侑子の店―――
 埋葬機関のシエルが去ってゼルレッチによる魔術指導が再開された。
其の訓練に、何故かアルクェイドも加わっていた。
「魔力の操作は、ほぼ問題ないの……」
 ゼルレッチは、二人の上達の早さに驚いていた。
「二人の成長の早さには、目を見張るものがある」
「それにしても早くない?」
「そう言われて見れば、確かに早いのう」
「やっと気づいたようね。 ゼルレッチ。 アルクェイド」
「魔女よ、お前は知っておったのだな……」
「えぇ。 すずかちゃんが、初期の頃の“夜の一族”と同等の力を持っていることもね」
「ヤハリ、そうであったか…… どうりで上達速度が速いわけか」
「爺。 初期の頃なんてもんじゃないわ。 鍛えようによっては、それ以上になるかもしれないわ」
 アルクェイドもすずかの力に気づき始めた。
「休憩が終われば、個人レッスンにはいるかの」



 時空管理局本局―――
「クロノくん。 すずかさんとアリサさんの訓練は、順調ですよ」
 エリオルは、クロノに言った。
「すずかとアリサの訓練は、順調か……」
「クロノくん、次元航行本部で何かあったのですか?」
「次元航行艦全艦は、一両日中に整備を終え出撃体制の上、待機との命令を受けた」
「それは、ないはずです。 此の件に、彼の三提督が介入します」
「柊沢!! 姿が見えないと思ったら、伝説の三提督と逢っていたのか?」
「はい。 其の通りです」
「まさかとは思うけど、今回の命令には裏があるのだろう?」
「よくお分かりになりましたね。 其の通りです」
「ヤハリか……」
「今回の命令は、私が伝説の三提督にお願いして艦隊司令部に出させたものです。 
艦隊本部に巣くう狐をおびき出すための作戦です」
 如何やら、本局に狐がいついているようだ。
「狐って動物のか?」
「いいえ、違います。 私の言う狐は、『ガトランチス』の手の者のことです」
「本局の中にも居たのか!?」
 大声を上げるクロノにエリオルがトーンを下げるように言う。
「クロノくん、狐は一人とは限りません」
 エリオルは、狐が一匹じゃないと言った。
捕まえるときは、一匹逃さずに捕らえなければならないと説明する。
「クロノ君には、餌になってもらいます。 なってくれますか?」
「餌って、あの餌だよな……」
「其の想像であっています」
「若しかして、なのはやフェイトも関わるんじゃないだろうな……」
「よくお分かりで……」
 其れを聞いたクロノの顔から血の気が引いた。
其の先の出来事に直面する狐の気持ちが分かったからだ。

 管理局に巣くう狐狩りの準備が着々と進んでいた。
そして、着実に狐を包囲しつつあった。



 魔法少女リリカルなのは -RESERVoir CHRoNiCLE-
 ―第一部『ガトランチスの進撃』― 第十五話『覚醒!! 月村すずかの新たな力』





 侑子の店―――
「さて、休憩はしまいじゃ!! 今度は、個人レッスンじゃの」
 ゼルレッチが、個人レッスンの開始と言った。
「金髪の娘は、ワシが個人的に指導をしてやろう…… “炎”の魔術を仕込んでやるわい」
「私が、すずかちゃんってわけね」
 すずか、アリサと個人レッスンの相手が決まった。
アリサは、ゼルレッチ。 すずかは、アルクェイドだ。
「個人レッスンするには、ちと狭いのう。 広い場所は、ないかな?」
「そう言えば、一時間で一月分の訓練が出来るという道具を使えば……」
 すずかが、思い出したように言った。
「エリオルが創った“時の空間”ね。 貴女達が使うのは、其れの改良型“時の箱庭”よ。 
“時の箱庭”は、同じ一時間でも中での時間はちう。 中での時間は、一年よ」
「それなら、時間も十分じゃ。 個人レッスンは、“時の箱庭”とやらで行う」 
 ゼルレッチは、個人レッスンを“時の箱庭”で行うという。

