その日。高町なのはは全てを家族に打ち明けた。
 魔法を手にしてからの、常ならざる日々を。
 
 
 事情の説明のために来てくれたリンディと付き添いのフェイトを見送った後。
 リビングに戻ってみれば、集まった父親達は何とも複雑そうな顔でその場に留まったままだった。
 魔法なんて、この世界では空想の産物だ。実際にそれを行使する身となったなのはでさえ、最初は驚きの連続だったのだから、それを話として聞いただけの家族が混乱するのも無理のないことだった。
 だがしかし、まだ話は終わっていない。ここでもう1つ、話さなくてはならないことがある。正確にはそれは自分ではなく、今も肩に乗っている友人兼師匠がすることであるのだが。
『ユーノくん。本当に話すの?』
 念話で呼びかけると、肩の相棒は首を縦に振った。
『でも……リンディさんのお話だけで、事情は十分伝わったと思うんだけど』
 実際、リンディの説明は、ジュエルシードが海鳴市に散ったところから始まっていて、今回の闇の書事件の決着までで終わっている。本来ならそれだけで十分だ。
『なのはが今までしてきたことは、ね』
 しかしユーノは言う。
『でも、なのはがそうするに至った発端は、全く話せてない』
 発端。つまり何故ジュエルシードがこの世界へ落ち、誰がなのはに魔法の力を与えたのか、という点について。リンディはそこに直接触れなかった。一応、筋書きとしては偶然なのはが、何らかの理由でこの世界に落ちたレイジングハートを拾い、偶然同じようにこの世界に落ちてきたジュエルシードの暴走に巻き込まれ、偶然魔法の力を開花した、ということになっている。
 胡散臭いことこの上ない話だが、魔法自体が胡散臭いのでそのあたりはうやむやにできる。だというのに、ユーノは全てを正直に話そうとしている。自分の責任をはっきりさせておきたい、という彼の希望からなのだが、そこまですることはないのに、というのがなのはの正直な感想だった。第一、巻き込まれたのは事実だが、途中からは望んで関わったのも事実で。それにジュエルシードを発掘したといっても、その後の事故についてはユーノの責任などではない。狙ってこの世界に落としたわけでもないのだし。
 それでも独りでジュエルシードを回収しようとしたり、今回の件といい、本当に真面目というか責任感が強いというか。
 それはともかく。ユーノがそう決めたのなら本人の意志を尊重したいのだが、なのはには懸念が1つあった。それを聞いた後の家族の反応だ。高町家では微妙に浮いた存在ではないかと考えたこともあるが、愛されている自覚はある。その自分を非日常の世界へ誘い込んだことになるユーノの告白を聞いて、家族、特に父を筆頭とした武闘派3人が万が一でも実力行使に出ないかと不安になるのだ。
 もしも家族が暴挙に出れば全力全開で止めよう、と覚悟を決め、なのははユーノに頷いて見せる。肩からユーノが飛び降りた。そのままトコトコと家族の方へと歩いていく。
「あの……すいません」
 そして、声を発した。父が、母が、兄が、姉が。キョロキョロと周囲を見回す。突然聞こえた声の主が見えない、否、分からないのでは無理もない。
「ここです。ここにいる、フェレットです」
 再度の発言。皆の視線が、ユーノに集中する。それを見計らったように、ユーノは変身魔法を解除した。緑の魔力光が膨らみ、なのはの見知った少年へと姿を変える。
「この姿では初めまして。ユーノ・スクライアといいます」
「ゆ、ユーノ……?」
 震える手で指差しながら、美由希が確認するように問う。ユーノはそれに頷くと、その場に正座した。なのはもその隣に座る。
「今日、リンディ提督からなのはの今までのことについて説明があったと思います。その件について、僕からも皆さんに、お話ししたいことがあるんです」
 そう言った彼の横顔は、固かった。
 
 
 
 そしてユーノは全てを話した。リンディが誤魔化してくれた部分を包み隠さず。
