…ふと、石田は思った。

「はやての親戚です。」

目の前の少年は普通にこれを信じろと多分言っているのだろう。
もう、それはそれは目がマジで。
頼むからこれで勘弁してください、と言わんばかりだった。
まあ、犬はまだいいだろう。
しかし、女性三人、その格好はどうなのだろうか。

「…あの格好は?」
「ああ、いえ、その私を驚かそうと仮装パーティーの格好で来てくれたんです!」

必死にそう言うはやてには悪いが、相手は黒尽くめだ。
どこの世界に仮装パーティーでここまで地味な服になると言うのか。

「あ〜、え〜、その、や、八神シグナムと申します、こちら姉のシャマルと妹のヴィータです。」
「はあ。」

物凄く無表情に、しかし内心色々と必死になっているであろう目の前の女性に、石田はどう反応したものか、と思う。
なんと言うか、無表情ではあるが、行動の端々から感情が読み取れる。
シャマルと言われた女性も随分ハラハラとシグナムの行動を見守っている。
結論から、言うと、石田はこう結論付けることにした。
大人な妙な子供(ユーノ)に続いて、またもはやての周りに妙な人間が現れたらしい、と。

「はやてちゃんは…仮装パーティーに地味な服装でいくのかしら?」
「う…え、あ…どんな趣旨のパーティーかによるかと…」

ちょっと自信なさそうに呟くはやてを何となく可愛く眺めながら、何となく答えが分かっているほうに同じ質問をしてみた。

「ユーノ君は?」
「目立たない地味な格好で行きます、ええ、それはもう絶対に!」

妙に力の入った言葉に、石田は少し沈黙してからボソリ、と言った。

「絡まれないためかしら?」
「ええ!」

ユーノ、本当に過去に何があったのだろうか?
力強く言い切るユーノの後ろから、はやてやシグナムが妙な視線を送っていた。
それはそうだろう。
何を力強く言いきっているのか、と思われても仕方がない。
それにしても、本当に何があったのだろうか。
その場にいる全員が聞いてみたい雰囲気だった。

「…はあ、分かったわ。」

溜息をつく石田。
はやてとシグナムはホッと一息。

「はやてちゃんの周りにも人が増えてきたわね。」

のんびりと語る石田である。
そう言われてはやては周りを見回してみる。
まだ、付き合いが一週間に届くか届かないかのユーノ。
それと、昨日、否、今日か、から家族になったヴォルケンリッター達。
家族――その単語が、実感できた。
それが…とても嬉しかった。

「あはは、ほんまです。」
「じゃあ、検診しちゃいましょうか。」

それを聞いて、ユーノはそそくさと居間から出て行く。
シグナムとヴィータがその姿に首を傾げる。
シャマルは察しがついたのか、ザフィーラに外に出るように言っていた。
つまり、女の子のそう言う姿をみるべからず、と言う事だろう。




「ん…」

特に異常はなしか、と石田は変わらない現状を歯がゆく思う。
しかし、もう何年もはやての足が動かないのは原因不明。
焦っても仕方がないのは確かだった。

「…あら?」

ほんの少しだが、麻痺が広がっている?
何とはなしにそれに気づき、石田は首を振った。
事実かもしれないが、今までなかったことでもなかった。
誤差と言えば誤差なのだ。
次の検査の時にはまた元の状態に戻っているのが常。
ならば、また様子見である。

「はい、検査終了。」
「お疲れ様です。」

衣服を直しながら、はやては正座して固まっているシグナムに声をかける。

「シグナム、そんな硬くならんでええよ。」
「え、ええ。」

声にこそ落ち着いた雰囲気が出ていたが、シグナムはどうも少しだが緊張している様子だった。
このような雰囲気に覚えがないせいなのかもしれない。

「それじゃ、後は家族さんにお任せします。」
「はい、お任せください。」

ちなみにヴィータとシャマルはユーノと共に別室待機である。
そんなにイッパイ人がいても良い事もないだろう、と言う事で。
とりあえず、代表になったのがシグナムなのである。
まあ、彼女らの中では将なのだから、ある意味暗黙の了解であったが。

「はやてちゃん、家族って言ったんだから、皆で頑張るのよ? 一人で背負い込んじゃ駄目よ?」
「え、あ、はい。」

石田の言葉に、突然何だろう、と思いながらもはやては頷く。
意味はよく理解できるし、それもまた当たり前。

「まあ、ユーノ君がいるからその辺りは大丈夫か。」
「え?」

はやてはまた疑問の声を上げるが、石田はそれに笑みを返すだけだった。

石田の予想は、よく当たっている。
ユーノを過信している可能性もあるが、それでもいるだけで大丈夫だろう、と思った。
石田は、少し温かい気持ちになりながら、のんびりと帰路についた。




