「結界ですか?」
『うむ、訓練用の結界を頼みたいのだが…大丈夫か?』

ユーノは周りを見渡し、浮遊している40ほどの本を全て閉じ、仕事内容と本の内容を見比べる。
余談ではあるが今までは20冊が限界だった魔法だったが、イージスのおかげで倍までアップしている。

「大丈夫ですね、すぐに行きま――」
「ユーノ君!」

返答を返そうとして、一旦、自分の目の前に跳んでくる少女に、ユーノは意識をやる。

「なのは、仕事は終わったの?」
「うん、だから、お昼ごはん一緒に食べようと思って。」

えへへと笑うなのはを、ユーノは優しくみつめる。

『…後にしたほうがいいか?』
「いいえ、いいですよ。」

苦笑したユーノは、結局了承の返事を返した。
なのはは不思議そうに携帯電話を見ている。
ピッ、と通話を切って、ユーノはなのはに言う。

「シグナムさんから、訓練用に丈夫な結界張ってくれって頼まれたんだよ。」
「…って言う事はまた。」

二人で顔を合わせて、苦笑い。

<<どう言う事ですか、ユーノパパ?>>
「ああ、イージスはまだ知らなかったっけ。」
「じゃあ、まだお昼まで一時間はあるし、一緒に行こうかな?」

なのはも、ユーノについて行く事にしたらしい。
イージスは質問に答えてもらってない、と言おうとしたが、

「行けば分かるから、行こう。」

ユーノにそう言われれば、行こうと、思うのがイージスだった。



「あ、なのはも一緒だ。」
「やっぱりフェイトちゃん。」

訓練室にやってくれば、そこにはフェイトとシグナムが一緒にいた。
その手には、ピカピカに磨き上げられたレヴァンテインと、元気良くエネルギーの刃を展開しているバルディッシュの姿があった。
既にそのテンションはかなり昇っているのだろう。
そんな中、ユーノはレヴァンテインに言う。

「レヴァンテイン、退院したんだ、おめでとう。」
<<Ja>>
「そして再入院、ご愁傷様。」
<<…Ja!?>>
「まて、それはどう言う事だ!?」

ユーノの冗談とも取れぬ冗談に、さすがにシグナムも気を吐く。
しかし、返すユーノの口は、どこか冷ややかだった。

「だって、シグナムさんはフェイトと一対一になると、加減を忘れるでしょう?」
「ぐ!」

本来、ユーノはこんな事を言う性質ではないのだが、レヴァンテインを哀れに思ってしまったので、口にだした。
イージスが相棒になってから、ユーノは少々口うるさい。
父親の性質なのだろうか。
とは言え、シグナムも前回相棒を入院させてしまったのは、遺憾に思っていたらしい。
これでちょっとは、手加減した戦いになるだろう、とユーノは思った。
二人が全力戦闘すると、最近結界が軋んでいたので、丁度良い、と言う話もある。

<<結局、どう言う事ですか、ユーノパパ?>>
「うん、フェイトとシグナムさんが本気で戦うって事。」

予定があえば戦う二人。
さすがにレベルが高いから名物試合なのだが、二人とも熱くなってくると周りが見えなくなっていく傾向にある。
チーム戦の場合、そんな事もないのだが、前回の話など正にその典型。
訓練で誰が喰らったら一日寝込むような魔法の撃ち合いをするというのか。
まあ、大型チーム戦の場合、フェイト、なのは、はやてがしっかり無茶をするのだが。

