短編#4の続きです。
 そちらを先にご覧ください。


シン、とした雰囲気を保った場所。
少しだけ深い森の中で、フェイト・T・ハラウオン(20歳)は、佇んでいた。
バリアジャケットをその身に纏い、正中にバルディッシュを構える。
地面に柄の先を突きたてて、目を閉じた。
痛いほどの沈黙が辺りを覆い、誰かがその雰囲気を傍観者として見ていたなら、言葉を失ったろう。
それだけ、その光景はおかしがたい何かがあった。

そんな沈黙の空気は、彼女自身が破った。
バチバチと突如、彼女の全身から稲光が走り始めた。
冷静に、ゆっくりと、彼女は全身の魔力を電気へと性質変化させていく。
その電気を一まとめにすると、フェイトはバルディッシュへと集約させる。
徐々に電気が集まって、バルディッシュが発光する――が、突如、光は消失してしまった。
ゆっくりと目を開けると、フェイトは溜息を吐いた。
そして、こんな事をのたまった。

「全力で戦いたいなぁ。」

とは言え、それは一瞬の願望。
隊長職についてからは満足に戦える事は少ない。
まあ、シグナムとの対決もご無沙汰だ。
お互いにリミッターがついてからは満足に戦えないのだから、少々興ざめしてしまうのは確かだったが。

「仕方がない、か。」

とは言え、自主鍛錬には終りなし。
今日も堅実に実力は落とさぬよう、心がける。
まあ、実戦離れには程遠いのであるが。

「…ん?」

ふと、フェイトは何かに気づいたように、首を横に振る。
まるで、何かがそこにいる、と言わんばかりに。

「…この魔力は。」

森の少し奥へと足を進めれば、そこには感じた魔力通りの人物が確かにいた。
その人は、小さな小さな結界を作っては消し、作っては消し、とよく分からないことをしていた。
どうやら、向こうはこちらに気づかない様子だったので、フェイトはそのまま観察することにした。
そのまま数分、同じ事を繰り返してたその人物は、今度はゆっくりと、普段の動作からすると、本当にゆっくりと一枚の障壁を作り出した。
魔法陣で形作られたそのラウンドシールドをゆっくりと拡大する。
それは術式を確認するためなのだろう。
フェイトの眼からは一般的なシールドにしか見えない。
バルディッシュの術式登録も多分同じだろう。

「…ほっ。」

いささか間抜けな掛け声が聞こえると同時に、シールドがゆっくりと前に移動し始めた。
ふむ、そんな芸当もできたのか、とフェイトは感心して、それを見る。
そして、移動し始めたシールドは、発生した当初の場所から一メートル離れたところまで移動して、突然霧散した。

「あちゃ…やっぱりこれが限界か。」

人物はそうつぶやくと、今行った一連の動作を見る間にやってのける。
それは、先ほど一連の動きを高速で行っただけ。
シールドを展開して一メートル移動させて、霧散。
その行動にどんな意味があるのかは、よく分からないが。

「ふう。」

一息つくと、その人物は背筋を伸ばす。

「フェイト、いつまでそんなところで隠れているの?」

思わず、ギクッ、とした。
いつばれたのかは分からないが、ばれていたらしい。

「珍しいなぁ、と思って、ユーノが訓練なんて。」

言われた彼――ユーノ・スクライア(20歳)――は苦笑する。

「うん、最近まともに魔法を使ってなかったから、ちょっと、ね。」

総合Aランクの魔導士である彼ではあるが、基本的にここ最近魔法を使う事はなかったのだ。
転移魔法以外の魔法を基本的に使う必要もなく、また、最近はそれすらも本当にたまにしか使わなかった。

「だから、久しぶりに、慣らししとこうかと思ってね。」

慣らし。
しかし、こうしてみると、とても行使するのが久しぶりとは思えない速度。
やはり、処理速度という一点に置いて、ユーノは明らかに自分達を凌駕する天才である、とフェイトは思う。
と言うか。

「でも、ユーノ、今日のデザートの仕込みは終わったの?」
「終わって、暇が出来たからこうしてるんだよ。」

さすがに、ユーノも仕事がある状態ではこんなことをのんびりしていない。
無限書庫に勤めていた時代に比べると、随分と時間的に楽な事が増えたな、とは思うが、やっぱり基本事務であるから、こういう事は勤務時間外にするしかない。

