※今回は、捏造的な部分がかなりあります。



謹慎があけて、一週間。

「ユーノにプレゼント?」
「うん。」

アリサは首を捻りながら、なのはに問い返す。
何か悩みがあるみたい、と皆で話を聞いてみたところ、なのはがそう言ったのだ。
学校での放課後、すずかの家での事だった。

「私、ユーノ君に何かもらってばかりだから、何かお返ししたいな、って。」

そう言うなのはに、フェイトとはやては顔を見合わせる。

「いや、なのはちゃん、ユーノ君はそう思ってないんとちゃう?」
「私も、そうだと思う。」

実際、ユーノに聞いてみれば、まず確実に答えは決まっているだろう、と二人は思ったのだ。
まず確実に、ユーノはユーノで自分は返しきれないものをもらっている、と答えるだろう。

「だいたい、なのははユーノの命の恩人だし、あのリボンもなのはがあげたんでしょ?」

出会った時、ユーノはなのはに命を救われた。
そして、髪の毛が伸びてきた時に、なのはから両サイドで髪を結んでいたリボンの片方をもらっている。
リボンはともかく、命を救われた恩を、ユーノが返しきれているかどうかは、アリサにはさっぱりだった。
しかし、それになのははちっとも納得がいかない、と言う顔をする。

「だって、魔法も、レイジングハートも、私に与えてくれたのは、ユーノ君だよ、それからも、ずっと頼ってばかりだったし。」

なのはの言い分に、フェイトもはやても、唸る。
二人からしてみても、それはとても恩に思わなければならない所なのだ。
ユーノがなのはに魔法を教えなかったら、フェイトもはやてもこんな所でこうしてはいないだろう。
フェイトは自身の事を考えて、なのはがいなければ、確実に母に裏切られた時に死んでいる、と考える。
はやては、自身の事を考えて、なのはがいなければ、永久に氷の棺に凍らされて眠らされているか、アルカンシェルで吹き飛ばされている、と考える。
今の幸せな生活があるのは、なのはのおかげであり、遡れば、ユーノのおかげ、と言う事になる。
勿論、クロノや他の皆のおかげでもあるが。

「フェイトちゃんやはやてちゃんとも、今見たいな関係になれたのは、ユーノ君と出会って、ユーノ君が教えてくれた事があったからだもん。」

なのはの言葉に、フェイトとはやては深く頷き、アリサとすずかもそうか、と顔を綻ばせる。
とは言え、ユーノにそう言えば、全部なのはが頑張ったから、と言うだろうか。
それとも、自分は死にかけた挙句に、命の恩人に全部頼ってしまった人間だと言うだろうか。

「その可能性もあるんよね〜」

はやては、ユーノの自信の無さ、と言うものを良く知っている。
それも仕方が無いのかもしれない、とは時に思う。
何せ、周りの人間は天才とも取れる人間がほとんどであり、それは自身を霞ませる結果となっている。
実際には、皆が皆、天才といえる分野を持っているだけ、とも言える。
そして、ユーノも確実に、天才の一人なのだが。
何せ、遺跡探索の一族であるスクライア一族の中で、ユーノは9歳にして既に遺跡発掘責任者を任せられていたのだ。
その手の才能が群を抜いているのは確かだが…

「ほんまは、それだけじゃ嫌なんやろうな。」

ハァ、と溜息をつくはやてを、他の4人はジッと見つめる。
視線に気づいたはやては、何でもない、と手を振るが、到底通じる事もなかった。

「何かいいネタでもあったの?」

プレゼントの話だったか、とはやては思い出しながら、ここは一つ意識の方向を変える意味をかねて、と、冗談を放つ事にした。

「それはな、なのはちゃんが裸にリボン巻いて、『私をあげる』って言うのが一番喜ぶんとちゃうかな?」

あまりに、と言えばあまりにな発想に、アリサとフェイトは呆れ顔ではやてを見る。

「はやて、発想がおやじ…」
「まあ、確かに喜んでくれそうだけどね。」

と、二人は真っ当な意見を返したのだが、予想外だったのは、後の二人だった。
ぽっぽ〜、と顔を真っ赤にしたなのははチラチラと徐に自身の髪の毛に眼を向ける。
遡っていくとそこにはリボンがあるわけで。

