最初に、なのはがそれを聞いたのは、自身の教え子からだった。

「教官、高町教官!」
「何?」

今日も良い感じに終わったな、と充足感を覚えていた所だった。
何とも楽しそうに、無邪気に尋ねてくる教え子に、なのはは何の気なしに聞き変えした。
すると、その子は何とも興味深々と言った顔で。

「ハラウオン執務官候補生とスクライア司書長が付き合っているって言うのは、本当ですか!?」
「…え?」

寝耳に水、と言う例えが一番分かりやすかっただろう。
それほど、なのはは聞かれた事に驚愕を覚えていた。

「フェイトちゃんと、ユーノ君が?」
「そうです、今、局内で一番ホットな話題なんです!」

それはそれは楽しそうにしている教え子の顔をぼんやり見ながら、なのはは首を傾げる。
そんな話は、全く聞いた事がないのだ。
本人達から。

「ん〜、嘘じゃない? 私、二人からそんな事、一言も聞いた事ないし。」

だから、なのはも最初はそう、軽く返したのだ。
しかし、教え子はそんな事はない、と強気に押し返す。

「え〜、だって、最近、ハラウオン執務官候補…ハラウオンさんが足しげく、まるで通い妻のように無限書庫のスクライア司書長のところに通ってますよ?」
「そ、そうなの?」

これはなのはも初耳だったので、素直に驚いた。
なのはも一週間に一度くらいは顔を出すのだが、まだフェイトがユーノと一緒にいるところなど見たことはなかった。
それに、もしフェイトとユーノがそんな関係なら、どちらかが嬉しそうに言ってくれると思われる。
少々、胸の奥で棘が刺さったような痛みを覚えた気もしたが、それはよく分からない。

「やっぱり、嘘だと思うな、私は。」
「ん〜、お二人と親しい教官がそう言うなら、そうなのかな?」

あれ〜、と疑問符を抱えて去っていく教え子を眺めながら、なのはは今の話題に頭を走らせていた。
だからかもしれない。
その後、特に用事もないのに、無限書庫へと歩を進めたのは。




到着した無限書庫で、辺りを見回す。
いつもなら、そこが定位置、とばかりにいる位置に、ユーノの姿がなかった。
キョロキョロと辺りを見回しながら、姿を探してみるが、見つからない。

「どうかなさいましたか?」

そこに、なのはも見た事がない、多分新人と思われる司書が一人、声をかけてきた。

「ええ、ユーノ・スクライア司書長を探しているのですが。」

そう言うと、司書は困った様な顔をして、答えた。

「今、司書長は司書長室で、ハラウオン執務官候補生と何かしていらっしゃるようで…」
「何か?」

フェイトちゃんと一緒…と思わず動揺しそうになった心を落ち着けて、なのはは疑問に思った事を聞く。
しかし、その司書は、困った様な顔をするのみだ。

「すいません、古参の方は皆さん知っていらっしゃるようなのですが、私は聞いておりませんので。」
「え、あ、いえ、別にかまわないですから。」

男女二人っきり。
司書長室の方向を眺めながらなのははそんなフレーズが頭の中に渦巻き始めたのを感じていた。
そして、いつのにか、自分でも認知していない間に、無限書庫を出て、自身の家へと歩を進めていた。
本当は、二人っきりなどではなくて、中にはアルフも一緒にいたのだけれど。
そんな事は、なのはに分かるはずもなく。
そして、誰に問題があるわけでもない状態。
しかし、この瞬間、確実に、歯車が一つ、ずれた。
フェイトが執務官試験に受かる、一月前の事だった。



聞けばいいのだ、と次の日、なのははフェイトと登校しながら、思い立った。
それが当たり前なのだが、どうしてか、躊躇してしまうのだ。
自分でもよく分からないのだが。
と、なのはは恐る恐る、と言った様子で、声をかけた。

