訓練室―――
「やって、もうた」
 はやては、訓練室の惨状を見て言った。
「けほっ、けほっ」
「はやて、私たちごとふっとばすつもりだったの?」
 アリサが、はやてに詰め寄る。
「私が、魔力を吸収しなかったら訓練室が崩壊してたわよ」
 それでも訓練室惨状は、凄かった。
訓練用の観測機器は、凄まじい戦闘によって全壊。 床のタイルはめくれ上がり、壁には
そこらじゅうにヒビが入っていた。  ほぼ全壊と言っていいくらいの破壊ぶりだ。
「マイスターすみませんです」
 ユニゾンから解けたリインが謝る。
「謝ってもすんだ事を考えてもしょうがないやろ」
「そのとおりですよ。 はやてさん」
 ふと声をかけられるはやて。
「柊沢提督!」
「すんだ事でくよくよしても何も変わりません。 流石に之では、弁護のしようがありません」
 弁護が出来ないと言うエリオル。
「罰は、減俸すか? 其れとも……」
「今回は、処罰なしとしましょう」
 エリオルは、ある一点を見ていった。
「処罰なしって如何言う事ですか?」
「其れは、貴方たちが侵入したテロリストを捕らえたからです」
 壁際に光学迷彩が解けてボロボロのテロリストが姿を現した。
「何時の間に、ふっとばしたんやろう?」
 ふっ飛ばしていた事にも気づいていなかったはやて。
数分後、騒ぎを聞きつけた局員たちが訓練室の外に集まっていた。

「ご苦労様です。 柊沢提督!」
 捜査官の一人がエリオルに言った。
「此処は、我々が処理します」
「八神特別捜査官、後ほど現場検証に立ち会ってください。 其方のお二方も……」
 すずかとアリサに立会いを求める捜査官。
「了解しました」
 その後、訓練の内容も含めて事情を説明たはやて、すずか、アリサの三人。
三人が、解放されたのは夜の7時だった。



 魔法少女リリカルなのは -RESERVoir CHRoNiCLE-
 ―第一部『ガトランチスの進撃』― 第十一話『ゼル爺の魔術指導』





 エリオルの執務室――― 
「始めまして、お嬢さん。 ワシは、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグじゃ」
 はやて、すずか、アリサに名乗るゼル爺。
「時空管理局所属特別捜査官八神はやてです」
「アリサ・バニングスです」
「月村すずかといいます」
「お前さんが、『夜の一族』の月村すずかか」
 自分の一族のことを言われて驚くすずか。
「別に怖がらんでも良い。 別にとって喰おうとしているのではない」
 怖がる必要は、ないと言うゼル爺。
「心配せずとも、ワシはクロウ・リード…… 柊沢エリオルの知り合いじゃ」
「はやてさん、アリサさん、すずかさん。 キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグは、吸血鬼なんですよ」
「吸血鬼? あの血を吸う……」
「そうです。 キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグは、死徒二十七祖と言われる吸血鬼なんです。 
『夜の一族』とは違う吸血種なんです」
「死徒二十七祖?」
「そうでした。 貴女達は、知らないのでしたね……」
「エリオル、その話は時間をかけてすれば良いじゃろう?」
「そうですね。 死徒二十七祖とか詳しい事は、日を改めてお話します。 すずかさんとアリサさんには、
大事なお話があります」
「大事な話ってなんなのよ」
「二人ともワシの弟子にならんか?」
 突然の事に目をパチクリさせるすずかとアリサ。
「実は、私がすずかさんの事を話しましたら気に入ったのです」
「如何じゃ、弟子にならんか?」
 ゼルレッチの申し出に悩むすずかとアリサ。
「すずかは、如何する?」
「そう言うアリサちゃんは?」
「ワシは、強制つもりはない。 お前たちの意見を尊重する」
「選択をするのは、すずかさんとアリサさんです」
 エリオルは、選択権は二人にあるという。
「私、もっと魔法の勉強をしたい。 原始ベルカだけだともしもの時、不安だから……」
「すずかが、やるというのなら私もやるわ」
 すずかに次いでアリサも決断を出した。
「決断は、ついたようじゃの…… 二人は、“魔術回路”を開く必要はないな」
「“魔術回路”って、何なんですか?」
「お前さんらは、知らんのか! 面倒じゃの」
「魔術師は皆、“魔術回路”をもっとるんじゃ。 今、活躍しとる魔術師は“魔術回路”がひらいとる」
「ゼルレッチも昔、苦労して開いているんです。 貴女達は、幸運な事に回路が開いています」
「回路が開いているって如何いうことよ!」
「貴女達は、闇の書事件の最中で覚醒しています。 封時結界に取り残されたのが証拠です」
 エリオルは、闇の書事件を話す。
「先日のデバイス起動もお二人が魔力に目覚めている証です」
「じゃあ何で、私たちの家にあったのよ」
 アリサがデバイスの事をエリオルに聞いた。
「アレは、私…… いえ、クロウ・リードが次元世界を旅しているときに見つけたものです。 その後、必要
とする者が現れる事が分かっていたので持ち帰って、貴女達の家のある場所に埋めました。 そして、貴
女達が発見する事もクロウ・リードには見えていました」
「エリオルよ話はもう良いか? そろそろ、二人に魔術の手ほどきをしてやりたいんだがの」
 ゼルレッチがエリオルの話に割ってはいる。
「では、訓練室を手配しましょうか?」
「今は、良い。 一度、協会に戻って手を回しておかんとな…… 魔術書も持ってこんとあかんからな」
「講義開始は、二時間後でいいですか?」
「二時間あれば、戻ってこれるじゃろう」


