「それじゃ、そろそろ今日はお暇するよ。」
「うん、分かったよ、ユーノ君。」

ここはなのはの部屋。
前回の一件から一週間経っていた。
のんびりと過ぎた一週間であったが、ユーノにとっては、ハラハラした一週間でもあった。
如実に変化したのは、すずかの態度だった。
これまで、家族、親友、と言った一線を境にしていたのに、今は完全にそれを越えた。
どうも、なのはとすずかの間で色々あって、取り合う分にはフェアで行く事に合意したらしい。
その辺りの細かいやり取りは、よく分からないのだが。
ユーノも色々複雑だ。
最近はすずかともどうも恋人時代のやり取りが戻ってきそうな感じでおかしく思っている。
なのははなのはで、すずかと更に色々頻繁に話している、内容はユーノにはさっぱり伝わってこないが、悪いことではないだろう。
とりあえず、友情は変わらないようで、ユーノはほっとしていた。

「それじゃ。」
<<マスターユーノ、今日は雨です、風邪をひかないようにしてください>>

帰る、と言って玄関から出ようとした所で、レイジングハートからそう声をかけられた。
ユーノはそれに苦笑しながら、返事を返す。

「ありがとう、レイジングハート。 気をつけるよ。」
<<それじゃ、なのはママ、レイジングハートさん、バイバイ>>

玄関から出て行くユーノ達を見ていると、まるで雨の中に消えていくようにも思える。
そんな事はない、と思える程度には、ユーノの事を信頼している。
ユーノもそこまで弱くない、となのはは知っていたから。
自分の小さな頃からの精神的な部分が作用するから、そこまで不安になるのだろう、となのはは考えていた。

「レイジングハート…今日は、ちょっとおしゃべりだったね。」

のんびりとしたユーノとの会話は、すずかに教えてもらったことである。
一時間ほどでも、ユーノとこうして、なんでもないおしゃべりをしてみると、いい、と言うアドバイスだったのだが、どうも的を得ていた。

「すずかちゃんに勝てるのはいつかなぁ。」

ハァ、と溜息を吐いてみても、それはどうもどうしようもない気がした。
敵から塩を送られているのだろうけど、随分と山のように塩を送られていた。

「でも、すずかちゃん、負ける気が全然してなさそうだったなぁ。」
<<マスターユーノは、流されやすいですからね。>>

そう言えばレイジングハートも、ユーノの事をよく知っている発言をしている。
当たり前と言えば当たり前、ユーノの元の相棒だったのだから。

「ねぇ、レイジングハート。」
<<はい?>>
「一度も聞いたことなかったけど、ユーノ君のデバイスだったよね、レイジングハート。」
<<――そうです。>>
「私のところに定着しちゃったけど、何とも思わなかったの?」

そう、なのはが聞くと、レイジングハートは点滅した。
何かを言おうとして、色々と逡巡しているような、そんな感じだった。

「レイジングハートも、ずっとユーノ君を見てきたような、そんな感じだったから。」

だから、突然、私をマスターにして、良かったのか、となのはは聞く。
それに対して、レイジングハートは、幾分迷ってから、答えを示した。

<<あの時、それ以外に方法はありませんでしたし、私も乗り気でしたよ。>>

完全起動されて、その機能を十全に発揮し始めたレイジングハート。
それは爽快だったろう。

「でも…本当に…何にも思わなかったの?」
<<…少し、昔の話をしましょう。>>

突然、レイジングハートはそんな事を言い出した。
なのはは部屋に戻って、ベッドに座ると、レイジングハートを机に置いた。

<<私とマスターユーノは、かれこれ、6年ほど一緒にいました。>>
「6年…ユーノ君が3歳のときから一緒にいたの!?」
<<そうです、あの時、マスターユーノは本当に小さかったです。>>

