スバル・ナカジマは、端的に言うと、暇だった。
この前ライトニングが休暇をもらったので、今回はスターズが休暇と言う事になったのだが。
自己鍛錬以外にさりとてやる事を思いつかない。
姉や父に会いに行こうにも、向こうは仕事だろうし。
なので、相棒のティアナと買い物でも、と思ったのだが。

「私、無限書庫に行ってくるわ。」

それはもう軽快なフットワークを見せながら行ってしまった。
正直、スバルにはあそこの知識に魅力を感じられない。
知っていることは所詮知っているだけ。
知っていることで有利になる事も勿論あるが、知識は身につけてこその知識だ、と思っている。

「いや、別に馬鹿にしているわけじゃないですよ!?」

誰に言い訳しているのか謎だが、何故か、スバルは歩きながらそんな事を口走っていた。
スバルはどちらかと言うと、理論よりも感覚で魔法を組む。
それだけに、知識はそこまで重要視していない。
というより、一般感覚、と言ったところだろう、スバルは。
知識の重要さはわかっているが、過剰にそれを欲しいとも思わない。

「でも、そうか、ティアには重要かな?」

既に失われかけた魔法体系である幻術魔法。
それだけでも、ティアナは希少価値的なものを身につけている。
無限書庫には、その手の事も豊富に資料として残っているのであろう。

「…それだけかな?」

しかし、妙にウキウキしているティアナをみていると、それだけとも思えない。
本人はどうも自分のテンションを理解していない様子だったが。
つまり、ウキウキは無意識と言うことなのだろうか。

「………はぁ。」

歩くのをやめて、ごろんと、草むらに寝転がった。
訓練所のすぐ近くなのだが、本日は誰もいない。
ライトニングも室内で訓練をしているはずだ。

「……眠いなぁ。」

思わずウトウトするような天気だし、気が完全に抜けきっていた。
スクランブルがあれば起きなければならないのだが、今はそんな気配もない。

「スバル…こんな所でなにやってるの?」
「…なのはさん?」

目を開ければ、そこにはなのはがいた。
自分と同様に、本日は休みのはずで、久しぶりに無限書庫に行く、と言っていたような。

「…無限書庫に行くんじゃなかったんですか?」
「………ユーノ君が凄く、珍しく休暇でいなかったの。」

どこか黄昏た目をしたなのはが珍しかった。
いつだって、キラキラ光る目をして周りを引っ張っていく彼女にはそんな目は似合わないなぁ、と思うが、ユーノが絡むと人が変わるのでいわない。

「あ、ユーノさん。」
「え!?」

スバルが指した明後日の方向へ首を捻じ曲げるなのは。
別に人間の限界を超えたりしているわけではない。
だが、その反応は、はっきり言って楽しい。
勿論、今のはスバルの嘘なのだが。

「…スバル。」
「はい。」
「今度やったら撃つよ。」
「……はい。」

さすがに二度目には手を出す気にはならなかった。
次は本当に撃ってくるだろうから。

「昼寝?」
「そうですね、訓練もお休みです。」
「適度に休んだ方がいいよ。うん。」

そういいながら、なのはも草むらに寝転がる。
隣に倒れこむように寝転んだなのははすぐさま寝息を立て始めた。
余程疲れていたのか、それとも消沈して鎮火してしまった反動か。

「こんな所で寝ていると、風邪引くよ?」
「…あれ?」

ヒョイ、と頭を横に向ければ、そこには私服で苦笑しているユーノが立っていた。





リリカルなのはStrikerS「空へと走り続け」




先ほど見回した時には確かに目にうつらなかったと言うのに。
死角にでもいたのだろうか。

「なのはは熟睡?」
「どうでしょう、今寝たばかりなんですけど?」

ユーノが優しい目をして、なのはを見ているのを、スバルはのんびりと見ていた。
そのユーノの目は、どこか懐かしいものを見ているような光をたたえている。
それに興味があったスバルは、少し、小声で質問してみる事にした。

「なのはさんとは、幼馴染なんですよね。」
「そうだね…もう、なのはと出会って、10年も経った…」

そう言うユーノは目を閉じて、やっぱり懐かしそうな雰囲気をかもし出していた。
一体、何がそうさせるのだろうか。

「10年…ですか。」
「過ぎちゃうと、短かったな、って思う。」

間に沢山の出来事があったけど、過ぎ去った時間は既に思い出。
ここに並んで生きていることすらも、彼女に感謝しなければならないのだ。
ポンポンとなのはのサイドテールを叩くようにしてユーノは右手を払う。
そんな何気ない動作まで優しくて。
本当にこの人は、恋愛感情を持っていないのだろうか、とスバルは首を傾げる。