と、考えていたシグナムが徐に言った。

「ふむ、ならば丁度良い、2対2で戦おう。」

さすがにこんな事を言われるのは、ユーノにしてみても予想外だった。
それを聞いて、フェイトと談笑していたなのはは色めき立つ。

「わ、私達もですか!?」
「うむ、最近、フェイトと一対一ばかりだったから、たまにはそんな戦いもいいものだ。」

すっかりそうしようと言う口調になっているシグナムに、それいい、と言っているフェイト。

「…どうしようか、ユーノ君?」
「正直あまりやりたくな――」
『それ面白そう。』

突然スピーカーから響く声に、ユーノは頭を抱えた。

「レティ提督、どうしたんですか?」
『いえ、訓練室でまたシグナムとフェイトさんが戦うって言うから、でも面白そうじゃないの』

面白そう、と言う口調のなんと楽しそうな事か。

『ユーノ君も、訓練とかあまりしてないでしょ、たまには勘を取り戻しておきなさい。』
「…はぁ、分かりました。」
「だったら、自動的に私も参加ですか…」

思わず溜息をついてしまう二人であった。




リリカルなのは「無敵の盾と言う名」




「それじゃ、私とユーノ君で…」
『駄目よ。』
「え、何でですか?」

なのはが元気良く答えたのだが、レティに即刻却下されてしまった。

『貴方達のコンビじゃ、正直シグナムとフェイトさんの相手は無理。』

二人も渋い顔をするが、確かに辛い。
何せ、接近戦のエキスパート二人。
しかも中距離戦までなら技術力に差が大きい。
遠距離戦になって、はじめてユーノとなのはのコンビは生きるのだ。
フェイトとシグナムは頷くしかなかった。

『だから、コンビはフェイトさんとユーノ君、なのはさんとシグナムね。』

これまた珍しいコンビを組む事になった、となのははシグナムを見る。
ヴィータとはそれなりの回数、仕事でコンビを組んでいたが、シグナムとはほとんどない。
ユーノとフェイトもしかり。
コンビを組んで戦った事はない。
ヴォルケンリッターとの戦いのときも、コンビを組んだのではなく、バラバラで戦っていただけだった。

『それじゃ、5分間作戦タイムね。』

作戦タイムがあるだけでもマシか、とユーノは思う。
何故なら、この4人の中で、自身が一人だけ戦闘能力という点で見た場合、突出して低かったからだ。
その状態で無策で行っても、そんなに長い時間持つはずが無い。

『条件はそんなにないわ、気絶させるか、私が倒した、と判断した時点で終了。 チームのどちらかがやられた時点で終了ね。』

そう言われて、ユーノはフェイトと頭をつきあわせて考える。

「二人とも、まずユーノを狙ってくるよね。」
「う〜ん、とは言え、フェイトを完全に無視できるわけでもないし…」

4人の中で明らかにスピードはフェイトが突出している。
ソニックフォームまで到達すれば、それを超えるスピードはいない。
その速度で接近されて、無視できるわけがない。

「一人はフェイトを抑えに来るよね…なのはかシグナムさんか。」
「それで、もう一人がその間にユーノを倒す…」

いくらフェイトでも、二人を相手にはできない。
ユーノとコンビネーションを組んでもいいが、その場合、フェイトの機動力は完全に死んでしまう。

「…仕方が無い、やっぱり賭けにでるしかないね。」
「賭け?」

ユーノは賭けの内容をフェイトに説明する。
聞いているフェイトは、最後に随分と渋い顔をするのだった。

「かなり難しいね…」
「だから、賭けだよ。」
「…やってみよう、だから、ユーノもちゃんと粘りきってよ?」
「分かってる。」

ユーノは苦笑しながらも、しっかりと誓う。
この作戦、ユーノがある程度頑張らなければならないのだ。

「…終わった?」

なのはがユーノ達に話しかける。
既にシグナムとなのはの打ち合わせは完了していたらしい。
その手には、レイジングハートが既に杖の形で握られていた。
シグナムも既に抜刀している。

「うん、打ち合わせは終わったよ。」

そう言うフェイトも既に相棒の戦斧をザンバーモードにして持っている。

「こっちも準備完了だよ。」

即座にバリアジャケットを纏い、ユーノも戦闘モードに移行する。
バリアジャケットは少々袖と裾がのび、足と腕に露出は消えていた。

『ユーノ君、専用デバイス手に入れたんでしょ?』

レティの言葉に、思わずユーノはギクッとした。
そういえば出してない、とフェイトとシグナムはユーノに視線を向ける。
なのははなんとなく事情を察しているのか、苦笑している。

「いえ、あの…」
<<そうです、ユーノパパ、イージスをセットアップしてください!>>

やる気満々とばかりに言うイージスだったが、こう言われると余計にユーノのしてみても気が重い。
何が悲しくて自分をパパと慕ってくれている子を、戦いに頼らなければならないのか。
一同はそんな二人に集中する。