「フェイトちゃん。」
「何、なのは?」

どこか楽しげに答えるフェイトに、なのははまずは無難な質問を出す。
それは、どこか逃避の意味もこもっていたのかもしれないが。

「執務官試験、今度は大丈夫そう?」

これも、聞きたかった事の一つなのは確か。
ある意味、一回目は自分のせいで落ちたようなものでもあったし。
二回目も落ちてしまったのだ、何か変なジンクスでもついてしまったのかもしれない。

「大丈夫、とは言えないけど、精一杯頑張るよ。」

そう言うフェイトの顔は、適度に気が抜けていた。
そこに向かって迷いなく、でも、力が入りすぎないように、自然体と言える状態だった。

「そっかぁ…」
「うん。」

話題は切れてしまったが、二人の間にきまずさはない。
どこか温かい雰囲気を覚えながら、二人はゆっくりと歩いていく。

「そう言えば…」

そんな雰囲気だからこそ、多少のぎこちなさを持っていても、なのはは聞けた。
もっと、重い雰囲気だったら聞くのをはばかっただろうし、軽い雰囲気なら自然と忘れてしまっただろう。

「フェイトちゃん、無限書庫で何やってるの?」
「え?」

聞かれて、フェイトは少しうろたえた感じになった。
何か、隠しているなぁ、となのはは思った。

「えっと、ね…」

う〜ん、う〜ん、と唸るフェイト。
その顔がどこか紅潮して見えるのは、陽の光のせいなのだろうか。

「ちょっと、言うのが恥ずかしいから…執務官試験が完全に終わったら、言うよ。」
「…うん。」

なのはとしては、それに頷く事しかできない。
聞き出したい、と思っても、それ以上口は動かず。
そして、紅潮したように見えた顔から、なのはの疑念は、大きく華を咲かせていた。

フェイトにしてみれば、苦手分野克服のために、初級からおさらいをやっている、と言う事が、少々恥ずかしくて言いたくなかっただけ。
別に、そのほかに何か特別な事があるかと言えば、特にない。
たった、それだけ、たったそれだけの事だったのに。
華を咲かせるには充分な事だった。

「あ、フェイトちゃん、なのはちゃん、おはよう!」

はやてが来た事により、結局、その話題は、出す事もできなくなってしまった。
どうして出せないのか、その理由すら分からないのに。



「…?」

不思議そうな目で、ユーノがこちらを見ているのが、なのはにはよく分かった。
それはそうだろう。
いきなり無言でやってきて、目の前で立ち止まったかと思えば、本を読み始めたのだ。
非常に奇怪な行動をとっているのは自分でもよく分かっていた。
しかし、聞きたい事を聞く言葉も思いつかないのだ。
だから、こんな不自然な状態になってしまった。

「…なのは、どうかしたの?」

仕事を続けながらも、こちらに意識を傾けてくれているのは分かるのだが、どうしようもないのは、自身なだけに、本当にどうしたものか。
結局、何を聞くでもなく、そのまま時間は過ぎていってしまった。
情けない、と思わないでもなかったが、まだ、二人をそう言う目で見ることは、非常に難しい、と言う部分があったからかもしれない。
それに、友達の事に、どうして自分はこんなに首を突っ込んでいるのか、と言う考えもあって、結局、なのはは言い訳をしながら、何もできないのだった。

フェイトとユーノが付き合っている、と言う事実があったとして、自分はどうするのだろう、となのはは今更ながらに考えた。
祝福する、と言うのが普通の流れなのだろう、と考える。
何せ、二人とも最も大切な友達の中の二人なのだ。
それが自然であり、だから――この胸の痛みは、何かの錯覚なのだ。




