唸る槍。
その槍の切っ先に神経を集中させて、グルリとゆっくりと旋回させる。
遠心力の力を借りずに、ゆっくりとゆっくりと、旋回させる。
そして、一連の動きをゆっくりと体に叩き込む。
滾る膂力は押さえ込み、今はただ、ゆっくりと槍を振るう。
そのほうが、何倍も辛い時もある。

「エリオ君、訓練してるんだ。」

エリオは声には振り向かず、その手の槍をゆっくりと降ろして、それから振り向いた。

「あ、うん、体、なまっちゃいそうだから。」

そこには、同じライトニング小隊であるキャロがいた。
局の制服に身を包み、頭に相棒であるフリードを乗せて、立っていた。

「折角のお休みにまで、訓練なの?」
「うん、強くなりたいからね。」

それは、男なら、一度は誰でも抱く思いではないだろうか。
愚直なまでに、強さを求めて。

「でも、もうお昼だよ。」
「え、あ、もうそんな時間だったんだ。」

あちゃ、と苦笑するエリオに、もう、とキャロは呆れてみる。
シャワー浴びてくる、と去っていくエリオを見ながら、キャロはふう、と溜息をついた。
その場に座ると、キャロは、自身の掌をじっと見つめる。

ライトニング。
彼女の所属する小隊の名前は、稲妻だ。
フェイトもシグナムもエリオも、並ではない速度を持っている。
しかし、キャロは立場的には後方支援とは言え、はっきり言えば、遅い。
前線に出ても、バインドを使うか、仲間のブーストを行うだけ、と言う自身の役割を考えると意味がない。
とは言え、前線から余り遠ざかっても意味がない。
ライトニング、スター、双方の出撃時なら、もっと的確にコンビネーションを組む事もできる。
しかし、ライトニング分隊だけでみるなら、はっきり偏りを感じてしまう瞬間でもあった。

「私も、強くなりたいな…」
「キュー?」

呟いた言葉は虚空へと消えていくが、その言葉は相棒が受け取っている。
フリードはペチン、と翼でキャロの頭をはたき、自己主張を繰り返す。

「うん、フリードが頑張ってくれてるのは分かっているけど。」

実際、フリードの戦力は全く馬鹿にできたレベルではない。
後方支援の援護射撃として考えるなら、充分な強さを誇っている、と言えた。
とは言え、それはフリードの強さである、とキャロは思う。
自分に出来る事、と考えてもイマイチ、パッとしたものが浮かばない。

「お待たせ。」

そんな事を考えていると、まだ髪を湿らしたままのエリオがやってきていた。
まだ10分も経っていないのだが。

「さ、行こう。」

促されて、キャロはエリオと一緒に食べに出かけ――

「あれ?」

ようとしたら、視界の端に、揺れ動く書類の束があった。
今回は、足元をフラフラさせることもなく、しっかりと地面を踏みしめて歩いている。
まあ、前回のフラフラは、どちらかと言えば、睡眠不足のせいだ。

「…手伝おうか。」
「そうだね。」

最年少二人は、重たそうな資料を持って歩いているユーノの元へと歩き出した。




「エリオ君、大丈夫かい?」
「は、はい。」

明らかに視界が悪い量の資料を持ったエリオは転びそうな感じがしている。
本当に大丈夫だろうか。

「ルシエさん。」
「は、はい、司書長!」

畏まってしまっているキャロに、ユーノは苦笑する。
クロノやレティ、リンディが気を利かせてくれて、権力持ちになったが、どうも畏まれるのは苦手だった。
無限書庫司書長、と言う立場に、権力が必要になってしまったのが、一番の過ちの始まりのような気もする。
まあ、それは今の所、どうでもよい話だ。

「この前みたいに、ユーノさんでいいよ。」
「え、でも…」
「元より、権力使う相手なんて、同じように権力使ってくる人に対してだけで充分だから。」

そんな事を言う時のユーノは、どこか皮肉な目を見せた。
嫌な感じを少し受けてしまうキャロだった。

「まあいいか、とりあえず、エリオ君の足元を気をつけておいてあげなよ。」
「え?」

言っていると、エリオが一瞬、前につんのめった。
そこを見ていると、小石があった。
普段なら目についてかわすであろう石も、エリオは今下が見えていないので無理である。
ユーノも今は足元が全く見えてない。
とは言え、慣れているのか、その足運びにさして不安はなさそうだったが。

