12月も残りわずか、十日程になった頃だったろうか。
はやては、家で唸っていた。
それはどうしてか、と言えば、クリスマスイヴの予定が仕事、と言うどうしても悲しい現状、だと言うわけではない。
これでもう6年も働いているのだ、こんな事は今更慣れっこだ。
そう、親友の一人、なのはは彼氏と一緒にデート予定だ、と嬉しがっていても、羨ましくなんてない。
…ないやい!

「羨ましいけどな…」

結局、本音をポツリと告げたのは、やっぱり年頃の女の子だからである。
とは言え、家族で暮らすクリスマスくらいはしっかりと準備してある。

「毎年やしな。」

それに、クリスマスの日は、もう一人の家族が逝った日でもある。
今は、代わりにリインフォースUがいる。
とは言え、代わり、と言う言い方が、自分で考えていて、まずいなぁ、とはやては思う。
リインフォースはリインフォース。
リインはリインだ。

「そういえば、ユーノ君、イヴはなのはちゃんとデートや言うてたけど、クリスマスはすずかちゃんの家でパーティーやったな。」

さて、話題に上がったユーノはこのところ、少々疲れ気味である。
二日間の休暇を連続して取る、それがどれだけ苦しいか。
しかも、緊急呼び出しがあれば、なのはもユーノもすぐに出て行かなければならない。
それだけしても、こんな事をしたのは、ユーノのけじめだ。
なのはもすずかも、別ベクトルではあるが、裏切る事は決してしたくない決意の現れ。
すずかとなのはは、ちょっと複雑で、でも大半が嬉しい。
まあ、すずかとなのはの間に特に軋みはないし、現状ではなのははすずかに感謝の限り、と言った状態が続いている。
今のまま、当分は上手くいくやろ、とはやては思っている。

などと、色々と思考したが、これは全て目の前の光景から逃避したからだ。
なんと言うか、無残に折れたツリーと、かなり申し訳なさそうに正座しているヴィータとリインから。




「…ふざけとるのは別に良かったんや。 楽しいすることやから…だけどな…」
「ごめん…はやて。」
「すいませんです、はやてちゃん。」

さすがにはやても真っ二つにされるとは想像の範疇の外だった。
何故こうなったかはイマイチよく分からない。
ただ、ヴィータとリインがふざけていたら、もつれてあっさりといってしまった。

「…ご苦労様や、5年間。」
「うう…ごめんな。」
「ごめんなさいです。」

ツリーに対して、謝るヴィータとリイン。
こうして、八神家に君臨し続けていた一本のツリーはそのお役目を終える事となった。

「しかし、どうしたもんかな。」

新しいのを買うにも、どうにもお金がかかる。
八神家の財政がそれほど苦しいわけでもないが、それにしても、お金を使う金額は毎月毎月しっかりと決めてある。
臨時出費はない方が良い、と考えて、はやてはピーンと閃いた。

「よっしゃ、皆に古いツリーがないか聞いてみよか。」

一番ありそうな所は、と考えて、まず、すずかのところにはやては電話をかける。
ちなみにヴィータとリインは先ほど真っ二つになったツリーを解体している。
飾りを全てとって、素体となった部分だけを捨てる。
とは言え、真っ二つになった拍子に叩きつけられたテッペンの星だけは壊れてしまったが。

「あ、すずかちゃんか、実はな…」
『う〜ん、今年はツリーは庭のもみの木をお姉ちゃんと義兄さんがライトアップするって言って今作業しているから、去年のは…あ…』
「ん、どうなったんや?」
『そうだ、去年のはユーノ君にあげたんだよ。 部屋に彩りがないからって。 じゃあ、せめて年末まで飾ったら、って言って。』
「そうかぁ、じゃあ、ユーノ君に聞いてみるわ。」

そうして、すずかとの電話を切ったはやては、そのままユーノへと電話をかける。
一通り事情を説明すると、ユーノは快く、別に良い、と言ってくれた。
そのあまりにあっさりとした感じに、はやての方が拍子抜けしてしまったくらいだ。

『まあ、僕の部屋にあっても出してる暇もないしね。』

苦笑して放たれた言葉は、確かに理にかなっていた。
埋蔵されているよりも、使われたほうがよい。

『鍵は開けて置くし、はやてが来るまでに、机の上に置いておくよ。』

そう言うと、ユーノは、じゃあ、仕事もあるし、と電話を切った。
さて、年の暮れに、これなら、いい事も結構あるかもなぁ、とはやては思った。
よしんば、こんな事を考えたから、変に欲も出てしまったのかもしれない。