 阪神共和国―――
「見つからんな〜」
「此処まで、探しても見つからんとは……」
 ふと、ある爺の事が頭を過ぎった。
「あの爺! 『タイガーストーン』を持っていやがったな!」
 


 第1039管理外世界―――
「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。 やってくれたな……」
 飛王フェイワンは、杯を投げ割る。
「『タイガーストーン』が無いのなら用は無い!」
 そう言って、飛王フェイワンは阪神共和国へ穴を開け兵を呼び戻した。
「次の手は、如何されますか?」
 乍浩瀚が聞いた。
「聞かれるまでも無い。 次の一手は……」



 第97管理外世界某所―――
「魔道元帥、今までどちらへ……」
「古い友達に逢っておった」
「其れよりも、大騒ぎですよ。 協会では……」 
「何かあったのか?」
「殲滅不能と言われた“混沌”と“蛇”が何者かによって倒され、一年前には“タタリ”が殲滅
されています」
「ワシが留守の間に色々あったようじゃな」
 ゼルレッチは、協会関係者から話を聞く。
「其れだけでは、在りません。 情報によりますと成り立ての“死徒”が僅か半年後に“固有
結界”を使ったともあります」
「興味深い話だな。 詳しく話してくれ」
 協会職員は、極東の島国での詳細を話した。

「その“死徒”は、何処にいる?」
「“タタリ”消滅後、シオン・エルトナム・アトラシアと共に姿を消しています」
「アトラシア…… アトラスの錬金術師か」
「捜索隊を出していますが、未だに捕縛の報はありません」
 ゼルレッチは、エリオルの言葉を思い出す。
「何れ向こうから現れるじゃろう…… “次元の魔女”も動いておるらしいからの」
「“次元の魔女”…… 生きているのですか? とうの昔、死んだと噂が流れていたと思うのですが……」
「エリオル…… いや、クロウ・リードの友人に聞いたのだが生きておるそうじゃ」
「急いで、封印指定の執行者を派遣しなければ……」
 職員は、急いで手続きに行こうとした。
「封印指定する必要はない。 之は、わしの命令じゃ」
「はぁ……」
「其れから次の者たちは、封印指定の対象外じゃ」
 ゼルレッチは、自らの部屋で書類に記していった。