「ほら、サポートしてあげないと。」
「は、はい。」

路面を歩いているので、基本的にそれほど危険があるわけでもないが、それでも、たまにへこんだりもしている。
なるほど、とキャロは逐一、路面を観察しながら、エリオに注意を促してみることにした。

「エリオ君、もう3歩くらい進むと、少し大きな石があるよ。」
「うん。」

教えてもらえると、エリオもその足取りに不安はない。
何せトレーニングは欠かしていないのだ。
ユーノよりも基本的な足取りはしっかりとしている。
とは言え、今度はキャロが下に視線を向けすぎていて、自身の足元がしっかりしていない。
それに気づいて、ユーノはフリードに、よろしく、とお願いするように視線を向けた。
エリオは前を見て、キャロは下を見て、フリードはキャロがこけないように、襟首に噛み付いて飛んでいる。
思わず、そんな仲のいい光景に、微笑んでしまうユーノだった。





「お、ユーノ君、久しぶりやな。」
「うん、はやても久しぶりだね。」
「まあ、私らの場合、久しぶりや、言うても一週間、って所やけど。」

そう言うと、はやてはユーノと顔を合わせて苦笑した。
六課のロングアーチの隊長のはやては、無限書庫までよく出向く。
打ち合わせと、資料作成、後、考察を一つ、聞きたいためだ。

「考えに進展はあったんか?」
「駄目だね、もう少し情報が揃わないと。」

こんな感じになるだけだ、とユーノは今回持ってきた資料を指す。
1000枚以上になっているその存在に、はやては溜息をこぼす。
考察、推察、資料、とユーノの独自に考えを書き込んでもらったレポートなのだが、それでもまだ、要点が見えるにはいたらない。

「…やっぱり、まだ無理か。」
「ごめん。」
「いや、謝らんでや。」

苦笑するはやては、何だか端っこでジッとしている二人と一匹に視線を向ける。
キャロとエリオが緊張した顔で立っており、フリードはキャロの腕の中でジッとしている。

「そんじゃ、ユーノ君、休暇二人を使ったんや、ご飯くらいおごったりや。」
「ん…まあ、今日の業務は珍しくこれで終わりだし、それは別にいいけどね。」

それにまた、えっ、と驚いた顔をする二人。

「そ、そんな、この前もおごってもらったのに!」
「だ、駄目ですよ!」

わ〜、と騒ぐ二人を新しく入室してきた人は、ゆっくりと押さえ込む。

「駄目だよ、二人とも、いくら休暇中でもこんな所で騒いでちゃ。」
「フェイト。」
「ユーノ、久しぶり。」

フェイトも休暇中ではあるのだが。
ここにいたのは、はやての暇つぶしのお相手である。
まあ、はやてはたった今ユーノが持ってきた資料で忙しくなってしまったが。
ちなみにフェイトの久しぶりは、約2週間ぶり。

「ん、丁度良かった、それじゃ、フェイトも一緒にご飯食べに行こうか。」
「そうやね、丁度いいから、一緒に行ってきぃ。私はお弁当やし。」

またなのはちゃんに悪い事態やな、と内心思うはやてだったが、まあ、こんな事もある、と思うしかない。
なのは達スターズ分隊はただいま訓練室での訓練中。
夕方まで帰らないはずなので、まあ、仕方がない。

「そうだね、行こうか、二人とも。」
「で、でも…」
「ん〜、それじゃ、今日はもう、ここで仕事終了。」

そう言うと、ユーノは無限書庫へと通信を繋いで、本日の上がりを伝える。
その言葉はあっさりと通ってしまい、この場でユーノは宣言した。

「と言うわけで、もう今はただのユーノ・スクライアなので遠慮はなしで。」
「あう…」
「ほら、あまりごねてちゃ駄目だよ、好意に甘えよう。」

まだ渋い顔をしているエリオとキャロを連れて、ユーノとフェイトは退室していく。
その家族的雰囲気に、ちょっとはやては、久しぶりに家族全員で食事にしたいなぁ、と思った。
まあ、リインとザフィーラはいるのだが。



リリカルなのはStrikerS 「団欒の時間」



「わざわざ、こんな所まで来る?」
「今日はここで食事にしよう、と思ってたからさ。」

ミッドチルダ、クラナガンの少々ボロイ洋食店で。
言ってしまえば『隠れた名店』である。
あれから30分ほどでここまで来たので、まあ、それほど呆れられる話でもないとは思う。
キャロとエリオはどこかもの珍しそうにしていた。