「なのはちゃん、冗談だよ。」

何故か酷く醒めた眼のすずかに言われて、なのははハッとして我に返る。
一体、何を想像していたのだろうか。
そのなのはの様子に、フェイトとはやてとアリサは、顔を少し赤くして冷や汗を流す。
そして、すずかの様子に、どこか恐怖を感じるのだった。

「ま、まあ、冗談はともかく、結局、何が良いと思う?」

まだ少し顔が赤いなのはの言葉に、一堂はウ〜ン、と唸る。
何せ、ユーノと言う男は、基本的に本と遺跡以外に物欲があるのかも良く分からない少年だ。
勿論、衣食住揃っていてこそでもあるのだが。
まあ衣食はともかく、住は無くても、勝手に色々とどこかに行きそうではあるが。
性格をよく考えてみれば、基本的に余程迷惑なものでもない限り、確実に喜ぶであろうし。
と言うか、ガラクタを渡しても、何かしら歴史的見地から喜ぶ可能性すらある。
プレゼントを上げるとなれば、ある意味何とも難しい話であった。

「どうして、私達の周りの男はこんなんばっかりなんや〜!」

叫ぶはやての台詞に、フェイトは重々しく頷いた。
多分、二人はクロノのことも含めて言っているのだろう。
フェイトがクロノの誕生日にプレゼントをと言った記憶が思い起こされる。
はっきり言って、何をあげたら喜ぶのかさっぱり分からなかったのだ。
実践的な戦術教本でもあげたら喜ぶだろうか、などと、なのは、フェイト、はやては頭をつきあわせて考え込んだものである。
結果的に、鉢植えを贈ってみた。
殺風景な部屋に、彩りが出来た、と喜んでくれた。
3人で思わずホッとしたものである。

「こうやって考えると、難しいね。」

本をあげる、と言うのはさすがになんだし、アクセサリー類も、唸ってしまうところだ。

「まあ、ユーノ君が今、一番欲しいものなんて、すぐ分かると言えば分かるんやけど…」
「本当、はやてちゃん?」

はやては苦笑いしながら、なのはに言う。

「人手。」
「……そうだね。」

思わず目頭を押さえてなのはは顔を背けた。
十日謹慎の後無限書庫に戻ったユーノを待っていたのは、溜まりに溜まった仕事であった。
十日間休んでのエネルギー充分の状態とは言え、多いものは多いのだ。
まあ、ユーノも半ばそれを覚悟していたから、まだマシなのだが。

「…ユーノ君の欲しいもの…かぁ、分かると言えば分かるよ?」

今度の発言者はすずか。
思わず全員の視線が集中したのは、きっと期待度が尤も高いからだろう。
しかし、恋人の自身よりもそこが高いのには、なのはにしてみれば、非常に複雑な所だが。

「前提として、ユーノ君は一人で寂しくお仕事中、ストレスが溜まってるよね?」

コクリ、と全員頷く。
司書長、と部下達に親しみを覚えられる人柄ではあったが、それでもそこは部下と上司。
あまり仲良くできたものでもないし、さすがに長い連続の仕事でストレスを抱えているのは間違いないだろう。

「さらには、人手が欲しいんだよね?」

これにも一堂はコクリ。
無限書庫の人手は、いつだって足りないのだ。
基本的に事務職なのだが、それでも、まだまだ整理のつかない無限書庫に勤務するには、それ相応の能力を求められる。
しかし、悲しいかな、事務的側面の魔法を発達させた人間は少なかった。

「だったら、答えは一つ。」

すずかがボソボソと答えを一つ言うと、一堂はあっ、と驚きの声を上げた。
思わず、両手でポンと音を鳴らしてしまったほどだ。
しかし、とはやては唸る。

「どのくらいの値段なんや?」
「フェイトは知らないの?」

はやての疑問に、アリサは知っていそうなフェイトに声をかける。
フェイトはう〜ん、と唸ると、結局、首を傾げることとなった。

「私も、いまいち詳しくないけど、お給料三ヶ月分くらい?」
「…それって、結構高いよね。」
「でも、物によっては多少安いかな?」
「この辺りは、一度用相談やな、リンディさん辺りが的確とちゃう?」
「そうだね、物が決まれば、後は行動あるのみだよ!」