リリカルなのは「願い星、叶え星」



「お、これかぁ。」

ユーノの部屋に来たはやては、早速中に入ると、そこにある大きめの箱を確認した。
確かに中には組み立て式のツリーがあるのだが…

「なんやこれ…」

パーツ量がとんでもなかった。
ユーノの部屋の天井まで2mはあるのだが、組み立てると、大体それと同じ高さくらいになるかもしれない。
それが小さな、はやてにも持てるくらいのダンボールに入っているのだが、結構とんでもない。
重量はそれほどでもない、とは言え、はやての腕には少々重いくらいの重さはあったが。

「あ、そう言えば星…」

キョロキョロと辺りを一応見渡してみる。
山のように積まれた資料や、何かの化石など、ユーノらしいものが目に入るが、飾りつけらしいものは見当たらない。
だから、結局、はやてはもう一度電話する事にした。

「と言うわけなんや、飾りはないかな、星だけでいいんやけど。」
『どこかに入れておいたとは思うんだけど…ツリー本体を見つけたときは見当たらなかったし…?』

こんな風にのんびりと会話しているが、ユーノは仕事中である。
勿論、話していても手は休めていないが、それはそれで少々疲れる。

『はやて、探して持っていてくれていいけど…探せそう?』
「う〜ん、まあ、やってみるわ。」

苦笑しながら電話を切ると、はやては辺りを見回してみる。
雑多なものが溢れる中、さて、どこから探したものか、とはやては思う。
近くに小さな箱があったので、それから探す事にする。
ベッドの上に置かれたそれは、正方形の立方体であり、明らかに中に何かを入れている。
だから、はやてはとりあえず、と開けてみる。
中には、一つの黄色の星が鎮座していた。
クリスマス用の星としては少し大きいが、星は星だ。
綺麗な五角の星は、まるで光輝いているかのようだった。

「うわ…でも、何か凄い魔力やな。」

はやてやなのはに凌駕する魔力が込められたその星。
でもまあ、魔力がいくらこもっていても、星は星だ。
それに、下手に探してマル秘書類などを見てもそれはそれで勘弁して欲しい。
ユーノの事だから、その辺りはキチンと処理しているだろが、漏れがないとも限らない。

「まあ、ええか。」

勝手に自己完結してしまったのかもしれないが、はやては星としか言っていないので、別にいいか、と言う思いもあった。
だから、はやてはその箱に一緒に入っていた紙で包むと、その星をツリーの入ったダンボールの上に置いて、家路へとついた。
そして、のんびりと歩くはやてを見かけた影があった。
なのはである。
はやてが丁度トランスポーターの中に入っていくのを見て、その手の中に持っていたものを見て、首を傾げる。

「ねえ、レイジングハート。 今のはやてちゃんだよね?」
<<そうです。>>
「…『願い星』、持ってなかった?」
<<……確認しないと分かりませんが、星らしきものを持っていましたね。>>
「おかしいなぁ、ユーノ君、クリスマスプレゼントにするって言ってたよね?」
<<ええ。>>

と、なのははこの後、ユーノの元にはやての事を教えに行く。
それを聞いて、ユーノは深々と溜息をつくのだが、それもまた仕方がないだろう。
あんな、凄まじい魔力のこもった怪しい星、誰も持っていくと思わないからだ。
とは言え、害も特にないのは分かっていたので、ユーノはなのはにも手伝ってもらって、仕事を終わらしてから行く事にするのだった。




「立派なツリーやな〜。」

結局、部屋の中にはとても置けなかったので、庭に置く事にしたツリー。
組み立てるだけでやたら細かく、リインとヴィータとはやての3人で組んでも、3時間かかってしまった。
それでも、充分苦労に見合った大きさではあった。

