「キャロ=ル=ルシエ?」
「うん。ちょっとわけありで最近保護した女の子なんだけれどね」

優しい日の光が照らす草原。
緩やかな風の音の中、二人はゆっくりと歩き、今までのことを、今後のことを話していた。

「将来はエリオも迎えて家族になれたらって思ってるの」
「それはいいかもしれないな、家族が増えるのは喜ばしい。う〜ん。でも二人は養子縁組にしないほうがいいと思う」
「どうして?」
「いやな。俺に向かって誰かが訴えてるような気がして、ちびっこカップルバンザーイとか撲滅反対!とか」
「?」


第4話
運命の予言


「はぁ〜っ。今頃二人はラブラブデ〜トやのかなぁ」
「デートじゃなくてハネムーンだろ?」
「どっちでもええやろ〜」

手すりに寄りかかり、にへら〜とだらしなくうなだれるはやて。
きっと昨夜のことを思い出しているに違いない。

「それで、あんた達は何処へ行きたいの?」

操舵を握る女の子が不機嫌そうに問う。

「スクルド様、そんな嫌そうに言うなら付いてこなければいいじゃないですか」
「そうはいかないわ。私のエルフィーナを壊されちゃ困るもの」

そう、今なのは達は2基の浮上用大型プロペラが印象的な飛行機に乗っていた。

「まさかこんなものがあったとはな」
「すごいよねぇ、速いよねぇ」
「確か戦艦類は星に降りれないんじゃなかったのか?」
「宇宙で建造したものはね。でもこの子の機体は歯車から装甲に至るまで純100%私から出来ているから」
『はい?』

その言葉にみんなは耳を疑った。

「なに。クレロス、ゼロハルコンのこと話していないの?」
「まぁ。みんなが驚くのは無理もないわね。私達の皮膚や髪、爪、羽はね
法術の炎で鍛えるとゼロハルコンという金属になるの」
「ゼロハルコンは硬く、対魔力も抜群なんで剣や法衣の材料として使われるの。
昨日、フェイトが着ていた法衣はアルトが。二人に渡した剣は私がそれぞれ髪の毛を鍛えて造ったものよ」
「そう、この大陸間移動用飛空挺エルフィーナも私が100年かけてコツコツ造り上げていったものよ。
ああっ、思えば辛かった……羽を抜きすぎて飛べなくなったり髪の毛を切って丸坊主になりかけたり。
でも今はもういい思い出、今はもうこんな立派な娘になったんだからぁ。
はぁ〜っ、今のあなたは美しいわぁ、輝いているわぁ」

スクルドはうっとりした表情で操舵に頬をスリスリさせている。

「何や気持ち悪いな」
「気にしないでくれ、重度のメカフェチなだけだから」


「主人、これ二つもらうぜ」
「あいよぉ」

中央大陸の大市場。
たくさんの店とたくさんの種族でにぎわう中にアルトとフェイトはいた。
アルトはいきのいい屋台の主人に言うと、リンゴを二つ取り片方をフェイトに渡した。

「そういえば私ここの通貨持っていない」
「通貨なんて概念、このガイアには無いぜ」
「えっ!?」
「元から恵みはみんなで分け与えるって習慣があったから、物を交換するって言う概念はこの星には無いんだ。
他の種族との取引や外貨は軍が管理しているし」
「そうなんだ」
「なんだ、嬢ちゃん、この星は初めてか?」
「はい。昨日ここに来たばかりです」
「それなら遠慮はいらねぇ。どんどん好きなの持っていきな。ゼフィーリアの恵みの大地と太陽が育んだ果物ばかりだぜ」
「はい、いただきます」


「うわ〜っ、きれい」

なのは達が来ているのは、中央大陸、王都レイアース。
そこには桜の花のようなピンク色の花が咲き乱れる巨大な大樹。
そしてその大樹と肩を並べるほどの、クリスタルで出来た巨大な城。
一面日の光が差し壁自体が眩しいまでに輝き、扉も窓も何もかも巨大であり、まるで小人にもなったような感覚になる。

「ここが王城、クリスタル・パレスだ」
「王城って、勝手に入っちゃっていいの?」
「ああ。元々は天帝アーク・フィードの居城だったけど、その時からもう解放されていたんだ」
「母が我が子を家に入れないわけ無いでしょ」

しばらく歩くと通路よりなお大きな空間。
一気に数百人は入れるだろう。

「ここが玉座の間だ」
「なんて馬鹿広いんだ」
「当時は天帝、フィフス達を初め各種族長が一気に集まって政をしていたそうだ」
「レイシュ、待って!。レイシュ!!」

静寂だった空間に誰かを呼ぶ女性の声がこだまする。
そして

ゴン!!

