第10話:休暇−夜−
 
  
《少しは楽しめたか?》
 そんな愛機の問いかけ。
 魚捕りは途中で何故か水遊びに変わってしまい、自分となのはvsフェイトら4人の水合戦に。更には途中で狼形態のザフィーラとアルフも加わり、結果全員水浸しとなって桃子らに呆れられてしまった。
 中断したせいで魚捕りの方は思った程の成果が出せなかったが、それでもなのは達は満足したようだった。後は自分が手伝わなくてもうまくやるはずだ。
 肉の方もなんとか解体でき、夕食でも好評だった。山菜の類はことごとく食用でない事が判明し、残念な結果に終わったが。
「うん」
 今日という1日がとても楽しかったと断言できる。あれ程笑ったのも久し振りだった。
 今もなのは達はログハウスの方でカードゲームに興じているはずだ。アルフとザフィーラは見廻りに出ている。
 自分は後片付けがあるので席を外していた。
 食用に使えなかった部分――頭部や骨、皮等を先程ようやく全て埋め終えて、今は猪と兎の解体に使ったナイフの手入れに取りかかるところだ。
《手入れなんて後にして、なのは嬢ちゃん達と遊べばいいのによ》
「道具の手入れは、すぐしておかないと」
 刃に付いた血や脂を丁寧に拭き取ってから、答える。目立つ刃毀れはないが、研いでおいた方がいいだろう。
 砥石はどこだったか、と腰のポーチを開けようとした時だった。
《こっちへ1人来るぞ。士郎氏だ》
 スプリガンからの報告。言われて耳を澄ますとログハウスの方から近付いてくる足音が聞こえる。その方向へ首を向けても何も見えなかったが、愛機によって補正された情報が直接視覚に反映され、歩いてくる士郎が認識できるようになった。
「こんな所にいたのかユーノ君」
 その距離が縮まると補正が消え、はっきりと士郎を肉眼で確認できるようになる。
「どうしたんだ独りで。なのは達と遊ばないのかい?」
「いえ、後片付けを先にしておこうと思いまして」
「そうか。全部ユーノ君に任せっきりにしてしまったなぁ」
 済まなそうに士郎が謝ってくる。いえ、とだけ言葉を返したところで会話が止まってしまった。
 特にこちらから話す事はないので、手入れの続きをしようとポーチから砥石を取り出す。士郎はこちらの手元を見ているようだ。
 周囲にある灯りは足元に置いてあるランタンのみ。周囲は闇に包まれ、時折吹く風が木々を揺らして葉音を立てる。
 静かな空間。だが今はその沈黙が重たかった。先程までは独りだったのに、今はもう1人いて。しかもそのまま停滞してしまっているからだ。何かしら話す事でもあれば別だが、ただ黙ってじっと見られているのは気まずい。
 そもそも、士郎はどうしてここへ来たのだろうか。ログハウスの方で皆と遊んでいたはずなのに。用事があるのかと思ったのに、それを切り出してくる様子もない。まさか、食料調達のお礼を言うためだけに来たわけではないだろう。
 となると『あの件』かもしれないが。それでも黙ったままというのは不自然だ。
「あの……」
 このままだと何だか気味が悪い。仕方なくこちらから単刀直入に訊いてみることにした。立ったままの士郎を見上げ、問う。
「今回、どうして僕を呼んだんですか?」
「どうして、って。車の中でも話したと思ったが」
 士郎は小首を傾げ、不思議そうにする。そこには何ら含みがあるようには見えない。だが自分の気分転換だけのために、わざわざ呼び出してくれたとはとても思えなかった。だから、続ける。
「いえ、そうではなくて……その、本当の理由です」
 腕を組み、中空を見上げながら考え込んでいた士郎が、再びこちらへと顔を向けた。そこに浮かんでいるのは驚きの色で、
「君を……糾弾する為に、呼び出した……とでも、思ったかい?」
 噛みしめるような問いかけに無言で頷くと、その顔が何故か困惑へと変化した。
 
