手に持った花束を、とりあえずなのはに渡すまではどうしてようか、とユーノは思う。
花束は、どこかに置いておくにははっきり言って大きい。
とは言え、見せて周るのも何だか、嫌だ。

「となると、やっぱり。」

結局のところ、ユーノはいつもどおり、仕事場まで花を持って行く事にした。
司書長室なら、重力もあるし、一時的においておくくらいなら、特に困った事はない。

「それじゃ、急ごう。」

元より、花を贈ろうと思ったのは、海鳴を歩いていた時だった。
すずかの家に行く途中の事。
ユーノは結婚式を目にした。
小さな教会で、小さく行われていたその式に、ユーノはたまたま出くわした。
別に、それほど気にしたわけでもなかった。
ただ、新婦がどこかなのはに似ていたから、気になった。
そして、空に放り投げられた花は、ユーノの眼に焼きついていた。
本当に幸せそうな顔をして、花を投げた花嫁と共に。

だから、なのはに花を贈ってみたい、と思ったのだ。

「調べてみたら、丁度良かったんだよね。」

名をローダンセ。
彼が選らんだ花の名前だ。
桃色の花びらが、いかにもなのはには合っていて。
そして、自身の思いを表現するのにも丁度良かった。

無限書庫に到着すると、既に何人かの司書がいた。

挨拶しながら司書長室へと体を進めるのだが、こちらに視線が向いてきている。
まあ、仕方がないか、と苦笑しながら、ユーノは司書長室のロックを解除し、中へと入る。
それと共に、ユーノの傍らに現れる幼子。
その子はニッコリと笑うと、ユーノに言った。

「やっぱり、この花は綺麗ですね、ユーノパパ。」
「うん、僕も、そう思う。」

幼子――イージス――の言葉に、ユーノもニッコリと微笑んだ。
あの日見た花は、イージスの眼も輝かしていた。
綺麗、と囁くように呟かれた言葉を、ユーノは覚えている。

花束を形の崩れないように固定して、ユーノは他に用意したお菓子などの類も準備する。
14日には司書たちとなのはにしかもらわらなかったが、15日には結局、フェイトやはやてからももらっている。
お返しはしっかり数だけ用意したので、多分大丈夫だ。
そして――

「はい、イージス。」
「…ユーノパパ?」

ヒョイ、と渡された飴を見て、イージスは首を傾げる。
イージスはあの日に何もユーノに渡していないのに、どうして、と。
それに気づいたユーノは、日頃のお礼だよ、と言う。

「それとも、いらない?」
「も、もらいます!」

ワアイ、と喜ぶイージスを見ながら、ユーノは、今日も楽しくなりそうだ、と思った。





「うん、そう、今日は離れれそうもないから。」

苦笑するユーノの後ろで、アルフが頭を下げていた。
さて、昼休み、と言う段階になって、アルフが一つ仕事を伝えるのを忘れていた事に気づいたのだ。
とは言え、他の司書達には既に仕事の配分が終わっているので仕方がない。
ユーノ達で終わらそう、と言う事になった。
まあ、それほどかかりそうもない。
1、2時間も残業すれば終わるだろう。
昼休みを使って、だが。

『分かった、じゃあ、昼休み中に、皆でそっちに行くね。』
「うん、待ってるよ。」

既に、司書たちへの返しは終わっている。
10倍返し、とたわけた事を抜かした司書には返さなかったが。
アルフにも普段のお礼、と『宝石の飴』と言うお菓子を渡した。
…見た目がいくら綺麗でも飴なのだが。
アルフはこれを食べるのは何とも微妙だねぇ、と苦笑していた。
本当は肉をあげようかと思っていたのだが、ザフィーラから肉を一緒に食べる事を聞いていたので、自粛だ。