「鈍ってもないけど…やっぱり魔力は増えないんだね。」
「その点については、諦めたよ。」

ヒラヒラと手をふるユーノは、特に気にしてもいない。
それはもう、ずっと前にユーノが納得したことだったから。
自身の魔力はもう、今以上に伸びる事はない、と。
魔力だけでランクを計れば、多分Cがいいとこだろう。
なら、後はどれだけその魔力を生かすことができるか、ただそれだけだ。

「そろそろ隊舎に戻ろうか、フェイトももう、朝練の時間だよ?」
「え、あ本当だ。」

最近のフォワード陣の相手ははっきり言ってなのはだけでは辛くなってきた。
まあ、それでもそうそう負けないだろうが、フェイトも補助でついているのは変わらない。
時間が結構迫っているのに気づいて、フェイトは慌てて走り出す。
それを見送りながら、ユーノもゆっくりと隊舎に戻り始めた。
彼もまた、のんびり仕事をする事にした。
…いかに、6課職員からみた量が尋常でなくても、ユーノはひるまない。
慣れたなぁ、と思える我が身が少々悲しくなるユーノではあったが。





リリカルなのは StrikerS After「ユーノ・スクライアの望んだ日々」





「ユーノさ〜ん。」
「ん、どうしたんですか、リイン曹長。」

黙々と自分のデスクで仕事をこなしていたユーノの所に、リインが飛んできた。
特にそれは不思議な事でもない。
何故なら、ユーノはしっかりとリインを『餌付け』してしまったからだ。
世の中、食を支配すれば全てを制す、などという話があったが、あながち間違いでもない。
まあ、それはともかく。

「敬語はやめてください、と…フェイトさんとなのはさんが呼んでます。」
「え、何故ですか?」

ユーノは首を捻る。
この時間帯に呼び出される事ってあったっけ、とユーノは時計を見ながら首を捻る。
今はお昼の一時間前。
既に仕込みは終わっているから、ユーノに食堂ですることはない。
やっぱり首を捻るが、今は相当相手の方が階級が上であるし、断る理由もないので、ユーノは歩き始めた。

「う〜、ユーノさん、やっぱり敬語はやめてください。」
「しかし、やはり、今は私は3等空士でしかないわけですし。」

研修生ではなかったが、ユーノは今の所6課では最下級と言っていい。
まあ、一度完全に管理局から出て行っているので仕方ないと言えば仕方ない。
それに、上で皆に敬語を使われるより余程楽、とユーノは内心思っていたりする。

「だって…リインが生まれたときから面識のある人がリインの事を敬語で…」
「…やっぱり複雑ですか?」
「…はい。」

何だか拗ねた様子のリインに、ユーノは苦笑する。
本当に、この子はやっぱりまだ子供だ、と思うが、それも何となく愛おしい父性を持って見れる。

「それじゃ、見咎められたらリインに責任持ってもらうって事で。」
「ふえ〜、酷いです、ユーノさん。」
「ははは。」

笑いながら一緒の方向に向かっていく二人。
やっぱり微笑ましいものであった。






「結界かぁ。」
「うん、お願い。」

フェイトに頼まれて、なるほど、とユーノは頷く。
今からシグナム+フェイト VS なのは+ヴィータで模擬戦をするので、結界を張ってくれとの事。
つまりスターズ隊長陣 VS ライトニング隊長陣と言う事か。
まあ、フォワード陣とは戦うフィールドが違うから、こういう分け方の方が確かにいいのだろう。

「…あれ、でしたら、今まではどうしていたのですか?」
「…ユーノ君、命令してもいいんだけど、やっぱり敬語は駄目。」
「だって、下に示しがつかないよ?」
「う〜ん、やっぱり何か気持ち悪いから。」