思い出すような口調で語るレイジングハートに、なのはは少し考えてしまう。
あの時点で6年なのだ。
いや、それよりも何よりも…

「ユーノ君の子供の頃って、可愛かった?」
<<そうですね…ひねた子供でしたよ。>>
「ひ、ひねた子供!?」

いつでも誰にでも穏やかに笑って会話しているユーノが、ひねた子供…?
はっきり言ってしまえば、なのはには想像もつかなかった。

<<反抗期、と言うものがあるでしょう、出会った時のマスターユーノは、既にそんな状態でした。>>
「さ、三歳で反抗期だったの!?」
<<ああ、状態が似ているだけであって、本当に反抗期ではありませんよ、あれはただ単に、嫉妬して、周りが見えなくなっていただけです。>>

ユーノ・スクライアと言う少年は孤児である。
物心ついたときには、既に一族の中で暮らしていた。
確かに、一族の大人はとてもよくしてくれた。
それでも、当たり前ながら本当の親はいない訳で。
子供、と言うのは、率直で、浅慮だ。
事実を言ってしまえば、どういう反応が帰ってくるか分かっていても、実行したりもする。

<<親なし、と言って同年代の子供にはいじめられていましたからね…ひねても仕方がないでしょう。>>
「…その年でひねる事ができるのは結構凄いよ。」

多分、ひねた、より拗ねてた、と言うほうがいいんだろうな、となのはは何となく思った。

<<そんなおり、私がプレゼントされました。それはそれは喜んでくれましたよ。>>

レイジングハートの声に、なんとなく嫉妬じみた感情を覚えてしまうのは、やはり好きな人のことだからだろうか。
なのはにしてみても、その頃の事を知ってみたい、と思う。

<<それから、私達は一緒にいました。 マスターユーノが魔法学院に入ったときも、卒業して、遺跡発掘に出向くようになってからも…>>

そう言うレイジングハートの声は、わが子の成長を見てきた母のようであり、また弟を見守ってきた姉のようでもあった。

<<ただ、マスターユーノは、遺跡発掘責任者を任されて、一族の人たちとも一線を引きました。>>
「どうして?」
<<立場、と言うものを9歳児のくせに、しっかりと意識していたからでしょうね。 自信も持って指示しなければならない立場でしたから。>>

9歳で大人の上に立って、指導する立場につく、と言うのは、同じような事をしているなのはにしても、やはり違和感を感じざるをえない。
まあ、なのはも10歳そこらから指導教官になっているので、人の事など全く言えたこともないが。

「でも…家族だったんでしょう?」
<<何の掛け値もなしに、家族と見れるのは、私だけになった、とマスターユーノは言っていました…>>
「今は…そんな事ないよね。」

スクライアの一族とはそれこそ血縁でしか今は関係を持ってない。
言い方を変えるならば、仕事等の思惑がないのだから、特にしがらみもないだろう、と言う事だ。

<<…かもしれませんね…もう、私にはその辺りのことは分かりませんが。>>
「あ…ごめん。」

もう、レイジングハートはずっとなのはと共にあるのだ。
現状のユーノの事など、それほど詳しく分かるはずもない。

「…でも、家族だったんだよね、何だか簡単に私のところに来ちゃったけど。」
<<そうですね、きっと、マスターユーノは私に大した感情を持ってなかったのでしょう。>>
「そんな事ないと思うな。」
<<…いえ、そうでしょう。 それに、今のマスターユーノには新しい家族がいますし。>>
「イージスの事?」
<<ええ…>>

それっきり、レイジングハートは沈黙してしまった。
聞いていたなのはのしてみれば、それはどうにも納得のいかない結果でしかなくて。
聞きたいことはまだまだあったのだけれど、それでも出る言葉は一つもなくて、結局なのはも沈黙して――一つだけ聞いた。