そして、10分ほどすると、なのは達が3人連れたって書庫へと現れた。

「お疲れ様、皆。」
「お疲れ様、ユーノ君。」
「仕事やっとったわけやないけどね。」
「まあまあ、はやて。」

学校から来た3人に仕事上の常套句を話しながら、ユーノはちょっと待ってて、と言って司書長室へと入っていく。
その間、イージスとアルフと話しながら、3人は待つ。
そして、ユーノが司書長室から出てくると、その手には、ユーノの体も見えなくなりそうな、大きな花束があった。
それに目を剥く3人を尻目に、ユーノはなのは達の元へと戻ってくる。

「はい、フェイト、はやて。」
「あ…うん。」
「…ありがとう、な。」

返事を返して、お返しの高そうなクッキーを受け取った二人だったが、視線は花束に釘付けだ。
やはり女としては、こんな感じに誰かに花束をもらってみたい、と憧れを持っているのかもしれない。

「はい、なのは。」
「わあ…」

渡されるのは分かっていたけれども、いざ本当に渡されると、何とも言えない感慨が湧いてくる。
目の前を埋め尽くす、自身に渡された花束に、なのはは満面の笑みをこぼす。

「ユーノ君、花言葉って知ってるか?」

はやてがそう意地悪く言うのを聞いて、ユーノもそのままの笑みで答えた。

「『変わらぬ想い』だよ。」
「え?」
「この花、ローダンセの花言葉は『変わらぬ想い』。」

何や知ってたんか、と言うはやての言葉に苦笑しながらも、なのはとフェイトはどこか複雑そうな顔をする。

「変わらない、なんてことはない。」

それを考えるのを分かっていたかのように、ユーノは言葉を放つ。
ユーノがそう言うのを聞いて、なのはは首を傾げる。
それを見ながら、ユーノは更に言葉を続ける。

「変わらない想いなんて、存在しないさ。 それは理解している。」

言い切るユーノに、やはりなのはは首を傾げる。

「じゃあ、何で?」

聞かれて、ユーノは優しい目で、答えを言う。
それはとてもスムーズに口から出てきた。
ずっと考えていたから、当然ともいえたけど。

「想いは変わっても、その想いの意味は変わらないから。」
「想いの意味?」

一息ついた後に、ユーノは微笑みながら言う。
実はこの時、既にユーノはここがどこか完全に頭の中で吹っ飛んでしまっていたけど。

「なのはの事を愛しているって言う気持ちは、変わるけど、想いは変わらない、ずっと愛してる。」

あっさりと言い放ったユーノの言葉に、なのはの理解が追いつくと、なのはは顔を真っ赤にした。
ボッと正に火でもついたかのような勢いだ。
あうあう、となのはが何を返せずにうろたえていると。

「ちょお、ちょっと、誰かいません、今の台詞録音した人とか!?」

はやては周りで固まっている司書たちにそう聞いて周り。

「アルフ、告白とか生で見ちゃったよ、義母さんに連絡とかしたほうがいいのかな、それとも救急車、110番!?」

フェイトは本当の意味での生での愛の告白に混乱をきたし。

「ちょ、ちょっと、はやてもフェイトも落ち着きな!」

アルフも真っ赤になりつつも二人を止めに行き。

「ユーノパパもなのはママもラブラブ…」

イージスは羨ましそうに二人を眺めていた。
と言うより、寂しそうな感じだ。

そんな光景を視界の端に収めながら、あ〜、とユーノはちょっと内心、後悔していた。
なのはは周りで騒いでる言葉から、自分が言われた言葉を何度の脳内で再生している。
グルグルと目を回しそうな勢いのなのはに、ユーノはちょっと心配になったりもした。

「な、なのは?」
「ユ、ユーノ君、私も愛してるよ!」

やっぱり、なのはも混乱していたらしい。





混乱収まり、午後の無限書庫。

「ユーノく〜ん。」
「…リミエッタ補佐官、今は勤務中ですけど。」
「…なのはちゃんから聞いたよ、愛のこ・く・は・く。」
「…聞きましたよ、休憩時間中に――」
「ストップ、ストップ、誰から聞いたの!?」
「…ただのかまかけです。」