「イージス…その、戦うの?」
<<ユーノパパ、私はデバイスです。どんな時でも、ユーノパパの傍で戦うんです!>>

意思は到底曲がりそうもない。
それに気づくと、ユーノは深々と溜息をついて、ポツリと言った。

「イージス、セットアップ。」

ユーノ言葉に反応して、イージスは光を放つ。
宙に浮いたイージスの周りに、白銀の金属が寄り集まり、円形に集約されていく。
新緑の宝石を中心にして、オレンジの星が描かれ、その二つは白銀の円の中心に納まった。
そして、ユーノはその白銀の円形の盾をその手に取った。
左腕を裏についている腕環の部分を通し、取っ手を掴む。
その大きさは、大体、ユーノの左腕を全て隠すほどだ。

「…杖ではないのか?」

シグナムが不思議そうに声を出す。
基本、ミッドチルダデバイスの大多数は杖だ。
S2Uやデュランダル、レイジングハートしかり。
しかし、イージスの姿はどう見ても盾。
その疑問の答えは、通信から放たれる。

『なのはちゃんのリクエストに答えたんですよ!』
「マリーか?」

いつ来たのか知らないが、それは確かにマリーの声。

『ユーノ君を護ってくれる盾みたいなデバイスってリクエスト、ちゃんと盾ですよ〜!』

きっと通信室で親指立ててるんだろうな、とユーノは思いながら、イージスをグッと持ち上げる。
なのはは照れくさそうにしていたが、ここまで直接的な意味じゃなかったんだけどな、とブツブツ言っていた。

<<マスター、戦闘準備完了です!>>
「呼び方が変わったね?」
<<戦闘時はこちらの方が良い、とリインフォースさんが…>>

なるほど、確かにリインフォースもはやてちゃんとマイスターはやてを使い分けていた。
その事になんとなくユーノは苦笑する。

『それじゃ、始めましょうか、お互い、好きな位置に行きなさい、一分経ったら、始めて。』

面白い見世物ね、と言わんばかりのレティの口調に、一同は苦笑する。
とは言え、模擬戦とは言え、面白いのは確か、とフェイトとシグナムは笑みを浮かべる。
その様子に苦笑を浮かべるしかないユーノとなのはであった。




『それじゃ、一分!』

その音声が流れると同時に、シグナム、フェイト、なのはは飛び出した。
シグナムとなのははユーノに標的を向ける。
それは当たり前、どう考えても、この条件下ではそう言う判断をするだろう。

『プラズマランサー!』

そして、フェイトはザンバーを振り上げつつも、牽制の一槍を放つ。
一直線にその電気の槍はなのはへと飛んでいく。

「私!?」

フェイトはシグナムに向かうと予想していたのか、なのはは驚きの声を上げたが、それなら、フェイトにとっても好都合だった。
少しだけ動揺したなのはだったが、すぐさま槍をかわすと、3つの桃色の光の弾を撃ちはなつ。

(アクセルシューター。)

冷静にその誘導弾切り裂きながら、フェイトはなのはに意識を8向けて、シグナムへと残りの2を向ける。
シグナムは少々名残惜しそうにこちらを見ていた様子だったが、すぐにユーノへと向かっていった。
それを意識に乗せながら、フェイトは思考する。
作戦第一段階は、終了。
そこから、フェイトはなのはを追い詰めるように飛びながら、着々と距離を引き離していく。
シグナム達とは、正に訓練室の端と端まで遠ざかっていた。




