すずかとアリサが、ゼルレッチの魔術指導を受け始めて数日たったある日。
海鳴とも違う、“次元の魔女”の町とも違う町で貧相な生活を送っている者たちがいた。
「シオン。 おなかすいた〜」
 ツインテールの高校生ぐらいの少女が言った。
「我慢してください。 ひもじいのは、私も一緒なのです」
 シオンという女性は、答えた。
「一週間、同じ言葉しか聞いてないよ」
「其れは、ですね、さつき……」
 言い訳をしようとするシオン。
此の窮地には、シオンが何かした事が影響していらしい。
「言い訳は、聞きたくありません」
「さ、さつき!」
 さつきは、何故か怒っている。
「お願いですから、怒らないでください」
「じゃあ、私が怒っている理由、分かるよね」
「分かっています」
「今すぐ、食料調達してきて」
 シオンに対して命令する、さつき。
「所で、さつき。 レンは、如何したのですか?」
「レンちゃんには、遠野君の所に行ってもらいました」
「志貴の所にですか?」
「シオンが、管理していた路銀を全て研究材料につぎ込んだからでしょ」
 彼女たちは、そういう理由で一週間、何も食べていないのだった。
之が、ヒトならば空腹で倒れている事になる。 しかし、彼女たちはヒトではない。 彼女たちは、 ヒトの血を吸う鬼、
吸血鬼なのである。 日の光の下では活動できないのだ。



 魔法少女リリカルなのは -RESERVoir CHRoNiCLE-
 ―第一部『ガトランチスの進撃』― 第十ニ話『路地裏の吸血鬼』





 時空管理局本局―――
「すずかちゃんとアリサちゃん、学校が終わった後、勉強しにいているんだって」
 本局では、すずかとアリサの事をなのはとフェイトが話していた。
「詳しい事は、分からないんだけど……」
「詳しい事が分からないってどういう事なの? なのは」
「情報操作されていて、よく分からないの」
 その情報操作は、エリオルがしていたのだった。

「そう不貞腐れるな! なのは」
 機嫌が悪いなのはをクロノが宥める。
「アイツには考えがあるのだろう……」
「アイツは、無いのでは? クロノ提督」
 不意にかけられた声に背を強張らせるクロノ。
「だ、大道寺……」
「何を驚いているのですか?」
「何故、此処にいるんだ!」
「何故って、私が特殊部隊の指揮を任されたからですわ」
「お前、指揮官資格持ってたのか?」
 大道寺は、指揮官資格を持っていた。
「資格を持って居なければ、指揮官補佐や指揮官代理は務まりませんから」
「大道寺が指揮を執るのは、誰なんだ!」
 クロノが大道寺に聞いた。
「幾らクロノ提督でもお教え出来ません」
「すずかとアリサも含まれているのか?」
「どうしもと言うのならエリオル提督の許可を貰ってください」
「エリオルの奴、面倒な事をしてくれるぜ」