「レイジングハートは、当時、どう思ったの?」

答えは返らなかった。
それが、何となく、答えのような気がした。




リリカルなのは「家族――昔、今、未来」




「へ〜、そんな話をしたんだ。」

レイジングハートの話をフェイトにしてみれば、興味深く聞いてくれた。
彼女のバルディッシュも、大切な人から託された、大事な相棒だ。
なのはと違って、そのデバイスに知らない時代はないが、それでも誕生の話など聞いてみたい。
まあ、作った当人が既に故人だ。
その点を考えると、フェイトも少し悲しくなるが、それでも今は変わらない。

「レイジングハートもやっぱり思う所あるのかな?」

今、話題になっている当人は、整備中でいない。
マリーの元で、イージス、バルディッシュ、レイジングハート等、インテリジェントデバイスの一斉整備中だ。
管理局では時にこういったことが行われる。
人格プログラムが複雑にできているので、定期的に診断するのだ。
そうでないと、時に人と同じように、思考の袋小路に陥ったりする。
そのせいで、任務中にフリーズなど起こした、などと言ったらお話にならない。
まあ、定期カウンセリングだとでも思えばよい。

「う〜ん、まあ、6年も一緒にいたのに、特別な事もなくて、あっさり別れたんじゃ…ね。」

フェイトも、いきなりリンディやクロノ――家族と別れなければならない状況に置いて、それを何の感慨もなく送り出す事などできないだろう。
ユーノに本当に何の気持ちもなかったのかどうかは、はっきり言って定かではない。
それに、そんな事考えたくない。
それは、レイジングハートを本当に――道具としてしか思ってなかったと言う事だから。
フェイトもなのはも複雑な表情をせざるをえない。
家族、と言う表現があったり、ユーノの当時の心許せる者だったのは確かなのだろうが。

「何だか複雑だね。」
「うん…」

ハァ、と親友二人で溜息の音が一つ。
全く、息があっている、と思い、ちょっと上手かったかな、と思い、座布団持ってきてくれないかな、と思考を繋いで、フェイトは雑な思考を展開した。

「うん、二人とも何悩んでるんや?」

俯いた顔をパッと上げれば、そこには見知った親友の顔。
肩にはその相棒も乗っている。

「はやてちゃん、リィンちゃん。」
「どうしたの、任務に行ってたんじゃないの?」
「予定より早く終わってしもうてな、暇ができたから、マリーさんのとこ行って、イージスとおしゃべりしましょう、てリィンが言うからな。」
「そうなんですよ♪」

楽しそうなリィンは、イージスと仲が良い。
まあ、精神年齢が一番近い事もあり、お互いに色々子供らしい事を話す仲、と言う事だ。
子供は子供同士が一番や、と頷くはやてに、フェイトとなのはは、『八神家のお母さん』はさすがだな、と思った。
ちなみに、シグナムやシャマルがこれを聞くとちょっと複雑そうな顔をする。
明らかに自分達が年上っぽいのに、はやてがお母さんと言われると、自分達の存在にちょっと疑問に思ってしまうのだ。

「ほれ、行っといで、リィン。」
「はいです〜」

フラフラ〜、と飛んでいくリィンを見送って、はやてはフェイトとなのはと同じベンチに腰掛ける。

「で、どうしたんや?」




「ふむ、なるほどなぁ…」

顎に手を置いて考えながら、はやては返事を返す。
何気ない事から、色々と噴出する最近の状況を、ちょっと面白く思い、アリサのげっそりとした姿を同時に思い出して、ちょっと合掌。

「レイジングハートはユーノ君のデバイスやったんか…昔はユーノ君も砲撃ブイブイ言わしとったんやなぁ。」
「…いや、それはないよ、はやて。それに知ってたでしょ、元はユーノのだって。」
「分かってるけど、ちょっと言うてみたくなったんや。」