 ジュエルシードを発掘したのがユーノであること。それを事故によってこの世界へ落としてしまったこと。それを回収するために単独で動いていたこと。そして――なのはを巻き込んでしまったこと。
「これで、全部です」
 先のリンディの話で免疫ができたのか、士郎達は別段何も言わず、ただ話を聞いてくれた。表情にも変化らしいものはない。
「ユーノ君」
 ゆっくりと目を開けて、士郎が口を開いた。
「君が今回の、というか全ての発端だと言いたいのは分かる。確かにその、ジュエルシードというのを発掘したのは君なんだろう。しかしだからといって、君がここまでやる必要はなかったはずだ」
「いえ、でも――」
「君が全ての責任を持たなければならなかった立場だというならともかく、対象の搬送はその範囲外だ。輸送手段が事故をしたというならそれを整備した者のミスだし、人為的なものであるならそれは警備スタッフの責任だ。ユーノ君が気にすることじゃない。それに、こうなることがわかっていて発掘したわけじゃないんだろう?」
 それは勿論そうだ。どんな文明の痕跡か、という程度なら分かるし、下調べをするのは当然であるが、遺跡発掘において、そこにある「物」が確実に分かっている事は稀なのだから。遺跡発掘は、宝探しとは違う。
「だったら、気にすることはない。まあ、責任感が強いのはいいが、少しは人に頼ることを覚えた方がいいな」
「そうよ。ユーノ君はまだ子供なんだから。なのはと同じくらいなんでしょう?」
「え、ええ……と。そう言われても、僕らの世界じゃこの年齢で仕事をしてるのも珍しい話じゃありませんし……特に専門職だと尚更で……」
 士郎と桃子に言われ、ユーノは頬を掻く。スクライアの一族には自分と同年代の者も多くいるし、同じように遺跡発掘に携わっている。子供だから、というのは自分達には当てはまらないのだ。この世界のこの国のように、義務教育というのがあるわけでもないし。
「それに、な」
 士郎が姿勢を正し、こちらをまっすぐに見る。そして、頭を下げた。
「君には礼を言わなくてはならない」
「え?」
「巻き込まれた、という言い方もできるが、君がいたからこそ、なのはが無事だった、というのもある」
「あの……どういうことです?」
 士郎の態度と意図が分からず、聞き返す。すると士郎は首を傾げた。
「君の話を聞いていて思ったんだが、なのはと会う直前に対峙したジュエルシード、というか、その化け物、か? そいつは病院にいたユーノ君を狙ってきたんだろう? 何故、君の居場所が分かったんだ?」
「それは……」
「難しいことはよく分からないが、君とこの世界の人間の差というのは、魔法を使う素養があるかどうか、なんだろう? だとしたら、君の魔力とやらに引かれたんじゃないかと思う」
 そう言われれば、そうなのかもしれない。あの時のユーノは追跡者で、ジュエルシードは逃亡者だ。普通ならあのまま行方をくらませていてもおかしくないし、あるいは発動した時の願いに従って動いていただろう。しかしアレは、直接自分を狙ってきた。姿が変わっていた自分を、まっすぐに。
「となると、だ。下手をすると、君の前になのはが狙われていた可能性もある、ということだ」
「そういえば、リンディさんが言ってたな。この世界には魔力を持つ者はほとんどいないけど、持っている者は異世界でも稀な、大きな素質を持っている、とか」
 士郎の言葉を、あぁ、と納得したような声を上げて恭也が継いだ。
「俺にも魔力とかのことはよく分からないが、もし魔力そのものに引かれたなら、父さんの言うとおり、なのはが襲われててもおかしくないな」
 アレが魔力を辿って追ってきていたのなら、その可能性はある。というより、何故そこまで考えが及ばなかったのだろうか。下手をすれば、自分が出会うよりも前になのはが――
「ユーノ、何を考えているかはその顔色を見れば分かるが、とりあえず深呼吸して気を落ち着かせろ」
 恭也が苦笑いを浮かべて言ったが、無理だ。あの時のジュエルシードの行動原理がどうだったのかは確かめようがないが、今の仮説は最悪だった。もしそんなことになっていたらと思うと、目の前が暗くなる、いや、実際に暗くなって――
