普段のイージスとシェルナスは、基本的に自分たちの足で歩いている。
前からイージスはどちらかと言えばユーノに捕まって歩いている事が多かったのだが。
と言うか、手を繋いでいたというべきか。
だけども、シェルナスが来てからはあまりそうやってくっつかなくなった。
先輩として、そう言うところを見せたくないのだろう。
尤も、シェルナスはどこかその辺りに気づいているのか、なるべくユーノとイージスを二人にする時間を作っていた。

「シェル君は、遠慮しすぎですよ。」
「…そうですか?」

ふと、そんな一人になっての休憩中にリインフォースがやって来て、そんな事を言う。
そうなのだろうか、と自問自答するが、答えは見つからない。

「う〜ん。でもですね、やっぱり二人で甘えたい時はあるんじゃないかと。」
「それはそうですけど。」

それについてはリインフォースも同意するが、そのためにシェルナスが気をきかせるのもまた違う気がするのだ。
何というか、生まれてから相当時間が経っているとは言え、どこかシェルナスは老成している気がしてならない。
いや、大人びていると言うべきか。
それにしても、槍だった時の話をユーノから聞いている限り、もう少し子供らしい性格をしていたと思うのだが。
こうなってからシェルナスはどこか静かで落ち着いた感じへと変貌した気がする。
何か思う所があったのだろうか。

「シェル君、何だか大人しくなりました?」
「…う〜ん、こういう言い方もなんですが、マスターの影響を受けやすいんですよ。」
「そうなんですか?」
「なんといいますか、性格の一部がマスターに合う様に変わると言いますか。 特に価値観とかは変わらないんですけど。」

それでも、少しマスターに適応しやすくなるらしい。
つまりユーノに適応したことによって、よりユーノがストレスを感じにくいと言うことなのだろうか。
…リインフォースが思うに、それは一対一の時限定なのではないだろうか、と思う。
普通はそれでいいのだろうが、今は立場が特殊だ。
何せ、他の要因が多すぎる。
それにしても、だ。

「冷静に考えれば、私達デバイスとして特殊なんですよね?」
「…確かに。」

リインフォースとシェルナスとイージス。
普通に人の形を取って出歩いているが、確かにおかしい。
レイジングハートやバルディッシュでさえ特殊だ。
それに輪をかけて特殊となれば最早なんだろうか。
それに、ユーノはそんな特殊なデバイスを二つも抱えている。
こうなってくると確かに例外的なことに見舞われても仕方がないだろう。

「と言うか、メンバーのストレス解消くらいユーノさんが意識しないと駄目ですよね!」
「…いや、僕は何て言うか、自分でやっていることですし。」
「それもです!」
「え?」
「どうして丁寧語なんですか、私達友達ですよね!?」
「…友達ですか?」

単なる知り合いでは、と、何となくシェルナスが口に出すと、リインフォースが顔を歪めた。

「酷いです! 人の気持ちを弄んで!」
「ええ!? いや、あの、その、話した時間も少なくて、その友達とか作ったことなくてですね!」

何だか泣き出しそうな雰囲気のリインフォースに、シェルナスは慌てて言葉を紡ぐ。
いや、本当に――難しい。

当然だが、シェルナスは今まで相手との関係性など考えた事はほとんどなかった。
何せ、主従関係なのだ。
元々がそう大したこともない出自だったこともありそれに疑問も思わなかったものだ。
そう考えると、こういうことに悩むのも当然と言えるか。
何せ、初めてなのだし。

「なるほど、そういうことでしたか。」
「はい、友達とかあやふやな記憶で。」

人間だった頃から時間が経ちすぎて、その頃の記憶はものすごくあやふやだった。
それに物心ついてから少しして槍になった様な…感じがしていた。
多分、既にその頃の記憶が劣化してしまったのだろう。

「じゃあ、リインがシェル君の友達第一号です。」
「…そうですね。 そうなりますね。」

イージスとも友達だと言ったけど、明確に関係性を言葉にしなかったので、そうなるだろう。
シェルナスは頷きながらリインフォースに右手を伸ばす。
リインフォースはそれを嬉しそうに右手でとった。
小さな手の握手であった。