「あ、ルシエさん、フリードリッヒ、出してても大丈夫だよ。」
「え、そうなんですか!?」

はっきり竜を出しても大丈夫などと言う店、普通はないだろう。
まあ、それがこの店が一定以上はやらない理由でもある。
主人は頑固者だがおおらかだ。
使い魔だろうが使役竜だろうが、守護獣だろうが、何でも来いである。
それゆえに、時折制御をミスった使い魔とかに店が壊される時もあるのだ。
それでも、店がつぶれないのは、それだけ実力がある、と言う事だ。

「おう、ユーノ、今度は3ヶ月か?」
「そうですね、そんなもんですか。」

店の主人がそのまま注文を取りに来ている。
それなりに大きい店(椅子が30脚は用意されていて、相応に机もある)のに、それでいいのだろうか。
ニッカリと笑うその顔は、本当におおらかそのもので。

「で、お前さんたち3人は新顔だな。」
「はい、初めまして、美味しい料理、期待してます。」

フェイトの落ち着いた切り返しに、主人もニヤリと笑った。

「よっしゃ、どこの高級料理店にも負けない料理って奴を味合わせてやる。」
「はい、メニュー。」

なんと言うか、メニュー欄を見てみれば、地球製の料理が入っていた。
ミッドチルダに管理外世界の料理があるはずが、と思うのだが、主人はまたニヤリと笑った。

「ユーノから色んな世界のレシピをもらって研究中でな、珍しい料理があるぜ。」

こらこら、とフェイトは少し呆れた目でユーノを見る。
ユーノが、ふい、と目を逸らしたのは、ちょっとだけバツが悪かったからだ。

「おやじさん、あんまりそのことは言わないでくださいね、彼女、執務官ですから。」
「あう…き、聞かなかったことにしてくれないか?」

男二人のその態度に、フェイトは大きく息を吐くと、ピッ、と指を二本立てた。

「一つ、主人は私を満足させる料理が出せたら黙認します。」
「お…おお、よっしゃ!」
「二つ、ユーノは今度、私のお願いを一つ、聞くこと。」
「…ん、分かった。」

あ〜あ、と息を吐くユーノに、フェイトはムッとする。

「何、不満なの?」
「え、いや、違うよ!」

慌ててブンブンと首を振るユーノに、ここで年少組が吹き出した。
ユーノはまたバツの悪そうな顔をして、フェイトは少し顔を赤くした。

「ユーノさん、本当に、女の人に押されるとたじたじですね。」

エリオの言葉に、ユーノは深刻そうに頷いた。

「エリオ君、男は大概そんなもの。」
「……はい。」

やけに重々しい一言に、エリオも頷き返すしかなかった。

「とは言え、ユーノさんは押されすぎかとも思います。」
「え、何で、ルシエさん?」
「この前も、ティアナさんに押されて、買い物付き合ってましたよね。」

う、と言葉に詰まったユーノは一週間前にそんな事をしていた。
教材を買いにいく意味があったので、押されきってしまった。
まあ、結局、教材を買って、色々食べて、帰ったので、う〜む、と考える羽目になったのだが。

「…ユーノ、そんな事してたんだ。」
「フェ、フェイト?」

何だか微妙に不機嫌になったフェイトに、ユーノはどうしたのか、と少々動揺していた。
この時、年少組二人は冷や汗を流しながらも、二人でちょっとボソボソと話していた。

(これは…ひょっとすると、本当にはやてさんの言っていた通り…?)
(わ、分からないね)

エリオとキャロの密談に気づかず、ユーノはフェイトとどこかぎこちなく会話を続けていた。
まあ、それも、料理が来るまでだったのだが。

「ほい、待たせたな。」

都合、いい所10分。
その割りには、料理はしっかりしていた。

「ハンバーグステーキに、ホワイトシチュー。 ま、こんなもんだろ。」

並べられた料理は確かに食欲を誘うものだ。
そして、一般的な料理の数々だが、ミッドチルダにはこの名前の料理はない。

「さあ、食ってくれ、満足いかないなら、どうしてくれようが結構だ。」
「…それでは遠慮なく。」

フェイトがフォークとナイフでハンバーグを切り分け、ソースを少しつけて、口に運ぶ。
思わず、全員それに集中だ。
飲む込む音が聞こえて、一堂沈黙。
と思ったのだが、ユーノは既に自分のハンバーグとシチューに手を出していた。
何だか既にフェイトが出す答えが分かったかのように、普通に食べに入っている。

