クラガナン・クライシスから5年の歳月が経った。
U・F部隊の援助もあり地上本部、及び首都クラナガンは比較的早く復興を完了し、その機能を取り戻した。
みんな元通りになったと思われたが、違う。
あの時攫われたプレシアは……まだ見つかっていなかった。


第9話
Cry To Cry


「……ここにも手がかりなしか」

あの後、すぐにスラムの情報網を使って捜索をはじめたが、2ヶ月が経ち、3ヶ月が経ち、
数ヶ月過ぎても何の手がかりも掴めなかった。
プレシアを探し出せない不安に徐々にかられた私達は泣いた。
何日も何日も、涙が枯れるほどに。
涙が枯れた頃、私達は動き出していた。
私は執務官になり、情報を集めた。
六課の協力もあり、どんな小さな事件でも貪欲に取り組み、他の担当の事件であっても情報を得、
必要とあらば現地に赴くのも辞さなかった。
しかし、それでも手がかりは一向に掴めない。
代わりに、クラナガン・クライシス時の六課の功績と捜査が評価され昇格の話が何度もあったが皆は断り続けた。
昇格することになれば、重要ポスト就任や会議出席など動きにくくなるのは目に見えていたから。

「アリシア=ゼファー三佐。八神少将から通信が入っています」

調査を終えたところに、もともとその事件の担当だった部隊の隊員が声をかけてきた。

「ピアテス三尉、私は一尉です、私も八神部隊長も昇格をまた認めたわけではありません」
「ですが、陸士部隊の中では暗黙の了解みたくなっていますよ」
「……………」

頭痛のする頭を抱えつつ、通信回線を開く。

「"アリシア、そっちの様子はどうや?"」
「また……だめでした」
「"……そうか、残念やったな"」
「ところでそちらの用件とは?」
「"機動六課主要メンバーは地上本部に出頭や、すぐこっちに戻れるか?"」
「戻れますけど何でいきなり出頭命令が?」
「"大方、何年も昇格を断り続けてきたから渋った上層部が直接言いに来たんとちゃうか"」
「はぁ……分かりました。合流します」


時空管理局ミッド地上本部。
少し広いオフィスにはやてをはじめ機動六課の主要メンバーはいた。

「どうしても受けてはもらえないかね?」

皆の目の前、デスク越しに椅子に座るこの部屋の主、人事総括官である初老の男がため息混じりに言う。

「局長のほうも君らの事を高く評価しているのだが」

局長とは、アルトが本局でひと騒動起こしたときに解決してくれた老人。
15年過ぎた今でも現役でいる。

「お話は嬉しいのですが。今、私達は昇格するために動いているわけではありません」
「誘拐された執務官、プレシア=T.H=ゼファーの捜索か」
「はい。私達は通常業務の傍ら仲間である彼女を早く見つけるために動いております。
昇格し、それぞれが各ホストに就いてしまうことになれば捜索も難しくなります」
「それは六課全員の意思なのか?。答えたまえ、アルトリウス=ゼファー、フェイト=テスタロッサ=ハラオウン。
君ら夫婦の意思をただ押し付けているだけではないのか?」
「そっ、それは……」

悪気は無いのだが、傍から見ると正論だろうと言う問いを2人に問いかける。

「いえ違います!」

しかし、なのはがはっきりと答えた。

「私も八神部隊長のように一緒に戦った仲間を一刻も早く助け出したいという気持ちです、
それは決して押し付けられたものではないです」
「あたしも……私もそうです!」

なのはの言葉にことはも言い、他のみんなも次々に言っていった。

「みんな……」

みんなの熱い好意にフェイトやアリシアは今にも泣きそうだった。

「そうか。そこまで言うなら仕方が無い。……しかしこれは決定事項だ、八神はやて一等陸佐をはじめとする
機動六課メンバーは正式に一階級昇進、現部隊維持のまま任務に当たるように。
何度も言うがこれは管理局内決定事項だ反論は一切受け付けない。後日正式な書面で通達されるだろう」

そう言うと男は後ろを向いてしまった。
命令の意味を理解したみんなは

「……喜んでお受けいたします。任務がありますのでこれにて失礼します」

ビシッと敬礼をし、部屋を出た。

「ゴメンねみんな、私達のために」

本部を出ると、フェイトがすまなそうに言ってきた。

「何言ってるんやフェイトちゃん」
「さっき私達が言った言葉は本当だよ、プレシアちゃんは私達にとって家族同然だもん」
「ありがとう、みんな」
「フェイトちゃん達も無理しないでね、特にアリシアは、この頃働きづめだったから」
「分かってる」
「部隊長。ティアナさんには今から私が行って昇進の事を伝えておきます。そしてまた発つので」
「うん、ついでに癒されていき」


「本当にゴメンね、こんな時なのに私達ばっかり」
「いいえ。あんな暗い時期に明るい話題を振ってくれたことに感謝しています。
おかげで立ち直りも早かったし六課内の暗さも晴れましたから」