相談の最後に、なのはがお〜、と気合を入れると、はやてとフェイトも続いてお〜、と声を上げる。
すずかはそれを見て微笑み、アリサはまあ、勝手にしなさいと笑っていた。




リリカルなのは「プレゼント フォー ユー」




時間は早流れ、相談より一月の時間が経過していた。
その間に、ユーノとなのはがまともに会えたのが、ほぼ五日ほど。
どうにも休みが取れないユーノの所に、休みが取れたなのはが手伝いに来た、と言うのが会えた理由である。
やはり、さすがに十日も最大のカードであるユーノが抜けていたのは大きかった。
自分のせいでこうしてしわ寄せが来るのは仕方が無い、と言えた。

「僕の能力がもう少し高ければね。」

愚痴を言いつつ、言っている本人は、管理局でも有数、もしかしたらTOPかもしれない程に熟達した検索魔法の達人なのだが。
しかし、それでもユーノは思う。
もっと魔法の腕が上がって、仕事を早く片付けれたら、なのはに会いに行けるんだけどな、と。
さすがにここまで休みがないのは、今月中だけなのだろうけど、それでも充分忙しい。

「仕事量と人員の量があってないよ、絶対。」

ハァ、と溜息をつくその姿は、責任者の憂鬱を分からしてくれる。
無限書庫に勤務している人間自体が少ない。
ユーノ個人が休みを取れないのは仕方がないが、部下達にまでオーバーワークさせているのは非常に気にかかった。
どうにかして、状況を打破したいと思っているのはいつだって変わらない。

「スクライア司書長。」
「ん、どうしたの?」

一人の司書が話しかけてきて、ユーノは思考を切り替える。

「通信です、マリーと言う人から。」
「マリーさん?」

はて、とユーノは頭の中を回転させて記憶を探す。
しかし、いくら探ってみても、全くと言っていいほど、呼ばれる理由は思いつかなかった。
なので、素直に通信を開く。

「マリーさん?」
『こんにちわ、ユーノ君。』

通信画面に現れた顔に、ユーノは顔を捻る。
本当に、呼ばれる理由がさっぱり分からなかった。
何かデバイスのための資料請求なのだろうか、と思いつつ、しかし、それなら直に通信をかけてくる理由はない。

「レイジングハートに何かあったんですか?」

かろうじて思いついた理由はそんなところだった。
少々不安があったが、それも杞憂だったのか、マリーはすぐに苦笑して首を振った。

『今日はちょっと用事があって、こっちまで来てくれる?』
「今すぐですか?」

自身の周りに浮く本の山を眺めながらユーノは難色を示す。
しかし、マリーはその言葉にクスリ、と笑うと、誇らしげに言った。

『大丈夫です、時間を取らせた分、はかどる事は確定してます。』

余りにも自信ありげに言い切ったマリーに、ユーノは思わず眼を見開き、苦笑してから、了承の意を送った。



デバイスが整備されている中、ユーノはマリーの姿を探していた。
ふと、眼にうつるのは、クロノのS2Uやデュランダルに似た杖型ストレージデバイス。
レインジングハートのようなインテリジェントデバイスもきっとあるんだろうな、と思いながら、デバイスを見る。
その中に一つ、見知ったデバイスがあった。