うっ、と赤くなってうろたえるエイミィの後ろに、溜息をついているクロノが小さく見える。
まあ、自分ほど暴走することなどないであろう彼の事だ、黙っておいてあげるのが吉だろう。

「それで、用はなんですか?」
「あ、うん…さっきの黙っててよ?」
「はい、分かりました。」

僕は黙ってます、後ろのアルフは知りません、と内心呟く。
ちなみに、アルフはどうやってクロノをからかったもんかね、と考えていた。

「え、とね、今日は何時ごろに終わりそう?」
「そうですね…地球時間だったら、8時か9時には。」
「う〜ん…それじゃ、なるべく9時にはハラウオン宅に来てくれる、ちょっと皆の前で発表したい事があるから。」
「9時ですか…分かりました。」

ちょっと頑張ればそれくらい何とかなるだろう、と考え、ユーノは頷く。
返事を返すと、じゃあ、お仕事頑張ってね、と通信は切れた。
それから、ユーノは首を捻る。

「何か知ってる、アルフ?」
「ううん、あたしは知らないね。」
「何なんでしょう?」

ユーノとアルフとイージスがちょっと考えたみたが、思いつくことはない。
しかし、皆の前で、と言っていたのだ、何かしら大きな事なのだろう。
ふむ、と3人で頷くと、仕事を急いで終わらす事にした。

「でもアルフは7時であがりなよ。」
「そうですね、ザフィーラさんのところに行ってくださいね。」
「ちょ、ちょ…」

まあ、そんなやり取りもあり。






「はい、皆さん、集まってくださってありがとうございます。」

午後9時、リビングの向こう側に一人で立っているエイミィ。
その隣にはリンディとクロノが座っている。
そして、対面に座っているメンバーを紹介すると、とても多い。

なのは、ユーノ、イージス、リインフォース。
フェイト、アルフ、レティ。
はやて、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ。
アリサ、すずか、恭也、忍。

「凄い人の量だね、ユーノ君。」

すずかに言われて、今更ながらに再確認。
確かに凄い面子で、凄い人の量だ。
ちなみに、イージスとリインは小さくなって最近の指定席であるユーノの肩に座っている。
すずかへのプレゼントは、花を取りに来た時に渡している。
何かと言えば、少し前に作った、防御魔法のかかったブローチである。
一回だけだが、バリアジャケットクラスの防御能力を発揮するらしい。
とは言え、ユーノもたまたま出来ただけなので、もう一度同じものを作る事はできなかったのだが。
イージスと一緒に作ったので、何か関係しているのかもしれないが、詳細は不明だ。
すずかも喜んでくれたので、ユーノも満足だった。

