何となく、面白くない。
ユーノがあそこまで思っていたなんて、知らなかった。
10年前に戦いの時、たった一言で何度も先への道を示してくれたのは彼だったのに。
だからこそ、そのトゲを抜いてくれた彼女には感謝しなくてはいけないはずなのだが。
胸中に渦巻くのは、感謝の念と嫉妬の念。
何故、あそこまで微笑まれているのが自分じゃないのだろう。
ふと、そう思った。
そして、何よりも耐えられないのは、今、ウィニーと言う彼女に向けられているユーノの視線。
それは、自身等に向けられるよりも、また違った、しかし、少しだけ熱い視線。
それが、何だか、非常に頭にくる。
ムカツキ、顔を険しくさせる。

「ヴィータちゃん。」
「却下。」
「…まだ何も言ってない。」
「お前、今、鏡のぞいてみろ、何考えているか一発で分かるから。」

言われて、とりあえず、ガラスに映る自分の顔を見てみた。
…考えたくもないような険しい顔だった。
何だろうか、友達が見合いをして、とても良い人と巡りあって、それで良かったではないか。
なのに、今、どうしてここまで険しい顔をしているのか。

「ヴィータちゃん。」
「却下。」
「だから何も言ってない!」
「じゃあ、行ったらメーです。」
「私は子供!?」
「おう。」

何故か冷徹に色々突きつけてくるヴィータにもひたすらむかついたり。
やたら醒めていたその視線。

なのははそろそろ、爆発しそうだった。





「…何かしらね、この状況。」
「凄い、空気がギシギシしてるね。」

テレビがある部屋の端っこでスバルとティアナは足を抱えて震えていた。
はっきり言って、ヴィータとなのはの間にある空気が怖すぎる。
おかしい、何故こんな状況になったのだろうか。

「………ねえ、どうする?」
「とりあえず、テレビを破棄したら状況は好転するかな?」
「無理ね、殺されかねないわ。」

ティアナの言う事に確かに、とスバルは頷く。
しかし、このままではストレスで押しつぶされそうな感じだ。
一体どうしてこんな事になってしまったのか。

「幼馴染の見合いを老婆心で見てるだけじゃなかったのかな?」
「…あれはそんな域を遥かに超えてるわよ。」

静かにテレビを眺めているなのはだが、10分ごとにヴィータと問答している。
ヴィータも鬱陶しげだ。
ここに残っているのはスターズ分隊のみなのだ。
勿論、ロングアーチもいるが、どう考えても海鳴に行けるはずがないのだが。
それでも、と言った感じのなのはの執念がほそぼそと増幅されていくかのようだ。
ティアナもスバルも巻き込まれそうな可能性があることに冷や汗を禁じえない。

「…あ。」
「どうしたのよ。」
「いや、ほら、状況が。」

言われて、ティアナがテレビを見れば、そこでは4人が退出していく所だった。
もう終り、な訳はないだろう。
外に出かけるか、それともお色直し、それとも両方か。
予想を立てておいてなんだが、誰か目の前のなのはを止めれる人はいるのだろうか。
ティアナの予想では本当に実力行使で行こうとするなら、ヴィータも止めようとはしないだろう。

「…スバル。」
「何?」
「逃げる準備はしてなさいよ。」
「…うん。」

言うまでもなく、理解していたのか、スバルはいつのまにかその両の足にマッハキャリバーを履いていた。
もしもの時は便乗しよう。





「…フェイトちゃん、もしかしたら、管理局のタロスさんが身内にユーノ君欲しくて、ウィニーさんに嘘言わせているとかあるか?」
『…いや、そりゃ、可能性としてはあるけど…限りなくないような。』

なにやら希望的観測を込めてそんな事を言い出したはやてに、シャマルは隣で渋い顔をする。
しかし、気持ちは分からないでもない。
ここまで見ていて、あのウィニーと言う女性は、隙が多いが、隙がない。
ポヤーとした性格なのかもイマイチ分からない。

「粗捜しするしかないんですもんね…」

だが、その時点で女として敗北していると言う考えになる。
…ちょっと虚しくなって、はやてから目を逸らすシャマルだった。

『主はやて、玄関からユーノと…ユーノと?』
「どうしたんや、シグナム、キャロ?」
『え…と、多分、玄関からユーノさんと…ウィニーさんが出てきました。』
「…?」

どうしてそんなに歯切れが悪いのか分からないが、とりあえず、はやてはシャマルにクラールウィントに玄関を映してもらう。
そして、そこに出た映像で思わず目を点にした。

「…く、黒づくめ?」
「…真っ黒ですね。」

出てきたのはスーツ姿のユーノと、目元以外を全て黒一色の衣装で隠した、多分、ウィニーと思われる女性だ。
その黒装束のローブのような胸元には、何か特徴的なマークが入っている。
とは言え、はやてにはそれに見覚えがなかったが。

『これって…ウィニーさん、タスレダ教の人だったんだ!?』
「フェイトちゃんは知っとるんか?」

私ちっとも知らない、と思いながら、フェイトの説明に耳を傾ける。

『タスレダ教は…まあ、宗教概要はいいか、とりあえず、タスレダ教の女性は、異性には身内と好きになった人以外に肌を見せちゃいけないんだ。』
「…見せたらどうなるとか何かあるんか?」
『確か…殺すか身内にするか。』
「…エリオ・モンディアル、任務終了を言い渡す。」
『殺されるんですか、僕!?』
『……ばれないうちに撤収しようね、エリオ。』