なのはとフェイトに言われて、ユーノは不満気味な顔をしたが、自身も嫌だった事を思い出して、溜息を吐いた。

「分かったよ。」

とは言え、やっぱりなのは達を相手にすると、素で話している方が気楽だ、と思うユーノだった。

「ほ〜ら、リインの言ったとおりです。」

勝ち誇った顔をするリインに、ユーノは苦笑する。

「で、さっきの質問の答えだけど、結界なしだったんだよ、今まで。」
「え…?」

しかし、確かにこの辺りは訓練所になっているが、それでも森や岩などが周りを形成しているのだ。
これらが一度壊れてしまえばどうするのか。

「大規模魔法はなしで戦ってたからねぇ。」

それならば納得できる、とユーノは頷く。
アクセルシューターなどの誘導弾くらいなら、周りに被害はでない。
と言う事は、つまり…

「久しぶりに気兼ねなしに戦いたいから、僕を呼んだの?」
「その通りだ。」

シグナムの一言に、アハハ、と顔をひきつらせるユーノだった。

「質問で〜す。」
「うん、どうしたの、スバル?」

ずっと黙していたフォワード陣からの声に、なのはは首を傾げる。

「ユーノさんはAランクじゃないんですか?」
「そうだね。」

それは総合であって、戦闘ランクに置き換えるとBランクあるかなぁ、とユーノは思ったが。

「じゃあ、そんな結界役に立たないんじゃないですか?」

ティアナも思っていたのか、きっぱりとそう言いきる。
なるほど、予備知識なしだとそう思われても仕方がない、とユーノは思う。
とは言え、本人にも、いくらリミッターついていても、今のなのは達の威力余波を抑えれるか、と問われれば、不安でもあったが。

「…じゃ、スバルとティアナはこれから身をもって体験してもらいましょう。」
『え?』

フェイトの一言で、エリオとキャロも首を傾げる。
ユーノも何をさせる気なのか、イマイチつかめなかった。

「ユーノ、ベルカ式封鎖結界できたよね?」
「…あ…うん、勉強したからね。」

ヴィータ達との初対戦時に、封鎖結界をやぶれなかったユーノとアルフは、きっちりを術式の勉強をした。
学べば破壊点も素直に分かるだろう、と思って。
実際に、それで張れるようになったわけであるが。

「だったら、この二人を閉じ込めて、自力で出てこれるまで放っておこう。」
『……え?』

フォワード陣とユーノは疑問の声をあげたが、隊長陣は何故か全員納得顔だった。

「そうだね、いい感じの練習にもなると思うし。」
「結界破りくらい覚えていても損はないだろう。」

なのはとシグナムの言葉は、確かに、と言った感じの声に聞こえて。

「それじゃ、破って帰ってくるまでお昼は抜きで。」
『え?』

さっきから『え?』しか言ってない、とスバルとティアナは思ったが、そんな現実逃避はとりあえず、意味がない。

「それじゃ、ユーノやって。」
「…はい。」

何故か高圧的なものを感じて、ユーノは特に抵抗もなく従った。
一帯に封鎖結界を張り、その中にティアナとスバルが入っていった。
それを見届けたのであるが。

…10分経過。

「破れないですね?」
「スバルさんが全力行使すれば破れると思ったんですけど?」

スバルの全力での攻撃は結構な威力だ、なのはディバインバスターにも匹敵するだろう。
それなら、早々にでてこれるだろう、とエリオとキャロ思っていたのだが。

「ここで講習してあげましょうか?」

フェイト達と話していたユーノが突然話しかけて来たので、エリオをキャロは頷いたが、やはり何だか気持ち悪そうだった。

「ユーノさん、頼むから敬語はやめてください。」
「僕達からもお願いです。」

余談ではあるが誰も彼も同僚は皆、敬語を使う相手がこういうので、結局、ユーノは6課で敬語を使う事はなくなった。

「うん、それじゃ、解説。」

ユーノは地面に図を描きながら説明する。

「結界はね、まあ、一時的に閉鎖空間を構築する事で大体は間違いじゃない。」
「はい。」
「でもね、結界効果の完全破壊――なのはのスターライトブレイカーとか――があるならともかく、一部抜いただけじゃ、『閉鎖』されるから、出られない。」
「…え?」

イマイチ意味が掴めなかったのか、キャロとエリオは首を傾げる。

「まあ、簡単に説明すると、核を見つけて破壊するか、全面を圧倒攻撃で破壊するか、一度破壊した部分を固定しないと出れないってことだね。」
「え…じゃあ、闇雲に攻撃しても…」
「魔力の無駄?」
「そうなるね。」