 “時の箱庭”は、一室の中央のテーブルの上に置かれていた。
「今、四時だから一時間たったら出てこれるから……」
 侑子がそう言うと四人は、方陣の上に乗った。



 時の箱庭―――
「此処が、“時の箱庭”の中?」
 すずかたちは、さっき見ていた中に居るのだ。
「さて、時間も限られておる。 早いところ始めるぞい」
 早くも指導を始めるというゼルレッチ。
「言い忘れるところだったが、管理局のデバイスは使用禁止じゃからな……」
「其の前に、此の空間に慣れさせてよ」
「類似の空間で訓練をした事は、あるのだろう……」
 ゼルレッチの問いに頷くすずかとアリサ。
「なら、問題あるまい。 二人には、一年で次の課題を極めてもらう」
 二人に課題を課すゼルレッチ。
「先ず、血の気の多い娘には、炎の魔術を極めてもらう。 可能ならば、魔眼も開眼させる。
そして、“夜の一族”の娘には、“夜の一族の魔法”と“月”の魔術、更には“固有結界”若し
くは、“空想具現化マーブルファタズム”を習得してもらう」
「何で、私が“炎”の魔術だけで、すずかが、あんなに多くの課題をやるのよ!!」
「やれやれ、口の減らない弟子じゃの」
 ため息をつくゼルレッチ。
「其のうち、分かるじゃろうから説明はせんぞ」
 其の一言で、片付けるゼルレッチ。

「術式が変わるだけで、こうも苦労しなくてはならないの!?」
 アリサは、炎の魔術に苦戦していた。
「管理局のデバイスに頼らない魔術は、大変じゃろう?」
 アリサを指導しつつ言うゼルレッチ。
「まったく違う術式を覚えろと言う方が無茶よ!!」
 不満をブチ撒くアリサ。
「不満を言う暇があったら、早く習得する事じゃな…… 既に二週間を費やしておるのじゃぞ」
 “時の箱庭”で、二週間の時を過ごしていた。


「まだ、詠唱に込める魔力に無駄があるよ」
 アルクェイドは、すずかの指導をしていた。
「“夜の一族の魔法”は、如何いうものかは知らないけど、今のままじゃ成功しないよ」
「何で、発動しないのかしら? “月”の魔術属性と関係あるのかな」
 すずかは、疑問を言った。
「時間は、まだ一杯あるんだから気長にしなさい。 たった二週間で“月”の魔術をあらかた会得
したんだから……」
「気長って言っても後、11ヶ月しかないのですけど……」
 そう、“時の箱庭”と言えど後11ヶ月しかないのだ。


 そして、“時の箱庭”で2ヶ月が過ぎたある日……
「夜の調を月の光の下、集え!! 流る星の光よ、闇を煌け“魔砲流光弾”」
 すずかが唱え発動した“夜の一族の魔法”の一つ。
其れは、なのはのスターライトブレイカーとそっくりだった。 だが、違うのは魔力の光と威力だった。
「ちょ、一寸、なんなの? あの威力」
 すずかを指導していたアルクェイドは、驚いた。

「如何やら、覚醒したようじゃの…… 此の過負荷の掛かった空間であの威力とはの」
 アリサを指導中のゼルレッチは、驚いた。
既に失われた“夜の一族の魔法”が予想以上の威力があったからだ。
「何なのよ!! なのはの魔法よりヤバイんじゃないの!?」
 アリサは、すずかの魔法が、なのはの魔法よりヤバイと言った。
それは、フェイトやはやてから聞いている以上の威力だった。
「さて、休憩の時間じゃ!!」
 休憩時間じゃと言うゼルレッチ。


「“夜の一族”の娘!! 違う魔法を使ってみてくれ」
 確認の為、すずかに言うゼルレッチ。
「休憩じゃなかったのですか?」
「お前さんが、覚醒したかの確認をするための休憩じゃ。 言われたとおり違う呪文を唱えるのじゃ」
 
「夜天に集いし満天の星々を闇夜で蔽い隠せ!! 無光夜陰」
 すずかは、別の呪文を唱えた。
すると、星空だた“時の箱庭”が闇に覆われた。 一光の光もない闇に…… 
「ほう。 闇を呼ぶ魔法か…… “夜の一族”もとんだ、魔法を生み出したもんよ」
 だが、其れだけではなかった。
「月明かりに照らされ輝き出でる夜の王国。 夜の闇に照らされし古き都。 滅び去りし“夜の一族”の
王国よ、今此処に現れん」