計らずして、いつのまにか殺されかねない運命を背負ってしまったエリオだった。
今日の彼は、本当についてない。

『あら、実はとっくにばればれよ♪』

え、と関係者各位、覗きは全員固まった。
今のは、今の声は…

『か、義母さん!?』
『オホホホホ。』

トランシーバーの向こうから聞こえてくるリンディの声に悪寒を感じてしまった一同だった。





「ウィニー、どこか行きたいところあります?」

そんな事は知らないユーノとウィニーはのんびり海鳴を歩いていた。
黒装束で全身を覆った彼女だが、ユーノは全く気にしていない。
タスレダ教は、それなりに広域な次元世界で広がっている宗教だ。
まあ、別にそれほどメジャーなわけでもない、が、ユーノはしっかりと知っている。
戒律なども知っているため、それほどその格好に特異性は感じない。
ただ。

「暑くないですか?」
「快適ですよ、黒いですけど、内側は送風の魔法が付加されてまして。」
「なるほど。」

色々と考えられているものだなぁ、とユーノは感心する。
暑いならその格好をやめればいい、と言う話は出ない。
宗教概念を命よりも大事にする人もいるのだ。

「でも…本当だったんですね。」
「何がですか?」

目元しか見えなくても、不思議そうな顔をしていると、想像できた。
タスレダ教の戒律と照らし合わせて、ユーノは苦笑しながら恥ずかしそうに言う。

「いや、僕に一目惚れって話しです。」
「あら、嘘だと思ってたんですか?」
「すいません、ちょっと疑ってました。」

ブー、と頬を膨らましていそうな彼女に、ユーノは慌てて頭を下げた。
そうしていると、クスクスと笑われた。
恥ずかしくなって、ユーノは先ほどの質問をもう一度言う。

「どこか行きたいところありますか?」
「そうですね…ここはなのはさん達の出身次元でしたよね?」
「はい、そうですけど?」
「ユーノもそれなりに交流が?」
「そうですね、知り合いも、友達もいます。」

それを聞くと、ウィニーは先ほどまでと変わって、無邪気に進言した。

「なのはさんのご実家は確か、とても美味しいお菓子を作っているとか?」
「美味しいですよ。」
「行きましょう。」

翠屋に行くのか。
と、ユーノはのんびり考えながら、じゃあ、行きましょう、と歩き出す。
すると、ヒョイ、とウィニーはユーノの左腕に自分の右腕を絡めた。
驚いてウィニーを見るユーノに対して、ウィニーは少し困ったように目線を送る。

「駄目ですか?」

少し心細そうな表情に、少しだけ目元から見えた頬が赤くなっているのを見て、ユーノは自身も照れくさくなる。
このくらい、そう大したことでもないはずなんだけどな、と言い聞かせる。

「いいえ、行きましょう。」

結局、ユーノとウィニーは腕を組んだまま歩き出す。
傍から見ていると、黒装束とスーツ姿の男と言う、とても珍しい組み合わせだったけど。
二人は自分達の事でいっぱいいっぱいだった。




「…まあ、別にいいんだけど?」
「…ごめんなさい。」
「すみません。」

リンディの前に正座している一団。
と言うか、はやてとフェイト以外は別にいいわよ、と言うことだったが。
おかげで、シグナムとシャマル、エリオとキャロはのんびりしている。
こういうときに責任を取るのはやはり隊長、と言う事なのだろう。
ちなみに、別にエリオは命の危機が去ったわけではない。

「…と言うかまず聞くけど、貴女達どうしてこんなことしているの?」
「…おもろそうやな、と。」
「フェイトは?」
「隊長命令で…」

フェイトちゃんずるい、とはやては訴えるが、フェイトは事実じゃない、と言い返す。
ちなみに両方念話だ。

「私的には、別に良かったのよ、覗くだけなら。」
「ええ、そうなんですか?」
「まあ、状況は変わっちゃったけどね。」

そう言うと、リンディは立ち上がり、仁王立ち、と言うにふさわしい状態になる。
その姿に圧されて、はやてとフェイトは思わず正座のまま後ずさりしてしまう。
その時、痺れてきていた足が何とも言えない感覚をかもし出してくれて、かなり辛かったが。

「貴女達、聞いたわね、さっきのユーノ君の事。」
「は、はい。」
「部族から放逐されたって…」

はやてとフェイトが慌てて答えると、リンディはよし、と頷く。

「聞いてたら分かるでしょ、私は、今、このお見合いが上手く行く事を切に祈ってます。生半可に邪魔したら…」

クイ、と首を親指でなぞられて、はやては冷や汗を流す。
怖い、怖すぎる。

「え、と何で、さっきの話を聞いたら、お見合いが上手く行く事を祈るの?」
「…分からない?」
「…正直。」

全員、その意見に賛成状態である。
イマイチ、そこのところが分からない、と全員首を傾げる。
すると、リンディはハァ、と深々と溜息を吐いた。

「あのね、ユーノ君は孤児でしょ?」
「え、うん…」

慌ててフェイトが答えると、新人二名以外は慌てて頷いた。
なんと言うか、尋常ではない雰囲気に全員が巻き込まれている。

「部族からも追放されていた、つまり?」

はい、とリンディはフェイトを指差す。
え〜、とえ〜、とと慌てて考えて、フェイトは答えを閃いて――バツが悪そうに言った。

「…天涯孤独」

あ、と一同は声を上げる。
すっかり理解していなかったが、そう言う事なのだ。
ユーノは9歳から、既に家族はなく、たった一人。
同じく9歳だった時、フェイトとはやてはユーノとは逆に、家族を手に入れた。
そして、ユーノは家族同然に育ってきた人たちから放逐された。