「…ユーノさんは、答えが分かったんですか?」
「美味しいってさ。」

簡潔に言い切るユーノに、フェイトも頷く。
とは言え、ユーノの事を不思議そうに見ていたが。

「何で分かったの?」
「耳がピクピク動くの、アルフと一緒だよ?」

思わず、フェイトは耳を押さえるが、何とも分かりやすい話であった。
まあ、ユーノはアルフとも付き合いが長いからだろうが。

「使い魔は主人に似る?」
「それは聞いたことないけど…」

フェイトの言葉に苦笑するユーノだった。
それからは全員黙々と目の前の料理を片付けに入る。
勿論、黙って食べているのは、味をしっかりと味わうために他ならない。
美味しいものは、話して食べても黙って食べても違う美味しさを感じるが、このメンバーでは静かに食べる。

「キュー♪」

フリードの嬉しそうな声が店に響いていた。




「ほれ、デザートだ。」

子供二人が食べ終わる頃を見計らって持ってこられたのは、小さな鉢に入ったアイスだった。
柑橘系の臭いのするそのアイスを食べながら、子供二人はとても幸せそうな顔をしていた。
その顔を見ながら、穏やかな顔をする保護者二人。
とても、戦闘を生業とする職についているものとは思えない。
そんな時間だった。

「…でも、本当にお客少ないんだね。」
「言ったでしょ、隠れた名店だって。」
「…商売になってるの?」
「うん、おやじさんはいい人だし、料理は美味しいからね。 何だかんだ、と気に入る人が多いんだ。 クロノとかもたまに来てるはずだよ。」

それは逆に、どうして自分が今まで知らなかったのか、少し不思議になる話だ。
まあ、そんな事もあるだろう、と思った。

「ユーノ、さっきのお願い、この後消化してもらおうと思うんだ。」
「…早かったね、何?」

お勘定を計算しながら、ユーノは聞き返す。
財布の中身は最低限しか入れていないから、少し危ないが、まあ、足りる。
後でお金を出しておかないといけないなぁ、とのんびりと思いもしたが。

「久しぶりに…」

ニコリと微笑むフェイトに、ユーノは何が言いたいのか察しがついた。
ふう、と溜息を吐くが、彼に何ができるわけでもない。
何せ、なんとも言えない脱力感に見舞われていると言う事も確か。
そんな脱力感にまみれた顔を、子供二人は不思議そうに見ていた。





「と言うかさ、僕対エリオ君とルシエさんじゃ、とても勝てる気がしないんだけど。」
「別に、勝てとは言わないから、粘ってね。」
「はいはい、お姫様の言うとおりに。」
「…何言っているの。」

若干赤くなったフェイトを見ながら、既にバリアジャケットを纏った3人は、訓練室の中にいた。
フェイトのお願いは、ちょっと訓練相手に、との事。
今日は自分達が休暇だって覚えているのかな、とユーノは思う。
ユーノも戦闘自体が随分久しぶりだったので、たまには体を動かすか、と言った感じだ。
そして、若い二人は複雑そうな顔をしていた。

「…ユーノさんって、強いのかな?」
「う〜ん…はっきり言って…弱そう。」

キャロとエリオの言葉が聞こえて、ユーノは苦笑する。
まあ、基本的に自分が強そうに見える、何てたわごとは思っていない。
魔力量も並だし、このヒョロヒョロした体だ。

「まあ、僕はランクにして良い所陸戦C+って所だから、気にしないでいいよ。」

飄々と言うユーノに、フェイトは苦笑する。
それはそうだろう、ユーノは――

「何を聞いても、訓練は訓練だから、エリオもキャロも、本気でね。」
『はい!』

フェイトは子供達の返事に、笑みを浮かべる。
そして、開始の合図が鳴った時、キャロは即座にエリオのブーストを始める。
それは、なのはのシールドさえ突き破った、最大の一撃。
ストラーダから撃発音が響き渡り、エリオは、その瞬間、加速した。
対するユーノは、エリオが向かってくる方向に、ラウンドシールドを築いて待つだけだ。
これで、終わり、とエリオは全力でストラーダを突き出した。