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 以下の者たちを封印指定の対象外とす。

 柊沢エリオル
 木之本さくら
 高町なのは
 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン
 八神はやて
 月村すずか
 アリサ・バニングス

 以上の者は、時空管理局の局員である為、手出しを禁ずる。

 尚、以下の者も捜索及び封印指定の執行を禁ず。

 壱原侑子……捜索及び封印指定の執行禁止 
 シオン・エルトナム・アトラシア……捜索禁止 
 以下省略

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「之を各所に張り出せ!」
 ゼルレッチは、作成した書類を手渡した。
「元帥、此の二人の家って世界各地に会社を持っているのでは……」
 ゼルレッチの作った書類を見た職員が言う。
「強いて言うと月村って“夜の一族”と言われる吸血種の家ですよ」
「そいつなら知っておる。 興味があるから弟子にすることにした」
「唯、弟子にするだけで“封印指定”にするなは無いでしょう?」
「之を言ったのは、クロウ・リードの生まれ変わりじゃ」
「クロウ・リードの生まれ変わり? いるのですか?」
「クロウ・リードの生まれ変わりはおる。 しかも、二人な……」
「クロウ・リードの生まれ変わりが二人も……」
 頭が混乱する職員。
「話は、しまいじゃ! 之から、忙しいでの……」
 ゼルレッチは、そう言って準備を始めた。




 時空管理局本局―――
「先ず、お二人には言っておく事があります。 サリサさん、貴女はゼルレッチの元で学んで頂きます」
 今後の事を話すエリオル。
「其れは良いけど、学校は如何するのよ!」
 既に、すずかとアリサは二週間近く学校を休んでいた。
「なのはさん達と同様に情報操作しておりますので欠席扱いにはなりません。 ゼルレッチが戻ってき
次第、向こうの世界に一旦戻ります。 私も古い知り合いにようがありますし……」
 エリオルの言う古い知り合いというのは、“次元の魔女”の事だ。
エリオルは、相変わらずニコニコ顔で話す。 面白い事が起こることが分かっているかのように……


 第97管理外世界某所―――
「あったわい。 かなり長い事、放置してたから朽ち果てていたかと思ったぞ」
 探していたものを見つけて呟く魔道元帥ことキシュア・ゼルレッチ・シュパインオーグ。
必要なものを揃えたゼルレッチは、次元を超える魔法を使う。
「元帥! どちらへ行かれるのですか?」
 協会職員の声も空しく元帥の部屋に残るだけだった。



 時空管理局本局―――
「はてさて、場所がずれてしまったか……」
 ゼルレッチは、局内を迷い歩いていた。
「奴の部屋は、何処じゃったかな?」
「予定より遅かったが、如何されたのですか?」
「エリオルか…… 戻ってきたはいいが、道に迷ってしまった。 必要なものを取って来たぞい」
「ご苦労様です」
「頼まれたものじゃぞ!」
 ゼルレッチは、エリオルに渡す。
「じゃがアレは、無かったぞい」
「探しても無いのは、当然です。 アレは、侑子に預けてあります」
「“次元の魔女”の所か…… 一番厄介な所に預けたものだの」
「では、魔女の元へ行きましょう……」
 エリオルは、すずかとアリサが待つ転送ポートへ歩を向けた。



 次元の魔女の店―――
「そろそろね……」 
 侑子は、客を待っていた。
すると空がビローンと伸び地上に降りてきた。 異世界から客が来た証だ。
「久しぶりじゃの。 魔女よ」
「久しぶりね、キシュア・ゼルレッチ・シュパインオーグ!」
「侑子! 此の子達が」
「月村すずかちゃんとアリサ・バニングスちゃんね」
「私たち、まだ名前を言ってないのに」
 すずかは、侑子が名前を知っていた事に驚いた。
「読み解く者には分かるのよ」
「こうして直接逢うのは、何年ぶりか?」
「最後にあったのは、六年前かしら」
「あぁ、クロウカードをさくらカードに変えた後、『最高の魔術師ではない自分』をさくらさんに叶えて
貰った直後だったな」
「おっす! 元気だったか?」
 モコナがエリオルに聞いた。
「相変わらず元気だなモコナ」
「モコナ元気!」
「立ち話もなんでしょう。 四月一日ワタヌキにお茶菓子を用意させているからあがりなさい」
「お邪魔します」