「で、最近、アルフから色々と話を聞いててね、あんまりにも身辺が寂しかったからね。」

冷静に、リンディは考えてみた。
いかにユーノが望んだとは言え、9歳から10年間、書庫で大人を相手にずっと頑張ってきていた。
年の近い友人もなく、たった一人で、だ。
いかになのはやフェイト達がいたとは言え、それこそ良く頑張ったものだ。
何せ、ユーノの場合、失敗してもフォローする役は誰一人いない状態で始まった、と言う事もある。
フェイト達でさえ、15までは学校も取り入れ、楽しく過ごした。
かたや、書庫で本の整理と依頼の資料探し。
自身が口出しすることでもないか、と思ったから、当時何も言わなかったのではあるが。
もろに失敗した、と最近リンディは実感してしまったのだ。
そして、ここに来て、導く大人は本当に自分達しかいなかったのだ、と言う事を理解してしまった。

「で、タロスさんからお見合いの申し込みが私経由で来たから、ユーノ君もこれで上手くいくようなら、少しはマシになるかしら、と思ったからね。」

リンディが拳を握って語る言葉は確かに、と思えた。
ユーノをないがしろにしている事はなかったが、それでもそれほど気にかけていたわけでもない
果てしなく、バツが悪い。

「ユーノ君が幸せに、まあ、本人が不幸だと思っていないでしょうから、より幸せになるように、と言ったところかしら、が今回のお見合いの一番の目的です。」

だから、生半可な気持ちでもし邪魔してみろ、と目を輝かしながら語るリンディは本当に怖かった。
フェイトは義母の初めて見る顔に恐怖し、はやてははやてで後ずさっていく。
それを見ながら、フ〜、とリンディは溜息を吐く。

「大体にして、フェイト、この前私、貴女に聞いたわよね?」
「え?」
「『ユーノ君を好きな娘、誰か知っている?』って。」
「…はい。」
「その時の、貴女の答えは『ううん、知らない。』だったわよね。」
「…はい。」

本当に、その時はそう思っていて。
フェイトは本当にそんな人に心辺りがなかったから。
なのはも友達だと言っていたし、自身も友達だとしか思っていなかったら。
だから、フェイトは、今、どこかどす黒い感情がウィニーに対してわきあがっている事に対して、客観的に驚いている。

「最初は、貴女達の中から誰か選んで、お見合いもいいかな、と思ったのよ。」

言われて、フェイトははやてと目をあわす。
自身がユーノとお見合いしている図を想像すると、何となく、笑いがこみ上げた。
尤も、それは、とても穏やかな笑いではあったけど。

「でもね、知らないでしょう?」

ただ、そんな穏やかな笑いも、どこか突き放すようなリンディの声で、消えてしまったが。





久しぶりに歩く海鳴の街は、それほど変わっていなかった。
そういえば、こちらに来るのはどれほどぶりだったろうか、と思い立つ。
随分と間が空いてしまった、とユーノは少し桃子達と会うのが照れくさい気分だった。

「ユーノ、聞きたいことがありますが…答えたくなかったら、何も言わないで結構です。」
「…はい?」

突然、ウィニーの口から出た言葉に、ユーノは一瞬、何の事か分からずに、しかし、さっきの事か、と何となく分かった。

「私は、とても幸せです、母も父も、祖父も、とても優しくしてくれ、そして、時にとても厳しく。」
「…はい。」

ユーノはなのはの家みたいなものかな、と何となく、思考をめぐらす。
周りの人に当てはめれば、それはそれなりに容易に想像できた。

「ですから、ユーノの気持ちは分かりません。 寂しくないのですか、辛くないのですか?」

問われて、ユーノは一旦口を開いて、すぐに閉じた。
言ってしまいそうだ、彼女は、とても優しい雰囲気を纏っているから、言ってしまいそうだ。

「私は、辛いです、父や母がいなく、祖父から勘当されたら、と想像するだけで。」
「…そうですね。」

ユーノもそう言うのが精一杯で。
どうしようもなかった。
それは、ユーノには分からないと言えば分からない感情だったから。
スクライアから放逐された時、ユーノははっきり言って、何も感じなかった。
それが、本当にのしかかったのは、管理局に勤め始めて、一年が経った頃だった。
書庫に勤めて、疲れ果てて――ふと、感じた、孤独。
仕事をしているうちはまだいい。
しかし、休日、寮で寝転がっていると、酷く寂しさにおそわれた。
帰れる場所はどこにもなくて――

「……行きましょう。」
「はい。」

だから、話を打ち切ったのだけど、ウィニーは何も言わなかった。
何も言わず、受け止めるように返事を返してもらって、ユーノはどこかホッとした。
ただ、絡み合った腕が、温かく感じた。