何だか壁を殴って壊そうとしているスバルが思い浮かんで、エリオとキャロは引き攣った。
まあ、ティアナがいるから、そのうち結界構成を破壊して出てくるだろう、とは思うが。

「……さて、二人がどのくらいで出てくるかな?」

フェイトが何故かプレシアのような笑顔で笑っていた。
思わず、冷や汗を流すユーノとなのはだった。




お昼。
結局、まだティアナとスバルは出てきていない。
薄情とは思うが、先に戻って食べる事にする。

「ユーノ君、今日のデザートは何?」
「アップルパイか、プリン。」

ちなみに、ユーノは一日二種類のデザートを作っている。
修行的な意味もあり、二種類で選べるようにするためでもあり。
まあ、概ね好みの問題で好評だ。

「…ん?」

皆と別れて厨房に入り、デザートの準備をしていると、見慣れない光景が目に入った。
ユーノはつまみ食い監視用の結界を張っているのだが、そこに一つの小さな影。
そこまで高性能ではないので、どのくらいの大きさの何かが来た、くらいにしか分からないのだが、30cmサイズのそれは分かりやすすぎる。

「こら、リイン…」
「うひゃっ!」

溜息と共に、後ろも向かずにユーノはその小さな影の首筋を掴んで引き寄せる。

「つまみぐいは駄目ってあれ…ほど?」
「…むう、やるな、お前。」

小さな30cmサイズの少女は、ユーノは見るのが初めての存在だった。
赤い髪に、活発そうな印象、それに局の制服。
多分、リインと同じユニゾンデバイスなのだろうが…

「君は?」
「あたしか、あたしはアギトってんだ。」

今日からこっちに来たんだ、と言う彼女に、ユーノは首を傾げる。

「…まあ、いいか。じゃあ、お近づきの印に、二つ君には進呈しよう。」
「うっひゃあ!」

嬉しさ全開とばかりに叫ぶアギトに微笑みながら、ユーノはプリンを二つ渡す。
サイズからすると、何とも大きいのであるが。

「なあなあ、ルールーの分ももらっていいか?」
「ルールーって、君のマイスターかい?」

そんな呼称の人いたかな、とユーノは頭に思い巡らすが、該当する人はいない。

「う〜ん、マイスターではないけどな、大事な奴。」
「なるほど。」

自身に覚えはないから、多分、また新しく配属になった子なのだろう、とユーノは思う。
だったら、とりあえず、顔合わせもかねて、デザートを持っていってあげよう。

「ふむ、じゃあ、特製のショートケーキも進呈してあげよう。」
「おお〜、ありがとよ、ええ…と?」
「ああ、僕はユーノ、ユーノ・スクライアだよ。」

そう言って、ユーノは皿に一つずつショートケーキとアップルパイを載せて歩き出す。

「で、どこにいるの?」
「…あ、食堂で飯食ってるって。」

すぐそこか、とユーノは苦笑する。
まあ、来たばかりなら特別扱いもいいだろう、とユーノは歩き出す。





「あの子かい?」
「そうだよ、ルールー!」

アギトの呼びかけに応えて、キャロやエリオと同年代の彼女はゆっくりと振り向いた。
同じテーブルにエリオとキャロが座っていた。
随分と無表情だったが、その顔はどこかアギトに不満があるような。

「……どこ行ってたの?」
「えへへ、ちょっとな。」

そう言って、プリンをルールーと呼ばれている彼女の前に並べる。
ユーノも皿に盛ってきたケーキとアップルパイを彼女の前に置く。

「あ、いいな、ルーテシア、デザートの他にユーノさんの特製のショートケーキまで。」
「…特別、なの?」

ルーテシアが首を傾げながら、エリオに尋ねる。

「うん、いつもデザートは一つだけだからね。」
「それで、悩んじゃうの。」

そういわれて、ルーテシアはどことなく複雑そうな顔をした。
何か気に入らないのか、と思う。
そういえば、どこか彼女に向いている周りの視線が複雑そうだな、とユーノは思った。
彼女に何かあるのかもしれない、とは思う所。

