「う〜ん!!。いい気持ち」
「あんた、昨日の騒ぎの中でよく寝てたわね」
「えっ、そんなにうるさかった?」

朝露が残る敷地内の小公園にスバル達はいた。
天気は快晴、まだ6時頃だというのに、少し離れたところには何人か集まり訓練を始めている。

「あは〜、このままひなたぼっこでもしたいなぁ、あははは……」
「何バカなこと言ってるの」

ティアナが頭を突いた。

「いたいよティア〜」
「バカしてないで朝食に行くわよ」


第5話
機動六課vs戦技教導軍(後編)


「イッチニ、サンシ。ニィニ、サンシ」

六課のメンバーはそれぞれ準備体操。
第3訓練場と呼ばれるところに連れてこられたが、そこはシティの敷地外、
外壁の一部に出入り口を作り、そのまま草原を演習フィールドにしたような感じだ。

「しかし広いわねぇ」
「ここの草原を使って模擬戦するの?」
「これぐらいで驚いてもらっては困るな」

後ろから突然声をかけられ、みんなが振り返る。

「時々惑星全土を使った超大演習訓練があるからな」
「チング!、ノーヴェ!」

声をかけたのは、6年前のJ・S事件の関係者、ナンバーズのチングとノーヴェだった。

「久しぶり、元気だった?」
「まっ、まあな」
「久しぶりですね」
「何年ぶりだろうか」

J・S事件のあと、更正プログラムを終えたナンバーズは、それぞれ社会に溶け込んでいった。
その中でチングは神族に興味を持ち、ガイアへ渡った。
お姉ちゃん子であったノーヴェもなし崩し的にチングに付いていったしだいだ。

「ガイアへ行ったって聞いていたけど、何でここに?」
「うむ。こちらに渡ってしばらく経ってクレロス殿と出会ってな、意気投合してしまった」
「それを皮切りに今では教導軍の手伝いをしてるってわけだ」
「そうなんだ」
「はいはいみんな、準備のほうは順調?」

そこに現れたのはクレロスとカティウス。
その後ろにはケーニッヒとレアを含む数人の男女がいる。
多分、今回の模擬戦の相手をしてくれる部隊だろう。

「クレロスさん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、教導軍の中から選りすぐりを選んできたから一筋縄ではいかないわよ」
「はい、こちらこそ度肝を抜かさんように」
「言うねぇ。エネミー部隊の部隊長はケーニッヒだから」
「親友だからって容赦しないわよ。いい機会だからあの決着をつけさせてもらうわ」
「ええよ。多分こっちのほうが圧勝だと思うから」

フフフと笑いあう二人。

「ねぇ、アルト、二人の体から変なオーラ出てない?」
「ああ、ドス黒いな。こりゃどちらかが倒れるまで終わらないかもな」

ガクリと肩を落とすアルト。

「それじゃ各隊、陣地に移動、5分後に戦闘開始とする。それでは解散!!」

2部隊は少し離れた陣地に移動し、作戦会議を始めた。

「さて、作戦会議を始めるで」

テーブルに広げたのは周辺の地図。

「多分、敵部隊はトップ・ワン・トップを先頭に本隊一斉攻撃に出てくると思う」
「周りを囲んで一気に撃破するというのがセオリーなのですが」
「相手はU・Fの精鋭部隊、一筋縄では、いや会議をしたところでほとんど無駄なんやけどな、OCS部隊だから」
「OCS部隊?」
「どういうことですか、部隊長?」
「OCS、オール・コマンド・システムって言ってな、完全な情報共有と戦況にあわせた指揮系統の変化、
簡単に言うと部隊の誰もが兵士であり指揮官って言うことや。
刻々と変わる戦況を切り抜ける策を持った兵士が指揮官になる」
「戦況で指揮や作戦内容がコロコロ変わるわけか、厄介ですね」
「こっちはOCSの訓練や対OCS部隊戦なんてやってないからね。不意をつかれたらすぐに畳み込まれてしまう」
「それじゃ、どうするんですか?」
「最初はセオリーどおりに敵部隊を包囲し、その後はあえて指揮系統を放棄する」
『放棄!?』
「そや、ワン・マンズ・アーミー、個人個人がそれぞれの戦略で戦う。そのほうが戦いやすいと思うねん」
「確かに、無謀だと思いますが指揮系統が分断され混乱するより臨機応変に対応できるそっちのほうが得策だと思います」
「でも自分達はチームだと言うことを忘れないでね、
常に仲間の動きを見てフレンドリー・ファイア(味方誤射)をしないように」
『はい!』
「それじゃ、私達はなにをすれば?」
「シャーリー達やヴァイスくんは記録のほうをお願い、今後の資料になるから」
「分かりました」
「八神部隊長も前線に出るんですか?」
「ああ、ちょっと決着をつけなあかんヤツがおるねん」