「ええ〜と…それでは、発表させていただくのですが…」

言い募るうちに赤くなっていくエイミィに、一同は首を傾げる。
何だろう、と思っていると、エイミィが意を決したように言葉を紡いだ。

「え、と…クロノ君との子供を…その…妊娠しました!」

シーン…
シーン…
シーン…

長い、長い沈黙だった。
誰一人身じろぎもせずに、ピタッと、人形のように停止していた。
まあ、普通に動いている人間もいるが。

「へ〜、雫の友達になれるかしらね?」
「ふむ、めでたいことだな。」

忍と恭也がのんびりそんな会話をしているのを聞いて、一堂は、ゆっくりと口を開いた。

『えええええええええええええ〜!?』

ただの驚きの声だったが。

「ほ、本当か、エイミィ!?」
「本当ですよ〜、私が診察しました。」

クロノが一緒に驚きの声を上げているのを見て、シャマルは意地悪くそう言う。

「クロノ、やったわね!」
「クロノ君も淡白そうに見えてやることやってたのね。」

リンディとレティに言われて、クロノは、正直信じられない、と言った顔をしていた。
しかし、エイミィと目が合うと、ジワジワと実感が湧いてきた。
子供、子供…

「子供、子供だって、アルフ、エイミィ、ほら、無茶しちゃ駄目だよ、産婦人科に連絡して、入院だ、119、119番だよ、アルフ!」
「落ち着け、フェイト!」
「そうだよ、シグナムの言うとおり…」
「救急車を呼ぶよりも、私達が運んだ方が速い!」
「そうですね、シグナム!」
「えええ!?」
「違うわ、シグナム、母体の影響を考えても、それはタブーよ!」
「馬鹿、何言ってんだよ、速いほうがいいだろうが!」
「ほら、早く、入院の準備や、エイミィさん!」
「落ち着いてください、はやてちゃん!」

凄まじく早い論理展開を見せている集団。

「アリサちゃん、赤ちゃんだって。」
「おめでとうございます、って所よね。」
「いいなぁ、私も欲しい。」
「そうねぇ…ってあんたいきなり何言ってんのよ!?」
「いきなりじゃないよ、イージスちゃん見てからずっと思ってるよ?」
「そう言う意味じゃないでしょうが!」
「ほら、ユーノ君との子供とか出来たら欲しいじゃない。」
「…そう言う事は本人に言いなさい。」
「え〜、恥ずかしくて言えないよ。」
「私だといいっていうの!?」

二人である意味大混乱。

「え〜と…エイミィさん、クロノ、おめでとう。」
「おめでとうございます。」
「赤ちゃん…わぁ〜」
「プニプニしててとっても可愛いんですよ!」
「ありがとうね、4人とも。」
「あ…ああ…いや、何だか、その…な、実感がジワジワと…」
「しっかりしなよ、クロノ。」
「…いや、何と言うか、な、ああ。そのエイミィ…」
「何、クロノ君。」
「その…こういうものなのかは分からないが…ありがとう。」
「…うん。」

しっとりとした雰囲気と、普通に祝福している集団。
子供二人も加えて、とてもいい雰囲気だ。

「何を言っているんや、フェイトちゃん!」
「そっちこそ、おかしいよ、はやて、父親似の娘が幸せになれるなんて、迷信だよ!」
「クロノ君みたいに、仏頂面や言うてるわけやない!」
「エイミィさんみたいな息子さんの方が明るくていいんじゃないかな?」
「――――!」
「――!」





「あ〜あ、皆、凄い騒ぎっぷりだね。」
「私が生まれたときは、こんなに騒いでくれなかったのに。」

ちょっとイージスが寂しがっているのを感じて、ユーノとなのはは顔を見合すと、クスリ、と笑ってから、イージスの頭を二人で撫でてあげる。
そのゆっくりとした一定のリズムで撫でられて、イージスは気持ち良さそうにしている。

「大丈夫です、イージスちゃんが生まれたとき、リインはとっても嬉しがったです。」
「そうだよ、リインは、イージスが生まれたときに、祝福の言葉をかけてくれたんだ。」

リインとなのはにそう言われて、イージスは微笑む。

「祝福の風、リインフォースの祝福だよ、ご利益充分だと思わない?」
「そうだね、勿論、僕となのはもとっても嬉しい、と思ったよ。」
「ユーノパパ、なのはママ…」

えへへ、と笑うイージスの両の頬に、なのはとユーノは軽くキスをする。
くすぐったくて嬉しくて、イージスは満面の笑みを浮かべて、二人に抱きついた。

「私達より、家族っぽいよね。」
「そうだが…あんな風な家族になりたいと思うのか、エイミィ?」
「そうだね…でも、私達は私達なりに、家族になろうね、クロノ君。」
「ああ…頑張っていこう。」

クロノとエイミィは笑うあい、未来を語る。
喧騒の中、たくさんの友人達が騒ぐ中、クロノは思う。
父さん、僕は、今、とても幸せです。

−終わり−

裏…長い!
暴走、混乱って、難しいなぁ…
文明さんはこの辺りの表現上手そうだなぁ。



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