リリカルなのは「歩いた道、迷いこんだ場所」




「なのはちゃん、聞いた?」
「何をですか?」

少々、訓練中に怪我をしてしまい、医務室に寄った時のことだった。
シャマルに治療してしもらいながら、話題をふられて、なのはは首をかしげた。

「フェイトちゃんの事。」

そろそろフェイトの執務官試験の結果発表だ。
明後日には発表なのだが、フェイトに緊張している様子はない。
きっと、よく出来たんだろう、となのはもホッとしたものだ。

「執務官試験の噂ですか?」
「ううん、そうじゃなくてね、フェイトちゃんとユーノ君が付き合ってるんだって。」

シャマルの言葉に、なのはは眉根を寄せる。

「断定なんですか?」
「付き合ってるって、私は聞きましたけど…司書の方から。」

祝福してあげないと、と言うシャマルの声がどこか遠くに行った気がした。
そうか、となのははどこか力が抜けていく感覚を覚えた。
怪我も治してもらって、痛みもないはずなのに、ズキン、ズキン、と胸が痛んだ。
あの二人から、その手の事を聞いたことがあったろうか、と思った。
結局、ないのだ。
親友のフェイトから何も言われない。
恩師でもあり、友達のユーノから何も言われない。
無性に寂しくて、それでいて、空虚な気分になった。

「なのはちゃん…どうかした?」
「いえ…二人とも何も言ってくれないから、寂しいなって。」
「恥ずかしいのかもしれませんね。」

ウンウン、としたり顔で頷くシャマルの顔が、妙に近所のおばさんに見えてきたのは、きっと見間違いじゃない。
と言うか、もしカテゴリーするのなら、きっと同じ場所だな、と空虚な部分をそんな思考でなのはは埋めていた。



「…………そっか。」

その日の帰り道、考える事はただそれだけで。
二人が付き合っているのか、とのんびり歩きで考える。
それなら、無限書庫の話も何ら不思議ではないし、不思議に思う事もない。
全てが符合するではないか。
フェイトが顔を紅潮させながらその内言うと言っていたのも。
シャマルの話を考えてみれば、とても自然とそうなのだろう、と思えてしまう。
本当は、いくらでも疑問を寄せる余地はあったのかもしれないけど、既に、なのはの思考は止まっていた。

「お似合いかな…」

二人とも綺麗だからなぁ、と二人が並ぶ姿を想像する。
ギシリ、と何かが軋んだ気がした。
まるで、体の中で何かが飛び出そうとしているようで、痛かった。
痛い、痛い、と思っても、それが何かも分からない。
ただ、無性に切なくて――悲しかった。
それでも、なのはは分からなくて、仮面をかぶる。

「うん、二人とも、お幸せに、って奴だよね、レイジングハート。」
<<…はい。>>

いささか、レイジングハートもその主の胸の内を図りかねて、困惑気味でもあった。
どう言葉にして良いか分からない、そんな気持ちを抱えて。
運命の日は訪れる。




「僕の恋人になってください。」

それは、フェイトから、執務官試験の合格を告げられて暫くしてからだった。
その日、休暇を取っていたなのははフェイトの合格した、と言う声を聞いて、大いに喜んでいた所だった。
ユーノがやってきたのは、そんな時だった。
何の色気もない、玄関先での告白だった。
ドキンとなのはの中で跳ね上がった鼓動は、確かに歓喜を告げていた。
ユーノの顔も真剣そのもので、とても嘘だ何て思うはずもなかった。
なかった――はずなのに――

「――ユーノ君は、フェイトちゃんと付き合ってるんでしょ? だったら、そんな事言わないで。」

この時、なのはの心の中で、いくつも動きがあった。
歓喜に喜ぶ気持ち。
フェイトと付き合っているのに、自分に告白してくるユーノへの軽蔑の気持ち。
フェイトへの申し訳ない気持ち。
それらがどうでもよくて、ただ、考えるのさえも億劫になった気持ち。

グニャグニャと交じり合って混乱をきたしたなのはの表面に立ったのが、先日確信した気持ちだった。

「なのは!?」

何を言っているのか、と言わんばかりの声を上げて、ユーノは何かを言い募ろうとしているように思える。
でも、そんなもの聞きたくなかった。
ただ、自分の気持ちに従って、なのはは言葉を紡ぐ。