「知らない?」
「私達が、何を知らないって言うんですか?」

フェイトとはやてが、リンディに問いかければ、リンディは無表情に言い放つ。

「知ってる? エースオブエース達の裏で、幼馴染のユーノ君は何て言われているか?」

XV級新造艦クラウディア艦長、クロノ・ハラウオン。
夜天の王の守護騎士、ヴォルケンリッター。
不屈のエース、高町なのは。
本局次元航行部隊のエリート執務官、フェイト・T・ハラウオン。
本局地上部隊の切り札、八神はやて。
彼ら、彼女らは賞賛を持って、管理局全体に名が知れ渡っている。
ヴォルケンリッターとはやてに関しては、一部、悪い話もあるが、それはまた別の話だ。
少なくとも、入局からの話で彼女らに悪い噂はない。
ユーノも評判は当たり前ながら悪いものではなく、上層部では彼らよりも高く評価しているものもいる。
が――

「エースオブエース達の使いっぱしり、ですって。」

淡々と言われたリンディの言葉は浸透しきるまで多少の時間を要した。
浸透すると――

「取り消してもらおうか。」

真っ先に行動を起こしたのは、シグナムだった。
先ほどまで一線をひいた場所にいたのに、その行動は早い。

「シグナム…」
「ユーノは、そんな端役などでは決してない。」
「そうね…シグナムさん。」

リンディは、フウ、と溜息をつくと、大袈裟に肩をすくめて見せた。

「…大体ね、私が言ったわけじゃないから。」

将として、シグナムは仲間が罵倒される事を酷く嫌う。
それが不当ならなおさらだ。
少々、気がはやった事を自覚して、シグナムは一つ溜息をつくと、後ろに下がった。

「じゃあ、言ってみましょうか、そんな話。」

黙って、睨みつけてきているはやてとフェイトに、リンディはピン、と右手の人指し指を立てる。

「はやてさん、貴女がリインを作る時、無限書庫に行ったわよね?」
「え、あ、はい、一番知識もその手の事も資料としてあるやろう…って。」
「ええ、あの当時のどこのデバイスマスターよりも無限書庫の方が確かだと言うこともあったから、当然と言えば当然ね。」
「それが何か関係あるんですか!?」

必死だったあの時、大体にして、友達を頼って何が悪いと言うのか。
と、そこまで考えて、ふと、はやてはユーノに頼られた事ってあったかな、と思う。

「関係はおおありなの。 あの時、ユーノ君は貴女に請われるままに、仕事と平行して、リインの製作に関して必要そうな知識を集め続けたわ、それこそ、何日も不眠不休で。」
「ええ、物凄い、感謝してます。」
「で、これを究極的に他人視線で見てみましょうね。」

究極的に感情の混じらない話をしよう。
すると、この図式、はやてが自分の物を作るに当たって、ユーノを不眠不休で働かせたように見える。
そして、最後にそこまでやらせて、お礼は言葉一つ。
当たり前ながら、とてつもなく穿った物の見方ではあるが。
偏見の塊のようなその意見に、はやては咄嗟に言葉を失う。

「…フェイトも、ユーノ君は友達の依頼だけはなるべく早く終わらそうとしている。」
「それは…ユーノの優しさで…」
「そうね、彼の優しさ、でもね、その優しさもね、見方を変えると。」

この場合は、フェイトに言われると、ユーノがそちらの依頼も同時平行で開始する。
勿論、ユーノがしたいからするのであるが、偏見をもってすると、事情が変わる。
フェイトに言われて、その依頼を真っ先に仕上げようと必死になるユーノ。
まるで、脅されでもいるようだ、と穿ってみるとそう見えないこともない。

「そして、人の噂に尾ひれ背びれなんて当たり前でしょ?」

一度流れてしまえば、その容貌も相まって、下世話な噂話として広がってしまう。
しかも、実際にユーノは噂どおりの行動を取っているのだから、近くにいない人間にはどれが真実かなんて分からないだろう。
やっかみもあり、ユーノをこき下ろしたような噂は流れていた。

「アルフに言われて、私も初めて知ったわ。」
「ユ、ユーノは…?」

知っているのか、と問うフェイトに、リンディは目を細める。

「知っているらしいわ。アルフに聞いた話だと、嫌がらせを受けた事もあるみたいね。」
「え…」

思わず呆然と、フェイトとはやてはつぶやく。

「『ハラウオン執務官と仲良くするな』とか『八神捜査官に媚を売るな』とか『高町教導官に近づくな』とかね。」
「…聞いた事ない。」

そんな事、聞いた事なかった。
フェイトもはやても話を聞きながら、ユーノの事を思い出すが、ユーノはいつも笑っていた記憶しかない。
なのはが重傷を負って倒れた時でさえ、ユーノは支える役だった。
嘆くなのはを支えて、出来る限りの事を尽くして、周りを支えて。

