・・・・・」 「何者、か。人間の範疇―――いや、そもそも人間ではないが、そう言った定義からかけ離れてしまった存在さ。壊れてしまった人間、と言うべきかな。異常者の思考は誰にも理解できないものだ・・・・・・まあ理解出来ずとも、得る物はあったのではないか?」 少女は悪戯っぽい空気を纏って笑みを浮かべながら言い放つ。そのどこまでも奥の知れない灰色の瞳は、じっくりとユウの様子を観察していた。 「アレは、人が持ちうるあらゆる魔性と共存し、それを乗りこなしてしまった人間だよ。負の感情はかの男にとっては空気のような物だ。他者を憎むのが当然で、何かに怒りを放つのが当然―――そういう生き方しか出来なくなった存在。比べれば、例え君が抱えている物があったとしても、君の方が幾分人間らしい」 「―――ッ!? 何故それを!?」 「君の力を見抜いた時点で、とんでもない物を抱えていると言うぐらいの想像はつく」 白い旅人は懐からシガレットチョコを取り出し、ぱくりと口にくわえた。意味も無くそれを上下させてから、肩を竦めて嘆息する。 「君はまだ人の心と呼べるものを持っている。抱えた物に蝕まれつつもな。しかしアレは、当に魔剣に蝕まれて心など失っている。同じ存在を理解できなかったからと言って、そう落ち込む事はない」 「・・・・・・何でもお見通しなんですね」 「これでも一応、そこに転がってる猫よりは永く生きているのでな」 ひょこひょことシガレットチョコを動かし、旅人は小さく笑む。感情を読み取らせない瞳を、彼女は小さく綻ばせた。 「少年、そして寡黙な魔剣よ。君たちが抱えている物の大きさは、私にはそれほど推し量れない。しかし―――」 視線をずらし、なのはとフェイトを示す。口元に浮かぶ小さな笑みを隠そうともせず、彼女は不敵に言い放った。 「―――そこな少女は、幾度も人を救っている。多少頼っても罰は当たるまいよ。たまには他人の迷惑など考えず、世話を焼かせる事も決して悪ではない」 『・・・・・・気付いていたのか』 「甘く見るな、魔剣よ・・・・・・さて、私の言った事を覚えておくも無視するも君たちの勝手だ。自己犠牲は自己満足に過ぎん、と言うのがある男の言い分だったが―――さて、君たちの選ぶ結末も興味のある所ではあるな」 あくまでも、最後の答えは己の手で選ばせる。言葉には出さずそう言い放ち、彼女は踵を返して倒れていた二人の襟首を掴んだ。最後に一度肩越しに振り向き、視線を細める。 「―――ここまで干渉できるのは珍しい。しかしこれでも、実は制約の多い身なのでな。そろそろお暇させてもらおう」 「あ、えっと・・・・・・ユウさん」 引きずられながらも、クローセスが声を上げる。僅かに逆光になったユウを見上げ、彼は小さく微笑んだ。 「―――負けないで下さい」 その言葉に込められた意味は伝わったか―――それを確信できるほど、この場所に居た訳ではない。それでも、伝わって欲しかった。 それでも頷いてくれたユウに満足し、クローセスもまた頷く。その様子を見届け、少女は小さく笑みを浮かべながら歩き出した。 「―――ありがとう」 ―――その言葉を、背中に受けながら。 * * * * * 三人の姿が消え去った空間をしばらく眺め、ユウは小さく息を吐き出した。何が何だか分からない内に過ぎ去ってしまった―――まるで嵐のような人物達だったが、それでも得られる物はあったと思う。 『・・・・・・ユウ』 「うん、分かってる」 皆まで言わせず、ユウはソウルを待機形態に戻した。そしてもう一度先ほどの場所を眺め―――ポツリと、呟く。 「君も・・・・・・同じだったって事か」 瞳の奥には深い苦悩と、共感と。歳に似合わずそんな物を背負っていた―――いや、もしかしたらルヴィリスと同じく彼ももっと歳を食っていたのかもしれないが、そんな彼が残した言葉をユウはしっかりと噛み締めた。 周囲を見れば、見事なまでに破壊されてしまった遺跡の風景。まあ、これならばディメンションリンクの破壊どころではないだろう。今の状態では回収も出来ないが、破壊するのにも同じだけの労力を要する事になる。 「・・・・・・まあ、最悪の結果よりはマシかな」 苦笑と共に小さく呟き、気を失っている四人の方へと歩き出す。脳裏に浮かぶのは、やはりあの漆黒の男とあの少年達。何だかんだ言い方は違ったが、結局彼らの言っている事は結局の所同じだった。 つまり――― 「自分のしたい事をしろ、もうちょっと我がままになってみろ―――ね」 なのはとフェイトに視線を向ける。自分はまだまだ、彼女達に隠している事がある。彼女達を頼れと言うのはつまり―――それを打ち明けろ、と言う事なのだろうか。 「それはまだ、かな」 簡単な事ではない。それでも、意味がある事だろう。 「―――まあ、考えとくよ・・・・・・次に会う事があったら、君の話を聞かせて欲しいかな」 ―――黒い髪の少年を思い出し、ユウは小さく微笑んでいた。 あとがき? 「長かったなぁ」 「長かったですねぇ」 「いやまったく、自分のキャラじゃないのを書くってのは中々難しいらしいな・・・・・・」 「ウチの人たちは皆癖のあるのばっかりですけど・・・・・・」 「癖しかないの間違いだろ」 「いや、まあ・・・・・・」 「しかしまぁ、一つの話でこんなに長くなったのは初めてじゃないか? サイズは30KBほどまで達してるし」 「それは・・・・・・確かに。レイヴァンさんだけのつもりらしかったんですけど・・・・・・なんかルヴィリスまで戦ってましたし」 「そういや、お前よりもあの青猫の方が強かったんだよな。示しが付かないと言うか何と言うか・・・・・・」 「余計なお世話です」 「はっはっは」 「はぁ・・・・・・えっと、今回はレイヴァンさんにしてはあっさりと引き下がりましたけど?」 「まあ、あいつなりに思う事があったんだろ? 同属に対する親近感なんつーモノがあの黒ずくめにあるとも思えないが、少なくとも興味を持ってたのは確かだろうな」 「あの人が敵対した相手を殺さずにいたのって、兄さん以外じゃ初めての気がするんですけど」 「別に敵対したって訳じゃないだろ。単にユウの能力の方向性、その度合いを知りたかっただけだろうしな。んで、あの黒ずくめはあの少年の能力が自分と同じ方向性―――つまり、『混沌』を破壊にのみ用いる事ができると考えた訳だ。生憎と、その方面ではあの野郎の目的には遠い。だからもう戦う理由は無い、って訳だ」 「つまり、ユウさんを敵として認識したって訳じゃないと」 「ま、そーゆー事だ。別段、好戦的な性格って訳でもないし」 「なるほど・・・・・・ええと、カークスさん、すみませんでした。作者さんも結局ユウさんの性格やらを掴みきれずに、何だかあまり締まりのある内容になりませんでした。満足されなかったかと思いますが、ここでお詫び申し上げます」 「デバイス達もあんまり喋らなかったしなぁ」 「そうですね・・・・・・次に書く時は、LOCがもっと進んでからにしたい、との事でした。その機会があったら、またお会いしましょう」 「それじゃあ、またどこかで」 |