それに、

その言葉は本心だ。

私は、

――本当に、この時のなのはには、本心だったのだ。

ユーノ君の事、友達としか思ってないから。

それが、本当に、ただこの一瞬だけだったとしても。

ユーノは何か言おうとしていた口を閉ざした。
その目も、まるで何かに耐えるようにして閉じられていて。
それから5秒ほどだったろうか。
ユーノの顔が苦笑に変わった。

「そっか、時間取らせて、ごめん。」

その時のユーノの顔はあまりにも痛そうで。
なのはは、今、自分が言った言葉を反芻する。
友達――そうだ、友達だ。

「ユーノ君は、友達だよ?」

その言葉は、どうしてこんなに、空々しく響くのだろう。
分からない、分からない。
私は、私が分からない。
なのはは、ボヤッと、帰っていくユーノの背中を見つめていた。
恭也が何かをユーノに渡していた気もするが、それもよく分からない。
その日のそれからの記憶は、なのはには、ない。




次の日、フェイトが学校にこなかった。
連絡をしてみれば、ちょっと調子が悪い、との事だった。
この日の夜は、明日は休みな事だし、フェイトの執務官試験合格の祝賀会となっているのだが。
中止にしようか、と送ってみれば、大丈夫、ただの二日酔いだから、と返って来た。

「二日酔い?」

あのフェイトが、と仲間内で首を傾げてしまった。
何せ、フェイトもその義兄に負けず劣らず真面目な性格だ。
そのフェイトが二日酔いで学校を休む、と言う事が信じられなかった。
何かあったのかな、と思ったが、よくよく思えば、合格したのは昨日。
家族内で多少ハメを外してお酒を飲んでもなんら不思議ではない。
クロノとフェイトはともかく、リンディとアルフは特に。
中にエイミィも入っていれば更に確率は上がるなぁ、と、一同は考える。
何となく、納得するに至った。

そして、その日の夜の事。

「あれ、フェイトちゃん…まぶた、腫れてる?」

めざとくそれに気づいたのは、なのはだった。
そう言われて、フェイトは少し困った顔をした。
どう説明したらいいものか、迷っているようだった。

「ああ〜、ん〜、ちょっとだけ泣いちゃったんだ、昨日。」

昨日と言われると、なのはは頭の中が凍りついたように稼動するのをやめようとするのを感じたが、それでも記憶を探る。
もしや、ユーノが告白した件なのだろうか。
それがショックだったのだろうか、とありえる事を考える。

「ユーノ君のせい?」

小声で、しかしはっきりと声に出した事に、なのははいささか自分でも驚いていた。
一体、それを聞いて、自分は何がしたいのだろう、と思った。
何時までも混乱し続ける思考に、いい加減、嫌な気持ちも持ってくる。
しかし、件のフェイトは、不思議そうな顔をした。

「どうして、ユーノ?」

本当に不思議そうに聞き返されて、なのはは内心、ホッとした。
どうやら、ユーノのことは関係なかったらしい。
それだけで、なのはは少し安心した。
何が変わるわけでも決してないのだが。

「ユーノと言えば…」

キョロキョロと辺りを見回して、フェイトは首をかしげる。

「おかしいなぁ、今日は来るって言ってたはずなのに。」

祝勝会にいないユーノに疑問の声を上げるフェイト。
しかし、なのはにしてみれば、それは内心、ホッとした。
昨日の今日で、顔を合わせたいとはさすがに思っていなかった。
ギスギスと唸る胸の内を考えても、だ。

結局、その日、ユーノからは、仕事でいけなくなった、と連絡があった。
残念そうなフェイトを見ながら、なのははどこかでまた、安堵を覚えていた。

――間違っていない。




「なあなあ、なのはちゃん、フェイトちゃんとユーノ君が付き合ってるんやって。」

それから、少しして、はやてが登校中にそんな話題を出してきた。
なのはにしてみれば、今更なのであるが、思わず眉間に皺をよせてしまう。
どうしても、この話題には痛みが伴ってしまうのだ。
なのは自身、その理由は分かっていない。
友達の幸せを素直に祝えない自分に苛立つのだ。
反面、非常に悔しい思いがどこかにあるのを最近は理解し始めた。