「…ほんなら、私とユーノ君で服買いに行ってくるな。」
「…ザフィーラさんはついて来るんですか?」
「問題あるまい。」

ザフィーラは確かに大型犬で通用するかもしれない。
しかし、この大きさでこの容貌でこの毛。
一体…品種を聞かれたらどう答えればいいのだろう。
ふと、ユーノとはやてはそんなどうでも良い事で悩んだり。

「ほんなら、いこか。 シグナム達、留守番よろしくな。」
「はい、お任せください。」

膝をついて答えるシグナムに、ユーノは苦笑し、はやては不満の声を上げる。

「だから、そんな態度はいらんよ?」
「こ、これは失礼を!」

慌てて立ち上がるシグナムに、やっぱり苦笑だ。
シャマルとヴィータが少し戸惑ったような表情していたが、それも、どこか現状が不思議だからだろう。
慣れてくれば、大丈夫だろう、とユーノは思う。




「今日はちょっと日差し強いなぁ。」
「お昼だしね。」

ゆっくりと車椅子を押して歩くユーノとその後ろをついていくザフィーラ。
時間にして、午前11時。
昼前の買い物時間としても少し早い。
いまだに道行く人影があまりないのもそのせいだろう。

「ザフィーラさん、そう言えば言うの忘れてましたけど、外では話しちゃ駄目ですよ?」
「――うむ。」

何故だ、と聞き返そうとして、そう言えばこの世界に魔法はなかった、と今更思う。
つまり、喋る動物などいない、と言う事だ。
ならば、確かに話すことはできない。

「だから、何か言いたいことがあったら小声で言ってな。」
「…いえ。」

ポツリと、そう言うと、ザフィーラは何か考えているような仕草で頭を振っている。
どうしたんだろう、と歩きながらユーノは首を傾げ、はやては目を瞬かせる。

(聞こえますか、主?)
「うわ。」
「どうしたの、はやて?」
「ザフィーラの声が頭の中でした。」

念話かそれと同系の魔法か、とユーノは心の中で考える。
まあ、この手の魔法にそう各種系統でも違いはないだろう、と思うが。

(ユーノ殿も聞こえるか?)

「あ、はい。」

二人して、ちょっと顔を見合わせる。
不思議初体験だからだろうか。
まあ、ユーノの場合、それほど驚いたものでもなかったが。
念話は初歩の魔法でしかないのだからある意味当たり前だ。
便利で重宝する魔法でもあるが。

「ほほう…便利やな、私でもできる?」
(少し訓練すればできるかと、二人ともです)
「ユーノ君、ちょっと習ってみよか、これならいつでも好きな時に会話できるやん。」
「…そうだね。」

ちょっと気が進まない部分があるのは、念話をしているのを、レイジングハートに気づかれないわけないからだ。
それに、あまり夜中に話しこむと、次の日の朝が早いユーノはちょっとまずい。

「ん、ユーノ君は気が進まん?」
「ううん、魔法って他にどんなのがあるんだろうって。」
「それは私も気にかかるなぁ。」
(よければ、シャマル辺りが教えてくれると思います)
「そっか、私は見てみたいなぁ。」
「僕もそうだね…ちょっと習ってみたいかも、とも思うけど。」

このユーノの言葉は本心からだ。
ベルカ式だろう、と当たりはついていたが、それでも現代のベルカ式とは違う。
ちょっと習ってみたいと思っても、不思議ではない。

「お、デパート見えてきたで。」

建物を見上げながらそう言えば、とユーノは今更ながらに思う。

「ねえ、はやて。」
「ん?」
「ザフィーラさん、入れないんじゃないかな?」
「…あ。」

結論、無理でした。
なので結局二人でデパートの中で買い物を済ますことにする。
その間、ザフィーラと言えば。

(むう…犬が)

誰かの飼い犬であろう似た様な立場の犬と目を合わせて、ひたすらにらみ合いしていた。
しかし、リールも首輪もないから、下手すればザフィーラ、保健所行きなのであるが、誰もそのことに気づいてはいない。
ジッとして大人しくしているので、そのことに違和感を感じなかったからだ。
最終的に、にらみ合いに勝利したザフィーラだった。




「ユーノ君、そんな恥ずかしがらんと。」
「無茶言わないでよ!」

今いるところは、所謂ところの女性下着売り場だ。
何故最初にここに来るか、とユーノは頭を悩ます。
まだ服ならともかく、これははやてと一緒に周るのは勘弁してもらいたかった。