「うん、飾りつけもナイスや。」

ヴィータとリインを賞賛すると、ヴィータとリインはホッとした様子だった。
さすがにツリーを壊してしまったのは、思う所があったのだろう。

「それじゃ、後はこの立派な星をつけて終わりやな。」
「はやて、その星、何か凄い魔力じゃねぇか?」

ヴィータが訝しそうにその星を見る。
星から感じ取れる魔力が膨大なので、それは不安にもなるだろう。
リインも同じように少し不安そうだ。

「あ、はやてちゃん、その包み紙、何か書いてあるです。」
「え、紙?」

はやてが星を包んで持ってきた紙に、確かに、色々書いてあった。

「ええ〜と、何々?」

最初に、はやての眼に入ったのは、説明書、の文字だった。
分かりやすいな、と内心思いながら、はやては内容を読み上げる。

「『この星の名前は『願い星』。何でもお願いを一度だけ聞いてくれます。』 な、何やて〜!?」
「す、すごいじゃねえか、はやて!」
「そうですよ、はやてちゃん!」
「え、と続き続き…『使い方は簡単、軽く魔力を込めて触れればいいだけ。』」
「魔力を込めて触れればいいんだな。」

ドキドキしながらやろうとしているヴィータを、はやては慌てて静止する。

「待つんや、ヴィータ、これはユーノ君のもんや、勝手に使うわけにはいかん!」
「え、でも、はやて、この星もらってきたんだろ?」

そう言えば、確かに。
星を探して、あったら勝手に持って行っていい、と言っていた。
そう言う観点で物を見れば、それは確かにはやての物だった。

「……何でも、か。」

はやては、その甘美な誘惑に、思わず空を見上げていた。
空は、澄み渡るように、夕焼けに染まっていた。
その色は、酷く懐かしいものを訴えかけてくる。

「リインフォース…」

あの日のように、雪は降らない。
それでも、思い出すのは、目の前の甘美な誘惑が、意識をそらさせてくれないから。
逝ってしまった者に、会いたい、とそう思うのはいけない事なんだろうか。
本当は…どうあっても、逝って欲しくなどなかったというのに。

「会いたい…もう一回だけでええから。」
「はやて…」
「はやてちゃん…」
「とっくに…けじめつけたつもりやったんやけどな…」

そう言って、悲しそうに言いながら、はやては軽く魔力を指先に集中させる。
穏やかに光を放っている星に、はやてはその指先をゆっくりと接触させた。
キィン、と何かが砕けるような音が響く。
ただ、それだけで、何が起こるわけでもない、と思ったのだが。

『…おお、誰だおめえ。』

物凄い野太い声が星から放たれた。
思わず辺りには沈黙が立ちこめた。
まあ、こんなメルヘンチックなものが、野太い声を出したりすれば、驚きもする。
と言うか色々と裏切られた気分だ。

「…ええ、と、お願い聞いてくれるんか?」

でもまあ、とりあえず、言ってみることにしたのは、一応、覚悟の後だったからだろう。
だが、世は無常なり。

『やだ。』

何か、即答だった。
思わずはやては米神に井桁を貼り付ける。

「何や、願い星言うて、願い事一つ聞いてくれへん気か!」
『俺はお前みたいな年増の願い事なんて聞かねぇ。』
「年増!?」

若干15歳にして年増といわれたはやての心中はいかほどか。
井桁はドンドン増えていく。

「なあ、星、だったらあたしの願い事は聞いてくれるのか?」

と、ヴィータは横から話しかける。

『…お前さん、一体いくつだよ。』
「え、一応、7歳のはず…」
『…まあ、一応そうだったとしても、惜しいな、無理だ。』
「げ〜、何だよ。」
「じゃあ、リインはOKですか!?」
『ん、お前さんならOKだな。 でもまあ、前の主人の承諾がいるんだが。』

それを聞いて、ヴィータとリインは何だ、と落胆する。
とは言え、これで納まらないのははやてである。

「前の主人って誰や!?」
『年増、お前が俺を持ってきた所がどこか知らんが、一応、ユーノ・スクライアって奴だ。』
「年増言うな、私はまだ15歳や!」
『願い事聞く分には、充分年増だ。』