クラナガン・クライシス後、しばらく経った日にティアナとヴァイスは結婚式を挙げた。
もともと互いに意識はしていたものの、なかなか踏み切れず、クラナガン・クライシスのさい、
ティアナが救助作業中に瓦礫に潰されかけたところをヴァイスが救い、想いが一気に燃え上がったという。
今、ティアナは、生まれたばかりの娘デュアリスのため育児休暇を取り六課から離れていた。

「やっぱり赤ん坊って癒されますよねぇ」

デュアリスを抱いていると仕事の疲れも癒され、思わず抱きしめたい衝動にかられる。
「そうね。スバルも欲しいって言っていたけど。ところで今日は何しに?」
「そうでした。管理局からの昇進辞令をお伝えします。八神はやて一等陸佐をはじめとする機動六課メンバーは
正式に一階級昇進、現部隊維持のまま任務に当たるように。おめでとうございます、ティアナ=グランセニック三佐」

アリシアは軽く敬礼して言う。

「……辞令伝達ありがとうございますアリシア=T.H=ゼファー三佐、
八神はやて少将にお伝えください、すぐに復帰しますと」

ティアナも敬礼を返し言った。

「了解しました。………それでは私はまた捜査にいきますので、また来ます」
「うん、いつでもおいで」

街中を歩っているとショウウインドウに並べられているテレビに目が移る。
テレビのニュースは、ある事件を取り上げていた。
最近続発している無差別殺人事件。管理局、一般問わず襲い甚振り惨殺すると言うものだ。
かろうじて生き延びた被害者の証言を聞くと、フードとマスクで顔を隠した黒尽くめの女で大剣を武器にし、
唯一露出した目元からは赤い髪と瞳が見えたと言う。
まさかとは思うが……そんなはずは無い、そんなことあるはずが!、いやあるものか!!。
きっとあの子は泣いている。怖くて寂しくて……だから私が助け出すんだ。どんなことをしてでも!!。


プレシアが誘拐されて5年、手がかりは一向につかめない。
あの時プレシアを抱きしめた温もりはまだ覚えていて、一途の希望を抱かせてくれる、しかし、今はそれも消えうせた。
私達は泣いた。大切な人がいなくなった喪失感に、もう会えないのではないかという不安に、
娘を守れなかった自分の無力さに、泣いた。
泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いた。もう何があっても泣くことはないだろう。
そして、次にやることはもう決まっている。
自分の無力と咎め、自身に罰を与えるため、力を求めるため、神となったこの身を苛め、技術を高め、鍛えぬく。
手掛かりを貪欲に求め、プレシアへの道を見つけ、助け出すその日のために。
自己満足と言われようが構わない。
そうしていないと、現実を受け止められない、そうしないとココロがコワレてしまいそうだから――――――。

「――ちゃん、フェイトちゃん」
「ハッ!」

誰かに呼ばれ、意識が急に呼び出される。
顔を上げると、なのはが顔を覗き込んでいた。

「どうしたの?。思いつめてたようだけど。それとコーヒー毀れてるよ」

ふとテーブルを見ると、持っていたコーヒーの紙コップが無残にも歪み、その内容液をテーブルに撒き散らしている。
どうやら熱さも感じないほどに考え込んでいたのだろう。

「うわっ、うわっ!」

驚きと共に手に熱さが伝わってくる。

「ほらほら」

なのはに手伝ってもらいテーブルと制服を拭いたがシミが残ってしまった。

「また、プレシアちゃんのことを考えてるの?」
「うん……あの時、私がもっと強ければ……」

握る拳がワナワナと震える。

「フェイトちゃん、でも無理はいけないよ」

目立ってはいないが、フェイトの顔には数々の擦り傷切り傷の跡が、それだけではない、
今は制服で隠れているが体中にも厳しい鍛錬の跡が残っている。

「大丈夫だよ。私、もう100%神族だし、こんなの傷にも入らないよ」

5年前は赤み掛かっていた金髪も、今は金色掛かった赤髪になり、
右眼に掛かる眼帯がより武人の雰囲気をかもし出していた。

「それでも心配だよ、アリシアちゃんだって事件以降まるで人が変わったように仕事に取り組むようになったし」
「確かに小さいとき時から今のような一面を見せてたけど、今はそれが前面に出ている。
まるで二重人格者の人格が入れ替わったように………」
「………、そうそう、これから報告会をするから部隊長室に集まって」
「うん、わかった」


「今朝発見された死体の調査結果ですが、犯行の手口から犯人は連続殺人犯と同一人物と見られます。
身元は本局古代遺物管理部部長グラント=エル中将と判明していますが管理局により機密とされています」