「………ユーノ君がそれを貴女達に言うとでも?」





「ここが、翠屋ですよ。」
「へ〜、可愛いお店ですね。」

扉を開けて中に入ると、ユーノの眼に真っ先に飛び込んできたのは、桃子の姿だった。
よくよく考えると、1年ぶりではないだろうか、とのんびり思った。

「いらっしゃ…あら、ユーノ君!?」
「お久しぶりです。」

ペコリ、と頭を下げたユーノに桃子はすいている時間、と言う事もあって、笑顔で近づく。

「本当、久しぶりね〜、相変わらずで安心したわ。」
「こちらこそ、相変わらずお若いですね。」

いや、本当に。
なのはと容貌がほとんど変わらないのは一体どう言う事だろうか。

「あら…?」

ユーノの後ろに控えて、ジッとしている黒づくめのウィニーに気づいて、桃子は首を傾げる。

「そういえば…スーツね、お仕事?」
「…見合い中です。」

ユーノがバツを悪そうにそう言うと、桃子とは途端にニヤニヤとした笑いを浮かべた。

「あらそう…ユーノ君にも春が来たの?」
「それはまだ何とも。」

そっぽを向くユーノから、ウィニーに視線を移す桃子。
目元から見えるウィニーの目は笑みを浮かべている事が分かる。

「…あら〜、ユーノ君はなのはをお嫁にもらってくれると思ってたんだけどな…残念。」
「いや、僕じゃ、不足ですよ、なのはの相手は。」

苦笑するユーノの目は、冗談を言っている瞳ではない。
それに、どこか疲れている感じも透けて見えた。
桃子も、どこかおかしな感じを受けながらも、これ以上は何も言うまい、と素直に席につけた。
――しかし、黒ずくめなのに、普通な桃子も何とも言えない。

「…どのケーキもとても美味しそうで、悩んでしまいます!」

妙に力の入った言葉に、ユーノは少しおかしくなって、クスリ、と笑った。
それに気づいて、ウィニーは少し顔を赤くして抗議する。

「失礼です…」
「すいません、でも、おかしかったもので。」

そうは言うものの、ユーノはやっぱりおかしくて、もう少し笑ってしまった。
その復讐に、机の上に一杯のケーキを並べられて、さあ、食べましょう、と言われてしまったときは、どうしよう、と思ったが。
尤も、運の良い事に、食べなくてもよくなったのだが。

「こんにちわ〜」
「こんにちわ!」

聞きなれた声に振り向けば、そこにはすずかとアリサがいた。
二人を見るのもしばらくぶりだな、とユーノは思った。

「あ、ユーノがいる!」
「本当だ〜、ユーノ君、久しぶり。」

アリサが指差して叫べば、すずかはのんびりと挨拶をしてきた。

「お知り合いですか?」

ウィニーの声に、ユーノは、微笑みながら答えた。

「友達です。」
「…女の人のお友達が多いんですね。」

何だか、ちょっとだけ、ウィニーの声のトーンが下がった気がした。

「アリサ、すずかも、良かったら食べる?」
「あら、いいの?」
「それじゃ、遠慮なく。」

これで胸焼けはない、が代わりに、ウィニーから冷たい目線が来そうな気がして、ユーノはさて、どうしよう、と思った。

「初めまして、私、ウィニー・タロスと申します。」
「こちらこそ、ご丁寧に、月村すずかです。」
「アリサ・バニングスよ、ユーノと何しているの?」

いつのまにか自己紹介を始めていた。
そして、アリサが既に核心に近い質問をしていた。
普通に返す以外に道はなく――

「お見合いです、結婚してくれますかしら?」

そして、道もさっさと寸断されてしまった。
しかも、狙ってではなく、自然とそんな事を言うのだから、どうしようもない。

「お見合いね…ウィニーだっけ、貴女、いいの、結婚相手がこんなので?」
「アリサちゃんってば…」

アリサにこんなの扱い受けて、ユーノは苦笑する。
とは言え、たまに聞く自身の話に比べれば、アリサのこういう話はとても温かい。
本当に罵倒などしていないのだから、当たり前と言えば当たり前だが。
ウェニーはウィニーで、アリサの言葉を聞いて、ニッコリと笑った。
目元しか見えないが、それでも、どんな表情をしているか何となく分かった。

「ええ、実際お会いして、とても運の良い出会いだと思ってます。」
「おお…」

そのキッパリとした物言いに、ユーノはどうも居心地が悪くなる。
代わりに、すずかとアリサはこりゃ暑い、と言う感じだった。






「……ヴィータちゃ〜ん」
「…駄目。」

既に何度目のやりとりか分からないやり取りだ。
先ほどからのリンディの話はこちらにも流れてきている。
多分、シャマルが気を利かせてくれているのだろう。
とは言え…なんと言うジレンマか。
なのはは行動を起こす事もできず、ジッとしていることしか出来ない。

「どうしてもって言うなら、フェイトに帰ってきてもらえ、と言うかライトニングに帰ってきてもらえ。」

ある意味当たり前の妥協案ではあるのだが。
しかし、なのはは渋い顔。
今の雰囲気でとてもフェイトが交代してくれるとは思えなかったし。

「ヴィータちゃんはユーノ君があんな事言われてたの知ってた?」

どうせ、と時間つぶし的にそんな会話を繰り広げてみる。
返ってくる答えなど、知らなかったに決まっている、と思って言ったのだが。

「知ってたよ。」

返って来た答えは、斜め上だった。

「…え?」
「知ってた。」

なのははマジマジとヴィータを見つめる。
その表情に変化はなく、どうでも良さそうにも見える。

「…なんで教えてくれなかったの?」
「じゃあ、教えてたらお前はどうしたんだよ?」
「そりゃ…」
「噂の元を叩き潰しにいくか、それともユーノに何で言ってくれなかった、って言いにいくか?」