ギリギリと歯軋りするはやてに、何だか余裕綽綽の星。
そして、ヴィータとリインは、じゃあ、ユーノにお願いしてみようか、と二人で楽しく話していた。

「いいやないか、何であかん。」
『…じゃあ、一応言ってみろ、叶えてやるかはまた別だ。』

はやての神妙な態度に、星も少々態度を改める。
はやては、切なる思いを込めて、ただ、一言、言った。

「リインフォースに会いたい。」
『…ちょい、俺に触れてみろ。』

答えを返さない星に、はやては少々怪しみながらも、手を置く。
5秒程経つと、星はもういい、と言った。

『無理な事を言うな。』
「…やっぱり無理なんか。」
『死者と会うなんて、土台無理なんだよ。いくらそれが、魔力で出来た管制人格でもだ。』

会えたとしても、それは、自己満足の幻影だ、と星は言う。

「無理なんか! どうしても、無理なんか…」
『…できない事は、多分、ない。だが、やらないし、やっちゃならねえ。』

残滓もある、そこにリインフォースUと言うデータの再構築を行った欠片が。
それでも、駄目だ、と星は言う。

『いいか、俺はそんな願い事は叶えねえ、もし出来たとしてもだ。』
「何でも叶えてくれる、ちゅうんは嘘かい…」
『嘘…な…まあ、色々あるんだよ、何でもって言うのもな。』

そう言うと、星も何も言わなくなり、はやてもまた黙ってしまった。
ヴィータとリインもまた、何も言えない。
ただ、沈黙が流れ始め――星が突然言葉を発した。

『ん、この魔力は…』

はやてが少々うなだれていると、星は何かを感じ取ったらしかった。

「死者には会えない、そう言われた、だから、僕は、先に進むための何かが欲しかったんだ。」

朗々と放たれた言葉は、ゆっくりと歩いてくる青年から放たれていた。
その青年は、よくはやて達の見知った青年だ。

「ユーノ君…」
『おう、ユーノ、でっかくなったじゃねえか。』
「久しぶりだね、『願い星』、あれから12年も経ったんだよ。」

ユーノは苦笑すると、後ろに一緒にいたなのはがヒョイと顔を出した。

「初めまして、高町なのはって言います。」
『おう、俺は名前なんてないけどな。』

ふてぶてしい声に、なのはが苦笑すると、はやては首を傾げる。

「ユーノ君…願い事、叶えてもらったんか。」
「うん…もう、12年も前だけど。」

3歳の頃、と語るユーノはとても遠い目をしていた。
昔を振り返る目であり、今を見つめる目。

「最初ね、僕も、はやてと同じ願い事をしたんだよ。」

両親に会わせてください、って。

「…無理…って?」
『当たり前だろうが…こいつの場合、写真どころか記憶すらまともになかったのによ…』

俺にも限界があります、と語る星は、だけど、どこか悔しそうだった。

「はやて、ロストロギア『願い星』は、10年間魔力を集めて、その魔力で魔法を使うんだ。」
「じゅ、10年!?」
「そう、10年毎に一つ、願い事を叶えてくれるんだ。 前の持ち主が認めた譲渡先の主のね。」

と言うかロストロギア…思わず呆然としてしまったはやてに、なのはは苦笑する。

「う〜ん、じゃあ…結局、ユーノ君は何を願ったんや? 持ち主になった言う事は、何か願ったんやろ?」
「僕は、家族に会いたいって言ったって言ったよね。 そしたら、この願い星はね…」
<<私を作って、マスターユーノに与えたんですよ。>>

なのはの首元から話すレイジングハートから、一種、衝撃の事実が現れた。

「レイジングハート、これが作ったんか!?」
『これ言うな!』

ユーノの両親に会わすことは無理。
だけど、泣きそうになっている子供に、何もしないのも、矜持が許さなかった。
だから、彼は、持てる全ての魔力と引き換えに、願いを叶える。

『まあ、初めて作ったからか、ちょっと色々とユーノの家族としてはともかく、デバイスとしてはおかしく出来ちまったけどな。』

星も自身の魔力行使がどのようにして行われ、そのような事が出来ているのか、よく分かっていない。
ただ、魔力の行使は、願いを聞き届ければ、それだけで発動できる。
まあ、色々と制約が多いのも確かなのだが。