また黒いオーラを纏いフフフと笑うはやて。
その不気味な笑い声に、一同サササと引いてしまった。

「部隊長、相手部隊が動き出しました」
「それじゃ行こうか」
『了解!!』

はやてを筆頭にフォワード陣の面々がバリアジャケットを纏う。
はやてとシグナムはユニゾインし飛行魔法やフリードを使い進軍する。

「ティア。よく考えたらこれって大隊戦じゃなくって半分個人戦だよね?」
「考えるだけ無駄よ」
「ところでママ」
「どうしたのプレシア?」
「前から言おう言おうと思ってたんだけど。バリアジャケット、インパルスフォームは
いいとしてソニックフォームはその歳だとイタイだけだと思うんだけど」
「あっ、確かに」

プレシアはフェイトのソニックフォームを嘗め回すように見ながら言い、それにアリシアが相槌を打つ。

「なっ!!、何を言うかなぁこの子は!。これはスピードを重視した結果でしてネェ!」
「お兄ちゃん達やパパもそう思わない?」
「私達が着たほうがかわいくない?」
『……ノーコメで』
「そうだなぁ、お前達が着るとまた違った意味でヤバイけど25歳でその格好はイタイな。
やはり15からギリギリで20だろうなぁ」
「……フッフッフ。あなた達、模擬戦が始まる前に軽く逝ってみる?」

フェイトはザンバーを持ち、怪しく微笑んでいる。

「まぁ、待てフェイト」
「えっ!」
「それにあまり衆人観衆の前で綺麗な妻の肢体を見せたくないわけだ、夫の立場からしてみると、特に男にはな、
どうしてもそんな姿は俺だけのものにしたいって言う願望が沸いてきちまうんだ」

先ほどまで怒り状態のフェイトの顔が段々と赤くなり

「……分かりました……この模擬戦が終わったらジャケットの再デザインを検討してみます……」

急にしおらしくなった。

「さすがパパ、ママを手懐けるコツを知ってるね」
「よく考えてみたらなのはさんや八神部隊長も――――」
「プレシアちゃん。それ以上言うと多分SLBとラグナロクの雨あられだよ」
「うっ、さすがにそれは……」
「はいはい、いつまでもバカ夫婦やってないで、敵さんのおでましや」

前方の丘を見ると、微かに砂塵が見える。

「"記録用小型機、発進します"」

ヴァイス達は小型機を発進させ

「うちらも行くよ」

全員、敵部隊に突っ込んでいった。

「敵部隊襲来!!」
「トップ・ワン・トップ、突撃!」
『ウォオオオオオオオ!!!』

先頭部隊が飛び上がり、はやての部隊に突撃する。
ここまでは予定通り、第一波を回避し包囲戦に持ち込む。
しかし、相手の反応も早すぎる。
どうやら向こうもOCSをフリーにする戦法らしい。

「クロスファイア!、シュート!!」
「紫電一閃!」
「うぉりゃあああ!!」
『ブラスト・カラミティ!!』
「のわぁぁああっ!!」
「誰だ手ぇ抜けって言ったヤツは!、向こう思ったより強ぇじゃねぇか!!」

魔法戦、剣戟、肉弾戦、それぞれが得意な戦法で相手に立ち向い、
所々すでに暴走状態の人達もいてもう何が何だか分からない乱戦状態である。
その中で、戦場を横切る陰一人。