「どうした、ユーノ、作戦ミスか?」
「さて、どうでしょう、ね!」

左手のイージスを翳しながら、ユーノは右手でチェーンバインドを放つ。
そのままバックステップで後ろに跳びながらシグナムとの距離を少し空ける。
しかし――

「ふん!」

シグナムへと向かっていた4本の鎖は一太刀で全て寸断されてしまった。
その予想よりももう少し高い技量に、ユーノは冷や汗をかく。

「そういえば、お前と一対一で戦うのは始めてか。」
「本来、僕は、一対一で戦う――」

言葉を発している途中だったが、既に間合いが詰まっていた。
ほんの1m。
二人の間に横たわる距離はそれだけだ。
もらった、とばかりに振り下ろされる刃に――

<<ラウンドシールド>>

盾から流れ出た機械音声と共に発生した緑色の円形の魔法陣の盾を付き合わせる。
ガツ、と鈍い音がしたが、緑色の盾には何一つダメージがない。
この隙に、とユーノはまた少し距離を開けるが、シグナムは一足飛びで間合いを詰める。
思わず舌打ちしそうになりながらも、ユーノはまたイージスを構え――
ガシャン、とまるで弾丸が排出されるような音を聞いて、顔を引き攣らせた。
燃え盛る、烈火の将の剣。
そして、その技は、彼女の必殺の技の一つ。

「ユーノ、お前のシールドは硬いからな、一撃で抜かせてもらう!」

ゴオ、と炎が逆巻き、まるで蛇のように見えたのは、きっとユーノの錯覚だろう。
フェイトとシグナムの戦いで何度も見たはずなのだが、傍観と直接では当たり前ながら迫力が違った。
そして、その技の名は、高々と叫ばれ、そして、剣は振り下ろされた。

『紫電一閃!』
<<ラウンドシールド>>

それに対し、ユーノは単純であり、しかし尤も防御能力の高い盾を出す。
振り下ろされる刃と、それを弾こうとする盾。
二つの純然たる意思はぶつかり合った。

「グッ!」

呻いたのは、やはりユーノ。
ぶつかり合った瞬間に、ラウンドシールドにはヒビが入り、それが縦横無尽に走っていく。
今にも砕けそうだが、まだシグナムの方は技の持続時間に余裕がありそうだ。
このままじゃもう終わりか、とユーノは呻く。
見通しが甘かった、と言うしかない、と思った時だった。

<<カートリッジロード>>
「な!?」
「に!?」

静かに放たれたその言葉と共に、盾の表面から薬莢が一つ飛んでいく。
思わずユーノは驚きの余り術式を崩しかけ、シグナムは集中を途切れさせかけるが、ユーノはそのまま盾を維持し、シグナムも押し切ろうと集中する。

<<ラウンドシールドパワード>>

そして、強化される盾。
輝きは変わらなかったが、その堅固さは並外れていた。

「ちっ!」

決めるつもりだった攻撃を完全に防がれ、思わずシグナムは舌打ちしながら少しだけ距離を取った。
その顔には、笑みが浮かんでいた。

「ふっ、まさかカートリッジシステムまで搭載しているとはな。」
「…僕も今、初めて知ったんですけどね。」

思わず苦笑するユーノに反比例して、堂々とイージスは輝く。

『魔力の低いユーノ君にはご用達でしょう、カートリッジシステムは!』

通信から聞こえてくるマリーの声に、ユーノは確かにそうかぁ、と思う。

『イージスには最初からカートリッジシステムを考えて設計されているから、負担も最小限よ!』

物凄く鼻高々と言った感じの声に、思わずユーノはイージスを眺めながら考える。
もしかして、僕が持っているのって、物凄くもったいないデバイスなんじゃ、と。

「余所事を考えている暇は――」
「ちっ!」

思わずユーノは舌打ちしながら、左へとステップを踏む。
それと共に、振り下ろされる剣をかわし、ユーノは無駄か、と思いつつも、間合いを広げるように更にそのまま後ろへと飛びすさり――

「ふん!」

自身に向かって伸びてくるレヴァンテインの刀身を見た。
いつのまにか、直刀からその姿を連結刃へと変え、変幻自在の動きを見せている。
周りを飛び交う連結刃に、ユーノは翻弄される。
どこから襲い掛かってくるのか、それを見切る目が、ユーノにはない。
突然、耳元にヒュッ、と風を切る音が聞こえると同時に、反射的にしゃがみこんだユーノの頭の上を飛んでいく刃。
直撃していれば、昏倒間違いなしだ。