 次元の魔女の店―――
四月一日ワタヌキ!」
「何ですか? 侑子さん。 また、酒って言うんじゃないでしょうね」
「違うわよ。 此処に連れて来てほしいヒトがいるの」
「連れて来てほしいヒトって誰です」
 四月一日ワタヌキは、侑子に聞いた。
「吸血鬼よ」
「吸血鬼って、血を吸うアレですよね」
「えぇ。 連れて来て欲しいのは、“死徒二十七祖”クラスの吸血鬼」
「侑子さん。 其の“死徒二十七祖”って何なんですか?」
四月一日ワタヌキには、説明しないといけないようね」
「やっほ〜侑子元気?」
 話をぶち壊すように声を掛けられた。
「久しぶりね。 アルクェイド・ブリュンスタッド…… 性格変わったわね」
「志貴に一度、殺されたからかな〜」
「殺したの、遠野志貴って子ね…… しかも、“直死の魔眼”を持っているのね」
「私、何も話していないのに何で分かったの?」
「読み解く者には、分かるのよ。 貴女が、尋ねて来ることも分かっていたわ」
「侑子もだけどクロウ・リードも嫌な奴ね」
「貴女は、知らないようね。 クロウ・リードが死んだってことを」
「ふ〜ん、死んだんだ。 あの、陰険メガネ」
「もう、大分昔にね……」
「侑子さん、誰なんですか? このヒト」
四月一日ワタヌキ。 彼女は、“真祖”と言われる吸血鬼よ。 そして、最後の王族」
「この子、貴女の何なの?」
四月一日ワタヌキは、ウチのバイト君」
「若しかして、こっちの人間?」
 アルクェイドは、四月一日ワタヌキの目を見て侑子に聞いた。
「こっちの世界では、有名人よ。 座敷童ザシキワラシに好かれているのよ」
座敷童ザシキワラシって私と正反対の存在よね」
「だから、滅多に山から下りてこないわ。 邪気から身を守るために」
「わっ。 無月、ひっつくな!」
 煙管の中でおとなしくしている筈の管狐が四月一日ワタヌキに飛びついた。
「貴方って、『アヤカシ』に好かれているのね」
四月一日ワタヌキは、力を欲する『アヤカシ』には、秘宝なの。 四月一日ワタヌキは、『アヤカシ』の力を
数十倍にすることが出来るのよ」
 アルクェイドは、急に吸血衝動に襲われた。
「アルクェイド、如何したの? 四月一日ワタヌキの血を吸いたくなった?」
「一寸、吸いたくなったけど此処八百年、ヒトの血を吸った事ないもの」
「貴女が吸ったのは、ミハイル・ロア・バルダムヨォンに騙されて吸わされた時のたったの
一度だけだったわね」
「だって、血を吸うの怖いんだもん」
 
「こんにちは、侑子さん。 ゼルレッチさん、居ます?」
 学校を終えたすずかとアリサは、侑子の店にやってきた。
「いらっしゃい。 すずかちゃんにアリサちゃん。 ゼルレッチは、居ないわよ」
「そうですか」
「その子達が、何で爺のことを知っているの?」
「知りたい?」
「知りたい!」
「この子達は、ゼルレッチの弟子よ」
「爺が、弟子を取るなんて珍しい事もあるのね」
「ゼルレッチに弟子を取らせたのエリオルだけどね」
 時空管理局本局に戻ったエリオルに嫌味をこめて言った。


 時空管理局本局―――
「八クッション!」
 侑子が嫌味を込めて言った頃、エリオルは、盛大にクシャミをした。
「誰かが、私のことを噂したみたいですね…… まぁ、犯人はあのヒトでしょう」
 エリオルは、犯人を予想して言った。
「そう言えば、対価をまだ、払っていませんでしたね。 今度、払いに行ったときからかい
がえしてやりましょう」


 次元の魔女の店―――
「其れより貴女、吸血鬼でしょう?」
 アルクェイドは、すずかに聞いた。
「そうらしいですけど、其れが何か?」
「吸血鬼は、滅ぼすわ」
 アルクェイドは、爪を伸ばしてすずかを引き裂こうとした。
「其の娘は、“夜の一族”だけど血は吸ってないよ」
「は? 血を吸っていないて、如何言う事?」
「彼女は、“夜の一族”の吸血鬼であって吸血鬼ではない。 戦闘力は、“死徒”の半分も無いわ」
「じゃあ、無害なのね」
 そう言ってアルクェイドは、爪をひっこめた。
「すずかちゃんは、れっきとした“夜の一族”の人間よ。 今じゃ、遺伝障害として残っているくらいで、
後は、普通のヒトより寿命が長いのと才能に秀でているくらい」
「彼女、魔力を持っているよね」
「すずかちゃんもアリサちゃんも魔力に目覚めているわ。 ある事件がきっかけでね……」
「ある事件?」
「異世界の品が絡んだ事件。 “闇の書”事件、知らない?」
「私、知らない」
「事件が起こったのは、六年前だから貴女は、知らないのも無理はないわね。 千年城
で眠っていたのだから」
 アルクェイドは、“闇の書”事件や時空管理局の存在も知らない。