一瞬、フェイトはなのは並に砲撃を撃ちまくるユーノを思い浮かべて、却下した。
そんな事できたなら、なのはに頼る事なんてないからだ。

「何ていうかな…考えるだけ無駄の常套とちゃうか…?」
「…言われればそうなんだけど。」
「気にかかっちゃうと、どうもね。」
「なら、私に任せてや。」

そう言って、ニッコリと笑うはやては、どこか悪戯者の笑顔だった。




「ユーノ君。」
「ん、はやて、どうしたの?」

イージスがいないので、のんびりと――それでも周りから見れば充分早い――仕事をしていたユーノの所に、はやてがやってきた。
特にはやてが来るのは珍しい事ではない。
はやても暇になったら、ここに面白そうな本を探しに来るからだ。

「今日は、ちょっと聞いてみたい事があってな。」
「何?」

ヒョイ、と右手の方向にあった五冊ほどの本を読書魔法で頭の中に内容を走らせていく。
究極のマルチタスクだとも思うのだが、それほど凄く見えない。
片手間にやっているが、ユーノのこう言った面に、密かにはやては舌を巻く。
蒼天の書に蒐集されている多数の魔法を扱う事のできるはやてだが、こういう面の魔法に対する熟練度は低かった。
基本的に戦闘用の魔法ばかり伸ばしているが、捜査官として、このくらいできたらなぁ、と思わざるを得ない。
密かに、溜息をつくと、ユーノは何気なく言う。

「まあ、適材適所だから。」

あっさりとそう言うユーノに、内面読まれた、と思いつつ、はやては、首を振る。

「いや、な。レイジングハートはユーノ君のデバイスやったて聞いてな。」
「うん、あれ、はやて知らなかったっけ?」

言わなかったかな、と唸るユーノに構わず、はやては言う。

「そのわりに、今はなのはちゃんが持ってるしな、どう言う事や思うてな。」



「お、はやて、上手い切り出しだな。」
「で、どうしてクロノ君がいるの?」

フェイトの執務官室で、なのはとフェイト、更にはクロノがユーノとの会話を聞いていた。
何となく、きまずい気もするのだが、何故かクロノは面白そうだった。
ユーノに関しては、微妙に色々性格が変わる気がするのは気のせいだろうか?
ちなみに、レイジングハート達もここに全員鎮座している。
メンテも終わったので、丁度いいから、と言う理由である。

<<早くユーノパパのお手伝いに行きたいです。>>

ちょっと文句ありそうなイージスだった。
レイジングハートはレイジングハートで明滅を繰り返していた。
やはりこういう会話を聞くとなると、ちょっと複雑なのだろう。

「まあ、僕もたまには息抜きだ。」

提督になって、ちょっとだけ砕けたよね、クロノ君、となのはは密かに思った。



「…う〜ん、そうだね、最初は緊急避難みたいなものだよ。」
「緊急避難?」
「そう、そうしなければ、生き延びれないから、なのはに渡した。」

ユーノの言葉に、なるほど、とはやては思う。
分かりやすい話だと思う。
そうでなければ、二人とも死んでいた可能性がかなり高確率であった。
まあ、なのはに一か八かの賭けを行ったのだから、正に最終手段を使っただけだったとも思うが。

「なのはの元で使われるレイジングハートは、本当に凄かった。」

ユーノは結局、レイジングハートを起動させれた事は一度もなかった。
魔力質の問題なのか、理由は結局分からなかったが。
ユーノは、人格部分と機械部分でしか、レイジングハートを運用してはいないのだ。
魔力的補助と言った側面で使えた事は、ない。

「本当に凄くて…僕のデバイスで、僕の家族だったレイジングハートが凄く、誇らしかったんだ。」

遠くを眺めながら薄く笑うユーノの顔は、それでもどこか寂しそうで、過去を見ていた。
静かに聞くはやては、おもむろに口を出す。

「今、言うてたけど、レイジングハートは家族やったん?」
「うん、イージスは娘だとすると、レイジングハートは僕の姉か、母か、そんな感じだった。」

やれ、発掘中に冷えてくると、気温が何度です、風邪を引くので、上着を着なさい、とか、やれ、もっと野菜を食べて、栄養をつけなさい、とか。
本当に、心配しているとと伝わってきた、と語るユーノ。
はやてはそれに苦笑するしかない。
おばさん扱いされて怒った言うてたけど、それはもう、ちょっと無理ちゃうかな、とはやては思う。
しかし、今、はやてが思った事は自分を棚上げにしているのだが…気づいているだろうか。