「イージス!」
<<はい、マスター!>>

ブン、とイージスの表面に浮かび上がった魔法陣に、また盾か、と思い、周りから周りこんで剣を振るおうと思い――

『チェーンバインド!』

イージスの表面から放たれた四本の鎖と、ユーノの右手から放たれた四本の鎖。
別方向、両脇から襲って来る鎖に、シグナムは上手く連結刃を振るい鎖を弾き飛ばす。
思わず冷や汗を流しそうになりながら、シグナムは意外と苦戦している自分に気づく。
あっさり制圧して終わると思ったのだが、と少々驚いていた。
その間にも、ユーノは間合いを広げる。
中距離戦こそが、彼の間合い。
まあ、それでも連結刃に対抗できるかは五分もないような確率であるが。

ふと、フェイト達の方向に意識を向ければ、フェイトが高速で飛びまわりながら、ひたすらに撃ち合っていた。
フェイトが接近して打ち据えようとすれば、それを阻害するように砲撃を発するなのは。
サンダースマッシャーとディバインバスターがぶつかり合っているのがかなり遠目でも分かる。
ユーノは内心つぶやく、第二段階完了、と。
レティはかなりこの状況をおかしく思っていることだろう。
何せ、本来は連携して二人の相手をするだろうと思っていたユーノ達が、それぞれ単独で戦っているのだから。

「はっ!」

裂帛の気合と共に踏み込んで剣を振りかざすシグナムに、ユーノは後ろに飛びのくようにして空へと逃れる。
しかし、それをすぐさま追撃する連結刃。
伸びてくる連結刃に対抗するべく、ユーノは盾を築こうとし――

<<マスター、右手で取っ手を思いっきり引いてください!>>

イージスの叫びに、ユーノは素早く左手で持っていた盾の取っ手を、右手で思いっきり引いた。
カツン、と音がして腕環の部分から盾がはずれ、まるで鎖に引きずられるようにして、盾はその身を中空へと躍らせる。
そう、盾は、取っ手から鎖を次々と伸ばし、まるでそれ自体が投擲武器であるかのように、放たれたのだ。

「なっ!?」

今日何度目かの驚きの声をあげるシグナムに、連結刃を弾き飛ばしながら、盾は接近していく。
基本的な重量差とスピードの問題か、連結刃では鎖を伸ばしながら近づいてくる盾を撃墜することなどできない。
シグナムは舌打ちすると、素早くレヴァンテインを剣状態に戻すと、飛んで来る盾に向かい、振り下ろした。
ギィン、と辺りに響く音は、甲高い。
しかし、ぶつかり合った両者は、双方をその音からの衝撃波に弾き飛ばされていた。
そして、無傷でユーノの左手に戻るイージスと、刀身にわずかにヒビを入れたレヴァンテインの姿。

「何で出来ているんだ、それは…」

思わずシグナムがそう呟くのも無理は無い。
本来アームドデバイスは直接戦闘を想定されているため、その剛健性はかなりのものだ。
レヴァンテインにしろ、グラーフアイゼンにしろ、そう簡単にヒビなど入れれるものではないはずなのだ。
なのにたった一合、イージスと打ち合っただけで、レヴァンテインにはヒビが入った。
そんなシグナムに、イージスは言う。

<<なのはママの願いがこもった無敵の盾、それが私です!>>

彼女は自身に秘められた思いを言い放つ。
なのはがユーノを護ってくれるようにつけた、絶対的な盾の名前。
イージスは、正にその通り、今、ユーノを護る盾となっていた。

「娘に護られている僕は複雑だけどね…」

まあ、ユーノが苦笑するのも仕方がない。
とは言え、ユーノも内心、イージスのとんでも性能に驚いていた。

「ふっ、無敵の、盾か…面白い!」

ガコン、と音が辺りに響くと同時に、レヴァンテインはその姿を大きく変える。
鞘を連結させ、その身を弓へと変じていくのだ。

「しかし、この隼に貫けぬものはない。」

静かに言い放つシグナムに、しかし、ユーノは不適に笑う。
彼は既に、賭けに勝っていたから。

「すいません、シグナムさん、僕達の勝ちです!」

一瞬、間を置いて辺りから素早くシグナムを拘束する鎖の姿があった。
四肢を拘束されながら、しかし、シグナムはなんら焦っていない。

「ディレイドバインドか、しかし、この程度で私を封じたつもりか、止めをさせぬお前では、私には勝てない。」

シグナムの行った事は全て事実だったが、ユーノは表情を崩さない。

ユーノの作戦はほぼ全て上手く行っていた。
第3段階もこれで終了。
ここからが、本当の賭けの瞬間でもある。
設置型バインドであるディレイドバインド。
これに引っ掛けれたのは、一種のイカサマ。
さがってさがって、ディレイドバインドを仕掛けた所から直線状になるように、さがり続けた。
そして、イージスの良い意味での奇襲。
本来なら、シグナムならあっさり気づくはずの罠。
運はあった、後は、必死さだけだ。