そのなのはの表情を見たはやては、よく分からない、と言った顔をした。

「ん…なのはちゃんは色々複雑かな?」
「…うん。」

かろうじて、一つだけ頷けた。
表面上、冷静に、しかし、内面は最近はまるでブリザードが吹き荒れているかのように、大荒れだった。




緩々と時間が流れていくと、いい加減、なのはも冷静になってきた。
冷静に、自分とユーノの距離を眺める事が出来る。
普通に話しかけて、普通に挨拶して。
元の関係になれたかな、と思えた。
ユーノとの間に溝なんてなくて、また同じ関係になれた、とそう思えたのだ。
でも、やっぱり、決定的に違ってしまった。

ユーノの笑顔が冷たく見える。

どうしてだろう、となのはは疑問を考える。
笑顔は、変わらない。
ただ、それが、今までよりも硬質的で、少しだけ他人行儀なだけ。
たったそれだけの違いが、無性に二人の間を冷たくしている、となのはは思った。
――それが、ただの友達の距離なんだ、と気づかずに。

「――ユーノと喧嘩でもしたの?」

フェイトに問われた言葉に、なのは平然と首を振る。
喧嘩などでは決してなかった。
喧嘩なら、どれほど気が楽だろうか。
仲直りしてそれで終わりなら、これほど苦しむ事などないと言うのに。

「じゃあ、ユーノと何かあったの?」

次に問われた事には、心当たりがありすぎて、何も言えなくなった。
それに、これをフェイトに言ってしまえば、どうなるか分からない。
なのに、なのはは言葉を、紡いでいた。
言いたくなんてなかったし、言おうとも思っていなかったはずなのに、口は動いていた。

「何でもないんだよ、本当に。 ちょっと、ユーノ君に告白されて、断っただけだから。」
「…え?」

フェイトの呻き声を聞いて、なのはは自身の中で、悦びとも取れる感情を感じた事に、怒りさえ覚えた。
一体、自分はどうしてしまったのだろう、と訳が分からなくなる。

「そっか…嫌な事聞いちゃってごめんね。」

でも、フェイトの顔は、特に傷ついたような顔ではなくて。
聞いてしまった申し訳なさで溢れていた。
分からない、分からない。
どうして――




15歳になった。
時々見かけるフェイトとユーノは、親しくしているのが見てとれた。
なのはの心も落ち着きを見せていた。
時間が解決してくれるというのも嘘ではないなぁ、となのはのんびりと思っていた。
ただ、それも、フェイトに向けられているユーノの顔を見ると、いささか平静ではなくなる。

「あの顔は…」

ユーノがフェイトに向けている笑顔を見る。
それは、失くしてしまったものだ。
なのはが失くしてしまった、温かい笑顔。
ずっと、自分に温かさをくれていた、失くした笑顔だ。
でも、それも、分かりきっていた事。
ユーノが付き合っているのは、なのはではなく、フェイトで。
自分で、捨ててしまったと言われればそうなのかもしれなかったけど。
大切なものが、指をすり抜けていってしまったのだと、気づいたのは、そんな時だった。
本当に、本当に、大切にしたかった物の一つだったはずなのに。

「あ…」

思わず呻いて…どうしようもないのだと、気づかされた。
自室でベッドに突っ伏しながら、なのはは今更ながらに、背中から、温かさが失われていた事に、気づいた。




決定的だったのは、それからいくらか経った朝だった。

「…え、と、ね。」

赤くなったフェイトの顔を眺めて、なのはとはやてとアリサとすずかは首をかしげる。
何だろう、と登校途中の一団はフェイトを注目する。

「はやてにね…その、昨日…」
「ん、あ、ユーノ君との事か?」

そのことか、と頷くはやてに、なのはは内心、やっと言ってくれるのかな、と思った。
やっと――その言葉通りだったら、どんなに良かったろう。

「その…嘘が…真になったから。」
「――ほ、ほんまに!?」

驚くはやてに、アリサとすずかとなのはは首を傾げる。
アリサとすずかは、純粋に何のことを言っているか分からずに。
なのはは、どうして知っているはずのはやてが驚くのかが分からずに。