 三咲町―――
「うぅぅ。 ひもじいよ〜」
「さつき、もう暫くの辛抱です」
 さつきは、空腹に喘いでいた。
「もう、何時になったらご飯が食べられるの!」
「仕方ないですね。 あの魔女にだけは頼りたくないのですが……」
「シオン。 何処へ行くの?」
「“次元の魔女”のところです。 あの女は、対価だけはキッチリ要求するのです」
「そんなに凄いの? 其の魔女さん」
「今の私たちには、払える対価を持ち合わせていません。 何処かで手に入れなければなりません」
「其れを手に入れるお金も無いんじゃ……」
 さつきにいたい所を突かれたシオン。


 次元の魔女の店―――
「と、言うわけで四月一日ワタヌキ!」
「はい?」
「三咲町に行って、シオン・エルトナム・アトラシアと弓塚さつきを連れてきなさい」
「何で俺が…… あの町へ行ったら一杯群がってきますよ」
「だから、助っ人を付けてあげるわ」
「どうせ、対価がいるんでしょ」
「分かっているじゃない。 バイト代にのせておくから」


 三咲町への道中……
「三咲町まで後、どの位なんすか?」
 四月一日ワタヌキは、アルクェイドに聞いた。
「そうねぇ〜後、30分くらいかな」
「ところで、三咲町にまだ、居るんすか? 吸血鬼……」
「まだ居るわ。 ロアの喰い滓の死者以外にも新たな“死徒”も入り込んでいるし」
「路地裏に入ったら、直ぐに襲われるじゃないですか!」
「まだ、昼だから…… まぁ、日の光が差し込まない場所に入らない限りはね」


 三咲町―――
「さつき! 行きますよ」
「シオン、待って」
「早くしてください」
「でも……」
「でもじゃありません」
「レンさんは、如何するのですか?」
「そう言えば、レンが居ましたね。 仕方ありません。 少し待つ事にしましょう」
 シオンが、そう言って一時間たった時、その人が現れた。
「やっと見つけた! あんた達、こんな所にいたんだ」
 アルクェイドがシオンとさつきに言った。
「アルクェイド。 貴女が何故、此処にいるのですか!」
「何でって、侑子に頼まれたから」
「はぁはぁはぁ。 此処なのか?」
 四月一日ワタヌキは、息を切らしていた。
「遅い! 早くしないと夜になっちゃうよ」
「アルクェイド、彼は誰なのですか?」
四月一日ワタヌキは、侑子の所でバイトしている子よ」
「侑子? 次元の魔女の使いですか……」
「分かっているのなら、おとなしく付いてきたほうがいいわよ」
 噂を知っているシオンは、アルクェイドの言葉に従った。
侑子は、ウラの世界で其の名を知らないものはいないと言うくらい有名なのである。



 次元の魔女の店―――
「すずかちゃんとアリサちゃんに行って貰いたい所があるわ」
「其れは、何処ですか?」
「“狐のおでんやさん”よ」
「“狐のおでんやさん”?」
 聞いたことの無い店の名に疑問符を浮かべる、すずかとアリサ。
「店の場所は、モコナが知っているわ」
「ついて来い!」
 黒いモコナ、ラーグが、すずかとアリサに言った。
「おでん代は、之で足りはずよ」
 侑子は、すずかに包みを渡した。



 第1039管理外世界―――
「フェルナンド様、次元世界の制圧は順調に進んでおります。 制圧に失敗したセフィロート
の再制圧の準備も3割ほど整いました」
 サーモサモンが、報告した。
「サーモサモン、制圧状況をパネルに出せ!」
「はい。 閣下!」
 サーモサモンは、制圧状況をパネルに出した。
「第808管理世界の侵攻状況が良くないな……」
「其の世界には、手を焼いております」
「司令は、誰だったかな?」
「グラン・バッシャーです」
「制圧を完了した部隊から応援に向かわせろ!」
 再び端末を操作するサーモサモン。
「アルバリシュ・ソラリスク提督の部隊なら可能です」
「よし、アルバリッシュ自らに向かわせろ!」
「御意!」