月夜王国!!」

 すずかが、詠唱を終えると古き王国が出現した。
「固有結界か?」
 分析をするゼルレッチ。
「“固有結界”とも、“夜の一族の魔法”とも違う。 間違いない。 之は、“空想具現化マーブルファタズム”じゃな」
「一寸、爺。 説明してよ。 何で、“死徒”でも無いのに“空想具現化マーブルファタズム”が出来るのよ!!」
「その娘に流れる“夜の一族”の血がそうさせたのじゃろう……」
 すずかが、使ったのは“空想具現化マーブルファタズム”だった。
“固有結界”とは違い触れる事ができる幻なのだ。
「驚く事は、あるまい。 姫よ……」
 すずかとアリサの指導が続く一方で、外の世界では……


 侑子の店―――
「さつき、何時まで寝ているつもりですか? 其れでは、何時までたっても志貴とデートが出来ませんよ!!」 
 屋敷の中で、ダルそうに寝ているさつきに言った。
「だって、隠れろって言ったのシオンでしょ」
 さつきは、シエルに見つからないよう隠れていたら、いつの間にか寝ていたようである。
「さつき!! 魔女に頼んで日の光の下で行動できるようにしてもらう対価は、持っていないのです」
「いいわ、其のネガイ叶えてあげましょう」
 ネガイを叶えてあげると言う侑子。
「二人には、全てが終わった後、対価分、此処で働いてもらうから……」
 そう言うと侑子は、さつきに魔法をかけた。
すると、さつきは、その場に倒れてしまった。
「シオン、中に運んであげなさい」
「魔女。 本当に、さつきは太陽を克服したのですか?」
「明日には、日の光の下でも行動できるわ。 で、シオン。 早速貴女には、働いてもらうわよ」
「わかっています。 魔術の基本は、等価交換ですから」
 そして、シオンは侑子の店で働く事になった。
其の頃には、四人が“時の箱庭”に入って50分が経とうとしていた。



 時の箱庭―――
「残り時間も2ヶ月じゃな…… そろそろ、仕上げと行くかの」
 “時の箱庭”での修行も残す時は、後二月となっていた。
「すずか。 手加減しないからね!!」
「アリサもね……」
 アリサとすずかは、模擬戦をしている。
お互い、デバイスを起動させず騎士甲冑のみを装着している。 そうでないと怪我じゃすまないからだ。
二人の戦闘力は、既にヒトの域を超えているのだ。 更にすずかは、“夜の一族”の力をフルに使っての
戦闘がある。 当然と言えば、当然なのだが生身の人間が太刀打ちできるわけが無いのだ。
「燃えなさい!!」
 ボンと炎が、燃え上がる。
アリサが放った炎がすずかを襲う。 
「其の程度の炎、効かないよ」
 すずかは、氷結の魔術でアリサの炎を凍らせた。
「やるわね、すずか!! 今度のは、如何する?」
 アリサは、そう言って別の魔術を使った。
「炎の雨よ降り注げ!!」
 今度は、火の雨がすずかを焼き尽くさんと降り注いだ。
だが、其れも涼しい顔をして防ぐすずか。
「其の身を氷で覆い尽くしなさい!!」
 すずかは、“氷の牢獄”でアリサを閉じ込めようとする。
激しい戦闘で床のタイルは、ひび割れめくれあがっているところがある。
「そんな氷、溶かしてやるわよ」
「逆にアリサちゃんの炎を凍りつかせてあげるよ」




 侑子の店―――
四月一日ワタヌキ!!」
「何ですか!? 侑子さん」
「冷えた飲み物とお絞りを用意しなさい」
「もう、一時間経つのですか?」
「言われた通りにしなさい」 
 侑子は、四月一日ワタヌキに冷えた飲み物とお絞りを用意するよう命じた。
「相変わらず、人使い粗いよなぁ」
「何か言った? 四月一日ワタヌキ!!」
「いえ。 何でもありません」
 そして、四月一日ワタヌキが準備をしている間に4人が“時の箱庭”から出てきた。
四月一日ワタヌキがグズグズしているから出てきたじゃない?」
「そんな事言ったって……」
 言い訳しつつ準備する四月一日ワタヌキ
「バイト代、減らすわよ」
 侑子は、四月一日ワタヌキにとどめの一言を言った。





 あとがき

 今回は、すずかとアリサをメインにお送りしました。
 すずかとアリサ、強くさせすぎたかな?
 すずかに空想具現化マーブルファタズムを使わせたいましたぁ。
 流石に一時間で一年分の特訓が出来る“時の箱庭”は、無茶な設定だったか?
 
 


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