「ケーニッヒ!、どこやぁぁあああ!!」

機動六課課長、八神はやてである。

「はやてちゃん、どうしたんですかぁ〜」
「リィン、女にはなここぞと言うときに勝負をせなあかん時があるんや!」
「はぁ、勝負ですか?」

とそこに、はやてが探していた人物、ケーニッヒが現れた。

「フフフ。とうとう10年来の決着をつけるときが来たようだね、はやて」
「ええ、悪いけど、私が勝たせてもらうで」

互い、ライトセイバーを構える。
戦闘のど真ん中だと言うのに、二人の周りだけやけに穏やかだ。

「ハッ!!」

先に仕掛けたのははやて、上段でケーニッヒに切りかかって行く。

「私はあれから5.5センチアップしたで!」
「何の!、私も5.5センチよ!」

ケーニッヒは受け止め弾き返す。

「小数点第二位四捨五入とちゃうかぁ!、私は切り捨てやけどな!!」
「こっちだって切り捨てや!。そっちこそ体重増えて錯覚してんじゃないの!!」
「なにを〜、このイタチチギツネ!」
「うるさい、チビダヌキ!!」

切り合う度に何かを叫ぶ両者。

「クレロス殿。二人は何で争ってる、10年前に何かあったのか?」

仮設本部でその様子を見ていたチングがクレロスに聞いた。

「カティ、何か知らない?」
「ちょっと待て、10年前のことだから大体登軍訓練のときだよな……あっ、思い出した!。バストサイズだ!!」

その言葉に本部にいた誰もがコケそうになった。

「そっ、それはどう言うことだ?」
「登軍訓練の訓練生だったときに、2人とも同世代の子よりも胸が小さかったから男達からよく
貧乳コンビって言われてたんだよ。それで闘争心に火がついちまって大きさを競うようになったって言ってたな」
「そっ、そんなことかよ!!」
「ほとんど同じように育つんでなかなか決着がつかないらしい。
ほかの事に関してはベストパートナーなんだけど、それに関してだけは仲が悪いんだよなぁ」
「育つ分だけまだいい。姉は、姉のはなぁ……」
「チング姉!、落ち込むなよ!」
「それにしてもはやて、いい太刀筋してるわねぇ、訓練時に見たときはそうでもなかったけど」
「……私が鍛えた」

後ろのほうでポツリと言うアニス。
その存在を今まで認識していなかった一同は大いに驚いた。

「おっ、脅かさないでくれよ!」
「ごめんね。それではやては遠距離支援型で近接戦闘がまったくダメだって言ってたから私が徹底的に接近戦を叩き込んだ」
「徹底的というとどれぐらい?」
「はやての今の剣技はざっと言うとジェダイナイトの下の上ぐらい」

それを聞きみんなから血の気が引いた。
一般人が騎士団に入りアニスの言った力量に達するまでは年齢などの差もあるが、ざっと見積もっても5年ぐらいはかかる。
それをたった半年で達してしまうとなると、相当の天才か、地獄をも生易しい修行を潜り抜けてきたに違いない。
はやては接近戦が苦手と言っていることから多分後者だろう。


「アルバレスタ、行くよ!!」
(ArvarestaForn!!)

アルバレスタはレヴァンティンのボーケンフォルムのように、大型の弓に姿を変えた。
白金の魔法陣が足元に展開されビーム状の弦を引くと電気を帯びた光の矢が生まれる。
同時、アリシアの周りを浮遊するブラスターピッドが彼女を中心に回転を始め

「弾種拡散!、サンダーエアレイド、シュ――――ト!!」

空に光矢を放つ瞬間、それを追ってブラスターピッドから数条のビームが放たれ光矢と合体する。
一塊になった光矢は戦場の上空に達すると、雨のごとく何千もの光が降り注ぐ、それは正しく空爆に他ならない。