「レヴァンテイン?」
『Ja』

思わず声を上げれば、その剣型アームドデバイスは、返事を返した。
ウェイトモードでもなく、剣の形をしたまま置いてある。

「先日、シグナムさんが、フェイトさんとの模擬戦で無茶をされて、整備中なんですよ。」
「マリーさん。」

苦笑と共に現れたマリーに、ユーノは苦笑を返す。
フェイトとシグナムの一対一の模擬戦は、有名だ。
最早、模擬戦ではない、と言う印象を持っている人も多いくらいだ。

「降ってくるザンバーを相手に、シュツルムファウケンを零距離射撃しまして。」
「…うわぁ。」

双方、最大攻撃力を誇る一撃なのだ。
それが零距離で炸裂し合ったと言うのなら、一体お互いのデバイスのダメージはいかほどなのか。

「バルディッシュは幸い中枢はノーダメージでしたので、フレームの整備だけですんだのですけど…」
「レヴァンテインは入院中、と。」
『…Ja』

心なしか、レヴァンテインからの返事の力が弱まった気がした。

「それで、マリーさん、何の用が?」

話題に一段落がついたので、ユーノはマリーに向けて当然の質問を出す。
それに、マリーはニコニコと応じて、こちらです、と手招きして誘った。
着いた場所は、一区画放れた小さな部屋。
そこでマリーは唐突に言った。

「実は用があるのは私じゃないんですよ。」
「え?」
「待っている人は中にいるので入ってください。」
「はぁ。」

何か納得がいかない気もしたが、入れと言われたら、入るしかない。
部屋の扉を開けると、そこには、なのはとフェイトとはやてが談笑していた。

「…なのは?」
「ユ、ユーノ君!?」
「お、主役のご登場やな。」
「それじゃ、私達は退散するね。」

勝手な事を言うと、はやてとフェイトはユーノの左肩と右肩をそれぞれ、ポン、と叩くと、そのまま部屋を出て行った。
何だろう、と思ったが、今は、なのはが緊張した面持ちで立っているほうが気にかかった。

「僕に用があるのは、なのはだったの?」
「う、うん、その。」

突然しどろもどろになって頭を振り回すような仕草をしているなのはに、ユーノは首を捻る。
そんな姿も可愛い、とある思考では思いつつ、ある思考では、本当にどうしたんだろう、と心配する。
マルチタスクで思考を行いながら、更に別の思考では、聞いたほうが早い、と冷静な答えをだしていた。
しかし、聞いてみてこの調子だったのだから、待ったほうがいい、と結局堂々巡りをしてしまって終わった。

「こ、これ!」

ブルブルと震える両手が差し出されて、その上にあったのは、新緑の色に輝く球体の宝石だった。
それは、かつての自身の相棒によく似ている、とユーノは思い、その後、すぐに気づいた。

「インテリジェントデバイス…?」
「そ、そうなの、ユーノ君にプレゼントしようと思って、皆に相談して…!」

ユーノの魔力的なデータはレイジングハートが保有していたら問題はなかった。
問題は、その後。
どのような仕様にするか、と言う部分だった。
ユーノは結界魔導士だ。
シャマルのクラールヴィントのように完全に補助を目指したものか、それとも何があっても対応できる万能型か。
更には、もう、インテリジェントデバイスの判断に、つまりユーノのデバイスとしてどのような形を目指すか、完全に任せるか、と言った所だ。
そして、何より…

「しかし、思ったよりデバイスて高いんやな。」
「S2Uも作った時はかなりかかったって。 完全にオーダーメイドだからだよ、きっと。」

外に出たはやてとフェイトはそんな事を話しながら歩いていた。

その言葉の通り、結局、なのはは管理局に入ってからの貯金の3分の2を切り崩したのであった。

「僕に…?」
「うん、私から、ユーノ君への感謝の気持ち。」

少々落ち着いてきたのか、なのはの口調が普通より少し高い程度になった。
感謝の気持ち、と聞いて、ユーノは少し寂しそうな顔をした。

「僕は…なのはに感謝してる。」
「…?」

突然、そんな事を言うユーノに、なのはは首を傾げる。

「でも、僕は、なのはに何も返せてないんだ。」

命を救われて、頼って。
その事を、ユーノはなのはに何一つとして返せていない、と思う。
6年も前になる、ユーノとなのはの出会いの時。
それをまだ、ユーノは返せていない、とそう思っていた。
しかし、なのははそれに対して首を振る。