 第999管理世界―――
「提督へ新たな命令が来ております」
「誰からだ!」
「神聖皇帝陛下からです」
「陛下から?」
「はい」
「それで、命令とは……」
「第808管理世界に向かえとの事です」
「ちっ、まともに制圧も出来んのか? グラン・バッシャーは」
 面倒くさそうにアルバリッシュは、言った。
「神聖皇帝の命令じゃ仕方ない…… 全艦、発進準備!」
「全艦、発進準備!」
 副官は、各艦に命令を伝えた。
間を置かずに各艦から準備完了の返信が来た。
「司令、全艦発進準備整いました。 何時でも、第808管理世界に向かえます」



 第97管理外世界―――
「モコナ、この辺なの?」
「モコナに任せておけ!」
 モコナは、狐のおでんやへ二人を案内する。
「其のおでんやさんは、何処なの?」
「直ぐ其処……」
「何も無いじゃない!」 
 アリサは、モコナに言った。
「まだ、時間が早いからな……」
 狐のおでんやさんは、夜だけこの場で店を出しているからだ。
「仕方ないから、車を呼ぶわ」
 そう言って、携帯電話で車を呼ぶアリサ。
車を待っている間に、店が始まる時間になった。



 狐のおでんやさん―――
「おや、モコナさん。 お久しぶりです」
「久しぶり!」
「其方は、初めてのお客さんですね」
 店主は、すずかとアリサに言った。
「月村すずかです」
「アリサ・バニングスです」
「月村? では、貴女は“夜の一族”のヒトですね」
 おでんやの店主も珍しがっていた。
「そう言えば、侑子さんが之でおでんを買ってきてくれって……」
 すずかは、包みを店主に渡した。
包みを開けた店主は、嬉しそうに言った。
「では、之を『対価』にしましょう」
 店主は、入れ物におでんを入れ包みで来るんだ。
「モコナさん。 侑子さんに伝言をお願いできますか?」
「おう」
「『近々、店に訪ねていくと』伝えておいてください」
 
 気が付くと、其処には店は無かった。
すずかとアリサ、モコナはおでんを手にバニングス家の車で魔女の店へ戻った。




 設定資料

 グラン・バッシャー
 次元世界の征圧部隊の一司令。
 第808管理世界の制圧担当も苦戦中。


 アルバリッシュ・ソラリスク
 次元世界征圧部隊の一司令。
 階級は、提督。
 最も早く担当分の世界の制圧を終えた。


 モコナ=ソエル=・モドキ
 異世界の旅から戻ってきてラーグと漫才を繰り広げている。
 クロウ・リードと侑子によって、創造主モコナを模して創られた。


 モコナ=ラーグ=モドキ
 クロウ・リードと侑子によって、創造主モコナを模して創られた。
 ソエルと次いで創られた。
 通称、黒モコナ


 アルクェイド・ブリュンスタッド
 月姫のヒロイン。 『真祖の姫君』 、『白の吸血姫』と呼ばれている。
 志貴に殺されて性格が変わっている。


 弓塚さつき
 ロアなき今、『真祖の姫君』唯一の眷属。
 ずば抜けたポテンシャルから吸血されて一昼夜で“死徒”として蘇生。
 固有結界『枯渇庭園』を身に着けている。


 シオン・エルトナム・アトラシア
 アトラス院の錬金術師。
 さつきと路地裏同盟を組んでいる。


 おでんやの店主
 侑子の古くからの知り合い。
 夜な夜な、おでんやを出している。




 あとがき
 今回のお話は、いかがでしたか?
 久々に、敵対組織の模様を書きました。
 着々と次元世界を侵略して行ってます。
 とうとう、彼女たちを出しちゃいました〜 殺人貴は、もうちょい先で登場予定。
 彼女たちの参戦は、もう少し先になるはず……

 次回は、バトルが多めの話にする予定です。
 

 ご意見、感想お待ちしています。





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