「面制圧やめーい!!」
「お姉ちゃん、やりすぎだって!!」

プリシア達は避けるのに必死、敵への攻撃には有効だが、見方からするとはた迷惑な攻撃である。


教導軍と六課が戦闘しているなか、とある何処かでは……。

「"戦闘準備、……完了しました"」
「"こっちも準備OKだぜ"」

暗い部屋に男が一人、そして二つのモニターに映るのは、男の元にいた少年ゼッドと、髭面の男。

「"だけどいいの、ガジェットだけで?、ナンバーズは出さなくていいの"」
「あのマットサイエンティストの生み出した技術は確かにすばらしいものだが、まだ使用する時ではない」
「"……そっちがそう言うんだったらいいよ"」
「"こっちは最新鋭武器を使わせてくれるんだったら何の文句もねえぜ"」
「なら始めようか、復讐劇のプロローグを……」


突然ラーナシティ内外に警報が鳴り響く。

「なんや?」
「"惑星軌道上にアンノウン艦隊出現、カーゴシャトルの切り離しを確認、
総員、第一種戦闘態勢、機動艦隊、地上部隊は速やかに出動、敵を向かい討て"」

アナウンスが終わり、地上部隊が出動を初め、大量のガンダムが空を覆っている。

とそこに通信が入る。

「どないした?」
「"八神部隊長!!"」

通信してきたのはクラガナンで留守を預かるグリフィス。

「ガジェットドローンが出現しました!」
「なんやて!?」

はやては耳を疑った。

「"沖合い30キロ地点に出現、あと20分ほどで首都圏に到着します"」
「バックヤード部隊を召集対応、私達もすぐそっちに行くよ」
「"了解"」
「とは言っても、これを何とかせんとな」

通信が終わり、辺りを見渡すと、アンノウン降下部隊と地上部隊の戦闘が始まっていた。
みんながいる所は、後方に位置するも、いつ前線が後退してもおかしくはない。

「みんな、クラナガンにも敵が現れた。機動六課は集合!。急いで向かうよ」
『はい!』
「ケーちゃん。すまんがこっちも緊急や。ヒメル、緊急発進。急いで戻るで」
「"了解"」
「ちょっと待ってや、私達からのプレゼントがあるねん」
「プレゼントって、こっちは急ぎや!」
「まぁ、まて。ほら来たぞ」

レアが指差すと大型のカーゴトレーラーが丁度着いたところだった。
その荷台には横たわる1機のガンダムが

「あれってガンダム用のカーゴトレーラー、何で?」
「軍艦規定にもあるでしょ、最低1機のガンダムの配備って、
それにどっちみち、戦艦持ってくるのにここはシティから近すぎる」
「それは分かるけど、アーキは軍艦じゃ」
「それにね、ある人物の願いでもあるしね」
「ある人物?」
「設計図を元に俺達が完成させたんだ。さぁ、さっさと起動した。時間が無いんだろ?」
「ありがとう」

はやてはトリガーコントローラーを受け取り、荷台へ、胸元のハッチを開けコクピットへ滑り込む。

「全天周囲リニアシートか、……"子供達も乗ってきて"」

コクピット内は意外に広く、子供なら数人は乗れそうだった。
はやては念話でアリシア達を呼びコクピットに乗せた。

「みんな乗ったね、行くよ」

トリガーコントローラーを本来あるべき所に差込み、それが起動キーとなり各機器が動き出した。

「すごい……」

OSが浮かび上がりシークエンス・ステイタスを表示するメインモニター。
機器類が点灯し、駆動音が段々と大きくなる。
真っ暗だった壁一面に光が灯り、外の映像を映し出す。

「起き上がるで!」

全てのシステムが正常に動き、レバーとスイッチ類を操作し起き上がり、その機体を露にする。

「かっ、かっこいい」

それを見てスバルが呟く。
トリコロールカラーに彩色された機体、両手にはシールドと横列銃口のビームライフル、
背中にはウイングと2門のキャノン砲。
両腰にはビームサーベルとスラスターユニットと併用のレールガン。
額のアンテナ部にある帆船の船首像のような女神の彫刻が印象的だ。

「"はやて"」

突然開かれる空間モニターに映る一人の男。

「刹那…くん……」

「"この映像を見てると言うことはたぶん俺が死んだ後だな。難儀なことだよなぁ
生まれつきフォースが強いから自分の死期も分かっちまうなんで。
でもまぁ何とか設計は終わったがらいいけど。このヴィザードにはな、
俺が考えたアイディアがふんだんに盛り込まれている、実質世界最強クラスと言っても過言じゃねぇ。
だからお前に使って欲しい、戦うためではなく人を救うために、
お前ならきっとこの機体の性能を100%引き出してくれる。とまぁそういうことだからこいつを頼んだ。
それじゃぁまたあの世でな、かつて愛した女性(ひと)よ"」