 黙って頷いた異世界の少年から視線を逸らさぬまま、考える。
 浮かない顔をしているから悩み事があるのだろうと思った。仕事が忙しいと聞いていたから、そのことだろうと予想していた。しかし全くの見当違いだった。
 責任感が強い子だということは聞いていた。だが、これは度が過ぎている。
 こちらの問いにユーノは肯定を示した。つまり、この自分の娘と同じ程の年齢の少年は、断罪されるために今回の招待に応じたというのだ。
 そんな馬鹿なと思うが、彼の目は真剣そのもので、決して冗談の類ではないということが分かってしまった。
 どう、答えたものだろうか。なのはの事故にここまで責任を感じてしまっている彼を、どうしたら納得させることができるのか。望みどおり恨みをぶつければユーノは満足するのだろうか。根本的には何も変わらないが。
 そんな事ができるはずもない。そもそもユーノに非があるなどという認識が微塵も無いのだから。
 考えているだけでは埒が明かない。まずはこちらの意を伝えなくてはならない。
 近くの岩に腰を下ろして、士郎はユーノに言った。
「ユーノ君。切っ掛けは君だ。君に出会わなければ、なのはは魔法を手にすることはなかった」
 それは事実である。変えようがない。
「だが、魔導師とやらになった後は別だ」
 その後の協力はなのはの自由意志によるものだと聞いている。ユーノへの協力を途中で止める選択肢も、魔導師そのものを辞める選択肢もあった。管理局に入らない選択肢もあったのだ。
「危険な目にも遭っていた。それでもなのはは魔導師になることを選択した。違うか?」
 つまりはそこだ。切っ掛けを得てその後どうするのかは本人の意志だ。誰に言われたからでもなく、誰に強要されたからでもなく、なのはが自分の意志で決めたことなのだ。そのこと自体にユーノの責任などありはしない。
「それに、非というならむしろこちらにこそあるんだよ」
 そう言うとユーノが目を見開いた。驚きと困惑の顔を浮かべ、何やら口を開こうとしていたが、それをさせる前に言葉を放つ。
「事故の原因についてはリンディさんに聞いている。俺達は家族なのに、なのはを注意してやることができなかった」
 魔法のことだからと詳しく聞けなかったこともあるが、それでも家族だ。聞かなくてはならなかったのだ。事故前に忙しそうにしていたのには気付いていた。家族の身を案じることは当然のことで、そこで気後れしてはいけなかった。魔法のことそのものに口は出せなくても、健康や体調に気を配ることはできたはずなのだから。
 そして何よりも。
「それに、俺は親としての責任を放棄してしまっていたようなものだ」
「そっ……そんなこと――!」
 今度こそ、ユーノは異を唱えたが、
「なのはが魔導師になることを!」
 それを強い口調で黙らせて、続ける。
「俺達は認めた。リンディさんの説得もあったし、なのはの強い希望もあった。その仕事が危険と隣り合わせであることも知っていた。その上で、だ」
 娘の安全を第一に考えるならば、誰が何と言おうと許さない、そう考えるのが当然だ。それが親というものだ。でも、そうしなかった。できなかった。なのはの意志を尊重したいと思ってしまった。
 あるいはそれは、なのはに対する罪滅ぼしだったのかもしれない。自分が『事故』をしたせいで、幼少時のなのはにつらい思いをさせたことに対しての。そして、迷惑を掛けないように、わがままを言わないようにと、年齢不相応の気遣いをする子供に『してしまった』ことに対しての。