「特別…?」
「うん、まあ、僕なりの歓迎の印。」
「歓迎…してくれるの?」
「? そりゃ、勿論。」

そう言うと、ルーテシアは少し嬉しそうな顔をして、プリンを突つきだした。
その顔は、少しだけ無表情ではなかった。

とは言え。

「…クリームが甘すぎる、苺がちょっと元気ない。」
「なるほど。」
「…及第点、でも、カラメルソースが人によって甘すぎるかも。」
「うん。」
「…美味しい、けど、もっとサクッとしている方がいい。」
「ありがとう。」

ショートケーキ、プリン、アップルパイの順番で批評である。
勉強になる、と、メモするユーノの顔は真剣で。
ルーテシアの批評によって、後々、奮戦するユーノの味は更に向上するのだが、それは余談だ。
一緒に食べて、充分美味しい、と思ったエリオとキャロは、何故かルーテシアの舌が随分と肥えている事を実感するのだった。
まあ、ルーテシアもそこまで気に入らないわけでもなさそうだったが。

「あ〜、ずるいです!」
「へっへ〜ん、いいだろう!」
「ユーノさん、リインにもお願いするです!」
「駄目だ駄目だ、ユーノがお近づきの印にって特別にルールーに出してくれたんだからな!」
「むき〜!」

…デザートを巡って本当に魔法戦を始めそうな二人に溜息を吐いたりもしたが。





夜、事務も終わって、ユーノはホッと一息吐いたところだった。
結局、ティアナとスバルは昼が終わる直前になって結界を破った。
ユーノが結界前でお昼ご飯を用意して待っていたら、何だかものすごく喜んでくれたが。
そう言うわけで、午後は結界だけ張って、早々に事務に戻った。
そして、事務も終わったので、今度は明日の下ごしらえだ。

「ユーノ…」
「ん、どうしたの、ルーテシア?」

食堂に入ると、ルーテシアがいた。
というよりは、待っていた、と言う感じだろうか。

「…ユーノは…何も思わないの?」
「…何が?」
「……私…6課を襲った。」

…なるほど、とユーノは内心頷いた。
6課の皆がルーテシアを少し複雑な目で見ていたのはそう言う事か。
とは言え、ユーノには襲われた記憶などないし、今、キャロやエリオが何の確執もなく付き合っていることからも、特に彼女が悪い事をしようとしてしたわけではない、とわかる。
それに、そんな事言うと、ヴォルケンリッターは直接やりあったし。

「ん〜、まあ、気にならない、うん。」

そう言うと、ルーテシアは少しだけ無表情の中に喜色を浮かべて、食堂を出て行った。
不思議だったかもしれない、とユーノは一人思った。

「…アギト、いるの?」
「お、気づいてた?」

ヒョイ、と柱の影から顔を出したアギトに、ユーノは苦笑する。
何とも予想通りの彼女だ。

「ユーノ、これからも美味しいお菓子頼むなぁ〜」
「…そう思うんだったら、つまみ食いしないこと。」
「え〜」
「抜きにするよ?」
「…分かりました。」

膨れたまま飛んで行くアギトに、苦笑する。
また、楽しくなっていくんだろう、とユーノは下ごしらえをはじめながら思った。





「ユーノ。」
「フェイト、どうしたの?」
「電話だよ。」

下ごしらえを終わらしたユーノの所に、電話を持って、フェイトが来た。
その心配そうな顔から、何か、大体察しがついた。

「もしもし。」
『司書長、スクライア司書長、ですか!?』
「…あ〜、やっぱり気づいた?」
『当たり前ですよ、人員配置表の一番下っ端にいつのにか名前を連ねて! 管理局に戻ってきてたなんて!』
「遅いけど、修正、僕、司書長じゃないよ?」
『じゃあ、ユーノさん、ヘルプ、ヘルプミ〜!』
「…僕も仕事忙しいから、明日の朝までに終わる奴ね。」
『おっしゃ〜!』

電話の向こうから聞こえてくる凄まじい歓声に、ユーノは顔をひきつらせる。
あそこを離れて早9ヶ月。
一体、中はどうなっているのだろうか?