プツリと画像が消える。

「刹那くん。ありがとう……」
「八神部隊長、どうしたんですか?」
「何でもあらへんよ。何処でもいい、ガンダム1個分隊は私の元に集合」
『"俺達が護衛するよ、はやて"』

近くにいた5機のガンダムがはやての機体に集まり、顔見知りなのか声をかけてきた。

「2機は私と共に人員輸送、残り3機は護衛や。さっ、みんな早く乗って」

両掌を差し出し、なのは達は速やかに飛び乗った。

「みんなしっかり捕まっててな。全機発進、アーキとの合流ポイントに向かう。人を乗せてる事を忘れないでよ」

背中のバーニアが火を噴き六課メンバーを乗せたヴィザードを中心に護衛が周りを囲む形で飛び立った。

「母さん、操縦の仕方どこで習ったの?」
「そりゃぁ、ここやよ、半年間しかなかったから短期集中で徹底的に、
U・Fの兵器は艦船から携帯火器に至るまで一通りは扱えるよ」
「"はやて、追っ手が来たぞ"」

機内にロックオンアラートが鳴り響き、敵MSが撃ってきた。

「強行突破するよ」
「行くぞ!」
「"おう!!"」

護衛機が先陣を切り敵部隊に突っ込み切りつける。
だが、敵機は次々と襲い掛かり、2機だけでは対応できなくなってきた。

「"はやても手伝ってくれよ。バルカンぐらいは撃てるだろ"」
「はいはい。みんな、耳を塞いでや、鼓膜が破けるから」

言われたとおりに耳を塞ぐと、頭部に付いた2門のバルカン砲から火が吹き、容赦なく敵機を落としていく。
実弾ではなくビームなので音はそんなに大きくは無いが、それでも耳を塞がなければいけないほどの大音量だ。

「母さん、あのロボットには人間が乗っているんだよね……」

だいちは震えた唇ではやてに問う。
いくら身を守るとはいえ、息子から見た母親の行動は、人殺しにしか見えなかった。

「大丈夫や、ああ見えても敵は無人機や、人は殺してへん」

はやてはだいちを優しく抱き寄せ言う。
だいちもその言葉に安堵する。

「"前方距離500、団体さんのお出ましだぞ!"」

前方には空をも埋め尽くさんばかりの敵MSの群れ。

「これはさすがに骨が折れるわ」
「"お待たせしましたマスター"」

通信から流れるのはヒメルの声、同時に左方向からその船体を現す。

「グッドタイミングやヒメル。早速やけど全ファランクス砲展開、目標左舷敵MS部隊、撃てー!」

装甲からレンズが競り上がりエネルギーが収束、発射。
数十条のビームは敵を貫き、爆発と遊爆を引き起こしあっという間に全滅させた。
その間に輸送隊はデッキに着陸し六課メンバーを下ろす。

「ヒメル、このまま宇宙に上るよ、私が先行する」
「"了解しました"」
「俺達もブリッジに急ぐぞ」

アルト達はリニアカタパルトから艦内に入りブリッジを目指した。

「リィン、ちょいキツイが我慢しててな、それとユニゾインしといたほうがええで」
「えっ、何がすか?」

はやてがボタンを操作するとヴィザードが飛行形態へと変形を始めた。
腰部分を180度回転させ、つま先が折れ曲がり脛のカバーに収納、足底のバーニアが露出、
背中のウイングが展開し2門のキャノン砲が前方に回転し、
横列銃口ビームライフルが真ん中から分離しシールドのサイドにドッキング、
シールドは頭を隠すように背中のハードポイントにドッキングする。