 そんな娘が、心からやりたいことを得て、その気持ちを自分達に伝えてきた。その時、それを叶えてやりたいと思ったのだ。
「ユーノ君らの世界ではどうだか分からないが、この世界は、この国は、子供が成人するまでは親が全責任を持たなくてはならないんだ。目の届かないところへ、自分達の影響の及ばないところへ、護ることのできない所へ行くことを許してしまった時点で、他人に当たる資格なんてないんだよ」
 そしてまた。娘が魔導師に復帰することを容認してしまっている。なのはが復帰を決めたことは既に聞いていた。今度こそ止めよう、そう思ったのは一瞬だ。なのはの目には、魔法のことを打ち明けられた時以上の、強い意志の光が見えたから。今回の事故で死にかけた。半身不随になりかけた。それでもまた復帰したいと。死と隣り合わせであることを身をもって知り、それでもまだ同じ道を進みたいと。なのははそう言ったのだ。
 惰性による責任感や義務感からではない。教導隊という、技術を教えるらしい部署を目指し、戦う術を教え、そして何より生き残る術を教え、自分のような目に遭う人を少しでも減らせるように。本心からそうあることを望むからこその決意だった。
「だから、今回の件についてユーノ君が責任を感じる必要は全くないし、君を責める理由もない」
 そこまで言って、ああそうかと今更ながらに納得する。確かユーノの世界は、大人の中に子供が混じって働く世界。そうなると、子供とはいえ大人と対等の扱いなのではないだろうか。そんな世界の常識を持つからこそ、今回の件について過剰とも言える責任感を持ってしまったのではないだろうか。
 そう考えると、ユーノを子供として諭すのは逆効果なのではないかと思えてきた。責任があると思い込んでいるのなら、彼を1人の大人として扱い、例え『本来存在しない責任』であっても負わせてやる方が、彼の心も軽くなるのではないだろうか。
「それでも、と言うのなら」
 立ち上がって、納得しかねる様子のユーノに告げる。
「これからも、なのはを見ていてやってくれ。同じ過ちを犯さないように。二度とこんな事が起こらないように。なのはが間違えそうになったその時に、諫めて誤りを正してやってほしい」
 ユーノの性格なら、誰に言われずともすることだろう。しかしそれでも、あくまで罰が欲しいのなら、こういった『当たり障りのないこと』を提示してやるのがいい。
「それが、罰だ」
 ユーノは無言だった。何かを考えているようだ。自分が言った事を整理しているのだろう。
 しかし、これでユーノの気が晴れればいいが、そう思った瞬間。
「……っ!?」
 思わず息を呑む。ユーノの表情が変化したからだ。自分の言葉をどう噛み砕き、どう解釈したのかは分からない。だが、硬い表情の中にあるユーノの目。それは決して彼のような少年がしていい目ではない。過去に見た事がある、覚悟を秘めた者の目。それも『己の信念に殉じる覚悟をした者の目』だった。
「分かりました、必ず」
 意志を乗せた言の葉が、ユーノの口から放たれる。それを耳にしたと同時、悪寒が背筋を駆け抜けていった。
 これは失敗だ。そう断言できる。後悔の念が沸々と湧き上がってきた。重荷を取り除くための言葉が逆にユーノをなのはに縛りつける鎖になってしまったのだ。
 そんなことが許されていいはずがない。前言を撤回しようと慌てて口を開こうとして――
「なのはがこっちへ来ますね」
 ユーノのその言葉で、機会は失われた。
 