「!!」

クロノは、自分の足に鈍器で叩かれたような衝撃を感じ、ゆっくりと目線を下にずらした。

「あぅ……うっ…うっ……」

そこにいたのは3歳ぐらいの小さな子供。
足にしがみ付いている事からさっきの鈍い音は自分の脛と子供の頭がぶつかったのだろう。

「うわぁ〜〜〜〜〜〜ん!!」

赤ん坊が泣き出しみんなが慌てる中、赤い髪の女性が抱き上げた。

「よしよし。大丈夫だった。ん?。スクルド様、それにあなた達は……」
「昨日、ドンちゃん騒ぎの張本人の連れといえば分かるかしら」
「ああっ、そういうことね。うん。理解した。ごめんなさい、この子ったら急に走り出して」
「いえ。そんなに痛みも無いですし」
「うわっ、綺麗な人やね」
「あっ、紹介が遅れたね。この子はミアカ。現ガイア惑星王国王妃。そしてその息子のレイシュ」
「よろしく」
「こっちは………まぁ、いまさら説明することもないわね」
「スクルド様、いくらこちらに情報が入っているからってそれではどうかと思いますよ」
「いいのいいの」
「ハァ、そうですか。それならせめて昨日のドンちゃん騒ぎの中心だった二人に祝いの言葉を」
「それがねぇ、今二人はラブラブデート中なの」
「そう、それは残念」
「はぁ〜っ、なんか信じられない」
「どうしたの、アリサちゃん?」
「だって王妃様よ、普通一般人は出会えないのよ」
「アリサ、理解なさい。それがガイアというものよ」
「お兄ちゃんなんて国王って意識すらないものね」
「そういえばヒジリ国王は?」
「ゼフィーリアで収穫の手伝い。あっ、そうそう。話は変わるけど、またカーナさんから
光叔父さんのことについて苦情があったんですけど。スクルド様何とか言ってあげてくださいよ」
「そういえば昨日、またやらかしていましたね」
「仕方ない、師匠としてガッツり言ってやりましょうか」

そこに慌しく駆けてくる一人の男が。

「スクルド様、大変です!!」
「どうしたの?」
「まっ、またあの二人が沼に嵌りやがった。すまねぇけどちょっくら手伝ってくれ」
「またぁ!?。あの二人何であんなに沼にはまるのかしら?」
「さぁ?。とにかく来てくれ」
「仕方ない。みんなも手伝って」


「ここって……」

二人が訪れたのは同じ王都。
大樹の根本にあり、クリスタル・パレスを囲むように作られた壁城。
この城もクリスタルで出来ており、部屋の隅々まで光が満ち溢れていた。

「5大陸に一つずつあるフィフスカイザーの神殿、その一つ。ソード・ブレイカー様の神殿だ」
「とっても大きいね」
「まぁ、ここに来るのは人間サイズだけじゃないからな」

二人が進むと、なお大きな部屋に出た。
そこの再奥にあるのは二つの玉座。
その上には、あの大樹の根だろうか、何本も垂れ下がっており、その中には何か輝くものがあった。

「ねっ、ねぇ、あれって……」

フェイトが指差すのは大樹の根。
ただの根なのに、何か怖いものを見たように震えている。

「?。大丈夫だよ。ただの死体だから」
「やっぱり!!」

よく見ると大樹の根の中で輝いているのはダイヤモンド型のクリスタル。
その中には、赤い髪の裸の女性が赤子のように丸まっていた。

「あの方こそ、初代ソード・ブレイカーの一人。リナ=ソード・ブレイカー様だよ」
「なっ、何であんなところにいるの?」
「……人柱になったからだよ」
「?」
「フィフスの男神達は大昔に起きた魔族との大戦で滅び、女神達は大地に宿る天帝の力をその身体に吸収し、卵に還元。
魔族から世界の理を統べる力を護った。
そしてその卵から芽が出て育ったのが5大陸にある5つの大樹、ユグドラシルなんだ」
「眠っているの?」
「いいや、身体だけの魂の抜け殻さ、魂は2代目に転生しているからね」
「へぇ……」