言われて、なのはは言葉に詰まる。
ヴィータの物言いは、どうにも何かをこらえているようだ。

「あたしは両方やったんだよ。」
「え?」

ヴィータにしてみても、ユーノは可愛い末っ子を誕生させるのにとても尽力してくれた一人で。
仲間の一人だと、当たり前ながら認識していた。

「軽く脅しを入れてよ、これで大丈夫だろ、何て思っちまった。」

そしたら、もっと噂はでかくなってよ、とヴィータは平坦な口調で言う。
曰く、ヴォルケンリッターの腰ぎんちゃくだとか、事実無根の話が溢れて消えない。

「それで…ユーノの所に謝りに行ったらよ、言うんだよ、笑いながら。」

駄目だよ、ヴィータ、僕の事でいざこざなんて、あんなの放っておけばいいんだから。

本当にどうでも良さそうに、そう言いきった。
実際、そうなのだろうけど、言われている当人がこういうのだから、そうするか、とヴィータは思った。
しかし、点々と転がる噂は、誰かが悪意を持って広げているとしか思えず、終息する気配はない。
時折聞こえてくるその噂は、聞いている方が嫌になる話がいくつもあった。
それでも、少しずつ、少なくなっている気はするのだが…気のせいか一気に。

「……その時思ったよ、ユーノはあたし達を巻き込まない。 あいつは自分の事は自分だけで決着つけちまう。」

人の気持ちなんぞ、おかまいなしにな、とヴィータは言う。
なのはは何とも言えない。
様々な実績を上げているユーノに、どうしてそこまで嫌な噂が付きまとうのか、理解できない。
ただ、何か人の悪意と言う、目に見えないおぞましいものが体を覆った気がした。
それとは別に、怒りと悲しみと、色んな、それこそ未知な感情まで混じった、熱い何かが、体の中でくすぶっていた。





「ティア、噂って、聞いた事ある?」
「…正直、ない。」
「私達が来て日が浅いせいかな?」
「かもしれないわね、私達ほとんどここから出てないし。」

ティアナとスバルは訓練校時代を思い出す。
周りの嫌な噂を実力で黙らせて、ただ黙々と頑張り続けたその時を。
なら、実力で何をしても黙らせれないなら、どうすればいいのだろう。
無視していればいいのだろうか。

「…辛いね、なのはさん達も。」
「本人がどう思っているのか、よく分からないところもね。」






「あらあら、それはそれは。」
「そうなのよ!」
「なのはちゃんも無茶するからね〜」

短い間に仲よくなっている3人を、ユーノは穏やかな笑みを浮かべて見守る。
そして、いつのまにかテーブル中にのっていたケーキが消えている事に戦慄を覚える。
いや、いつのまに、3人とも食べたのですか、と思わずユーノは問いたくなった。

「でも、お話を聞いてると、本当にユーノには女性の友達が多いですね。」
「ことさら悲しいのは、本当に友達ばっかり、所謂『いい人』で終わる典型な辺りが何とも言えないわよね♪」
「…本当な事だけどさ、アリサは何でそんなに楽しそうなの?」
「人の不幸は蜜の味、あんたの不幸は蜂蜜の味ってね♪」

あはは、と笑うアリサをジト目で見つつ、ユーノは溜息を吐く。
すずかも苦笑している。

「でも、良かったじゃない、ユーノ君、好きになってくれる人もいるよ。」
「そうよね、希少よ希少、逃がさないようにしなさいね。」
「しっかり捕まえていてください。」

何だ、この流れ、とユーノは凄く居心地が悪くなる。
結婚云々考えると非常にあれだが、確かに、ウィニーと結婚、と言うと、そこまで拒否感はない。
とは言え、どこか現実味に欠けている。

「…まあ、善処します。」

言えたことはそれだけで。
でも、そんなに悪くはないかな、とも思った。





「で、どうしたいの、どうするの?」
「…な、何がです?」

リンディの言葉に、はやてはうろたえながら聞き返す。
しかし、内心、どうすればいいのか、と問われても意味も分かっていた。
ただ、行動を思いつかない。

「…どうしたいの?」

リンディの言葉は、何も変わったものではない。
どうしたいのか、何をしたいのか、はやては考える。
しかし、混沌と渦巻く自身の心がその答えを返してはくれない。

「…帰ろう、はやて。」

フェイトは立ち上がって、はやてに言う。
それを信じられないものをみるような瞳で見るはやて。
しかし、フェイトの瞳は力を失わない。

「帰って…まず、しなきゃならないことをしよう。」
「…何をや?」
「そうだね…ユーノに何か改めてお返しとか。」
「…え、えらい、即物的に。」
「それと…自分の気持ちの再確認かな。」

フェイトはムン、と両手を構えてみせる。
どうしたいのか、一度、のんびり考えてみよう。
そうでなくとも、色々知りすぎて、少々混乱していたから。
そしたら、ユーノへのスタンスもまた改めて決まる気がした。

「エリオ、キャロ、帰ろう。」
「え…あ、はい。」
「分かりました。」

今までただの聴衆だった二人はいきなり話を振られて、慌てたが、返事をする。
はやてもフウ、と溜息を一つつくと、リンディに言った。

「とりあえず、今日の所は撤収します。」
「そう?」
「はい、こうなってくると、指揮官として戦略を練ってきます。」
「まあ、頑張りなさい。」

リンディの顔はその時にはいつもの笑顔で、フェイト達とはやてが退出していくのをゆっくりと見送った。
そして、残ったのは――

「お聞きしたいのですが?」
「何かしら、シグナムさん?」

烈火の将と風の癒し手。
シグナムもシャマルもどこか納得のいかない表情をしている。

「先ほどの話、全て本当ですか?」
「概ね、違うの一点だけ。」

リンディがそんな事を言うので、シグナムとシャマルは眉を寄せる。
と言うか、こんなあっさりものを言うのもどうかと思うのだが。

「噂は殆どユーノ君が自身でつぶした、と言う点ね。」
「え?」
「まだ、緩々とした噂は流れているでしょうけど、ユーノ君はとっくに根を切り落としている。」
「それって…」
「ええ、放っておけばもうすぐ消えると思うわ。随分長い間かかったみたいだけど。」

それはそれで、変な話だ。
何故、気にするな、と言っていた当人がそんな事をするのだろうか。

「多分…ユーノ君の逆鱗にでも触れたんでしょうね。」
「ユーノの…逆鱗?」

普段から温厚を是としているユーノが怒ったところなど、冗談レベルでしか見たことがない。
所謂、キレたなら、一体どうなるのだろうか。
それにしても…逆鱗?