「ユーノくん……!」
 現実に引き戻された。隣に座っていたなのはが不安げにこちらを見ている。いつの間にか手を握られていて、なのはの温もりが伝わってきて、それで不思議と、落ち着いてしまった。
『ユーノくん、もう終わったことだよ』
 念話でなのはが話しかけてくる。
『なのは……でも……』
『それにね、わたし、信じてるの。もしそうなってても、ユーノくんが絶対に助けに来てくれてるって』
『そ、それは勿論だよ!』
 いくらダメージが残っていたとはいえ、警戒だけは怠っていなかった。もしアレが行動を再開していたのなら気付いていたし、その時には動いていただろう。
『だから、いいんだよ。大切なのは、今なんだから。ね?』
『うん……ありがとう、なのは』
 なのはの表情が、笑みに変わった。つられてこちらも自然と笑みが浮かぶ。
「あの……2人とも? 何を急にいい雰囲気作ってるのかなー?」
「「え?」」
 が、なのはの顔が引きつった。多分自分も同じだろう。そのきっかけを作ったのは美由希の言葉で、ゆっくりとそちらを見ると、意地悪い笑みの美由希と、面白そうにこちらを見ている桃子、やれやれと肩をすくめる恭也と、何やら複雑そうな顔をしている士郎があった。
 そして気付く。未だになのはの手は自分の手に添えられたままだった。慌てて手を離すが、そんな態度もおかしかったのか、桃子と美由希は声を上げて笑い出した。
 
 
「さて、それじゃあ話は終わりだ。魔法云々の話は、な」
 ゴホン、と咳払いをする士郎。
「で、だ。ユーノ君。ここからは、娘を持つ父親としての話になるんだが……」
 ぎらり、と士郎の眼光が鋭くなる。その威圧感にユーノは背筋を伸ばし、次の言葉を待つ。もっとも、その言い回しから発言の予想はついていた。
「君、なのはと風呂に入っていたな? 温泉の時とかは、美由希達とも」
 そして予想どおりの言葉が、士郎の口から紡がれた。
 色々と誤解があったせいでもあるが、今更曲げようもない事実であることに違いはない。不埒者呼ばわりされても仕方がなかった。ただ、士郎がこういう態度を取るということは。
「あの、1つだけ確認していいですか?」
「うむ」
「やっぱり、異性と同じ風呂に入るのは、この世界ではマズイこと、なんですよね?」
「この世界、って……大げさな言い方するね、ユーノ。そんなの常識じゃない。まあ、子供だからあんまり問題視はされない、ってのはあるし、例外もあるけど」
 念押しで訊ねると、美由希が答えた。ああ、やっぱりそうなのか、とユーノはゆっくりと息を吐き出すと、頭を下げた。
「それについては何の申し開きもできません。処分は覚悟してます」
「いや、あの、そこまで大袈裟な話じゃ……」
 何故か美由希が呆れたようだったが、この世界にいる以上、この世界の常識、慣習には従わなければいけない。士郎が怒るのは当然だし、罰を受けるのも当然だ。と思ったのだが。
「ユーノ君。こちらからも1つ訊ねるが、君の故郷はどうだったんだ?」
「え、っと……僕の故郷、というか、集落では同じです。僕らよりもう少し若い子くらいまでですね」
「ならば、もう1つ。他の、君の行ったことのある他の世界ではどうだ?」
 言われて、記憶を探ってみる。文明レベルが高い世界では同じだが、未開地の住人や少数民族となると、そのあたりは結構いい加減だし、そういう意識もなかった。
 こちらがそれを答える前に察したのか、士郎の表情が緩んだ。目つきも穏やかなものに戻っている。
「それじゃあ、仕方ないな」
「あら、意外。父さんのことだから、ちょっとツラ貸せって言ってユーノを道場に連行すると思ったのに」
「そ、そんなの駄目だよっ!? 別にユーノくんは悪くないんだからっ!」
「人を何だと思っているんだ美由希。それになのはも落ち着きなさい。さっきも言っただろう、仕方ないな、って」
 物騒なことを言う美由希と、それに反応して立ち上がるなのは。苦笑しながら士郎はなのはに再度座るように促した。