「…ガーン」
「イージスちゃんはどうしたんでしょうか?」
「さあ。」

二人で帰ってきたりしたので、どうしたのか、と、ユーノが聞けば先のやり取りを教えてくれた。
微笑ましい話だな、と、ユーノは思ったのだが、イージス的には色々ショックだったらしい。
何となく、内心に気づいて、ユーノは苦笑する。

「友達が自分を友達だと思っていなかったと気づいてショックを受けたのか。 友達が自分の友達といつのまにか友達になってて疎外感を感じたのか、そんなところかな。」

何だ、と、リインフォースもシェルナスも苦笑する。
別に悪いことではないのだし。
そんなにショックを受けなくてもとも思う。

「別にイージスちゃんと友達なのは変わらないですよ?」
「でもですね。 でもですね。 何だか寂しいと言うかですね。」

妙な感じに言葉を連ねるイージスに、やはり苦笑するしか無いところだ。
でもまあ、ユーノとしてはそちらの方が嬉しいのも確かだ。
やっぱり、そう言う子供らしい事をお互いの間でやりとりしているくらいが丁度いいのだろうと思えるのだから。





「ってことが今日はあったよ。」
「あはは。」

苦笑して話すユーノに、なのはもまた苦笑した。
今日はイージスとシェルナスはメンテナンスの日だ。
だから二人でのんびりとしている。
まあ、何のかんの言っていても、二人共仲良くなってきたので、ホッとしているのだ。

「なのはも、ホッとした?」
「そりゃ、ホッとしたよ。 仲良くなってくれるのが一番いいんだから。」

同僚として仕事だけの感情であの年で付き合っていくのはしんどいだろう。
そう思えば、良かったとは素直に思うところだ。
何せ、二人共まだまだこれから多くの時間を過ごしていかなければならないのだし。
何とかいい感じになってきてくれたから感謝したいところだ。
特に、二人の件ではリインフォースに足を向けて寝られないだろう、と言う感じがする。
やはり年の近い子の方が話を聴きやすいと言うことなのか。

「…単純に、ユーノ君じゃ、立場が悪すぎるだけじゃない?」
「確かに。」

実際、主題はどうしてもユーノとなるのだから当然だ。
問題になるのがユーノなのだから、口を出せば当然、どちらかによることになる。
それか、どちらも拒絶してしまうかだ。
しかし、必要最低限の理由から、今はどうしてもシェルナスを手放せない。
それに別にユーノがいなくなって欲しいわけはないのだ。
どちらにしても、角が立つならユーノは口出しはなるべくしないほうが言い。

「…その辺りはなのは達も一緒だしね。」

注意しにくい、と言う点ではなのはもすずかもそうだ。
何せ、明確にこれがいけない、と言う話でもないのだ。
勿論、論理的な判断から色々言うことはできるが、そういうのは違う。
やっぱり、イージスが心から納得してくれないと意味が無い。

「子育てって難しいね。」
「本当、難しいね。」

それでも、イージスもシェルナスもいい子だ。
基本的にそこは確かだからそれほど本当の子育てほど苦労していないはずなのだが。
それでも、難しいと思ってしまうのは世の常なのかもしれない。
子供の気持ちを第一に考えて、と、言葉にしてみれば簡単だが、実行しようとしたらこれほど難しい事も少ないだろう。
世の中、相手の気持ちを察すると言うのはいくつになっても難しい。
それは例え気の合う相手だったとしてもだ。
子供の頃ならそれは尚更難しく、また論理的ではない場合も多いのだ。

「そう思うと、理性的な分、イージスやシェルナスには助かってるね。」
「我儘も可愛い感じだしね。」

しかしまあ、現代の日本の感じからすると、何とも言えないところだ。
今更だが、15の年でこんなことを考える子達が早々いるはずもない。
まあ、本当に今更なのだが。

「なのはにも苦労をかけるね。」
「それは言わないお約束だよ。」

それこそ本当にお約束の会話を交わして、二人はおかしそうに、楽しそうに笑った。

「でも、ちょっとご褒美が欲しいかなぁって。」
「ご褒美?」
「うん。」

照れたように笑うなのはにユーノはピンと来た。
チラリと、明日の予定を考えながら、なのはに目を合わす。
そこにあるお互いの欲求を感じ取って、二人はゆっくりと寝室へと足を進めた。