実際、与えられた事前情報からして、既にエリオがこういう行動に出る事を誘っているものだ。
ランクにしてC+。
その言葉に惑わされすぎているのである。

「狙い通り。」

ユーノからしてみれば、撹乱からの速度の一撃が一番怖い。
代わりに正面から来てくれるなら――
ガガガガガ、と盾と槍がこすれる音が響き渡り、槍は停止した。
エリオは、思わずその場で足を止めていた。
それは驚きの感情によるものだろうか。
その瞬間に、エリオの周囲から5本ほどの鎖が飛んだ。
設置型のディレイドバインド。
既に戦いが始まる前にセットしてあったのだ。

「エリオ君、戦闘不能。」
「あ…」

あまりにも呆気ない。
エリオが捕獲されて、キャロはどうしよう、と思う。
フリードにどういう動きをさせるか。
エリオを助けるか、それとも単独で戦うか。

「フリード!」
「キュー!」

結果は、フリードに戦闘を任せて、自身はエリオの救出に向かう事。
先ほどのシールドを見る限り、キャロとフリードだけでは突破できそうにない。
フリードはユーノへと向かっていき、火炎を吐く。
それを後退しながらシールドで受け止めるユーノ。
後退していく方向性は、キャロの行きたい方向を防ぐ方向。
ユーノもそれほど手の込んだ事は何一つしていないのだが、それだけでもキャロはどうしたものか、ともう一度考える羽目になる。
それを狙ったかのように飛んでくる、リングバインド。
あ、と思った時には、キャロは四肢を封じられていた。

「…あ〜、疲れた。」

ユーノの言葉が本当かどうかは誰にも分からなかったが。
この場での彼のその言葉は、模擬戦の終わりを告げていた。




「エリオもキャロも、油断しすぎ。」
「はい…」
「面目ありません。」

ユーノは説教されている二人を見ながら、考える。
もう一度やって勝てる可能性があるか、と。
答えは、ない、だ。
今回のはイカサマだ。
素直すぎる二人がそれに引っかかったに過ぎない。

「それじゃ、反省、どうしてエリオは不用意に突っ込んだの?」
「それは…C+ランクならシールドを貫いて、一撃で倒せると思ったので。」
「エリオ君、前になのはさんのシールドも貫きましたし。」

やっぱり、と額を押さえるフェイトに、エリオとキャロはシュン、となる。

「あれは本当だけど、嘘だ。」
「え、どう言う事ですか?」

ユーノが苦笑するのを見ながら、フェイトは説明してあげて、と視線を送る。

「僕は陸戦のランクなら確かにC+だろうけどね。 防御、結界魔法のランクはAAA+だよ。」
「は…?」
「AAA+…ですか?」

思わず、キャロとエリオは驚きの声を上げてしまう。

「まあ、リミッターかかってる今のなのは相手なら、僕の方が硬いだろうね。」
「それに、嘘、と言うか言ってない事は他にもあるんだよ?」

そうフェイトが言うと、ユーノはヒョイ、と飛んだ。
思わずポカン、と見上げるエリオとキャロに構わずに、ヒュン、と飛ぶと、ユーノはまた元の位置に降りた。

「ユーノは本来分けるなら空戦魔導師だよ。 もしエリオが相応の戦い方してたら、飛んでただろうけど。」

それに驚いた瞬間にバインド仕掛けられていた事は考えるのもたやすい。

「…と言うか、どうしてそこまで出来てC+ランクなんですか、それも嘘でしょう!?」

エリオがちょっとイラついた感じで叫ぶと、ユーノは首を振った。

「いや、それは本当だよ。」
「ユーノは攻撃魔法が一切使えないし、魔力も低いんだ。 だから、戦闘ランクは相応に低い。」

それに、それは陸戦ランクであって、空戦ランクはAだよ、と言われて、エリオとキャロは脱力した。

「分かった、二人は事前情報の真偽を見極めることもせずに、思い込みで敗北した事が。」
「はい…」
「分かりました。」

消沈したエリオとキャロに、フェイトとユーノは苦笑する。
とは言え、子供時代にこんな事を勉強させている自分達にも同じように苦笑。
フェイトの頼み事は、分かりやすく示されたらしい。
これがいい経験になればいい、と思った。