「で、父さん。何で仕方ないわけ?」
「常識の基準が違うから、だろ」
 美由希の問いに答えたのは恭也だった。うん、と士郎が頷き、桃子も笑う。
「今、美由希が言ったのは、この世界の、日本の常識。ユーノ君はこの国どころか別の世界の子よ? 知らなくてもおかしくないわ」
「んー……でも、ユーノのトコはこの世界と同じだったんでしょ? だったら、それに準じればいいんじゃない?」
「そう単純でもないのよ、美由希。自分達の常識が、相手にとっての非常識であることは、この世界でもあるんだから。人種や宗教、国柄とかね。様々な事情が入り交じるものよ」
 桃子の説明に、ユーノは感心した。単一世界の住人が、こういう考えを持つのは難しいのだ。当然国による風習とかはあるが、それを知っていて、理解できる人は少ない。ひょっとしたら、士郎や桃子は外国で暮らしたりしていたことがあるのかもしれない。
「だから、ユーノ君は自分の常識ではなくてその時の常識、つまり、この世界の住人であるなのはの行動に従った、ってこと。そうよね?」
「え、ええ……それと、ちょっとした誤解があったのも原因でして」
 ユーノはこれについても正直に話すことにした。
「僕となのはが初めて出会った時、僕は、自分がまだ人間の姿をしていたと思い込んでたんです。怪我で意識が朦朧としていたのもあるんですけど、とにかく僕は、なのはが僕の人間の姿を知ってる、って思い込んでしまっていて」
「それで、わたしはユーノくんがフェレットだって思い込んでて……だから、着替えとかも普通にしたし、お、温泉の時もそのまま……」
 隣で赤くなりながらなのはが言う。その時を思い出し、こちらの顔も熱くなってきた。
「そ、そういうわけで、この世界ではそれが普通なのか、と勘違いしてしまって……」
「でも、言えばよかったのに。僕は男なんだ、って……あ、駄目か」
 何やら言いかけて、美由希が勝手に納得していた。
「もしユーノが僕は男だって言っても、なのははユーノがフェレットだと思ってるから」
「うん……男の子、じゃなくて、オスだ、って意味に取っちゃってたと思う」
「ユーノはユーノでなのはが自分のことを人間だと分かってるって思ってるから、わざわざ僕は人間なんだよ、とは言わないし……避けようがないわね、それ」
 お手上げ、とばかりに美由希は肩をすくめたが、ふと何かを思い出したように口元を歪ませた。それはもう楽しそうに。
「でもなのは、ユーノの正体知ったのって、前の事件の途中だったのよね?」
「うん、そうだよ」
「なのは、その後もユーノとお風呂に入ってなかった?」
 しまった、とユーノは思った。こっそりと見てみれば、やはり楽しそうな桃子と恭也。微妙に表情が変化している士郎。そして慌て始めるなのはは、
「だ、だってユーノくん、フェレットのままだと自分で身体洗えないもん! だ、だから仕方なくー!」
 自爆した。
「ふぅん? じゃあ、一応、フェレットのままだったんだ。てっきり、お風呂では元の姿に戻ってたんじゃないかなーとか思ったんだけど?」
「わたしだってタオル巻いてたし、ユーノくんもちゃんと目を閉じてたし! 嫌がるユーノくんを納得させるの大変だったんだから! それに着替えの時とかも、何も言わずに部屋を出てくれたりしてたし!」
 必死に弁解を始めるなのはと、からかうような美由希。その騒ぎをよそに、桃子がこちらを見た。
「で、どこまでが本当なのかしら?」
「……僕はなのはの肩に乗ることが多かったですし、あんまり汚くしてるとなのはに不快な思いをさせるので。最初は誰もいない時に風呂を借りようかと思ってたんですけど……」
 高町家では最後に風呂に入った者が湯を抜くのだ。で、なのはが入る順番というのは最初の方で。シャワーだけでもよかったのだが、それでも自分が使っている間はなのはに見張りを頼まなくてはいけないし、誰もいない時間、というのがこれまた難しかったりした。特に大学生の恭也は家の出入りが不定期で、下手に動こうものなら家族以外の存在がいることに気付かれてしまうかも、となのはに言われたこともあった。それに、無人の家を勝手に使うのも抵抗があったので、ユーノは仕方なくその案を飲んだのだ。拷問に近かったが。