「チェックは終了。 二人共調子は良さそうですね。」

マリーの言葉に、特にチェックの問題のなかった二体はホッと一息だ。
セルフチェックでは元々問題がなかったからそれほど問題があるとは思っていなかったが。

「でも二人はちょっと妙ですね。 パーツの消耗すらほぼないと言いますか。」

普通はあるはずのパーツの消耗すら、イージスやシェルナスには存在しない。
これも何かと不思議な二体である。
少しある消耗すらそれはどちらかと言えばパーツを円滑にまわす、所謂慣らしが終わったような状態だ。

「何だか、どれもこれも、既存のデバイスを超えているからちょっとした発見ですよ。」

マリーとしては苦笑するしか無い。
それでも、それだけではないのは、やはり技術者として、この技術を解明できないから、不満もあるのだろう。
技術者としては何とか理論化したいところだろう。
実際、イージスの謎合金も、シェルナスの吸収能力も、技術として量産できれば有用この上ない。
何とかならないかな、と言うのが最近のマリーの研究課題であった。
楽しいのだけれど、進歩がなくて心が折れそうだったが。
何せ、解析しても毎度構成が違う。
何回か分析すると違う性質に変わっていることすらある。
研究者泣かせなのは本当だ。
それでも面白いのは確かだが。

「未知へ走りだすのもいいんですけど。」

それにしても、この二体は何だかんだと苦労させられる。
リインフォースですら作り上げただけあって、解明自体は終わっていると言うのに。
イージスとシェルナスのハードを作ったのは確かにマリーだったが、それにしても未知の部分が多い。

「これからも頑張りますよ。」
「苦労を掛けます。」
「お願いします。」

デバイス二人のからの言葉に心温まりながら、マリーも整備室を辞した。





静かになった整備室で、話し声が再び響いていた。

「シェル君、シェル君。」
「どうしたの?」

唐突に話しかけてきたイージスにシェルナスは応える。

「イーちゃんは怒っているんですよ!」
「…何を?」

どうしたことだろう、何か気に触ることでしただろうか、と、シェルナスは首を捻る。
尤も、現在は特に人間体を出していないので、そんな雰囲気、と言うだけだが。

「私はシェル君の友達だと思ってました!」
「…ううん、その点は何とも言えないと言うか。 ごめん、イーちゃん。」
「シェル君が不慣れなのは分かってますけど、ちょっとショックでした。」

人間関係は言葉にしないと伝わらないことが多々存在する。
それにしても、今回のこれはなかったな、と、シェルナスは反省する。
どうやら遠慮が過ぎたようだ、と、思うのだ。
やはりリインフォースの言うとおり、もう少し遠慮を控えるべきだろうか、と、シェルナスは思う。

「でも、これからは友達だと思ってくれるのなら許してあげます。」
「ありがとう。」

素直に礼を言うシェルナスに、イージスはあわあわとした感じに言葉を返す。

「ほ、本当の所は許すとかじゃなくて、ちょっとさびしいと言うか。」
「……ごめんね。 あんまり他人行儀な言い方しないからさ、イーちゃん。」

何で、わざわざ前に言ったことを覆す形でそういうことを言い出すのだろう、と思いつつ。
その辺りに機微はやはりまだまだシェルナスには難しいが、イージスの気持ちはよく伝わった。

「少なくとも、私のことをイーちゃんと呼ぶのはシェル君だけなんだから。」
「…そうなんだ。」

何だか不思議な感じがするな、と、シェルナスは思う。
楽しいのかもしれない、と漠然と思う。

「そうだね。 シェル君って呼ぶのは二人いるけど。」
「リインフォースさんも大切なお友達ですよ。」
「うん。」

即答に、少しだけイージスは複雑な顔をする。

「そうなんですけど、私もちゃんと友達って言われたらそんな感じで肯定してくださいね。」
「そうだね。」

そして、間髪いれず肯定するシェルナスに、イージスは満足そうだった。

「それでいいんです。」

言外に手のかかる、と言われた気がして、シェルナスは居心地が悪くなる。

「今度、皆でレンルートさんの所に遊びに行きましょう。」
「龍のところに。 そうだね。 お礼も言わないと。」

そんな会話をしながら、その夜は更けていった。

ー終わりー

シェルナスが少し打ち解ける話。
そして久しぶりになのはとユーノがいちゃいちゃした!
しかし、いちゃいちゃレベルが低い!
バカップル書きたい心が久しぶりに降臨だ!





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