「それやのに、よう別れたんやなぁ…」
「うん、そうだね…色々思ったけど…」

言わなくなったんだ、とユーノは言った。
それが嬉しかったんだ、と。

「何がや?」
「『これくらいしかできる事がありませんから。』」

ユーノの口から放たれたのは、ユーノにとってはどうしようもない言葉。
ユーノが頼んだ事を迅速にしてくれていた、レイジングハート。
遺跡の調査の時は、マッピングや、状況記録。
学校に行っていた時は、ユーノが朝を寝過ごさないように起こしたり。
そこまでしてもらっていて、ユーノはとても感謝していた、なのに。

「言うんだよ、僕が悪いのに、レイジングハートは、こんなことしかできなくてすまない、って。」

なのはの所に来て、それが消えた。
ユーノにしてみれば、レイジングハートが本当に充足したのが分かったから。

「だから、僕は、レイジングハートと――家族と安心して別れることができた。」

特別な事は何も言わなかったけど、それは通じていると、そう思っていた。

「レイジングハートを使いこなしたなのはへの感謝の気持ちあった。 でも、レイジングハート自身が、充足していたのが、一番の理由。」
「…ユーノ君はさびしなかったんか?」
「寂しかったよ、胸元が何だかスースーした。」

苦笑しているユーノ、本当にそう思っていたのが分かる。

「でも、僕はレイジングハートにとって、それが一番だと思った。 本音を言えば、まだ一緒にいて欲しい気持ちも勿論あったけど…甘えだよ。」

道を進み始めたフェイトやなのはを見て、そんな気持ちは払拭されていった。
一人だけ甘えている場合じゃない、と思った事もあったけど…

「まあ、結局、月村家の皆に甘えちゃったんだけど。」

情けないよね、と言って笑うユーノを、はやては笑う事など、できるはずもなかった。
はやてが求めてやまなかったものが、家族だった。
それをユーノは、相手の事を思って、自分から切り捨てたのだから。

「いや…まだ子供やったんや…甘えたかて、誰も何も言わんよ。」
「そうかな、クロノ辺りは何か言ってきそうだけど?」

そう言うと、二人で苦笑した。
いつもの仏頂面でユーノに毒舌を吐くクロノが思い浮かんだからだ。

先ほどのユーノの言葉にしっかりと毒を吐いていたクロノは、読まれた、と苦々しい顔をして、リィンとイージスに大笑いされていた。

「まあ、僕もしっかり子供なんだよ、独り立ちなんて出来るわけなかったのに、それにも気づかなかった。」

できる、と思ったのは何でだったのか。
責任者になったこともあったからだろうか。
クロノを見ていれば分かっていたはずなのだ、独り立ちなんて、早々できるはずもない、と。
それなのに、とユーノは過去の自分を少々嘲った。

「レイジングハートの存在が、いかに大きかったは、別れてから、色々と思い知らされた。」

一人になった、と漠然と気づいた。
話しかけても返る答えはなくて、少し寂しくなった。

「でも、レイジングハートに、もう弱音を吐きたくなかった。」

彼女は優しいと、ユーノは知っていたから。
弱音なんて、一度でも呟いてしまえば、彼女は心配するだろう、と。

「もう、僕の事は気にかけずに、なのはの事だけを見てもらいたかったから。」

それでもどこかで、繋がりを求めたのは、やはり家族だったから。
ずっと、フレーム整備等の時は、ユーノが整備の補佐を務めていた。
本当は、もう、レイジングハートに関しては、自身の手などいらないことなど、知っていたけれど。
それでも、それは、感謝の気持ちを込めた、精一杯の自身の出来ることだった。