「ですから……事実は認めますけど、形態はフェレットのままです。決してやましい真似はしていませんので……」
 顔色を窺うように、ユーノは再び視線を走らせる。何故か残念そうな顔をしている桃子と恭也が見えた。そんな2人を見て溜息をつく士郎が見えた。隣のなのはは真っ赤で、美由希は散々なのはをからかい満足したようではあったのだが、再びこちらを見て、問うてくる。
「まあ、風呂の件は納得したけど、その他は?」
「他、ですか?」
「うん。擦り寄ってきたり顔や手を舐めたり、ってやつ」
「えー……それは、ですね。変身魔法の同調率を高めにしてたから、なんです」
 いちいち自分を追い詰めるような鋭い指摘に、ユーノは恐怖を覚えながらも魔法の説明をする。
「変身魔法は文字どおり、自分以外の何かに変身する魔法です。まあ、別の生き物に変身するのが主流なんですけど、意識はあくまで魔導師の、人間のものです。僕らの世界では問題ないですけど、この世界では喋る動物はいないんですよね。だから、なるべく意識を動物に近づけて、動物らしい行動を取れるように擬態していたんですよ」
 お手やおかわりをしたり、頬をすり寄せたり、差し出された手や、頬を舐めたりと、ペットがとるようなごく自然な動作を、ほぼ無条件でできるように。ついいつもの癖で喋ったり、人間みたいな動作をしないように、一応気を遣ってはいたのだ。
「じゃあ、あれはユーノがそうしようとしてしてたんじゃないのかぁ……」
「そうしようとして、って……」
 それらの行動を思い返してみる。自分の意志で指や頬を舐め、自分の意志で頬に擦り寄り――
「そっ、そそそそそそそそそんなわけないじゃないですかっ!? だだだだだだだだってそれってっててててって――!」
「あー。その反応で十分理解したから落ち着きなさいユーノ。で、なのは。あんたも顔を赤くしないの」
「だ、だだだだだってぇっ!」
「桃子、すまないがお茶を頼む。2人を落ち着かせるようなやつを。それと美由希、いい加減2人をからかうのは止めなさい」
「はーい」
 
 
 
「そ、それで……僕はどうなるんでしょう?」
 桃子から渡された紅茶を飲んでようやく落ち着き、ユーノは恐る恐る士郎に伺いを立てた。
「どうなる、って……話はもう済んだしなぁ」
 紅茶を一口して、意外にも高町家の長はあっさりと言った。
「ユーノ君の事情も聞いて、それ以外の事情や疑問点も説明を受けたし。これ以上聞きたいこともないしな」
「いや、その……そうじゃなくて……」
 本当になにもないのだろうか? 魔法関連のことにしても、フェレット時の悪行と取られても仕方ない行為についても。
「ん? あぁ、まだ気にしてたのか」
 だが士郎は苦笑して、カップを置いた。
「別に何もしないさ。ユーノ君が正直に全て話してくれた、それだけで十分だ。それに今後のことは、なのはが自分の意志で決めたことだ。少なくとも魔法の件で君を責めることだけは、ないな。フェレット時のことも、まあ、事情が事情だしな」
「本当に、いいんですか? この国には、郷に入っては郷に従えという言葉もあるのでしょう? 現地の人に関わらないつもりだったからって下調べもしていなかったのは明らかに僕のミスですし――」
「男に二言はない。だから、ユーノ君もこの話はもうなしだ。いいね? ただし」
「は、はい……」
 思わず身構えてしまったが、士郎は優しい笑みを浮かべて言った。
「これからも、なのはのことを頼むよ」
「え、あの……今じゃなのはの方が腕は格段に上ですし……僕が教えられる事なんてそんなには、ないと思いますけど……」
 これからは常に一緒にいるわけでもなく、なのははなのはの、ユーノはユーノの道を行くことになる。特になのはの進む道は戦闘が専門の武装隊。結界魔導師である自分が教える事なんて、多分ない。