 近付いてくるのは桃色の光。魔法の灯りだった。ゆっくりと近付いてきた光が人影を浮かび上がらせる。スプリガンの補正が無くても、それが誰なのかは分かった。
「あれ、お父さん? どうしたの?」
 やがてランタンの光の届く範囲まで辿りついたなのはが照明魔法を消して、傍に立っていた士郎に問いかける。
「いや、ユーノ君の姿が見えなかったからな。どこで何をしているのか心配だったから捜してたんだ。今は、ちょっと話をしていたところだよ」
 先程、何やら焦っていたようだがその様子をまったく感じさせない父親の顔で、士郎が答える。
 そうなんだ、と呟いたなのはが、続けて言葉を紡いだ。
「そうそう、お母さんがお父さんを捜してたよ。何か相談したかったみたいだけど」
「そうか、分かった」
 答えた後で、何か言いたげな顔を士郎がこちらに向けたが、結局何も言わないままログハウスの方へと帰って行った。そういえばここへ来る時も灯り無しだったが、夜目が利くのだろうか。
 そんな事を考えながらなのはを見上げ、問う。
「ところでなのはは、どうしてここへ?」
「わたしもユーノくんがいなくなってたから捜しに来たの」
 そう言って自分の隣になのはが腰掛けた。
「念話で声をかけてくれればよかったのに。夜の独り歩きは危ないよ?」
「大丈夫だよ。犬さんの対策はユーノくんがしてくれたし。アルフとザフィーラも見廻りしてくれてるし。足元も、光があればちゃんと見えるしね。ところでユーノくんは何をしてたの?」
「ああ、道具の手入れをね」
 こちらの手にあるナイフと砥石を見ながら問いかけてくるなのはにそう答えて、砥石に刃を走らせた。独特の摩擦音が周囲の闇へと吸い込まれていく。それを興味深そうに見ながら、
「ねえ、ユーノくん。楽しめてる?」
 なのはが問いを投げてきた。手を止めてそちらを見ると、あったのは曇り顔。視線はこちらの手元に固定されたままだ。
「どうしかしたの?」
「だって、色々とユーノくんに頼っちゃって。せっかくゆっくりしてもらおうと思ってたのに、ほとんど任せきりで……」
 申し訳なさそうにそう言って、なのはが膝を抱える。どうやらはやての見解は正しかったようだ。
「適材適所だよ。僕にたまたま、こういう適性があった。だから僕が動いた。それだけのことだよ。それに、ちゃんと楽しんでるよ。今日みたいに楽しかったのは本当に久し振りで嬉しかった。ありがとう、なのは」
 だから正直な気持ちで感謝を言葉にして伝えた。なのはの視線がこちらの手元から顔へと移る。ランタンに照らされた顔には笑みが浮かんでいて、視線が絡んだ途端、照れたのかなのはは素早く顔を逸らした。
「そ、そういえば、お昼はお父さん達と稽古してたんだって?」
 そして誤魔化すように話題を変えてくる。
「なかなか筋がいいって褒めてたけど、ユーノくん剣術やるの?」
 どうやら高町家の誰かがなのはに話したようだ。だが、ほんの少し褒められた程度でそちらの道を志すつもりはないし、一から新たな技量を磨く時間的余裕もない。何より、
「いや、しないよ。武器としての刃物を使うことなんて、これからもきっとない」
 自分にとって刃物は道具だ。武器ではない。
「それよりなのは、今日はどうするの?」
 今度は自分の方から話題を変えた。え? と首を傾げるなのはの胸元を指す。そこにあるのはなのはの愛機であるレイジングハート。日課になっているであろう魔法のリハビリをどうするのか。もしもするなら手伝うよという意味での問いかけだ。
「え、っと……さっきも言ったけど、わたし、今回はユーノくんにゆっくりしてもらいたかったから誘ったの。だから、今日は別に――」
 なのはは戸惑いの表情を浮かべ、断ろうとしていたが、
「でも、自主練はするつもりなんでしょ? だったら一緒だよ。僕だって、こういう機会でもないと魔法の訓練なんてできないしね」
 こちらが言葉を遮り、促すと、
「うー……じゃあ、お願い……していいかな?」
 上目遣いに言葉を翻した。
 