「ナカジマさんは、何を目指して走っている?」
「え?」

突然聞かれて、スバルは今考えていた事を一旦棚上げして、そちらに思考をまわす。

「なのはに助けられて…なのはを目指して強くなった?」
「はい、なのはさんは、私の憧れで…」
「そっか…」

呟いたユーノは、空を見上げる。
青い空。
雲も見えはしたが、それでも見える範囲はほとんどが青だった。

「なのはには、空が良く似合うって、僕は思った。」
「そうですね…私もそう思います。」

空を飛ぶなのはは、白いバリアジャケットがまるで空に浮かぶ雲のようで。
自然とそこに溶け込み、そこに一番似合う色となる。

「ナカジマさんは、空まで走るの?」
「え?」

聞かれて、スバルは返事に詰まった。
目指したなのはにたどり着こうと思うなら、空までいかなければならないのは確実か。
だけど、それは、少し違った。

「…私は、空は飛びません、ただ、走り続けます、目指した場所に届かなくても。」
「…そっか…だったら君は、空まで走れるさ。」

優しく笑うユーノに言われて、スバルはそうなのか、と首を傾げる。
ウイングロードと呼ばれる道。
翼の道を走り続ければ、いつかこの人と同じ空にたどり着けるだろうか。
ゆっくりとスバルは空を見上げる。

「僕はなのはの所まで飛べなかった。」

ポツリとつぶやいたユーノの言葉は、酷く悲しげで。
とても、重たい、とスバルは感じた。

「君は飛べる僕よりも、なのはの所まで走っていける。」
「買いかぶり、かもしれませんよ?」
「そうかもね…でも、少なくとも、僕は今、走っていく君を空に見れる。」

そう言って、ユーノは空に手を翳す。
自身に落ちた影から、ユーノは空を透かしてみる。
そこには飛ぶなのはの後ろに続くように、光り輝く道を疾走していくスバルの姿が、見えた。
きっと、その後ろにも、誰かの姿が描ける日が来る、とユーノは目を閉じた。
そしてもう一度見上げた空には、誰の姿も見えない。
そこにはただ天空の青が一面に広がっているだけだ。

「…ユーノさんは、きっと、巣なんですよ。」
「巣?」

その表現は初めて聞いた、とユーノは素っ頓狂な声を上げる。
それに笑いながら、スバルは続ける。

「ここから飛び立っていく沢山の人を見送って、でも、ここに帰ってくると、ユーノさんがいて…」
「必ず、そこにある存在、って事?」
「だって、ユーノさんは無限書庫にこもりっきりでしょう?」
「一応、これでも遺跡発掘とかもしてるんだよ?」

とは言え、確かに無限書庫にこもっている頻度は高いので、ユーノは苦笑する。
巣、育てるもの、護るもの。
ユーノはそんなものではない、と自身に思う。
だからと言って、適当な所も思いつかなかったが。

ユーノは眼鏡を外す。
眼鏡を外すと少し周囲がぼやけたが、それでも特に支障はない。
空は青くて、下を見下ろせば、気持ち良さそうになのは寝ていた。
それだけで、いい。

「そういえば、ティアに会いました?」
「え、ううん、今日は会ってない。」

やっぱりな、とスバルは苦笑する。
だとすると、一人無限書庫で勉強中か。
帰ってきたら、ちょっと不機嫌かもしれない、とスバルは考えた。

「…お疲れ様。」

そう言って、ユーノはなのはの髪の毛を梳くように撫でる。
それに気持ち良さそうに頬を緩めるなのは。
寝ているのに、感覚があるのだろうか。
と言うか…

(本当にこれで恋人とかじゃないのかな…)

酷くむず痒いような雰囲気をかもし出している目の前の光景に、スバルはとことんそこを突き詰めたくなってくる。

「変わらないな…なのはは…」

クスクスと笑うユーノの顔に慈愛を見定めて、スバルはなんとなく、悟った。

(…ああ…変わらない…って事は…出会った時と同じ感覚…)

つまり、異性として意識していない状態、と言う事になる。
もしかして妹みたいな感覚なのだろうか。
いや、いくら何でもそこまで朴念仁でもないだろう、とスバルは思うのだが。

「…あ、あの。」
「ん、何?」
「…いえ、その、この前、フェイトさん達と一緒に、ご飯食べに行ったんですよね?」

結局、無難な話題に流れてしまったのは、きっと、なのはの事を思ったからだ。
聞いてしまったら、それをなのはに伝えなければいけないようになるのが怖かったわけでは決してない。
そう、ないったら、ない。

「うん、食べに行ったよ?」

スバルの葛藤を知らず、ユーノは普通に話す。
まあ、分かるはずもないだろうが。

「美味しかったらしいので、私も行ってみたいかなぁ、と。」
「ああ、なるほど…でも、フェイト達に頼めば連れて行ってくれると思うよ?」

確かに、それもそうか、とスバルは考えを流す。
今度皆で食べに行ってみよう、と食に思考を持っていく。
こちらの方が精神的にも幾分優しい。

「そうですね、フェイトさんに頼んでみます。」

こうやって無駄な事を考えない方が精神的健康にいいなぁ、とスバルは単純思考に入るように専念する。
しかし、悲しいかな、スバルはそこまで単純な頭でもない。
どうにも気にかかると聞いてみたくもなってくる。
先ほどよりも気分がのっていたからこその凶行であった。

「なのはさんのこと、どう思っているんですか?」

ピクリ

寝ているはずのなのはが揺れるのを見て、スバルは失敗した事を知った。
起きてる、なのはさん起きてる!