「ルシエさんは、サポート役なんだよね。」
「はい。」
「同じサポート役だから言うけどね、僕達は相手の情報をいつも探っているべきなんだ。」
「相手の情報…」

ポツポツと言われて、キャロは頷く。
攻撃役が安心して攻撃できるために、少しでも多くの情報を収集する。

「僕は、それだけしか、皆の役に立てなかった。」

攻撃も防御も、自身より発達している人は沢山いたから、とユーノは微笑みと共に語る。
でも、キャロの眼にも、その表情の中に、悲痛が隠れているのが見えた。
悔しかったのだろう、とキャロは思う。

「ルシエさんは、僕よりもずっとパートナーとして頑張れる、僕は、今の戦いからそう思った。」

今の戦い。
例えばフリードが撹乱、エリオが速度で翻弄、その間にキャロが相手の情報収集。
その後、相手の能力判断が終わった時点での、最良の攻撃、と、順序立てて攻撃に入られたら、ユーノは確実にやられていただろう。
まあ、飛べば分からないが、それはまた別の話だ。

「ユーノさんは…誰かのパートナーだったんですか?」
「…うん、10年前の、ちょっとだけ。 フェイトと交代しちゃったけど。」
「…そうですか。」

エリオと、今、この部隊でちょっとだけ一緒に頑張って、その後はバラバラになるのだろうか。
ふと、そう考えると、嫌だった。
誰か、別の人間が、エリオの隣に立って戦い、自身はそこにはいない。
そんな光景は嫌だった。

「私、頑張ります!」
「うん、頑張れ。」

グリグリと頭を撫でてくるユーノに、キャロは笑う。
ユーノから見ても、今のキャロは、やりぬく事を決めた時のなのはと遜色ない気がした。

「反省は、終わり?」
「うん、僕が言いたい事は皆、伝えた。」

エリオと反省会を行っていたフェイトも終わったのだろう、エリオもまた士気が溢れている。

「でも、ユーノ、ちょっとは訓練した方がいいよ。」
「そうだね、緊張したよ、人間相手は久しぶりで。」

苦笑するユーノは、ちょっとバツが悪そうだった。
人間相手、と頭上にハテナマークを浮かべる子供二人に、フェイトは言う。

「あはは、ユーノはこう見えても遺跡発掘の第一人者でもあってね、勝手に新発見の遺跡に入って、防衛装置とか無力化して、祭られてる宝物とって来る事が趣味なんだ。」
「最後の方は別に趣味じゃないんだけど…遺跡の発掘まではそうだけどね!」
「防衛装置には時々、傀儡兵とかもいるからね。」

そうして、実戦は行ってるんだ、とフェイトから語られると、目の前の司書長も変な面があることに気づいた。
しかし、キャロが呆れているのと裏腹に、エリオは目を輝かせている。

「そ、それでユーノさん、見つけた宝ってどんなのだったんですか!?」
「う〜ん、そうだね、壊れちゃった古代のデバイスとか、掌大くらいの宝石とか、祭られてたロストロギア指定の神像とか――」

男二人が目を輝かしてそんな話をするのを、キャロとフェイトは微笑ましそうに見ていた。
こんな時だけ、あれだけ大人に見えていたユーノも、普段から礼儀正しい、大人のようなエリオも、妙に子供っぽくみえた。

「何だか、兄弟みたいですね。」
「それを言うと、キャロもさっき、ユーノと兄妹みたいだったよ。」

楽しそうに語るフェイトの言葉に、ユーノお兄ちゃんという言葉が浮かんだが、すぐに消す。
それはさすがに失礼だし、何か違う気がした。

「うわぁ、今度、僕も一緒に行ってみたいです!」
「機会があったら、行こうか、でも普段は地味で根気のいる仕事だよ?」
「大丈夫です!」

男二人、そんな会話を聞きながら、キャロはさっき思っていたことを思い出して、こんな事を言っていた。

「エリオ君、行く時は私も一緒に行くね。」
「え、うん。」
「だったら、私も一緒に行こうかな?」
「フェイトも?」

不思議そうな男二人に、女二人、楽しそうに笑う。
やっぱりいつの世も、何かを決心した女は強かで、楽しそうで、綺麗だった。

−Fin−

最後はちょっと意味不明な締め方。

ほがらかにフェイトとその子供達Withユーノという感じで。
ちょっと最後の方、エリオを年相応の少年っぽく書いてみました。
冒険に憧れた頃かな、と。
StS時代、次は、スバルとなのはかな…?



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