 
 
 フェイト達、魔導師組には念話で連絡を入れて、訓練用の結界を展開した。
 それから約1時間。メニューを終えて、今は一息入れているところだ。
 魔法のリハビリにもそれなりに付き合っているが、回復具合はかなりいいようだった。自分の目から見ても多少のぎこちなさは残るが、それが消えるのも時間の問題だろう。
 思いどおりの結果を出せたからか上機嫌に見えるなのは。そんな彼女に、
「そういえば、なのは本気なの? リハビリが終了したら、Sランクの昇格試験を受けるって」
 問いを投げる。少し前に人伝に聞いた話だ。完治までの見込みは立っているとはいえ、急ぎすぎではないだろうか。もう少し間を置いた方がいいのではないかと思う。
「うん」
「病み上がりでいきなりじゃ、勘も鈍ってると思うし……」
 認めるなのはに言葉を続ける。次のSランクの昇格試験までの期間自体がそれ程長くないのだ。完治してからそこまでの間に、どれだけ以前の状態を取り戻せるかは未知数だ。ましてや、そのためにまた無理をしたりはしないだろうかと不安にもなる。
「それは今、取り戻していってるよ? 今日もユーノくんに手伝ってもらえたし」
 そんなこちらの胸中を知ってか知らずか、なのはがにこやかに答えた。
 手伝っているとはいっても、できる事は標的役くらいだ。正直、フェイトやヴィータ相手ならともかく、自分が相手をしたからといって勘は取り戻せないと思う。
「ユーノくん、回避機動がすごく上手いんだもん。誘導操作系の運用方法だけ考えても、ユーノくんとの訓練はためになってるよ」
 それなのに、笑顔のままでなのははそう力説した。
「無限書庫入りしてすぐの頃……まだ一緒に模擬戦してた頃と比べると、全然違うもん」
「あはは……なのはにそう言われると、自信が湧いてくるね」
 気持ちが高揚している事に気付く。なのはの言葉は自分を認めてくれているようで嬉しかった。むず痒さを感じて、頭を掻きながら顔を逸らす。
 とはいえ、あの頃と段違いと思われるのは少々都合が悪い。自分は皆の前では『あの頃のままであるべき』なのだから。今更遅いが、今後は気をつけようと心に刻む。
 それはそれとして。何だか話を逸らされてしまった気がする。昇格試験の件についてはもう少し詰めておくべきだ。
「ありがとうユーノくん、心配してくれて」
 しかし先になのはが口を開いた。再び顔をそちらへ向けると、優しい瞳がこちらを見つめていた。
「でも、大丈夫。あくまで目標ってだけだから。試験までに万全の調子に戻ってなかったら、見送るつもりなの。その方が確実だもん」
「そ、そうなの?」
 既に決定だと思い込んでいただけに、その言葉は意外だった。
「もちろん、問題なければ受けるけど。その辺はシャマルさんの診断とか、シグナムさん達との訓練で判断していくよ」
同じ失敗はできないよ、と自身に言い聞かせるようになのはが小さく呟いた。
 そうだった。無理や無茶の結果が何をもたらすのか。なのはは身をもって知ったのだ。それを反省せず、何ら変わらぬままであるはずがない。
 そんな事を考えていると、なのはが少しだけ意地悪げに笑い、
「ちっとも反省してない、みたいに思ってたでしょ?」
 などと問うてきた。心を見透かされたようで言葉に詰まってしまうが、その態度こそが答えのようなものだった。
「ごめん、なのはを信じてなかった」
「にゃはは……それは仕方ないよ。前科があるのは事実だもん」
 無礼を詫びると一転して困ったように笑って、でもね、となのはは続ける。
「自分でも意識しないうちに、無理とか無茶とかやっちゃうかも。そういうのを大丈夫だって判断して続けてきたから、あんなことになっちゃったんだし。また間違えちゃう事もあるかもしれないし……分かっていてもしなくちゃいけないことだって、この先、無いとは言えないし……」
 どこまでが無理で無茶なのか。その線引きができていなかったからこそ、あの事故が起きた。そう言うことはできる。そのあたりの意識の改善は当然必要だ。少しずつでも改めていかなくてはならないことではある。
 だがそれだけではない。実際に現場に出た時は、無理や無茶を『しなくてはいけない』場面が少なからずあるはずだ。そしてなのはの性格的に。それが自分以外の誰かに危害が及ぶ場面であれば、きっと今までと変わらぬ行動を取るだろう。
 空を飛ぶこと以上に、困っている人達のために魔法を使いたいというなのはの想いはきっと変わらないだろうから。
「その時は、僕が叱るよ」
 反射的に、そう口にしていた。とはいえ、別に先程士郎にそう言われたからというわけではない。なのはの力になるという誓いは自ら立てたものだ。誰の言葉に左右されるものではないのだから。
「うん、お願いねユーノくん」
「でも、そうならないように気をつけなきゃ駄目だよ?」
 笑顔でお礼を言うなのはに、そう釘を刺しておく。もちろん、と笑みを崩さぬまま、なのはが元気よく答えた。
「さて、それじゃそろそろ帰ろうか。いつまでも結界に篭もってると、アリサあたりに怒鳴られそうだし」
「あはは……」
 あまり魔法の方面になのはの時間を割くわけにもいかない。せっかくの旅行なのだから、もっと楽しんでもらいたい。
 腰を上げ、結界を解除する。外界と隔絶する為の壁が消えて、空には星の光が戻ってきた。
「じゃ、行こうか」
 座ったままのなのはに手を差し出す。
「うん」
 その手を取って、なのはが立ち上がった。
 
 
 
 
 
 後書き
 
 KANです。
 休暇第3弾。これで休暇の話は終わりです。次は……またちょっと、暗い話になるかもですが。
 ではまた、次の作品で。





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