「じゃあ、今から行くから。」

そう言うと、ユーノは電話を切った。
フェイトにそれを返すと、フェイトがどこか不安そうな顔をしている事に気づいた。

「今から…無限書庫?」
「うん…行ってくるよ。」
「今日は、ヴィヴィオに絵本読んであげるんじゃなかったかな?」

ユーノはフェイトに言われて、顔を真っ青にした。
ヴィヴィオは約束を破ると許してくれない。
機嫌を取り戻すまで3日はかかってしまう。
それも、デザートを大盤振る舞いしてだ。

「ど、どうしよう?」

本当に困った顔でそう言うユーノを、フェイトはおかしそうに笑う。
それから、ちょっと優しい笑顔でフォローする。

「分かった、明日はヴィヴィオの好きなデザート作ってあげる、くらいで手を打ってもらえるよう、ヴィヴィオに言っておいてあげる。」
「あ、ありがとう、フェイト!」

本気で嬉しそうなユーノに、フェイトは悪戯っ子のような顔で笑いかける。

「代わりに、今度、私が好きなものを作ってもらうよ?」
「…了解。」

そう言うと、ユーノは足早に6課を出て、隊舎の前で転移魔法を使って消えてしまった。
その素早い一連の行動に、フェイトも苦笑するしかない。

「フェイトちゃん、ユーノ君、どこ行ったの?」
「ん、ついに無限書庫からヘルプが来ちゃった。」

その言葉に、なのはは困った顔をする。

「それじゃ…ユーノ君は…」
「大丈夫じゃないかな?」

何となく、フェイトはそう思う。
今のユーノは、きっとこちらに『帰ってきてくれる』
大切な絆を沢山育んでいる今だからこそ。

「さ、私達はヴィヴィオのご機嫌取りでもしてあげよう。」

仕方がない、となのはもフェイトも自室へと歩き出す。
幼子の機嫌をどうやってとるか考えながら。




朝、ユーノは無限書庫から帰ってきたその足で、デザートを作っていた。
少し寝たい気もしたが、それは仕方がない。
もう、今から業務が始まるのだ、寝ている暇はない。

「お、本日も美味そうですね、ユーノさん。」
「ヴァイス陸曹、おはようございます。」
「いっつも言ってるでしょう、敬語はやめてください。」

本当、誰も敬語はいらないらしい。

「顔色悪いですよ、大丈夫ですか?」
「ああ、久しぶりの徹夜でちょっと。」

疲れが出たみたい、とユーノは言う。
ある意味、ヴァイスにしてみれば見慣れた顔だったが、それはそれで引き攣る。

「…ユーノさん、いつも大変ですね。」
「そうかい?」
「俺にはそう見えます。」

ヴァイスの言葉に、ユーノは苦笑する。

「…確かに、大変だ、だけど、僕は幸せだよ…満足しているとも言えるね。」
「…そうなんですか?」

ヴァイスにニコリと笑って、それは本心なのだ、と伝える。
ずっと、物足りなかった中にいた者だからこそ、今はとても充足していて幸せで。
ユーノはだからこそ微笑む。

「こうしてずっと、このまま進んでいけたらなって、僕は思う。」

ヴァイスは少しユーノを羨ましそうに見た後、手を振って、厨房から出て行こうとして――

「あ〜、そういえば、ヴィヴィオちゃんが昨日、ユーノさんの名前を呼びながら泣きまくってましたよ。」
「…え?」

やっぱり、平穏ではないけれど、でも、幸せと思える日々。

「嘘つき〜!」

こんな日々が続けばいい。

「ごめん、ヴィヴィオ〜!」

ユーノは心の底からそう思う。

「ユーノ…等価じゃなかったから、もう少し条件追加させてもらうよ?」
「は、はい。」

ゆったりとした風の中で。

「それじゃ…私に、付き合ってください。」
「…どこに?」

穏やかな空気の中で。

「人生の墓場♪」
「へ…?」
「あ、フェイトちゃん、抜け駆け、ずるい!?」

慌しくあっても、それはとても平穏な日々で。
それは、ユーノが望んだ、日常。

ー終りー

調子にのって続き書いちゃった…
カオス…微量ユーノ×フェイト。




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