「ユーノ君は、たくさん色んなものを私にくれたんだよ?」
「僕が…?」

今度はユーノが首を傾げる番だった。
そんなユーノの対して、なのはは幸せそうに笑う。
一度皆で会話した事だ、答えはもうとっくに、なのはの中にある。

「そうだよ。今私が持っているかけがえのない物、皆、ユーノ君と出会って、ユーノ君が私を頼ってくれたから、ここにあるんだよ。」

とてもとても大事そうに、なのはは自分の胸元で両手を握り締める。

「それに、私前に言ったよ、『会わなかったことは考えたくない』って。 それは、今がとても大切だからだよ。」

そう言って、なのははユーノの胸に顔を押し付ける。

「とっても大切な今をくれたのは、ユーノ君なんだよ。」
「…そっか…でも、なのはが頑張ったからだって部分も、忘れてないよね。」

ユーノはなのはを抱きしめて、その耳元に口を近づけ、静かに言った。

はやての想像部分には間違っていた部分がある。
ユーノは、自身のやった事を、人に言われて否定しようとは思わない。
勿論、それが自身の行動に基づく場合ではあるが。

「私は私のできる事を、一生懸命やってきたつもりだよ。」

だから、私は今ここにいる、と言う言葉が続くと、ユーノは静かにそれに頷いた。
二人が出会ったからこそ、紡がれたものは、たくさんあった。
だからこそ、それはユーノにとっても与えられた今であり、それはなのはから与えられたものだと、思っていた。
本当は、お相子なんだろうな、とユーノは思う。

「僕は駄目だね、なのはに同じ事を言われて、また思い出した。」
「駄目でもいいよ、私がユーノ君にずっと言ってあげるから。」
「それはちょっと、情けないかな。」

苦笑するユーノだったが、その顔にすぐに柔らかな笑みを浮かべた。

「なのは、指、貸して。」
「うん?」

ユーノのお願いに、なのはは左手を翳して、ユーノの眼の前に出した。
パッと開かれた手に、ユーノは自分の指を一本一本絡める。

「うん、ありがとう。」
「? うん?」

さっぱり行動の意味は分からなかったなのはだったが、ユーノは分かったと言う顔をして、頷いていた。

「ユーノ君、だから、受け取って。」

最初の行動を再開するなのはに、ユーノはその小さな宝玉をゆっくりとその掌に取った。
その瞬間に、宝玉は輝きを増して、表面に文字を映し出す。

<<名前をお願いいたします。>>
「ユーノ、ユーノ・スクライア。」

自律行動を取るインテリジェントデバイスなのだ。
きっと、外界からの情報も逐一手に入れているはず。
ならばこれはきっと、分かってて聞いているのだろう。

<<ユーノ、マスターユーノ、私の名前を呼んでください。>>

名前を呼ぶ。
それは、一個の個人として、その人を認める行動。
それは、きっと、このデバイスが最初のコンタクトとして、自身を認めて欲しいという現われなのだろう。
なのはに似ているな、と微笑ましく思う。
だから、ユーノはなのはを振り向いた。

「この子に、名前はあるの?」
「うん、私が、その、つけたんだ。」

苦労したんだよ、と笑うなのはに、ユーノは穏やかに笑う。

「ユーノ君を護って欲しい、って願いを込めて、心も体も、護ってくれるように、私がもしいなくても、ユーノ君を護ってくれるように。」

そして、静かに、なのははその名を伝える。
囁かれるように言われたその名前を、ユーノは己を護ってくれるようにと願いを込められたその名前を高らかと紡いだ。

「『イージス』」

紡がれたその名に呼応するかのように、新緑の宝石は、少しだけ光を放った。

<<私の、名前。>>

まるで照れたようにたどたどしく現れた文字に、ユーノは笑いながら、しかし、次の瞬間、イージスは度肝を抜いてくれた。

<<ユーノパパ、なのはママ、これからよろしくお願いします。>>

思わず、二人は吹いた。

「パ、パ?」
「ママ!?」

驚いた声を上げる二人に、イージスは少し間を取ってから答えた。

<<ええ、と、マリーがパパとママと呼べば喜ぶと言っていたから、言ってみたのですが…>>

思わず脱力した二人。 こうして、後に、俗に仲間内から、ユーノとなのはの長女、イージス・T・スクライアと呼ばれるデバイスは、産声を上げた。

ー終わりー



ーおまけー

「なのは〜」

あれから2週間程経って、イージスのおかげで思考処理速度が上がり、処理能力が向上したユーノはしっかりと休みをもぎ取った。
燦然とユーノの首元で輝くイージスの新緑の宝石は誇らしげに見えた。