最初は怖かったが、今の話を聞いて、そうでもなくなった。
フェイトはゆっくりとした足取りで近づいてゆく。
彼女は安らかな表情をし、ただ眠っているようだった。


「さて、次は何処いこうか?」
「そうだね」

外に出ると

「"あっ、アルト見っけ!!"」

大きな声で呼ばれて突然陰が差す。
上を見ると、スクルドの飛空挺エルフィーナの姿が。

「"ちょうどいい、あんたも来なさい。人手は多いうがいい"」
『?』

言われるままに二人は乗り込む。


「そら引張れ!!」
『う〜〜んせ!、う〜〜んせ!!』
「何よこれ?……」

アリサは信じられないといった表情で呟いた。

「すごいね、何十人も引張っているのにあのドラゴン、びくともしないよ」
「私はそれなのにあの鎖が切れないほうが不思議よ」

事件は至って簡単、2匹のドラゴンが沼に落ちただけ。
1匹はもう沈んでしまって姿は見えないが、もう一匹は何とか浮いている。
しかし100人規模で、いやエルフィーナや獣形態で引張っている者達もいるのに、
さすがはヘヴィ・ドラゴン、一向に沼から引き上げられない。
2匹は水棲だから水の中でもしばらくは大丈夫というが、落ちた沼には毒性があるらしく、
身体が痺れ早く助け出さなければならない。
男達や他のドラゴン達も加わり鎖を引張るが、いまだ動かない。

「まったくっ!、何でこいつらはっ!、毎年毎年っ!、沼に落ちるんだよっ!!」
「しらねーよっ!、呪いでもっ!、あるんじゃねえかっ!」
「アルト〜、がんばって〜」
「カティもね〜」
「クロノくん腰が入ってらんで〜」
「何で俺がっ!」
「クロノ、つべこべ言わずに引張れっ!」
「ところでよっ!、いつもはどうやって助けてたんだ!?」
「あっ、そう言えば」

二人が鎖を離すと、シュルシュルシュルと鎖が引張られる。

「あ"っ!!」
「急に離すな馬鹿双子ぉぉぉおお!!」

後ろで引張っていた人達がそのまま引張られ沼に落ちた。

「すっ、すまん」
「ヒジリさん、いつもはどうしてたんだ?」
「そりゃぁ、ヘヴィ・ドラゴンを呼んできて………あっ、毎年やってるのに何で忘れるかなぁ、俺っ!!」
「誰か2.3人呼んでこい!!」

その後、呼ばれたヘヴィ・ドラゴン達と共に展開された錘作戦により、2匹は無事助け出された。

「ふ〜っ。疲れた」
「ご苦労様」
「すまん、いつものことなのにすっかり忘れてた」
「まったく、しっかりしてくれよ、国王様」
「そういうカティだって忘れてたくせに」
「まぁ、どっちもどっちだな」

しばらく談笑が続く。

「さて、後のことは俺達に任せて、お前らは何かの途中だったんだろ?」
「それならお言葉に甘えて。スクルド様、行きましょう」
「それがね、さっきので無理させちゃったから、整備しなくちゃいけないの。すぐ終わるから待っててくれる?」
「分かりました」


「う〜〜ん!、風が気持ちいい!!」
「ほんとうだねぇ〜」

大草原のど真ん中にみんなは寝転ぶ。
日差しがギンギンに照らすが、時折吹くそよ風が和らいでくれる。

「お姉ちゃん、これあげる」

振り向くとそこにはリンゴを差し出した少女の姿。

「お姉ちゃん達昨日結婚式だったんだよね?。だからそのお祝い」
「ありがとう」

フェイトはリンゴを受け取り、同時に違和感を覚えた。
リンゴを差し出した少女は、見た目、自分より二つや三つ上と思われるのに"お姉ちゃん"と呼ばれたからだ。

「あっ!。わんこ!!」

子犬モードのアルフとザフィーラに駆け寄ってゆく。

「なんや可愛いなぁ。でもなんかおかしい」
「うん。外見は私達より上なのに言動や行動が5歳児かそれ以下のようなの」
「むっ、これは……」
「ちっ、ちょいと誰か助けておくれよ!」