 しかし、決めていることはある。なのはの力になること。これだけは絶対で、言われるまでもないことだ。だから答えた。簡潔に、しかしはっきりと。
「分かりました」
「そちらの事には、我々は関われないからな。リンディさん達もいるが、なのはの知り合いが1人でも多く傍にいるなら、安心というものだ」
「これからもよろしくね、ユーノくん。まだまだユーノくんには教えてもらいたいことあるんだから」
「うん、こちらこそよろしく」
 嬉しそうにするなのはに、ユーノも笑顔を返した。すると、あ、と美由希が声を上げる。何だろうとそちらを見ると、またもや美由希はイイ笑顔を浮かべていた。今度は何を言い出すのだろうか、と胸中に不安が走る。
「何だかさっきの父さんの言い方さ。なのはを頼む、ってまるで娘を婿に託すみたいな言い方だったね」
「な、ななななななな何をーっ!?」
 一瞬の後、ユーノは隣のなのはと同時に叫んでしまっていた。一体何ですか、今日の美由希さんは? 彼女の性格って、こんなでしたか? フェレット時にいじくるだけじゃ飽きたらず、人間時にまでいじくるんですか?
「おおおおおおおおお姉ちゃーん!?」
 なのはが一瞬で沸騰し、そんな様子を見ながら恭也が笑いをこらえている。美由希はこらえるどころか、床をバンバン叩いて笑い転げていた。
「むぅ……さすがにそれは、まだ早い気がするが……」
「でもユーノ君ならいいかもしれないわね。この歳で専門職に就いていて、今度は時空管理局っていう大企業に勤めるんでしょう? 将来性はバッチリだと思うのよ?」
「そう言われると優良物件だな……人格に問題はないし。無茶をする傾向はあるが、そのあたりは追々矯正――げふんげふん、教育するとして……」
「時間が経つと競争率、上がりそうだし。悪い虫の付かない今の内に……」
 何か期待の篭もった眼差しを向けてくる高町夫妻。
 何だろうこの状況は。自分の責任を問うための場所だったはずなのに、いつの間にやら
何かが一変してしまっていた。
 それに何ですか士郎さん、教育の前に矯正、って言いました? あと桃子さん、管理局は企業なんて枠にはまる組織じゃないんですが。
「ゆ、ユーノくん!」
「な、何?」
「ふ、ふ、ふつつか者ですが――っ!」
「落ち着いてよなのはーっ!」
 頼みの綱だったなのはまでがぶっ飛んでしまっていて。
 この状況をどう収拾したものか、とユーノは頭を抱えた。





後書きとご挨拶

 皆様、初めまして。ネットではKANと名乗っている者です。なのはの二次創作では新参ですが、よろしくお願いします。
 今回の話は、闇の書事件の直後、魔法のネタバレについての話です。
 実際、本編中ではユーノの正体について話す描写はないんですが、サウンドステージでは既に知られていますよね。まあ家族にはリンディが、アリサ達にはなのは達が説明してるのかもしれませんが、ユーノなら自分から話すのではないかなーと思い、こんな話を書いてみました。
 今まで同じ題材の話を幾つか読んだことありますが、なのはとのことでユーノが粛清される話が多いようでして、それなら毛色を変えてみようかと。実際、ユーノが取らなきゃならない責任、ってないですしね。真摯に告白すれば、士郎さん達は分かってくれるんじゃないかな、と思うのですよ。淫獣呼ばわりされる原因となった数々の武勇伝(?)も、不可抗力と誤解によるものですし。士郎さんも分別の付かない人じゃない、と思いたいですし……原作の方はどんな人なのかよく知らないんですけどね。
 最初はシリアスで通すつもりだったのが何だかギャグっぽくなってしまいましたが……いかがだったでしょうか? 少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。

 それでは、今後もよろしくお願いします。





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