「一体、何をすればあいつがそこまで怒るのでしょうか?」
「…すぐに分かるでしょ?」

ユーノが大切にしているものは、絆であり、絆の向こうに繋がっている人たち。
つまり…

「なのはや…フェイト達を馬鹿にした、と言う事でしょうか?」
「多分、ユーノ君を絡めて、でしょうね。」

ユーノは戦闘に向かない。
年若い連中、とりわけ、彼らの中では一番標的にしやすい。
それだけに、彼を絡めて、槍玉にあがったのだろうが。

「…あいつが怒ったら、何をするのだろうか。」
「さあ、何をしたかは分からないけど。」

リンディもその辺りのことまでは分からないらしい。
ただ、想像もつかないのは確かだが。






「海が綺麗な場所ですね。」
「地名の通りですからね。」

翠屋を出て、すずかとアリサと別れてのんびりと公園を歩きながら、ユーノとウィニーは会話している。

「ユーノはこういうところが好きですか?」
「好きですよ…でも、僕には多分遺跡とか書庫が一番性に合ってますけどね。」

ユーノはそれは楽しそうにそう言うので、ウィニーも同じように笑った。
のんびりとしていると、いつまにか、日が傾いてきていた。
思ったより、翠屋で消費した時間は長かったらしい。
そろそろ戻らないとな、とユーノは思う。

「ウィニー、そろそろ戻りましょうか?」
「そうですね、でも、もう少し…」

そう言って、ウィニーは水平線を眺めていた。
ユーノはその後ろ姿を眺めながら、なんとなく、綺麗だと思った。
黒ずくめのその姿だけど、何故か、綺麗さが見えて仕方がない。
そんな事を思っていると、ウィニーはゆっくりとユーノを振り返った。

「ユーノ、聞きたいです。」
「…何をですか?」

パッ、と突然、ウィニーは頭の上から被っていた布を外した。
それに慌てて、ユーノは結界を張る。
広域結界を張り巡らし、周囲に誰もいなかった事を確認して、ユーノは安堵の息を吐いた。
その様子に、すまなそうな表情を見せながらも、ウィニーは決然と言う。

「ユーノ、私と結婚を前提に、お付き合いしてくれますか?」
「……その、答えを?」
「はい、ここで聞かせてもらえますか?」

ウィニーは自身、少々焦っていると思っていた。
長くて黒い髪を押さえながら、ウィニーはバクバク言っている胸を押さえる。

「……最後まで聞くまで、その…焦らないでくださいね。」

ユーノは言葉を選ぶようにして、たどたどしく、文章にしていく。
はっきり言って、論文の発表などと同様に、ひたすら緊張していた。

「…今回は、その申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。」

その言葉に、目に見えてウィニーは沈んでいく。
まるで闇に引き込まれるようなその姿に、ユーノは慌てて言葉を紡ぐ。

「後、一年ほど、待ってください、いや、待っててくれたら、ですけど。」

弱気だが、その発言に、ウィニーは首を傾げる。
一年、と言う期間に何か意味があるのだろうか。

「僕の友達は…今が一番大切な時期で、僕としても出来る事はとても微々たる事でしょうけど、できることは精一杯してあげたいんです。」
「だから…私と付き合っている暇はない、と?」
「言い方が悪いですが、そう…です。」

物凄く申し訳なさそうにしているユーノの顔をみていると、ウィニーは笑いがこみ上げてきた。
なるほど、何とも彼らしい理由であり、一年、と言う期間があれど、それが過ぎれば付き合ってください、と言うふうにも考えられる。

「一年、でよろしいのですね?」
「はい…その時に、お互いに、心変わりなく、あった場合ですが。」

苦笑するユーノは、まだまだなのは達より上位に彼女を置く事が出来ない事を分かっていた。
やっぱり10年の付き合いは重いのだ。
恋愛感情はないけれど、とても、とても大切な彼女達。
彼女らの夢が軌道にのるまでは、まだ、時間はない、と思ったから。

「分かりました。」
「すいません。」

謝るユーノの前で一年も待つつもりは毛頭ありませんが、とウィニーは心の中で、つぶやいた。
もう一言、かっさらわれるかもしれない時間を、そのままにしておくことなどできません、とも。

この後、このお見合いは終りを迎えた。
リンディが満足そうにしていたのは、一体どう言う事なのだろうか。
よく分からないが、それでも、ユーノは、まあ、いいか、と思った。