『しかし、お前、レイジングハートのマスターじゃ…なくなったみたいだな。』

ユーノの首元に光る新緑の色に輝く宝石を見て、星はそう言う。

<<それは心外な、私の中ではユーノもマスターです。>>
『しかし、今はそっちのなのはって言う娘さんのデバイスなんだろ?』
「色々あってね。」

昔話に色々と華を咲かせているが、ユーノも別にそんな事をしに来たわけではない。
懐かしいと言えば、そうであったのだが。

「だいたいね、元より、願い星ははやての願い事が何であれ、聞いてくれないよ?」

ユーノの台詞に、はやては色めき立つ。

「何やそれ、ユーノ君が認めてくれんからか?」
「いや、そうじゃなくてね、もっと単純な事。」

だいたい、そう言った条件がなかった場合、いくらユーノでも早々他人に譲渡しよう、などと思わないし、もっと奥底にしまっておこうとするだろう。

「『願い星』はね、使用条件が元々あるんだ。」
「何なんだ、それ?」

ユーノの言葉に、ワクワクとしながら、ヴィータが聞いた。
その様子に苦笑すると、ユーノは言った。

「『願い星』はね、子供の贈り物ように作られたらしくて…5歳以下の子の願い事しか聞いてくれないんだよ。」
「は、5歳!?」

…聞いたはやては、どうしてさっき年増と言われたかよ〜く分かった。
それは年齢オーバー著しかったからだ。

「そうじゃなかったら、僕はなのはにプレゼントしているよ。」
「…にゃはは。」

目線でやり取りして、恥ずかしそうに笑うなのはに、はやてはそらそうか、と思ってしまった。
管制人格が更に制限をかけるとは言え、基本的に何でも願い事は叶えてくれるのだ。
ユーノがなのはにあげていない理由があってしかるべきだった。

『それで、ユーノ、俺は誰に渡されるんだ?』
「本当はクリスマスにあげようと思ってたんだけど…」

こういう事になったら仕方がないよね、と笑うユーノは、願い星を左手に持つと、そのまま、その手を差し出した。

「はい、リインフォース。」

リインフォースへと。
そして、渡されて、反射的に受け取ったリインは、少々うろたえていた。

「え、え、リインなのですか?」
「うん、そうだよ。」
「で、でも、ユーノさんにはイージスちゃんが…」

もらえれば確かに嬉しいが、それも、相手の方の同じような状態の子を放り出しては寝覚めが悪い。
それに、リインにしてみれば、イージスは妹のようなもので、やっぱり、と言う思いがあった。
しかし、それを見越していたかのように、ユーノは笑う。

「大丈夫だよ、イージスも納得しているし、それに、これは今年、イージスとよく遊んでくれたお礼でもあるんだ。」
<<そうです、リインフォースさん。 ちょっと羨ましいですけど。>>

ユーノとイージスはそう言って、リインに星を示す。

笑うユーノは、どこか父性を感じさせるものがあって。
そんなユーノに頭を撫でられたリインは納得させる何かを感じた。

「…なのはちゃん、ユーノ君、もう何かほんまにパパって感じやで。」
「そう思うよね。 ユーノ君、家族に飢えてたから、どうも凄く出来たお父さんの典型みたいになってるの。」

苦笑するなのはだったが、内心、はやてちゃんの方が親らしさは上だよ、と思った。
とは言え、もしユーノとなのはとリインで一緒に歩いた場合、まあ、年若い夫婦ね、と言われている表情をしている事を、当事者たちが気づいていないだけ。
つまり、なのはも自分を棚上げにしていた。

そんな事を考えている間に、リインの考えも纏まったようだ。

「そ、それじゃあ、リインがもらいます!」
『おう、分かった、ユーノ・スクライアから八神リインフォースに譲渡を認める。』

カッ、と一瞬青く光ると、そのまま願い星は魔力を集中させ始めた。

『さて、リインフォース、お前の願い事を言ってみな。』

そう言われて、リインは頭の中で沢山の願い事を反芻する。
家族皆でずっと仲良く、とか、お菓子が山ほど食べたい、とか、もっと魔法を沢山覚えたい、とか…
グルグルと迷う思考から、リインの視線は自然とはやてに向いていた。
はやてはそれに困ったような表情を返しながらも、どこかで気持ちが温かくなるような、そんな気持ちがあった。
リインフォースは確かに逝ってしまったしまったけれど、確かに残してくれたものがあって。
目の前の彼女は確かにあの子が残していってくれたんだ、と思うと、少しだけ、疼いていた気持ちが落ち着いた。
叶えられないと分かったなら、後は、未練だ。

「リイン、何でもええんや、自分が一番今したいこと言ったり。」

そう言われると、リインは、目を閉じて数分唸った後に、カッ、と目を見開いた。

「決めました、リインの願い事は…!」

真剣な表情で星を見つめるリインの眼に、それを見ている一堂はちょっと微笑ましい気分になった。
まあ、傍目には小さな女の子が星に必死に願い事している図なのだから、それもまあ、仕方がない。
そんな事を思っている間に、リインは願いを言い放った。