少女の手によってもみくちゃにされている二匹をアルトが掴みあげた。

「だめですよアサギ様、生き物を乱暴に扱っちゃ」
「ブーッ!。アルトの意地悪!」
「いや、そう言われましてもねぇ」

アサギと呼ばれた少女は、頬を膨らませ行ってしまった。

「助かったよアルト」
「すまない」

アサギはフェイトのところに戻り、彼女をじっと見つめている。

「なっ、何かな?」
「……お腹大きいね」
「えっ?。ああ、赤ちゃんがいるから」
「赤ちゃん!?。ねぇ、触ってもいい?」
「いいけど、優しくナデナデしてあげてね。そうじゃないと赤ちゃんイタイイタイしちゃうから」
「うん!」

いち早くアサギの精神年齢を察したフェイトは優しく言う。
アサギもフェイトに言われたとおり少し大きなお腹を優しく撫でる。

「!!」

しばらく嬉しそうに撫でていたが突然、その表情が険しいものに変わった。

「?。どうしたの?」
「お姉ちゃん、耳貸して」
「?」

アサギはフェイトになお近づき

「…………」

耳元で何かを呟いている。

「………………!!」

フェイトも不思議そうに耳を傾けていたが、一区切り付いた次の言葉を聴くと、
突然顔が青ざめ、何か深刻なことを考える表情になった。

「大丈夫だよお姉ちゃん、誰でもその気になれば運命は変えられるから」
「アサギ……」
『うわっ!』

突然黒ずくめの男が現れた。

「ハヤテ様、脅かさないでよ」

クレロスが言うが、その男は何の反応も見せない。
その能面のような表情から感情が無いように見える。

「あっ!、ハヤテ!!。向こう行こう!!」

アサギはすっかり元に戻り、男の手を引き去って行った。

「………なんだったの、今の?」
「なんや、外見よりずいぶん子供っぽい娘やな」
「あの二人はな、ベルダンディー様と肩を並べる名将だ。だが、数多の戦が二人を変えてしまわれた」
「アサギ様は精神崩壊で幼児衰退、ハヤテ様も心と身体もボロボロになりアサギ様への想いだけが残ってるんだ」
「何や悲しいな………」
「…………………」
「どうしたのフェイト?」

フェイトはまだ何かを思い悩んでいた。
リンディが声をかけなければずっとこのままだっただろう。

「いえ、あの子に言われたことが少し気になって」
「何を言われたの?」

フェイトは静かに目を閉じ語り始めた。

「赤き、欲望と復讐の種、芽を出し、その咲く赤き花は法の塔を三度燃やすであろう。
一つ、古の王が復活し、その翼と12の使者は民に恐怖を与える。
白き聖母とその仲間、王を討つべく立ち上がりその御身を焦がす。
二つ、二度赤き花咲き乱れ、民を混沌に落とすだろう、神の二つ子引き裂かされし、これより混沌への道を歩まん。
三つ、黒き翼に宿る呪いの炎、三度法の塔を燃やし、ついに塔は焼け落ちる。
黒翼の天使、戦士を滅し、白翼の天使が黒翼の天使を食らう。最後に残りしは一人の赤子のみ」
「何だそれ?」
「それと最後に……」

そして一呼吸置き、フェイトは意を決したように目を開いた。

「このままだと私が死ぬって」
『えっ!?』
「結婚式を挙げたばかりだというのに不吉な事言うもんじゃないわよ」
「う〜ん、アサギ様の予言だからなぁ、全てハズレるってことはないんだよなぁ」


「…………」

その後、しばらくフェイトはそのことで思い悩んでいた。







あとがき

Krelos:これってハネムーンっていうのか?。
アルト:いや、ただ名所巡って人命救助(?)して不吉なこと言われたような……。それにあれは何なんだよ?。
Krelos:あの予言?。それはここじゃあ言えねえなぁ。第3章を待て。
アルト:……さいですか。
Krelos:それにしても。あの予言、StSのカリムのようにもっとちゃんとしたものにしたかったんだけど、
現実はそうはいかないのね。
アルト:いっそ、全部外れてしまえ!!。
Krelos:そうしちゃうとラストを変えなきゃいかんのょ(TT)。





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