「そうだね…かけがえのない、幼馴染かな…」

何の悪意もなく言い切るユーノに、スバルは今ばかりは恨みを吐き出しくたくなる。
心なしか、なのはの色が少し落ちたような気がした。
きっと心象を現しているのだろうが、スバルはちょっと哀れに思った。

「でもまあ…一番大切だと思っているのも…確かかな。」

そう言って、ユーノはなのはの頭をゆっくりと撫でる。
今度は周りに少しピンク色が見えそうな気がしたスバルだった。
スバルの眼には、なのはの色が濃くなっていくのが見えた。
何とも分かりやすい。

(でもなあ、この場合、凄く、定義が難しいような)

一体何を基準に大切なのか、スバルには予想もつかない。
結局、幼馴染基準枠内で一番大切なだけのような。
はやての話では一度失った恋心。
その辺りを何とか活性化させないと、なのはに勝ち目は薄い気がしたのだった。

(ティアとかなら、どう言うかな…)

しかし、結果的にティアナがいても役に立たないか、それとも追い落とす可能性が高い。
意識してない分、その辺りに容赦がないのが、今のティアナだ。

「あ、雷。」

青い空に突然空から雷が光輝き、近くの森の一角に落ちた。
それを見ながら、ユーノは苦笑する。

「…フェイトだな、今の。」
「室内で訓練中、ですよ、確か。」
「多分、一段落してシグナムさんと訓練でもしてるんだよ。」

新人が休憩中に、上司が模擬戦。
効率自体は悪いかもしれないが、上官達はバトルマニアなので、それはそれでいいだろう。
エリオなどは、真剣に見物しそうでもある。

「狸寝入りはもうやめたら、なのは?」
「…ぅ。」

うめき声が聞こえて、なのはが渋々と起き上がった。
少し残念な様子が顔に出ていて、スバルは薄く笑う。

「何時気づいたの?」
「今。 雷鳴って起きないほど、訓練怠ってないでしょ?」
「まあ、ね。」

少し不満そうななのはだったが、その顔は薄っすらと顔が赤くなっている。
狸寝入りがばれて恥ずかしいのだろう。

「ユーノ君、久しぶり。」
「なのはとはかれこれ3ヶ月くらいだね。」

そう言って優しく笑うユーノに、なのははどこかどんよりとした口調で言い募る。

「その間に、ティアナと買い物行ったりしてたよね。」
「え、あ、それは、まあ。」
「この前はフェイトちゃん達と食事に行ったらしいね。」
「うん、まあ。」
「それで、一緒に遺跡発掘に行く約束もしたとか。」

それはそれは楽しそうに語るフェイトに、なのはは何とも悔しかった。
と言うか、フェイトちゃん私がユーノ君好きって分かってるよね、と何となく心の中で何回も呟いてしまうほどだった。
まさかとは、と思いながら、言っちゃうと自覚させちゃいそうで、言い出せないなのはであった。

「うん、そうだけど…いつになるかは未定だけどさ。」

最近は休みがとれてもそれこそ論文書いたり日がな一日体を休めるのに使ったりしている。
あまりおもむいて発掘しようと言う意欲を発揮させてくれる遺跡が見つからないのだ。

「でも、どうしたの?」
「何が?」
「なのはがそんな事を気にするのが珍しいなって。」

首を傾げているユーノに、なのははやっぱり分かってない、と恨み言のように呟く。
とは言え、自身から告白しても色よい返事が返ってくるとは今の所到底思えないので、どうにも悶々としてしまう。
届かない、思い。

「折角だし、一緒にご飯でも食べに行こうか。」

そう思って外に出てきたんだ、とユーノは立ち上がる。
ヒョイ、と目の前に手を出されて、なのはは反射的に手を出す。
つかまれて、引っ張られると、細い体をしていても、やっぱり男だな、と思わずなのはは思う。
軽々と体を持ち上げられて、あっさりと立ってしまった。

「ほら、ナカジマさんも。」
「え?」

いいんですか、と問いかけて、まあ、よばれるのもいいか、と軽く出された手を掴んでしまった。
引っ張られて立ち上がって、スバルは何となく目線をなのはに合わせて――
失敗した事を実感した。

(何で断ってくれないの!?)