「イージスちゃんと手を繋いで散歩したいです!」

ズーン、とどこからか重低音が聞こえてきそうな音が聞こえた。
ヴィータがちょっと膝を落としている事に気づいた。
ここで近寄ると、お菓子じゃなかった、と呟くヴィータの声が聞こえた事だろう。

とは言え、周りの皆が少々困惑気味だった。

「…イージスと手を繋いで。」
「散歩、かぁ。」

ユーノとなのははその言葉を聞いて、ちょっと想像。
なのはは、リインが宝石から生えた手を握って、一緒に公園にいる図を想像した。
途方もなくシュールだった。

『その願い事でいいんだな?』
「はいです!」
「え、あ、ちょい…」
『よし、行くぞ!』

星がそう叫ぶと、辺りに、黄色の光が舞った。
クルクルと回り始めた星は、光を飛び散らせながら、莫大な魔力を放つ。
それらの光は、10秒ほどすると、ユーノの首元の新緑の宝石へと降り注ぐ。
それに焦りだすのははやてとなのはだ。
宝石から手が生えてくる光景など、いっそホラーではないか。
しかし、そんな二人の考えをあざ笑うかのように、光がおさまっても、特に宝石は変化はなかった。

「あれ?」
「どうなったんや?」

周りを見てみても、特に変わったことはない…?。

「あ、イージス、調子はどう?」
「ユ、ユーノパパ、感覚がよく…」

ユーノがちょっとしゃがみこんでリインよりも更に小さな女の子と話していた。
年のころ、4歳ほどだろうか。

「実体化プログラム…リインと一緒か。」

ユーノがよく分かった、とばかりに呟くと、ユーノは女の子を抱えて、リインの所に歩く。

「はい、リイン、お願い事、これで叶えられる?」
「…イージスちゃん?」
「はい、リインフォースさん。」

それを呆然と見ていたのは、なのはとはやて。
イージス、と呼ばれた少女は、なのはの昔のバリアジャケットのような服を来ていた。
顔立ちはなのはそっくりで、髪の色はユーノから取ったような色。
これで髪の毛を縛れば、本当に昔のなのはそっくりだったろう。

「イージス、歩けそう?」
「はい、ユーノパパ、馴染んできました。」

そう言うと、フワフワと飛んで着地して、イージスはリインの眼の前に立つ。
リインはパァ、と顔を輝かせたかのように笑みに変えると、右手をイージスに差し出した。
イージスは恐る恐る、その手を左手でつかむ。

「行こうです〜! イージスちゃん!」
「は、はい!」

おっかなびっくり歩き出すイージスを引きずるように、リインは感極まったかのように歩き出す。
年の近い友達がいないリイン。
ちょっと、この状況を嬉しく思っているのだろう。

『俺の願い事は、こんな風に、子供を笑わせるためにあるんだよ。』

黙っていた星は、そう言うと、ポトン、と、その場に落ちた。

『ああ、疲れた、また10年、休ませてもらうぞ。』
「うん、はやて、リインに後で渡してあげてね。」
「え、あ、うん。」

ヒョイ、と渡された星は、既に沈黙していた。
何も語らず、何も見ない。

「嵐のような…奴やな。」
「…10年後…リインちゃんは誰に渡すのかな、今度は。」
「さあ…はやての子供かもしれない、なのはの子供かもしれないし、フェイトの子供かもしれない。」

そう言うユーノは、ゆっくりと歩き始めた二人の子供見ている。
その目は、とても優しい。

「言われたんだ、この星を渡された時に。」

『この星を誰かに渡せるように、お前も頑張って生きてみろ。』

「だから、僕達は、あの子達が頑張って生きていけるようにしてあげたいな。」

ユーノの思いは、皆も一緒で。

「そうだね…その、リインちゃんが…私と……ユーノ君の、その……子供に…星を渡してくれるように、頑張っていきたいな。」
「…うん、なのは。」

見詰め合う二人から、ヴィータとはやては目をそらす。
ちょっと独り身が寂しい。

「ヴィータ、私らも、頑張って生きなな。」
「当たり前だろ、あたしらは、はやてを何があっても死なせない…それがあたしら残ったヴォルケンリッターの、リインフォースとの約束だ。」