「レイジングハート、『不屈の心』は、僕にはなかったから。」

だから僕には適合しなかったんだ、と笑うユーノは、それでも本当に笑っていた。
彼女は、本当に凄いデバイスだったのだから。
自身の元にいた時には、さっぱり分からなかったことがなのはの手によって、分かっていった時、ユーノは本当に、誇らしかった。

「…ユーノ君は、ほんまに、レイジングハートを大切に思とったんやな。」

そのユーノの顔は、慈しみの心が見えるようで。
ないがしろになど、ましてや、ただの道具だなんて、ちっとも思ってはいなかった。

「うん、これがはやての質問の答えにはなる?」
「充分や、ありがとうな。」
「そっか、じゃあ。」

そう言うと、ユーノはおもむろに携帯を取り出して、電話をかけ始めた。




プルルルル…

会話も終わってホウと息を吐いて、皆で一段落ついていた執務室のメンバーに、突然通信のコール音が響いた。
フェイトはそれを慌てて取る。

「は、はい、フェイト・T・ハラオウン執務官です。」

少しどもって、慌てたけどフェイトはしっかりと返事を返せたことに安堵した。
とは言え、画面に出た顔に、冷や汗を流したが。

『あ、フェイト、そっちになのはとレイジングハートいるよね。』
「え…な、何で?」
『無限書庫でそう言う盗聴行為は通じないよ。どこからされているのか分かってたから放っておいたけど。』

無限書庫の情報が、違法に流されていたりしたら、それこそ大変な事態になる。
いくら閲覧が無限書庫だけに限定したとしても、どこから漏れ出すかは分からない。
だから、本当の意味でのリアルタイムの流出と、盗みだけは無限書庫は許す気がない。
念話、盗聴、その他の情報操作は、行った時点で即座に無限書庫司書長、つまりユーノの分かる所となる。
まあ、これは無限書庫内でしか知られていないトップシークレットでもあるのだが。
ちゃんと、その辺りは無限書庫利用規約さえ守っていれば、早々捕まることもない。

「か、変わるね。」

ちょっとだけ青くなったフェイトは、あちゃ、と言うまずい顔をして、なのはに通信を変わる。
なのはは不思議そうな顔をしていたが、通信相手がユーノだと分かった時点でちょっと気まずくなった。

『なのは、聞きたかったことは聞けた?』
「……え?」
『その反応だと、分かったみたいだね。』

なら良かった、と頷くユーノに、なのはは首を傾げることしかできない。

「なんで、分かったの?」
『なのは、はやてに僕達の出会った時の事を話したのは、僕と君だよ? いくらなんでもおかしいと思うよ。』

最初から作戦失敗だった、となのはは今更気づいた。
はやてもアハハ、と画面向こうで苦笑していた。

<<マスターユーノ…>>
『レイジングハート、僕の気持ちは、そんな感じ。』
<<はい、ありがとうございます。>>

満ち足りたような声で返事するレイジングハートに、なのはも良かった、と言う目を向ける。
それを見ていたクロノは、見ながら、呆れたように言った。

「家族じゃなくなった、か。 後何年もすれば、また家族になるだろうに。」
「あ、そうだね。」

クロノの言葉に、ポン、と両手を合わせて、フェイト笑い、頷いた。
その意味に気づいたなのはとユーノは少し顔を赤くする。
そして、そんな二人を見て、レイジングハートは静かに言った。

<<その時を待っています。 マイマスター達…いえ、マイブラザー、マイシスター。>>

そんな中、イージスが、私も家族です、と自己主張して、皆で笑うのだった。

ー終わりー

今回はレイジンハートのお話。
二人とも、どのくらい一緒にいたか、本編で語られませんけど。
でも、ちっともそう言うシーンがなかっただけに。



BACK

inserted by FC2 system