「ふん!」

魔力の充溢により、ユーノの施したディレイドバインドには即座にヒビが入った。
その間に、ユーノは魔法陣を展開させるものの、特に何が起こるわけでもない。
ギシギシとなる鎖が、一瞬で、砕け――



飛びまわるフェイトに、なのははどこかしら違和感を感じていた。
どこか、積極性にかけている気がしたのだ、今のフェイトは。

「でも、それなら、チャンス!」

思いのたけをぶつけたあの時から、あまり一対一と言う状況は無かった。
だからこそ、今この時も、全力全開で、ぶつかるのみ、となのはは5つのアクセルシューターでフェイトを取り囲むように攻撃する。
フェイトはそれに対して、回避行動を取らずに、シューターを撃墜するように、フォトンランサーを撃ち出す。
しかし、シューターはそれを嫌うように、のらりくらりとフェイトの周囲を彷徨いながら、時に攻撃するかのように近づき、そして、撃墜される前に離脱する。
なのはの戦法にしては、どこか消極的だ、とフェイトが思った瞬間、飛来する、バインド系の魔法。
なるほど、常套戦術か、と思いながら、フェイトはバインドブレイクの魔力を用意し、真正面からそれを破壊し、そのままなのはに接近しようと思い――
目の前に膨れ上がる、桜色の魔力の奔流を、見た。

「え…?」

思わず呻いてしまったのは、それがそう簡単に発射できる代物ではないはずだったから。
チャージにたっぷり10秒。
いくらマルチタスクで準備を進めていても、そう簡単にはいかないはず。
更に、バインドが予想以上に硬い。
分かっていたことのはずなのに、と予想、おおよそ7秒後に発射されるであろうその星の光を避けるべく、フェイトは全力でバインドを破壊しようとする。
しかし、ヒビが入り始めた時には、既に残り5秒。
感覚的には、間に合いそうも無い。

『フェイト!』

頭の中に響いた念話の叫びに、フェイトはバルディッシュから自身の座標を転送する。
そう、それは作戦の最後の段階。
思わず、顔に笑みが浮かぶが、そのためにも、急ぎバインドを粉砕しなければならない、とフェイトは全ての意識をバインドの解呪にまわす。

4、3、2、1…

ビキビキとヒビが入る音さえ聞こえそうなほどにヒビだらけになったバインドを尻目に、なのはとレインジングハートは今、その桜色の光を爆発的に広げていた。

「いくよ、全力全開!」
<<Starlight Breaker>>

今が勝負の分かれ目、と言う瞬間に、フェイトは四肢を縛っていたバインドを完全に破壊する。
しかし、既に最大級の砲撃は目の前に来ている。
回避できるタイミングではない――が。

『ユーノ!』

思わず叫ぶように念話を行うフェイトの姿は、一瞬にして星の光に飲み込まれていった。

それを見た瞬間、なのはは勝利を確信し、砲撃を終了した時、周りを見ながら落ちていくだろうフェイトの姿を探す。
しかし、なのはの視界のどこにもフェイトの姿はなかった。

「あ、あれ?」

非殺傷なのだから、当たり前でフェイトの姿が消えるはずも無い。
しかし、魔力反応も自身の砲撃の影響で追うことができない。
ソニックフォームで万が一離脱されたとしても、こちらにかかってこない理由が分からない、となのはは思考する。
と、