「そ、その、昨日から、ユーノと恋人になったんだ。」

真っ赤にしてそういい募るフェイトは、非常に可愛くて。
そして、言われた内容に、アリサとすずかは、目を丸くして、しかし、すぐに祝福の言葉をかける。

「へえ〜、ユーノと?」
「全然、分からなかったよ。」

なのはは、そんな言葉を耳に入れながら、思わず、と言った感じでつぶやいていた。

「昨日?」
「え、あ、うん、昨日だよ。」

昨日…キノウ…一日前…
嘘だ、と叫びたい気持ちになった。
嘘だ、嘘だ、嘘だ。
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。

「なのはちゃん、どうしたん?」
「…昨日?」
「あ、それかぁ…そうやねんて、昨日まで、ただ、無限書庫で一緒に勉強しとっただけやねんて。」
「勉強…」

片言のように呆然と呟いているなのはに、はやては、少し心配になってくる。
明らかに、はやてから見て、今のなのはは少しおかしかった。

「あ…ああ…ああああああ…」
「なのはちゃん?」



信じられなかった。
ようやく分かった。
ユーノも信じられなかった。
フェイトも信じていなかった。
誰とも分からないところ来た情報を鵜呑みにした。
最後まで結局、自分で確認さえしなかった。
そして、だから、自分の気持ちさえも見えないように隠して。
言い訳を用意して、二人のためだと気持ちを見て――

ユーノが好きな自分を、かくして、自分が傷つかないように…

ユーノを傷つけた。

友達なんかじゃなかった。
誰よりも大切な人だった。
喜んでいたのに、
フェイトがいるから、これは違うのだと、まるで分かったみたいに言い聞かせて。
自分でも分かってないふりまでして。
そんな意味の好きじゃないと思い込んで。
好きな人を失ってしまって。
もう、手の届かない事だ。

歯車が全て壊れてしまった。



「…は、なのは!」
「…ん。」

フェイトの声に、なのはは現実に意識を向けた。
いつのまにか、肩をつかまれていた。
フェイトは本当に、真剣にこちらを心配そう見ていて。
それだけで、どこかで慰められている自分を感じて、なのはは苦笑する。

「フェイトちゃん。」
「何、なのは?」
「ユーノ君と、幸せにね。」

すると、顔を真っ赤にして俯くフェイト。
それを見ながら、なのはは心の中で呟く。

いつか、心の底から、この言葉を言える日が来るのだろうか、と。
心の底から、きっと祝福できる日が来る事を、なのはは望む。

ーFIN−

凄いエネルギー消耗率…
もう二度とこの手のものは書くまい、と思いました。






全てを台無しにするおまけが見たい人は↓に




















全てを台無しにするおまけ――



「うん、落ち込むのは終わりだよ!」

なのははフェイトの前でそう叫んだ。
そして、フェイトに指を指して、こう言った。

「でも、フェイトちゃんとユーノ君を簡単に幸せにしてあげないよ!」

は、とフェイトは目を丸くしてなのはを見る。
なのはの顔は、フェイトの眼から見ても、妙にキラキラと輝いているように見えた。

「ユーノ君とフェイトちゃんは恋人同士になったかもしれない。」

なのはは一度言葉を切ると、グルリと周りを見た。

「一度ユーノ君を振った私が、こういうのは最低かもしれない。」

そして、なのはいつも通り、全力全開の笑みを浮かべて、フェイトに叫んだ。

「でも、ユーノ君の事が好きって、やっと分かったから、簡単にフェイトちゃんに渡せない。」

ウンウン、と頷くなのはに、一同、呆然。
そして、呆然としている間に、なのはは走り出した。

「今日は、学校休むね〜」

素晴らしい速度で走っていくなのはを呆然と見送っていたフェイトは、ハッ、と気づくと、同じく走り出した。

「ちょ、ちょっと、なのは〜!」
「何〜!?」
「今更、それはないと思う!」
「私もそう思うよ〜!」
「それでも、ユーノが好きって事なの〜!?」
「うん!」
「――渡さないからね!」
「諦めないからね!」

この後、どうなったのやら、はてさて。

ー終わりですー





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