「四月一日と書いて四月一日ワタヌキ!」
「邪魔すんな!」
 ラーグの頭を手刀で軽くたたく。
四月一日ワタヌキ! お茶とお絞りを9つ用意しなさい」
 炊事場にいる四月一日ワタヌキに侑子が命じる。
命令されて用意する四月一日ワタヌキ

「美味い。 之を淹れたのは誰じゃ」
「うちのバイト君よ」
「メガネをかけた少年…… いや、青年か!」
 ゼルレッチは、茶を飲み終えると庭に出た。
「魔女よ、庭先を借りるぞ! 其処の二人を指導したいでの」
「好きに使っていいわよ」
「さてお嬢さん、指導を始めるが良いかな?」
 店の庭について出る、すずかとアリサ。
「先ずは、お前さんらの属性を調べる事から始めるぞい」
 ゼルレッチは、すずかとアリサの属性を調べ始めた。
「ほおう。 “炎”に“月”か……」
「私の…… いえ、クロウ・リードの予想したとおりの属性ですね」
「それで、私たちの属性はなんなんですか?」
「先ず、そっちのお嬢さんの属性じゃが……」
「私の属性が何だと言うのよ!」
「お前の属性は、“炎”じゃ! 性格とそっくりじゃな」
 アリサの属性は、“炎”だった。
「名の通り“炎”は、全てを焼払う。 扱いを間違えれば、自らも燃やしてしまうじゃろう……」
「まぁ、アリサさんは魔法の危険性を知っていますから心配ないはずですよ」
 アリサなら心配ないと言うエリオル。
「なのはさんの件を見ていますし……」
「お次は、“夜の一族”の方じゃな…… 属性は、“月”じゃ。 此の属性は、滅多に居らん希少属性
なんじゃ。 “次元の魔女”と同じ“月”じゃぞ」
「えっ、“月”なんですか?」
「そうじゃい。 “月”じゃ」
「じゃあ、何が出来るのですか?」
「先ずは、“月占い”が出来るようになってもらいます」
「“月占い”って、一体……」
「一から教えないといけないようですね。 侑子!」
「エリオル。 対価は、貰うわよ」
「構いません。 その前に、二人には魔力の繰り方を覚えていただかないといけません」
「デバイスを使えばいいじゃない」
「其れでは、駄目です。 デバイスなしで繰れるようになって一人前の魔導師…… いえ、魔法使いになるのです」
「ワシは、お前たち二人を此の世界の魔法使いにするつもりじゃ」
 ゼルレッチは、すずかとアリサを魔法使いにする気満々のようだ。
「時間も限られておるんじゃろ…… はじめるぞ」
 こうして、魔道元帥キーシュア・ゼルレッチ・シュパインオーグによる魔術指導が始まった。






 設定資料

 四月一日ワタヌキ君尋
 未だに侑子の店でバイト中。
 モコナには、いいように遊ばれている。





 あとがき
 今回のお話は、如何でしたか?
 前回に引き続いて『TYPE-MOON』とクロスさせています。
 TYPE-MOON作品の魔法(魔術)とカードキャプター、HOLiC、なのはの魔法の考えが違うから文章にするのが大変や。
 ゼルレッチの指導でどれだけ魔術を身に付けるかは、暫く先のお楽しみという事で……

 次回は、『月姫』と『MELTY BOOD』 の舞台、三咲町で事件が起こります。
 という訳で、次回は「路地裏の吸血鬼」をお送りします。

 ご意見、感想お待ちしています。





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