「それじゃ先に行ってるで」

ゆっくりと垂直上昇し、スロットルをフルに、急加速に伴うG加圧を感じ、
ヴィザードはスペースシャトルのように煙の尾を引き大気圏を一気に突破する。

「よし、うまくいった」
「すごい眺めだな」

その様子を戦場にもかかわらず、ケーニッヒ達が見ていた。

「でも通常サイズのガンダムの単独大気圏離脱なんて、どんなエンジン使ってるんだ?」
「ガンダム用のGSドライブエンジンじゃなくて、戦艦用のエンジンを出力はそのまだに搭載できるように小型改良したものを」
「へぇ〜っ……って!、ガンダムは基本ショックキャンセラー無搭載なんだぞ!?」
「ヴィザードにも搭載されていません。きっとコクピットの中はミキサー状態ですね」


『のわわわあぁぁあぁぁぁあああ!!!!』

ケーニッヒが言うとおり、ヴィザードのコクピット内は酷いものだった。
加速によるG加圧はアーマーのガードシステムのおかげでほとんど感じないが、
揺れに関しては酷く、すぐにでも酔ってしまいそうだった。
大気圏を抜けるとそこは漆黒の宇宙。
そして、海賊とU・Fの戦闘が繰り広げられていた。

「ううっ、気持ち悪い」
「です〜」
「"マスター、リィン姉さま、大丈夫ですか?"」

後方からアーキリュミエールが着いてきた。

「何とか。ヒメル、私が戦場に穴を開ける、そこを通りぬけたと同時に私を回収、
クラナガンへ向かうよ。座標セットの準備をしといてな」
「"はい"」
「"はやて隊長、ここは手伝わないの?"」
「さっきOCSネットワーク見たら、作戦の一部にアーキの帰還補助も含まれている。
しかも最優先でや、だから好意に甘えて私達は急いで帰るよ」
「フォワード陣はクラナガンにいったらついたらすぐ戦闘だ。今のうちに身体を休ませておけよ」
『はい!』
「なら行くで!」

ヴィザードは人型に変形し、戦場に突っ込んでいった。
ビームの弾幕をすり抜け、ヴィザードのパンチが敵MSの胴を抉る。
同時、別方向からビーム攻撃があり、瞬時に離れ、ビームライフルで応戦。
また別な方向から攻撃があり、バーニアをふかし宙返り、
そのまま背の砲と両腰のレールガンを展開し、発砲。敵を沈めていった。

『………』

みんなはその様子を固唾を呑んで見守る。
はやての動きはエースかと思われるほど滑らかで、彼女の駆るヴィザードはまるで夜天に舞う蝶のように綺麗だったからだ。
しかし、同時に戦慄をも感じる。
皆の知るはやては、争い事が苦手なとても優しい子だった。
しかし今はどうだろうか。積極的に戦場を駆け敵を殲滅する。
今は無人機だからそう気にすることは無い、しかしもし生身の人が相手だったら、
それでもはやては躊躇なく敵を倒すのか?。
「"みんな怖がらせてゴメンな"」

通信から流れるのははやての声。

「けどな、これが10年前の訓練で経験し学んだ結果や、部隊は家族と一緒やみんなが力を貸してくれるのなら、
私もどんな手を使ってもみんなを守る。それが罪だと責められても、
それでも私は…私は、大事な人や力を貸してくれる仲間を守るため降りかかる災いは容赦なく討つ。
それが同じ人間でも!!」

10年前、自分を庇って命を落とした刹那の最後の笑顔が脳裏に浮かぶ。
その眼は迷いが無い、きっと訓練生時代から決意していたものだろう。

「"違法ゲートアウト発生、MSと共に未確認飛行物体数十機を確認、殲滅せよ"」

通信が入りその方向を見る。

「チッ、ちょっと待ってや!」
「あっ、アレは!!」

六課メンバーが揃えて声を上げる。
大きさは違うものの、MSと共に現れた未確認飛行物体がジェットドローンU型そのものだった。

「ガジェットドローン!?」
「はい、サイズは違いますが外見はデータと一致しています」
「でも何でこんなところに?」
「"考えるのは後や、ヒメルとシャーリーはあのガジェットを解析や"」
『了解』
「"おいはやて。アレはお前の知ってる機体か?"」
「そうやけど、今ネットワークに情報を乗せているところや」
「"ちょうどいい的が現れたじゃねえかよ"」
「どういうことや?」
「"その機体のカタログスペックを見たんだけどよ、面白いことが出来るじゃねえか。護衛の駄賃だ、見せてくれよ"」
「……仕方ないな」
「"部隊長、解析終わりました"」
「それじゃ、最後にデカイ花火上げようか」