思わずその言葉にはやてはヴィータをマジマジと見つめる。

「な、何だよ?」
「いや、ヴィータからそう言う台詞を聞くと思わんかった。」
「へーん、あたしだって言うときゃ言うよ。」

得意満面な顔をするヴィータに、はやては内心思う。

(家族は皆私の事を護ってくれとる。それで、私も護りたいんや、この子らを。)

10年、と言う長い時。
手の中にある星を渡せるように。

「リインフォース、これからも私ら、頑張って生きてくわ。」

そう言うはやての顔は、どこか晴れ晴れとしていて、すっきりとしていた。

ー終わりー




ーおまけー

「ただいま〜」
「お邪魔します。」

あの後、高町家へと帰ってきたユーノとなのはとイージス。

イージスは色々試して分かったが、基本的にリインと同じ、半実体化のような状態になれるらしい。
それでいて、デバイスとしての機能は、全く変わっていなかった。
これは、ただ単に、魔力による実体化機能を追加されただけと思えばいいらしい。
そして、今、3歳時くらいの大きさのイージスは、ユーノに肩車されていた。
凄くご満悦、と言った表情。

「お帰り〜、いらっしゃいユ……」

桃子が出迎えたのだが、その台詞はユーノを見て止まってしまった。

「どうした、桃……」

そうして出てきた士朗も固まってしまった。
そんな二人の様子に、ただ、ユーノもなのはも首を傾げ、同じように、イージスも首を傾げた。
そして、無言のまま時が過ぎ。

チャキ、と音がすると、士朗は刀を構えた。
桃子は満面の笑みを浮かべていた。

―――!!!???

大混乱の子供達の中、士朗は叫ぶ。

「貴様、いつのまにそんな大きな子供を―――!」
「そう言う事か〜!」

咄嗟にイージスをなのはに渡すと、ユーノはそのまま士朗と追いかけっこを始めて走りまわり始めた。

「誤解です!」
「ならば誰の子だ!?」
「…それは僕となのは…ハッ!?」

慌てていたのか、泥沼に突っ込んでいくユーノ。

「可愛いわね、お名前は?」
「イージスです。」
「あの…お母さん…?」
「孫も可愛いわね…」

桃子はイージスを抱き上げて、可愛がるのだった。


「違うんですよ〜!」
「何が違うと言う!?」

ギイン、と刀がシールドとぶつかって火花を散らす。
既に、一時間近く不毛なやり取りが続いている。
ユーノは息切れが激しいし、士郎も少々疲労があるのはいなめない状態だ。
遺跡発掘などの時のためにそれなりに鍛えている、とは言っても、所詮それなり。
まあ、士郎も訓練自体は緩めだったからか、疲労が目に見えて来ているのが救いだ。
今度、恭也さんに鍛えてもらうのもいいかもしれない、と疲れた頭でも思考は早い。
と、いきなり目の前から姿を消す士郎に、ユーノは全方位のプロテクションを張り巡らす。
背後で音がなるのが聞こえて、ユーノは冷や汗を流す。

「もう、お父さん!」

なのはも制止してくれているのだが、止まる気配のない士郎。
桃子は困った顔をしている。
何だか泣きそうな顔のイージスに心が痛い。
などと余裕を見せていたからか、ユーノの膝はカクンと折れて、尻餅をついてしまった。

「もらった!」

と言う言葉に、ユーノは慣れた術式、ラウンドシールドで紙一重で刀を防ぐ。
一応、峰だった。
さすがに、この事態に、なのはもイージスも限界を超えた。

「いい加減にして〜、お父さんなんて――」
「士郎おじいちゃんなんて――」
『大っ嫌い!』

ステレオで叫ばれた言葉に、ユーノもちょっと哀れな気分になる、と同時に。

「…グハッ」

断末魔とは又違う、悲しみを帯びたような、そんな最後の言葉だった。
倒れ付した士郎に、ユーノはちょっとばかり悪い気がするのだった。

まあ、この後、誤解自体はしっかりと解いたので、士郎も納得した。
でもまあ、この後、なのはとイージスに酷く冷たい目で見られる居心地の悪い二日間を過ごすこととなった。
ユーノのとりなしのおかげで、何とかなったのだが、そのせいで、微妙に士郎はユーノに好意的になった、そんな話。

ー本当に終わるー

メインにはやてなんですけど…中途半端な感がいなめず…
やっぱり、もうちょっと深く掘り下げてみるべきでした。
お休み期間の間に、色々と練ってみます。



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