目がそう語っているなのはがいた。
さすがに気が回っていない事を実感してしまったスバルだったが、最早いい、とは言えない。

「どこに食べに行こうか?」

どこかお勧めの店ってある、と邪気もなく聞いてくるユーノに、やっぱり恨み言を言いたい気分のスバルだった。




「へ〜。」
「リインのお勧めです!」

ご飯を食べに行こうとしたところ、リインと会って。
お昼食べに行くんですか、リインももう休憩なので一緒に行きます、と言った流れで同伴となった。
結局二人っきりにはなれそうもない現状に涙しながら、リインはだったらここで食べたいです、と店を指定した。
さして遠くもないし、行ってみよう、と言う事でやってきた。

「…ファミレスよりは一つランクが高いってとこ?」
「ユーノ君、私あまりお金持ってないよ?」
「それなら、大丈夫だよ、おろしたばっかりだから。」

ユーノとなのはは値段を計算しながら、二人して自身の財布を確認する。
なんだかんだと年長者。
その辺りに抜かりはない。

「いっくで〜す!」
「お〜!」

既に食のことしか頭になさそうな二人に苦笑するなのはとユーノだった。
ちなみに、ユーノがご用達の店には、今度、休日が重なったら連れて行く約束をなのははしていた。






「ジャンボパフェです!」
「ミックスパフェを!」
「…君達はもう。」
「あ、私、プリンを一つ。」

小さな体に似合わず良く食べているリインフォースとそれに負けじと注文するスバルに、ユーノは食後のコーヒーを飲みながら呆れてみている。
小さく主張しているなのはには特に何も言わない。
お金はあるから別にいいのだが、二人とも、少しは遠慮して言ってほしい。

「ユーノさんははやてちゃんと違って太っ腹です!」
「………」

沈黙するユーノ。
はやてちゃんに密告しようかな、と思っているなのは。
来たフルーツパフェに舌鼓を打つスバル。

「…とりあえず、聞かなかった事にしてあげる。」
「え、何がですか?」

自分の発言にさして危機感がなかったらしい。
なのはとユーノは思わずアハハ、と乾いた笑いを浮かべてしまうのだった。
二人同時に溜息を吐いて、顔を見合わせて、思わず二人で吹き出した。

「…ねえ、ユーノ君。」
「なに?」
「会えて、良かったよ?」
「…いきなりどうしたの?」
「ううん、言いたくなっただけ。」
「……そっか。」

いつのにか、ひたすらのんびりした時間を実感した。
こんな時間が、やっぱりユーノと一緒の時は一番合っている、となのはは思う。
プリンを食べながら、なのははチラリとユーノを見る。
リインとスバルを呆れ顔で見ている姿に、なのははちょっとばかり悪戯心がわいた。

「ユーノ君。」
「ん?」
「あ〜ん。」
「え、ちょ!?」

プリンを乗せたスプーンを突き出して、なのははユーノに迫る。
ユーノは顔を赤くして忙しなく周りを振り返っている。
さすがにこういう恥ずかしさに耐性はないよね、となのははちょっと優越感に浸る。

「…う。」

呻きながらも、食べたユーノはすぐにそっぽ向いてしまった。
そして、それに何となく楽しい気分になりながら、なのははそのスプーンで食べようとして――ふと、スバルがこちらのスプーンを凝視しているのに気づいた。
何だろう、と思いながらも、なのははそのままプリンを一口食べた。
スバルをそれを見ながらボソリと呟いた。

「間接キスですね…」
「ぶっ!」

中学生のような状態であった。





一日のんびりと楽しく過ごして(無論、なのはからの無言のプレッシャーはあったが)、スバルは機嫌よく部屋に帰ってきた。

「あれ、ティア、もう帰ってたんだ?」
「え…あ〜うん。」
「今日は運が良かったよ、ユーノさんにご飯おごってもらっちゃ――」

ヒュン、と脇を駆け抜けた一発の魔法の銃弾に、スバルは思わず口を閉じた。
いつのまにかクロスミラージュをセットアップして立っているティアナに、スバルは冷たい汗をかく。

「…いないと思ったら…あんたと一緒にいたんだ。」
「…偶然です、はい。」

見たこともないティアナの迫力に、思わずへつらってしまうスバル。
この後、ティアナの自身でも分かってないような感情の吐露に付き合わされて、スバルは結局、訓練並に動く羽目になってしまった。
そして、本日の教訓が一つ思い浮かんだ。

(鬼門だ…ユーノさんは、私にとって鬼門なんだ…)

上官と親友がおかしくなる相手だ。
色々と、疲れ果てたスバルだった。

ー終りー


スバルはこんな役…
いいのかなぁ(汗)




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