『はい、シグナム戦闘不能で、なのはさんとシグナムの負けね。』

思わず、なのはは自分の耳を疑った。
ユーノがシグナムを倒したのか、と驚愕の感情が湧いた。
恋人なのはは、ユーノ君、凄い、と感情的に物を考え、教導官なのはは一体、どうやって、と冷静に物事を見据える。
そして、なのはがシグナム達を発見すれば、そこには――



「私たちの勝ちですね、シグナム。」

シグナムの目の前には、金色の大剣を突きつけてくるフェイトの姿があった。
まだバインドが完全に砕け散る前の一瞬。
弓の状態のレヴァンテインではどうにも動きようも無い、また、動けても無意味な可能性が高い。
そして、シグナムも敗北を認めるしかなかった。

「チームプレイをしないと思っていたが、最後の最後でこれとはな。」

あの瞬間、ユーノは魔法陣を展開して、何もしなかったわけではなく、トランスポーターハイを行使した。
本来、戦闘中に使えるような魔法ではないのだが、それでもユーノはこの瞬間にかけていた。
すなわちフェイトと距離をおいて、シグナムを強力なバインドで捕まえることが出来るかどうか。
フェイトが近くにいれば、あんなにも無防備にディレイドバインドに引っかかる事もないだろう。
何せ、まずレヴァンテインを弓に変えたりはしないだろうから。
フェイトが近くにいない、と言う事で止めを刺される事はない、と言う油断。

「本当…運がよかった。」

思わずうめくユーノに、フェイトは右手の親指立てて笑顔になる。

「私たちの完全勝利だ。」

実際、ユーノは無傷、フェイトはいくつかダメージをもらっていたが、それも大したことはない。

「イージスのおかげだけどね。」

ユーノはご苦労様、とイージスを優しい眼で見ながら表面を撫でる。
それにどこか照れたように揺れるイージスだった。

「ああ〜、シグナムさん…しっかり負けですね。」
「お前もまた辛辣だな、なのは。」

苦笑しながらも、シグナムは解き放たれた四肢を動かし、レヴァンテインを剣に戻す。

「しかし、ユーノ。」
「え、は…」

返事を返そうとした段階で、ユーノは咄嗟にイージスを上に上げていた。
一瞬、間が空いて、ギィィン、と辺りに響く金属音、更に、パキリ、と何かが砕ける音。

「シグナム!?」
「シグナムさん!?」

その突然の凶行に、なのはとフェイトは悲鳴に近い声を上げる。
しかし、シグナムは顔を歪ませたのみ。
ユーノは驚きで眼をパチクリしている。

「レヴァンテイン…」

そこには、刃が欠け落ちたレヴァンテインの姿があり、イージスは無傷でその姿を見せていた。

「…心臓に悪いんですが。」
「ちゃんと間に合わなければ寸止めしている。」

苦笑するシグナムだったが、その実、かなりショックなようだった。
当たり前と言えば当たり前だろう。
相棒がただ打ち付けただけで砕けたのだ。

「え…レヴァンテインが…?」
「欠けたんですか?」

フェイトとなのはもしげしげとその部分を見つめる。
確かに、刃が欠け落ちていた。

『マリー、一体、あのデバイス何で出来ているの?』

レティも興味深げにしているのが、通信からの会話でも分かった。
しかし、聞こえてくるのはどもるマリーの声。

『それが…実は全く分からなかったりするんです…』

思わず一同、はぁ?、と呆れた。

『分からないって、作ったのは貴女でしょ?』
『それがその…素体の部分を生成中に、ちょっと事故がありまして…』
『事故?』
『はい…素体を生成中のメインコンピューターに…』
『…もしかして、貴女がコーヒーこぼしたって言うあれ?』
『あうう…』

呻くマリーだったが、そのときに何かあったのは間違いないらしい。
無事だった素体は、デバイスの機能はそのままに、生成された表面金属はアンノウンとカテゴリーされてしまったらしい。