六課隊長陣4人で定例報告会が始まった。

「今度は俺等の上司かよ」
「午前中にそのことについて会議に召集されたわ。今後現状維持で業務続行だって」
「この頃管理局関係者、主に重要ポストに就く人ばかり襲われてない?」
「20人中5人だもんね」
「考えられるのは、全員イノーブスの協力者で利用価値がなくなったから消されたというのが妥当だろう」
「協力って何の?」
「5年前、管理局に大量の物資が流れてるって情報があったろ。
それがイノーブスの計画だとしても一人じゃできる事は限られるし目立ちすぎる、それを隠蔽する局内の協力者が必要だ」
「それがあの5人、いやもっといるかも」
「じゃ何で他の人達を?」
「まだ分からないけど、でもこの事件は絶対イノーブスが関わっている」
「ああ、それに私達起動六課もその計画に加担してる可能性もあるんや」
『!!』

はやての突然の発言に2人共驚きを隠せない。
アルトの驚いていないそぶりを見ると何か知ってることだろう。

「どういうこと?。はやて」
「よく考えてみ、今の機動六課は本来ありえないんや」
「いくらリミッターがあるといってもオーバーSランクをはじめほとんどがAA、AAAクラスだ、
担当柄危険性が高いとしても、今の戦力は部隊バランス的にありえない」
「確かに。じゃ管理部部長をはじめ、協力者が裏で操作したから実現できたんだね」
「そして部隊設立の裏の目的は、戦力調査」
『戦力調査?』
「考えてみろ。六課の戦力は管理局の部隊の中でも最強クラスだといえる。あいつらにとっても厄介だと思うぜ。
だからあえて最強部隊を構築、戦力を調査しそれを元に兵器を開発・改良。
もしそれで六課が倒されてみろ、あの最強部隊でも勝てなかったということで他の部隊の戦意が喪失、
管理体制がぶっ壊しやすくなるぜ」
「そうや。六課とは性質上当たる機会が多いからね、データ集めには事欠かなかったと思う。
………はぁ〜っ……実はな私も最初から疑問に思ってたんよ。目の前の事件に集中して考えへんことにしてたけど、
今回の事があって、アルトくんの仮説を聞いて、つじつまがあって信じるを終えないんや」

はやては頭を抱えショックを顕にする。
無理もないだろう、正義のためにと頑張ってきたのに、知らぬうちとはいえ悪の計画に加担していたのだから。

「はやてちゃん……」
「5年前の事件はその途中経過の確認も兼ねてたんだな……畜生!」
「……それでな、今後の調査方針だけど、連続殺人犯の逮捕や、そいつがきっとイノーブスに繋がっている」
『うん』
「だけど神出鬼没の連続犯を掴まえるのは容易じゃないぞ。
軌道上の奴等にも応援頼めないか、撤退命令まだ出してないんだろ?」
「そうやな、4個分隊、いや、5個分隊600人もあれば十分か。申請は私のほうからしておく」
「さすが准将殿、気前がいいね」
「大艦将閣下に言われてもねぇ」


「……………」

アリシアは隊舎の屋上のフェンスに身を寄りかからせ一人呆然と満天の星空を見ていた。

「そんなところにいると風邪をひくぞ」

声をかけられ呆けたままの顔で振り返る。
そこにはだいちとことはの姿があり、アリシアと一緒にフェンスに寄りかかる。

「どうしたの?」
「別に、お前こそ何してるんだ?」
「別に、ただ星を見てただけよ。地上はどんどん変わっていくのに、星空は変わらないなって」
「そうだね」
「プリシアもこの星空を見てるのかなぁ」
「きっと見てるよ」


アリシア達が見つめる星空の下

「ぎゃあぁぁぁぁああ!」

薄暗い街角から男の叫び声が響く。

「………………」

ゴミ捨て場には血だらけの男の死体が横たわり、それを見つめる黒ずくめの女。

「"ご苦労様。すまないね後始末の手伝いをさせてしまって"」

突然の通信。
モニターに映るのはジェレイド=イノーブス。

「別に、憂さ晴らしのついでだし、ちょっとした運動にもならない」

そう言いつつも彼を見つめるのは、憎悪を帯びた生気の無いくすんだ赤い瞳。

「"そう邪険にしないでおくれ。あの子もそんな君を見たら泣いてしまうよ"」
「あの子に何かしてみなさい!。生きていることを後悔させるわよ」
「"もちろん承知の上だ。さぁ、今日は引き上げたまえ、もうすぐパーティの準備も終わることだし"」
「………………」

黒ずくめの女はマントを翻し、深い闇の中へと消えていった。







あとがき

Krelos:さて、いきなり5年後に行ってしまいましたが……何だかごちゃ混ぜになってきた。一旦整理せねば。
アリシア:さて、死ぬ覚悟は出来た?。
Krelos:ちょっ!、アリシアさん!!。何でいきなり!?。
アリシア:こんなわっかりやすい演出をした罪。さて、サックリいきましょうか。
Krelos:ちょっと待ってください!。せめて最後に一言だけ。
アリシア:何よ?。
Krelos:三○路の人に"ちゃん"付けってやっぱおかしいですか?。
なの・はや・フェイ:三十○言うな!!。←強パンチ×3
Krelos:ごふっ!!。





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