「ユーノ君、早く押したってや♪」
「はやて一人でも大丈夫でしょ!?」
「…ユーノ君は私を一人にするんか?」

ふざけとも本気とも取れぬはやての顔を見て、ユーノは頭をガシガシと引っ掻き回すと無言で車椅子のハンドルを掴む。
うん、と嬉しそうに頷くはやてに、ユーノは溜息をはくしかない。
なるべく早くに終わらそうと思っても、早々終わらないのが女性の買い物。
数もいるのだからまた当たり前。
しかし、はやても別にユーノに意見を求めたりはしない。
そのことにホッとするユーノだった。

「ほんじゃ、次、行こか。」

都合2時間ほどで下着の買い物を終了。
しかし、既に昼を周っているのだが。

「お昼ご飯どないしよ?」
「ザフィーラさん外で待たせてるしね。」

結局、服ははやての眼鏡に任せる事にした。
お眼鏡のかなった服をはやてはすぐさま入れていく。
迷いはない。
その勢いに、下着より服に時間かけてあげればよかったんじゃないかなぁ、とユーノは思った。

「よし、買い物終了、お昼ご飯買って帰ろか?」
「何買うの?」
「お好み焼きやね。」

はて、と頭をかしげるユーノだったが、はやてが指を指す方向にある食べ物を見て、あれか、と目視する。
香ばしい臭いがしてくるし、ソースの臭いが食欲を誘った。

「ほんまは作る方が安上がりなんやけど…ま、時間ないし、あの子らもお腹空かしてそうやし。」
「そうだね。」

そこまで気がまわっているはやてに、ユーノは優しく微笑む。
会ってからまだ一日も経っていなかったけれど、はやての中では確かに家族だったのだろう。
ユーノも警戒心なく彼女らと触れ合えたらな、と思ってしまう。
そう思っているユーノもこの短時間の間に半ばそんなもの失いかけていたが。

「ザフィーラさん、お待たせしました。」
「はい、ザフィーラお昼ご飯。」
(…これは一体?)

甘いような辛いような不思議な臭いのする食べ物に、ザフィーラは少し警戒心を持ったらしい。
そもそも二人は失念していたが、ザフィーラにねぎ入りの食べ物は大丈夫だったのだろうか。

(むう、美味しいですね)

傍から見るとお好み焼きを食べる犬。
ある意味非常なお姿。
と言うか、普通の犬なら中毒を起こすかもしれない。

「気に入ってもらえたなら良かったわ。」
「さ、冷めないうちに帰ろう。」

ちなみに買った服は全て郵送。
本日の3時に到着予定、と言う速達状態だ。

「…雲行き怪しい?」
「う〜ん…ちょっとまずいかな?」
(少し急ぎましょう、水の臭いがしてきました)

感覚で何となく分かったから、3人は急ぐ。
傘はないのだから急ぐ。
結局、雨が降り出した時には、何とか家の目の前だ。

「洗濯物、入れないと〜!」
「ユーノ君、そっちは任せたで〜!」

すっかり主夫であり主婦根性のある二人。
家に突入した二人と一匹。

「お帰りなさい。」

すると、3人が何だか居間の端っこで縮こまっていた。
何となく居心地悪くてそうなりました、と言う感じだろうか。
まあ、それはともかく。

「シャマル、ユーノ君と一緒に洗濯物を入れたって!」
「え、はい〜!」
「シグナム、車椅子拭いてくれへんか?」
「心得ました。」
「ヴィータ、ザフィーラ拭いたって。」
「…うん。」

ユーノがシグナムとヴィータに素早くタオルを渡す。
なるほど、これで拭けばいいのか、と二人は思う。

「シャマルさん、雨が強くなる前に洗濯物入れましょう!」
「え、ええ!」

ユーノはシャマルを先導しながら、素早くベランダまで走っていく。
洗濯もユーノが来るまで業者に頼んでいたのだが、最近はユーノがしている。
はやてとしてはちょっと恥ずかしいが、安くすむのでユーノに感謝している。

「あ〜、何かええな、こう言うの。」
「何がですか、主はやて?」

ぽそり、とつぶやいたはやてに、シグナムは首を傾げる。
そんなシグナムに、はやては満面の笑みで返した。

「ん、家族ってこんな感じやったかな、って思って。」
「…私には分かりませんが…きっと、主はやてがそう思うなら、そうなんでしょう。」
「ありがと。でも、これからは皆でその辺り、分かっていこな。」
「…はい。」

明けた闇は、今はとても綺麗に輝く朝の光。
しかし、闇はまた、そのうちやってくる。
そして、それを確信しているものが、たった一人。
宙に浮かんでただ、その『家族』のやり取りを眺める書。
闇の書は、ただ静かに、見守っていた。

ー続くー

お久しぶりのこちら。
のんびり日常編が後…4話くらいかな?
そのくらいでAs本編かと。





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