「マ、マリーさん、人のお金使ってるのに、何してくれるんですか!?」

さすがにこんな裏話に、なのはも怒る。
大事な人へのプレゼントなのだ。
ちょっと怖い部分があってどうすると言うのだ。

「まあまあ、なのは、イージスは良い子じゃないか。」
「…む〜、分かってるよ、でもイージスがどうこうじゃなくて、マリーさんが報告もしてくれなかったから。」

黙ってたのはどう言う事だ、となのはが怒るのも無理は無い。
解析もできないような正体不明物質がそこにあるのだから。

『現代のロストロギアかしらね、もしかして。』

思わず、一同は沈黙してしまった。

<<わあ、私は結構凄いんですね。>>

感心した様に言う当人を除いてだったが。

「むう、このような金属があるのならば、レヴァンテインの刀身を鍛えてくれるように言うつもりだったのだが…」

無理か、と嘆息するシグナムは本当に残念そうだった。

そんなシグナムの傍ら、ユーノは悩む。

「僕が持っていていいのかな…?」

はっきり言って、自身が持っているのが規格外のデバイスだと言う事が分かった。
そして、その力はとても凄い、と言えた。

<<ユーノパパ、私はユーノパパのデバイスです。>>

はっきりとした本人の意思表示に、ユーノはありがとう、と囁いた。

「フェイトちゃん達に負けたなぁ。」

と、なのはは突然そんな事を言い出した。
シグナムもそれを思い出したのか、苦渋、と言った顔をする。

「シグナムさん、ユーノ君をすぐに倒せると思っていたのに。」

酷いようだが、冷静に判断すれば、イージス抜きだと紫電一閃で終わりである。
充分すぐに倒される可能性もあった。

「む…」

唸るシグナム。
すぐさま再戦と言い出したかったが。

『それじゃ、皆さん、整備しますよ〜』

と、マリーが言い出した時点で駄目だ。
バルディッシュとレイジングハートもザンバーとエクセリオンモードを使用している。
調整が必要だろう。
イージスにいたっては、完全起動したのも今回が初めてなのだ。
色々と正体不明なだけに、チェックも必要だろう。

そして、一同が訓練室を出よう、と歩き出す。

「ユーノ君、フェイトちゃんと息ぴったりだったね。」
「…そう?」

少し不貞腐れ気味のなのはに、ユーノはニコリ、と笑う。

「そうだよ、だってスターライトブレイカーの直撃寸前でも、フェイトちゃんユーノ君のこと信じてたよ。」

実際は逃げ切れなかっただけの感もあるが。
まあ、なのはの言も間違っていない。

「…まあ、フェイトの事は信じられるよ。」
「むう…」
「6年の付き合いは伊達じゃないでしょ、なのはや、皆ともそうだけど。」

信じられない人がいる、と聞く、ユーノに、なのはは一瞬思考してから、笑った。

「今はいないよ、でも、たまに、ユーノ君だけは信じられないかな?」

微笑むなのはにそんな事言われて、ユーノは眼を見開く。
なのははピョン、と跳ねると、そのままユーノの首元に抱きついた。

「女の子は、好きな人を相手にすると、すぐに邪推しちゃうんだよ…我慢するけど、こんな女の子は嫌い? ユーノ君。」

そう言うなのはに、ユーノは苦笑するしかない。
ユーノはユーノで、クロノとなのはの仲を疑った事もあるのだから、それを言えるはずもない。

「なのははなのはだよ、そんな事も一緒に、大好きだ。」
「…私も、大好きだよ。」

キュッ、と抱きしめあう二人。

「…ああ。」
「ん、どうしたのユーノ君?」
「いや、フェイトたちがこっちを凝視してるよ?」

思わず振り向けば、なのはの視線の先には、また、と言った視線を向けているフェイトがいた。
思わず、ユーノを振り返って行動してしまったのは、きっと戦闘後で気分が高揚していたから、となのはは言う。

「ユーノ君、ん。」
「ん、ってなのは?」

眼を閉じて顔を出すなのはの顔は真っ赤だったが、それをやめようとは思っていないらしい。
思わず、ユーノもフェイトとなのはを見比べてから、ほんの半秒、その唇に自身の唇を落とした。

「…二人ともこんな所でいちゃつかないで〜!」

フェイトのある意味切なる叫びが響くのだった。
ちなみに、スタンバイモードに戻ったイージスは、またユーノの手に握り締められていた事をここに記す。

ー終わりー


今回はバトル話。
おかげで対して甘くない、と思ったのですが、最後の最後で…
次回はすずか話。
暗いかな…?



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