コンソールのキーを押すと、シートが垂直になり、後ろの壁に収納され、コクピット内に立つような形になる。
円盤状のレーザーが足元からせり上がり、はやての身体をくまなくスキャンする。

「"モビルトレース。マジックトレース起動。脳波、血圧、心拍、代謝機能、体内ナノマシン同調、
マジック・コネクト、デバイス・リンク、オールグリーン"」
「リィン、ユニゾンを解除してや」
「はやてちゃん、考えは分かるですよ。でも私も覚悟があります。それにこの魔法はリィンがいないとダメですから」
「……ありがとな。なら行くでぇ!!」

騎士甲冑を羽織り、シュベルトクロイツを振り上げる。
ヴィザードもはやての動きをトレースし、ナノマシンで構築されたシュベルトクロイツを振り上げる。
ヴィザードの足元にベルカの魔法陣と目の前にミッドの魔法陣が浮かび上がりエネルギーをチャージする。

「ベルカの魔法陣!?」
「おいちょっと待て!、まさか!!」
「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ!。フレースヴェルグ!!」

放たれた光は、ガジェット郡の中央部に着弾、炸裂し、遊爆の連鎖で部隊は消滅した。

「すげぇ」
「ガンダムが魔法を放ちやがった」
「ふ〜っ。あっ、あれ!?」

息を吐くのも束の間、機内の電源が落ち、ヴィザードは完全に機能を停止した。

「なんや?」
「大丈夫です。高出力攻撃のせいで出力が一時的に低下しただけです。すぐに回復します」

リィンの言うとおり、電源が回復し再起動した。

「ヒメル、ミッドに向かうよ」
「はい」
「"それじゃな。はやて"」
「"いい物を見せてもらったぜ"」
「それじゃあね」

ヴィザードを乗せ、アーキリュミエールはミッドチルダに向かうため時空と次元の壁を突破する。

「ふぅ〜っ」

ブリッジに向かう通路、はやては壁にもたれかかり深いため息を吐いた。
両手を見ると微かに震えている。

「大丈夫ですか、はやてちゃん?」
「大丈夫や、……行こうか」

ブリッジのドアが開かれ、その場に居る者が一斉に注目する。

「…………」

内心はやては不安だった。
自分の決意を吐露した結果、皆がどんな反応をするかを。

「…………」

みんなの示した行動は無言の敬礼。
それは、はやての決意を理解し、それでも力を貸すと言う意思表示かもしれない、
はやてもそう受け取り、ありがとうと一言言う。

「それじゃ、これからが本番や」
『はい!』







あとがき

Krelos:はい、無駄に長かっただけで意味が伝わってないようなこの話。
プレシア:Boo!Boo!。第3章は私達の話って言っておきながら今回は部隊長の話だったじゃん。
Krelos:まぁまぁ、後半からは正真正銘双子のじゃなしだから。
プレシア:あは〜。素敵な男性と出会ってパパやママのような素敵な(?)恋愛がしたいなぁ。
Krelos:いや、出会うことは出会うんですがプレシアさん。素敵ななは………ねぇ。
プレシア:何よその間は?。
Krelos:いえ、何でもありません。
プレシア:教えなさいよ!。
Krelos:ダメです。ネタバレです!。
プレシア:つまらない。
Krelos:そういえば、今回出てきたヴィザードガンダムですが、
大まかにはウイング○ロとストラ○クフリ○ダムを掛け合わせたような機体です。
プレシア:話をそらさない〜。
Krelos:武装や性能は各機体のを多少受け継いでいますが、中でも最大の武器はヴィザードを通して魔法の発動が出来る
システムを積んでいるということですね。それとデバイスとリンクさせることで、システムサポートやデバイス自身が
操縦するということもできます。
プレシア:でも質量兵器搭載機だからミッドでは使えない。
Krelos:それは何とかして次の活躍の場を作る。





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