「ユーノ君、どうしたの?」

休みの取れた足で、クラナガンまで出向き、用事を終わらして、そのまま仕事の合間に休憩中だったなのはの所にやってきたのだ。
一人で食堂で少々ボケッとしていた所に、ユーノがやってきたので、嬉しさもひとしおだった。
でも、もう行かなくてはいけない時刻が迫っていた。

「うん、なのはに渡すものがあって――」

と、ユーノが切り出した所で、唐突に食堂で食べていた他の人の会話が耳に入った。

「今日の午後の訓練、視察があるんだって。」
「視察って言っても、ハラオウン執務官と提督が見に来るだけだろ?」

そんな間がいいのか、悪いのか分からない会話を聞いて、なのはは時計を見上げて、青褪めた。

「クロノ君達との打ち合わせの時間が過ぎてる!」
「え!?」

今日の視察に対してと、訓練内容に対しての話しがあった、となのはは唐突に思い出す。
忘れていた事に後悔しながらも、なのはは素早く走り出そうとし――

「ユーノ君は後でもいいの!?」
「え、う〜ん、じゃあ、5秒。」

そう言うと、なのはの腰に手を回し、ユーノはかすめるように唇を触れ合わせた。
いきなりの動作に、なのははたっぷり5秒、頭を回転させる事ができなくなった。

「ほら、なのは、行って。」
「え、うううううあああああ〜〜〜〜!」

まるでロケットスタートのように顔を真っ赤にして走り出したなのはに苦笑しながら、ユーノは内心、ちょっと悪いことしたかな、と思った。

<<ユーノパパ、あれで良かったの?>>

パパ、と呼ばれるのにも慣れたなぁ、と思いながら、首元のイージスからの問いかけに、ユーノは苦笑する。

「うん、きっと今のなのはにはあれで良いと思うし、僕達は今はこんな形の時には最終的に上手くいくんだよ。」



「なのは、遅いぞ!」
「なのは、遅い。」
「うう…ごめん、二人とも。」

真っ赤になった顔は走ってきたからで言い訳つくよね、と思いながら、なのはは左手で汗を拭く。
そして、フェイトとクロノに視線を戻すと、フェイトとクロノは何か言いたげにして左手を凝視していた。

「どうしたの、二人とも?」
「どうしたのって…」
「なのは、その左手の…その――」
「左手?」

何かあったっけ、と思いながら左手を眺める。
左の掌、特に変わった所は見当たらない。
指。
親指、人指し指、中指…薬、指…!?

そこには、燦然と輝くプラチナの指輪がある。
シンプルなデザインながら、それだけに、綺麗に思えた。

「こ…こ…こ…こ…」

まるで壊れたテープレコーダーのように『こ』を繰り返すなのはに、フェイトはとりあえず聞いてみた。

「これは何?」

コクコクと頷くなのはに、なのはの相棒が一つ言った。
ちなみに、その相棒は最近、なのはをママと呼称するデバイスにおばさん呼ばわりされて割りと本気で怒った。

<<髪の所に、カードがあります>>
「カード?」

ヒョイ、とカードを取ったクロノは、それをなのはに渡す。
ゆっくりとそれを開いたなのはは真っ赤になってしまった。
それを覗き込んだフェイトの前には、たった一文、こう書いてあった。

『愛しい愛しい貴女に。 ユーノ・スクライア』

ー本当に終わりー


捏造設定だらけに。
本編ではユーノはもうデバイス持つことないでしょうしね。
でも、あったほうがいいような、と思ったので、出しちゃいました。
完全起動することはあるかな…イージス。
ちなみに、起動すると、名前どおりの姿になります。



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