「アルフ、昨日はありがとう。」
「いやぁ、変わり映えのない一日だったよ。」

翌日、無限書庫に勤務に入りながら、ユーノはいつもの低位置へと体を落ち着けて、仕事を開始する。

「…ユーノ、お見合い、リフレッシュによかったみたいだね。」
「そうだね、いい人に会えたよ。」

何気なしにそう言うユーノに、アルフは首を傾げる。

「ふ〜ん、それじゃ、ユーノももう結婚かい?」
「ブッ!」

余りににも早すぎるその結論に、ユーノはちょっと吹いた。

「結局、断ったよ、後、一年は――」

このまま、と言おうとした所で、アルフが腰に持っている風呂敷に包まれた見慣れない箱に気づいた。

「アルフ、それは?」
「ああ、これかい、来る途中、なのはに会ってね、ユーノに渡しといて、って言われた。」
「僕に?」

依頼か何かか、と思いながら、ユーノは風呂敷を開ける。
中から出てきたのは、一通の手紙、と。

「…弁当箱?」

何で、と疑問に思いながら、ユーノは手紙を開ける。

「ええと…『久しぶりにお昼一緒に食べよう』か。どうしたんだろう、急に?」
「…え、あ、フェイト?」
「どうしたの、アルフ?」
「ん、今、フェイトから念話が来てね、ユーノにお昼休みに会いに行くから、書庫にいてね、だって。」
「え、あ、うん。」

何だろう、と思いながら、なのはとフェイトが同時だから、もしかして、何かのカモフラージュの意味なのだろうか、とユーノは弁当を眺める。
局内にばれたくない相談とかか…?

「うん、ザフィーラ?」
「え?」

入り口を眺めると、四足の青い狼がこちらに飛んできた。
首を傾げるユーノとアルフの目の前で止まると、ザフィーラは一つ溜息を吐いた。

「おはようございます、どうしたんですか、ザフィーラさん。」
「あんたがここに来るなんて、余程の事かい?」
「余程…まあ、主達にしてみれば、余程かもな。」

言い回しがはっきりしないザフィーラに、ユーノとアルフは首を傾げるしかない。

「主が、昼休みに話たい事があるから、ここにいるように、との事だ、大丈夫か?」
「…大丈夫ですけど…本当に、一体何があったんですか?」
「何、とは?」
「だって、なのはとフェイトとはやてがバラバラで、でも全員一緒なんて、初めてですよ?」
「…あの二人もか。」

なるほど、とと言うザフィーラはどこか遠い所をみているようで。
一体なんなのだ、とユーノとアルフは首を傾げることしかできない。
しかし、六課隊長陣が全員だ、さすがにユーノも悩む。

「悩んでも仕方がない事です、お昼休みを待ってはいかがでしょう?」
「それはそうですけど…って…あれ?」

声のした方を見てみると、そこには――

「うわ、真っ黒。」
「本日より、探索課より移動、こちらで勤務する事となったウィニー・タロスです。ユーノ・スクライア司書長、よろしくお願いいたします。」
「な…何で!?」
「どうしたんだい、ユーノ?」

アルフの疑問に、ザフィーラが答える。
無論、声をかなり小さく絞ってだが。

「彼女が、昨日のユーノの見合い相手だ。」
「…断ったって言ってたけど…相手の執念が凄かったってことかね。」

しかし、何であんたそんな事知ってるんだ、とアルフに問われて、ザフィーラは聞くな、と顔を逸らした。
何となく、事情を察したアルフだった。

「一年…どこで待っているかは自由かな、と。」
「…はぁ。」
「無限書庫には前より誘われてまして、では、早速、と。」
「…はぁ。」
「…駄目でしたか?」

呆れた目線をしているユーノに、ウィニーはしょぼんとして聞く。
その仕草に、ユーノは呆れを苦笑に変えて、言った。

「いいえ、歓迎します、無限書庫にようこそ。 でも、辛いですよ?」
「貴方と一緒ならば。」

凄い殺し文句だ、とアルフは隣で聞いていて何となく思った。
とは言え、ユーノにはどこか効果が薄そうだったが。

「ユーノにも春かね〜♪」

無邪気に、しかし、友人の事を嬉しがるアルフに、ザフィーラは一言付け加えた。

「…しかし…今度の春一番はユーノを飲み込んでしまいそうだが、な。」

今、この時点で、昼休みがどうなるかを何となく察していたザフィーラはそそくさと退出した。



この後、昼休みに至るまで、ウィニーはユーノの近くで幸せオーラをばら撒きながら、仕事をしていた。
それをみながら、司書たちは見合いの話を聞いて、司書長もカウントダウンかな、と言う印象を植え付けた。
ウィニーの探索は単独の相手ならかなりの上質だったので、アルフは仕事上も満足だったし、また、ウィニーの人柄も嫌いではなかった。

が――様相は一変する。
なのは、フェイト、はやてが、この時昼休みに何をしたのかは、よく分かっていない。
アルフ曰く、『人は、とりわけ、女は一日で変わるもんだね〜♪』との事だった。
とても楽しそうだったアルフに対して、昼休みが終わった時のユーノは、正に鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしていたという。

結局、この日から始まったこの戦いが、ユーノが提言した、一年で終わる事などなかった、とだけ明言する。

『ユーノ君は、誰にも渡さない!』
『え、とユーノ、普段のお礼、と、これからも、そのよろしく、男女の意味でも。』
『ユーノ君、こっちだけ見たってや!』
『あらあら…負ける気は毛頭ありません♪』

無限書庫司書長に吹き荒れた、見合いと言う名の春一番は、実に様々な種を贈ってくれたらしい。

―Fin―

中途半端、と思いかもしれませんが、今回はこんな感じかな、と。
色々置き去りですけどね(汗)





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